君の腹には愛が詰まっている

丸井まー(旧:まー)

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君の腹には愛が詰まっている

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 エーギルはいそいそと帰り支度をして、足早に職場を出た。
 エーギルは街の役所で働いている。親しみやすい程度に顔が整っている上に愛想がいいからと、就職してからずっとカウンター担当である。カウンターには、色んなお客さんが来る。いい人ばかりではなく、ただ話がしたいだけのお婆ちゃんとか、文句を言いたいだけのおっさんとか、理不尽なことで怒鳴ってくるお爺ちゃんとか、こっちのメンタルがごりごり削れるようなお客さんも少なくない。

 いつでも笑顔を絶やさないようにしているエーギルだが、疲れるものは疲れる。エーギルは金髪碧眼でそれなりに顔が整っているから、そこそこモテるのだが、エーギルには子供の頃からずっと好きな相手がいる。
 エーギルは今日も癒しを求めて、大好きな彼の店へと駆け足で向かった。

 大通りからちょっと離れた場所にある『野兎亭』は、知る人ぞ知る名店である。エーギルの想い人の実家で、エーギルの想い人も働いている。エーギルはいそいそと店のドアを開け、店内に入った。落ち着いた雰囲気の店内を真っ直ぐ歩き、カウンター席に直行すると、エーギルの想い人であるヨーランがおっとりした笑みで出迎えてくれた。


「エーギル。いらっしゃい。今日もお疲れ様―」

「ありがと。ヨーラン。いつものおねがーい」

「はぁーい。父さん。僕が作ってもいい?」

「いいぞ。エーギルだしな」


 カウンターの向こうで手早く料理を作り始めたヨーランを、エーギルはうっとりと眺めた。お仕事しているヨーランは、いつ見ても格好よくて可愛い。格好いい上に可愛いなんて、最高過ぎる。

 ヨーランは、ぽちゃっとした体型をしている。淡い栗毛は癖が強くてくりんくりんで、丸っこい目は柔らかい茶色い瞳をしている。顔立ちも全体的に丸っこい。学生時代は、ヨーランのことを『デブ』だと言って馬鹿にする馬鹿野郎がいたが、ヨーランはデブではない。ぽっちゃりだ。それも清潔感があって、すっごく可愛いぽっちゃりだ。
 初等学校の入学式で出会って、早15年。エーギルは、ヨーランへの片想いを拗らせていた。

 エーギルは、幼い頃は引っ込み思案な子だった。人が多い所が苦手で、知らない人と喋るのも苦手だった。知らない子ばっかりの入学式で泣きそうになっていたところを、優しく手を繋いで、『だいじょうぶだよー』とおっとり笑ってくれたのがヨーランである。その瞬間、エーギルはヨーランに恋をした。

 高等学校を卒業するまでは、ずっとヨーランと一緒にいた。ヨーランは実家の飲食店を継ぐから、エーギルはヨーランの店の従業員になろうかと思ったのだが、役所勤めの両親からの圧力で、渋々街の役所に就職した。

 街の役所に就職して、ある意味正解だったと思う。堅物な両親が住む実家から出て、官舎で一人暮らしができるようになったし、給料がそれなりにいいから、こうして毎日のようにヨーランの手料理を食べることができる。
 ヨーランに自分の想いを伝えたことはない。冗談交じりに『大好き―』くらいは言うが、間違いなく本気にされていない。ヨーランはおっとりさんで優しさの塊なのだが、ちょっと鈍ちんなところがある。

 今日もヨーランが作ってくれた美味しい料理をたらふく食べると、食後に珈琲を飲みながら、エーギルはヨーランに話しかけた。


「ヨーラン。明日は定休日だろ? 俺も明日は休みだから、どっか出かけようぜー」

「いいよー。どこに行く?」

「今、中央広場に劇団が来てるから、芝居でも観に行く?」

「いいねー。お芝居観るの久しぶりだなぁ。楽しみー」


 おっとりのほほんと笑うヨーランが大変可愛らしい。エーギルはでれっと笑いながら、明日の朝、迎えに来ることを約束して、会計をしてから店を出た。本当なら、閉店の時間までヨーランとお喋りしていたいが、長居をしてヨーランの仕事の邪魔をするのはよくない。
 エーギルは、明日はデートだとうきうきしながら、暗くなった道を歩いて家に帰った。

 翌日。エーギルは気合を入れてお洒落をして、ヨーランを迎えに行った。ヨーランは清潔感のある白いシャツに空色のズボン、黒いベストを着ていた。いつもながら清潔感があって、爽やかである。すごく可愛い。
 エーギルはでれっと笑いながら、ヨーランと一緒に中央広場へと向かった。

 中央広場で芝居を観た後、市場をぶらぶら歩きながら、ヨーランがおっとり話しかけてきた。


「お昼ご飯、どうしよっか。よかったら、材料をここで買ってエーギルの家で作るよー」

「是非ともぉ! ヨーランが作るご飯が一番美味しい」

「父さんにはまだまだ敵わないよー」

「おじさんのご飯も美味しいけど、俺的にはヨーランのご飯が一番好きだわー」

「ありがとー。気合入れて作らなきゃね。何が食べたい?」

「むぅ。悩ましいな。ヨーランが作るものはなんでも美味いんだよなぁ……あっ! 貝売ってる。貝とかいっぱいのトマトパスタがいい!」

「いいよぉ。海老やイカも入れて、ちょっと豪勢にしちゃおうか」

「よっしゃ! めちゃくちゃ楽しみー」

「エーギルって、いつもいっぱい食べてくれるけど、全然太らないよね。羨ましいなぁ」

「俺、食べても太らないし、筋肉もつきにくいんだよなぁ。最近、筋トレ頑張ってるんだけど、全然筋肉つかないから心が折れそう」

「ありゃ。それはつらいねぇ。筋肉むきむきになりたいの?」

「筋肉あった方が格好いいかなって思って」

「筋肉なくても、エーギルは格好いいよ? 僕はもうちょっと痩せたいなぁ」

「ありがとう! ヨーランも今のままが一番いいと思うぜ? 柔らかくて優しい感じだし。ヨーランらしい気がする」

「ありがとー。ちょっと照れるなぁ」


 おっとり照れたように笑うヨーランが大変可愛らしい。エーギルはデレデレ笑いながら、ヨーランと一緒に買い物をして、自宅である官舎の一室に向かった。

 エーギルは官舎の三階の角部屋に住んでいる。単身者用の官舎だから、風呂トイレと狭い台所以外は、そこそこ広い一部屋しかない。エーギルの家に来るのはヨーランだけなので、二人掛けのテーブルと椅子を置いている。
 昨夜、隙あらばヨーランを家に呼ぼうと思って部屋を掃除しておいて正解だった。水回りもピカピカにしてある。ヨーランがたまにエーギルの家で料理を作ってくれるので、調味料や調理器具はそれなりに揃っている。

 ヨーランが早速昼食を作り始めたのを、すぐ側で眺める。ヨーランのぷくっとした手が器用に動くところを見るのが楽しい。あと、すぐ側からほんのり香るヨーラン愛用の爽やかな香水の香りに胸がときめく。エーギルは、ヨーランと他愛のないお喋りをしながら、まるで新婚さんみたいだなぁとだらしなく笑った。

 折角の美味しい料理には美味しいワインを、ということで、エーギルは買い置きのワインの中で一番美味しいワインを出した。ヨーランはワインが一番好きなので、ワインは常に常備している。お揃いのワイングラスにワインを注ぎ、乾杯したら、楽しい昼食の始まりである。
 ヨーラン手作りの貝などがたっぷり使ってあるトマトパスタは、本当に美味しかった。味付けがエーギル好みで、ひたすら貝類の旨味しか感じない。とっておきの一つにしていたワインともよく合う。一緒に作ってくれたサラダも、ヨーラン手作りのドレッシングが最高に美味しい。
 エーギルはだらしなく笑って、ヨーランを褒め称えた。


「どれも最高に美味い~! 流石ヨーラン!」

「ありがとー。このワインも美味しいね」

「ヨーランが好きそうだから買ってみたんだけど正解だったなぁ。確かに美味いし、料理にも合う~」

「どれも新鮮だったから、美味しくできてよかったー」

「ヨーラン。食べ終わったらさ、一緒にお昼寝しない?」

「いいねー。贅沢だよねぇ。普段はお昼寝なんてできないし」

「だよなぁ。ヨーランは昼の忙しい時間帯を過ぎても、夜の仕込みで休み暇もないだろ」

「まぁねー。でも、料理を作るのは好きだから、苦ではないかなぁ」

「俺はヨーランのご飯が一番好きー。温かくて優しい味がするもん」

「ありがとー。もっと修行して、エーギルに美味しいものをいっぱい食べてもらわなきゃね」


 ほんのり酒精で赤らんだ顔でおっとり笑うヨーランが可愛くて可愛くて、ちょっと股間の相棒が元気になりそうである。が、我慢だ。ヨーランと一緒のお昼寝というご褒美を前に勃起している場合ではない。エーギルは紳士でありたいのである。ヨーランに無体な真似をする気はないし、そもそも、ヨーランと恋人になりたいだなんて大それたことを考えていない。ただ、ヨーランを好きでいられたら、それで満足なのである。ぶっちゃけ、ヨーランをオカズに抜きまくっているが、それはそれ、これはこれ。神聖なるヨーランをエーギルの汚い欲望で汚しちゃダメなのである。
 エーギルは、ヨーランをいっそ神聖視するレベルで、恋心を拗らせていた。

 一緒に後片付けをすると、2人でベッドに寝転がった。一人用のベッドなので当然狭く、ヨーランと密着しちゃうのだが、完全にご褒美なので問題ない。ベッド横の窓から、暖かい日の光が差し込んでいる。季節は春の半ばなので、柔らかい陽射しが心地よい。
 エーギルはヨーランとくっついたまま、すやぁっと寝落ちた。

 エーギルは、なんだか気持ちよくて意識が浮上した。何故か気持ちがいい。性的な気持ちよさである。具体的に言うと、ペニスに何か熱いぬるついたものが這っている感じがする。童貞のエーギルにとっては初めての感覚で、一気に射精感が高まっていく。
 エーギルは重い瞼を開けて、自分の股間の方を見た。そして叫んだ。


「ヨーランッ!? なにしてんの!? そんなもの舐めちゃダメでしょ! ぺっしなさい! ぺっ! って、はぅあ!?」


 まさかのヨーランがエーギルのペニスを舐めていた。目の前の光景が信じられなくて、エーギルは『これは夢だな』と確信した。夢であっても、ヨーランにペニスを舐めさせるだなんて、自分はなんて罪深いのだろう。だけど、正直めちゃくちゃ興奮します。

 エーギルのペニスから口を離し、エーギルのペニスの竿をぬこぬこ扱きながら、ヨーランがおっとりと笑った。


「エーギル。気持ちいいことしようね」

「ヨ、ヨーラン……そ、そんな……スケベなことはいけませんっ!」

「でも、エーギルのちんちんは元気いっぱいだよ?」

「うっ……だって、ヨーランに触られてるし……」

「先っぽぬるぬるだねー。僕のお口に出そうね」

「はいっ!? あっ、ちょっ、はぅっ、そ、そんな、優しく吸わないでぇ! 出ちゃう! 出ちゃうからっ! あ、あ、む、無理無理無理無理ぃ! 出るっ! うあぁ……」


 ヨーランがエーギルのペニスを扱きながら、パクンと敏感な亀頭を咥え、熱い舌で亀頭を舐め回しながら、器用に優しく吸ってきた。気持ちよ過ぎてヤバい。エーギルは込み上げる射精感に抗うことができず、そのままヨーランの口内に精液をぶちまけた。精液を吐き出しているペニスの尿道口を更にちゅーっと吸われる。気持ちよ過ぎて変な声が出た。

 エーギルが、はぁはぁと荒い息を吐きながら、肘をついて身体を少し起こすと、エーギルの股間から顔を上げたヨーランが大きく口を開いた。ヨーランの赤い舌の上に、エーギルの白い精液がある。ここ最近忙しくて抜いていなかったからか、ジェル状に近い精液だ。

 エーギルが驚いて目を見開いて固まると、ヨーランが楽しそうに目を細めて、口を閉じ、エーギルに見せつけるようにごくんとエーギルの精液を飲みこんだ。嚥下に合わせて、ヨーランの喉仏が微かに動くのを見てしまった。ぶわっと顔が熱くなる。いやらしくて最高過ぎるが、自分はなんという夢をみているのか。もれなくエーギルのペニスはまた勃起した。

 ヨーランがにこーっと笑って、伏せていた身体を起こし、エーギルの股間に跨った。ヨーランはズボンも下着も着ていなかった。思わずヨーランの股間を見ると、可愛らしいサイズのペニスが勃起していた。白くて柔らかそうな太い太腿がなんとも眩しい。エーギルはごくっと唾を飲みこんだ。夢ならば、ヨーランに触れてもいいんじゃないだろうか。

 エーギルはおずおずと手を伸ばし、ヨーランのむっちりした太腿に触れた。ふにっと柔らかくて温かい肌の感触がやけにリアルだ。ヨーランがニコニコ笑って、ベストとシャツも脱ぎ捨てた。色白の柔らかそうな身体が露わになる。


「きゃーー! ヨーランさんっ!?」

「ごめんねー。見苦しい身体で」

「断じてそんなことはないっ!!」

「お腹ぽよんぽよんだよ?」

「君の腹には愛が詰まってるんだよ! すっごく魅力的です!」

「あはっ! ありがとー。エーギル」


 夢ってすごい。こんなにサービスしてくれてもいいのか。両手で熱い顔を覆ったまま、指の隙間から裸のヨーランをじっとガン見する。柔らかそうな胸肉が垂れていて、肉付きのいい腹がぽよんぽよんしている。胸肉の下の方にある乳首は、とんでもなく可愛いベビーピンクで、ちょっぴりぷくっとしていた。可愛らしいサイズの勃起したペニスがなんとも美味しそうで、正直舐め回したくて堪らない。

 エーギルがヨーランの裸体をガン見しまくっていると、ヨーランがエーギルのペニスをぷにぷにの手で掴み、腰を下げ、熱く濡れたところにペニスの先っぽを押しつけた。もしかしてもしかしなくてもヨーランのアナルだろう。ひくひくしているアナルにペニスの先っぽが刺激されて、なんかもう既に射精しそうな勢いで興奮している。

 ヨーランがゆっくりと腰を下ろし始めた。きつい締めつけのところを通り過ぎると、ペニスが熱くて柔らかいぬるついたものに優しく包まれていく。エーギルのペニスを根元近くまでアナルで飲みこんだヨーランが、自分の下腹部を撫でながら、はぁっと大きな息を吐き、うっとりと笑った。


「僕の中に入っちゃった」

「ヨ、ヨーランッ!」

「あぅっ! あぁっ! あっあっあっあっ! あはっ! エーギルッ! すごいっ! すごいっ!」


 エーギルは僅かに残っていたような気がする理性と完全にサヨナラした。これは夢なのだから、ヨーランを好きなだけ愛でても許される。エーギルはヨーランのむにむにの柔らかい尻肉を両手で掴むと、思いっきり下から突き上げ始めた。ヨーランの顔がとろんと蕩けて、気持ちよさそうに喘いでいる。ヨーランの柔らかそうな胸肉や腹肉がゆさゆさ揺れている。半端なく可愛い。

 エーギルはちょっと頑張って腹筋だけで身体を起こすと、腰を振りながら、ヨーランの垂れている胸肉に顔を埋めた。ふにっと柔らかい胸肉は汗でしっとりしていて、最高に滾る。エーギルは本能が赴くままに腰を振りまくりながら、ヨーランのちょっとぷっくりした乳首に吸いついた。技巧なんてない。ただ、ちゅーちゅー吸っているだけだが、ヨーランのアナルは、きゅっとエーギルのペニスを締めつけてきた。


「エーギルッ、きもちいいっ、きもちいいよぉ! もっと! 吸って! あぁっ!」

「んー! 喜んでーー!!」

「あうぅぅっ! いくっ! いっちゃうぅぅぅぅ! ちくびっ、噛んでっ! あぁっ! いっくぅぅぅぅ!」

「ぷはっ! あぁっ……そんな、締められたらっ、出るっ、んーーっ!」


 めちゃくちゃに腰を振りながら、ヨーランの乳首を優しく噛んで引っ張ると、ヨーランの身体がビクンビクンと震え、ぎゅうっときつくアナルが締まった。エーギルは、あまりの気持ちよさに堪えきれず、ヨーランの中に精液をぶちまけた。
 はぁー、はぁー、と荒い大きな息を吐きながら、ヨーランがエーギルの頭を優しく撫でた。ヨーランの顔を見上げれば、ヨーランが慈愛に満ちた笑みを浮かべ、口を開いた。


「上手に出せたねー。エーギル、すごいねー。可愛いなぁ」

「ヨーランの方が可愛い。すごく可愛い。この世に舞い降りし愛の女神様だ」

「あはっ! 太っちょな女神様だなぁ」

「この腹には脂肪と一緒に愛が詰まってるのだよ」

「そっかー。エーギル。お代わり、する?」

「はい喜んでーー!!」


 エーギルは、繋がったままヨーランの身体を押し倒した。ヨーランのちょっと厚めの柔らかい唇に吸いつき、ヨーランの熱い口内をめちゃくちゃに舐め回す。エーギルのペニスは既に完全復活している。エーギルはぬるぬるとヨーランの熱い舌を舐め回しながら、また腰を振り始めた。くぐもったヨーランの喘ぎ声も可愛くて、いやらしくて、正直堪らん。抱きしめている柔らかいぷにぷにした身体が汗ばんでいて、密着しているヨーランの腹肉もとい愛の塊が柔らかくて、ものすっごく興奮するし、気持ちがいい。

 ヨーランがじっとエーギルの瞳を見つめて、唇を触れ合わせたまま囁いた。


「いっぱいいっぱいエーギルをちょうだい」

「よ・ろ・こ・ん・でーー!!」


 エーギルは、なんて幸せな夢なのだろうかと思いながら、ヨーランの愛が詰まった柔らかい身体を夢中で貪った。





――――――
 エーギルは、はっと目が覚めた。すごく幸せな夢をみた。まさかのヨーランとセックスしちゃう夢である。最高な夢だったなぁと思っていると、ふと、あることに気がついた。
 服を着ていない。完全に全裸である。エーギルは、ばっと起き上がって、すぐ隣を見た。
 全裸のヨーランが寝ていた。

 エーギルは混乱しながら、ついついヨーランの腹に手を伸ばし、ヨーランの柔らかい腹肉をむにむに揉んだ。カーテンが開いたままの窓の外に目を向ければ、すっかり暗くなっている。
 夢だけど、夢じゃなかった。その証拠に、自分の身体にもヨーランの身体にも、精液っぽい液体がついた痕がある。ていうか、ヨーランの色白のぷにぷにした身体にも、明らかにキスマークっぽい赤い痕がいっぱいあった。どれも、夢の中でエーギルがつけたものである。

 エーギルは混乱のあまり叫んだ。


「嘘だろマジかよおいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 すぴーっと眠っていたヨーランが、ビクッと身体を震わせ、目を開けて、のろのろとこちらを見上げてきた。混乱の極致にいるエーギルと目が合うと、ヨーランがにこーっと笑った。


「可愛かったよー。エーギル」

「え? え? もしかして夢じゃなかった!?」

「現実だねー」

「俺達セックスしちゃったの!?」

「しちゃったねー。すっごい気持ちよかったー」

「……夢かと思ってた……」

「あははー。もしかしたら、そうかもー? とは思ってたー」

「起こそう!? 引っ叩いてもいいから、そこは起こそう!?」

「えー。エーギルを叩くのはいやだなぁ。僕。エーギル」

「な、なんでしょう……?」

「君、僕のことが好きでしょ?」

「……はい」

「僕もエーギルがずっと好きだよー。だから、ちょっと悪戯しちゃった。えへっ」

「やだ可愛い。……じゃなくてっ! その、あの、本当に俺のこと、好きなの?」

「うん。大好きー」

「あばばばば……やっぱりまだ夢みてる俺っ!」

「現実だよー。てーい」


 ヨーランが起き上がって、エーギルの頬を両手の指で摘まんでみょーんと伸ばした。じんわり痛い。まさか、これは現実なのか。
 エーギルは、おっとり笑っているヨーランをじっと見つめて、ぶわっと顔が熱くなった。ついでに目頭も熱くなる。嬉し過ぎて、本気で泣いちゃいそうである。
 エーギルの頬から手を離したヨーランが、いつものおっとり笑顔で、エーギルの頭を優しく撫でた。


「小さな頃から頑張り屋さんなエーギルが大好きだよ。僕をエーギルの帰る『家』にしてよ。お店は妹の子供の誰かが継ぐだろうから心配ないし、父さんにも、『エーギルと一緒にいたい』ってもう言ってあるんだ。ねぇ。エーギル。僕と一緒に幸せになれるよう頑張ってみない?」

「……うん。うん」

「あははー。泣かないで。エーギル」

「むりぃ。幸せ過ぎて、なんかもう無理ぃ」


 エーギルは我慢の限界がきて、ぼたぼたと涙を零した。本当に嬉しくて、幸せで、涙がとまらない。ヨーランが、えぐえぐ泣くエーギルを抱きしめて、優しく背中を擦ってくれた。


「よしよし。エーギル。僕と一緒に暮らそうね。返事は『はい』だけだよー」

「はいぃぃぃぃっ!」


 エーギルは、ヨーランの愛がたっぷり詰まった柔らかい身体を抱きしめて、えぐえぐ泣きじゃくった。

 10日後。エーギルの家に、ヨーランが引っ越してきた。単身用の官舎でも同棲している者がいるので、ヨーランと一緒に暮らすのは問題ない。エーギルは、『ヨーランと一生一緒に暮らす』と宣言した結果、頭が固い両親から勘当されたが、些事である。ヨーランの両親は、『まぁ、好き合ってるならしょうがない』と、ちょっと呆れた顔で祝福してくれた。それだけで十分である。

 エーギルは、ふわふわ漂う美味しそうな匂いで目が覚めた。ベッドの中から台所を見れば、エプロンを着けたヨーランが楽しそうに料理を作っていた。朝から幸せな光景にだらしなく頬がゆるむ。
 エーギルは起き上がってベッドから下りると、狭い台所に向かい、ヨーランの背中から抱きついた。柔らかい腹をむにむにしながら、ヨーランの頬にキスをする。


「おはよう。ヨーラン。いい匂いー」

「おはよー。エーギル。今朝は野菜いっぱいのスープとパンに目玉焼きをのっけたやつだよー」

「最高! 俺って幸せ者だなぁ。ヨーランのお陰で、毎日幸せ」

「あはは。僕もだよ。さっ。出来上がったから、冷めないうちに食べようね。今日も一日頑張らなきゃ」

「うん。ヨーラン」

「んー?」

「大好き」

「あはっ! 僕も大好き!」


 エーギルは、ヨーランのぷにぷにの頬にキスをして、幸せな朝食の時間を楽しんだ。


(おしまい)
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