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今回の作戦は、いくつかの目的をもって立てられた。
一つ目は、具現化した瘴気を封印、浄化しやすいよう、攻撃して霞のような状態に戻すこと。
二つ目は、瘴穴の中に地表に出た瘴気を戻すこと。
三つ目は、瘴穴を塞ぐこと。
そのため、瘴穴を中心に大きな円形で張られている結界の内側の端から、四方より円の中心に向かう形で其々瘴気を倒しながら進むことになる。
魔導遠視装置のモニターは、ご丁寧にも四分割され、四人の神子、全ての様子が見れるようになっていた。
神子が進むにつれ、魔導遠視装置のモニターに写し出される映像は結界内部の様子も写し出した。
第二の結界内部は、異界といっても遜色ないほど、酷い有り様だった。
昼間だというのに、結界内部全体が夜のように暗く、黒い霞が霧のように周囲を覆っており、その中に、獣のような形をしたものや異形というしかない、形容しがたいものがゴロゴロいた。
そしてソレらは、神子達の進入を察知するや否や、凄まじい勢いで襲いかかってきた。
風の神子フェリは緩やかなカーブを描く曲刀を。
水の神子マルクは刃が大きな槍を。
土の神子マーサは二丁の拳銃を。
火の神子リーは人の背丈ほどある大刀を。
其々、息をつく間もなく、揮っていた。
ミーシャは戦う母の様子をろくに瞬きもせず、じっと見つめていた。
母は運動神経が鈍く、本人も室内頭脳労働派を自負している。
本来荒っぽいこともそんなに好きじゃなく、神子になる前は口喧嘩もできないほど気が弱かったらしい。
ミーシャの知る母は、明るくて、決して美人じゃないけど笑うと愛嬌があって、いつも楽しそうにニコニコしてて、柔らかくていつも美味しそうな匂いか、畑の土の匂いがして。悪戯や悪ノリが好きで、たまに何かやらかしては副神官長らに怒られてて、怒られても悪戯っ子の顔でニカッと笑って。
そんなミーシャの大好きな母が初めて見る顔で血まみれになって戦っていた。
犬歯を剥き出しにして獣のように吠え、二丁拳銃をひたすら撃っていた。
比較的小型の獣が手足に食いつく。
大きな異形が丸太のような腕を振り上げる。
鋭い爪を持つモノがそれを腹部に突き刺す。
大きな口の異形に左腕の根元から腕を食いちぎられる。
それでも母は前だけを見て、撃ち続けていた。
ミーシャは汗ばむ手をぐっと握った。
ただ見ていることしかできない自分が腹立たしかった。
心から大好きな母や、生まれた頃から知っているミーシャにとっては大事な家族であるフェリやマルク、そしてつい最近少しだけ仲良くなったリーがどんどん傷ついてボロボロになっていく。
それをただ見ていることしかできない事実に、胸が張り裂けそうな思いがした。
戦闘開始からどれだけの時間が経ったのだろうか。
皆ボロボロになりながらも互いに目視できる距離まで進んでいた。
互いに魔力を振り絞り、援護しあいながら戦っていた。
残っている瘴気が数えるくらいになった頃、ソイツが現れた。
髪も肌も何もかも漆黒のソレは人形をしていた。何もかも黒いためどのような造作かまでは分からない。
しかし、体格からして子供のように思える。
神子達の間に動揺が走った。
リーの呟く声がインカムから伝わってきた。
『……先代火の神子』
驚愕に目を見開く。
驚いているとリーが一人、ソレの前に躍り出た。
『コイツは俺がやる』
『あぁ』
『分かった』
『雑魚は任せとけ』
人形のソレに挑むリーを援護するように他の神子達が動く。
リーは叫びながらソレに向かって大きく剣を振るった。
しかし、別の獣型の瘴気が邪魔をする。
『邪魔をっ、するなぁぁぁぁぁ!!』
叫び声と共に炎をまとった剣で切り伏せた。
切られた瘴気が霞のようになると、その中を突っ切り、ソレに剣を叩き込んだ。
が、浅かったのか、ソレが動き始めた。
ソレがリーの心臓を狙って恐ろしい速さで手刀を繰り出す。ギリギリで避けるが、微かに擦ったところは鋭利な刃物で斬られたみたいに裂け、血が吹き出した。
リーは受けた傷をものともせず、剣を振るった。中々決定打ができず、どんどん傷が増えていく。
遂には左足が太もも半ばで切り落とされた。
火の神子の眷属の虎が直ぐ様、リーをその背に乗せる。
限界が近いことは映像越しでも分かった。
それでもリーはソレから目を離さず、隙を狙っていた。
ソレがリーの首を狙って手刀を繰り出した瞬間、 リーはソレの懐に入り、心臓の辺りを剣で貫いた。
剣から一気に炎が吹き上がる。
ソレは貫かれた部分から徐々に霞へと変わっていった。
『瘴気収束!』
『瘴穴に押し込め!』
『おう!』
『瘴穴を塞ぐ!武器を差し込め!』
『浄化結界を発動する!魔力を流せ!』
『3、2、1!発動!』
一つも具現化した瘴気がいなくなると、霞と化した瘴気が神子達によって集められ、瘴穴の中へと押し込められた。
その穴を其々の武器で塞ぐように、武器が地面に突き立てられた。
あれだけ暗かった空間が、あっという間に陽光ある明るい状態に戻った。
『今から結界の外に移動する。転移陣を用意しておけ!』
『おいこら、リー!まだくたばんじゃねぇーぞ!あと少しだ!』
『俺を一緒に眷属に乗せろ!少しでも傷を塞ぐ!』
瘴穴を塞ぎ、結界を張ったとたん倒れたリーを抱えて、神子達は慌てて結界外の転移陣がある場所へと急いでいた。
其々の眷属に跨がって移動し、転移陣へ辿り着いて、彼等の姿が見えなくなるのを確認すると、ミーシャは大きく息を吐いた。
その場に置いていた魔導具を回収し、近くに用意してあった馬に跨がって、ミーシャも転移陣のもとへ急ぐ。
ミーシャが予定されていた地点に着くと、父が既に着いていた。
「父様」
「知らせが入った。全員生きている」
「そう……なの。……よかったぁ」
母達の無事を知り、思わずその場にしゃがみこんでしまう。
「神子様方が回復次第、瘴穴を塞いだ場所に神殿を建て、更なる厳重な結界を張ることになった。これから忙しくなるぞ。怪我そのものは神々に治してもらえるが、失われた魔力まではすぐには戻らない。回復させるために兎に角食うからな」
「……そんなのどんとこいよ」
肩を竦めて、小さく笑った。
後ろを振り返ると、弟達の姿が見えた。
なんとか無事、皆生き延びることができた。
ミーシャは再び、安堵の溜め息を吐いた。
一つ目は、具現化した瘴気を封印、浄化しやすいよう、攻撃して霞のような状態に戻すこと。
二つ目は、瘴穴の中に地表に出た瘴気を戻すこと。
三つ目は、瘴穴を塞ぐこと。
そのため、瘴穴を中心に大きな円形で張られている結界の内側の端から、四方より円の中心に向かう形で其々瘴気を倒しながら進むことになる。
魔導遠視装置のモニターは、ご丁寧にも四分割され、四人の神子、全ての様子が見れるようになっていた。
神子が進むにつれ、魔導遠視装置のモニターに写し出される映像は結界内部の様子も写し出した。
第二の結界内部は、異界といっても遜色ないほど、酷い有り様だった。
昼間だというのに、結界内部全体が夜のように暗く、黒い霞が霧のように周囲を覆っており、その中に、獣のような形をしたものや異形というしかない、形容しがたいものがゴロゴロいた。
そしてソレらは、神子達の進入を察知するや否や、凄まじい勢いで襲いかかってきた。
風の神子フェリは緩やかなカーブを描く曲刀を。
水の神子マルクは刃が大きな槍を。
土の神子マーサは二丁の拳銃を。
火の神子リーは人の背丈ほどある大刀を。
其々、息をつく間もなく、揮っていた。
ミーシャは戦う母の様子をろくに瞬きもせず、じっと見つめていた。
母は運動神経が鈍く、本人も室内頭脳労働派を自負している。
本来荒っぽいこともそんなに好きじゃなく、神子になる前は口喧嘩もできないほど気が弱かったらしい。
ミーシャの知る母は、明るくて、決して美人じゃないけど笑うと愛嬌があって、いつも楽しそうにニコニコしてて、柔らかくていつも美味しそうな匂いか、畑の土の匂いがして。悪戯や悪ノリが好きで、たまに何かやらかしては副神官長らに怒られてて、怒られても悪戯っ子の顔でニカッと笑って。
そんなミーシャの大好きな母が初めて見る顔で血まみれになって戦っていた。
犬歯を剥き出しにして獣のように吠え、二丁拳銃をひたすら撃っていた。
比較的小型の獣が手足に食いつく。
大きな異形が丸太のような腕を振り上げる。
鋭い爪を持つモノがそれを腹部に突き刺す。
大きな口の異形に左腕の根元から腕を食いちぎられる。
それでも母は前だけを見て、撃ち続けていた。
ミーシャは汗ばむ手をぐっと握った。
ただ見ていることしかできない自分が腹立たしかった。
心から大好きな母や、生まれた頃から知っているミーシャにとっては大事な家族であるフェリやマルク、そしてつい最近少しだけ仲良くなったリーがどんどん傷ついてボロボロになっていく。
それをただ見ていることしかできない事実に、胸が張り裂けそうな思いがした。
戦闘開始からどれだけの時間が経ったのだろうか。
皆ボロボロになりながらも互いに目視できる距離まで進んでいた。
互いに魔力を振り絞り、援護しあいながら戦っていた。
残っている瘴気が数えるくらいになった頃、ソイツが現れた。
髪も肌も何もかも漆黒のソレは人形をしていた。何もかも黒いためどのような造作かまでは分からない。
しかし、体格からして子供のように思える。
神子達の間に動揺が走った。
リーの呟く声がインカムから伝わってきた。
『……先代火の神子』
驚愕に目を見開く。
驚いているとリーが一人、ソレの前に躍り出た。
『コイツは俺がやる』
『あぁ』
『分かった』
『雑魚は任せとけ』
人形のソレに挑むリーを援護するように他の神子達が動く。
リーは叫びながらソレに向かって大きく剣を振るった。
しかし、別の獣型の瘴気が邪魔をする。
『邪魔をっ、するなぁぁぁぁぁ!!』
叫び声と共に炎をまとった剣で切り伏せた。
切られた瘴気が霞のようになると、その中を突っ切り、ソレに剣を叩き込んだ。
が、浅かったのか、ソレが動き始めた。
ソレがリーの心臓を狙って恐ろしい速さで手刀を繰り出す。ギリギリで避けるが、微かに擦ったところは鋭利な刃物で斬られたみたいに裂け、血が吹き出した。
リーは受けた傷をものともせず、剣を振るった。中々決定打ができず、どんどん傷が増えていく。
遂には左足が太もも半ばで切り落とされた。
火の神子の眷属の虎が直ぐ様、リーをその背に乗せる。
限界が近いことは映像越しでも分かった。
それでもリーはソレから目を離さず、隙を狙っていた。
ソレがリーの首を狙って手刀を繰り出した瞬間、 リーはソレの懐に入り、心臓の辺りを剣で貫いた。
剣から一気に炎が吹き上がる。
ソレは貫かれた部分から徐々に霞へと変わっていった。
『瘴気収束!』
『瘴穴に押し込め!』
『おう!』
『瘴穴を塞ぐ!武器を差し込め!』
『浄化結界を発動する!魔力を流せ!』
『3、2、1!発動!』
一つも具現化した瘴気がいなくなると、霞と化した瘴気が神子達によって集められ、瘴穴の中へと押し込められた。
その穴を其々の武器で塞ぐように、武器が地面に突き立てられた。
あれだけ暗かった空間が、あっという間に陽光ある明るい状態に戻った。
『今から結界の外に移動する。転移陣を用意しておけ!』
『おいこら、リー!まだくたばんじゃねぇーぞ!あと少しだ!』
『俺を一緒に眷属に乗せろ!少しでも傷を塞ぐ!』
瘴穴を塞ぎ、結界を張ったとたん倒れたリーを抱えて、神子達は慌てて結界外の転移陣がある場所へと急いでいた。
其々の眷属に跨がって移動し、転移陣へ辿り着いて、彼等の姿が見えなくなるのを確認すると、ミーシャは大きく息を吐いた。
その場に置いていた魔導具を回収し、近くに用意してあった馬に跨がって、ミーシャも転移陣のもとへ急ぐ。
ミーシャが予定されていた地点に着くと、父が既に着いていた。
「父様」
「知らせが入った。全員生きている」
「そう……なの。……よかったぁ」
母達の無事を知り、思わずその場にしゃがみこんでしまう。
「神子様方が回復次第、瘴穴を塞いだ場所に神殿を建て、更なる厳重な結界を張ることになった。これから忙しくなるぞ。怪我そのものは神々に治してもらえるが、失われた魔力まではすぐには戻らない。回復させるために兎に角食うからな」
「……そんなのどんとこいよ」
肩を竦めて、小さく笑った。
後ろを振り返ると、弟達の姿が見えた。
なんとか無事、皆生き延びることができた。
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