44 / 59
第二部
5
しおりを挟む
一段と寒い日であった。
アーチャは仕事から帰り、暖炉に火をつけた。
部屋が暖まるまでに、凍えぬよう手っ取り早くブランデーを飲んでいると、家のドアがノックされた。
(誰だ?こんな夜中に)
何となく既視感を感じながらも、念のため護身用のナイフを取りだし、逆手に持ってドアの前に立つ。
「どちら様ですか?」
「ディリア騎士団の者です」
(……またか)
アーチャは自分の眉間に皺がよるのを感じた。 こんな夜更けに一体また何の用だというのか。面倒事の匂いがプンプンする。
とはいえ、返事をしてしまった以上、ドアを開けねばなるまい。仕方がなく、アーチャは嫌々ドアを少し開けた。
「お久しぶりです。夜分にすいません。この時間帯なら確実にいらっしゃるかと思いまして」
そこには青年の姿のヒューが立っていた。
ーーーーーー
ヒューを招き入れると、アーチャはヒューの分もグラスを出し、ブランデーを入れてやった。
「ありがとうございます」
「で、何の用?」
「突然お邪魔してすいません。実はお耳にいれたいことがありまして」
なんとなく、嫌な予感がした。
アーチャは目を細めた。
ヒューは少し躊躇った後、意を決したように話始めた。
「実は一部の者達がアーチャを探す動きを見せています」
「は?」
「殿下……いえ陛下も、王妃殿下も、あまりに仕事を為さらずに浪費ばかりしているため、神官長や宰相らが貴女を見つけ出して、新たに王妃にしようとしています」
アーチャは頭の中が酷く冷めていることに気づき、自分自身でも驚いた。
皮肉げに頬を歪めた。
「……随分とまぁ、勝手なことだ」
「はい。お恥ずかしい限りです。アーチャがチュルガにいることは報告していません。貴女が見つかることを望んでいるとは思えませんでしたから」
「まぁね。そのことについては礼を言おう」
しかしどうしたものか。
今さら王妃に据えようなど、勝手にも程がある。アーチャは怒りを通り越して呆れ返った。
「さて、どうしたものかね」
「チュルガは国の端ですから、こちらにいる限り、見つかることは早々ないと思いますが、アーチャが望むのなら他国へと行くこともできます。勿論、生活できるよう資金などは援助させていただきます」
「他国ねぇ……」
今さら他国に行くつもりはない。
王妃になる気は更々ないが、かといって折角自分の家を構えたのだ。離れたくはなかった。
「そっちで私の存在を隠すことは可能か?」
「恐らく暫くの間でしたら、可能です。黒髪の人間も探せば割といますし、万が一の時に備え、護衛を用意することもできます」
「護衛ねぇ……」
本当にどうしたものか。
国の重鎮達がこうも早く見切りをつけるとは思わなかった。それだけ王太子時代から行動が良くなかったのだろう。
ある意味当然と言えば当然だが、まさか、今更こちらにまで類が及ぶとは予想外だ。
「暫くの間、様子を見る。そちらで向こうの動きを探ることはできるか?」
「可能です」
「では頼んだよ」
「はい」
ヒューはそのまま玄関から帰って行った。玄関の鍵をかけると、アーチャはベットに座り込んだ。
(静かに暮らせたらそれだけでいいのに)
怒りや呆れなど、複雑な思いが胸に溢れ、今夜は眠れる気がしなかった。
アーチャは仕事から帰り、暖炉に火をつけた。
部屋が暖まるまでに、凍えぬよう手っ取り早くブランデーを飲んでいると、家のドアがノックされた。
(誰だ?こんな夜中に)
何となく既視感を感じながらも、念のため護身用のナイフを取りだし、逆手に持ってドアの前に立つ。
「どちら様ですか?」
「ディリア騎士団の者です」
(……またか)
アーチャは自分の眉間に皺がよるのを感じた。 こんな夜更けに一体また何の用だというのか。面倒事の匂いがプンプンする。
とはいえ、返事をしてしまった以上、ドアを開けねばなるまい。仕方がなく、アーチャは嫌々ドアを少し開けた。
「お久しぶりです。夜分にすいません。この時間帯なら確実にいらっしゃるかと思いまして」
そこには青年の姿のヒューが立っていた。
ーーーーーー
ヒューを招き入れると、アーチャはヒューの分もグラスを出し、ブランデーを入れてやった。
「ありがとうございます」
「で、何の用?」
「突然お邪魔してすいません。実はお耳にいれたいことがありまして」
なんとなく、嫌な予感がした。
アーチャは目を細めた。
ヒューは少し躊躇った後、意を決したように話始めた。
「実は一部の者達がアーチャを探す動きを見せています」
「は?」
「殿下……いえ陛下も、王妃殿下も、あまりに仕事を為さらずに浪費ばかりしているため、神官長や宰相らが貴女を見つけ出して、新たに王妃にしようとしています」
アーチャは頭の中が酷く冷めていることに気づき、自分自身でも驚いた。
皮肉げに頬を歪めた。
「……随分とまぁ、勝手なことだ」
「はい。お恥ずかしい限りです。アーチャがチュルガにいることは報告していません。貴女が見つかることを望んでいるとは思えませんでしたから」
「まぁね。そのことについては礼を言おう」
しかしどうしたものか。
今さら王妃に据えようなど、勝手にも程がある。アーチャは怒りを通り越して呆れ返った。
「さて、どうしたものかね」
「チュルガは国の端ですから、こちらにいる限り、見つかることは早々ないと思いますが、アーチャが望むのなら他国へと行くこともできます。勿論、生活できるよう資金などは援助させていただきます」
「他国ねぇ……」
今さら他国に行くつもりはない。
王妃になる気は更々ないが、かといって折角自分の家を構えたのだ。離れたくはなかった。
「そっちで私の存在を隠すことは可能か?」
「恐らく暫くの間でしたら、可能です。黒髪の人間も探せば割といますし、万が一の時に備え、護衛を用意することもできます」
「護衛ねぇ……」
本当にどうしたものか。
国の重鎮達がこうも早く見切りをつけるとは思わなかった。それだけ王太子時代から行動が良くなかったのだろう。
ある意味当然と言えば当然だが、まさか、今更こちらにまで類が及ぶとは予想外だ。
「暫くの間、様子を見る。そちらで向こうの動きを探ることはできるか?」
「可能です」
「では頼んだよ」
「はい」
ヒューはそのまま玄関から帰って行った。玄関の鍵をかけると、アーチャはベットに座り込んだ。
(静かに暮らせたらそれだけでいいのに)
怒りや呆れなど、複雑な思いが胸に溢れ、今夜は眠れる気がしなかった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
忘却の思い込み追放勇者 ずっと放置され続けたので追放されたと思ったのだけど違うんですか!?
カズサノスケ
ファンタジー
「俺は追放されたのだ……」
その者はそう思い込んでしまった。魔王復活に備えて時の止まる異空間へ修行に出されたまま1000年間も放置されてしまったのだから……。
魔王が勇者に討たれた時、必ず復活して復讐を果たすと言い残した。後に王となった元勇者は自身の息子を復活した魔王との戦いの切り札として育成するべく時の止まった異空間へ修行に向かわせる。その者、初代バルディア国王の第1王子にして次期勇者候補クミン・バルディア16歳。
魔王戦に備えて鍛え続けるクミンだが、復活の兆しがなく100年後も200年後も呼び戻される事はなかった。平和過ぎる悠久の時が流れて500年……、世の人々はもちろんの事、王家の者まで先の時代に起きた魔王との戦いを忘れてしまっていた。それはクミンの存在も忘却の彼方へと追いやられ放置状態となった事を意味する。父親との確執があったクミンは思い込む、「実は俺に王位を継承させない為の追放だったのではないか?」
1000年経った頃。偶然にも発見され呼び戻される事となった。1000年も鍛え続けたお陰で破格の強さを身に着けたのだが、肝心の魔王が復活していないのでそれをぶつける相手もいない。追放されたと思い込んだ卑屈な勇者候補の捻じれた冒険が幕を開ける!
世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
ライト文芸
私、依田結花! 37歳! みんな、ゆいちゃんって呼んでね!
大学卒業してから1回も働いたことないの!
23で娘が生まれて、中学生の親にしてはかなり若い方よ。
夫は自営業。でも最近忙しくって、友達やお母さんと遊んで散財しているの。
娘は反抗期で仲が悪いし。
そんな中、夫が仕事中に倒れてしまった。
夫が働けなくなったら、ゆいちゃんどうしたらいいの?!
退院そいてもうちに戻ってこないし! そしたらしばらく距離置こうって!
娘もお母さんと一緒にいたくないって。
しかもあれもこれも、今までのことぜーんぶバレちゃった!
もしかして夫と娘に逃げられちゃうの?! 離婚されちゃう?!
世界一可愛いゆいちゃんが、働くのも離婚も別居なんてあり得ない!
結婚時の約束はどうなるの?! 不履行よ!
自分大好き!
周りからチヤホヤされるのが当たり前!
長年わがまま放題の(精神が)成長しない系ヒロインの末路。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
MMORPGのキャラを前世のデータで作ったら前世で女騎士してた王国に召喚されました
藍生らぱん
ファンタジー
女騎士だった前世の記憶を持ったまま現代日本に生まれた俺。
俺の前世の記憶をベースに両親が作ったゲームアプリで前世の自分に瓜二つなキャラクターを作ったら何故か前世の世界に転移?というか召喚されました?
前世の俺の死後十年経った世界、俺を含めて三人を召喚したのは前世の俺の故郷だった。
小説家になろうに投稿しています
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる