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20:慣れって怖い

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 ライアンが正常位で腰を振っていると、レックスの腕がライアンの首に絡んできて、顔を引き寄せられた。そのまま、レックスとねっとりとしたキスをする。間近に見えるレックスの淡い水色の瞳は、爛々と楽しそうに輝いている。ド淫乱野郎、と内心レックスを罵りながら、ライアンは腰を振りつつ、レックスの熱い舌に自分の舌を絡めた。

 レックスが、隙あらばキスをしてくるようになって二ヶ月程。ライアンは、すっかりレックスとキスをするのに慣れてしまった。ライアンは、娼婦とはキスをしないし、恋人とは清い関係だったので、触れるだけのキスしかしたことが無かった。ぬるついた熱い舌で口内を舐められ、舌を絡めるのが、ここまで気持ちがいいとは、完全に予想外である。心底イラッとするが、レックスとのキスは気持ちがいい。
 ライアンは、イラッとしながら、レックスの熱い舌に舌をぬるぬると絡めつつ、レックスの腹の奥深くに精液をぶち撒けた。身体の中の余分な魔力が抜け出る感覚がする。ライアンは、唇を離し、はぁっと熱い息を吐いた。

 今日はこれで最後だ。ライアンは、レックスの呼吸に合わせて、きゅっ、きゅっと締まったり緩んだりするアナルから、ずるぅっと萎えたペニスを引き抜いた。ライアンがシーツの上に胡座をかいて座り、荒い息を整えていると、レックスがのろのろと起き上がって、ライアンの唇にくちゅっと吸いついてきた。反射的に、レックスの唇を吸い返せば、レックスがクックッと低く笑った。慣れって怖い。レックスとキスをするのに、そこまで抵抗が無くなっている。最初の頃は、確かに気持ちがいいのだが、心底きめぇと思っていたのに、今はそこまでない。慣れって本当に怖い。

 レックスが戯れるようにキスをしてくるのに応えながら、ライアンは遠い目をした。最近は、エロ本を読まなくても、レックスとキスをすれば、ペニスが勃起するようになってしまった。本当に嫌過ぎるが、レックスが無駄にキスが上手いから仕方がない。

 満足したのか、レックスがキスをするのをやめ、鼻歌を歌いながら、ゆっくりとした動作でベッドから下りた。ライアンは、部屋から出ていったレックスをなんとなく見送ると、はぁーっと大きな溜め息を吐いて、自分もベッドから下りた。

 全裸のまま台所へ向かい、夕食を作り始める。身体は疲れているが、最初期のような、精神面がゴリゴリ削られるようなストレスは殆ど無い。レックスとセックスをするのに、本当に慣れきってしまっている。レックス曰く楽しい普通のセックスは、確かに、エロ本を読みながらのオナニーじみたセックスよりも気持ちがいい。それが何とも複雑な気分になる。
 ライアンは、手早く夕食を作りながら、何度も溜め息を吐いた。

 今日の夕食は、揚げた小さめの魚を野菜と一緒に甘酢に漬けたものがメインだ。揚げ物は面倒だからしなかったのだが、休みの日に公衆浴場の食堂で揚げ物を食べるだけでは物足りなくなって、ちょっと後片付けが面倒だが、家でも揚げ物をするようになった。揚げ物はレックスも好きで、作ってやると目を輝かせて喜ぶので、なんとなく、揚げ物をする頻度が多くなった。別にレックスが喜ぶから揚げ物を作っているのではない。ライアンが好きだから、揚げ物を作っているのである。揚げ物を作ると、それだけ料理のレパートリーが多くなるし、割と短時間で作れるから、頻繁に作っているだけだ。断じて、レックスが喜ぶからではない。
 ライアンは、完成した夕食を居間のテーブルに運んだ。

 髪が濡れたままのレックスがテーブルの上に並べた料理を見て、嬉しそうに目を輝かせた。実に分かりやすい単純馬鹿である。揚げた魚と野菜の甘酢漬けも、レックスの好物の一つだ。ライアンは、ガツガツと食べ始めたレックスをチラッと見てから、食前の祈りを口にして、自分も食べ始めた。我ながら上出来である。素直に美味い。ゴロゴロ肉と野菜たっぷりのスープも美味いし、軽く焼き直した胡桃パンも美味い。完璧過ぎる夕食である。

 早々と食べきったレックスが、頬袋状態でもぐもぐしながら、無言でキレイに空になった皿を差し出してきた。ライアンは、仕方がなくレックスから皿を受け取り、台所へ行って、お代わりの甘酢漬けをたっぷり皿に盛った。居間に戻って、レックスにお代わりを差し出してやれば、レックスが目を輝かせて、またガツガツと食べ始めた。
 毎日、アナルを酷使しているのに、レックスはいつでも食欲旺盛である。セックスしまくった後に、そんなに食って大丈夫なのかと思うくらいには、毎日がっつり食べている。きっと腹が丈夫なのだろう。レックスと暮らすようになって、早四ヶ月ちょい。一時期は、お互いに窶れたが、最近は、レックスは少し太った気がする。レックスにデブになられてもライアンが困るので、ここ最近は、野菜多めのメニューにしている。

 腹が膨れると一気に眠くなるが、ライアンは眠気を堪えて、手早く食事の後片付けをした。疲労回復効果がある入浴剤が入った風呂で、ゆっくりと身体を解してから、身体を拭いて、全裸のまま、ライアンの部屋に向かう。今日は、レックスの部屋でセックスをしたので、寝るのはライアンの部屋だ。不本意ながら、レックスと一緒に寝るのにも慣れてしまった。

 自分の部屋に入ると、レックスがベッドの上で、人1人分のスペースを開けた状態で、ぐっすり寝ていた。まだ夏の真っ盛りなので、薄いブランケットを身体にかけている。ライアンは大きな欠伸をしながらベッドに上がり、レックスの隣に寝転がった。薄いブランケットを腹にかけ、レックスに背を向けて、目を閉じる。セックスで疲れた身体が、睡眠を求めている。ライアンは、背中にくっついてきたレックスの熱い体温を無視して、すぅっと眠りに落ちた。

 翌朝。ライアンが目覚めると、仰向けに寝ているライアンの腕を抱き枕のようにして、レックスが寝ていた。足も絡んでいる。レックスの高めの体温が暑苦しい。ライアンはチッと舌打ちをしてから、絡みついているレックスの手足を外して、ベッドから下りた。

 全裸のまま、ぺたぺたと歩いて、台所へ向かう。レックスが朝から沢山食べるので、朝食も多めに作らなくてはいけない。ライアンは、手早く野菜を刻み、挽肉と一緒に炒めて、挽肉入りのデカいオムレツを作った。同時進行で野菜たっぷりのスープも作り、鶏胸肉を湯がいて、小さめに裂いた鶏胸肉をのせた野菜サラダを作る。ドレッシングも手早く作る。亡くなった母親から習ったドレッシングが一番好きなので、市販のものを買う気は無い。すっかりお馴染みの胡桃パンを焼き直していると、パンツいっちょのレックスが、台所に顔を出した。


「腹減った。飯」

「もうすぐ出来る。大人しく待っとけ」

「へいへーい」


 朝からボリュームたっぷりの朝食が出来上がると、ライアンは居間のテーブルに朝食を運んだ。ベランダに洗濯物を干していたレックスがすぐに気づいて、いそいそとベランダから居間のテーブルの所へやって来た。
 椅子に座ったレックスが、すぐに食前の祈りを口にして、ガツガツと食べ始めた。美味そうに食べるレックスを、なんとなくチラッと見てから、ライアンも食べ始める。


「オムレツうめぇ」

「もっと褒め称えろ」

「調子のんな。明日もこれがいい」

「明日は、しこたまハムとチーズを挟んだサンドイッチの予定だ」

「む。それも捨てがてぇな。両方食いてぇ」

「我儘か。てめぇ」

「美味い飯しか楽しみがねぇんだよ」

「あっそ」


 ライアンは仕方がなく、頭の中の買い出しリストに、挽肉入りのオムレツの材料を追加した。別にレックスの為ではない。作らないとレックスが五月蠅そうだから、作ってやるだけだ。

 ライアンは、ふと思った。慣れって心底怖い。不本意ながら、レックスの為に料理をするのに、完全に慣れきっている感がある。レックスがいつでも美味そうにライアンが作った料理をガツガツ食うのが悪い。
 ライアンは、なんとなく面白くなくて、テーブルの下でレックスの足を軽く蹴った。

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