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ルート先輩と2人でとりあえず近くの甘味屋に入った。
店には夏限定のかき氷が置いてある。ミーシャは苺のシロップを、ルート先輩はオレンジのシロップのものを頼んだ。
「かき氷なんて初めて食べる」
「王都は涼しいですし、私も王都じゃ見たことないです」
「しかし、本当にいいのか?俺と2人で行動して」
「?何がですか?」
「色々勘違いされたら困るんじゃないのか?」
「あぁ。大丈夫じゃないですか?多分」
「多分か」
「多分です。第一ルート先輩、男専門でしょう?私にとってみれば、局員の中では一番安全です」
「……俺、男専門だなんて言ったか?」
「いえ。身近に何人かいるので、なんとなく雰囲気で分かっただけです。うちの領地、結構男専門の人多いんですよ」
「そうなのか?」
「はい。男同士で子供を作れる施設があるってのもありますけど、元々、領地開拓の為に男ばかりが集まったので、自然と男同士の夫婦が増えてったそうでして。母は愛があればそれでいい、ってスタンスで男同士でも普通に応援しますから、尚更なんです。私の祖父も男同士で結婚してますよ」
「……そうなのか」
「街中歩いてると、男同士で手を繋いでデートしてる人達とか、普通にいますよ」
「それはまた……随分開放的なんだな」
「本人曰く愛とエロスの伝道師、豊穣を司る土の神子のお膝元ですから、寛容なんです」
「成る程な」
「うちの領地にも花街がありますけど、そこは男しかいないですよ。安全が売りなので、安心して遊べますよ」
「年頃の若い娘が言うことじゃないだろう」
「そうですか?」
「そうだよ」
話していると、かき氷が運ばれてきた。
ルート先輩が一口食べるのを待って、ミーシャもかき氷を口にした。冷たい甘さが口の中に広がって心地よい。
「旨いな」
「ここの店が一番シロップが濃厚で、氷も細かくて美味しいんです」
「確かに氷が細かいな」
2人でシャクシャクかき氷を食べながら、ポツリポツリと話をした。
「俺はお前にとっては安全牌かもしれないが、端から見たら違うんじゃないのか?」
「流石に王都にいるときは気をつけますけど、ここは地元ですから、そこまで気にしなくても大丈夫だと思います。第一、私まだ結婚する気ありませんし、それは近しい人は皆知ってますから。そうじゃない人も、多分、慰安旅行で私が職場の人と領地に戻るって通達がされてるでしょうから」
「そうなのか。だが、ミーシャは適齢期だろう?」
「そうですけど、私神子の血を引いてるので王族並みに長生きするんです。なんで、結婚も出産も焦る必要がないんですよ」
「だから、ああも大規模な婿断りしたのか?」
「いやぁ、あれは、不甲斐ない私達に対するお仕置きと、母の逆鱗に触れた貴族達へのお仕置きなんです」
「神子様の逆鱗?」
「仕事や役目に厳しい人なんです。特に王公貴族に対して厳しいもんですから」
「あぁ、だからあんなにお怒りになってたのか」
「はい。結婚については、両親からは、自分が一生を共にする相手くらい自分で見つけろ、と言われているので、ああやってザックリ断っても私的には問題なしです。仕事の邪魔しかしないような人達なんて論外ですから」
「ま、確かにそうだな」
2人揃って食べ終わり、店を出た。
「先輩、麦酒はお好きですか?」
「飲んだことがない」
「なら、試してみましょう。近くに立ち飲み屋があるんです」
「立ち飲み屋?」
「お店の中で座って酒を飲むんじゃなくて、屋台で売ってる酒を買って、立ったまま路上で飲むんです。隣に美味しいソーセージ置いてる店があるんです」
「ふぅん。試してみるか」
「はい。じゃあ、行きましょう」
2人で連れだって、立ち飲み屋へと向かった。
幸い、ルート先輩は麦酒をお気に召したらしく、おかわりもしていた。ミーシャは香ばしく焼かれたソーセージをおかわりした。
「旨いな、麦酒」
「お気に召したのなら良かったです。他所では常温のまま飲むらしいんですけど、うちじゃあ、キンキンに冷やして飲むんです」
「へぇ。酒の飲み方まで変わってるんだな」
「よく言われます。母と祖父が酒好きなので、色んな飲み方を試して広めているのです。ここでしか飲めないお酒って結構あると思います」
「それはいいな」
「夜になったら、母行きつけのバーに案内しましょうか?そこのマスターが母の飲み友達なので、多分そこが一番種類が豊富だと思います」
「頼みたいところだが、夜に若い娘が出歩くもんじゃないだろう?店の場所だけ地図で教えてくれ」
「私を無理矢理どうこうできる男なんて、そうそういませんよ。それに、神子の娘として花街の人間にも知られてますから飲み屋街に行く分には問題ありませんよ」
「うーん。いいのか?本当に」
「はい。問題なしです」
「じゃあ、頼む」
「はい」
ルート先輩が微かに笑った。
普段の仕事中は笑うことがないため、新鮮である。パッと見、地味な顔立ちだが、笑うと少々愛嬌がある。
新発見である。
その後も2人で夕食までの時間に幾つか飲食店を回った。
夕食前に公衆浴場で汗を流し、宿に一度戻った。宿に戻ると、早速買い込んだのか、荷物を沢山抱えている先輩がいた。
局員全員が揃うと、予約しておいた店に移動した。
昼は郷土料理メインの店だったので、今度は土の国の一般的な料理と郷土料理の両方扱っている店にした。
皆で酒も飲みながら、美味しい料理に舌鼓を打った。
食事を終えると、宿に戻る組と酒を飲みに行く組、花街に行く組と別れた。
ミーシャはルート先輩とブルック先輩、ヒューブ先輩を連れて、母行きつけのバーに向かった。
「ここです。母行きつけのバー」
「神子様って酒がお好きなのか?」
「大好きですよ」
「変わった飲み方も楽しめるそうですよ」
「それはいいな」
4人で店内に入った。
カウンターにいた顔見知りの壮年のマスターに片手をあげる。
「こんばんは。席空いてるかしら」
「いらっしゃいませ、ミーシャ様。ちょうど奥が空いてますよ」
「じゃあ、そこでお願い」
「はい。ご案内致します」
マスターに案内されて、奥の個室に入った。そこは狭いながらバーカウンターがあり、皆でカウンター席に座った。マスターがカウンター内に入る。
「表の方はいいの?」
「息子もおりますから大丈夫です」
マスターは微笑んでそう言った。
「何をお出ししましょうか?」
「こちらでよく飲まれているものを頼む」
「かしこまりました」
マスターが後ろの棚から酒を取り出して、作り始めた。
まず出てきたのはソルティドッグと呼ばれる酒である。
「元々は神子様の故郷で飲まれているものだそうです。グラスの縁の塩を舐めながらお飲みください」
其々飲み始めた。
柑橘類の爽やかな香りが心地よい。
「旨いな」
「いいですね、これ」
「結構人気なんですよ、これ。悪酔いもしにくいですし」
「そうなのか」
マスターがつまみにナッツを出してきた。
「皆様はサンガレアは初めてでらっしゃいますか?」
「あぁ。まさか慰安旅行で来れるとは思ってなかった」
「本当ついてましたね。自分一人じゃ中々来れない距離だから」
「そうだな」
「こちらは少々変わった場所ではありますが、是非楽しんでいってくださいませ」
マスターが穏やかに微笑んだ。
「そうさせていただこう」
「同じもの、おかわりもらえるかな?」
「おれは違うものを頼む」
「かしこまりました」
早くも一杯目を飲み終えたブルック先輩とヒューブ先輩が二杯目を頼んだ。ヒューブ先輩に出されたのは、この地方特産の米の酒だった。
「あ、これも旨い」
「それはここ特産のものなんです。米が原料でして、とりあえず甘口のものをお出ししましたが、辛口のものもございます」
「へぇ。香りがいいなぁ、これ」
「それじゃあ、俺は辛口を頼む」
「私は甘口でお願い」
「はい」
ルート先輩とミーシャも米の酒を頼んだ。
その後、何杯も酒を頼み、日付が変わる頃合いまで飲み続けた。ポツリポツリと話が途切れることはなく、先輩方はとても楽しそうな様子だった。
子供の頃から顔馴染みのマスターが、ミーシャを微笑ましそうに見ているのが、なんとも気恥ずかしかった。
店には夏限定のかき氷が置いてある。ミーシャは苺のシロップを、ルート先輩はオレンジのシロップのものを頼んだ。
「かき氷なんて初めて食べる」
「王都は涼しいですし、私も王都じゃ見たことないです」
「しかし、本当にいいのか?俺と2人で行動して」
「?何がですか?」
「色々勘違いされたら困るんじゃないのか?」
「あぁ。大丈夫じゃないですか?多分」
「多分か」
「多分です。第一ルート先輩、男専門でしょう?私にとってみれば、局員の中では一番安全です」
「……俺、男専門だなんて言ったか?」
「いえ。身近に何人かいるので、なんとなく雰囲気で分かっただけです。うちの領地、結構男専門の人多いんですよ」
「そうなのか?」
「はい。男同士で子供を作れる施設があるってのもありますけど、元々、領地開拓の為に男ばかりが集まったので、自然と男同士の夫婦が増えてったそうでして。母は愛があればそれでいい、ってスタンスで男同士でも普通に応援しますから、尚更なんです。私の祖父も男同士で結婚してますよ」
「……そうなのか」
「街中歩いてると、男同士で手を繋いでデートしてる人達とか、普通にいますよ」
「それはまた……随分開放的なんだな」
「本人曰く愛とエロスの伝道師、豊穣を司る土の神子のお膝元ですから、寛容なんです」
「成る程な」
「うちの領地にも花街がありますけど、そこは男しかいないですよ。安全が売りなので、安心して遊べますよ」
「年頃の若い娘が言うことじゃないだろう」
「そうですか?」
「そうだよ」
話していると、かき氷が運ばれてきた。
ルート先輩が一口食べるのを待って、ミーシャもかき氷を口にした。冷たい甘さが口の中に広がって心地よい。
「旨いな」
「ここの店が一番シロップが濃厚で、氷も細かくて美味しいんです」
「確かに氷が細かいな」
2人でシャクシャクかき氷を食べながら、ポツリポツリと話をした。
「俺はお前にとっては安全牌かもしれないが、端から見たら違うんじゃないのか?」
「流石に王都にいるときは気をつけますけど、ここは地元ですから、そこまで気にしなくても大丈夫だと思います。第一、私まだ結婚する気ありませんし、それは近しい人は皆知ってますから。そうじゃない人も、多分、慰安旅行で私が職場の人と領地に戻るって通達がされてるでしょうから」
「そうなのか。だが、ミーシャは適齢期だろう?」
「そうですけど、私神子の血を引いてるので王族並みに長生きするんです。なんで、結婚も出産も焦る必要がないんですよ」
「だから、ああも大規模な婿断りしたのか?」
「いやぁ、あれは、不甲斐ない私達に対するお仕置きと、母の逆鱗に触れた貴族達へのお仕置きなんです」
「神子様の逆鱗?」
「仕事や役目に厳しい人なんです。特に王公貴族に対して厳しいもんですから」
「あぁ、だからあんなにお怒りになってたのか」
「はい。結婚については、両親からは、自分が一生を共にする相手くらい自分で見つけろ、と言われているので、ああやってザックリ断っても私的には問題なしです。仕事の邪魔しかしないような人達なんて論外ですから」
「ま、確かにそうだな」
2人揃って食べ終わり、店を出た。
「先輩、麦酒はお好きですか?」
「飲んだことがない」
「なら、試してみましょう。近くに立ち飲み屋があるんです」
「立ち飲み屋?」
「お店の中で座って酒を飲むんじゃなくて、屋台で売ってる酒を買って、立ったまま路上で飲むんです。隣に美味しいソーセージ置いてる店があるんです」
「ふぅん。試してみるか」
「はい。じゃあ、行きましょう」
2人で連れだって、立ち飲み屋へと向かった。
幸い、ルート先輩は麦酒をお気に召したらしく、おかわりもしていた。ミーシャは香ばしく焼かれたソーセージをおかわりした。
「旨いな、麦酒」
「お気に召したのなら良かったです。他所では常温のまま飲むらしいんですけど、うちじゃあ、キンキンに冷やして飲むんです」
「へぇ。酒の飲み方まで変わってるんだな」
「よく言われます。母と祖父が酒好きなので、色んな飲み方を試して広めているのです。ここでしか飲めないお酒って結構あると思います」
「それはいいな」
「夜になったら、母行きつけのバーに案内しましょうか?そこのマスターが母の飲み友達なので、多分そこが一番種類が豊富だと思います」
「頼みたいところだが、夜に若い娘が出歩くもんじゃないだろう?店の場所だけ地図で教えてくれ」
「私を無理矢理どうこうできる男なんて、そうそういませんよ。それに、神子の娘として花街の人間にも知られてますから飲み屋街に行く分には問題ありませんよ」
「うーん。いいのか?本当に」
「はい。問題なしです」
「じゃあ、頼む」
「はい」
ルート先輩が微かに笑った。
普段の仕事中は笑うことがないため、新鮮である。パッと見、地味な顔立ちだが、笑うと少々愛嬌がある。
新発見である。
その後も2人で夕食までの時間に幾つか飲食店を回った。
夕食前に公衆浴場で汗を流し、宿に一度戻った。宿に戻ると、早速買い込んだのか、荷物を沢山抱えている先輩がいた。
局員全員が揃うと、予約しておいた店に移動した。
昼は郷土料理メインの店だったので、今度は土の国の一般的な料理と郷土料理の両方扱っている店にした。
皆で酒も飲みながら、美味しい料理に舌鼓を打った。
食事を終えると、宿に戻る組と酒を飲みに行く組、花街に行く組と別れた。
ミーシャはルート先輩とブルック先輩、ヒューブ先輩を連れて、母行きつけのバーに向かった。
「ここです。母行きつけのバー」
「神子様って酒がお好きなのか?」
「大好きですよ」
「変わった飲み方も楽しめるそうですよ」
「それはいいな」
4人で店内に入った。
カウンターにいた顔見知りの壮年のマスターに片手をあげる。
「こんばんは。席空いてるかしら」
「いらっしゃいませ、ミーシャ様。ちょうど奥が空いてますよ」
「じゃあ、そこでお願い」
「はい。ご案内致します」
マスターに案内されて、奥の個室に入った。そこは狭いながらバーカウンターがあり、皆でカウンター席に座った。マスターがカウンター内に入る。
「表の方はいいの?」
「息子もおりますから大丈夫です」
マスターは微笑んでそう言った。
「何をお出ししましょうか?」
「こちらでよく飲まれているものを頼む」
「かしこまりました」
マスターが後ろの棚から酒を取り出して、作り始めた。
まず出てきたのはソルティドッグと呼ばれる酒である。
「元々は神子様の故郷で飲まれているものだそうです。グラスの縁の塩を舐めながらお飲みください」
其々飲み始めた。
柑橘類の爽やかな香りが心地よい。
「旨いな」
「いいですね、これ」
「結構人気なんですよ、これ。悪酔いもしにくいですし」
「そうなのか」
マスターがつまみにナッツを出してきた。
「皆様はサンガレアは初めてでらっしゃいますか?」
「あぁ。まさか慰安旅行で来れるとは思ってなかった」
「本当ついてましたね。自分一人じゃ中々来れない距離だから」
「そうだな」
「こちらは少々変わった場所ではありますが、是非楽しんでいってくださいませ」
マスターが穏やかに微笑んだ。
「そうさせていただこう」
「同じもの、おかわりもらえるかな?」
「おれは違うものを頼む」
「かしこまりました」
早くも一杯目を飲み終えたブルック先輩とヒューブ先輩が二杯目を頼んだ。ヒューブ先輩に出されたのは、この地方特産の米の酒だった。
「あ、これも旨い」
「それはここ特産のものなんです。米が原料でして、とりあえず甘口のものをお出ししましたが、辛口のものもございます」
「へぇ。香りがいいなぁ、これ」
「それじゃあ、俺は辛口を頼む」
「私は甘口でお願い」
「はい」
ルート先輩とミーシャも米の酒を頼んだ。
その後、何杯も酒を頼み、日付が変わる頃合いまで飲み続けた。ポツリポツリと話が途切れることはなく、先輩方はとても楽しそうな様子だった。
子供の頃から顔馴染みのマスターが、ミーシャを微笑ましそうに見ているのが、なんとも気恥ずかしかった。
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