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55:各々の始まり

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フィンは寝室のドアが開く音で、ふっと目覚めた。静かに誰かがベッドに近づいてくる気配がして、フィンは半分目を閉じたまま頭だけを動かした。
ベッドに近づいてきたのはマイキーである。今フィンが住んでいる家はマイキーとの新居なので、マイキー以外あり得ない。プロポーズをして約2ヶ月。結婚式はまだしていないが、先週からフィンはマイキーと一緒に暮らし始めた。

両家から結婚の許しを得られ、マイキーと結婚できることになったが、何処に住むかという問題が出てきた。マイキーの実家兼職場は花街にあるし、フィンの実家兼職場は街中にある。その2ヶ所は結構距離があって、毎日どちらかが通勤というのは割と大変だし、店の営業時間がかなり違うので、どうしても色々と生活がすれ違ってしまうことになる。そこで、少しでも一緒にいられる時間を確保する為にも、お互いの仕事の為にも、マイキーの母親アマンダの別の旦那であるバックスから勧められた花街に近い街中の家を借りることにした。少々花街寄りだが、おおよそマイキーの店とフィンの店との中間地点くらいの場所にあり、結構古いが2階建ての一軒家で、狭いが庭もある。1階の1部屋をマイキー専用の簡易工房にしたので、ちょっとした装飾品を作ったり、簡単な修理はすることができる。

結婚の許しをもらいにいった翌週に行われた両家の顔合わせで、マイキーが暇なうちに家を決めた方がいいとなった。更に、なんとマートルが自分の店の定休日を新装開店後は木曜日に変更すると言ってくれた。休みが合わないと2人の時間をゆっくり持てないだろうと。本当にマートルには感謝である。家はその日のうちに、両家の顔合わせの場にも来ていたバックスに紹介されて、ゾロゾロと全員で見に行き、その場で即決した。確かに古いが、淡い赤い壁に緑色の蔦が伸びていて、なんだか絵本に出てくるお家みたいで可愛かったのだ。ただ、古くて水回りが不安なので、大家の許可を得て、水回りだけ改修することにした。その工事が終わり、引っ越しの準備も終わって、引っ越したのが先週である。マイキーは店の方の引っ越し作業もあったので、かなり忙しかった。フィンはフィンで、3週間前にフィルの高等学校の入学試験が行われたので、そのサポートと自分の引っ越し準備でバタバタしていた。無事入学試験も終わり、あとは今週中にある結果発表の通知を待つだけである。正直、フィルがいる間は実家にいて、料理などをしてやりたかったのだが、フィルの家事練習にもなるからと、ドレイクとフィルに言われて、早めの引っ越しを決意した。『伴侶との時間を優先しろ』とも言ってもらえた。本当にありがたい。アリーナとは結婚の許しを得た時以来、会っていない。マイキーに珈琲をかけて暴言を吐いたことをフィンは本当にかなり根に持っている。仮に謝ってきても、絶対に許さない。フィンのことだけならば別にどうでもいいが、大事なマイキーに対する言動はどうにも許しがたい。この事に関して、フィンはアリーナと和解する気がまるでない。来月行われる予定の結婚式にも呼ぶ気がない。
結婚式は来月のフィルの卒業式の2日後に行う。結婚式自体は身内だけで行い、その後の御披露目パーティーはディルムッド達と合同である。ディルムッド達は今年の誕生日で16歳になるので、どうしても正式な入籍は2人の誕生日以降になるが、絶対にフィルに結婚式に参列してほしいということで、結婚式だけ先にすることになった。このタイミングを逃したら、次にフィルに会えるのは夏の高等学校の長期休みの時になる。少しでも早くマイキーを書類上でもフィンの正式な伴侶にしたいし、大事な弟であるフィルに結婚式に来てもらいたいフィンと、別に正式な結婚はどのタイミングでもいいけどフィルに絶対に結婚式に来てもらいたいディルムッドとの間で意見が一致した結果、同じ日に結婚式をして、その後合同で結婚の御披露目パーティーをすることになった。
来週からは結婚式と御披露目パーティーの準備で忙しくなる。マイキーは仕事の勘を取り戻す為の期間だから、多少時間の融通がきく。2人で頑張る予定である。

マイキーが静かにベッドの中に潜り込んできたので、フィンは抱き枕を放して寝返りをうち、マイキーに抱きついた。


「ごめん。起こした?」

「大丈夫です。むしろ起こしてください」

「ちゃんと寝なきゃダメだよ」

「多分2時間?くらいは寝てました。マイキーさん」

「ん?」

「おかえりなさい」

「ただいま」


フィンがマイキーに抱きついたまま、マイキーの唇におかえりのキスをすると、マイキーが擽ったそうに笑った。明日は定休日である。そろそろフィルの試験結果の通知が届く筈だから実家に顔を出したいし、祖父にも会いに行きたい。しかし、マイキーと今すぐセックスがしたい。マイキーは疲れているだろうか。多分疲れている。長く仕事を休んでいたので、やはり細かな勘が鈍っているらしい。店の引っ越しが終わってから、本来の店の営業時間の間はずっとマートルと2人で工房に籠っているのだそうだ。フィンは脚を絡めながら、マイキーの喉仏に鼻先をすりすり擦りつけた。


「マイキーさん。疲れてますよね」

「ん?まぁ多少は」

「……ですよね……」


セックスはしたいが、疲れているマイキーに無理をさせたくない。今夜はキスだけで我慢しよう。フィンはもう1度マイキーの唇にキスをした。


「……フィン」

「はい」

「する?」

「……したいけど、お疲れでしょう?」

「平気平気。全然大丈夫」

「……してもいいですか?」

「勿論」


マイキーがフィンの唇にキスをして、ぬるぅと舌でフィンの唇をなぞった。


「……早く俺に触って」

「はははははいっ!喜んでっ!!」


マイキーはフィンを喜ばせるのが本当に上手だと思う。フィンは興奮し過ぎて鼻息が荒い状態でマイキーの身体に手を這わせ始めた。マイキーの服の下に手を突っ込んで、直接マイキーの肌を撫で回しながら、何度もマイキーの顔中にキスをすると、マイキーが可笑しそうに嬉しそうに笑った。


「ふふっ」

「……なんです?」

「ん?可愛いなと思って」

「マイキーさんの方が可愛いです」

「はははっ。そんなこと言うのはフィンだけだよ」

「マイキーさんの1番可愛いところを知ってるのは僕だけでいいです」

「……ふふっ」


なんだか上機嫌な感じでマイキーがクスクス笑って、フィンの股間にそっと触れてきた。ズボンの上からペニスの形を確かめるように、やんわりと撫でられる。


「……もう勃ってる」

「勃ちますよ。マイキーさんに触ってるんですもの」

「ふふっ。……ん。はぁ、フィン。それ気持ちいい……」

「ここ好きですか?」

「うん……あっ……」


もうピンと立っているマイキーの乳首を指で優しくクリクリすると、マイキーが気持ち良さそうに目を細めて、熱い息を吐いた。正直、マイキーが可愛くて堪らない。もう何度もマイキーとセックスをしているが、毎回マイキーが可愛すぎてやり過ぎてしまっている。今日こそはある程度自重したいが、マイキーにズボン越しにペニスをもみもみされて、舌を舐められると、どうしても興奮してしまう。


「……早くもっと愛して」


唇を触れあわせながら、マイキーが小さく囁いた。フィンは今夜も理性とサヨナラした。






ーーーーーー
中学校の卒業式の2日後の朝。
ディルムッドは街の神殿で白い礼装に身を包んで、同じ格好をしたイーグルと壮年の神官の前に並んで立っていた。背後には各々の家族とディルムッド達にとって1番大事な友達であるフィルがディルムッド達を見守ってくれている。誓いの言葉を交わし、ディルムッドはイーグルと向かい合って、イーグルの手を握った。イーグルと目を合わせると、イーグルが照れたように笑った。くいっとイーグルに手を引かれたので素直に屈めば、少しだけ背伸びをしたイーグルにキスをされた。唇を離して、でも顔を近づけたまま、ディルムッドが鼻先をすりっとイーグルの鼻に擦りつけると、イーグルが嬉しそうに目を細めた。愛い奴め。
ふと、ディルムッドはいいことを思いついた。思いついたままに、イーグルの腰に両腕を回してイーグルを抱き上げた。


「おわっ!?」

「俺達ちょー幸せになりまーす!!」


イーグルを抱き上げたまま、ディルムッドは見守ってくれていた家族達に大きな声で宣言した。神殿の厳かな雰囲気の一室に、たちまち明るい笑い声と拍手が響き渡った。

御披露目パーティーはフィン達と合同で行う。御披露目パーティーに参加してくれる人数が多過ぎてディルムッドの実家の店では入りきらないので、神殿の広い中庭を借りた。
結婚式が終わるなり、ディルムッドはブリアードと一緒に急いで着替えて、神殿の厨房を借りて先に準備を始めてくれている店の従業員である料理人バストと一緒にパーティーで振る舞うご馳走を作り始めた。パーティーのセッティングはケリー一家が手伝ってくれる。今頃イーグル達と一緒にしてくれている筈だ。
現在、フィン達の結婚式が行われている。チラッと覗いたら、マイキー側の親族がめちゃめちゃ多かった。どうやらマイキーの母親の旦那達も異父兄弟達も全員集合状態らしい。ディルムッドの結婚式にもミミンの他2人の旦那と異父兄妹が参列してくれたのだが、あそこまで大人数ではない。御披露目パーティーの打ち合わせの時にフィンから聞いたのだが、マイキーの家は旦那達同士も子供達同士もかなり仲がいいらしい。ディルムッドの家も仲がいい方だと思うが、多分相当珍しいケースなのではないだろうか。
なんにせよ、人数が多い方が楽しい。家族も、パーティーも。ディルムッドは厨房の熱気で汗をかきながら、ひたすら包丁を使い、鍋を振るった。







ーーーーーー
神殿の中庭で御披露目パーティーが始まった。フィンは白い礼服に身を包んで、乾杯の後はマイキーと手を繋いで訪れてくれた人々に挨拶をして回っていた。

ディルムッド達の結婚式のすぐ後に、フィン達も結婚式を行った。
控室で礼服に着替えている時にマートルがやってきた。この日の為に作ったという、マイキーと揃いのピアスとブレスレットをくれた。着替えた後に、ピアスもブレスレットもマートルが着けてくれた。
ピアスは表面に繊細な模様が彫られている少し太めのリングピアスで、裏側にはフィンとマイキーの名前が並んで彫られていた。ブレスレットはシンプルな銀のもので、裏側にはマートルからの祝福の言葉が彫られていた。『永遠なる幸福を2人で』。フィンはぶわっと感情が高まり、思わず泣いてしまった。嬉し過ぎて堪らなかった。
ブレスレットを見てめそめそ泣き出したフィンの肩をマイキーが抱いてくれて、マートルが掌でぐりぐりとフィンの目元や頬を強めに撫でて、涙を拭ってくれた。


「今から泣いてんじゃねぇよ。泣き虫め」

「ぐずっ……ふぁい……」

「ふふん。流石俺だな。ピアスもブレスレットもマジで完璧。マイキー」

「うん」

「この世で誰よりも幸せだと胸張って言えるようになれよ。フィンと2人で」

「……ありがとう。父さん」

「……ま、俺より幸せになるなんざ100年は早ぇけどな。今は俺の方が余裕で1000倍は幸せだぜ」

「ははっ……」

「フィン」

「……はい」

「お前の新しい親父は可愛すぎる嫁と子供達と気の合う旦那連中に囲まれた、ちょー幸せ男なんだからな。お前もその俺を越えて幸せになれよ」

「ふぁ、ふぁいぃぃ……」

「だから泣くなっつーの。泣き虫。泣くならマイキーと2人ん時にしろ。今泣いたら結婚式で顔がひでぇことになるだろうが」

「うぇっ、う、う、ふぁい……」


マートルに軽く頭を叩かれたが、嬉しくて堪らなくて、フィンは結局瞼を少し赤く腫らしたまま結婚式に臨んだ。

気持ちがよい春の風が吹いている。
御披露目パーティーはとても和やかに盛り上がっていて、沢山の笑い声が中庭に響いていた。
フィンはチラッと隣に立って笑っているマイキーを見た。穏やかに、でも本当に嬉しそうに笑っているマイキーを見ているだけで、胸が温かくなる。これから本格的にマイキーと共に歩む人生が始まる。
フィンはマイキーと繋いだ手の指を絡めて、賑やかなパーティーを目を細めて眺めた。まるでフィン達を祝福してくれているかのように、色とりどりの花弁が優しい風でひらひらと舞っていた。


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