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49:マイキーの決断と暴走

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マイキーは間借りしている部屋で腕立て伏せをしながら、フィンのことばかりを考えていた。今日は新年3日目である。昨日と今日はフィンは家族と過ごす。明日はマイキーがフィンの家に迎えに行って、一緒にここで酒を飲んで過ごす予定である。

フィンにプロポーズをされた。何故か反射的に頷いてしまって、その場で触れるだけのキスをされた。照れたように嬉しそうに笑うフィンと共に朝日が完全に昇るまで木の上で過ごし、明るくなってから木から下りた。木の下でフィンが用意した新年のご馳走を食べながら、のんびり酒を楽しみ、夕方になると手を繋いで街へと帰った。

何故、自分は頷いてしまったのだろうか。フィンのことは確かに好きだ。可愛い弟分である。1人は寂しいと思っていた。そろそろ前に進みたいとも思っていた。だから頷いてしまったのだろうか。なんだか自分が不誠実な気がする。フィンの好意を利用しているだけのような気がして、時間が経てば経つ程、じくじくと罪悪感のようなものが胸を刺す。自分は寂しいからフィンからのプロポーズを渡りに船だと受けたのだろうか。

マイキーは腕立て伏せを止め、床にべったり寝転がった。床に頬をつけ、ベッドの方を向いて、ぼんやり考える。
フィンと結婚するとなると、色々とクリアしなければならないことがある。マイキーもフィンも一応跡取りだ。マイキーは自分の子供はカーラにフラれた時点で諦めていたので、弟子に店を譲ればいいと思っていた。コリンが本当にセンスがあるし、本人も装飾品を作るのが好きで将来は職人になりたいと言ってくれているので、マイキーの方は問題ない。マートルが何と言うかが分からないので、マイキー側の1番の問題はマートルの反応だろう。フィンの方は弟のフィルがいる。フィルが女と結婚して子供をつくってくれたら、血縁にフィンの跡を継がせることができるだろう。こちらも懸念なのはフィンの父親の反応だ。双方から反対されたらどうしようか。
あと、マイキー的に1番頭を悩ませているのは、夜の夫婦生活である。どっちがどっちなんだ。というか、本当に自分はフィンとセックスができるのだろうか。全く自慢にならないが、マイキーは今年で29歳になるというのに童貞で処女である。舌を入れる深いキスだってしたことがないし、フィン以外だと、キス魔の弟イザークと触れるだけのキスをしたことがあるだけだ。経験値はゼロに等しい。フィンより10も年上なのに、リードの1つもできる気がしない。知識は多分人並み以上にある。他人のセックスをうっかり見たこともある。よって、やり方は普通に分かる。しかし、フィン相手に自分は勃起するのだろうか。そして大きな問題がある。フィンの痔である。イボ痔の手術をしてから、今のところ新たな痔はまだできていないらしい。しかし、元々痔ができやすい体質らしいフィンは、今後も痔になる可能性が捨てきれない。マートルだって何度も痔になっている。手術をした同じ場所に痔ができる可能性は低いらしいが、アナルに負担をかけ続けていればゼロではないし、別の場所にできる可能性がある。フィンは何年も人知れず痔に苦しんできたので、新たな痔ができる要因は減らしたい。そうなるとマイキーがフィンに抱かれるという選択肢しかない。ないのだが、伴侶がいるのに一生童貞のままというのも正直複雑なものがあるし、何よりフィンは巨根と言ってもいいレベルでぺニスが大きい。あの大きさを未使用のアナルで受け入れるとか普通に無理だろう。絶対裂ける。今度はマイキーが痔になってしまう。いっそ触りっこくらいにして、セックス本番をしなければいいのかもしれないが、マイキーが好きだというフィンはセックスがしたいだろうし、マイキーだって興味がない訳じゃない。
マイキーはむぅ、と唇を尖らせた。セックスさえできてしまえば、後は割となんとかなりそうな気がするのだ。フィンと一緒に過ごすのは楽しいし、とても心地よい。フィンが可愛くて堪らないし、もっともっと可愛がって甘やかしてやりたいと素直に思う。多分、気持ち的にはフィンと夫婦になっても問題ない。だからこそ、1番の問題は身体の方なのだ。いっそ自分でアナルを拡張してしまおうか。

マイキーの自宅と店舗、ついでにやってもらっている工房の改築は新年明けて約1ヶ月程で終わる。それから、今はマートルの知人から借りている倉庫に置いている売り物の装飾品や材料、道具、自宅で使っている家具その他を何度かに分けて運び込み、開店と生活ができるようにするのに、のんびりやって約2週間。改築の準備期間も含めたら約4ヶ月間本格的な装飾品作りができていない。そんな長期間やらなかったことはないので、絶対に細かな勘が鈍っている。その勘を取り戻す為に約1ヶ月半。店の新装開店は春先に行われる予定になっている。改築が終わったら慌ただしくなる。ゆっくりアナルを拡張している暇なんてないし、そもそも忙しくてフィンと会える日が少なくなる。結婚するとなると、どうしても店の方が落ち着いてからになる。結婚するまで清い関係でいて、実際に結婚してから、ゆっくり2人で身体を繋げる為の準備をするのが1番いい気はする。しかしである。フィンは若くて美しい。フィンが早々と心変わりするとはまるで思っていないが、マイキーは見た目が本当に普通だし、三十路手前でオッサンと言われてもおかしくない歳である。正直あまり自分に自信がもてない。フィンはマイキーのどこがよくてプロポーズをしたのだろうか。全く分からない。本人に聞けば良いのだろうが、『俺のどこが好き?』なんて発言をするのは恥ずかしすぎて無理である。
いっそ自力でアナルを拡張して、フィンが1年の間で1番ゆっくりできる年明けの休み期間中にセックスをしてしまおうか。今からなら、フィンが来るまでに丸1日はある。1日でアナルを拡張するなんて正直かなり無茶だと思うが、時間が経てば経つ程、自分が怖じ気づいてしまうんじゃないかと危惧している。それならばいっそ勢い任せでやってしまった方がマシな気がする。フィンとセックスをして動けなくなろうが、痔になろうが、あと約1ヶ月間はマイキーは休みなのだ。どうにでもなる。マイキーは腹をくくった。今日1日でなんとか自力でアナルを拡張しよう。
マイキーは床から起き上がり、とりあえず必要なものを揃える為に財布を持って部屋を出た。

部屋から出て廊下を歩いていると、大きな欠伸をしているイザークを発見した。声をかけてみれば、ものすごく忙しい時期だが、今日は客が帰ったし次の予約客が来るまで半日は休めると言ったので、無理矢理拡張に必要な道具を売っている店へと連行した。
所謂大人の玩具屋で卑猥な物体を前に真剣な顔をしているマイキーを、イザークが呆れた顔で見た。


「マイキー兄ちゃん。急になんなの」

「フィンにプロポーズされたんだよ」

「おー。やっぱりそうなった?で?フィンを抱くための準備をしに来たの?」

「いや。俺を拡張する」

「は?」

「今日1日でフィンのを挿れられるようにする」

「はぁぁぁぁっ!?今日1日!?マイキー兄ちゃん処女でしょ!?無茶だよ!フィンのちんこは初心者サイズじゃないって!」

「なんとかする。だから道具を選んでくれ。ていうか、何でフィンのサイズが分かるんだ?」

「俺が何年娼夫やってると思ってんの。服の上からでも余裕で予想できるし」

「マジか。すげぇ」

「まぁね。来年で娼夫歴10年だし?完全にプロよ。プロ……じゃなくて、マジで今日だけで拡張する気?」

「うん。改築終わったら休みがほぼ確実に合わなくなるし。結婚してからってのも考えたけど、まぁ早いうちがいいかな、と思って」

「ふーん。……しょうがないなぁ。拡張のやり方は娼夫向けの手引き書があるし、なんなら俺が空いてる時間に手伝う?」

「手引き書だけ貸してくれ。流石に弟に拡張されんのは嫌過ぎる」

「だよね。言っといてなんだけど、俺も普通に嫌」

「ローションはどれくらい必要?」

「多い方がいいよ。最初のうちは特にケチらずガンガン使いなよ。道具はここら辺のバイブから始めた方がいい。まずは挿れるのに慣れさせて、徐々に太くしていく感じで。このバイブと、こっちもいいよ。次がこの辺りで……フィンは多分勃ったらこのディルドくらいの大きさかな」

「……デカい」

「だからフィンは初心者向けじゃないんだって。おまけにあの子童貞じゃん。見れば分かる」

「うん。まぁ」

「あっちに知識はあるわけ?」

「多分ないなぁ」

「大事故になる予感しかしないっ!」

「だから俺が自分で拡張して、できるだけリードするんだよ」

「なるほど?俺が愛用してるアナル用の傷薬とか炎症を抑える軟膏を渡しとくわ。いざとなったらベッドに緊急時用の呼び出しボタンあるし。やべぇと思ったら絶対に押しなよ。後で場所を教えておくし。知ってるだろうけど、うちには下半身関係専門の医者も常駐してるし」

「うん。よろしく」

「あんまり無茶はしないでよ」

「うん。大丈夫」

「……本当に大丈夫かな……」


マイキーはイザークに選んでもらった様々な大きさのバイブやディルド、大量のローションを両手に抱えて、『ジャスミン』の自室となっている部屋に戻った。イザークからアナル拡張の手引き書等を受け取り、緊急時用の呼び出しボタンの場所を聞いてからシャワーを浴びた。

全裸のままベッドに上がり、腰に手を当てて直腸に浄化魔術をかける。マイキーはベッドの上にお徳用のデカいローションのボトルと何本もの拡張用に買ったバイブとディルド、娼夫向けのアナル拡張の手引き書を並べた。

全裸で真剣な顔をして手引き書を読み始めたマイキーには、自分がかなりテンパって暴走しているという自覚がまるでなかった。


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