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地獄の中で、愛を見つけた
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ガドは、細くなった腕で、重いつるはしを振り下ろした。ガギンッと硬い地面にぶつかったつるはしの先で、僅かに掘れた石炭をかき集める。何度も何度も、繰り返し繰り返し、つるはしを振って、暗い坑道の中で、黙々と石炭を掘り続ける。
此処は、国教の教えに反した異端者が懲罰の為に送られる場所だ。ガドは異端者だ。国教では、同性愛は厳しく禁じられている。ガドは同性愛者だ。ずっとそれを隠して生きてきたが、三年前、ガドは恋をした。相手の男の方から、ガドに声をかけてきて、甘い言葉を囁かれて、ガドはその男にすぐに夢中になった。
去年のある日。自宅に突然、教会の異端審問官がやって来て、ガドを拘束した。ガドが男とキスをしていたという目撃情報があったらしい。ガドは、男と会う時には、慎重に要心を重ねていた。誰かに見られるような所でキスをした覚えはない。濡れ衣だと叫んでも、異端審問官はなんの反応も示さなかった。
ガドは教会の地下室に連れて行かれ、一ヶ月の間、『尋問と再教育』という名の拷問を受けた。爪は全て剥がされ、数え切れない程鞭で打たれ、何度も水責めをされた。
痛みで意識が朦朧としているガドの耳元で、拷問をしていた異端審問官が囁いた。
「お前を密告したのは、バルトという男だ。随分と親しかったようだが、なんとも残念なことだな」
その言葉を聞いた瞬間、ガドの心は凍りついた。バルトは、ガドに愛を囁き、何も知らなかったガドに快感と熱を教えた男だ。秘密の恋人だった筈の男だ。何故、バルトがガドを同性愛者だと密告する必要があったのだろうか。
ガドの心は、バルトの裏切りで、すっかり折れてしまった。それまでは、どれだけ拷問されても、同性愛者だと認めなかったが、ガドは自分が同性愛者だと認め、懲罰として、劣悪な環境と重労働で有名な石炭掘りをすることになった。
それから一年、ガドは地獄のような場所で、なんとかまだ生きていた。寝床は不衛生で、風呂になんか入れず、食事は一日一度、薄い水のようなスープと硬いパンの欠片だけ。中背中肉の体型だったガドは、すぐに痩せ細った。病に罹っても、医者に診せてもらえることなく、そのまま死ぬだけだ。毎日のように、誰かが死ぬ。病で倒れたり、働きが悪いと鞭で打たれて死んだり、監督官の気分次第で殴る蹴るの暴行を受けて死んだりと、ここでは常に死と隣り合わせだ。
ガドは監督官の顔色を伺いながら、毎日毎日、この世の地獄を生きている。
冬の訪れを感じる季節になった。冬になると死人が増える。それでも構わないのだろう。異端審問官は何処から見つけてくるのか、定期的に新たな男達が此処に連れて来られる。
ガドは死んだ濁った目で、新入りを眺めた。今回は十人近くいるが、きっと冬を越せるのは半分以下だ。ガドも今年の冬を越せるか分からない。劣悪な環境と毎日の重労働で、月日が経つにつれ、身体が弱っていっているのを感じる。昔は、男の色気がある美丈夫だと言われていたような容姿をしていたが、今となっては見る影もない。
寝床は十人で一部屋だ。薄いボロ切れのような毛布一枚を与えられて、十人では狭すぎる部屋で、雑魚寝をする。ガドの部屋に新入りが二人入ってきた。二人とも、まだ二十代くらいだ。手酷く拷問された痕が残っており、元の顔立ちが分からないくらいである。
ガドがこの部屋では一番の古株だ。ガドは手短に新入り二人に此処での決まり事を説明すると、早々と寝る体勢になった。少しでも寝て、少しでも体力を回復させないと、明日生き残れるかも分からない。ガドは、明日の朝も目が覚めますようにと祈りながら、薄いボロ切れみたいな毛布で身体を包んで、空きっ腹を無視して眠りに落ちた。
新入りの一人は、十日ももたなかった。些細なヘマをやらかして監督官に目をつけられ、監督官の玩具になって死んだ。ガドの部屋の者だからと、ガドともう一人の新入りが、死体の処理を命じられた。
ガドは、新入りの一人であるリークと一緒に、無惨な有様の死体を運び、専用の場所で穴を掘って、死体を埋めた。
リークが死体を埋めた場所を見つめながら、ぼそっと呟いた。
「何故、人を愛しただけで、死ななくてはいけないのでしょう」
「さぁな。男しか愛せない俺達は欠陥品らしい。いくらでも使い捨てていいものなんだとよ」
「……ガドさん。一度だけでいい。僕を愛してください。僕は、誰とも愛し合ったことが無い。ただ、片想いをしていただけだ。一度でいいから愛されたい。偽りでも構わない。……そして、僕を殺してください」
リークが今にも泣きそうに顔を歪めながら、ガドの細くなった腕を掴んだ。リークは拷問の痕が薄れてきており、優しそうに整った顔立ちが分かるようになってきている。
ガドは少しの間考えて、リークの申し出に頷いた。ガドは、ただ惰性で生きていただけだ。死にたくなかった。でも、もう生きているのも嫌になっている。毎日毎日、死の恐怖に怯え、辛い労働をしている。この地獄から出られる日は来ない。ガドは一晩だけ、リークと最初で最後の愛を交わすと約束した。
ガドは一年くらい此処にいる。監督官の見回りの時間やルートは、なんとなく分かっている。
リークと約束をした数日後の夜更け。ガドはこっそりリークを起こして、リークの手を引き、寝床の部屋から抜け出した。
なんとか監督官に見つからずに暗い山の中に入ると、ガドはリークを抱きしめた。リークの身体は、ほっそりと痩せている。もっとも、ガドの方がガリガリに痩せこけているのだが。
ガドが抱きしめると、リークが、はぁっと熱い息を吐いた。ガドの背中に腕を回し、リークが涙声で囁いた。
「温かい」
「リーク。愛してる。今だけの仮初のものでも、俺の愛はお前のものだ」
「はい。……はい。ガドさん。僕も貴方を愛しています」
リークの言葉と触れ合う体温に、ガドの胸の奥がじんわりと温かくなった。今この瞬間だけの仮初のものでも、誰かと愛し合える喜びは大きい。
ガドはぎゅっと強くリークの身体を抱きしめてから、少しだけ身体を離し、リークのかさかさに乾燥した唇に自分の唇を押しつけた。ちゅくっと優しくリークの下唇を吸えば、間近にあるリークの深い緑色の瞳が、キラキラと嬉しそうに輝いた。ぎこちなく、リークもガドの唇を吸ってくれる。互いに何度も唇を吸い合い、ガドはゆっくりとリークの乾いた唇に舌を這わせた。リークも舌を伸ばしてきたので、ぬるりとリークの舌に自分の舌を絡める。ゆっくりと互いの唾液を味わうような、ねっとりとしたキスをした。
すっかり息が上がっているリークが、熱い息を吐きながら、唇を触れ合わせたまま囁いた。
「ガドさん。勃っちゃった」
「ん。俺もだ」
「そういえば、ガドさんはいくつ?」
「33」
「僕よりちょうど10上だ」
「そうかい。リーク。気持ちいいことをしよう」
「はい。ガドさん。僕を愛して」
「嫌って程、愛してやるよ」
「僕もガドさんを愛してる」
「うん」
ガドはその場でボロ切れみたいな服を脱ぎ捨てた。寒さで一気に鳥肌が立つが、そんなこと気にならない。ガドのペニスはしっかりと勃起したままだ。
ガドはリークの服も脱がせた。リークのペニスもしっかり勃起していた。ガドはリークの前に跪いて、饐えた匂いのするリークのペニスに舌を這わせ始めた。垢が溜まり、お世辞にもキレイとは言えないペニスだが、お互い様だ。これで病気になったとしても、なんの問題もない。どうせ、今夜限りの生命だ。
リークのペニスは普通サイズで、仮性包茎だった。勃起して自然と剥けた皮の残りを優しく手で剥き、溜まりまくっている恥垢を舐めとるように熱い亀頭と皮の境に舌を這わせる。リークが掠れた声を上げ、伸びっぱなしの垢と汚れでごわごわしているガドの髪を梳くように、ガドの頭を撫でた。なんだか、じわぁっと嬉しくなってくる。リークの手はどこまでも優しくて、きっと、顔立ち同様、優しい男なのだろう。
竿も陰嚢も丁寧に舐め回すと、リークがガドの頭を撫でながら、切羽詰まった声でガドの名前を呼んだ。
「ガドさんっ! も、出ちゃいますっ!」
「ん」
いっそのこと口でリークの精液を受け止めるのもありかと思ったが、リークの熱が一瞬でも早く欲しい。
ガドはリークのペニスから口を離し、唾を自分の掌に垂らして、適当に自分のアナルに塗った。潤滑油なんてものは無い。アナルを解す暇すら惜しい。確実に痛いだろうし、恐らくアナルが切れるだろう。それでも構わない。リークの熱を感じて、リークに愛されたら、それだけで十分だ。
ガドは近くの木に両手をつき、リークに向かって尻を突き出した。リークのほっそりとした手がガドの尻に触れ、薄くなった尻肉を揉み、唾を塗っただけのアナルに、自分の濡れたペニスの先っぽを押しつけた。
メリメリと、リークの硬いペニスが、ガドのアナルを無理矢理押し拡げて入ってくる。アナルから激痛が背を走るが、同時に、直腸内を満たしていくリークのペニスの熱さと硬さに充足感を抱く。クッソ痛いが、泣きたい程嬉しい。今、ガドはリークに愛されている。
尻に陰毛が当たる感触がして、漸くリークのペニスが全てガドの中に入ったことに気づいた。強い痛みで、背中を脂汗が流れているし、ガドのペニスは萎えてしまったが、そんなことどうでもいい。
ガドは首を捻って顔だけで振り返り、リークに声をかけた。
「俺の中はどうだ?」
「すごく、熱くて、気持ちいい……」
「ははっ! 好きに動けよ。俺を愛してくれ」
「はい! はっ、あぁっ……すごいっ、狭くて、キツいっ、気持ちいいっ、ガドさんっ! ガドさんっ!」
「はっ、あ゛っ、ぐぅっ、ん゛ーーっ! あ゛っ、あ゛ーーっ!」
「ガドさん、ガドさん、も、も、出ちゃいますっ!」
「出せっ! 俺の中でイケッ!」
「は、は、あ、あ、あーーっ!」
最初から技巧も何もなく激しくペニスをアナルに抜き差ししていたリークが、一際強く下腹部をガドの尻に打ち付けた。ガドの腹の中で、リークのペニスが僅かにピクピクと震えている感覚がする。リークが、ガドの中で射精したことに興奮して、ガドのペニスはゆるく勃起した。痛みはある。脂汗がだらだら背中を流れるくらい痛くて堪らない。でも、酷く興奮して、リークの熱が心地よくて、リークが愛おしくて、本当に堪らない。
ガドはリークに声をかけて、アナルからペニスを引き抜かせると、リークを地面に仰向けに寝転がらせた。
リークのペニスは射精した筈なのに、まだ勃起したままだった。ガドは舌なめずりをして、リークの熱いペニスを片手で掴み、自分の血とリークの精液で濡れたアナルに、リークのペニスの先っぽを押しつけた。ゆっくりと腰を下ろせば、先程よりも滑りがよくなっており、比較的スムーズにリークのペニスをアナルで飲み込めた。クッソ痛いが、クッソ興奮する。
月明かりに照らされたリークの顔を見下ろせば、リークは泣きながら快感に顔を歪めていた。
ガドはそのまま上体を伏せ、リークの唇に優しくキスをしながら、尻を上下に振って、アナルでリークのペニスを扱いた。自分の血とリークの精液のお陰で、それなりにスムーズにペニスを抜き差しできる。先程までよりも痛くはない。腰をくねらせて、自分の気持ちがいいところをリークのペニスで擦るように動けば、きゅっと自然とアナルが締まる。
リークが気持ちよさそうに喘ぎながら、ガドの尻肉を両手で掴み、下から腰を突き上げ始めた。痛みと快感と興奮で、頭の中が白く濁る。
ガドは唸るように喘ぎながら、リークの唇を優しく吸い、伏せていた上体を起こして、ほっそりとしたリークの首を両手で掴んだ。そのまま、リークの首を掴んだ手に力を入れていく。
首を締められているのに、リークの腰は止まらない。ガドはリークの首をじわじわと絞めながら、穏やかに微笑んだ。
「リーク。愛してる」
「……あぁ……」
リークがガドの中で射精したのを感じた瞬間、ガドは自身も射精しながら、リークの首を全力で絞めた。リークの脈動が完全に止まったのを確認してから、ガドはリークの首から手を離した。月明かりでうっすら見えるリークの死に顔は、どこか微笑んでいるようだった。
ガドは萎えたリークのペニスをアナルから引き抜くと、リークの腕を肩に回すようにして、とある場所を目指して移動を始めた。
そこには、すぐに到着した。崖である。此処には、炭鉱送りになった最初の頃に連れて来られる。落ちたら確実に死んで、獣の餌になる。逃げようとしたら、生きたまま此処から落とす。そう監督官から脅されるのだ。
ガドは崖のギリギリに立ち、まだ温もりが残っているリークの身体を抱きしめた。リークの頬にキスをして、物言わぬリークに話しかける。
「リーク。次の世では、普通に出会って、普通に恋をして、普通にデートをして、普通に愛し合いたいな。きっと、優しいお前となら、穏やかで幸せな日々を過ごせる。リーク。愛してる。俺を愛してくれてありがとう」
ガドはポツリと涙を一つ零し、リークを抱きしめたまま、一歩足を踏み出した。
(おしまい)
此処は、国教の教えに反した異端者が懲罰の為に送られる場所だ。ガドは異端者だ。国教では、同性愛は厳しく禁じられている。ガドは同性愛者だ。ずっとそれを隠して生きてきたが、三年前、ガドは恋をした。相手の男の方から、ガドに声をかけてきて、甘い言葉を囁かれて、ガドはその男にすぐに夢中になった。
去年のある日。自宅に突然、教会の異端審問官がやって来て、ガドを拘束した。ガドが男とキスをしていたという目撃情報があったらしい。ガドは、男と会う時には、慎重に要心を重ねていた。誰かに見られるような所でキスをした覚えはない。濡れ衣だと叫んでも、異端審問官はなんの反応も示さなかった。
ガドは教会の地下室に連れて行かれ、一ヶ月の間、『尋問と再教育』という名の拷問を受けた。爪は全て剥がされ、数え切れない程鞭で打たれ、何度も水責めをされた。
痛みで意識が朦朧としているガドの耳元で、拷問をしていた異端審問官が囁いた。
「お前を密告したのは、バルトという男だ。随分と親しかったようだが、なんとも残念なことだな」
その言葉を聞いた瞬間、ガドの心は凍りついた。バルトは、ガドに愛を囁き、何も知らなかったガドに快感と熱を教えた男だ。秘密の恋人だった筈の男だ。何故、バルトがガドを同性愛者だと密告する必要があったのだろうか。
ガドの心は、バルトの裏切りで、すっかり折れてしまった。それまでは、どれだけ拷問されても、同性愛者だと認めなかったが、ガドは自分が同性愛者だと認め、懲罰として、劣悪な環境と重労働で有名な石炭掘りをすることになった。
それから一年、ガドは地獄のような場所で、なんとかまだ生きていた。寝床は不衛生で、風呂になんか入れず、食事は一日一度、薄い水のようなスープと硬いパンの欠片だけ。中背中肉の体型だったガドは、すぐに痩せ細った。病に罹っても、医者に診せてもらえることなく、そのまま死ぬだけだ。毎日のように、誰かが死ぬ。病で倒れたり、働きが悪いと鞭で打たれて死んだり、監督官の気分次第で殴る蹴るの暴行を受けて死んだりと、ここでは常に死と隣り合わせだ。
ガドは監督官の顔色を伺いながら、毎日毎日、この世の地獄を生きている。
冬の訪れを感じる季節になった。冬になると死人が増える。それでも構わないのだろう。異端審問官は何処から見つけてくるのか、定期的に新たな男達が此処に連れて来られる。
ガドは死んだ濁った目で、新入りを眺めた。今回は十人近くいるが、きっと冬を越せるのは半分以下だ。ガドも今年の冬を越せるか分からない。劣悪な環境と毎日の重労働で、月日が経つにつれ、身体が弱っていっているのを感じる。昔は、男の色気がある美丈夫だと言われていたような容姿をしていたが、今となっては見る影もない。
寝床は十人で一部屋だ。薄いボロ切れのような毛布一枚を与えられて、十人では狭すぎる部屋で、雑魚寝をする。ガドの部屋に新入りが二人入ってきた。二人とも、まだ二十代くらいだ。手酷く拷問された痕が残っており、元の顔立ちが分からないくらいである。
ガドがこの部屋では一番の古株だ。ガドは手短に新入り二人に此処での決まり事を説明すると、早々と寝る体勢になった。少しでも寝て、少しでも体力を回復させないと、明日生き残れるかも分からない。ガドは、明日の朝も目が覚めますようにと祈りながら、薄いボロ切れみたいな毛布で身体を包んで、空きっ腹を無視して眠りに落ちた。
新入りの一人は、十日ももたなかった。些細なヘマをやらかして監督官に目をつけられ、監督官の玩具になって死んだ。ガドの部屋の者だからと、ガドともう一人の新入りが、死体の処理を命じられた。
ガドは、新入りの一人であるリークと一緒に、無惨な有様の死体を運び、専用の場所で穴を掘って、死体を埋めた。
リークが死体を埋めた場所を見つめながら、ぼそっと呟いた。
「何故、人を愛しただけで、死ななくてはいけないのでしょう」
「さぁな。男しか愛せない俺達は欠陥品らしい。いくらでも使い捨てていいものなんだとよ」
「……ガドさん。一度だけでいい。僕を愛してください。僕は、誰とも愛し合ったことが無い。ただ、片想いをしていただけだ。一度でいいから愛されたい。偽りでも構わない。……そして、僕を殺してください」
リークが今にも泣きそうに顔を歪めながら、ガドの細くなった腕を掴んだ。リークは拷問の痕が薄れてきており、優しそうに整った顔立ちが分かるようになってきている。
ガドは少しの間考えて、リークの申し出に頷いた。ガドは、ただ惰性で生きていただけだ。死にたくなかった。でも、もう生きているのも嫌になっている。毎日毎日、死の恐怖に怯え、辛い労働をしている。この地獄から出られる日は来ない。ガドは一晩だけ、リークと最初で最後の愛を交わすと約束した。
ガドは一年くらい此処にいる。監督官の見回りの時間やルートは、なんとなく分かっている。
リークと約束をした数日後の夜更け。ガドはこっそりリークを起こして、リークの手を引き、寝床の部屋から抜け出した。
なんとか監督官に見つからずに暗い山の中に入ると、ガドはリークを抱きしめた。リークの身体は、ほっそりと痩せている。もっとも、ガドの方がガリガリに痩せこけているのだが。
ガドが抱きしめると、リークが、はぁっと熱い息を吐いた。ガドの背中に腕を回し、リークが涙声で囁いた。
「温かい」
「リーク。愛してる。今だけの仮初のものでも、俺の愛はお前のものだ」
「はい。……はい。ガドさん。僕も貴方を愛しています」
リークの言葉と触れ合う体温に、ガドの胸の奥がじんわりと温かくなった。今この瞬間だけの仮初のものでも、誰かと愛し合える喜びは大きい。
ガドはぎゅっと強くリークの身体を抱きしめてから、少しだけ身体を離し、リークのかさかさに乾燥した唇に自分の唇を押しつけた。ちゅくっと優しくリークの下唇を吸えば、間近にあるリークの深い緑色の瞳が、キラキラと嬉しそうに輝いた。ぎこちなく、リークもガドの唇を吸ってくれる。互いに何度も唇を吸い合い、ガドはゆっくりとリークの乾いた唇に舌を這わせた。リークも舌を伸ばしてきたので、ぬるりとリークの舌に自分の舌を絡める。ゆっくりと互いの唾液を味わうような、ねっとりとしたキスをした。
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「ガドさん。勃っちゃった」
「ん。俺もだ」
「そういえば、ガドさんはいくつ?」
「33」
「僕よりちょうど10上だ」
「そうかい。リーク。気持ちいいことをしよう」
「はい。ガドさん。僕を愛して」
「嫌って程、愛してやるよ」
「僕もガドさんを愛してる」
「うん」
ガドはその場でボロ切れみたいな服を脱ぎ捨てた。寒さで一気に鳥肌が立つが、そんなこと気にならない。ガドのペニスはしっかりと勃起したままだ。
ガドはリークの服も脱がせた。リークのペニスもしっかり勃起していた。ガドはリークの前に跪いて、饐えた匂いのするリークのペニスに舌を這わせ始めた。垢が溜まり、お世辞にもキレイとは言えないペニスだが、お互い様だ。これで病気になったとしても、なんの問題もない。どうせ、今夜限りの生命だ。
リークのペニスは普通サイズで、仮性包茎だった。勃起して自然と剥けた皮の残りを優しく手で剥き、溜まりまくっている恥垢を舐めとるように熱い亀頭と皮の境に舌を這わせる。リークが掠れた声を上げ、伸びっぱなしの垢と汚れでごわごわしているガドの髪を梳くように、ガドの頭を撫でた。なんだか、じわぁっと嬉しくなってくる。リークの手はどこまでも優しくて、きっと、顔立ち同様、優しい男なのだろう。
竿も陰嚢も丁寧に舐め回すと、リークがガドの頭を撫でながら、切羽詰まった声でガドの名前を呼んだ。
「ガドさんっ! も、出ちゃいますっ!」
「ん」
いっそのこと口でリークの精液を受け止めるのもありかと思ったが、リークの熱が一瞬でも早く欲しい。
ガドはリークのペニスから口を離し、唾を自分の掌に垂らして、適当に自分のアナルに塗った。潤滑油なんてものは無い。アナルを解す暇すら惜しい。確実に痛いだろうし、恐らくアナルが切れるだろう。それでも構わない。リークの熱を感じて、リークに愛されたら、それだけで十分だ。
ガドは近くの木に両手をつき、リークに向かって尻を突き出した。リークのほっそりとした手がガドの尻に触れ、薄くなった尻肉を揉み、唾を塗っただけのアナルに、自分の濡れたペニスの先っぽを押しつけた。
メリメリと、リークの硬いペニスが、ガドのアナルを無理矢理押し拡げて入ってくる。アナルから激痛が背を走るが、同時に、直腸内を満たしていくリークのペニスの熱さと硬さに充足感を抱く。クッソ痛いが、泣きたい程嬉しい。今、ガドはリークに愛されている。
尻に陰毛が当たる感触がして、漸くリークのペニスが全てガドの中に入ったことに気づいた。強い痛みで、背中を脂汗が流れているし、ガドのペニスは萎えてしまったが、そんなことどうでもいい。
ガドは首を捻って顔だけで振り返り、リークに声をかけた。
「俺の中はどうだ?」
「すごく、熱くて、気持ちいい……」
「ははっ! 好きに動けよ。俺を愛してくれ」
「はい! はっ、あぁっ……すごいっ、狭くて、キツいっ、気持ちいいっ、ガドさんっ! ガドさんっ!」
「はっ、あ゛っ、ぐぅっ、ん゛ーーっ! あ゛っ、あ゛ーーっ!」
「ガドさん、ガドさん、も、も、出ちゃいますっ!」
「出せっ! 俺の中でイケッ!」
「は、は、あ、あ、あーーっ!」
最初から技巧も何もなく激しくペニスをアナルに抜き差ししていたリークが、一際強く下腹部をガドの尻に打ち付けた。ガドの腹の中で、リークのペニスが僅かにピクピクと震えている感覚がする。リークが、ガドの中で射精したことに興奮して、ガドのペニスはゆるく勃起した。痛みはある。脂汗がだらだら背中を流れるくらい痛くて堪らない。でも、酷く興奮して、リークの熱が心地よくて、リークが愛おしくて、本当に堪らない。
ガドはリークに声をかけて、アナルからペニスを引き抜かせると、リークを地面に仰向けに寝転がらせた。
リークのペニスは射精した筈なのに、まだ勃起したままだった。ガドは舌なめずりをして、リークの熱いペニスを片手で掴み、自分の血とリークの精液で濡れたアナルに、リークのペニスの先っぽを押しつけた。ゆっくりと腰を下ろせば、先程よりも滑りがよくなっており、比較的スムーズにリークのペニスをアナルで飲み込めた。クッソ痛いが、クッソ興奮する。
月明かりに照らされたリークの顔を見下ろせば、リークは泣きながら快感に顔を歪めていた。
ガドはそのまま上体を伏せ、リークの唇に優しくキスをしながら、尻を上下に振って、アナルでリークのペニスを扱いた。自分の血とリークの精液のお陰で、それなりにスムーズにペニスを抜き差しできる。先程までよりも痛くはない。腰をくねらせて、自分の気持ちがいいところをリークのペニスで擦るように動けば、きゅっと自然とアナルが締まる。
リークが気持ちよさそうに喘ぎながら、ガドの尻肉を両手で掴み、下から腰を突き上げ始めた。痛みと快感と興奮で、頭の中が白く濁る。
ガドは唸るように喘ぎながら、リークの唇を優しく吸い、伏せていた上体を起こして、ほっそりとしたリークの首を両手で掴んだ。そのまま、リークの首を掴んだ手に力を入れていく。
首を締められているのに、リークの腰は止まらない。ガドはリークの首をじわじわと絞めながら、穏やかに微笑んだ。
「リーク。愛してる」
「……あぁ……」
リークがガドの中で射精したのを感じた瞬間、ガドは自身も射精しながら、リークの首を全力で絞めた。リークの脈動が完全に止まったのを確認してから、ガドはリークの首から手を離した。月明かりでうっすら見えるリークの死に顔は、どこか微笑んでいるようだった。
ガドは萎えたリークのペニスをアナルから引き抜くと、リークの腕を肩に回すようにして、とある場所を目指して移動を始めた。
そこには、すぐに到着した。崖である。此処には、炭鉱送りになった最初の頃に連れて来られる。落ちたら確実に死んで、獣の餌になる。逃げようとしたら、生きたまま此処から落とす。そう監督官から脅されるのだ。
ガドは崖のギリギリに立ち、まだ温もりが残っているリークの身体を抱きしめた。リークの頬にキスをして、物言わぬリークに話しかける。
「リーク。次の世では、普通に出会って、普通に恋をして、普通にデートをして、普通に愛し合いたいな。きっと、優しいお前となら、穏やかで幸せな日々を過ごせる。リーク。愛してる。俺を愛してくれてありがとう」
ガドはポツリと涙を一つ零し、リークを抱きしめたまま、一歩足を踏み出した。
(おしまい)
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