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54:とっくに家族
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イーグルがネクタイと格闘している様子を、ディルムッドはもう20分以上眺めている。少し眉間に皺を寄せて、ちょっと唇を尖らせて、なんとか上手くネクタイを着けようと頑張っているのだが、イーグルは結構不器用だ。そもそもスーツを着るのもネクタイを着けるのも初めてだ。ディルムッドも初めてだったが、ブリアードに事前に教えてもらっていたので、普通に出来た。ブリアードに習ったことをディルムッドがイーグルに教えたのだが、イーグルは中々上手くできない。ディルムッドの教え方が悪かったのか、イーグルが不器用過ぎるのか。多分両方な気がする。
ディルムッドは鏡の前でネクタイと格闘しているイーグルの背後に立ち、後ろから抱き締めるような体勢で、イーグルの手からネクタイを取って、さくっとネクタイをきっちり着けてやった。ついでにぎゅっとイーグルを抱き締めて、イーグルの頬にキスをした。鏡を見れば、イーグルが真っ赤な顔をしている。ちょっとした悪戯心で、抱き締めたままイーグルのうなじに唇を寄せて、軽く吸いつくと、イーグルの身体がビクッと震えた。
「あっ……」
「感じた?」
「……やめろ、のっぽっぽ。勃つだろ」
「勃ってもいいよー」
「よくねぇよ。今からお前ん家に挨拶に行くのに」
「ふふっ。そんなに気合い入れなくてもいいのに。もう結婚の許可はもらってるようなもんじゃん」
「こういうのはきっちりやっとかないとダメなんだよ。礼儀だぞ」
「そんなもん?」
「そうだよ」
イーグルは本当にしっかりしている。今日は双子の弟達も連れて、イーグルがディルムッドの両親に結婚の許しをもらいに行く。イーグルはこの日の為にわざわざスーツを買ったし、双子の弟達にもキチンとした子供用の礼装を買っていた。
ディルムッドは抱き締めていたイーグルを離し、近くに置いていたイーグルのジャケットを手にとって、イーグルに着せた。イーグルの正面に回り、ジャケットのボタンを閉めて、ネクタイを整える。ディルムッドはスーツを着たイーグルを上から下まで眺めて、うん、と1つ頷いた。
「スーツに着られてるね!」
「うるせぇ」
「初々しい感じがなんか可愛い」
「……可愛くはねぇし」
「イーグルは可愛いよ?」
「……可愛くねぇし」
「んー……まぁ、イーグルが可愛いのは俺だけ知ってればいいかな?」
「…………のっぽっぽめ……」
イーグルが真っ赤な顔で手を伸ばしてディルムッドの頬を摘まんでむにむにしてきた。照れているらしい。むふふふ……とディルムッドは思わず笑ってしまった。本当にイーグルのこういうところが可愛いと思う。
双子の弟達の準備もできたら、ディルムッドの家に行く。ブリアードが気合いを入れてご馳走を作ると言っていたので、すごく楽しみだ。
ディルムッドはご機嫌に緊張でガチガチなイーグルと手を繋いで、同じく何故か緊張している双子の弟達を連れて、もはや我が家となっているイーグルの家を出た。
ディルムッドの家に着くと、玄関先でミミンから熱烈な歓迎を受けた。全員ミミンから抱き締められて、頬にキスをされた。ディルムッドは普通に慣れているが、イーグル達は真っ赤になってどきまぎしている。端から見ていて、ちょっと面白い。
居間は色紙などで作った飾りで飾り付けられていて、大きな紙に『祝!家族が増えるぞ!』と書かれたものが壁にでかでかと貼ってあった。ブリアードの字だから、間違いなくブリアードがやったのだろう。ソファーの前のローテーブルの上は隙間がない程様々なお菓子や軽食の皿でいっぱいで、間違いなくお茶のカップを置けない。やり過ぎ感が半端ない。祖父のバーナードと叔父ムリーニア、従兄弟のニーケも来ていた。居間に入るなりポカンとして固まった三兄弟をずるずる引きずって、ディルムッドは三兄弟と並んでソファーに座った。対面にはブリアード達が座っている。ソファーに座りきれないバーナード達は食卓の椅子を持ってきて座った。
「いっぱい作ったから好きなの食えよ。遠慮はするなよ」
「え、あ、はい……いただきます」
「うっふふー!ねぇ、結婚式はいつするの?御披露目パーティーはブリアードのお店で派手にやりましょうよー。他の旦那も子供達もお祝いしたいって言ってるし!」
「うちの店で酒を仕入れておくよ。兄貴はザル越えてワクだし。樽で仕入れておく」
「頼んだ。ムリーニア。……イーグル」
「は、はい」
「ディルをよろしくな。それから、イーグルもドーグもバーグも、もう俺達の家族なんだ。遠慮はするな。いつでも頼るんだぞ。それにいつでも遊びに来ていいんだからな。こっちは嬉しいだけだ」
「…………っはい」
「ねぇ、イーグル。もうね、貴方1人で頑張らなくてもいいのよ?ディルは勿論、私達だっているの。ドーグもバーグもよ?楽しい時も寂しくて辛い時も、側にいるのが家族なの。イーグルは一応今年で成人するけど、貴方達はまだまだ子供なの。家族に甘えるのがお仕事なの。職務放棄はしちゃダメよ?ちゃんと甘えなさい。辛いことがあったら、家族にちゃんと甘えて、それから前を向いて歩いていくの。とっても簡単なことよ。『抱きしめて』って、言えばいいだけだもの。何があっても、家族にむぎゅうって抱きしめられたら、きっと辛いことなんか忘れちゃうんだから!いくらだって前に進めるのよ」
「ミミンの言うとおり。いつでもおいで。伊達に筋トレを何十年も続けていない。お前達くらい余裕で抱き上げられるぞ、俺」
「ブリアード、本当にいい筋肉してるものね!!あ、でも最近はディルもかなりいい感じよね!イーグルも一緒に筋トレしてるんでしょ?ちょっと脱いでみようか!みーせーてっ!」
「あー……うん。ミミン。それは後でな」
「えぇー!いいじゃなーい!見たい!見たい!」
「はいはい」
普通に通常営業な両親から視線を放してすぐ横に座るイーグルを見ると、イーグルは泣くのを我慢しているような顔をしていた。ドーグとバーグもだ。ディルムッドはとりあえず3人の頭を撫でて、ブリアードが作ってくれた大量のお菓子を3人に食べさせた。『はい、あーん』で強制的に。美味しいものを食べると、それだけで笑顔になれちゃうのだ。3人とも笑顔の方が可愛い。ディルムッドは餌付けをするかのように、せっせと3人の口に甘いお菓子を押しつけた。『あら、楽しそうね。あたしもやるー』と言い出したミミンやマクラーレン、ニーケも参戦して、目を白黒させている三兄弟にしこたまお菓子や軽食を食べさせまくった。お菓子で満腹になりすぎて、その後の昼食は3人とも殆んど食べられなかったが、最終的に3人とも笑ってくれたのでよしとする。残った料理はお土産ということで持って帰ることにした。
ディルムッドの家で賑やかな時間を過ごしてから、夕方にイーグルの家に帰り着いた。玄関に入るなり、我慢が限界に達したのか、3人揃って泣き出した。ディルムッドは慌てて3人まとめて、ぎゅうぎゅうと抱き締めた。どうやら、ブリアードやミミン達の言葉や態度が嬉し過ぎたらしい。感極まったというやつっぽい。ディルムッドは3人が泣き止むまで、ずっと抱き締めていた。
泣き止んだ3人が疲れたのか眠そうにしていたので、居間に布団を運んで、今日は全員で居間で寝ることにした。ディルムッドを真ん中にして、布団に皆で寝転がるなり、イーグルもドーグもバーグも寝てしまった。1時間近く泣いていたし、本当に疲れたのだろう。まだ日が落ちたばかりの時間で、ディルムッドは眠れそうにない。穏やかな3人分の寝息を聞きながら、ぼんやり天井を見上げていると、玄関の呼び鈴が鳴った。眠るイーグル達を起こさないように、そっと布団から抜け出して、ディルムッドは玄関へと向かった。
玄関のドアを開けると、イーグルの叔父チーザがいた。
「あ、叔父さん。こんばんはー」
「こんばんは。ディル。イーグルの端末に連絡したんだけど、返信がなくて」
「イーグルなら寝てます。ドーグとバーグも」
「え?昼寝……には遅いよね?」
「泣き疲れちゃったみたいで」
「泣き疲れた?その、今日はディルの家に行ったんだろう?……何か、あったのかい?」
ディルムッドは昼間の実家でのことを素直に全部チーザに話した。話を聞き終えると、チーザが本当に嬉しそうに笑った。
「……ディルの家族は本当に素晴らしいね。優しくて、器が大きい」
ディルムッドはチーザの言葉にキョトンとして、首を傾げた。
「叔父さんも、もう家族ですよ?まだちゃんと入籍も結婚式もしてないけど。でも俺達の結婚に賛成してくれたし。叔父さんもじいちゃんもとっくに家族じゃん」
何故かチーザが驚いたように目を見開いた。そして、なんだか泣きそうな顔で笑った。
「……君も、君のご両親も、俺達には眩しすぎるくらい本当に優しいな」
「……?普通だと思いますけど」
「ははっ……ディル。少し話そう。イーグル達は居間で寝ているのだろう?外で構わないかい?」
「全然大丈夫です。筋肉あるんでっ!」
「はははっ」
ディルムッドはチーザと一緒に庭に行き、家の壁を背に地面に並んで座った。
「煙草吸ってもいい?」
「どうぞー」
「ディルもいる?」
「んー……止めときます。ぶっちゃけ興味はあるんですけど、舌が鈍るから煙草は絶対に吸うなって、父さんから言われてるんです」
「あ、そうか。ごめんね」
「いえいえー」
「ふふっ。もう『家族』なんだろ?敬語じゃなくて普通に話してよ」
「はーい」
チーザがなにやら嬉しそうな顔でそう言うので、ディルムッドは素直に頷いた。チーザがコートのポケットから煙草の箱と魔導ライターを取り出し、煙草を1本咥えて火をつけた。煙草に火をつける仕草がなんだか格好いい。大人の男って感じで、なんだか憧れる。
ディルムッドがキラキラした目で煙草を吸うチーザの横顔を見ていると、煙草の煙を細く長く吐き出したチーザが口を開いた。
「俺ね、兄貴のことガキの頃から大嫌いだったんだよね」
「俺もイーグルの父さんの事は嫌い。2度と帰ってこなくていい」
「本当にね。……兄貴はガキの頃から本当に自分勝手で、横暴で、人の気持ちなんか考えない奴でさ。兄貴が嫌いだったから中学を卒業と同時に家を出たんだ。一応義理で兄貴の結婚式には出たけどさ。兄貴の嫁にも子供にも全然興味なかったんだ。……親父がほぼ1人で面倒みてるってのは勿論知ってた。親父が兄貴や兄貴の嫁に我慢できなくなって俺の家に住み始めて、それでもイーグル達の世話をしに毎日のように通ってさ。……双子が歩き出す頃に、初めて甥っ子達と会ったんだよ。それまで興味がなくてね。親父にくっついて会いに行ったのは本当に気紛れでさ。途中で適当なぬいぐるみを1個、手土産として買ったんだ。それをイーグルにやったらさ。『可愛いから、ドーグとバーグにあげていい?』って聞いてくるんだよ。俺がプレゼントだって差し出した時は本当にめちゃくちゃ嬉しそうな顔してたのに。後で親父から聞いたら、イーグルは誕生日プレゼントを含め、両親からはプレゼントってもんを貰ったことがなかったんだと。俺の親父だけが毎年プレゼントをあげてて。でも、殆んど貰ったことがないプレゼントを自分の弟達にやったんだよ。双子が喜ぶだろうからって。イーグルはまだ6歳くらいだった。自分だって、プレゼントも可愛いぬいぐるみも欲しい年頃だろう?なのに、自分のことを後回しにして、弟達にやったんだよ」
「…………」
「……後悔したよ。もっと早くに興味をもって、家族としてちゃんと愛してやれていればって。兄貴達は普通の家族としての愛情をイーグル達に注いでなかった。2人とも本当に自分勝手で……結局2人揃ってあの子達を捨てやがった」
「…………」
「……ディル」
「うん」
「あの子達を愛してくれ。『家族』として大切にしてくれ」
「叔父さん。あのさ」
「……うん」
「イーグルもドーグもバーグも叔父さんもじいちゃんも、とっくに俺の家族だよ」
「……そうか……」
「心配しなくても、イーグルは勿論、皆まとめて大事にするよ。だって家族だもん」
「……うん」
「という訳で」
「ん?」
「うりゃーっ」
「んっ!?ちょっ!?ディル!?」
ディルムッドは横からチーザを抱き締めた。困惑して慌てた様子なチーザを宥めるように、抱き締めたまま、チーザの背中を擦った。
「悲しい時も辛い時も抱き締めてもらうのが1番いいんだよー」
「……ははっ……イーグルは本当にいい男を捕まえたもんだな」
「でっしょー!でも残念!俺はもうイーグルのもんだもんね!惚れちゃダメだぜい!」
「はははっ!……ディル」
「なにー?」
「イーグルと、……俺達と家族になってくれて、ありがとう」
「こちらこそ!」
ディルムッドは、なんだか泣きそうな顔で、でも嬉しそうに笑うチーザに、にっと笑ってみせた。
もう皆ディルムッドの大事な家族だ。家族は多い方が賑やかで楽しいのだ。
何があっても、まとめて抱き締めてやんよ!
ディルムッドは鏡の前でネクタイと格闘しているイーグルの背後に立ち、後ろから抱き締めるような体勢で、イーグルの手からネクタイを取って、さくっとネクタイをきっちり着けてやった。ついでにぎゅっとイーグルを抱き締めて、イーグルの頬にキスをした。鏡を見れば、イーグルが真っ赤な顔をしている。ちょっとした悪戯心で、抱き締めたままイーグルのうなじに唇を寄せて、軽く吸いつくと、イーグルの身体がビクッと震えた。
「あっ……」
「感じた?」
「……やめろ、のっぽっぽ。勃つだろ」
「勃ってもいいよー」
「よくねぇよ。今からお前ん家に挨拶に行くのに」
「ふふっ。そんなに気合い入れなくてもいいのに。もう結婚の許可はもらってるようなもんじゃん」
「こういうのはきっちりやっとかないとダメなんだよ。礼儀だぞ」
「そんなもん?」
「そうだよ」
イーグルは本当にしっかりしている。今日は双子の弟達も連れて、イーグルがディルムッドの両親に結婚の許しをもらいに行く。イーグルはこの日の為にわざわざスーツを買ったし、双子の弟達にもキチンとした子供用の礼装を買っていた。
ディルムッドは抱き締めていたイーグルを離し、近くに置いていたイーグルのジャケットを手にとって、イーグルに着せた。イーグルの正面に回り、ジャケットのボタンを閉めて、ネクタイを整える。ディルムッドはスーツを着たイーグルを上から下まで眺めて、うん、と1つ頷いた。
「スーツに着られてるね!」
「うるせぇ」
「初々しい感じがなんか可愛い」
「……可愛くはねぇし」
「イーグルは可愛いよ?」
「……可愛くねぇし」
「んー……まぁ、イーグルが可愛いのは俺だけ知ってればいいかな?」
「…………のっぽっぽめ……」
イーグルが真っ赤な顔で手を伸ばしてディルムッドの頬を摘まんでむにむにしてきた。照れているらしい。むふふふ……とディルムッドは思わず笑ってしまった。本当にイーグルのこういうところが可愛いと思う。
双子の弟達の準備もできたら、ディルムッドの家に行く。ブリアードが気合いを入れてご馳走を作ると言っていたので、すごく楽しみだ。
ディルムッドはご機嫌に緊張でガチガチなイーグルと手を繋いで、同じく何故か緊張している双子の弟達を連れて、もはや我が家となっているイーグルの家を出た。
ディルムッドの家に着くと、玄関先でミミンから熱烈な歓迎を受けた。全員ミミンから抱き締められて、頬にキスをされた。ディルムッドは普通に慣れているが、イーグル達は真っ赤になってどきまぎしている。端から見ていて、ちょっと面白い。
居間は色紙などで作った飾りで飾り付けられていて、大きな紙に『祝!家族が増えるぞ!』と書かれたものが壁にでかでかと貼ってあった。ブリアードの字だから、間違いなくブリアードがやったのだろう。ソファーの前のローテーブルの上は隙間がない程様々なお菓子や軽食の皿でいっぱいで、間違いなくお茶のカップを置けない。やり過ぎ感が半端ない。祖父のバーナードと叔父ムリーニア、従兄弟のニーケも来ていた。居間に入るなりポカンとして固まった三兄弟をずるずる引きずって、ディルムッドは三兄弟と並んでソファーに座った。対面にはブリアード達が座っている。ソファーに座りきれないバーナード達は食卓の椅子を持ってきて座った。
「いっぱい作ったから好きなの食えよ。遠慮はするなよ」
「え、あ、はい……いただきます」
「うっふふー!ねぇ、結婚式はいつするの?御披露目パーティーはブリアードのお店で派手にやりましょうよー。他の旦那も子供達もお祝いしたいって言ってるし!」
「うちの店で酒を仕入れておくよ。兄貴はザル越えてワクだし。樽で仕入れておく」
「頼んだ。ムリーニア。……イーグル」
「は、はい」
「ディルをよろしくな。それから、イーグルもドーグもバーグも、もう俺達の家族なんだ。遠慮はするな。いつでも頼るんだぞ。それにいつでも遊びに来ていいんだからな。こっちは嬉しいだけだ」
「…………っはい」
「ねぇ、イーグル。もうね、貴方1人で頑張らなくてもいいのよ?ディルは勿論、私達だっているの。ドーグもバーグもよ?楽しい時も寂しくて辛い時も、側にいるのが家族なの。イーグルは一応今年で成人するけど、貴方達はまだまだ子供なの。家族に甘えるのがお仕事なの。職務放棄はしちゃダメよ?ちゃんと甘えなさい。辛いことがあったら、家族にちゃんと甘えて、それから前を向いて歩いていくの。とっても簡単なことよ。『抱きしめて』って、言えばいいだけだもの。何があっても、家族にむぎゅうって抱きしめられたら、きっと辛いことなんか忘れちゃうんだから!いくらだって前に進めるのよ」
「ミミンの言うとおり。いつでもおいで。伊達に筋トレを何十年も続けていない。お前達くらい余裕で抱き上げられるぞ、俺」
「ブリアード、本当にいい筋肉してるものね!!あ、でも最近はディルもかなりいい感じよね!イーグルも一緒に筋トレしてるんでしょ?ちょっと脱いでみようか!みーせーてっ!」
「あー……うん。ミミン。それは後でな」
「えぇー!いいじゃなーい!見たい!見たい!」
「はいはい」
普通に通常営業な両親から視線を放してすぐ横に座るイーグルを見ると、イーグルは泣くのを我慢しているような顔をしていた。ドーグとバーグもだ。ディルムッドはとりあえず3人の頭を撫でて、ブリアードが作ってくれた大量のお菓子を3人に食べさせた。『はい、あーん』で強制的に。美味しいものを食べると、それだけで笑顔になれちゃうのだ。3人とも笑顔の方が可愛い。ディルムッドは餌付けをするかのように、せっせと3人の口に甘いお菓子を押しつけた。『あら、楽しそうね。あたしもやるー』と言い出したミミンやマクラーレン、ニーケも参戦して、目を白黒させている三兄弟にしこたまお菓子や軽食を食べさせまくった。お菓子で満腹になりすぎて、その後の昼食は3人とも殆んど食べられなかったが、最終的に3人とも笑ってくれたのでよしとする。残った料理はお土産ということで持って帰ることにした。
ディルムッドの家で賑やかな時間を過ごしてから、夕方にイーグルの家に帰り着いた。玄関に入るなり、我慢が限界に達したのか、3人揃って泣き出した。ディルムッドは慌てて3人まとめて、ぎゅうぎゅうと抱き締めた。どうやら、ブリアードやミミン達の言葉や態度が嬉し過ぎたらしい。感極まったというやつっぽい。ディルムッドは3人が泣き止むまで、ずっと抱き締めていた。
泣き止んだ3人が疲れたのか眠そうにしていたので、居間に布団を運んで、今日は全員で居間で寝ることにした。ディルムッドを真ん中にして、布団に皆で寝転がるなり、イーグルもドーグもバーグも寝てしまった。1時間近く泣いていたし、本当に疲れたのだろう。まだ日が落ちたばかりの時間で、ディルムッドは眠れそうにない。穏やかな3人分の寝息を聞きながら、ぼんやり天井を見上げていると、玄関の呼び鈴が鳴った。眠るイーグル達を起こさないように、そっと布団から抜け出して、ディルムッドは玄関へと向かった。
玄関のドアを開けると、イーグルの叔父チーザがいた。
「あ、叔父さん。こんばんはー」
「こんばんは。ディル。イーグルの端末に連絡したんだけど、返信がなくて」
「イーグルなら寝てます。ドーグとバーグも」
「え?昼寝……には遅いよね?」
「泣き疲れちゃったみたいで」
「泣き疲れた?その、今日はディルの家に行ったんだろう?……何か、あったのかい?」
ディルムッドは昼間の実家でのことを素直に全部チーザに話した。話を聞き終えると、チーザが本当に嬉しそうに笑った。
「……ディルの家族は本当に素晴らしいね。優しくて、器が大きい」
ディルムッドはチーザの言葉にキョトンとして、首を傾げた。
「叔父さんも、もう家族ですよ?まだちゃんと入籍も結婚式もしてないけど。でも俺達の結婚に賛成してくれたし。叔父さんもじいちゃんもとっくに家族じゃん」
何故かチーザが驚いたように目を見開いた。そして、なんだか泣きそうな顔で笑った。
「……君も、君のご両親も、俺達には眩しすぎるくらい本当に優しいな」
「……?普通だと思いますけど」
「ははっ……ディル。少し話そう。イーグル達は居間で寝ているのだろう?外で構わないかい?」
「全然大丈夫です。筋肉あるんでっ!」
「はははっ」
ディルムッドはチーザと一緒に庭に行き、家の壁を背に地面に並んで座った。
「煙草吸ってもいい?」
「どうぞー」
「ディルもいる?」
「んー……止めときます。ぶっちゃけ興味はあるんですけど、舌が鈍るから煙草は絶対に吸うなって、父さんから言われてるんです」
「あ、そうか。ごめんね」
「いえいえー」
「ふふっ。もう『家族』なんだろ?敬語じゃなくて普通に話してよ」
「はーい」
チーザがなにやら嬉しそうな顔でそう言うので、ディルムッドは素直に頷いた。チーザがコートのポケットから煙草の箱と魔導ライターを取り出し、煙草を1本咥えて火をつけた。煙草に火をつける仕草がなんだか格好いい。大人の男って感じで、なんだか憧れる。
ディルムッドがキラキラした目で煙草を吸うチーザの横顔を見ていると、煙草の煙を細く長く吐き出したチーザが口を開いた。
「俺ね、兄貴のことガキの頃から大嫌いだったんだよね」
「俺もイーグルの父さんの事は嫌い。2度と帰ってこなくていい」
「本当にね。……兄貴はガキの頃から本当に自分勝手で、横暴で、人の気持ちなんか考えない奴でさ。兄貴が嫌いだったから中学を卒業と同時に家を出たんだ。一応義理で兄貴の結婚式には出たけどさ。兄貴の嫁にも子供にも全然興味なかったんだ。……親父がほぼ1人で面倒みてるってのは勿論知ってた。親父が兄貴や兄貴の嫁に我慢できなくなって俺の家に住み始めて、それでもイーグル達の世話をしに毎日のように通ってさ。……双子が歩き出す頃に、初めて甥っ子達と会ったんだよ。それまで興味がなくてね。親父にくっついて会いに行ったのは本当に気紛れでさ。途中で適当なぬいぐるみを1個、手土産として買ったんだ。それをイーグルにやったらさ。『可愛いから、ドーグとバーグにあげていい?』って聞いてくるんだよ。俺がプレゼントだって差し出した時は本当にめちゃくちゃ嬉しそうな顔してたのに。後で親父から聞いたら、イーグルは誕生日プレゼントを含め、両親からはプレゼントってもんを貰ったことがなかったんだと。俺の親父だけが毎年プレゼントをあげてて。でも、殆んど貰ったことがないプレゼントを自分の弟達にやったんだよ。双子が喜ぶだろうからって。イーグルはまだ6歳くらいだった。自分だって、プレゼントも可愛いぬいぐるみも欲しい年頃だろう?なのに、自分のことを後回しにして、弟達にやったんだよ」
「…………」
「……後悔したよ。もっと早くに興味をもって、家族としてちゃんと愛してやれていればって。兄貴達は普通の家族としての愛情をイーグル達に注いでなかった。2人とも本当に自分勝手で……結局2人揃ってあの子達を捨てやがった」
「…………」
「……ディル」
「うん」
「あの子達を愛してくれ。『家族』として大切にしてくれ」
「叔父さん。あのさ」
「……うん」
「イーグルもドーグもバーグも叔父さんもじいちゃんも、とっくに俺の家族だよ」
「……そうか……」
「心配しなくても、イーグルは勿論、皆まとめて大事にするよ。だって家族だもん」
「……うん」
「という訳で」
「ん?」
「うりゃーっ」
「んっ!?ちょっ!?ディル!?」
ディルムッドは横からチーザを抱き締めた。困惑して慌てた様子なチーザを宥めるように、抱き締めたまま、チーザの背中を擦った。
「悲しい時も辛い時も抱き締めてもらうのが1番いいんだよー」
「……ははっ……イーグルは本当にいい男を捕まえたもんだな」
「でっしょー!でも残念!俺はもうイーグルのもんだもんね!惚れちゃダメだぜい!」
「はははっ!……ディル」
「なにー?」
「イーグルと、……俺達と家族になってくれて、ありがとう」
「こちらこそ!」
ディルムッドは、なんだか泣きそうな顔で、でも嬉しそうに笑うチーザに、にっと笑ってみせた。
もう皆ディルムッドの大事な家族だ。家族は多い方が賑やかで楽しいのだ。
何があっても、まとめて抱き締めてやんよ!
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