大きな薬師

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
上 下
35 / 56

12

しおりを挟む
慰安旅行8日目。
旅行は残すところ、あと2日である。
今日は皆、目をつけていたお店へそれぞれ土産物を買いに行くそうだ。

ミーシャはサンガレア商会に来ていた。
今日はルート先輩とブルック先輩だけでなく、マルクス先輩とヒューブ先輩も一緒だ。


「ミーシャちゃん。姪へのお土産って何がいいかな?やっぱりぬいぐるみとか?」

「姪の方はおいくつですか?」

「27かな?確か」

「……ご本人にぬいぐるみは止めといた方がいいと思います。練り香とかはどうですか?王都でも珍しいと思います」

「なんだい、それ?」

「香水の一種です。普通の香水のように液体ではなく、クリーム状で、練って作るんです。殺菌作用がある成分が含まれてますから、汗の臭いを押さえてくれたりもします。香りが香水ほど強くないし、制汗剤としても、ここでは好まれて使われてます」

「へぇ、そんなのがあるのか」

「女性向けの可愛らしい容器に入ったものも売ってますよ」

「なら姪はそれにして、姪の子供はぬいぐるみにするか。何が人気とかってある?」

「狐のマーちゃん人形が人気です」

「あぁ、ブルック先輩が持ってたやつ。あれかな?」

「それです」

「あれならいいね、可愛いし」


ヒューブ先輩はいそいそとぬいぐるみを探しに行った。それを見送ると、今度はマルクス先輩に話しかけられた。


「この即席スープいいね。自分用に全種類買っちゃったよ」

「それ、結構美味しいですよね。料理にも使えますし」

「便利だよねぇ。ミーシャちゃんは何か買わないのかい?」

「お土産は渡す相手も特にいませんし」

「お友達とかは?」

「地元にはいるんですけど、王都にはいないんです。高等学校時代に友達作れなくて……」

「あぁ、そうだったのかい。ごめんね。失礼なこと聞いて。大丈夫だよ!僕も友達少ないからっ!」

「あ、そうなんですか?」

「うん。僕、高等学校時代、ガリ勉もやしっこだったから。今もだけど」

「こないだも思ったんですが、ガリ勉もやしっこ率高いですね、うち」

「肉体派は少ないよね。一応研究職でもあるし」

「ですよねぇ」

「ブルック先輩と君くらいじゃないかなぁ、肉体派局員」

「皆さん、頭脳労働派なんですね」

「そうだね。頭を使う方が僕は得意かな」


マルクス先輩が肩をすくめた。
話が変わり、商会で売られているお薦めの美味しいクッキーの話をすると、是非買わなきゃ!と意気揚々とお菓子売り場へと歩いていった。
それを見送ると、ミーシャも何か買うかと、店内を見て回ることにした。

商会の新商品は必ずマーサから送られてくるし、欲しいものも頼めば送ってくれるので、実は商会で買うものはなかったりする。強いて言えば、お菓子くらいだろうか。

ミーシャはお菓子売り場に足を運んだ。
瓶詰めの飴が置かれている所で、ルート先輩が難しい顔をしていた。


「ルート先輩、どうされました」

「ん?あぁ、ミーシャか。いや、2つは多い気がするから1つだけ買おうと思うんだが、選べなくてな」

「飴ですか?」

「こっちの薄荷の飴と金平糖とかいうやつ。初めて見るのは金平糖なんだが、薄荷の飴も旨そうでな」

「なら、私がどちらか1つ買いますから、半分こしましょうよ」

「いいのか?」

「はい。私はどっちも好きなんです」

「んー……なら頼む。俺、薄荷のやつ買うわ」

「でしたら、私は金平糖買いますね」

「あぁ」


ルート先輩が嬉しそうに笑った。
旅行中に初めて気づいたことだが、たまにだが、意外と子供っぽい所がある人だ。
少し可笑しくなって、ミーシャも笑った。


「お前、結構笑うよな」

「えっ!?」


ミーシャは耳を疑った。そして、本当に心底驚いた。


「分かるんですか!?」


ミーシャの鉄面皮は筋金入りである。家族や近しい人間でも雰囲気でなんとなく察しているというのに。


「分かるもの何も、見れば分かる」

「……先輩、どういう目をしてるんですか?」

「どちらかと言えばいい方だが、よくよく観察してみれば普通に分かると思うぞ。人より控えめだが、結構コロコロ表情変わるだろ、お前」


何年一緒に仕事してると思う、と何故か呆れた顔をされた。
ミーシャは驚きすぎて呆然とするしかない。

(本当、なんて目してんの!?)

今まで表情が非常に出にくい分、言葉や身ぶり手振りで感情を伝えるよう努力してきた。そして慣れたら割りと誰でもミーシャの感情がなんとなく分かるようになってくれるのだが、表情見て分かると言われたのは生まれて初めてだ、


「……先輩、本当に凄いですね」

「いや、別に普通だろ」

「いやぁ、凄いですよ。流石です」


ミーシャは驚きを越えて嬉しくなって、知らずと笑っていた。







ーーーーーー

商会の他にも幾つか店を回り、買い物を終えた後は、最後の食い倒れツアーをすることになった。今回はマルクス先輩らも一緒だ。

1軒目は、昼飯時で賑わうステーキ屋である。店先まで肉の焼けるいい香りがしていた。


「ステーキなら王都でも食えるんじゃないのか?」

「王都だと美味しい所は高いじゃないですか。ここは割りと安くでがっつり美味しいものが食べられるんです。肉のある程度の大きさ以上からは飽きないようにソースが複数ついてくるんです!」

「それはいいねぇ」

「ステーキに何種類もソースがあるのか」

「塩と胡椒だけじゃないんですね」


先輩方はメニューを見ながら、何を頼むか悩んでいたようだが、結局、一番大きい特大サイズを頼んだのはミーシャとルート先輩だけだった。残りの人は肉は普通サイズで、其々好きなソースを選んだ。
冷たいお茶を飲みつつ、話ながら待っていると、そう待たずに料理が出てきた。
ブルック先輩がキノコのソース、マルクス先輩が野菜のソース、ヒューブ先輩はバター醤油を選んでいた。ミーシャ達が頼んだ特大サイズには、バター醤油、大根おろし入り酢醤油、野菜のソースがついていた。


「特大サイズ、本当でかいなっ!?」

「これでお値段3000ちょいは安いですよねぇ。いただきます」

「ミーシャちゃんは兎も角、ルートは食べきれるのか?」

「ここ暫く食いまくって胃袋が拡張されてるんで、多分大丈夫です。無理ならミーシャに食ってもらいます」

「どんとこーいです」

「ミーシャちゃん、凄い食べるねぇ。あ、美味しい」

「あ、本当だ。美味しい」

「肉が柔らかいな。ソースとよく合う」

「ステーキならこの店がサンガレア1だと思います」

「いや、確かに旨いわ」

「ミーシャ君に案内してもらう店は悉く外れがないな」

「あ、そうなんですか?」

「しまったなぁ、もうちょい早くに食い倒れツアー参加しとけば良かった」


ヒューブ先輩が悔しそうに言った。


「なに、今から行けばいいだけの話だろう?」

「そうですね。ミーシャちゃん!美味しい所をよろしく頼むよ!」

「分かりました!次の店はガッツリ系とあっさり系どちらがいいですか?」

「お肉が脂っこいから、あっさり系がいいなぁ、僕は」

「俺もだ」

「じゃあ、あっさりとジェラートでも食べますか。ちょうど隣の店なんです」

「ジェラートってなんだい?」

「アイスみたいなものです。元は風の神子様の故郷で食べられているものらしいです」

「へぇ!風の神子様の!それは珍しいね」

「楽しみだなぁ」

「美味しいですよ。お店ができてからは、よくフェリ様に連れてってもらってました」

「風の神子様にかぁ。凄い話だなぁ」

「僕らからすると雲の上の方々ですからねぇ」

「そんなもんですか?」

「そうだよ。僕、まさか土の神子様だけじゃなくて他の神子様のお顔を拝見することがあるなんて、夢にも思わなかったよ!そもそも生きてる間に土の神子様にお会いできるなんて思ってなかったし!」

「俺もだ」

「そうなんですか?サンガレアの街中歩いてたら、結構普通に遭遇しますよ?」

「えぇ……凄い所だな、サンガレア」

「心臓が幾つあっても足りなさそうだな」

「そうですか?」


ミーシャは感覚的によく分からなくて、小首を傾げた。


「お前にとっては家族でも、他の者にとったら特別な、雲の上の方々なんだよ」


黙々と食べていたルート先輩が、顔をあげて言った。口の端にソースがついている。ミーシャは無言でナプキンを差し出した。


「あ、悪い」

「いえ」


知識では母達、神子は特別な存在だと分かっていても、身近な分、感覚的によく分からなかった。しかし、先輩方の反応を見て、なんとなく少しは分かったような気がした。気がしただけかもしれないが。

2軒目のジェラート屋はとても好評だった。さっぱりとした冷たい果物のジェラートが脂っこい口の中を涼やかにしてくれた。

その後も点心屋、立ち飲み屋、かき氷の美味しい店などを回った。目新しいものを食べて、先輩方は皆、終始ご機嫌であった。
喜んでくれるので、ミーシャは大張りきりで様々な店に案内した。

(確実に太りそうだなぁ……)

と思いながらも、美味しそうに食べているルート先輩らにつられて、ついつい食べ過ぎてしまうミーシャであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

完結 R18 媚薬を飲んだ好きな人に名前も告げずに性的に介抱して処女を捧げて逃げたら、権力使って見つけられ甘やかされて迫ってくる

シェルビビ
恋愛
 ランキング32位ありがとうございます!!!  遠くから王国騎士団を見ていた平民サラは、第3騎士団のユリウス・バルナムに伯爵令息に惚れていた。平民が騎士団に近づくことも近づく機会もないので話したことがない。  ある日帰り道で倒れているユリウスを助けたサラは、ユリウスを彼の屋敷に連れて行くと自室に連れて行かれてセックスをする。  ユリウスが目覚める前に使用人に事情を話して、屋敷の裏口から出て行ってなかったことに彼女はした。  この日で全てが終わるはずなのだが、ユリウスの様子が何故かおかしい。 「やっと見つけた、俺の女神」  隠れながら生活しているのに何故か見つかって迫られる。  サラはどうやらユリウスを幸福にしているらしい

初めての相手が陛下で良かった

ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。 ※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

R18 優秀な騎士だけが全裸に見える私が、国を救った英雄の氷の騎士団長を着ぐるみを着て溺愛する理由。

シェルビビ
恋愛
 シャルロッテは幼い時から優秀な騎士たちが全裸に見える。騎士団の凱旋を見た時に何で全裸でお馬さんに乗っているのだろうと疑問に思っていたが、月日が経つと優秀な騎士たちは全裸に見えるものだと納得した。  時は流れ18歳になると優秀な騎士を見分けられることと騎士学校のサポート学科で優秀な成績を残したことから、騎士団の事務員として採用された。給料も良くて一生独身でも生きて行けるくらい充実している就職先は最高の環境。リストラの権限も持つようになった時、国の砦を守った英雄エリオスが全裸に見えなくなる瞬間が多くなっていった。どうやら長年付き合っていた婚約者が、貢物を散々貰ったくせにダメ男の子を妊娠して婚約破棄したらしい。  国の希望であるエリオスはこのままだと騎士団を辞めないといけなくなってしまう。  シャルロッテは、騎士団のファンクラブに入ってエリオスの事を調べていた。  ところがエリオスにストーカーと勘違いされて好かれてしまった。元婚約者の婚約破棄以降、何かがおかしい。  クマのぬいぐるみが好きだと言っていたから、やる気を出させるためにクマの着ぐるみで出勤したら違う方向に元気になってしまった。溺愛することが好きだと聞いていたから、溺愛し返したらなんだか様子がおかしい。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【R18】異世界転移少女、イケオジと猫耳プレイする

チーズたると
恋愛
「異世界転移したら老紳士のお世話になることになりまして」の続編。 男性視点のお話です。

処理中です...