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第一部
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椅子を2脚用意してアーチャを座らせると、向かい合うようにして、ヒューも座った。顔の赤みが若干残っているが、コホンッと咳払いをひとつすると、真剣な顔になった。
「それでご報告なんですが、見ての通り元に戻ることができました」
「よかったな」
「はい。シャリー・フォレットの処遇ですが、彼の身柄を騎士団で保護、監視をすることになりました。彼は王宮魔術師ですから、念のため、俺の友人でもある魔術師長に連絡をとり、彼の了承を得て表向きはチュルガ砦に出向という形にしました。事態がもう少し落ち着くまで、砦から出ないように申しつけています」
「そうかい。シャリー・フォレットの一つ目の要求は完全にのんでやったわけか」
「はい。もう一つの条件なんですけど……」
そこでヒューが気まずそうな顔をして身動いだ。
「……結論から言うと、アーチャへの接近禁止はできませんでした。保護する代わりにその条件をのませるつもりで話をしていたのですが、こちらも魔術を解いてもらわないといけない以上、あまり強くもでられなくて……すいません。本当に申し訳ないのですが、アーチャには月に一度だけなら会ってもいいということになってしまいました」
「さらなる御迷惑をおかけすることになり、まことに申し訳ありません」
ヒューは立ち上がって深く頭を下げた。
自分自身の感情を除いて、より客観的にみると、それが今回の件の落とし所というやつだろう。
シャリー・フォレットは魔術師として殺すには惜しい腕前を持っているようであるし、敵方に返すより、手もとに置いておいた方が使い道もあって都合がいい。
騎士団による保護とアーチャとの月一の面談で、使い所は難しいが、使える魔術師を確保し、動かせるのだから、騎士団としての判断は妥当な所だろう。
(さて、どうしたもんか)
目の前の頭を下げているヒューは、何を言われるかと戦々恐々とした風情でビクついている。
端からみたら、アーチャが苛めているみたいである。アーチャは頭をかいた。
「月一の面談ってのは、どういった形式で行われる?」
「それはアーチャが望む形式で行いたいと考えています。護衛や立会が必要でしたら用意しますし、場所も砦が良かったら専用の部屋を用意します」
「砦なぁ……」
アーチャはこの件が終わったら騎士団とは関わり合いになる気は更々なかった。
客観的にみたら妥当でも、アーチャにとってみれば変態との月一面談は面倒極まりない。
が、ここでそれを突っぱねるには、事情を知りすぎていた。
ヒューが元に戻り、戴冠式なりで見かけたら、ボンクラモブ顔王子は実にイラッとするだろう。そして、王妃はきっと何かやらかしてくれると思う。
例えば、ヒューに付きまとい再び、とか。
ヒューを元に戻すことで王子に遠回しな嫌がらせをできると考えていたため、断れない状況だったにしろ、それなりに協力してきたわけである。
変態との月一の面談を介して、諸々の情報を仕入れてみるのもアリかもしれない。
「言っておくけど、私は騎士団の連中と今回の件以外で関わり合う気はないよ。よって砦に出向くことも、これが最後だ。シャリー・フォレットとの面談は一応了承しておこう。初回はとりあえず私の家で。二度目以降の場所はそんとき決める。それでいいだろう?」
「……ありがとうございます。本当に御迷惑ばかりお掛けして、申し訳ありません」
「謝罪はもういい。頭をあげな」
「はい」
頭をあげたヒューの顔を見て、アーチャは笑った。
「今回の報酬は初回の面談の時にでも、シャリー・フォレットに預けて持ってこさせてちょうだい。話は以上かい?」
「あ、はい」
「それじゃあ、私は帰ろう。精々頑張れよ。さようなら」
アーチャは、自宅の風呂場へと続くドアを開けた。
「あのっ!本当にっ!ありがとうございました!!」
後ろから聞こえるヒューの声を聞きながら、ドアを通り、湿った空気の満ちた風呂場へ足を踏み入れた。
ドアを閉めると、後ろ手に鍵を閉め、大きく息をはいた。
(結果はどうあれ、一段落だな)
これでアーチャの平穏な日常が戻ってくる。
「それでご報告なんですが、見ての通り元に戻ることができました」
「よかったな」
「はい。シャリー・フォレットの処遇ですが、彼の身柄を騎士団で保護、監視をすることになりました。彼は王宮魔術師ですから、念のため、俺の友人でもある魔術師長に連絡をとり、彼の了承を得て表向きはチュルガ砦に出向という形にしました。事態がもう少し落ち着くまで、砦から出ないように申しつけています」
「そうかい。シャリー・フォレットの一つ目の要求は完全にのんでやったわけか」
「はい。もう一つの条件なんですけど……」
そこでヒューが気まずそうな顔をして身動いだ。
「……結論から言うと、アーチャへの接近禁止はできませんでした。保護する代わりにその条件をのませるつもりで話をしていたのですが、こちらも魔術を解いてもらわないといけない以上、あまり強くもでられなくて……すいません。本当に申し訳ないのですが、アーチャには月に一度だけなら会ってもいいということになってしまいました」
「さらなる御迷惑をおかけすることになり、まことに申し訳ありません」
ヒューは立ち上がって深く頭を下げた。
自分自身の感情を除いて、より客観的にみると、それが今回の件の落とし所というやつだろう。
シャリー・フォレットは魔術師として殺すには惜しい腕前を持っているようであるし、敵方に返すより、手もとに置いておいた方が使い道もあって都合がいい。
騎士団による保護とアーチャとの月一の面談で、使い所は難しいが、使える魔術師を確保し、動かせるのだから、騎士団としての判断は妥当な所だろう。
(さて、どうしたもんか)
目の前の頭を下げているヒューは、何を言われるかと戦々恐々とした風情でビクついている。
端からみたら、アーチャが苛めているみたいである。アーチャは頭をかいた。
「月一の面談ってのは、どういった形式で行われる?」
「それはアーチャが望む形式で行いたいと考えています。護衛や立会が必要でしたら用意しますし、場所も砦が良かったら専用の部屋を用意します」
「砦なぁ……」
アーチャはこの件が終わったら騎士団とは関わり合いになる気は更々なかった。
客観的にみたら妥当でも、アーチャにとってみれば変態との月一面談は面倒極まりない。
が、ここでそれを突っぱねるには、事情を知りすぎていた。
ヒューが元に戻り、戴冠式なりで見かけたら、ボンクラモブ顔王子は実にイラッとするだろう。そして、王妃はきっと何かやらかしてくれると思う。
例えば、ヒューに付きまとい再び、とか。
ヒューを元に戻すことで王子に遠回しな嫌がらせをできると考えていたため、断れない状況だったにしろ、それなりに協力してきたわけである。
変態との月一の面談を介して、諸々の情報を仕入れてみるのもアリかもしれない。
「言っておくけど、私は騎士団の連中と今回の件以外で関わり合う気はないよ。よって砦に出向くことも、これが最後だ。シャリー・フォレットとの面談は一応了承しておこう。初回はとりあえず私の家で。二度目以降の場所はそんとき決める。それでいいだろう?」
「……ありがとうございます。本当に御迷惑ばかりお掛けして、申し訳ありません」
「謝罪はもういい。頭をあげな」
「はい」
頭をあげたヒューの顔を見て、アーチャは笑った。
「今回の報酬は初回の面談の時にでも、シャリー・フォレットに預けて持ってこさせてちょうだい。話は以上かい?」
「あ、はい」
「それじゃあ、私は帰ろう。精々頑張れよ。さようなら」
アーチャは、自宅の風呂場へと続くドアを開けた。
「あのっ!本当にっ!ありがとうございました!!」
後ろから聞こえるヒューの声を聞きながら、ドアを通り、湿った空気の満ちた風呂場へ足を踏み入れた。
ドアを閉めると、後ろ手に鍵を閉め、大きく息をはいた。
(結果はどうあれ、一段落だな)
これでアーチャの平穏な日常が戻ってくる。
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