夜の散歩

丸井まー(旧:まー)

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第二部

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ガディのあまり広くない店で、アーチャはテーブルの間をひたすら動き回っていた。
皆、寒いから早く家に帰りたくて、結果同じような時間に店に訪れるため、とても混むのだ。

外に出れば雪もちらついているというのに、アーチャはうっすら汗をかくくらい、動き回っていた。

目まぐるしく動いていると、常連の一人から声がかかった。


「アーチャ、客だぞ」

「はーい。いらっしゃいませー、ってアリアちゃん!?」

「こんばんは」


そこにはアリアがいた。
おっさんだらけの店内において、地味ながら可憐な彼女は浮いていた。酔っぱらいのおっさん達は美人が気になるのか、チラチラ彼女の方を見ている。


「アリアちゃん、こんばんは。ご飯は食べた?」

「まだです。ガディさん、でしたか。彼のご飯は美味しいと聞いてたので、食べてみたくって、思いきって来ちゃいました」


おずおずと、御迷惑でしたか?と伺ってくる彼女を笑い飛ばして、奥の席に案内した。


「何にする?今日のおすすめはカラン鳥のシチューだよ。お芋たっぷりの」

「それでお願いします」

「はーい。ちょっと待っててね」


笑顔で応え、踵を返してガディに注文を伝えに行く。


「シチュー、一つ!それから胡桃のパンとクインの実も」

「おう!」


然程待たずに料理を盛った皿が出てきた。それを両手に持ち、アリアの元へ向かう。


「はい!お待ち。パンとクインの実は私からのサービス」

「えっ!?あ、あの……悪いです、そんな、突然お邪魔したのに……」

「いいの。こんなおっさんだらけの場所に折角来てくれたんだもの。こんだけ野郎しかいなかったら、入るの勇気いったでしょ?その勇気を称えると共に来てくれたお礼って感じ?シチューもだけど、パンも美味しいのよ。食べきれなかったら持ち帰りにもできるから、是非食べてみてちょうだいな」


アーチャはニカッと笑った。
つられてアリアも控えめに笑った。


「では、いただきます。アーチャさん。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。ごゆっくりどうぞ」

「はい」


スプーンを手に取るのを見ると、アーチャは再びテーブルの間を行き来した。
合間にアリアの所へ行って、軽く近況を話したりした。
店にもウィルの母親にも慣れ、毎日楽しく働いているそうだ。それが嘘や社交辞令でないことは、随分と明るくなった顔で分かった。
その事に安心した自分がいた。

アリアは全て食べきり、美味しかったと言って笑って帰っていった。
今度は一緒に酒でも飲もうか、なんて言って、笑顔で別れた。







ーーーーーー

アーチャは本日休みだった。
そして、心底憂鬱な日であった。

あの変態との面談日である。

(何も寒いなか、わざわざ来なくていいのに……)

肺の奥から振り絞る様な大きな溜め息が口から出た。

手持ちぶたさに煙草を吸っていると、ドアがノックされた。
アーチャはくわえ煙草のまま、億劫そうにドアを開けた。
なんとも耳障りな軋む音がした。

この雪もちらつく寒いなか、変態ことシャリー・フォレットが頗る上機嫌な、爽やかな笑顔でドアの前に立っていた。


「久しいな、ご主人様」

「それ止めてください。あと一月前にも会ってます」

「私は毎日会いたいのだが」

「……勘弁してください」


(いや、もうマジで)

早くもげんなりした気分になりつつも、彼を家の中に招き入れる。


「お茶と酒、どちらがいいですか?」

「ふむ……グラッパはあるか?」

「ありますよ、安物ですけど」

「では、それを」

「はいはい」


アーチャは貯蔵庫にグラッパというキツい蒸留酒を取りに行った。ついでに自分も飲もうと、グラスは2つとった。

アーチャの一部屋しかない部屋に戻ると、ベットの上で優雅に寛いでいる変態と目があった。
思わず溜め息が出た。


「はい、グラッパですよ」

「あぁ」


テーブルの上にグラスを置いて、無造作に酒を注ぎ込む。
グラッパ特有の粗っぽい果実のような香りが鼻を掠める。

一つを変態に手渡し、もう一つを手にとって椅子に座る。


「ふーん。本当に安物だな」

「質素な暮らししてますんで」


安物だと言った割に、さっさと飲み干しておかわりを要求してきたので、注いでやる。


「件の騎士団の件でかなり懐は暖かいのだろう?」

「まぁ、それなりに。とはいえ、いつまで働けるか分かりませんから、貯めとくに越したことはないでしょう……私も結構いい歳なんで」

「……そういえば、ご主人様はいくつだ?」

「41です」

「……すまない。よく聞こえなかったのだが」

「41です」

「……41だとっ!?」

「えぇ、まあ」

「冗談だろう!?……31の間違いだろう?」

「いや、本当に41です」

「ババァではないか!?」

「確かにババァですけど、人から言われると腹立つわー」

「私の母親と殆ど一緒ではないか!!」

「……ちなみに母君はおいくつで?」

「確か、今年で42歳だ」

「わー、本当にほぼ一緒だー」


アーチャはなんとも言えないしょっぱい気持ちになって、思わず遠い目をした。

41、嘘だろう……等とブツブツ呟いている変態を余所にアーチャも酒を飲み干した。
喉が焼けるようなキツい刺激がたまらない。

このまま、実年齢に引いて、さっさと諦めてくれないかなぁ、と思いながら、自分のグラスに酒を注ぎ足した。





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