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30:イーグルの涙
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夏休みに入る2日前。
その日、イーグルは学校に来なかった。端末には何の連絡もなかったし、イーグルの端末に連絡しても何も返ってこない。こんな事は初めてである。イーグルはとても健康優良児で、小学生の頃から常に皆勤賞だ。ディルムッドはイーグルが来ないことに不安を覚え、もしや倒れてるのではないのだろうかと、ずっとそわそわし、担任の先生の許可を得て、昼休みで早退してイーグルの家に行ってみることにした。フィルも一緒に行くと言ったが、進学組は今日は午後から夏休み中の課外講座の日程や課題の説明会が行われる。イーグルの家に行って様子を見たら、絶対にフィルの端末に連絡をすると約束して、フィルは学校に残らせた。
昼休みになった途端、ディルムッドは教室を飛び出して、イーグルの家へと向けて全力で走り出した。授業の合間の休み時間の度にイーグルの端末に連絡したが、何の返事も返ってこない。不安がどんどん大きくなる。
イーグルの両親はごく最近正式に離婚した。イーグルの父親は離婚したくなかったらしいが、イーグルの母親が『もう限界』と言って譲らなかったらしい。結局、イーグルの父親が折れる形で離婚が成立した。イーグル含めた子供達はイーグルの父親が引き取る形になった。イーグルの父親は仕事は一応してくれているようだが、離婚が正式に決定してから、毎晩浴びるように酒を飲んでいるそうだ。双子の弟達も少し不安定になっているみたいで、イーグルが心配していた。
全速力でイーグルの自宅まで走った。表の店のシャッターは閉まったままだ。急いで裏に回り、荒い息を吐きながら自宅の玄関の呼び鈴を押した。待っても誰も出てこない。何度も呼び鈴を押すが、何の反応もない。ディルムッドは焦れて、玄関のドアノブを掴んでダメ元でドアノブを回してみると、玄関の鍵は開いていた。勝手に人様のお宅に上がるのはどうかと思うが、今は緊急事態だ。ディルムッドは意を決して玄関のドアを開け、家の中へと入った。
家の中は薄暗く、どうやらカーテンを開けていないようである。イーグルの家には小学生の頃から何度も遊びに来ているので、家の間取りもイーグルの部屋の場所も知っている。とりあえずイーグルの部屋を覗いてみることにした。イーグルの名前を呼びながら廊下を歩き、イーグルの部屋のドアをノックして、そっと開けてみたが、部屋にイーグルはいなかった。次は居間だ。焦りと不安がどんどん大きくなる。
イーグルはカーテンを閉めきった薄暗い居間にいた。ソファーに座って俯いている。
「イーグル!」
ディルムッドが座っているイーグルの側に駆け寄ると、イーグルがのろのろと顔を上げ、ぼんやりとした表情でディルムッドを見た。
「……ディル?」
「イーグル。どうしたのさ。大丈夫?熱?気持ち悪い?病院行く?」
部屋が薄暗いことを差っ引いても、イーグルの顔色が悪い気がする。ディルムッドはいつもとは明らかに様子が違うイーグルに焦って、ペタペタとイーグルの額や頬を触って、とりあえず熱がないか確かめた。熱はない。むしろ、イーグルの頬はひんやりしているくらいだ。それはそれで焦る。
「……ディル……」
「イーグル?」
イーグルの顔が泣きそうな感じに歪んだ。口を少し開いて何かを言いかけて、また口を閉じて、また少し口を開いて、を何度か繰り返し、いつものイーグルからは考えられないくらい小さな震える声で話し始めた。
「……父ちゃんが出ていった。朝、起きたらもういなくて……部屋、見たら、ベッドの上に書き置きあって……」
「え……」
「『ハンナ以外いらない。出ていく。探すな』って」
「……はぁぁっ!?」
驚くディルムッドの前で、じわじわとイーグルの目に涙が滲み出した。
「……双子、バーグとドーグに言えなくて……あいつら、母ちゃんに捨てられたって思ってる。父ちゃんにまで捨てられたなんて、俺言えねぇよ……」
イーグルの目からぽろっと涙が溢れた。ディルムッドは慌てた。イーグルが泣いているところなんて、初めて見る。派手に転けて膝をすごい血が出るほど擦りむいた時も、派手にやらかして滅茶苦茶学校の先生に怒られた時も、中学校に入学して先輩に呼び出されて、いきなり殴られた時も、イーグルは泣かなかった。けろっとした顔でいつも笑っていた。
ディルムッドはポロポロ涙を流すイーグルにあわあわした後、がばっとソファーに座るイーグルの身体を真正面から抱き締めた。抱き締めてみたら、微かにイーグルの身体は震えていた。
「……バーグとドーグは?」
「……学校に行かせた。父ちゃんは酒飲みに行ってまだ帰ってきてないだけだって言って」
「……うん」
「……どうしたらいいか、分かんねぇんだ。双子のことも、店のことも……家の金庫見たら全部父ちゃんが持ってったみたいで、なくなってて……俺、まだちゃんと働けるまでに半年以上あるし、店を1人でやれる自信ない……身体売るしかねぇかもって」
「それはダメっ!!」
ディルムッドは思わずイーグルの身体を抱き締めている腕に力を入れた。小さな嗚咽を漏らしながら泣く微かに震えるイーグルを抱き締めながら、ディルムッドは高速で脳ミソを動かして、何か手がないか考えた。
「イーグル。じいちゃんには連絡した?あと、確か叔父さんいなかったっけ?」
「……まだ。叔父ちゃんはいるけど……」
「とりあえず、じいちゃんに連絡しよう。そんで、叔父さんにも」
「でも……なんて……」
「イーグルの父さんがいなくなったことと、今後の相談がしたいって。イーグル。イーグルのじいちゃん、まだ元気だったよね?俺も手伝うから、八百屋やってみよう。学校の間の店番はじいちゃんに頼んで、朝の仕入れはじいちゃんに習って一緒にやろう。……身体を売るのだけは絶対にダメ。兎に角やれること全部やってみるんだ」
「……ディル……」
「俺の方は全然大丈夫!俺、今日からイーグルん家に住むから。土日の昼間はうちの店の方に行くけど、それ以外はここでイーグルと一緒に何でもやる。一緒にやればなんとかなるよ」
「……ダメだ。ディルにそこまでさせる訳にはいかねぇよ。ディルのおじちゃんにも申し訳なくて無理」
「もう決めた。イーグルがダメって言っても一緒に住むし、店もやる」
「……お前、調理師の資格とらなきゃいけねぇじゃん。秋だろ、試験。今年の」
「父さんからヘマしなければ多分受かるって言われてるし。ここでも毎日料理して練習してれば大丈夫!」
「……おじちゃんがいいって言うわけない」
「父さんなら、むしろそうしろって言うよ。イーグル。大丈夫。1つずつ問題を片付けていこう」
「……うん。……ディル……」
「ん?」
「……ありがと」
抱き締めていたイーグルがディルムッドの背中に両腕を回して、ディルムッドの肩に目元を押し付けた。薄い夏物のシャツが、じんわりイーグルの涙で濡れていく感じがする。小さく嗚咽を漏らしながら泣くイーグルの丸刈りの頭を撫でると、じょりじょりした。ディルムッドが頭を撫でると、少しだけ泣き声が大きくなる。ディルムッドはイーグルが泣き止むまで、ずっとイーグルを抱き締めて、頭を撫で続けた。ほんの少しでも、イーグルの悲しみが薄れるように祈りながら。
ーーーーーー
泣き止んだイーグルがイーグルの祖父と叔父に端末で連絡している間に、ディルムッドもフィルとブリアードの端末に連絡した。フィルには『イーグルの身体は大丈夫だったけど、緊急事態過ぎてヤバい。なんとかするから続報は夜まで待ってて』とだけ送り、ブリアードには『イーグルの緊急事態で、とりあえず今日からイーグルの家に住むから。詳しい説明は1度帰ってからか、もしくはイーグルの家に来て』と送った。フィルからはすぐに『分かった。絶対に連絡してくれよ』と返信がきた。少し待つと、ブリアードからも『店を閉めたらイーグルの家に行く』と返信があった。
瞼と鼻を赤く染めたイーグルが、叔父と通話していた端末を耳から離し、小さく溜め息を吐いた。
「じいちゃんは今からすぐに来てくれるって。叔父ちゃんも夜には必ず行くって言ってくれた」
「よかった。叔父さんは何をしてる人?」
「新聞社に勤めてる。地域のニュースの取材とか、その記事書いたりしてる」
「へぇー!すっげぇ!」
「……じいちゃんは叔父ちゃんと住んでるんだ。2日に1回は必ず様子見に来てくれてる。俺が乳離れするまではこの家に住んでたけど、うちのじいちゃん、父ちゃんとも母ちゃんとも折り合い悪くてさ。腰悪くしてたし、店も家も父ちゃんに跡を譲って、叔父ちゃんと一緒に住むようになったんだって。叔父ちゃんはまだ独身だし、父ちゃんと住むより余程よかったんじゃねぇかな。毎日俺の世話しに通ってくれてたけど、俺が知る限り、泊まったことはねぇの」
「そっか……」
「……双子に何て言ったらいいと思う?」
「双子には酷だけど、正直に言った方がいいと思う。変に期待させるよりもマシじゃない?」
「……そうだな」
「双子に言う時には一緒にいるよ」
「……うん」
「イーグル」
「ん?」
「おーいで」
ディルムッドはイーグルに向かって両腕を広げた。イーグルがきょとんとした顔をした。
ディルムッドが泣くと、ブリアードもミミンもいつも抱き締めてくれていた。抱き締められると、なんだかすごく安心して、いつの間にか涙は止まるし、何で泣いていたのか忘れてしまうことすらあった。悲しい時も辛い時も誰かに抱き締めてもらうのが1番である。もう泣き止んではいるが、今もイーグルを抱き締める時である。
「え、なに」
「俺の胸に飛び込んでおいでよ!」
「なんでっ!?」
「へぇい!おいで!子猫ちゃん!」
「意味分かんねぇ!!」
何故かジリジリとイーグルが後ろに下がっていくので、ディルムッドはダッとイーグルに素早く駆け寄り、がばっとイーグルの身体をまた抱き締めた。固まっている感じがするイーグルの身体をぎゅうぎゅうと抱き締める。イーグルの背中をぽんぽん優しく叩くと、イーグルの身体から力が抜けた。
「……なんなの、のっぽっぽ」
「『のっぽっぽ』の方が何なのっ!?」
「……のっぽっぽめ……」
「えー……」
『のっぽっぽ』の意味が本気で分からない。悪口か。悪口なのか。抱き締めたまま、イーグルの顔を覗き込むと、何故か少し頬が赤くなっていた。泣いたからだろうか。もしやショックで熱を出したのではないか。ディルムッドがイーグルを抱き締めたまま、自分の頬をイーグルの頬にピタリと当てると、イーグルの頬は熱かった。何故かイーグルが再びピシッと固まった。
「イーグル熱出たっ!?」
「出てないっ!」
「でも熱いよ!?」
「出てない!ちょっ、そろそろ離せよ」
「え、やだ」
「何で!?」
「イーグルのじいちゃんが来るまで、このままね」
「はぁ!?」
「本当に熱ない?病院行かなくて大丈夫?」
「全っ然!大丈夫!じいちゃん早く来てっ!!」
イーグルがディルムッドの耳元で叫んだ。地味に煩いが、ディルムッドは本当にイーグルの祖父が来るまでイーグルの身体を離す気は更々ない。泣いたからか、さっきよりも体温が上がっている気がするイーグルの身体を、ディルムッドはむぎゅううと力一杯抱き締めた。
イーグルの悲しみ、どっか行け!
その日、イーグルは学校に来なかった。端末には何の連絡もなかったし、イーグルの端末に連絡しても何も返ってこない。こんな事は初めてである。イーグルはとても健康優良児で、小学生の頃から常に皆勤賞だ。ディルムッドはイーグルが来ないことに不安を覚え、もしや倒れてるのではないのだろうかと、ずっとそわそわし、担任の先生の許可を得て、昼休みで早退してイーグルの家に行ってみることにした。フィルも一緒に行くと言ったが、進学組は今日は午後から夏休み中の課外講座の日程や課題の説明会が行われる。イーグルの家に行って様子を見たら、絶対にフィルの端末に連絡をすると約束して、フィルは学校に残らせた。
昼休みになった途端、ディルムッドは教室を飛び出して、イーグルの家へと向けて全力で走り出した。授業の合間の休み時間の度にイーグルの端末に連絡したが、何の返事も返ってこない。不安がどんどん大きくなる。
イーグルの両親はごく最近正式に離婚した。イーグルの父親は離婚したくなかったらしいが、イーグルの母親が『もう限界』と言って譲らなかったらしい。結局、イーグルの父親が折れる形で離婚が成立した。イーグル含めた子供達はイーグルの父親が引き取る形になった。イーグルの父親は仕事は一応してくれているようだが、離婚が正式に決定してから、毎晩浴びるように酒を飲んでいるそうだ。双子の弟達も少し不安定になっているみたいで、イーグルが心配していた。
全速力でイーグルの自宅まで走った。表の店のシャッターは閉まったままだ。急いで裏に回り、荒い息を吐きながら自宅の玄関の呼び鈴を押した。待っても誰も出てこない。何度も呼び鈴を押すが、何の反応もない。ディルムッドは焦れて、玄関のドアノブを掴んでダメ元でドアノブを回してみると、玄関の鍵は開いていた。勝手に人様のお宅に上がるのはどうかと思うが、今は緊急事態だ。ディルムッドは意を決して玄関のドアを開け、家の中へと入った。
家の中は薄暗く、どうやらカーテンを開けていないようである。イーグルの家には小学生の頃から何度も遊びに来ているので、家の間取りもイーグルの部屋の場所も知っている。とりあえずイーグルの部屋を覗いてみることにした。イーグルの名前を呼びながら廊下を歩き、イーグルの部屋のドアをノックして、そっと開けてみたが、部屋にイーグルはいなかった。次は居間だ。焦りと不安がどんどん大きくなる。
イーグルはカーテンを閉めきった薄暗い居間にいた。ソファーに座って俯いている。
「イーグル!」
ディルムッドが座っているイーグルの側に駆け寄ると、イーグルがのろのろと顔を上げ、ぼんやりとした表情でディルムッドを見た。
「……ディル?」
「イーグル。どうしたのさ。大丈夫?熱?気持ち悪い?病院行く?」
部屋が薄暗いことを差っ引いても、イーグルの顔色が悪い気がする。ディルムッドはいつもとは明らかに様子が違うイーグルに焦って、ペタペタとイーグルの額や頬を触って、とりあえず熱がないか確かめた。熱はない。むしろ、イーグルの頬はひんやりしているくらいだ。それはそれで焦る。
「……ディル……」
「イーグル?」
イーグルの顔が泣きそうな感じに歪んだ。口を少し開いて何かを言いかけて、また口を閉じて、また少し口を開いて、を何度か繰り返し、いつものイーグルからは考えられないくらい小さな震える声で話し始めた。
「……父ちゃんが出ていった。朝、起きたらもういなくて……部屋、見たら、ベッドの上に書き置きあって……」
「え……」
「『ハンナ以外いらない。出ていく。探すな』って」
「……はぁぁっ!?」
驚くディルムッドの前で、じわじわとイーグルの目に涙が滲み出した。
「……双子、バーグとドーグに言えなくて……あいつら、母ちゃんに捨てられたって思ってる。父ちゃんにまで捨てられたなんて、俺言えねぇよ……」
イーグルの目からぽろっと涙が溢れた。ディルムッドは慌てた。イーグルが泣いているところなんて、初めて見る。派手に転けて膝をすごい血が出るほど擦りむいた時も、派手にやらかして滅茶苦茶学校の先生に怒られた時も、中学校に入学して先輩に呼び出されて、いきなり殴られた時も、イーグルは泣かなかった。けろっとした顔でいつも笑っていた。
ディルムッドはポロポロ涙を流すイーグルにあわあわした後、がばっとソファーに座るイーグルの身体を真正面から抱き締めた。抱き締めてみたら、微かにイーグルの身体は震えていた。
「……バーグとドーグは?」
「……学校に行かせた。父ちゃんは酒飲みに行ってまだ帰ってきてないだけだって言って」
「……うん」
「……どうしたらいいか、分かんねぇんだ。双子のことも、店のことも……家の金庫見たら全部父ちゃんが持ってったみたいで、なくなってて……俺、まだちゃんと働けるまでに半年以上あるし、店を1人でやれる自信ない……身体売るしかねぇかもって」
「それはダメっ!!」
ディルムッドは思わずイーグルの身体を抱き締めている腕に力を入れた。小さな嗚咽を漏らしながら泣く微かに震えるイーグルを抱き締めながら、ディルムッドは高速で脳ミソを動かして、何か手がないか考えた。
「イーグル。じいちゃんには連絡した?あと、確か叔父さんいなかったっけ?」
「……まだ。叔父ちゃんはいるけど……」
「とりあえず、じいちゃんに連絡しよう。そんで、叔父さんにも」
「でも……なんて……」
「イーグルの父さんがいなくなったことと、今後の相談がしたいって。イーグル。イーグルのじいちゃん、まだ元気だったよね?俺も手伝うから、八百屋やってみよう。学校の間の店番はじいちゃんに頼んで、朝の仕入れはじいちゃんに習って一緒にやろう。……身体を売るのだけは絶対にダメ。兎に角やれること全部やってみるんだ」
「……ディル……」
「俺の方は全然大丈夫!俺、今日からイーグルん家に住むから。土日の昼間はうちの店の方に行くけど、それ以外はここでイーグルと一緒に何でもやる。一緒にやればなんとかなるよ」
「……ダメだ。ディルにそこまでさせる訳にはいかねぇよ。ディルのおじちゃんにも申し訳なくて無理」
「もう決めた。イーグルがダメって言っても一緒に住むし、店もやる」
「……お前、調理師の資格とらなきゃいけねぇじゃん。秋だろ、試験。今年の」
「父さんからヘマしなければ多分受かるって言われてるし。ここでも毎日料理して練習してれば大丈夫!」
「……おじちゃんがいいって言うわけない」
「父さんなら、むしろそうしろって言うよ。イーグル。大丈夫。1つずつ問題を片付けていこう」
「……うん。……ディル……」
「ん?」
「……ありがと」
抱き締めていたイーグルがディルムッドの背中に両腕を回して、ディルムッドの肩に目元を押し付けた。薄い夏物のシャツが、じんわりイーグルの涙で濡れていく感じがする。小さく嗚咽を漏らしながら泣くイーグルの丸刈りの頭を撫でると、じょりじょりした。ディルムッドが頭を撫でると、少しだけ泣き声が大きくなる。ディルムッドはイーグルが泣き止むまで、ずっとイーグルを抱き締めて、頭を撫で続けた。ほんの少しでも、イーグルの悲しみが薄れるように祈りながら。
ーーーーーー
泣き止んだイーグルがイーグルの祖父と叔父に端末で連絡している間に、ディルムッドもフィルとブリアードの端末に連絡した。フィルには『イーグルの身体は大丈夫だったけど、緊急事態過ぎてヤバい。なんとかするから続報は夜まで待ってて』とだけ送り、ブリアードには『イーグルの緊急事態で、とりあえず今日からイーグルの家に住むから。詳しい説明は1度帰ってからか、もしくはイーグルの家に来て』と送った。フィルからはすぐに『分かった。絶対に連絡してくれよ』と返信がきた。少し待つと、ブリアードからも『店を閉めたらイーグルの家に行く』と返信があった。
瞼と鼻を赤く染めたイーグルが、叔父と通話していた端末を耳から離し、小さく溜め息を吐いた。
「じいちゃんは今からすぐに来てくれるって。叔父ちゃんも夜には必ず行くって言ってくれた」
「よかった。叔父さんは何をしてる人?」
「新聞社に勤めてる。地域のニュースの取材とか、その記事書いたりしてる」
「へぇー!すっげぇ!」
「……じいちゃんは叔父ちゃんと住んでるんだ。2日に1回は必ず様子見に来てくれてる。俺が乳離れするまではこの家に住んでたけど、うちのじいちゃん、父ちゃんとも母ちゃんとも折り合い悪くてさ。腰悪くしてたし、店も家も父ちゃんに跡を譲って、叔父ちゃんと一緒に住むようになったんだって。叔父ちゃんはまだ独身だし、父ちゃんと住むより余程よかったんじゃねぇかな。毎日俺の世話しに通ってくれてたけど、俺が知る限り、泊まったことはねぇの」
「そっか……」
「……双子に何て言ったらいいと思う?」
「双子には酷だけど、正直に言った方がいいと思う。変に期待させるよりもマシじゃない?」
「……そうだな」
「双子に言う時には一緒にいるよ」
「……うん」
「イーグル」
「ん?」
「おーいで」
ディルムッドはイーグルに向かって両腕を広げた。イーグルがきょとんとした顔をした。
ディルムッドが泣くと、ブリアードもミミンもいつも抱き締めてくれていた。抱き締められると、なんだかすごく安心して、いつの間にか涙は止まるし、何で泣いていたのか忘れてしまうことすらあった。悲しい時も辛い時も誰かに抱き締めてもらうのが1番である。もう泣き止んではいるが、今もイーグルを抱き締める時である。
「え、なに」
「俺の胸に飛び込んでおいでよ!」
「なんでっ!?」
「へぇい!おいで!子猫ちゃん!」
「意味分かんねぇ!!」
何故かジリジリとイーグルが後ろに下がっていくので、ディルムッドはダッとイーグルに素早く駆け寄り、がばっとイーグルの身体をまた抱き締めた。固まっている感じがするイーグルの身体をぎゅうぎゅうと抱き締める。イーグルの背中をぽんぽん優しく叩くと、イーグルの身体から力が抜けた。
「……なんなの、のっぽっぽ」
「『のっぽっぽ』の方が何なのっ!?」
「……のっぽっぽめ……」
「えー……」
『のっぽっぽ』の意味が本気で分からない。悪口か。悪口なのか。抱き締めたまま、イーグルの顔を覗き込むと、何故か少し頬が赤くなっていた。泣いたからだろうか。もしやショックで熱を出したのではないか。ディルムッドがイーグルを抱き締めたまま、自分の頬をイーグルの頬にピタリと当てると、イーグルの頬は熱かった。何故かイーグルが再びピシッと固まった。
「イーグル熱出たっ!?」
「出てないっ!」
「でも熱いよ!?」
「出てない!ちょっ、そろそろ離せよ」
「え、やだ」
「何で!?」
「イーグルのじいちゃんが来るまで、このままね」
「はぁ!?」
「本当に熱ない?病院行かなくて大丈夫?」
「全っ然!大丈夫!じいちゃん早く来てっ!!」
イーグルがディルムッドの耳元で叫んだ。地味に煩いが、ディルムッドは本当にイーグルの祖父が来るまでイーグルの身体を離す気は更々ない。泣いたからか、さっきよりも体温が上がっている気がするイーグルの身体を、ディルムッドはむぎゅううと力一杯抱き締めた。
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