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47:フィンの決意
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フィンはマイキーが間借りしている部屋でマイキーと一緒に過ごした時から、完全に開き直った。マイキーを想って勃起してしまった時はマイキーの裸や匂いや体温を思い出しながらオナニーするようになったし、マイキーに会える時は素直に自分から懐きに行くようになった。具体的に言うと、頭を撫でてほしいとねだるようになった。初めてマイキーにおねだりをした時は、マイキーはきょとんとしていたが、普通に頭を優しく撫でてくれた。嬉しくて、フィンは毎回のようにマイキーに頭を撫でてもらっている。
マイキーは店と家の改築が終わるまでは仕事ができない。フィンは仕事が休みである毎週木曜日はマイキーに端末で連絡をして、2人で街の広場で待ち合わせして出かけるようになった。午前中はハルクがいる施設に行くので、どうしても午後からになってしまうが、半日でもマイキーと一緒にいられるのが嬉しい。それに2回に1回くらいはマイキーが間借りしている部屋で一緒に酒を飲んだりもしている。マイキーと街中をぶらぶらして喫茶店で珈琲を楽しんだり、フィンの家や花街の『ジャスミン』にあるマイキーが間借りしている部屋で一緒に装飾品を作ったり、2人で走って一緒に筋トレをしたりと、この約1ヶ月半、充実し過ぎているくらい充実した休みを過ごしている。
気づけば冬本番になっており、もう少ししたら年越しがやってくる。
フィンはカウンターに置いてある小さなカレンダーをじっと見た。年越しまであと約10日。今年はマイキーも年末年始が休みだ。日が経ち、マイキーに会えば会う程、マイキーが好きで堪らなくなり、もっと深く触れあいたくて堪らなくなる。マイキーへの想いが今にも溢れてしまいそうなくらい大きくなっている。見ないフリなんて当然できない。胸の中にはマイキーへの独占欲が蔓延っているし、カーラにはどうしても嫉妬してしまう。そんな自分が嫌で堪らない時もあるが、マイキーに本気で恋をしている証拠だと、ある程度は認められるようになった。
フィンは考えた。来年の初めての朝日を、フィンの秘密の大きな木の所でマイキーと2人で見れないだろうか。その時にマイキーに想いを伝えたい。悲しいかな、フラれる未来しか想像できないが、現状に甘んじているだけなのもどうかと思う。いっそカーラからマイキーを奪ってしまえばいい。いや、別にカーラはマイキーのことを友達や幼なじみとしか思っていないようだし、当然マイキーを自分のものとは思っていない。単なる意気込みというか、マイキーが想いを寄せているマイキーの中のカーラから奪うというか、まぁそんな感じである。もしフラれたら、マイキーを先に帰して、大きな木の枝の上でいつも通り1人で泣いたらいい。多分、そうなる気がする。現状維持がしたい自分もいるが、マイキーとの今の関係を敢えて崩して、もっと先へと進みたい自分の方が大きい。
フィンはぐっと強く握り拳を握った。マイキーに告白する。デートをしてくださいなんて生温いことは言わない。恋人になってくださいとも言わない。結婚して、一生一緒にいてくださいと言う。フィンはマイキーとずっと一緒にいたい。もしかしたら、奇跡的にマイキーが頷いてくれても、フィンの親にもマイキーの親にも反対されるかもしれない。その時はマイキーを拐って別の街に逃げてしまえばいい。マイキーさえ側にいてくれれば、何だってやってやる。
フィンは決意を固めた。
ーーーーーー
フィンは今年最後の土曜日の午後。筋トレを終え、風呂と昼食を終えて帰る時にディルムッドに声をかけて、半ば無理矢理自宅の自室に連行した。
ディルムッドはどうやら先に大人への階段を上ってしまっているらしい。たまに本当にうっすらとだが、身体に痕がついていることがある。所謂キスマークというやつらしい。最初に気づいた時にはそれが何なのか分からなかった。少し前に、『ジャスミン』の廊下できらびやかな際どい格好をした娼夫の首筋に顔を埋めている客の男を見た。男が顔を離すと娼夫の首には痕が残っていた。一緒にいたマイキーに『あれ痛くないんですか?あの人大丈夫ですか?アザになってますよね』と聞いたら、『あーあ。完全にマナー違反だな。娼夫にキスマークつけるなんて。痛くはないらしいよ。強めに肌を吸ったら、あぁなるんだって』と言っていた。つまり、セックス中やイチャイチャしている時につくものなのだ。キスマークとやらは。ディルムッドはイーグルと確実にセックスをしている。しかも多分頻繁に。
兄貴分としてのプライドなんて精液と一緒にティッシュにくるんでゴミ箱に捨ててきた。フィンはディルムッドに告白やセックスのアドバイスが聞きたかった。ディルムッドはものすごく女の子が好きだったのに、成人したらイーグルと結婚するらしい。ディルムッドは秋以降、なんだかずっと幸せそうである。買い物に行く度に会うイーグルもだ。正直羨ましい。
フィンはズバッとディルムッドに話を切り出した。
「プロポーズの言葉ってどんなのだった?ディルから?イーグルから?初めてのセックスはどのくらいの期間でしたの?何回くらいするの?時間は?頻度は?セックスって本当に気持ちいいの?やっぱり初めては痛かった?今は痛くない?ちゃんと気持ちいい?ていうか、どっちがどっち?どっちが気持ちいいの?ローションって何処で買えばいいの?」
「フィン兄ちゃん!?とりあえず落ち着こう!?よく分かんないけど目が怖いよっ!!」
「ほらほらサクッと吐いちゃいな」
「落ち着いてっ!?何かキャラ違うよっ!」
「大丈夫。僕は全然落ち着いてる」
「いやいやいやいや」
「ほーら、ディル。怖くなーい怖くなーい。だから早く教えて」
「目がヤバイって!!う、な、何でそんなこと聞くの……」
「マイキーさんにプロポーズしようと思って」
「えぇぇぇぇぇぇ!?フィン兄ちゃんってマイキーさんが好きなのっ!?」
「うん」
「マジっすか!?」
「マジ」
「えー……そっかぁ。んっとねー、プロポーズは俺からでー、『結婚する?』って。初めてセックスしたのはフィン兄ちゃんと師匠から話を聞いた次の日だから……多分2週間も経ってない?初めての時は気づいたら朝だったけど、2回目以降は加減するようにしてるから、だいたい3時間くらい?次の日が八百屋が休みの日にしかセックス本番はしてないよ。毎日朝早いし。舐めあいっこは毎晩のようにしてるけど。毎回どっちもしてる。俺もちんこ挿れるし、挿れられてる。どっちも好きだよ。気持ちいいし楽しい。イーグル可愛いし。1番最初は確かにちょっと痛かったけど、マジ無理っ!って感じではなかったよ。今は気持ちいいだけ。ローションは普通に店で売ってた。お徳用のデカいボトル買った方がお徳だよー。1回でめっちゃ減るし」
「なるほど」
「フィン兄ちゃん、いつプロポーズすんの?」
「新年の朝日を見ながらしようかなって」
「何それロマンチックー。いいねー。俺なんてトイレの前の床だよ?」
「なんで?え?何でそんなとこでしちゃったの?」
「なんか流れで!」
「えぇ……?」
「父さん達には内々で結婚の承諾もらってるから、年明けたら改めてイーグルが俺ん家に挨拶にくるんだ。俺もイーグルのじいちゃんと叔父さんに挨拶しに行くよ」
「おじさん達に反対されなかった?」
「それが全然。『イーグルなら安心だから、むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ』って。どういう意味だろ?」
「あー……うん。イーグルはすごくしっかり者だしね」
「だよねっ!おまけに可愛いんだよ!」
「うんうん。イーグルは可愛いね」
「でしょっ!こないだね……」
ディルムッドがでれっとした顔で、惚気を垂れ流し始めた。フィンはある程度聞き流しながら、参考になりそうなことは頭の隅っこにしっかり叩き込み、ディルムッドが気が済むまで気長にディルムッドの話に付き合った。ディルムッドの話はある程度参考になった。あとは肝心のマイキーを誘うだけだ。
フィンはディルムッドが帰った後に過去最速で事務仕事を全て終わらせ、家事も超特急で片付け、日課の筋トレと風呂を終わらせてから、自分の部屋のベッドの上に正座した。
ドキドキしながら端末に文章を入力し、マイキーへの端末へと送った。プロポーズへの第一歩だ。
フィンは背中に汗をかく程緊張しながら、マイキーからの返信を待った。
ーーーーーー
マイキーはアマンダの部屋で事務仕事を手伝っていた。本職の仕事は工房が使えないので改築が終わるまでできない。設備がいらない簡単な装飾品を作ったり、娼夫達の装飾品を少し修理したりはできるが、基本的に暇である。マートルの怪我が治ったら露天だけをしようかという話も出ていたが、多分2度とないことだろうし、折角の機会なので改築が終わるまでの約3ヶ月はゆっくり過ごそうということになっている。今年は初めて年末年始に仕事がない。改築が始まってから基本的に暇なので、昼間に娼館の経理や事務仕事を手伝ったり、夜に娼館の用心棒の手伝いをしているが、年越しの日はどうしようか。新年最初の朝日を見てみたい気がする。ケリー一家が毎年見に行くそうなので、ちゃっかり同行させてもらうのもいいかもしれない。
数字を書類に書き込みながら、ふ、とフィンの顔が頭に浮かんだ。フィンとは間借りしている部屋で一晩過ごして以降、毎週フィンが休みの日に会っている。結局悩みは聞き出せなかったが、いつの間にか吹っ切れたのか、すぐに元のフィンに戻った。何故か頭を撫でてほしいと会う度にねだられるようになったが、素直に可愛いのでマイキーはいつも喜んでフィンの頭を撫で回している。
リンク以外の友達から誰か紹介してもらおうかとか、いっそ娼夫に相手をしてもらおうかと思ったが、そちらの方は全然何もしていない。何故だか、その気が失せてしまった。フィンと頻繁に連絡をとりあって会っているからだろうか。ケリーの家での稽古の時を含めたら、毎週2回は必ず会っている。午後から半日だけ会う日の方が多いが、フィンが翌日仕事が休みの日に既に3回も一緒にマイキーが間借りしている部屋で酒を飲んで、翌日の夕方まで一緒に過ごしていた。フィンと一緒だからか、あんまり寂しさを感じない。カーラのことを想って1人でうじうじすることが最近なくなった。フィンのお陰かもしれない。
書き終わった書類を机の隅に置き、次の書類を手に取った時に机の上に置いていたマイキーの端末から通知音が聞こえた。書類を机に置いて端末を手に取り操作すると、フィンからだった。
『もしよかったら、一緒に新年の朝日を見に行きませんか?穴場があるんです』
マイキーはフィンからのその誘いが嬉しくて、即答で『行くよ』と返信した。新年の朝日は街の高台で見る人が多いらしい。そのせいで、いつもは静かな街の高台が人で溢れかえるとか。穴場とやらなら、静かにゆっくり初めての朝日を楽しめるかもしれない。フィンと一緒なのもいい。マイキーはふふっと笑って、端末を操作して、今年の年明けの日にフィンから送られてきた美しい朝日の写真を端末の画面に表示した。この美しい朝日が昇る瞬間を生でフィンと一緒に見ることができる。すごくワクワクする。本当に楽しみだ。場所がどこかは分からないが、多分野外だろう。身体を温めがてら、朝日を待つ間に2人で酒を飲んでもいい。フィンに飲ませ過ぎなければ大丈夫だ。軽めの酒とちょっとしたツマミになるものを用意しておこう。
マイキーは上機嫌でフィンの端末にその旨を送った。結局、年越しの日の日暮れ頃に合流して、フィンが知る穴場へと移動し、一緒に新年の朝日が昇るまで過ごすことになった。野外だから温かい格好をしてきてください、とフィンから送られてきたので、マイキーは小さく鼻歌を歌いながら、了解と返信をした。
まだ年越しまであと数日あるのに、今から楽しみで仕方がない。こんなにワクワクする年越しなんて生まれて初めてだ。マイキーのあまりの上機嫌っぷりに同じ部屋にいるアマンダが不思議そうな顔をしている。アマンダにどうしたのか聞かれたので、マイキーは弾んだ声で素直に答えた。
アマンダが『それならいいお酒があるわよ。あげるわ』と言ってくれたので、マイキーは素直にアマンダに礼を言った。どうしよう。楽しみすぎて今夜は眠れる気がしない。テンションが上がりすぎたマイキーは、その日は一晩中上機嫌に娼館の色んな仕事を手伝って回った。
マイキーは店と家の改築が終わるまでは仕事ができない。フィンは仕事が休みである毎週木曜日はマイキーに端末で連絡をして、2人で街の広場で待ち合わせして出かけるようになった。午前中はハルクがいる施設に行くので、どうしても午後からになってしまうが、半日でもマイキーと一緒にいられるのが嬉しい。それに2回に1回くらいはマイキーが間借りしている部屋で一緒に酒を飲んだりもしている。マイキーと街中をぶらぶらして喫茶店で珈琲を楽しんだり、フィンの家や花街の『ジャスミン』にあるマイキーが間借りしている部屋で一緒に装飾品を作ったり、2人で走って一緒に筋トレをしたりと、この約1ヶ月半、充実し過ぎているくらい充実した休みを過ごしている。
気づけば冬本番になっており、もう少ししたら年越しがやってくる。
フィンはカウンターに置いてある小さなカレンダーをじっと見た。年越しまであと約10日。今年はマイキーも年末年始が休みだ。日が経ち、マイキーに会えば会う程、マイキーが好きで堪らなくなり、もっと深く触れあいたくて堪らなくなる。マイキーへの想いが今にも溢れてしまいそうなくらい大きくなっている。見ないフリなんて当然できない。胸の中にはマイキーへの独占欲が蔓延っているし、カーラにはどうしても嫉妬してしまう。そんな自分が嫌で堪らない時もあるが、マイキーに本気で恋をしている証拠だと、ある程度は認められるようになった。
フィンは考えた。来年の初めての朝日を、フィンの秘密の大きな木の所でマイキーと2人で見れないだろうか。その時にマイキーに想いを伝えたい。悲しいかな、フラれる未来しか想像できないが、現状に甘んじているだけなのもどうかと思う。いっそカーラからマイキーを奪ってしまえばいい。いや、別にカーラはマイキーのことを友達や幼なじみとしか思っていないようだし、当然マイキーを自分のものとは思っていない。単なる意気込みというか、マイキーが想いを寄せているマイキーの中のカーラから奪うというか、まぁそんな感じである。もしフラれたら、マイキーを先に帰して、大きな木の枝の上でいつも通り1人で泣いたらいい。多分、そうなる気がする。現状維持がしたい自分もいるが、マイキーとの今の関係を敢えて崩して、もっと先へと進みたい自分の方が大きい。
フィンはぐっと強く握り拳を握った。マイキーに告白する。デートをしてくださいなんて生温いことは言わない。恋人になってくださいとも言わない。結婚して、一生一緒にいてくださいと言う。フィンはマイキーとずっと一緒にいたい。もしかしたら、奇跡的にマイキーが頷いてくれても、フィンの親にもマイキーの親にも反対されるかもしれない。その時はマイキーを拐って別の街に逃げてしまえばいい。マイキーさえ側にいてくれれば、何だってやってやる。
フィンは決意を固めた。
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フィンは今年最後の土曜日の午後。筋トレを終え、風呂と昼食を終えて帰る時にディルムッドに声をかけて、半ば無理矢理自宅の自室に連行した。
ディルムッドはどうやら先に大人への階段を上ってしまっているらしい。たまに本当にうっすらとだが、身体に痕がついていることがある。所謂キスマークというやつらしい。最初に気づいた時にはそれが何なのか分からなかった。少し前に、『ジャスミン』の廊下できらびやかな際どい格好をした娼夫の首筋に顔を埋めている客の男を見た。男が顔を離すと娼夫の首には痕が残っていた。一緒にいたマイキーに『あれ痛くないんですか?あの人大丈夫ですか?アザになってますよね』と聞いたら、『あーあ。完全にマナー違反だな。娼夫にキスマークつけるなんて。痛くはないらしいよ。強めに肌を吸ったら、あぁなるんだって』と言っていた。つまり、セックス中やイチャイチャしている時につくものなのだ。キスマークとやらは。ディルムッドはイーグルと確実にセックスをしている。しかも多分頻繁に。
兄貴分としてのプライドなんて精液と一緒にティッシュにくるんでゴミ箱に捨ててきた。フィンはディルムッドに告白やセックスのアドバイスが聞きたかった。ディルムッドはものすごく女の子が好きだったのに、成人したらイーグルと結婚するらしい。ディルムッドは秋以降、なんだかずっと幸せそうである。買い物に行く度に会うイーグルもだ。正直羨ましい。
フィンはズバッとディルムッドに話を切り出した。
「プロポーズの言葉ってどんなのだった?ディルから?イーグルから?初めてのセックスはどのくらいの期間でしたの?何回くらいするの?時間は?頻度は?セックスって本当に気持ちいいの?やっぱり初めては痛かった?今は痛くない?ちゃんと気持ちいい?ていうか、どっちがどっち?どっちが気持ちいいの?ローションって何処で買えばいいの?」
「フィン兄ちゃん!?とりあえず落ち着こう!?よく分かんないけど目が怖いよっ!!」
「ほらほらサクッと吐いちゃいな」
「落ち着いてっ!?何かキャラ違うよっ!」
「大丈夫。僕は全然落ち着いてる」
「いやいやいやいや」
「ほーら、ディル。怖くなーい怖くなーい。だから早く教えて」
「目がヤバイって!!う、な、何でそんなこと聞くの……」
「マイキーさんにプロポーズしようと思って」
「えぇぇぇぇぇぇ!?フィン兄ちゃんってマイキーさんが好きなのっ!?」
「うん」
「マジっすか!?」
「マジ」
「えー……そっかぁ。んっとねー、プロポーズは俺からでー、『結婚する?』って。初めてセックスしたのはフィン兄ちゃんと師匠から話を聞いた次の日だから……多分2週間も経ってない?初めての時は気づいたら朝だったけど、2回目以降は加減するようにしてるから、だいたい3時間くらい?次の日が八百屋が休みの日にしかセックス本番はしてないよ。毎日朝早いし。舐めあいっこは毎晩のようにしてるけど。毎回どっちもしてる。俺もちんこ挿れるし、挿れられてる。どっちも好きだよ。気持ちいいし楽しい。イーグル可愛いし。1番最初は確かにちょっと痛かったけど、マジ無理っ!って感じではなかったよ。今は気持ちいいだけ。ローションは普通に店で売ってた。お徳用のデカいボトル買った方がお徳だよー。1回でめっちゃ減るし」
「なるほど」
「フィン兄ちゃん、いつプロポーズすんの?」
「新年の朝日を見ながらしようかなって」
「何それロマンチックー。いいねー。俺なんてトイレの前の床だよ?」
「なんで?え?何でそんなとこでしちゃったの?」
「なんか流れで!」
「えぇ……?」
「父さん達には内々で結婚の承諾もらってるから、年明けたら改めてイーグルが俺ん家に挨拶にくるんだ。俺もイーグルのじいちゃんと叔父さんに挨拶しに行くよ」
「おじさん達に反対されなかった?」
「それが全然。『イーグルなら安心だから、むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ』って。どういう意味だろ?」
「あー……うん。イーグルはすごくしっかり者だしね」
「だよねっ!おまけに可愛いんだよ!」
「うんうん。イーグルは可愛いね」
「でしょっ!こないだね……」
ディルムッドがでれっとした顔で、惚気を垂れ流し始めた。フィンはある程度聞き流しながら、参考になりそうなことは頭の隅っこにしっかり叩き込み、ディルムッドが気が済むまで気長にディルムッドの話に付き合った。ディルムッドの話はある程度参考になった。あとは肝心のマイキーを誘うだけだ。
フィンはディルムッドが帰った後に過去最速で事務仕事を全て終わらせ、家事も超特急で片付け、日課の筋トレと風呂を終わらせてから、自分の部屋のベッドの上に正座した。
ドキドキしながら端末に文章を入力し、マイキーへの端末へと送った。プロポーズへの第一歩だ。
フィンは背中に汗をかく程緊張しながら、マイキーからの返信を待った。
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マイキーはアマンダの部屋で事務仕事を手伝っていた。本職の仕事は工房が使えないので改築が終わるまでできない。設備がいらない簡単な装飾品を作ったり、娼夫達の装飾品を少し修理したりはできるが、基本的に暇である。マートルの怪我が治ったら露天だけをしようかという話も出ていたが、多分2度とないことだろうし、折角の機会なので改築が終わるまでの約3ヶ月はゆっくり過ごそうということになっている。今年は初めて年末年始に仕事がない。改築が始まってから基本的に暇なので、昼間に娼館の経理や事務仕事を手伝ったり、夜に娼館の用心棒の手伝いをしているが、年越しの日はどうしようか。新年最初の朝日を見てみたい気がする。ケリー一家が毎年見に行くそうなので、ちゃっかり同行させてもらうのもいいかもしれない。
数字を書類に書き込みながら、ふ、とフィンの顔が頭に浮かんだ。フィンとは間借りしている部屋で一晩過ごして以降、毎週フィンが休みの日に会っている。結局悩みは聞き出せなかったが、いつの間にか吹っ切れたのか、すぐに元のフィンに戻った。何故か頭を撫でてほしいと会う度にねだられるようになったが、素直に可愛いのでマイキーはいつも喜んでフィンの頭を撫で回している。
リンク以外の友達から誰か紹介してもらおうかとか、いっそ娼夫に相手をしてもらおうかと思ったが、そちらの方は全然何もしていない。何故だか、その気が失せてしまった。フィンと頻繁に連絡をとりあって会っているからだろうか。ケリーの家での稽古の時を含めたら、毎週2回は必ず会っている。午後から半日だけ会う日の方が多いが、フィンが翌日仕事が休みの日に既に3回も一緒にマイキーが間借りしている部屋で酒を飲んで、翌日の夕方まで一緒に過ごしていた。フィンと一緒だからか、あんまり寂しさを感じない。カーラのことを想って1人でうじうじすることが最近なくなった。フィンのお陰かもしれない。
書き終わった書類を机の隅に置き、次の書類を手に取った時に机の上に置いていたマイキーの端末から通知音が聞こえた。書類を机に置いて端末を手に取り操作すると、フィンからだった。
『もしよかったら、一緒に新年の朝日を見に行きませんか?穴場があるんです』
マイキーはフィンからのその誘いが嬉しくて、即答で『行くよ』と返信した。新年の朝日は街の高台で見る人が多いらしい。そのせいで、いつもは静かな街の高台が人で溢れかえるとか。穴場とやらなら、静かにゆっくり初めての朝日を楽しめるかもしれない。フィンと一緒なのもいい。マイキーはふふっと笑って、端末を操作して、今年の年明けの日にフィンから送られてきた美しい朝日の写真を端末の画面に表示した。この美しい朝日が昇る瞬間を生でフィンと一緒に見ることができる。すごくワクワクする。本当に楽しみだ。場所がどこかは分からないが、多分野外だろう。身体を温めがてら、朝日を待つ間に2人で酒を飲んでもいい。フィンに飲ませ過ぎなければ大丈夫だ。軽めの酒とちょっとしたツマミになるものを用意しておこう。
マイキーは上機嫌でフィンの端末にその旨を送った。結局、年越しの日の日暮れ頃に合流して、フィンが知る穴場へと移動し、一緒に新年の朝日が昇るまで過ごすことになった。野外だから温かい格好をしてきてください、とフィンから送られてきたので、マイキーは小さく鼻歌を歌いながら、了解と返信をした。
まだ年越しまであと数日あるのに、今から楽しみで仕方がない。こんなにワクワクする年越しなんて生まれて初めてだ。マイキーのあまりの上機嫌っぷりに同じ部屋にいるアマンダが不思議そうな顔をしている。アマンダにどうしたのか聞かれたので、マイキーは弾んだ声で素直に答えた。
アマンダが『それならいいお酒があるわよ。あげるわ』と言ってくれたので、マイキーは素直にアマンダに礼を言った。どうしよう。楽しみすぎて今夜は眠れる気がしない。テンションが上がりすぎたマイキーは、その日は一晩中上機嫌に娼館の色んな仕事を手伝って回った。
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