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慰安旅行8日目。
旅行は残すところ、あと2日である。
今日は皆、目をつけていたお店へそれぞれ土産物を買いに行くそうだ。
ミーシャはサンガレア商会に来ていた。
今日はルート先輩とブルック先輩だけでなく、マルクス先輩とヒューブ先輩も一緒だ。
「ミーシャちゃん。姪へのお土産って何がいいかな?やっぱりぬいぐるみとか?」
「姪の方はおいくつですか?」
「27かな?確か」
「……ご本人にぬいぐるみは止めといた方がいいと思います。練り香とかはどうですか?王都でも珍しいと思います」
「なんだい、それ?」
「香水の一種です。普通の香水のように液体ではなく、クリーム状で、練って作るんです。殺菌作用がある成分が含まれてますから、汗の臭いを押さえてくれたりもします。香りが香水ほど強くないし、制汗剤としても、ここでは好まれて使われてます」
「へぇ、そんなのがあるのか」
「女性向けの可愛らしい容器に入ったものも売ってますよ」
「なら姪はそれにして、姪の子供はぬいぐるみにするか。何が人気とかってある?」
「狐のマーちゃん人形が人気です」
「あぁ、ブルック先輩が持ってたやつ。あれかな?」
「それです」
「あれならいいね、可愛いし」
ヒューブ先輩はいそいそとぬいぐるみを探しに行った。それを見送ると、今度はマルクス先輩に話しかけられた。
「この即席スープいいね。自分用に全種類買っちゃったよ」
「それ、結構美味しいですよね。料理にも使えますし」
「便利だよねぇ。ミーシャちゃんは何か買わないのかい?」
「お土産は渡す相手も特にいませんし」
「お友達とかは?」
「地元にはいるんですけど、王都にはいないんです。高等学校時代に友達作れなくて……」
「あぁ、そうだったのかい。ごめんね。失礼なこと聞いて。大丈夫だよ!僕も友達少ないからっ!」
「あ、そうなんですか?」
「うん。僕、高等学校時代、ガリ勉もやしっこだったから。今もだけど」
「こないだも思ったんですが、ガリ勉もやしっこ率高いですね、うち」
「肉体派は少ないよね。一応研究職でもあるし」
「ですよねぇ」
「ブルック先輩と君くらいじゃないかなぁ、肉体派局員」
「皆さん、頭脳労働派なんですね」
「そうだね。頭を使う方が僕は得意かな」
マルクス先輩が肩をすくめた。
話が変わり、商会で売られているお薦めの美味しいクッキーの話をすると、是非買わなきゃ!と意気揚々とお菓子売り場へと歩いていった。
それを見送ると、ミーシャも何か買うかと、店内を見て回ることにした。
商会の新商品は必ずマーサから送られてくるし、欲しいものも頼めば送ってくれるので、実は商会で買うものはなかったりする。強いて言えば、お菓子くらいだろうか。
ミーシャはお菓子売り場に足を運んだ。
瓶詰めの飴が置かれている所で、ルート先輩が難しい顔をしていた。
「ルート先輩、どうされました」
「ん?あぁ、ミーシャか。いや、2つは多い気がするから1つだけ買おうと思うんだが、選べなくてな」
「飴ですか?」
「こっちの薄荷の飴と金平糖とかいうやつ。初めて見るのは金平糖なんだが、薄荷の飴も旨そうでな」
「なら、私がどちらか1つ買いますから、半分こしましょうよ」
「いいのか?」
「はい。私はどっちも好きなんです」
「んー……なら頼む。俺、薄荷のやつ買うわ」
「でしたら、私は金平糖買いますね」
「あぁ」
ルート先輩が嬉しそうに笑った。
旅行中に初めて気づいたことだが、たまにだが、意外と子供っぽい所がある人だ。
少し可笑しくなって、ミーシャも笑った。
「お前、結構笑うよな」
「えっ!?」
ミーシャは耳を疑った。そして、本当に心底驚いた。
「分かるんですか!?」
ミーシャの鉄面皮は筋金入りである。家族や近しい人間でも雰囲気でなんとなく察しているというのに。
「分かるもの何も、見れば分かる」
「……先輩、どういう目をしてるんですか?」
「どちらかと言えばいい方だが、よくよく観察してみれば普通に分かると思うぞ。人より控えめだが、結構コロコロ表情変わるだろ、お前」
何年一緒に仕事してると思う、と何故か呆れた顔をされた。
ミーシャは驚きすぎて呆然とするしかない。
(本当、なんて目してんの!?)
今まで表情が非常に出にくい分、言葉や身ぶり手振りで感情を伝えるよう努力してきた。そして慣れたら割りと誰でもミーシャの感情がなんとなく分かるようになってくれるのだが、表情見て分かると言われたのは生まれて初めてだ、
「……先輩、本当に凄いですね」
「いや、別に普通だろ」
「いやぁ、凄いですよ。流石です」
ミーシャは驚きを越えて嬉しくなって、知らずと笑っていた。
ーーーーーー
商会の他にも幾つか店を回り、買い物を終えた後は、最後の食い倒れツアーをすることになった。今回はマルクス先輩らも一緒だ。
1軒目は、昼飯時で賑わうステーキ屋である。店先まで肉の焼けるいい香りがしていた。
「ステーキなら王都でも食えるんじゃないのか?」
「王都だと美味しい所は高いじゃないですか。ここは割りと安くでがっつり美味しいものが食べられるんです。肉のある程度の大きさ以上からは飽きないようにソースが複数ついてくるんです!」
「それはいいねぇ」
「ステーキに何種類もソースがあるのか」
「塩と胡椒だけじゃないんですね」
先輩方はメニューを見ながら、何を頼むか悩んでいたようだが、結局、一番大きい特大サイズを頼んだのはミーシャとルート先輩だけだった。残りの人は肉は普通サイズで、其々好きなソースを選んだ。
冷たいお茶を飲みつつ、話ながら待っていると、そう待たずに料理が出てきた。
ブルック先輩がキノコのソース、マルクス先輩が野菜のソース、ヒューブ先輩はバター醤油を選んでいた。ミーシャ達が頼んだ特大サイズには、バター醤油、大根おろし入り酢醤油、野菜のソースがついていた。
「特大サイズ、本当でかいなっ!?」
「これでお値段3000ちょいは安いですよねぇ。いただきます」
「ミーシャちゃんは兎も角、ルートは食べきれるのか?」
「ここ暫く食いまくって胃袋が拡張されてるんで、多分大丈夫です。無理ならミーシャに食ってもらいます」
「どんとこーいです」
「ミーシャちゃん、凄い食べるねぇ。あ、美味しい」
「あ、本当だ。美味しい」
「肉が柔らかいな。ソースとよく合う」
「ステーキならこの店がサンガレア1だと思います」
「いや、確かに旨いわ」
「ミーシャ君に案内してもらう店は悉く外れがないな」
「あ、そうなんですか?」
「しまったなぁ、もうちょい早くに食い倒れツアー参加しとけば良かった」
ヒューブ先輩が悔しそうに言った。
「なに、今から行けばいいだけの話だろう?」
「そうですね。ミーシャちゃん!美味しい所をよろしく頼むよ!」
「分かりました!次の店はガッツリ系とあっさり系どちらがいいですか?」
「お肉が脂っこいから、あっさり系がいいなぁ、僕は」
「俺もだ」
「じゃあ、あっさりとジェラートでも食べますか。ちょうど隣の店なんです」
「ジェラートってなんだい?」
「アイスみたいなものです。元は風の神子様の故郷で食べられているものらしいです」
「へぇ!風の神子様の!それは珍しいね」
「楽しみだなぁ」
「美味しいですよ。お店ができてからは、よくフェリ様に連れてってもらってました」
「風の神子様にかぁ。凄い話だなぁ」
「僕らからすると雲の上の方々ですからねぇ」
「そんなもんですか?」
「そうだよ。僕、まさか土の神子様だけじゃなくて他の神子様のお顔を拝見することがあるなんて、夢にも思わなかったよ!そもそも生きてる間に土の神子様にお会いできるなんて思ってなかったし!」
「俺もだ」
「そうなんですか?サンガレアの街中歩いてたら、結構普通に遭遇しますよ?」
「えぇ……凄い所だな、サンガレア」
「心臓が幾つあっても足りなさそうだな」
「そうですか?」
ミーシャは感覚的によく分からなくて、小首を傾げた。
「お前にとっては家族でも、他の者にとったら特別な、雲の上の方々なんだよ」
黙々と食べていたルート先輩が、顔をあげて言った。口の端にソースがついている。ミーシャは無言でナプキンを差し出した。
「あ、悪い」
「いえ」
知識では母達、神子は特別な存在だと分かっていても、身近な分、感覚的によく分からなかった。しかし、先輩方の反応を見て、なんとなく少しは分かったような気がした。気がしただけかもしれないが。
2軒目のジェラート屋はとても好評だった。さっぱりとした冷たい果物のジェラートが脂っこい口の中を涼やかにしてくれた。
その後も点心屋、立ち飲み屋、かき氷の美味しい店などを回った。目新しいものを食べて、先輩方は皆、終始ご機嫌であった。
喜んでくれるので、ミーシャは大張りきりで様々な店に案内した。
(確実に太りそうだなぁ……)
と思いながらも、美味しそうに食べているルート先輩らにつられて、ついつい食べ過ぎてしまうミーシャであった。
旅行は残すところ、あと2日である。
今日は皆、目をつけていたお店へそれぞれ土産物を買いに行くそうだ。
ミーシャはサンガレア商会に来ていた。
今日はルート先輩とブルック先輩だけでなく、マルクス先輩とヒューブ先輩も一緒だ。
「ミーシャちゃん。姪へのお土産って何がいいかな?やっぱりぬいぐるみとか?」
「姪の方はおいくつですか?」
「27かな?確か」
「……ご本人にぬいぐるみは止めといた方がいいと思います。練り香とかはどうですか?王都でも珍しいと思います」
「なんだい、それ?」
「香水の一種です。普通の香水のように液体ではなく、クリーム状で、練って作るんです。殺菌作用がある成分が含まれてますから、汗の臭いを押さえてくれたりもします。香りが香水ほど強くないし、制汗剤としても、ここでは好まれて使われてます」
「へぇ、そんなのがあるのか」
「女性向けの可愛らしい容器に入ったものも売ってますよ」
「なら姪はそれにして、姪の子供はぬいぐるみにするか。何が人気とかってある?」
「狐のマーちゃん人形が人気です」
「あぁ、ブルック先輩が持ってたやつ。あれかな?」
「それです」
「あれならいいね、可愛いし」
ヒューブ先輩はいそいそとぬいぐるみを探しに行った。それを見送ると、今度はマルクス先輩に話しかけられた。
「この即席スープいいね。自分用に全種類買っちゃったよ」
「それ、結構美味しいですよね。料理にも使えますし」
「便利だよねぇ。ミーシャちゃんは何か買わないのかい?」
「お土産は渡す相手も特にいませんし」
「お友達とかは?」
「地元にはいるんですけど、王都にはいないんです。高等学校時代に友達作れなくて……」
「あぁ、そうだったのかい。ごめんね。失礼なこと聞いて。大丈夫だよ!僕も友達少ないからっ!」
「あ、そうなんですか?」
「うん。僕、高等学校時代、ガリ勉もやしっこだったから。今もだけど」
「こないだも思ったんですが、ガリ勉もやしっこ率高いですね、うち」
「肉体派は少ないよね。一応研究職でもあるし」
「ですよねぇ」
「ブルック先輩と君くらいじゃないかなぁ、肉体派局員」
「皆さん、頭脳労働派なんですね」
「そうだね。頭を使う方が僕は得意かな」
マルクス先輩が肩をすくめた。
話が変わり、商会で売られているお薦めの美味しいクッキーの話をすると、是非買わなきゃ!と意気揚々とお菓子売り場へと歩いていった。
それを見送ると、ミーシャも何か買うかと、店内を見て回ることにした。
商会の新商品は必ずマーサから送られてくるし、欲しいものも頼めば送ってくれるので、実は商会で買うものはなかったりする。強いて言えば、お菓子くらいだろうか。
ミーシャはお菓子売り場に足を運んだ。
瓶詰めの飴が置かれている所で、ルート先輩が難しい顔をしていた。
「ルート先輩、どうされました」
「ん?あぁ、ミーシャか。いや、2つは多い気がするから1つだけ買おうと思うんだが、選べなくてな」
「飴ですか?」
「こっちの薄荷の飴と金平糖とかいうやつ。初めて見るのは金平糖なんだが、薄荷の飴も旨そうでな」
「なら、私がどちらか1つ買いますから、半分こしましょうよ」
「いいのか?」
「はい。私はどっちも好きなんです」
「んー……なら頼む。俺、薄荷のやつ買うわ」
「でしたら、私は金平糖買いますね」
「あぁ」
ルート先輩が嬉しそうに笑った。
旅行中に初めて気づいたことだが、たまにだが、意外と子供っぽい所がある人だ。
少し可笑しくなって、ミーシャも笑った。
「お前、結構笑うよな」
「えっ!?」
ミーシャは耳を疑った。そして、本当に心底驚いた。
「分かるんですか!?」
ミーシャの鉄面皮は筋金入りである。家族や近しい人間でも雰囲気でなんとなく察しているというのに。
「分かるもの何も、見れば分かる」
「……先輩、どういう目をしてるんですか?」
「どちらかと言えばいい方だが、よくよく観察してみれば普通に分かると思うぞ。人より控えめだが、結構コロコロ表情変わるだろ、お前」
何年一緒に仕事してると思う、と何故か呆れた顔をされた。
ミーシャは驚きすぎて呆然とするしかない。
(本当、なんて目してんの!?)
今まで表情が非常に出にくい分、言葉や身ぶり手振りで感情を伝えるよう努力してきた。そして慣れたら割りと誰でもミーシャの感情がなんとなく分かるようになってくれるのだが、表情見て分かると言われたのは生まれて初めてだ、
「……先輩、本当に凄いですね」
「いや、別に普通だろ」
「いやぁ、凄いですよ。流石です」
ミーシャは驚きを越えて嬉しくなって、知らずと笑っていた。
ーーーーーー
商会の他にも幾つか店を回り、買い物を終えた後は、最後の食い倒れツアーをすることになった。今回はマルクス先輩らも一緒だ。
1軒目は、昼飯時で賑わうステーキ屋である。店先まで肉の焼けるいい香りがしていた。
「ステーキなら王都でも食えるんじゃないのか?」
「王都だと美味しい所は高いじゃないですか。ここは割りと安くでがっつり美味しいものが食べられるんです。肉のある程度の大きさ以上からは飽きないようにソースが複数ついてくるんです!」
「それはいいねぇ」
「ステーキに何種類もソースがあるのか」
「塩と胡椒だけじゃないんですね」
先輩方はメニューを見ながら、何を頼むか悩んでいたようだが、結局、一番大きい特大サイズを頼んだのはミーシャとルート先輩だけだった。残りの人は肉は普通サイズで、其々好きなソースを選んだ。
冷たいお茶を飲みつつ、話ながら待っていると、そう待たずに料理が出てきた。
ブルック先輩がキノコのソース、マルクス先輩が野菜のソース、ヒューブ先輩はバター醤油を選んでいた。ミーシャ達が頼んだ特大サイズには、バター醤油、大根おろし入り酢醤油、野菜のソースがついていた。
「特大サイズ、本当でかいなっ!?」
「これでお値段3000ちょいは安いですよねぇ。いただきます」
「ミーシャちゃんは兎も角、ルートは食べきれるのか?」
「ここ暫く食いまくって胃袋が拡張されてるんで、多分大丈夫です。無理ならミーシャに食ってもらいます」
「どんとこーいです」
「ミーシャちゃん、凄い食べるねぇ。あ、美味しい」
「あ、本当だ。美味しい」
「肉が柔らかいな。ソースとよく合う」
「ステーキならこの店がサンガレア1だと思います」
「いや、確かに旨いわ」
「ミーシャ君に案内してもらう店は悉く外れがないな」
「あ、そうなんですか?」
「しまったなぁ、もうちょい早くに食い倒れツアー参加しとけば良かった」
ヒューブ先輩が悔しそうに言った。
「なに、今から行けばいいだけの話だろう?」
「そうですね。ミーシャちゃん!美味しい所をよろしく頼むよ!」
「分かりました!次の店はガッツリ系とあっさり系どちらがいいですか?」
「お肉が脂っこいから、あっさり系がいいなぁ、僕は」
「俺もだ」
「じゃあ、あっさりとジェラートでも食べますか。ちょうど隣の店なんです」
「ジェラートってなんだい?」
「アイスみたいなものです。元は風の神子様の故郷で食べられているものらしいです」
「へぇ!風の神子様の!それは珍しいね」
「楽しみだなぁ」
「美味しいですよ。お店ができてからは、よくフェリ様に連れてってもらってました」
「風の神子様にかぁ。凄い話だなぁ」
「僕らからすると雲の上の方々ですからねぇ」
「そんなもんですか?」
「そうだよ。僕、まさか土の神子様だけじゃなくて他の神子様のお顔を拝見することがあるなんて、夢にも思わなかったよ!そもそも生きてる間に土の神子様にお会いできるなんて思ってなかったし!」
「俺もだ」
「そうなんですか?サンガレアの街中歩いてたら、結構普通に遭遇しますよ?」
「えぇ……凄い所だな、サンガレア」
「心臓が幾つあっても足りなさそうだな」
「そうですか?」
ミーシャは感覚的によく分からなくて、小首を傾げた。
「お前にとっては家族でも、他の者にとったら特別な、雲の上の方々なんだよ」
黙々と食べていたルート先輩が、顔をあげて言った。口の端にソースがついている。ミーシャは無言でナプキンを差し出した。
「あ、悪い」
「いえ」
知識では母達、神子は特別な存在だと分かっていても、身近な分、感覚的によく分からなかった。しかし、先輩方の反応を見て、なんとなく少しは分かったような気がした。気がしただけかもしれないが。
2軒目のジェラート屋はとても好評だった。さっぱりとした冷たい果物のジェラートが脂っこい口の中を涼やかにしてくれた。
その後も点心屋、立ち飲み屋、かき氷の美味しい店などを回った。目新しいものを食べて、先輩方は皆、終始ご機嫌であった。
喜んでくれるので、ミーシャは大張りきりで様々な店に案内した。
(確実に太りそうだなぁ……)
と思いながらも、美味しそうに食べているルート先輩らにつられて、ついつい食べ過ぎてしまうミーシャであった。
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