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29:遊び人リンク
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楽しかったピッツァパーティの翌週の水曜日。
フィンは朝から落ち着かない気持ちでマイキーが訪れるのを待っていた。今日はマイキーと一緒に昼食をピッツァ屋で食べて、その後マイキーの自宅でマイキーの友達の遊び人という人と会う約束をしている。
フィンは性的な知識が殆んどない。そういう話をする友達がいなかったし、エロ本を読もうにもドレイクやナナイに毎回邪魔をされるので、店にあるエロ本を読んだこともない。フィンは夢精はしたことがあるが、自分でぺニスをそういう意味で弄ったことがほぼない。中学生の時に、同じ教室の男の子達が『オナニー』と呼ぶ行為をしているという話をチラッと耳にしたことがある。どうやらぺニスを自分で弄って射精することらしい。詳しい話は聞けなかったので、具体的にどうしたらいいのか分からない。1度だけ試しにやってみたことがあるのだが、初めての感覚がなんだか少し怖くて、途中で止めてしまった。しかし、もうフィンは18歳になるのだ。結婚してもおかしくない年だし、結婚したいと思う好きな女性もいる。そろそろ性知識をしっかり持たねばなるまい。
今こそ近い将来の為に学ぶ時だ。メモ帳はちゃんと新品のものを用意した。一言も洩らさずメモをとる気満々である。性の話を聞くのは少し恥ずかしいが、必要なことだ。頑張るしかあるまい。彼女との素敵な結婚生活の為である。
フィンは密かに燃えていた。
ーーーーーー
マイキーと共に美味しいピッツァを楽しんだ後、花街にあるマイキーの自宅へと移動した。マイキーが香りのいい珈琲を淹れてくれたので、2人でのんびり食後の珈琲を楽しんでいた。2人で珈琲を飲みながら、とりとめのない話をしていると、マイキーの端末の通知音が鳴った。どうやら友達の遊び人が来たようである。いよいよだ。フィンは、下に迎えに行くというマイキーをドキドキしながら見送った。
マイキーと共に現れた男はすごくお洒落だった。お洒落に疎いフィンには何という髪型なのか分からないが、少し変わった髪型をしていて、でもそれがすごく男に似合っている。顔立ちが甘く整っていて、鍛えているのが服の上からでも分かる、すごく男性的な魅力がある人物だ。服装もお洒落でよく似合っている。自分の魅力的な見せ方をよく分かっているのだろう。多分。
男はフィンを見るなり、目を見開いて、ビシッとフィンを指差した。
「男じゃねぇか!!!」
フィンは少し驚いた。初対面で男だと分かってもらえることの方が少ない。
「男じゃねぇか!紹介したい子がいるっていうから絶対女だと思ってお洒落してきたのにっ!」
「誰も女なんて言ってないだろ」
「そうですけどっ!……んだよ。やる気失せるわー」
「そう言うなよ。フィン。こいつがリンク」
フィンは慌てて椅子から立ち上がって、リンクに頭を下げた。
「は、はじめまして。フィン・スカンジナビアです。その、今日はよろしくお願いいたします」
「あ?男の名前とかどうでもいいわ。つーか、よろしくする気ねぇけど?男じゃちんこ反応しねぇし」
「そういう意味のよろしくじゃない。セックスについて聞きたいだけだし」
「はぁ?」
「とりあえず珈琲淹れてくる」
「おう。俺のは砂糖入れんなよ」
「分かってる」
マイキーが珈琲を淹れに台所へと歩いていった。リンクがどかっと向かい側のソファーに座ったので、フィンも静かにソファーに座った。ドキドキする。いよいよ未知の知識へ触れる時である。
リンクに何て話しかければいいのか分からず、緊張もあってガチガチに固まって無言でいると、いい香りのする珈琲をマイキーが運んできてくれた。お礼を言ってマイキーから珈琲のお代わりを受け取り、1口飲むと、フィン好みの甘さと珈琲本来の苦味がいい感じのバランスで口の中に広がる。フィンの横に座ったマイキーが目の前のリンクを指差した。
「こいつ、美容師なんだけど、本当に女好きの遊び人でさ。下は10代から上は50代にまで手を出す節操なしなんだ。経験だけは人一倍あるよ」
「あ、それ記録更新したぞ。こないだ63の女とヤった」
「「63!?」」
「おう。結構楽しかったぜ」
「おばあちゃんじゃん!」
「60代は割とイケたから、次は70代とヤってみるわ」
「守備範囲広すぎだろ。お前はどこを目指しているの?」
「女はいくつになっても女なんだよ。皺くちゃだろうが、不細工な面してようが、女は笑えば可愛いもんだ。俺の下であんあん言ってる時が1番可愛いけどな」
なんだか本当にすごい人が現れた。節操なしと言えばそれまでだが、70代の女性ともセックスをしようと考えるなんて、並みの度量ではない。素直に尊敬してしまう。フィンが思わず尊敬の眼差しを向けると、リンクがふんっと鼻を鳴らした。
「で?セックスについて聞きたいって?」
「あ、はい。あの、僕は恥ずかしながら性的な知識があまりなくて……もう18になりますし、その、結婚を考えるくらい好きな女性がいまして……あの、その、ご教授願えればと……」
「ふーん。童貞か。まぁ、その面じゃ男の方に好かれそうだしな。全然女に相手してもらえねぇの?」
「う、はい……」
「まぁ、自分より可愛い男は嫌って女はいるだろうな。嫉妬すんだろうよ。女の嫉妬もちんけなプライドも可愛いもんだよな」
「女全肯定か」
「当たり前だ。女はそこに存在するだけで可愛いんだよ。嫉妬したり、悪口ばっか言ってるような歪んだ女でもな、ちょっと矛先変えてやりゃ、ニコニコ可愛く笑うんだよ」
「な、なるほど……リンクさん、すごいです……」
ここまで本当に女好きだと、単なる女好きというより、女性全般を広く愛している女性限定の博愛家のように思える。多分、実際にそうなのだろう。フィンは別に女性限定の博愛家になりたい訳ではないし、できたら彼女とだけ愛し合いたいのだが、リンクの女性に対する姿勢は見習うべきだという気がする。
「で、具体的なセックスのやり方とかコツを教えてほしいんだけど」
「ん?マイキー。お前も聞くのか?お前、一生童貞の予定だろ?噂のカーラ以外と結婚する気ないんだろ」
「ま、確かにないけどね。付き合いかな」
「ふーん。まぁ、いいや。しょうがねぇ。男の先輩として教えてやるか。あ、マイキー。謝礼として今夜一緒に飲みに行くことを要求する」
「いいよ。いつものバーでいいだろ?」
「お前も来るか?なんとか」
「……フィンです。あの、僕、今は諸事情でお酒が飲めなくて……」
「ふーん。あぁ、だから昼間に会うことになったのか。ぶっちゃけシラフでするような話でもねぇのに」
「そういうこと。悪いけど頼むよ、リンク」
「おーう。じゃあ、とりあえず手を繋いで相手をリラックスさせるところからだな。相手を怖がらせたり、緊張させたりするとお互い楽しめねぇからよ。リラックスしてっと感度もよくなるし」
「は、はいっ!」
フィンは今は真っ白のメモ帳を取り出した。ペンを片手に、ものすごく具体的なセックスのやり方やアドバイス、コツを熱心に語り始めたリンクの言葉を一言一句漏らさぬよう、しっかり聞きながら、メモ帳に書き込んでいく。具体的過ぎて正直恥ずかしく、頬や耳が熱いが、こんなにしっかりとした多くの経験に基づくセックスに関する話を聞く機会なんて、多分2度とない。フィンはリンクの長い話を、最後まで集中して聞いた。
たっぷり3時間近くリンクの話を聞いた。具体的過ぎて、聞いていてなんだか身体が熱くなってしまった。股間が少しむずむずする。語り終えたリンクが美味しそうに珈琲を飲んでいるので、フィンもすっかり冷めた珈琲を口に含んだ。淹れ立てよりも香りは飛んでいるが、十分に美味しい。
リンクがピッと珈琲を飲むフィンを指差した。
「お前、髪切ったら?長いから無駄に女にしか見られねぇんだよ。俺は一目で男だって分かるけどな。骨格からして違うし。とはいえ、嘆かわしいことに世の中の人間はそこまで素晴らしい観察眼を持ってねぇからよ。あと、お前の髪もサラサラでキレイ過ぎて女の嫉妬の対象になる。バッサリ切っちまえよ」
「……切りたいんですけど、馴染みの床屋のおじいちゃんが短くしてくれなくて……」
「あん?客の要望に応えるのが仕事だろ」
「そうかもしれないんですけど……小さい頃から通ってる床屋さんなんです。そこのおじいちゃん、僕のこと、小さい頃からよく知ってて可愛がっててくれてて。未だに行くとお菓子くれたりするんです。おじいちゃんが『フィン坊にはこの長さが1番似合う』って言って、これ以上短く切ってくれないんです」
「ふーん。じゃあ、俺がバッサリいくか」
「いいんですかっ!?」
「商売道具は常に持ち歩いてる。女に受けるしな。基本的に男は切らない主義だが、まぁ今回はしょうがねぇ。なんか気の毒だしな。美少女顔過ぎて女に相手されねぇとか」
「うぐぅ……お、お願いします」
「おう。バッサリいくぞ。バッサリ。マイキー、タオルと新聞紙貸してくれ。フィンはパンイチになれ」
「いいよ」
「は、はい」
「見た感じ、お前の頭の形はいいからな。後ろと横はガッツリ刈り上げるか。天辺だけ少し長めにして、整髪料で整えたらいいな。マイキー。試してみるから、整髪料も貸せ」
「俺が使ってるのは結構ハードなやつだけど、大丈夫?」
「全然問題ない。むしろ、そっちのがいい。髪を立たせるくらい短くいくからな」
「よろしくお願いします!」
フィンは立ち上がって、その場で服を脱いだ。マイキーが床に新聞紙を敷き、その上に台所の椅子とクッションを置いてくれたので、パンツ1枚の姿で座った。散髪用の鋏と櫛を持ったリンクが背後に立つ。髪を軽く櫛ですいた後、後ろ髪の一部をリンクに持ち上げられる感覚がした。じょきっと髪が切り落とされる。バサッと髪が新聞紙に落ちる音が大きかったので、本当にバッサリ切ったらしい。なんだかドキドキする。徐々に軽くなっていく頭に、フィンのテンションは上がっていった。
髪を切り終えて整髪料で整えてもらった。マイキーが持ってきてくれた鏡を見れば、さっきまでとは全然違う自分が映っている。なんだか我ながら似合っている気がする。後頭部に触れると、じょりっとした感触が手に伝わる。新鮮過ぎる。ふわぁぁぁぁ……と新しい髪型に感動していると、マイキーがフィンの後頭部を撫でた。
「この切ったばっかの感触っていいよね。じょりじょり感が癖になる」
「はいっ!」
「似合ってるよ。少し精悍で大人っぽく見える」
「ありがとうございます!マイキーさん!リンクさん!本当にありがとうございます!!」
「ふっ。我ながらいい仕事をしたぜ。俺の店は広場の近くだからよ。伸びたら来いよ。しょうがねぇから、また切ってやるよ」
「はいっ!ありがとうございます!」
すごく嬉しい。まるで生まれ変わったような気分だ。鏡に映る自分は女の子には見えない。これなら本当に彼女も振り向いてくれるかもしれない。顔がにやけてしまう。
マイキー達が後片付けをしている間にシャワーを借りて、身体についた切った髪を洗い流した。排水溝に髪が詰まるから、と辞退したのだが、マイキーが『排水溝用のネットをつけてるから大丈夫』と言ってくれたので、ありがたく借りた。シャンプーで髪を洗うと、今までとは全然洗う感じが違う。嬉しくて、フィンはふふっと笑った。ふ、と気づいた。借りたシャンプーや石鹸の香りがマイキーからいつも匂う香りだ。いや、マイキーの家のものなのだから、当然なのだろうけど。何故だか、その香りに少しテンションが上がる。マイキーとお揃いだ。
そういえば、マイキーも童貞らしい。カーラ以外と結婚する気がないとも言っていた。マイキーはこの先一生独身で恋人もつくらないのだろうか。なんだか、それは寂しいし、勿体無い気がする。マイキーはすごくいい人で、身体も逞しくて素敵なのに。
マイキーに抱き締められた時のことを思い出した。あの時感じたマイキーの体温も逞しい筋肉の感触も、もしかしたらフィンだけが知っているのかもしれない。何故だろう。すごく気分がいい。
フィンはなんとなく小さく鼻歌を歌いながら、シャワーの栓を止めた。
フィンは朝から落ち着かない気持ちでマイキーが訪れるのを待っていた。今日はマイキーと一緒に昼食をピッツァ屋で食べて、その後マイキーの自宅でマイキーの友達の遊び人という人と会う約束をしている。
フィンは性的な知識が殆んどない。そういう話をする友達がいなかったし、エロ本を読もうにもドレイクやナナイに毎回邪魔をされるので、店にあるエロ本を読んだこともない。フィンは夢精はしたことがあるが、自分でぺニスをそういう意味で弄ったことがほぼない。中学生の時に、同じ教室の男の子達が『オナニー』と呼ぶ行為をしているという話をチラッと耳にしたことがある。どうやらぺニスを自分で弄って射精することらしい。詳しい話は聞けなかったので、具体的にどうしたらいいのか分からない。1度だけ試しにやってみたことがあるのだが、初めての感覚がなんだか少し怖くて、途中で止めてしまった。しかし、もうフィンは18歳になるのだ。結婚してもおかしくない年だし、結婚したいと思う好きな女性もいる。そろそろ性知識をしっかり持たねばなるまい。
今こそ近い将来の為に学ぶ時だ。メモ帳はちゃんと新品のものを用意した。一言も洩らさずメモをとる気満々である。性の話を聞くのは少し恥ずかしいが、必要なことだ。頑張るしかあるまい。彼女との素敵な結婚生活の為である。
フィンは密かに燃えていた。
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マイキーと共に美味しいピッツァを楽しんだ後、花街にあるマイキーの自宅へと移動した。マイキーが香りのいい珈琲を淹れてくれたので、2人でのんびり食後の珈琲を楽しんでいた。2人で珈琲を飲みながら、とりとめのない話をしていると、マイキーの端末の通知音が鳴った。どうやら友達の遊び人が来たようである。いよいよだ。フィンは、下に迎えに行くというマイキーをドキドキしながら見送った。
マイキーと共に現れた男はすごくお洒落だった。お洒落に疎いフィンには何という髪型なのか分からないが、少し変わった髪型をしていて、でもそれがすごく男に似合っている。顔立ちが甘く整っていて、鍛えているのが服の上からでも分かる、すごく男性的な魅力がある人物だ。服装もお洒落でよく似合っている。自分の魅力的な見せ方をよく分かっているのだろう。多分。
男はフィンを見るなり、目を見開いて、ビシッとフィンを指差した。
「男じゃねぇか!!!」
フィンは少し驚いた。初対面で男だと分かってもらえることの方が少ない。
「男じゃねぇか!紹介したい子がいるっていうから絶対女だと思ってお洒落してきたのにっ!」
「誰も女なんて言ってないだろ」
「そうですけどっ!……んだよ。やる気失せるわー」
「そう言うなよ。フィン。こいつがリンク」
フィンは慌てて椅子から立ち上がって、リンクに頭を下げた。
「は、はじめまして。フィン・スカンジナビアです。その、今日はよろしくお願いいたします」
「あ?男の名前とかどうでもいいわ。つーか、よろしくする気ねぇけど?男じゃちんこ反応しねぇし」
「そういう意味のよろしくじゃない。セックスについて聞きたいだけだし」
「はぁ?」
「とりあえず珈琲淹れてくる」
「おう。俺のは砂糖入れんなよ」
「分かってる」
マイキーが珈琲を淹れに台所へと歩いていった。リンクがどかっと向かい側のソファーに座ったので、フィンも静かにソファーに座った。ドキドキする。いよいよ未知の知識へ触れる時である。
リンクに何て話しかければいいのか分からず、緊張もあってガチガチに固まって無言でいると、いい香りのする珈琲をマイキーが運んできてくれた。お礼を言ってマイキーから珈琲のお代わりを受け取り、1口飲むと、フィン好みの甘さと珈琲本来の苦味がいい感じのバランスで口の中に広がる。フィンの横に座ったマイキーが目の前のリンクを指差した。
「こいつ、美容師なんだけど、本当に女好きの遊び人でさ。下は10代から上は50代にまで手を出す節操なしなんだ。経験だけは人一倍あるよ」
「あ、それ記録更新したぞ。こないだ63の女とヤった」
「「63!?」」
「おう。結構楽しかったぜ」
「おばあちゃんじゃん!」
「60代は割とイケたから、次は70代とヤってみるわ」
「守備範囲広すぎだろ。お前はどこを目指しているの?」
「女はいくつになっても女なんだよ。皺くちゃだろうが、不細工な面してようが、女は笑えば可愛いもんだ。俺の下であんあん言ってる時が1番可愛いけどな」
なんだか本当にすごい人が現れた。節操なしと言えばそれまでだが、70代の女性ともセックスをしようと考えるなんて、並みの度量ではない。素直に尊敬してしまう。フィンが思わず尊敬の眼差しを向けると、リンクがふんっと鼻を鳴らした。
「で?セックスについて聞きたいって?」
「あ、はい。あの、僕は恥ずかしながら性的な知識があまりなくて……もう18になりますし、その、結婚を考えるくらい好きな女性がいまして……あの、その、ご教授願えればと……」
「ふーん。童貞か。まぁ、その面じゃ男の方に好かれそうだしな。全然女に相手してもらえねぇの?」
「う、はい……」
「まぁ、自分より可愛い男は嫌って女はいるだろうな。嫉妬すんだろうよ。女の嫉妬もちんけなプライドも可愛いもんだよな」
「女全肯定か」
「当たり前だ。女はそこに存在するだけで可愛いんだよ。嫉妬したり、悪口ばっか言ってるような歪んだ女でもな、ちょっと矛先変えてやりゃ、ニコニコ可愛く笑うんだよ」
「な、なるほど……リンクさん、すごいです……」
ここまで本当に女好きだと、単なる女好きというより、女性全般を広く愛している女性限定の博愛家のように思える。多分、実際にそうなのだろう。フィンは別に女性限定の博愛家になりたい訳ではないし、できたら彼女とだけ愛し合いたいのだが、リンクの女性に対する姿勢は見習うべきだという気がする。
「で、具体的なセックスのやり方とかコツを教えてほしいんだけど」
「ん?マイキー。お前も聞くのか?お前、一生童貞の予定だろ?噂のカーラ以外と結婚する気ないんだろ」
「ま、確かにないけどね。付き合いかな」
「ふーん。まぁ、いいや。しょうがねぇ。男の先輩として教えてやるか。あ、マイキー。謝礼として今夜一緒に飲みに行くことを要求する」
「いいよ。いつものバーでいいだろ?」
「お前も来るか?なんとか」
「……フィンです。あの、僕、今は諸事情でお酒が飲めなくて……」
「ふーん。あぁ、だから昼間に会うことになったのか。ぶっちゃけシラフでするような話でもねぇのに」
「そういうこと。悪いけど頼むよ、リンク」
「おーう。じゃあ、とりあえず手を繋いで相手をリラックスさせるところからだな。相手を怖がらせたり、緊張させたりするとお互い楽しめねぇからよ。リラックスしてっと感度もよくなるし」
「は、はいっ!」
フィンは今は真っ白のメモ帳を取り出した。ペンを片手に、ものすごく具体的なセックスのやり方やアドバイス、コツを熱心に語り始めたリンクの言葉を一言一句漏らさぬよう、しっかり聞きながら、メモ帳に書き込んでいく。具体的過ぎて正直恥ずかしく、頬や耳が熱いが、こんなにしっかりとした多くの経験に基づくセックスに関する話を聞く機会なんて、多分2度とない。フィンはリンクの長い話を、最後まで集中して聞いた。
たっぷり3時間近くリンクの話を聞いた。具体的過ぎて、聞いていてなんだか身体が熱くなってしまった。股間が少しむずむずする。語り終えたリンクが美味しそうに珈琲を飲んでいるので、フィンもすっかり冷めた珈琲を口に含んだ。淹れ立てよりも香りは飛んでいるが、十分に美味しい。
リンクがピッと珈琲を飲むフィンを指差した。
「お前、髪切ったら?長いから無駄に女にしか見られねぇんだよ。俺は一目で男だって分かるけどな。骨格からして違うし。とはいえ、嘆かわしいことに世の中の人間はそこまで素晴らしい観察眼を持ってねぇからよ。あと、お前の髪もサラサラでキレイ過ぎて女の嫉妬の対象になる。バッサリ切っちまえよ」
「……切りたいんですけど、馴染みの床屋のおじいちゃんが短くしてくれなくて……」
「あん?客の要望に応えるのが仕事だろ」
「そうかもしれないんですけど……小さい頃から通ってる床屋さんなんです。そこのおじいちゃん、僕のこと、小さい頃からよく知ってて可愛がっててくれてて。未だに行くとお菓子くれたりするんです。おじいちゃんが『フィン坊にはこの長さが1番似合う』って言って、これ以上短く切ってくれないんです」
「ふーん。じゃあ、俺がバッサリいくか」
「いいんですかっ!?」
「商売道具は常に持ち歩いてる。女に受けるしな。基本的に男は切らない主義だが、まぁ今回はしょうがねぇ。なんか気の毒だしな。美少女顔過ぎて女に相手されねぇとか」
「うぐぅ……お、お願いします」
「おう。バッサリいくぞ。バッサリ。マイキー、タオルと新聞紙貸してくれ。フィンはパンイチになれ」
「いいよ」
「は、はい」
「見た感じ、お前の頭の形はいいからな。後ろと横はガッツリ刈り上げるか。天辺だけ少し長めにして、整髪料で整えたらいいな。マイキー。試してみるから、整髪料も貸せ」
「俺が使ってるのは結構ハードなやつだけど、大丈夫?」
「全然問題ない。むしろ、そっちのがいい。髪を立たせるくらい短くいくからな」
「よろしくお願いします!」
フィンは立ち上がって、その場で服を脱いだ。マイキーが床に新聞紙を敷き、その上に台所の椅子とクッションを置いてくれたので、パンツ1枚の姿で座った。散髪用の鋏と櫛を持ったリンクが背後に立つ。髪を軽く櫛ですいた後、後ろ髪の一部をリンクに持ち上げられる感覚がした。じょきっと髪が切り落とされる。バサッと髪が新聞紙に落ちる音が大きかったので、本当にバッサリ切ったらしい。なんだかドキドキする。徐々に軽くなっていく頭に、フィンのテンションは上がっていった。
髪を切り終えて整髪料で整えてもらった。マイキーが持ってきてくれた鏡を見れば、さっきまでとは全然違う自分が映っている。なんだか我ながら似合っている気がする。後頭部に触れると、じょりっとした感触が手に伝わる。新鮮過ぎる。ふわぁぁぁぁ……と新しい髪型に感動していると、マイキーがフィンの後頭部を撫でた。
「この切ったばっかの感触っていいよね。じょりじょり感が癖になる」
「はいっ!」
「似合ってるよ。少し精悍で大人っぽく見える」
「ありがとうございます!マイキーさん!リンクさん!本当にありがとうございます!!」
「ふっ。我ながらいい仕事をしたぜ。俺の店は広場の近くだからよ。伸びたら来いよ。しょうがねぇから、また切ってやるよ」
「はいっ!ありがとうございます!」
すごく嬉しい。まるで生まれ変わったような気分だ。鏡に映る自分は女の子には見えない。これなら本当に彼女も振り向いてくれるかもしれない。顔がにやけてしまう。
マイキー達が後片付けをしている間にシャワーを借りて、身体についた切った髪を洗い流した。排水溝に髪が詰まるから、と辞退したのだが、マイキーが『排水溝用のネットをつけてるから大丈夫』と言ってくれたので、ありがたく借りた。シャンプーで髪を洗うと、今までとは全然洗う感じが違う。嬉しくて、フィンはふふっと笑った。ふ、と気づいた。借りたシャンプーや石鹸の香りがマイキーからいつも匂う香りだ。いや、マイキーの家のものなのだから、当然なのだろうけど。何故だか、その香りに少しテンションが上がる。マイキーとお揃いだ。
そういえば、マイキーも童貞らしい。カーラ以外と結婚する気がないとも言っていた。マイキーはこの先一生独身で恋人もつくらないのだろうか。なんだか、それは寂しいし、勿体無い気がする。マイキーはすごくいい人で、身体も逞しくて素敵なのに。
マイキーに抱き締められた時のことを思い出した。あの時感じたマイキーの体温も逞しい筋肉の感触も、もしかしたらフィンだけが知っているのかもしれない。何故だろう。すごく気分がいい。
フィンはなんとなく小さく鼻歌を歌いながら、シャワーの栓を止めた。
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