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13:お祝い

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 マチューは、ルンルン気分で、アベルと共に、酒の専門店に来ていた。
 季節は穏やかに過ぎ去り、今は秋のはじめ頃である。何度もアベルに指導してもらって書き上げた論文が、魔術協会から、予想以上に高い評価をもらえた。今日はそのお祝いである。マチューの研究は、まだまだ途中段階だが、魔術協会の人から、『今後を期待する』と言ってもらえた。とても嬉しい。

 マチューが好きな銘柄の蒸留酒を手に取っていると、アベルが別の蒸留酒を指差した。かなり値段が高い蒸留酒である。


「折角のお祝いなんだからさ、こっちも買いなよ」

「えー。お高いじゃないですかー」

「いいよ。気にしなくて。今回の論文は本当いいものだったからね。魔術協会の評価もいい感じだったし。頑張ったご褒美だよ。勿論、僕の奢りだから、気にせず買っちゃいなよ」

「えーと……じゃあ、ありがたくご馳走になります。へへっ。ちょっと気になってたんですよね。これ」

「いい機会だから、試してごらんよ」

「はい。教授はどれにします?」

「あーー。僕はいいかなぁ」

「教授。禁酒してるのは知ってますけど、そろそろ解禁してもいいんじゃないですか? 僕のお祝いですし、教授と一緒に飲んだ方が楽しいです」

「……そう?」

「はい。1人だけお酒を飲むのは、つまらないですよ。一緒に美味しいお酒と肴を楽しみたいです。責任持って酔い潰しますんで、安心して飲んでください」

「うーん……じゃあ、買っちゃおうかなぁ。どれにしよう」

「教授もいいやつ買ってくださいよ。なんたってお祝いですし」

「それもそうだね。よし! 今夜は飲みますか!」

「はい!」

「酒の肴にチーズと干し肉も買わなきゃね。あとナッツも欲しいなぁ。どれもいいものを扱ってる店があるんだよね」

「この後、買いに行きましょう。晩ご飯はお肉がいいです! どーんっとステーキ!」

「いいねぇ! ステーキは久しく食べてないな。どうせだ。いいお肉買っちゃおーっと。庭の香草もいい感じに育ってるから、お肉に添えたらいいよね」

「いいですねぇ」


 マチューは、アベルと一緒に酒を選んで、何本も蒸留酒とワインを買うと、重い荷物を2人で分けて持ち、美味しい肴を求めて、次の店に向かった。





ーーーーーー
 夜も更けた頃。
 マチューは、ご機嫌にキツい蒸留酒を飲み干した。芳醇な香りが鼻に抜け、キツい酒精が、カッと喉を焼く。心地よい酔いに、マチューはむふっと笑った。
 すぐ隣では、アベルもワインを飲んでいる。マチューが、アベルが飲み干したワイングラスに、ワインを注いでやっていると、アベルがとんっとマチューに寄りかかってきた。


「セックスがーー!! したーーい!!」

「おっ。久しぶりに聞きましたね。その台詞」

「セックス! セックス! セーーックス!! 禁欲生活飽きたーー!!」

「教授。禁酒だけじゃなくて、マジで禁欲生活もしてたんですね」

「一人遊びもしてないのー! ほーめーてー!!」

「よーしよしよしよし。偉いですよー。でも、溜め込み過ぎもよくないですよー」

「もっと僕をよしよししてぇー!! ちんこー! ちんこほしーい!! ズッコンバッコンやられたーーーーい!!」

「はいはい。教授。飲んで飲んで」

「ワイン美味しいよぉぉぉぉ!! うぉぉぉぉ! ちんこ突っ込まれたーーい!!」

「はーい。飲んで飲んで。久しぶりに聞くと、なんかほっとする不思議」

「ちーんこ! あ、そーれ、ちーんこ!!」

「はいはい。ちんこちんこ。ワインもどうぞー」

「わーい! ワイン美味しーい!」


 マチューは、べろんべろんに酔っているアベルに、更にワインを飲ませた。アベルは、マチューとの一件があってから、ずっと禁酒をしていた。久しぶりの酒だからか、いつもよりゆっくりめのペースで飲んでいたのに、完全にできあがっている。アベルの『ちんこ欲しーい』を聞いて、なんだか、マチューはちょっと安心した。アベルが、マチューの為に、なんでもかんでも我慢するのは嫌だ。アベルには、のびのびと好きに生きて欲しい。マチューにそうさせてくれているように。
 マチューは、『ちんこー! ちんこをくれー!』と叫ぶアベルを酔い潰すべく、せっせとアベルにワインを飲ませた。

 日付が変わる頃には、アベルは完全に酔い潰れて、マチューの太腿を枕に、ぐっすりと寝ていた。
 マチューは、マイペースに美味しい蒸留酒を飲みながら、なんとなく、アベルの頭を撫でていた。アベルは、整髪剤で長めの前髪を上げていないと、少しだけ若く見える。意外と柔らかい髪質をしている。すぴーっと小さな音がするので、少しだけ鼻が詰まっているのかもしれない。朝晩が冷えるようになってきたので、アベルが風邪を引かないように気をつけなければ。明日は、アベルは間違いなく二日酔いなので、温かくて食べやすい穀物粥を朝食に作ろう。卵を入れて、鶏肉も刻んで入れて、生姜も入れたら、身体が温まるだろう。
 マチューは、そんな事を考えながら、穏やかなアベルの寝顔を見下ろした。特に意味もなく、アベルの少しだけ開いた唇に指先で触れ、唇をむにゅっと摘んで、アヒルみたいにする。ちょっと間抜けな顔になったアベルが面白くて、マチューは1人でクスクスと笑った。どうやら、自分もそれなりに酔っているようである。
 マチューは、アベルの柔らかい少しかさついた唇をむにむに弄りながら、ふと、数ヶ月前の快感に溺れた夜を思い出した。
 初めてのキスも、初めてのセックスも、酷く気持ちがよくて、楽しそうなアベルにつられて、マチューも楽しくなって、無我夢中でアベルの身体の熱と快感に溺れきった。

 マチューは、じーっとアベルの寝顔を見つめながら、むにむにむにむにとアベルの唇を指で弄った。アベルが、むぅーっと不明瞭な声を上げた後、ぱくっと唇に触れているマチューの指を咥えた。熱いアベルの口内に指先が包まれ、そのまま、ねろりねろりと指先を舐められる。ただそれだけなのに、微かに、腰のあたりがぞわっとして、じんわりと下腹部に熱が溜まり始める。
 ここ暫く、論文を書くのに集中していて、自慰をしていない。かなり溜まっているからか、アベルに指を舐められただけで、より鮮明にあの夜の事を思い出して、下腹部がじわじわと熱くなっていく。

 マチューは、アベルの口に含まれた指を更に深く入れて、アベルの熱い上顎をすりすりと指の腹で擦った。


「ん、んぅ……」


 アベルが眠ったまま、小さく気持ちよさそうな声を上げた。熱くぬるついたアベルの口内の感触が、なんだか指に楽しい。
 マチューは、自然と口内に溜まってきた唾をごくんと飲み込み、ゆっくりとアベルの口から指を引き抜いて、アベルの唾液で濡れた指を舐めた。
 すぴーっと寝息を立てているアベルの唇に、そっと唇を触れさせれば、アベルが無意識にか、くちゅっとマチューの唇を吸った。じわぁっと、更に下腹部が熱くなる。マチューは、アベルの真似をして、アベルの唇を吸った。アベルの酒臭い息が鼻を擽る。マチューの息も酒臭いから、お互い様だ。
 マチューは、何度もアベルの唇を吸って、ぬるりとアベルの口内に舌を突っ込んだ。

 夢中でアベルの口内を舐め回していると、カランッと小さな音がした。マチューは、ハッとして、慌ててアベルの口内から舌を抜き、唇を離した。何の音かと思えば、蒸留酒を入れていたグラスの氷が溶けて、グラスにぶつかった音だった。

 マチューは、だらだらと嫌な汗をかき始めた。自分は今、何をした。眠るアベルにキスをしてしまった。アベルの股間をチラッと見れば、もっこり膨らんでいた。自分のペニスも、ゆるく勃起している感覚がする。
 自分は、何でこんな事をしてしまったのだろうか。
 マチューは頭を抱えて、うんうん唸り、飲んで酔って忘れよう! という結論に落ち着いた。蒸留酒を追加で注いで、ぐいっと一息で飲み干す。ふぅっと、息を吐いてから、マチューは、ふと思った。

 とことん飲んで忘れる前に、アベルをベッドに寝かせなければ。マチューは、持っていたグラスをローテーブルの上に置くと、なんとか頑張って、ぐにゃんぐにゃんに力が入っていないアベルの身体を背負った。素直に重い。階段がしんどいんだよなぁ、と思いながら、マチューはよたよたと歩き始めた。
 マチューは、ひぃひぃと荒い息を吐きながら、なんとか階段を上り、アベルの寝室に入った。掛け布団を捲り、アベルをシーツの上に寝かせると、マチューは、ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、すぴーっと寝息を立てているアベルの身体に毛布と掛け布団をかけた。

 なんとなく、アベルの穏やかな寝顔を眺めて、マチューは、アベルの唇に、そっと触れるだけのキスをした。
 静かにアベルの寝室から出て、自分の唇に、指で触れる。何故、自分はアベルにキスをしたのだろうか。ちゃんと理由を考えた方がいいのだろうが、そうすると、あまり気づきたくないことに気づいてしまいそうな気もする。いや、ここはやはり気づいた方がいいのか。

 マチューは、うーんと唸りながら、とりあえず今夜は酒で流してしまおうと、居間に戻って、1人静かに、朝方近くまで酒を飲み続けた。

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