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異世界召喚されて神子になったのに全然モテない……だと……!?
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美しい花々が咲き誇る中庭で、直人は用意していた花束をバッと差し出し、勇気を出して愛を告げた。
「好きです!! 恋人になってください!!」
「あ、無理です」
「なんでぇ!?」
「申し訳ないんですけど、好みじゃないんで……」
目の前のめちゃくちゃ格好いい護衛騎士が申し訳なさそうな顔をしながら去っていった。
直人は、ガクッとその場に崩れ落ちた。またフラれた。これでフラれるのは二十回目である。自分のモテなさ加減に一周回って笑いだしたくなる。
直人はしょんぼりと肩を落として、自室である神子の間に戻った。
ここは地球の日本ではない。リーガデリアという異世界だ。直人は、この世界に神子として召喚された。この世界では、百年に一度、瘴気というものが発生する。瘴気に触れると、人も獣も狂って狂暴化してしまう。そのため、瘴気を浄化するために神子が召喚される。神子は瘴気を浄化することができる。28歳の時に召喚されちゃって10年。瘴気浄化の旅は昨年無事に終わり、世の中はすっかり平和になった。
直人は全力隠れゲイであった。誰にもゲイであることを告白することができず、二丁目などのゲイの聖地にも行ったことがない。マッチングアプリを覗いてみたことはあるのだが、怖くて結局利用したことはない。ただ、ゲイ向けアダルトビデオを観ながら、ぬこぬこアナニーに耽っていた。趣味は筋トレなので、身体にはそこそこ自信がある。が、その身体と元からの顔立ちが、この世界でのモテない要因の一つになっている。
直人を召喚した神聖王国では、男女問わず、ほっそりとした身体つきの柔和な顔立ちの者が基本的にモテる。直人は、一時期本気でボディビルダーを目指していたくらい筋肉むきむきで、顔立ちは平凡な醤油顔だが、三白眼なので目つきは悪い。
召喚された時の、神官達や立ち会っていた王族達のガッカリしたような溜め息は、未だに覚えている。夢見がちにも程があるが、向こうとしては、庇護欲をそそるような美少年、もしくは美青年が召喚されると思っていたらしい。
直人を召喚し、瘴気浄化の旅が終わってから暮らしている神聖王国は、同性愛にも寛容な国だ。ここでなら、憧れの恋人ができるかもしれない。ていうか、異世界召喚だと、ハーレムうはうは生活がセオリーだろう。そう期待していたのに、直人はまるでモテない生活を送っていた。
しょんぼりして神子の間に戻ると、瘴気浄化の旅で一緒だった護衛兼教育係の魔法使いニルデルがいた。ニルデルがくいっと眼鏡を上げながら、呆れた顔をして直人を見てきた。
「また意中のお相手ができたのですか」
「フラれましたけどね!! この花、勿体無いから飾ろう」
「ナオト様。そろそろ護衛騎士達に告白祭りをするのはおやめください。苦情がきています」
「マジか」
「えぇ。『ちょっと仕事で親切にするだけで惚れられるから護衛の任につきたくない』と言う騎士が多いらしいです。護衛騎士隊長が頭を抱えてらっしゃいましたよ。気の毒に」
「だって!! 俺だって恋人が欲しい!! 浄化の旅を10年近く頑張ったじゃん! ご褒美があってもいいじゃん!!」
「うちの国は恋愛至上主義なので、一応誰とでも恋愛関係になれますが、ナオト様はぶっちゃけモテる感じではありませんので、まぁ諦めてください。歳も歳ですし」
「やだーー!! 諦めたくねぇよ! 恋人欲しい! イチャイチャしてみたい!!」
「誰かと恋人になって、何がしたいんですか?」
「え、そりゃあ……星を見ながら語り合ってキスしたりとかー、手を繋いで買い物に行ったりとかー、なんかそういうの」
「思いの外、純粋だったことにビックリです」
「俺をなんだと思ってんだ。こっちは色々拗らせてんだよ! 流石に俺だってこの歳でセックスできるなんて思ってねぇよ! 興味はありますけどね! 若さが欲しい……もうちょっと若ければ、セックスだってしてくれる相手が見つかったかもしれないのに……」
「10年前もまるで全然モテていなかったじゃないですか」
「そうですね! ちくしょー。日本じゃなかったら恋人ができるかも! って思ってたのに……この国、同性愛者にも優しいし……何故! こんなにも! モテないんだぁぁ!!」
「がつがつしてる上に、目移りが早いからじゃないですか? あと、残念ながら見た目がちょっと……?」
「うぅ……ニルデルさん。俺がモテる方法を考えてくれ」
「無理です」
「即答はやめてっ! 流石に泣いちゃう!!」
「まぁ、何はともあれ、護衛騎士に片っ端から告白するのはやめてくださいね。迷惑をかけちゃダメですよ」
「……はい」
直人はしょんぼりと肩を落とし、部屋に常備するようになったデカい花瓶に花束を活けた。フラれる度に勿体無いから自室に花を活けるようになったので、側使えの女の子達はキレイだと喜んでいる。
直人は、この世界に召喚された時に、男しか愛せないことをカミングアウトしているので、側使えは女の子ばっかりだ。『異世界召喚されちゃった!』という謎のハイテンションでゲイであることをカミングアウトした昔の自分を殴りたい。そのせいで、護衛騎士以外の男が身近にいない。
ニルデルは、ほっそりとした体格の柔和な顔立ちの知的美人で、既婚者である。ものすごく格好いい騎士の旦那がいる。瘴気浄化の旅から帰還した直後に結婚した。心底羨ましい。
直人は、ニルデルから更に小言をもらうと、凹んだまま、帰っていくニルデルを見送り、1人になった部屋で、気分転換に筋トレを始めた。筋トレをやめて痩せればいいのだろうが、直人は自分の筋肉が大好きなので、どうしても筋トレをやめられない。確かにモテたいのだが、そもそも顔立ちがこっちの国の人には受けないみたいだし、なんかもういい加減諦めて、1人寂しい余生を過ごすしかないような気がしてきた。
直人は汗だくになるまで筋トレに励むと、のんびり風呂に入ってから、1人寂しく食事をとり、早々と寝室に向かって、1人ではデカすぎるベッドに上がって布団に潜り込んだ。
一度でいいから、誰かと一緒に寝てみたい。セックスをせずに、本当にただ寄り添って眠るだけでいい。直人は胸の中に広がる寂しさに、すんと鼻を小さく鳴らして、ぎゅっと目を閉じた。
ーーーーーー
早朝。直人が日課の筋トレをしていると、護衛騎士隊長がやって来た。護衛騎士隊長は、濃い赤毛のむさ苦しい髭を生やしたおっさんである。筋骨隆々で、直人的には憧れる素晴らしい筋肉の持ち主だ。憧れてはいるが、恋愛対象という意味ではなく、純粋に男として憧れている。それほど素晴らしい筋肉の持ち主である。是非とも一度筋肉の魅力について語り合いたいくらいだが、その機会は今のところない。
今日も髭がむさ苦しい護衛騎士隊長が、筋トレを中断した直人に声をかけてきた。
「おはようございます。ナオト様」
「おはようございます。護衛騎士隊長は今日も素晴らしい筋肉してますね。筋肉増強のコツを教えてもらいたいくらいです」
「……ありがとうございます。実は、お話がございます」
「はぁ……あ、お茶でも飲みながら話しますか? アイナちゃーん! お茶を2人分おねがーい!」
「かしこまりましたっ! ナオト様!」
側使えのアイナがすぐにワゴンを運んできた。テーブルの椅子に護衛騎士隊長と向かい合って座ると、アイナがさっと香りがいいお茶と冷たい濡れタオルを差し出してくれた。アイナに笑ってお礼を言うと、アイナが嬉しそうに微笑んで、静かに退室していった。
直人は、ローズマリーに似た香りのするお茶を飲みながら、厳めしい顔をしている護衛騎士隊長に話しかけた。
「あ、お茶どうぞ。アイナちゃんは側使えの女の子達の中では、一番お茶を淹れるのが上手なんだ。美味しいよ」
「ありがたく頂戴いたします。……確かに美味しいですな」
「でしょー。まだ若いのに、すっごい気が利くし、一生懸命働いてくれるいい子なんだよー。で? 話ってなに?」
「……昨日、護衛騎士にまた告白をされましたな」
「フラれたけどね! あ、もしかして、護衛騎士隊長直々の苦情?」
「近いのですが、そうではありません。ナオト様は恋人が欲しいのですよね」
「うん。優しくてー、親切でー、ちょっとお茶目な感じの人が好みだねー。まぁ、フラれてばっかりなんですけどね! 俺の顔ってそんなに不細工?」
「不細工とまではいきませんが、あまり万民受けする顔でもございませんな」
「正直に言ってくれてありがとうね! こんちくしょー!」
「護衛騎士の者達から苦情がきておりまして」
「あ、はい。すいません。だって! 向こうは仕事だって分かってるけど! 格好いい男に優しくされたらクラッときちゃうじゃん!」
「左様で。いい加減、苦情を言ってくる者達を宥めるのにも疲れたので、解決策を考えてまいりました」
「解決策」
「ナオト様と私が恋人になればよろしいかと」
「マジか。正気か? 護衛騎士隊長。疲れ過ぎてない? 多分、俺のせいだけど」
「至って正気です。……私も男しか愛せないのですが、ご覧の通り、顔立ちも身体も厳つく、モテた試しがございません。ナオト様さえよろしければ、恋人になっていただけないかと。ちなみに、私は浮気を許さない主義ですので悪しからず」
「えーー。マジかぁ。どうしよ……いや、恋人は切実に欲しいんだけど、護衛騎士隊長と私的なこととか話したことないじゃん。素晴らしい筋肉の持ち主で、男として憧れてはいるけど、恋人……恋人かぁ……」
「とりあえず、一か月程お試しでお付き合いをいたしませんか? その間、他の者に告白するのはなしでお願いいたします」
「あ、はい。えーー。んーー。……ま、いっか。よぉし! 護衛騎士隊長! とりあえず一か月間恋人としてよろしく!!」
「はい。よろしくお願いいたします。私的な時間では、私のことはバルディーとお呼びください」
「今って私的な時間?」
「今日は休暇ですので、私的な時間ですな」
「じゃあ、よろしく。バルディー。俺のことは呼び捨てにしてよ。私的な時間だけ。公私はちゃんと区別しなきゃだもんな」
「はい。では、ナオト。恋人として、したいことはございますか? いきなりセックスでも構いませんが」
「俺が構うよ!? いきなりセックスなんて無理無理! まずは、お喋りしてお互いのことを知り合って、手を繋ぐところからでしょー!?」
「……意外と純粋で正直驚いております」
「『意外と』ってなにー!? セックスは少なくとも三か月はしたくないです!」
「はぁ……では、何をなさりたいので?」
「んー。とりあえず、こうやってお茶飲みながらお喋りしたり、手を繋いで買い物とか行ったり……あっ! バルディーが恋人なら、一緒に筋トレしたい!!」
「健全過ぎてビックリです」
「なんでだー!? 俺ってそんなにエロいことしたそうに見えるの!?」
「護衛騎士の間では、『スケベ神子様』と呼ばれておりますよ」
「ひでぇ!? なんで!?」
「鍛錬中の騎士達を眺めに来られるでしょう? その時の視線がいやらしいと」
「ふぐぅ……だって、魅力的過ぎる男達で溢れかえってるからっ!」
「私と恋人の間は、騎士達の鍛錬の見学はおやめくださいね。やきもちをやきますよ」
「マジか。じゃあ、バルディーが休みの日に筋トレに付き合ってよ。そしたら、見に行かない。ぶっちゃけ見学には行きたいけどもっ!」
「よろしいですよ。そういえば、筋力を鍛える鍛錬の途中でしたな。早速、ご一緒いたしますか?」
「いいの!? やっほい! 筋トレ仲間ができたー! ……あ、俺達、恋人になるわけじゃん。俺より仕事の方を優先してよ」
「よろしいので?」
「当り前じゃん。管理職なんだから、当然責任を伴ってるだろー。俺は管理職になったことはないけどさ、管理職がどれだけ大変なのかは上司を見てたから知ってるし。俺との時間もできたらつくって欲しいけど、ちゃんと身体と心を休める時間もつくってくれよ。人間、健康な心身が一番大事! 1人でゆっくりする時間も必要だろ」
「……あまりにも常識的過ぎる上に、私をお気遣いくださる発言にビックリしております」
「待って? 俺ってどんなイメージ持たれてんの?」
「それは言わぬが花ということで。では、鍛錬を始めましょう。この部屋では少し狭いので、庭に出ましょうか」
「ちょー気になるんですけど。……まぁいいや。昼飯の時間まで筋トレ祭りじゃー!」
直人はバルディーと一緒に庭に出て、早速、騎士団方式の筋トレを始めた。普段やっている筋トレよりも割ときついが楽しい。筋肉を虐めてやり、しっかり栄養を与えてあげれば、それだけ筋肉が育ってくれる。この国にプロテインなんてないので、直人の食事は直人が監修したマッスル仕様にしてある。筋トレの合間の水分補給の時に、側使えの女の子にバルディーの分の食事も同じものを頼み、直人は昼食の時間まで、バルディーと一緒に黙々と筋トレに励んだ。
バルディーと恋人になって8日目。今日はバルディーが休みの日なので、買い物デートに行くことになった。恋人と買い物デートだなんて、浮かれるなと言う方が無理である。直人はいつもより早起きをして、側使えの女の子達ときゃっきゃっとはしゃぎながら、着ていく服を選んだ。
迎えに来てくれたバルディーは、地味な恰好で、腰には剣を下げていた。今日も髭がむさ苦しくて、顔が厳つい。濃い眉毛に鋭い目つき、鷲鼻気味で、瞳の色が涼やかな空色だからか、側使えの女の子の中には、『護衛騎士隊長は顔が怖い』と言う子もいる。確かに、女子供には怖がられそうな顔立ちではある。むさ苦しい髭を剃ったら、少しはマシになりそうな気がするが、きっと髭はバルディーなりのこだわりがあるのだろう。
直人は、バルディーの髭には突っ込まないことにして、バルディーと一緒に部屋を出た。
住んでいる神殿から出ると、直人はドキドキしながら、バルディーに話しかけた。
「手っ! 手を繋いでもいいかっ!?」
「どうぞ」
「あ、はい。あ、手汗が気になったら遠慮なく言ってよ。緊張して手汗ヤバいからさ、今」
「特に気になりませんな」
「そっかー。ありがと」
「何か、買いたいものがあるのですか?」
「買い食いが好きなんだ。中央広場はいつでも屋台がいっぱいあるだろ? よかったら付き合ってよ。それに、側使えの女の子達にお土産買って帰りたい。皆、いつも一生懸命働いてくれてるからさ。女の子が好きそうなお菓子が売ってる店って知らない?」
「……生憎、そういったものとは縁遠いものですから」
「ありゃ。じゃあ、屋台のおっさんにでも聞こうかな。甘いものは苦手な人?」
「あまり得意ではありません」
「そっかー。じゃあ、甘くないものをいっぱい食べよう」
「はい。……ナオトは、私が怖くないのですか?」
「え? 別に? 怖がる要素なくない?」
「……そうですか。いえ、部下にも怖がられることが多いものですから、つい」
「ふぅん。仕事中は厳しいからじゃないの? ていうか、護衛騎士隊長が優し過ぎて甘かったら、まともな仕事にならないでしょ」
「確かにそうですな。……ナオトは仕事に理解があるので助かります」
「俺も神子になる前は普通に働いてたし。今はやることなくなって筋トレ三昧の毎日だけど」
「浄化の旅でも、一切、弱音を吐きませんでしたな。貴方は平和な国で生まれたのでしょう? 怖くはなかったのですか」
「ぶっちゃけ怖かったけどさー。『怖いから嫌だ!』って逃げても、どうしようもねぇじゃん。元の世界には帰れないし。だったら、神子としての役割を果たさなきゃなって。それだけ」
「立派なことです。……普通に話をすると、意外とまともな御仁ですな」
「『意外と』ってなに!? 本当に俺ってどういうイメージ持たれているんだよ……」
「ははっ。さて、中央広場に着きました。何から召し上がりますか」
「バルディーって何が好き?」
「肉と、肉に合う酒ですな」
「じゃあ、肉で! 美味そうなやつを探そう! あ、昼間だから酒はなしで。俺も飲みたくなっちゃうし」
「ナオトも飲んだらよろしいのでは?」
「酒に弱いんだよ。こっちの酒は一番軽いやつでも俺にはきつ過ぎて、飲んだらもれなく吐いて寝る。でも、酒自体は好きだから、吐くのを覚悟でたまに1人で飲んでる。トイレの前で」
「ははっ。では、酒はなしで。コルクエルの串焼きがありますな。まずはあれから食べてみますか?」
「おー。ここまでいい匂いがするー。食べよう!」
「はい」
直人は買った串焼きに齧りつきながら、すぐ隣を歩くガルディーを見上げた。直人は身長が180センチちょっとあるのだが、バルディーは直人よりも頭半分背が高い。繋いでいる手も大きくて、ごつくて硬い。戦う者の手をしているのだろう。
「バルディーって何歳?」
「今年で35になります」
「まさかの年下だと……? てっきり年上かと思ってた」
「若い頃から老け顔だと言われますな」
「あー。あと10年くらいしたら、顔に年齢が追いつくって。ていうか、この肉うまー。酒に合いそう」
「辛口の酒とよく合いますな」
「そんな感じー。くっ……今すぐ酒に強くなりたいっ! これ食いながら飲んだら絶対美味いだろー」
「体質はどうしようもありませんな」
「あっ! バルディー! 次はあのごっつい塊肉のやつ食おうぜ! なんかケバブみたいなやつ」
「けばぶ? あれも美味いです。あれも酒に合うんです」
「さては真性の酒飲みだな」
「ははっ。まぁ、それなりに」
直人は、バルディーと手を繋いだまま、異世界グルメを楽しんだ。神殿では出てこない料理が多くて、バルディーも意外と喋ってくれて、思っていた以上に楽しかった。側使えの女の子達にお土産も買えたし、満足である。
次の休みの日に晴れていたら、また買い食いデートをすることを約束して、バルディーは直人を部屋まで送って帰っていった。
バルディーとまともに話すのは二回目だが、かなり楽しかった。直人は、側使えの女の子達に土産を渡し、今日のデートがいかに楽しかったかをうきうき語ってから、日課である寝る前の筋トレをして、ベッドに上がった。
ものすごく楽しかったせいか、なんだかそわそわして眠れない。直人はベッドから下りて、朝が近い時間になるまで、ひたすら筋トレをしていた。
――――――
バルディーと恋人になって、早三か月ちょっと。お試しで一か月という話だったが、存外気が合うし、お互いにモテないので、正式に恋人になることになった。バルディーが休みの日には、一緒に買い食いデートをしたり、騎士団流筋トレに励んだりと、楽しい日々を送っている。前回の買い物デートの時に、帰り際に触れるだけのキスをされた。直人は嬉し過ぎて、その夜は眠れず、朝までひたすら筋トレをしていた。
今日は、バルディーの仕事が午前中までなので、昼食を一緒に食べた後は、筋トレ祭りをする予定である。今日は夕食も食べて帰るそうだ。直人は、朝からずっとうきうきしていた。
ちょっとでも部屋をいい感じにしたくて、直人は庭師の許可を得てから、庭の花を摘んで、部屋に飾った。バルディーが花が好きかは知らないが、部屋の中が一気に華やかになり、側使えの女の子たちがキレイだと喜んだ。
花の活け方は、亡くなった母に習った。母は花が好きで、自分でも育てていた。母の影響か、直人も小さな頃からキレイな花を見るのが好きだ。神殿の庭には、沢山の花が植えられているから、いつでも季節の花々を眺められる。浄化の旅を頑張ったちょっとしたご褒美かなぁと思っている。
昼時を少し過ぎた時間に、バルディーがやって来た。今日もバルディーの髭はむさ苦しいが、別に気にならない。
「遅くなってすまない」
「そんなに待ってないよー。腹減ってるだろ。飯食おうぜ」
「あぁ」
側使えの女の子達が、すぐに昼食を運んできてくれた。バルディーと他愛のないお喋りをしながら昼食を食べると、食後のお茶を飲みながら、暫しまったりして、バルディーと一緒に庭に出て、夕方まで筋トレに励んだ。
汗だくになったので順番に風呂に入ってから夕食を食べていると、バルディーがいつもの厳めしい顔で口を開いた。
「ナオト。恋人になって三か月が過ぎただろう」
「そうだねー。いやぁ、歳とると月日の経過がどんどん早くなっていくよねぇ」
「そろそろ泊まりたいのだが」
「そっ! それはあのもしかしてあの……セ、セックスのお誘いだったり……なーんて、それはないよなー」
「セックスのお誘いだが」
「マジか」
「マジだ」
「俺は優しく抱いてもらいたい派です」
「奇遇だな。私も抱いてもらいたい派だ」
「……」
「……」
「よぉし! じゃんけんで決めよう!」
「じゃんけん? ……あぁ。孤児院で子供達に教えている遊びの一つか」
「そうそう。拳がぐーで、掌開いたのがぱー、こう二本の指だけのがちょき。ぐーはちょきに強くて、ぱーはぐーに強い、ちょきはぱーに強いっていう感じ」
「なるほど。では、じゃんけんでどちらが先に挿れるか、決めたらいいな」
「え? マジでセックスすんの!? 心の準備期間で一か月くらい待ってくれない?」
「一か月も待てるか。こっちは二か月近く我慢していたんだぞ」
「なんで我慢してたのさ」
「ナオトが言っていただろう。『三か月はセックスしたくない』と。もう三か月経った。そろそろ、触れ合ってもいいんじゃないか」
「しょっ、そうですね! え、ヤバい。緊張してきた。緊張し過ぎて勃起しなかったらどうしよう」
「舐めれば勃起するんじゃないか?」
「舐めるの!?」
「舐めるが」
「ちなみに、俺は童貞処女です。自分では弄りまくっているけど。バルディーは?」
「私も童貞処女だ」
「……初心者2人で、大惨事にならない?」
「知識はある。それに、私も自分で弄っているから開発済みだ」
「あ、そうなんだ。うーー。男は度胸! ということで! 今夜は泊まってどうぞ!」
「ありがとう。緊張をほぐすために酒でも飲むか?」
「飲んだら吐くからいいや。ゲロ吐いた後でキスをしたくない。俺が」
「そうか。では、私も飲まずに挑もう」
「バルディーも緊張してんの?」
「現在進行形で背中と手汗が半端ないな」
「マジか」
突然の展開に急速に緊張し始めていた直人は、緊張しているのが自分だけではないと知って、ちょっとだけ安心した。
夕食後に、窓際のソファーに並んで座って手を繋ぎ、食休みを兼ねて、少しの時間、バルディーとお喋りをした。バルディーの手は手汗でしっとりしていた。直人の手も緊張で手汗が滲んでいるので、お互い様である。
食休みをしたら、また風呂に入った。男同士でセックスしようと思ったら、色々あるのである。風呂で股間や尻を中心に洗いまくった後、直人は浄化球を自分のアナルに入れた。
浄化球は、アナルの中に入れると、中の排泄物をキレイにしてくれる不思議アイテムである。アナニーの時にいつもお世話になっているのだが、まさか40が近くなってセックスをすることになるとは思っていなかった。
直人は、全身と腹の中をキレイにすると、薄いガウンだけ羽織って、風呂から出て寝室に向かった。
寝室の大きなベッドの上でドキドキしながら、風呂に入っているバルディーを待っていると、薄いガウンを着たバルディーが寝室に入ってきた。
「あーー……明かりはどうする?」
「つけたままで。お互いに初めてなのに、完全に暗かったらやりにくいし、うっかり事故が起きると困る」
「それは確かに。じゃっ、じゃあ! とりあえず、じゃんけんだ!」
「あぁ」
「じゃーんけんぽんっ! あっ。負けたー。俺が先に抱くってことで!」
「分かった。二回目は交代だ」
「あれですか。お尻弄らないとイケない人?」
「まぁ」
「俺もです。お仲間―」
「浄化球を入れて、もうある程度解してある。ナオトがよほど大きくない限り、すぐに挿れられるだろう」
「マジっすか。……とりあえず、キスしていい?」
「喜んで」
バルディーが照れくさそうな感じで笑った。笑っても厳つい顔なのだが、なんだか胸がきゅんとときめいた。
直人は、ベッドの上でバルディーと向かい合って胡坐をかき、手を繋いで、触れるだけのキスをした。バルディーが強く直人の唇を何度も何度も吸いながら、直人の身体を押し倒した。
薄いガウンをはだけさせられて、あっという間に全裸にされる。下着はつけなかったので、薄いガウンさえ脱げば、いつでもばっちこい! 状態であった。
直人は、貪るようなキスをしながら覆いかぶさってきたバルディーの太い首に腕を絡めた。なんか、口内を舐め回されて、舌を絡め合うだけで、興奮して勃起してしまった。バルディーが下腹部を擦りつけてきた。バルディーのペニスも、もう勃起しているみたいだ。そのことが嬉しくて、酷く興奮する。
直人は唇を触れ合わせたまま、囁いた。
「寝っ転がって。舐めたい」
「ん。……早く欲しいから、あまり焦らさないでくれると助かる」
「やだ可愛い。もーー! 興奮しちゃうでしょー!!」
「ははっ! 興奮して問題あるか?」
「興奮し過ぎて早打ちしたらどうすんのさ」
「その時は、私がナオトの中に出せばいいだけだな」
「それもそうか。じゃあ、舐めまーす」
「あぁ」
バルディーがすぐ隣にころんと仰向けに寝転がったので、直人はバルディーの筋骨隆々な毛深い身体に覆いかぶさった。胸毛ふさふさの盛り上がった胸筋をふにふに揉みしだきながら、ふさふさ胸毛に埋もれた乳首を探して、ぷっくりと肥大している乳首に吸いつく。ぴこぴこと舌で弾くように舐めまくり、ちゅっちゅくちゅくちゅくと緩急をつけて吸うと、バルディーが低く唸るような喘ぎ声を上げた。乳首も自分で開発済みのようである。それは直人もだが。
両方の乳首を交互に弄っていると、バルディーが低く唸った。
「ナオト。もういい。早く挿れてくれ。欲しくて堪らない」
「はいよー。早くても笑わないでね」
「笑うものか。私の中で気持ちよくなってくれた証拠だろう」
「ははっ。確かにー」
バルディーが起き上がり、四つん這いになって上体を伏せ、むっきりむっちりしたデカい尻の尻肉を両手で掴み、ぐにぃと広げた。アナルの周りに、もさっと毛が生えている。今は、潤滑油で濡れて、毛が肌に貼りついている。赤黒いひくつく縦割れアナルが予想以上にいやらしくて、うっかり精液が漏れるかと思った。
直人は、若い頃よりゆるい角度で勃起している日本人としては平均的な大きさのペニスに潤滑油を垂らして、軽く手で馴染ませると、大きくひくひくしているいやらしいバルディーのアナルに、ペニスの先っぽを押しつけた。
ゆっくりと腰を押し込んでいけば、きつい括約筋でペニスの皮が完全に剥かれ、剝き出しになった敏感な亀頭が熱くて柔らかいぬるついたものに包まれていく。半端なく気持ちがいい。ちょっと精液が漏れてしまった。直人はうっかり射精しないように下腹部に力を入れ、根元近くまでペニスを押し込んだ。バルディーの中は気持ちよくて堪らない。汗ばんでいる背筋が見事なバルディーの背中が、なんとも色っぽい。
バルディーが両手を離して、伏せていた上体を起こした。直人はバルディーのむっきりむっちりした尻を揉み、しっかりとした太い腰を掴んで、腹側にある前立腺を擦るようなイメージを思い浮かべながら、めちゃくちゃに腰を振り始めた。下腹部を強く尻に打ちつける度に、ぶるんぶるん尻肉が揺れるのが最高にいやらしい。
「あっ!? おっ! おぅっ! あたっ、あたってるっ! いいっ! いいっ! もっとだ! あぁぁぁぁっ!」
「はっ、はっ、やばっ……気持ちいいぃぃぃぃ!」
「いっ、いぐっ! いぐぅぅぅぅっ!! あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はぅあっ!? そ、そんなに締めないでっ! あうあう……出ちゃうっ! あぁっ!!」
自分でもビックリするほど早かった。バルディーがまさかこんなに早くイクとは予想外である。もしかして、直人は天然テクニシャンなのだろうか。
はぁー、はぁー、と荒い息を吐きながら、直人は、逃がさないとばかりに締めつけてくるバルディーのアナルからペニスを引き抜いた。なんとなくバルディーの尻肉を掴んでアナル周りを広げれば、ひくひくしている赤黒いアナルから、こぽっと白い精液が漏れてきて、アナル周りの毛に絡んだ。ビックリするほど、いやらしい。興奮して、アナルがひくひくしてしまう。
直人は、ごくっと唾を飲んで、バルディーに声をかけた。
「バルディー。交代」
「あぁ。……ナオトのナニは私にはちょうどいい大きさだ。硬くて、気持ちいいところにちょうど当たる。まさか、こんなに早くイクとは思っていなかった」
「あはは。よかったー」
「……私のナニは小さめなのだが、大丈夫だろうか」
「体格差考えたら、デカすぎるよりいいでしょ。もう我慢できないから、早くちょうだい。色々舐めたり弄ったりするのは後でね」
「あぁ。キスをしながら挿れたい」
「喜んで!」
直人は、いそいそとバルディーの隣に仰向けに寝転がり、自分の膝裏を持って、両足を大きく広げた。浄化球を入れた時に、実は直人もアナルをある程度解し、中に潤滑油を仕込んである。いつでもどこでもばっちこーい! 状態だったわけだ。
バルディーが直人に覆いかぶさり、荒々しいキスをしながら、直人の身体を抱きしめた。逞しい熱い身体に胸がきゅんきゅんして、ついでにアナルも欲しくてきゅんきゅんする。
ひくつくのが分かるアナルに、熱くて硬いものが触れた。メリメリと直人のアナルを抉じ開けるようにして、腹の中にバルディーのペニスが入ってくる。
直人は唇を触れ合わせたまま叫んだ。
「どこが小さめだー! デカいわー!! あふんっ! あっ! あっ! ヤバいっ! 奥まで入っちゃうぅぅぅぅ!!」
「ナオトの中は狭いな。はぁ……気持ちがいい」
「動いてっ、動いてっ、あぁっ!? あっあっあっあっ! 激しっ、あーーっ! やばいぃぃぃぃ!! いいっ! いいっ! すげぇ! あぁぁぁぁ! 堪んねぇっ!!」
「ナオト、ナオト……奥が好きか? そらっ。そらっ」
「あぁんっ! すきっ! すきっ! さいっこう! あ、あ、あーーっ! いいいいっくぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「……っ、締めすぎだっ!」
「あひんっ! あぅ! おぅ! も、むりぃ! あぁぁぁぁぁぁ!!」
腹の奥の方にまで届くバルディーのペニスが、直人の腹の中で激しく暴れ回り、経験したことがない強烈な快感の嵐に叩き落された。直人は過ぎた快感にだらしなく涎を垂らしながら喘ぎ、一際強く腹の奥を突き上げられて、あっけなくイッた。バルディーも低く唸り、奥をぐりぐりしてくる。腹の中で微かにバルディーのペニスがぴくぴく震えている感じがするから、どうやら射精したみたいだ。
お互いに早すぎて、なんだか笑えてくる。直人は、バルディーの頬を両手で包み込むと、ちゅっとバルディーの唇にキスをして笑った。
「お互い、早いなー」
「あぁ。想像以上に気持ちよくて、つい」
「生のちんこ、ヤバいよなー。めちゃくちゃ気持ちいい」
「ナオト。まだできるか?」
「少し休めば多分?」
「では、イチャイチャしながら休憩しよう。その後でまた挿れて欲しい」
「いいよー。バルディーも挿れてね」
「あぁ。……ナオト、その……」
「んー? なに?」
「……好きだ。伴侶として、一生側にいて欲しい」
「バルディー……そっ! あのっ! ふっ、不束者ですがっ! あの、えっと……死ぬまでよろしく……なにこれ、半端なく恥ずかしい。もぉーー! バルディー!」
「なんだ」
「だいしゅきっ!!」
「ははっ! 私もだ」
直人は、バルディーと顔を見合わせて、何故だか笑い転げた。いい歳したおっさんカップルの爆誕である。なんか幸せで、胸の奥がぽかぽかするから問題ない。
直人は、何度もバルディーとキスをして、イチャイチャしまくり、もう二回ぎこちないセックスをして、バルディーと寄り添って眠りに落ちた。
――――――
直人は目覚めると、豪快な鼾をかいて寝ているバルディーにキスをして、バルディーを起こした。ゆっくりと目を開けたバルディーと目を合わせて、笑いながら口を開く。
「誕生日おめでとう。バルディー。護衛騎士隊長も今日までだなー」
「ありがとう。ナオト。あっという間だった気がする」
「長い間、お疲れ様でした」
「あぁ。ありがとう」
バルディーが身体を起こし、起き上がった直人に何度もキスをしてくれた。
今日は、バルディーの50歳の誕生日であり、護衛騎士隊長の職を辞する日だ。今までは仕事優先で、通い婚みたいな感じだったが、仕事を定年退職した後は、直人と一緒にここで暮らす予定になっている。
直人も50を過ぎたが、まだまだ元気だ。毎日、筋トレに励んでいる。バルディーが休みの日には、一緒に筋トレをしている。バルディーと一緒だと、本当に楽しくて、ちっちゃな幸せがいっぱいある。
服を着て、朝食を食べながら、バルディーが口を開いた。
「結婚式をするか」
「モテないおっさん達の結婚式とか面白過ぎるだろ」
「いいんじゃないか? 面白くて」
「ふはっ! バルディーって意外とお茶目さんだよなー。大好き」
「ははっ! 私もだ。今日から第二の人生が始まる。神のみもとにいくまでは、ずっと共にあろう」
「うん。一緒にいっぱい楽しい思い出をつくろうぜ」
「あぁ」
直人はバルディーにキスをしてもらい、胸の中に広がる幸せに微笑んだ。
(おしまい)
「好きです!! 恋人になってください!!」
「あ、無理です」
「なんでぇ!?」
「申し訳ないんですけど、好みじゃないんで……」
目の前のめちゃくちゃ格好いい護衛騎士が申し訳なさそうな顔をしながら去っていった。
直人は、ガクッとその場に崩れ落ちた。またフラれた。これでフラれるのは二十回目である。自分のモテなさ加減に一周回って笑いだしたくなる。
直人はしょんぼりと肩を落として、自室である神子の間に戻った。
ここは地球の日本ではない。リーガデリアという異世界だ。直人は、この世界に神子として召喚された。この世界では、百年に一度、瘴気というものが発生する。瘴気に触れると、人も獣も狂って狂暴化してしまう。そのため、瘴気を浄化するために神子が召喚される。神子は瘴気を浄化することができる。28歳の時に召喚されちゃって10年。瘴気浄化の旅は昨年無事に終わり、世の中はすっかり平和になった。
直人は全力隠れゲイであった。誰にもゲイであることを告白することができず、二丁目などのゲイの聖地にも行ったことがない。マッチングアプリを覗いてみたことはあるのだが、怖くて結局利用したことはない。ただ、ゲイ向けアダルトビデオを観ながら、ぬこぬこアナニーに耽っていた。趣味は筋トレなので、身体にはそこそこ自信がある。が、その身体と元からの顔立ちが、この世界でのモテない要因の一つになっている。
直人を召喚した神聖王国では、男女問わず、ほっそりとした身体つきの柔和な顔立ちの者が基本的にモテる。直人は、一時期本気でボディビルダーを目指していたくらい筋肉むきむきで、顔立ちは平凡な醤油顔だが、三白眼なので目つきは悪い。
召喚された時の、神官達や立ち会っていた王族達のガッカリしたような溜め息は、未だに覚えている。夢見がちにも程があるが、向こうとしては、庇護欲をそそるような美少年、もしくは美青年が召喚されると思っていたらしい。
直人を召喚し、瘴気浄化の旅が終わってから暮らしている神聖王国は、同性愛にも寛容な国だ。ここでなら、憧れの恋人ができるかもしれない。ていうか、異世界召喚だと、ハーレムうはうは生活がセオリーだろう。そう期待していたのに、直人はまるでモテない生活を送っていた。
しょんぼりして神子の間に戻ると、瘴気浄化の旅で一緒だった護衛兼教育係の魔法使いニルデルがいた。ニルデルがくいっと眼鏡を上げながら、呆れた顔をして直人を見てきた。
「また意中のお相手ができたのですか」
「フラれましたけどね!! この花、勿体無いから飾ろう」
「ナオト様。そろそろ護衛騎士達に告白祭りをするのはおやめください。苦情がきています」
「マジか」
「えぇ。『ちょっと仕事で親切にするだけで惚れられるから護衛の任につきたくない』と言う騎士が多いらしいです。護衛騎士隊長が頭を抱えてらっしゃいましたよ。気の毒に」
「だって!! 俺だって恋人が欲しい!! 浄化の旅を10年近く頑張ったじゃん! ご褒美があってもいいじゃん!!」
「うちの国は恋愛至上主義なので、一応誰とでも恋愛関係になれますが、ナオト様はぶっちゃけモテる感じではありませんので、まぁ諦めてください。歳も歳ですし」
「やだーー!! 諦めたくねぇよ! 恋人欲しい! イチャイチャしてみたい!!」
「誰かと恋人になって、何がしたいんですか?」
「え、そりゃあ……星を見ながら語り合ってキスしたりとかー、手を繋いで買い物に行ったりとかー、なんかそういうの」
「思いの外、純粋だったことにビックリです」
「俺をなんだと思ってんだ。こっちは色々拗らせてんだよ! 流石に俺だってこの歳でセックスできるなんて思ってねぇよ! 興味はありますけどね! 若さが欲しい……もうちょっと若ければ、セックスだってしてくれる相手が見つかったかもしれないのに……」
「10年前もまるで全然モテていなかったじゃないですか」
「そうですね! ちくしょー。日本じゃなかったら恋人ができるかも! って思ってたのに……この国、同性愛者にも優しいし……何故! こんなにも! モテないんだぁぁ!!」
「がつがつしてる上に、目移りが早いからじゃないですか? あと、残念ながら見た目がちょっと……?」
「うぅ……ニルデルさん。俺がモテる方法を考えてくれ」
「無理です」
「即答はやめてっ! 流石に泣いちゃう!!」
「まぁ、何はともあれ、護衛騎士に片っ端から告白するのはやめてくださいね。迷惑をかけちゃダメですよ」
「……はい」
直人はしょんぼりと肩を落とし、部屋に常備するようになったデカい花瓶に花束を活けた。フラれる度に勿体無いから自室に花を活けるようになったので、側使えの女の子達はキレイだと喜んでいる。
直人は、この世界に召喚された時に、男しか愛せないことをカミングアウトしているので、側使えは女の子ばっかりだ。『異世界召喚されちゃった!』という謎のハイテンションでゲイであることをカミングアウトした昔の自分を殴りたい。そのせいで、護衛騎士以外の男が身近にいない。
ニルデルは、ほっそりとした体格の柔和な顔立ちの知的美人で、既婚者である。ものすごく格好いい騎士の旦那がいる。瘴気浄化の旅から帰還した直後に結婚した。心底羨ましい。
直人は、ニルデルから更に小言をもらうと、凹んだまま、帰っていくニルデルを見送り、1人になった部屋で、気分転換に筋トレを始めた。筋トレをやめて痩せればいいのだろうが、直人は自分の筋肉が大好きなので、どうしても筋トレをやめられない。確かにモテたいのだが、そもそも顔立ちがこっちの国の人には受けないみたいだし、なんかもういい加減諦めて、1人寂しい余生を過ごすしかないような気がしてきた。
直人は汗だくになるまで筋トレに励むと、のんびり風呂に入ってから、1人寂しく食事をとり、早々と寝室に向かって、1人ではデカすぎるベッドに上がって布団に潜り込んだ。
一度でいいから、誰かと一緒に寝てみたい。セックスをせずに、本当にただ寄り添って眠るだけでいい。直人は胸の中に広がる寂しさに、すんと鼻を小さく鳴らして、ぎゅっと目を閉じた。
ーーーーーー
早朝。直人が日課の筋トレをしていると、護衛騎士隊長がやって来た。護衛騎士隊長は、濃い赤毛のむさ苦しい髭を生やしたおっさんである。筋骨隆々で、直人的には憧れる素晴らしい筋肉の持ち主だ。憧れてはいるが、恋愛対象という意味ではなく、純粋に男として憧れている。それほど素晴らしい筋肉の持ち主である。是非とも一度筋肉の魅力について語り合いたいくらいだが、その機会は今のところない。
今日も髭がむさ苦しい護衛騎士隊長が、筋トレを中断した直人に声をかけてきた。
「おはようございます。ナオト様」
「おはようございます。護衛騎士隊長は今日も素晴らしい筋肉してますね。筋肉増強のコツを教えてもらいたいくらいです」
「……ありがとうございます。実は、お話がございます」
「はぁ……あ、お茶でも飲みながら話しますか? アイナちゃーん! お茶を2人分おねがーい!」
「かしこまりましたっ! ナオト様!」
側使えのアイナがすぐにワゴンを運んできた。テーブルの椅子に護衛騎士隊長と向かい合って座ると、アイナがさっと香りがいいお茶と冷たい濡れタオルを差し出してくれた。アイナに笑ってお礼を言うと、アイナが嬉しそうに微笑んで、静かに退室していった。
直人は、ローズマリーに似た香りのするお茶を飲みながら、厳めしい顔をしている護衛騎士隊長に話しかけた。
「あ、お茶どうぞ。アイナちゃんは側使えの女の子達の中では、一番お茶を淹れるのが上手なんだ。美味しいよ」
「ありがたく頂戴いたします。……確かに美味しいですな」
「でしょー。まだ若いのに、すっごい気が利くし、一生懸命働いてくれるいい子なんだよー。で? 話ってなに?」
「……昨日、護衛騎士にまた告白をされましたな」
「フラれたけどね! あ、もしかして、護衛騎士隊長直々の苦情?」
「近いのですが、そうではありません。ナオト様は恋人が欲しいのですよね」
「うん。優しくてー、親切でー、ちょっとお茶目な感じの人が好みだねー。まぁ、フラれてばっかりなんですけどね! 俺の顔ってそんなに不細工?」
「不細工とまではいきませんが、あまり万民受けする顔でもございませんな」
「正直に言ってくれてありがとうね! こんちくしょー!」
「護衛騎士の者達から苦情がきておりまして」
「あ、はい。すいません。だって! 向こうは仕事だって分かってるけど! 格好いい男に優しくされたらクラッときちゃうじゃん!」
「左様で。いい加減、苦情を言ってくる者達を宥めるのにも疲れたので、解決策を考えてまいりました」
「解決策」
「ナオト様と私が恋人になればよろしいかと」
「マジか。正気か? 護衛騎士隊長。疲れ過ぎてない? 多分、俺のせいだけど」
「至って正気です。……私も男しか愛せないのですが、ご覧の通り、顔立ちも身体も厳つく、モテた試しがございません。ナオト様さえよろしければ、恋人になっていただけないかと。ちなみに、私は浮気を許さない主義ですので悪しからず」
「えーー。マジかぁ。どうしよ……いや、恋人は切実に欲しいんだけど、護衛騎士隊長と私的なこととか話したことないじゃん。素晴らしい筋肉の持ち主で、男として憧れてはいるけど、恋人……恋人かぁ……」
「とりあえず、一か月程お試しでお付き合いをいたしませんか? その間、他の者に告白するのはなしでお願いいたします」
「あ、はい。えーー。んーー。……ま、いっか。よぉし! 護衛騎士隊長! とりあえず一か月間恋人としてよろしく!!」
「はい。よろしくお願いいたします。私的な時間では、私のことはバルディーとお呼びください」
「今って私的な時間?」
「今日は休暇ですので、私的な時間ですな」
「じゃあ、よろしく。バルディー。俺のことは呼び捨てにしてよ。私的な時間だけ。公私はちゃんと区別しなきゃだもんな」
「はい。では、ナオト。恋人として、したいことはございますか? いきなりセックスでも構いませんが」
「俺が構うよ!? いきなりセックスなんて無理無理! まずは、お喋りしてお互いのことを知り合って、手を繋ぐところからでしょー!?」
「……意外と純粋で正直驚いております」
「『意外と』ってなにー!? セックスは少なくとも三か月はしたくないです!」
「はぁ……では、何をなさりたいので?」
「んー。とりあえず、こうやってお茶飲みながらお喋りしたり、手を繋いで買い物とか行ったり……あっ! バルディーが恋人なら、一緒に筋トレしたい!!」
「健全過ぎてビックリです」
「なんでだー!? 俺ってそんなにエロいことしたそうに見えるの!?」
「護衛騎士の間では、『スケベ神子様』と呼ばれておりますよ」
「ひでぇ!? なんで!?」
「鍛錬中の騎士達を眺めに来られるでしょう? その時の視線がいやらしいと」
「ふぐぅ……だって、魅力的過ぎる男達で溢れかえってるからっ!」
「私と恋人の間は、騎士達の鍛錬の見学はおやめくださいね。やきもちをやきますよ」
「マジか。じゃあ、バルディーが休みの日に筋トレに付き合ってよ。そしたら、見に行かない。ぶっちゃけ見学には行きたいけどもっ!」
「よろしいですよ。そういえば、筋力を鍛える鍛錬の途中でしたな。早速、ご一緒いたしますか?」
「いいの!? やっほい! 筋トレ仲間ができたー! ……あ、俺達、恋人になるわけじゃん。俺より仕事の方を優先してよ」
「よろしいので?」
「当り前じゃん。管理職なんだから、当然責任を伴ってるだろー。俺は管理職になったことはないけどさ、管理職がどれだけ大変なのかは上司を見てたから知ってるし。俺との時間もできたらつくって欲しいけど、ちゃんと身体と心を休める時間もつくってくれよ。人間、健康な心身が一番大事! 1人でゆっくりする時間も必要だろ」
「……あまりにも常識的過ぎる上に、私をお気遣いくださる発言にビックリしております」
「待って? 俺ってどんなイメージ持たれてんの?」
「それは言わぬが花ということで。では、鍛錬を始めましょう。この部屋では少し狭いので、庭に出ましょうか」
「ちょー気になるんですけど。……まぁいいや。昼飯の時間まで筋トレ祭りじゃー!」
直人はバルディーと一緒に庭に出て、早速、騎士団方式の筋トレを始めた。普段やっている筋トレよりも割ときついが楽しい。筋肉を虐めてやり、しっかり栄養を与えてあげれば、それだけ筋肉が育ってくれる。この国にプロテインなんてないので、直人の食事は直人が監修したマッスル仕様にしてある。筋トレの合間の水分補給の時に、側使えの女の子にバルディーの分の食事も同じものを頼み、直人は昼食の時間まで、バルディーと一緒に黙々と筋トレに励んだ。
バルディーと恋人になって8日目。今日はバルディーが休みの日なので、買い物デートに行くことになった。恋人と買い物デートだなんて、浮かれるなと言う方が無理である。直人はいつもより早起きをして、側使えの女の子達ときゃっきゃっとはしゃぎながら、着ていく服を選んだ。
迎えに来てくれたバルディーは、地味な恰好で、腰には剣を下げていた。今日も髭がむさ苦しくて、顔が厳つい。濃い眉毛に鋭い目つき、鷲鼻気味で、瞳の色が涼やかな空色だからか、側使えの女の子の中には、『護衛騎士隊長は顔が怖い』と言う子もいる。確かに、女子供には怖がられそうな顔立ちではある。むさ苦しい髭を剃ったら、少しはマシになりそうな気がするが、きっと髭はバルディーなりのこだわりがあるのだろう。
直人は、バルディーの髭には突っ込まないことにして、バルディーと一緒に部屋を出た。
住んでいる神殿から出ると、直人はドキドキしながら、バルディーに話しかけた。
「手っ! 手を繋いでもいいかっ!?」
「どうぞ」
「あ、はい。あ、手汗が気になったら遠慮なく言ってよ。緊張して手汗ヤバいからさ、今」
「特に気になりませんな」
「そっかー。ありがと」
「何か、買いたいものがあるのですか?」
「買い食いが好きなんだ。中央広場はいつでも屋台がいっぱいあるだろ? よかったら付き合ってよ。それに、側使えの女の子達にお土産買って帰りたい。皆、いつも一生懸命働いてくれてるからさ。女の子が好きそうなお菓子が売ってる店って知らない?」
「……生憎、そういったものとは縁遠いものですから」
「ありゃ。じゃあ、屋台のおっさんにでも聞こうかな。甘いものは苦手な人?」
「あまり得意ではありません」
「そっかー。じゃあ、甘くないものをいっぱい食べよう」
「はい。……ナオトは、私が怖くないのですか?」
「え? 別に? 怖がる要素なくない?」
「……そうですか。いえ、部下にも怖がられることが多いものですから、つい」
「ふぅん。仕事中は厳しいからじゃないの? ていうか、護衛騎士隊長が優し過ぎて甘かったら、まともな仕事にならないでしょ」
「確かにそうですな。……ナオトは仕事に理解があるので助かります」
「俺も神子になる前は普通に働いてたし。今はやることなくなって筋トレ三昧の毎日だけど」
「浄化の旅でも、一切、弱音を吐きませんでしたな。貴方は平和な国で生まれたのでしょう? 怖くはなかったのですか」
「ぶっちゃけ怖かったけどさー。『怖いから嫌だ!』って逃げても、どうしようもねぇじゃん。元の世界には帰れないし。だったら、神子としての役割を果たさなきゃなって。それだけ」
「立派なことです。……普通に話をすると、意外とまともな御仁ですな」
「『意外と』ってなに!? 本当に俺ってどういうイメージ持たれているんだよ……」
「ははっ。さて、中央広場に着きました。何から召し上がりますか」
「バルディーって何が好き?」
「肉と、肉に合う酒ですな」
「じゃあ、肉で! 美味そうなやつを探そう! あ、昼間だから酒はなしで。俺も飲みたくなっちゃうし」
「ナオトも飲んだらよろしいのでは?」
「酒に弱いんだよ。こっちの酒は一番軽いやつでも俺にはきつ過ぎて、飲んだらもれなく吐いて寝る。でも、酒自体は好きだから、吐くのを覚悟でたまに1人で飲んでる。トイレの前で」
「ははっ。では、酒はなしで。コルクエルの串焼きがありますな。まずはあれから食べてみますか?」
「おー。ここまでいい匂いがするー。食べよう!」
「はい」
直人は買った串焼きに齧りつきながら、すぐ隣を歩くガルディーを見上げた。直人は身長が180センチちょっとあるのだが、バルディーは直人よりも頭半分背が高い。繋いでいる手も大きくて、ごつくて硬い。戦う者の手をしているのだろう。
「バルディーって何歳?」
「今年で35になります」
「まさかの年下だと……? てっきり年上かと思ってた」
「若い頃から老け顔だと言われますな」
「あー。あと10年くらいしたら、顔に年齢が追いつくって。ていうか、この肉うまー。酒に合いそう」
「辛口の酒とよく合いますな」
「そんな感じー。くっ……今すぐ酒に強くなりたいっ! これ食いながら飲んだら絶対美味いだろー」
「体質はどうしようもありませんな」
「あっ! バルディー! 次はあのごっつい塊肉のやつ食おうぜ! なんかケバブみたいなやつ」
「けばぶ? あれも美味いです。あれも酒に合うんです」
「さては真性の酒飲みだな」
「ははっ。まぁ、それなりに」
直人は、バルディーと手を繋いだまま、異世界グルメを楽しんだ。神殿では出てこない料理が多くて、バルディーも意外と喋ってくれて、思っていた以上に楽しかった。側使えの女の子達にお土産も買えたし、満足である。
次の休みの日に晴れていたら、また買い食いデートをすることを約束して、バルディーは直人を部屋まで送って帰っていった。
バルディーとまともに話すのは二回目だが、かなり楽しかった。直人は、側使えの女の子達に土産を渡し、今日のデートがいかに楽しかったかをうきうき語ってから、日課である寝る前の筋トレをして、ベッドに上がった。
ものすごく楽しかったせいか、なんだかそわそわして眠れない。直人はベッドから下りて、朝が近い時間になるまで、ひたすら筋トレをしていた。
――――――
バルディーと恋人になって、早三か月ちょっと。お試しで一か月という話だったが、存外気が合うし、お互いにモテないので、正式に恋人になることになった。バルディーが休みの日には、一緒に買い食いデートをしたり、騎士団流筋トレに励んだりと、楽しい日々を送っている。前回の買い物デートの時に、帰り際に触れるだけのキスをされた。直人は嬉し過ぎて、その夜は眠れず、朝までひたすら筋トレをしていた。
今日は、バルディーの仕事が午前中までなので、昼食を一緒に食べた後は、筋トレ祭りをする予定である。今日は夕食も食べて帰るそうだ。直人は、朝からずっとうきうきしていた。
ちょっとでも部屋をいい感じにしたくて、直人は庭師の許可を得てから、庭の花を摘んで、部屋に飾った。バルディーが花が好きかは知らないが、部屋の中が一気に華やかになり、側使えの女の子たちがキレイだと喜んだ。
花の活け方は、亡くなった母に習った。母は花が好きで、自分でも育てていた。母の影響か、直人も小さな頃からキレイな花を見るのが好きだ。神殿の庭には、沢山の花が植えられているから、いつでも季節の花々を眺められる。浄化の旅を頑張ったちょっとしたご褒美かなぁと思っている。
昼時を少し過ぎた時間に、バルディーがやって来た。今日もバルディーの髭はむさ苦しいが、別に気にならない。
「遅くなってすまない」
「そんなに待ってないよー。腹減ってるだろ。飯食おうぜ」
「あぁ」
側使えの女の子達が、すぐに昼食を運んできてくれた。バルディーと他愛のないお喋りをしながら昼食を食べると、食後のお茶を飲みながら、暫しまったりして、バルディーと一緒に庭に出て、夕方まで筋トレに励んだ。
汗だくになったので順番に風呂に入ってから夕食を食べていると、バルディーがいつもの厳めしい顔で口を開いた。
「ナオト。恋人になって三か月が過ぎただろう」
「そうだねー。いやぁ、歳とると月日の経過がどんどん早くなっていくよねぇ」
「そろそろ泊まりたいのだが」
「そっ! それはあのもしかしてあの……セ、セックスのお誘いだったり……なーんて、それはないよなー」
「セックスのお誘いだが」
「マジか」
「マジだ」
「俺は優しく抱いてもらいたい派です」
「奇遇だな。私も抱いてもらいたい派だ」
「……」
「……」
「よぉし! じゃんけんで決めよう!」
「じゃんけん? ……あぁ。孤児院で子供達に教えている遊びの一つか」
「そうそう。拳がぐーで、掌開いたのがぱー、こう二本の指だけのがちょき。ぐーはちょきに強くて、ぱーはぐーに強い、ちょきはぱーに強いっていう感じ」
「なるほど。では、じゃんけんでどちらが先に挿れるか、決めたらいいな」
「え? マジでセックスすんの!? 心の準備期間で一か月くらい待ってくれない?」
「一か月も待てるか。こっちは二か月近く我慢していたんだぞ」
「なんで我慢してたのさ」
「ナオトが言っていただろう。『三か月はセックスしたくない』と。もう三か月経った。そろそろ、触れ合ってもいいんじゃないか」
「しょっ、そうですね! え、ヤバい。緊張してきた。緊張し過ぎて勃起しなかったらどうしよう」
「舐めれば勃起するんじゃないか?」
「舐めるの!?」
「舐めるが」
「ちなみに、俺は童貞処女です。自分では弄りまくっているけど。バルディーは?」
「私も童貞処女だ」
「……初心者2人で、大惨事にならない?」
「知識はある。それに、私も自分で弄っているから開発済みだ」
「あ、そうなんだ。うーー。男は度胸! ということで! 今夜は泊まってどうぞ!」
「ありがとう。緊張をほぐすために酒でも飲むか?」
「飲んだら吐くからいいや。ゲロ吐いた後でキスをしたくない。俺が」
「そうか。では、私も飲まずに挑もう」
「バルディーも緊張してんの?」
「現在進行形で背中と手汗が半端ないな」
「マジか」
突然の展開に急速に緊張し始めていた直人は、緊張しているのが自分だけではないと知って、ちょっとだけ安心した。
夕食後に、窓際のソファーに並んで座って手を繋ぎ、食休みを兼ねて、少しの時間、バルディーとお喋りをした。バルディーの手は手汗でしっとりしていた。直人の手も緊張で手汗が滲んでいるので、お互い様である。
食休みをしたら、また風呂に入った。男同士でセックスしようと思ったら、色々あるのである。風呂で股間や尻を中心に洗いまくった後、直人は浄化球を自分のアナルに入れた。
浄化球は、アナルの中に入れると、中の排泄物をキレイにしてくれる不思議アイテムである。アナニーの時にいつもお世話になっているのだが、まさか40が近くなってセックスをすることになるとは思っていなかった。
直人は、全身と腹の中をキレイにすると、薄いガウンだけ羽織って、風呂から出て寝室に向かった。
寝室の大きなベッドの上でドキドキしながら、風呂に入っているバルディーを待っていると、薄いガウンを着たバルディーが寝室に入ってきた。
「あーー……明かりはどうする?」
「つけたままで。お互いに初めてなのに、完全に暗かったらやりにくいし、うっかり事故が起きると困る」
「それは確かに。じゃっ、じゃあ! とりあえず、じゃんけんだ!」
「あぁ」
「じゃーんけんぽんっ! あっ。負けたー。俺が先に抱くってことで!」
「分かった。二回目は交代だ」
「あれですか。お尻弄らないとイケない人?」
「まぁ」
「俺もです。お仲間―」
「浄化球を入れて、もうある程度解してある。ナオトがよほど大きくない限り、すぐに挿れられるだろう」
「マジっすか。……とりあえず、キスしていい?」
「喜んで」
バルディーが照れくさそうな感じで笑った。笑っても厳つい顔なのだが、なんだか胸がきゅんとときめいた。
直人は、ベッドの上でバルディーと向かい合って胡坐をかき、手を繋いで、触れるだけのキスをした。バルディーが強く直人の唇を何度も何度も吸いながら、直人の身体を押し倒した。
薄いガウンをはだけさせられて、あっという間に全裸にされる。下着はつけなかったので、薄いガウンさえ脱げば、いつでもばっちこい! 状態であった。
直人は、貪るようなキスをしながら覆いかぶさってきたバルディーの太い首に腕を絡めた。なんか、口内を舐め回されて、舌を絡め合うだけで、興奮して勃起してしまった。バルディーが下腹部を擦りつけてきた。バルディーのペニスも、もう勃起しているみたいだ。そのことが嬉しくて、酷く興奮する。
直人は唇を触れ合わせたまま、囁いた。
「寝っ転がって。舐めたい」
「ん。……早く欲しいから、あまり焦らさないでくれると助かる」
「やだ可愛い。もーー! 興奮しちゃうでしょー!!」
「ははっ! 興奮して問題あるか?」
「興奮し過ぎて早打ちしたらどうすんのさ」
「その時は、私がナオトの中に出せばいいだけだな」
「それもそうか。じゃあ、舐めまーす」
「あぁ」
バルディーがすぐ隣にころんと仰向けに寝転がったので、直人はバルディーの筋骨隆々な毛深い身体に覆いかぶさった。胸毛ふさふさの盛り上がった胸筋をふにふに揉みしだきながら、ふさふさ胸毛に埋もれた乳首を探して、ぷっくりと肥大している乳首に吸いつく。ぴこぴこと舌で弾くように舐めまくり、ちゅっちゅくちゅくちゅくと緩急をつけて吸うと、バルディーが低く唸るような喘ぎ声を上げた。乳首も自分で開発済みのようである。それは直人もだが。
両方の乳首を交互に弄っていると、バルディーが低く唸った。
「ナオト。もういい。早く挿れてくれ。欲しくて堪らない」
「はいよー。早くても笑わないでね」
「笑うものか。私の中で気持ちよくなってくれた証拠だろう」
「ははっ。確かにー」
バルディーが起き上がり、四つん這いになって上体を伏せ、むっきりむっちりしたデカい尻の尻肉を両手で掴み、ぐにぃと広げた。アナルの周りに、もさっと毛が生えている。今は、潤滑油で濡れて、毛が肌に貼りついている。赤黒いひくつく縦割れアナルが予想以上にいやらしくて、うっかり精液が漏れるかと思った。
直人は、若い頃よりゆるい角度で勃起している日本人としては平均的な大きさのペニスに潤滑油を垂らして、軽く手で馴染ませると、大きくひくひくしているいやらしいバルディーのアナルに、ペニスの先っぽを押しつけた。
ゆっくりと腰を押し込んでいけば、きつい括約筋でペニスの皮が完全に剥かれ、剝き出しになった敏感な亀頭が熱くて柔らかいぬるついたものに包まれていく。半端なく気持ちがいい。ちょっと精液が漏れてしまった。直人はうっかり射精しないように下腹部に力を入れ、根元近くまでペニスを押し込んだ。バルディーの中は気持ちよくて堪らない。汗ばんでいる背筋が見事なバルディーの背中が、なんとも色っぽい。
バルディーが両手を離して、伏せていた上体を起こした。直人はバルディーのむっきりむっちりした尻を揉み、しっかりとした太い腰を掴んで、腹側にある前立腺を擦るようなイメージを思い浮かべながら、めちゃくちゃに腰を振り始めた。下腹部を強く尻に打ちつける度に、ぶるんぶるん尻肉が揺れるのが最高にいやらしい。
「あっ!? おっ! おぅっ! あたっ、あたってるっ! いいっ! いいっ! もっとだ! あぁぁぁぁっ!」
「はっ、はっ、やばっ……気持ちいいぃぃぃぃ!」
「いっ、いぐっ! いぐぅぅぅぅっ!! あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はぅあっ!? そ、そんなに締めないでっ! あうあう……出ちゃうっ! あぁっ!!」
自分でもビックリするほど早かった。バルディーがまさかこんなに早くイクとは予想外である。もしかして、直人は天然テクニシャンなのだろうか。
はぁー、はぁー、と荒い息を吐きながら、直人は、逃がさないとばかりに締めつけてくるバルディーのアナルからペニスを引き抜いた。なんとなくバルディーの尻肉を掴んでアナル周りを広げれば、ひくひくしている赤黒いアナルから、こぽっと白い精液が漏れてきて、アナル周りの毛に絡んだ。ビックリするほど、いやらしい。興奮して、アナルがひくひくしてしまう。
直人は、ごくっと唾を飲んで、バルディーに声をかけた。
「バルディー。交代」
「あぁ。……ナオトのナニは私にはちょうどいい大きさだ。硬くて、気持ちいいところにちょうど当たる。まさか、こんなに早くイクとは思っていなかった」
「あはは。よかったー」
「……私のナニは小さめなのだが、大丈夫だろうか」
「体格差考えたら、デカすぎるよりいいでしょ。もう我慢できないから、早くちょうだい。色々舐めたり弄ったりするのは後でね」
「あぁ。キスをしながら挿れたい」
「喜んで!」
直人は、いそいそとバルディーの隣に仰向けに寝転がり、自分の膝裏を持って、両足を大きく広げた。浄化球を入れた時に、実は直人もアナルをある程度解し、中に潤滑油を仕込んである。いつでもどこでもばっちこーい! 状態だったわけだ。
バルディーが直人に覆いかぶさり、荒々しいキスをしながら、直人の身体を抱きしめた。逞しい熱い身体に胸がきゅんきゅんして、ついでにアナルも欲しくてきゅんきゅんする。
ひくつくのが分かるアナルに、熱くて硬いものが触れた。メリメリと直人のアナルを抉じ開けるようにして、腹の中にバルディーのペニスが入ってくる。
直人は唇を触れ合わせたまま叫んだ。
「どこが小さめだー! デカいわー!! あふんっ! あっ! あっ! ヤバいっ! 奥まで入っちゃうぅぅぅぅ!!」
「ナオトの中は狭いな。はぁ……気持ちがいい」
「動いてっ、動いてっ、あぁっ!? あっあっあっあっ! 激しっ、あーーっ! やばいぃぃぃぃ!! いいっ! いいっ! すげぇ! あぁぁぁぁ! 堪んねぇっ!!」
「ナオト、ナオト……奥が好きか? そらっ。そらっ」
「あぁんっ! すきっ! すきっ! さいっこう! あ、あ、あーーっ! いいいいっくぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「……っ、締めすぎだっ!」
「あひんっ! あぅ! おぅ! も、むりぃ! あぁぁぁぁぁぁ!!」
腹の奥の方にまで届くバルディーのペニスが、直人の腹の中で激しく暴れ回り、経験したことがない強烈な快感の嵐に叩き落された。直人は過ぎた快感にだらしなく涎を垂らしながら喘ぎ、一際強く腹の奥を突き上げられて、あっけなくイッた。バルディーも低く唸り、奥をぐりぐりしてくる。腹の中で微かにバルディーのペニスがぴくぴく震えている感じがするから、どうやら射精したみたいだ。
お互いに早すぎて、なんだか笑えてくる。直人は、バルディーの頬を両手で包み込むと、ちゅっとバルディーの唇にキスをして笑った。
「お互い、早いなー」
「あぁ。想像以上に気持ちよくて、つい」
「生のちんこ、ヤバいよなー。めちゃくちゃ気持ちいい」
「ナオト。まだできるか?」
「少し休めば多分?」
「では、イチャイチャしながら休憩しよう。その後でまた挿れて欲しい」
「いいよー。バルディーも挿れてね」
「あぁ。……ナオト、その……」
「んー? なに?」
「……好きだ。伴侶として、一生側にいて欲しい」
「バルディー……そっ! あのっ! ふっ、不束者ですがっ! あの、えっと……死ぬまでよろしく……なにこれ、半端なく恥ずかしい。もぉーー! バルディー!」
「なんだ」
「だいしゅきっ!!」
「ははっ! 私もだ」
直人は、バルディーと顔を見合わせて、何故だか笑い転げた。いい歳したおっさんカップルの爆誕である。なんか幸せで、胸の奥がぽかぽかするから問題ない。
直人は、何度もバルディーとキスをして、イチャイチャしまくり、もう二回ぎこちないセックスをして、バルディーと寄り添って眠りに落ちた。
――――――
直人は目覚めると、豪快な鼾をかいて寝ているバルディーにキスをして、バルディーを起こした。ゆっくりと目を開けたバルディーと目を合わせて、笑いながら口を開く。
「誕生日おめでとう。バルディー。護衛騎士隊長も今日までだなー」
「ありがとう。ナオト。あっという間だった気がする」
「長い間、お疲れ様でした」
「あぁ。ありがとう」
バルディーが身体を起こし、起き上がった直人に何度もキスをしてくれた。
今日は、バルディーの50歳の誕生日であり、護衛騎士隊長の職を辞する日だ。今までは仕事優先で、通い婚みたいな感じだったが、仕事を定年退職した後は、直人と一緒にここで暮らす予定になっている。
直人も50を過ぎたが、まだまだ元気だ。毎日、筋トレに励んでいる。バルディーが休みの日には、一緒に筋トレをしている。バルディーと一緒だと、本当に楽しくて、ちっちゃな幸せがいっぱいある。
服を着て、朝食を食べながら、バルディーが口を開いた。
「結婚式をするか」
「モテないおっさん達の結婚式とか面白過ぎるだろ」
「いいんじゃないか? 面白くて」
「ふはっ! バルディーって意外とお茶目さんだよなー。大好き」
「ははっ! 私もだ。今日から第二の人生が始まる。神のみもとにいくまでは、ずっと共にあろう」
「うん。一緒にいっぱい楽しい思い出をつくろうぜ」
「あぁ」
直人はバルディーにキスをしてもらい、胸の中に広がる幸せに微笑んだ。
(おしまい)
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