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25:マイキーの休日2

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フィンにビーズ飾りの作り方を一緒に作りながら教えている。フィンは真剣な顔で集中して、時折使うビーズの色を悩みながら、チマチマととても小さなビーズを細い糸に通している。癖なのか、自分の手元をじっと見つめながら、少し唇を尖らせている。小一時間程で、ビーズ飾りは完成した。今回教えたのはとても初歩的な簡単なもので、マイキーは小学校に入学する前にマートルから教えてもらって何度も練習した。幼い小さな手では、小さな小さなビーズを糸に通すのが難しく、思うようにいかなくて癇癪を起こしたこともある。フィンが完成したビーズ飾りを嬉しそうな笑顔でマイキーに見せてきた。


「できました!」

「うん。色使いがいいね。華やかだけど、派手じゃない。上手くできてる」

「ありがとうございます!」

「あ、これ。例の彼女にあげたら?ピンにつけて。この配色なら子供っぽくないし」

「え、でも、初めて作ったものだし……」

「丁寧に上手くできてるから大丈夫だよ。フィンは手先が器用だね」

「……ありがとうございます。受け取ってもらえるでしょうか?まだ、デートに誘うどころか、世間話くらいしかできてないんですけど……」

「新たな趣味に挑戦してみたけど、作っても自分じゃ使わないからって言ってみたら?よかったら貰ってくださいって」

「……はい。頑張ってみます!」

「うん。頑張って。じゃあ、ピンにつけようか」

「はい!」


マイキーが褒めると照れたように頬を赤らめて笑い、マイキーの提案に不安そうに眉を下げ、今はやる気に満ちているのか目をキラキラ輝かせている。フィンは結構ころころ表情が変わるので、見ていて分かりやすく、面白い。マイキーは小さく笑いながら、今度は真剣な眼差しをピンと作ったばかりのビーズ飾りに向けるフィンに、手本を見せつつ、やり方を教えた。









ーーーーーー
マイキーはテーブルの椅子に座って、スプーンを口に入れたまま固まっていた。素直に不味い。鶏肉とカボチャのシチューの筈なのに、何故酸味と苦味と辛味を感じるのか。意味が分からない、舌がおかしくなりそうな味に、どう反応したらいいのか分からない。なんとか無理矢理口の中のものを飲み込んで、フィンが淹れてくれたお茶を一気に飲んだ。
フィンがなんとも申し訳なさそうな顔でマイキーを見た。


「……すいません。今日は父が作ったんです。フィルはもう少しマシなんですけど……昨日、包丁で指を切っちゃって。……父は味付けがその……少し、少し?苦手で……」


少し苦手というレベルではない気がする。見た目はとても美味しそうな分、見た目を裏切る衝撃的過ぎる味付けが戦慄する程酷い。こんなもの食べたら、確実に舌が馬鹿になる。マイキーは若干引きつった顔で、頭に浮かんだ疑問をフィンに聞いた。


「……フィンって、小さい頃はこんな感じのを食べてたの?」

「いえ!子供の頃は祖父が一緒に住んでて、祖父がご飯を作ってくれてました。祖父はすごく料理上手で、いつも美味しいご飯を食べてたんです」

「あ、ならよかった」


フィンの身体が小さいのは食事に原因があるのかと、一瞬本気で思った。フィンが少し眉を下げて、スプーンでぐるぐる自分の皿のシチューをかき混ぜながら口を開いた。


「毎日美味しいご飯を作ってくれてた祖父が、僕が小学校5年生の時に脳梗塞で倒れちゃって。幸い一命は取り留めたんですけど、左半身が麻痺しちゃって、今は普段は施設にいます。祖父が入院していた頃は、お惣菜屋さんとかでお惣菜を買ってたんですけど。ある日、父がご飯を作ってくれたんです。ずっとお惣菜屋さんで買うのは経済的に少し苦しくなるからって。……もう、本当に衝撃的過ぎる程不味くて。見た目は普通に美味しそうだったから、尚更キツくて。僕、3日も我慢できなかったんです。自分で作った方が絶対マシだと思って。祖父のお手伝いを毎日してたので料理の基本は知ってたし、店に置いてある料理の本を見ながら、僕がご飯を作るようになったんです」

「あー……なるほど」

「無理して食べなくてもいいですよ?正直、僕もこれはキツくて無理です。……折角、父が良かれと思って作ってくれたんですけど……無理……これは本当に無理……」

「あー……うん……ちょっとね……申し訳ないんだけど……」


2人揃って、なんとも微妙な顔で手元のシチューの皿を見た。本当にこれを全部食べきるのは無理だ。フィンの父親には悪いが、食べて大丈夫な代物ではない。本当に何を入れたら、こんな劇物的なものができるのか。不思議でならない。


「……うん。フィン。ご飯食べに行こう。散歩も兼ねて。手術してから、まだ外に出てないでしょ?」

「はい。父には悪いんですけど、これは見なかったことにします」

「うん。食べたら傷が悪化しそうだしね。どこに行こうか。食べたいものはある?」

「んー……あ、実は子供の頃から食べてみたいものがあるんです」

「ん?なに?」

「ピッツァです」

「ピッツァ。え、食べたことないの?」

「ないです。……母が、ピッツァは太る食べ物だから子供に食べさせるなって言ったそうで……」

「えぇ……別に食べ過ぎなければ太らないよ……」

「ですよねぇ……父は母の尻に敷かれてるから、食べに連れていってもらったこともなくて。1人でこっそりも、ちょっと行きにくくて」

「なるほど。よし。フィン。ピッツァ食べよう。美味しい店知ってるし」

「はいっ!!」


フィンの母親は本当に色々どうかと思う。本当に嬉しそうに顔を輝かせるフィンとシチューを鍋に戻して、鍋の蓋を閉めて見なかったことにした。皿を洗って拭いて片付けて、証拠隠滅的なノリで食事の痕跡を消すと、初めてのピッツァが楽しみなのか、そわそわしているフィンと2人でフィンの家を出た。フィン用のドーナツ型クッションを忘れずに持って。

マイキーお気に入りのピッツァ屋に行くと、フィンは真剣な顔でメニュー表とにらめっこをした。暫くすると、メニュー表から目を離して、なんとも情けない顔をして『食べたいのが多過ぎて選べません……』と言ったので、マイキーがお勧めのピッツァを注文した。
フィンはそわそわしながらピッツァが運ばれてくるのを待ち、店員が焼き立てで熱々のピッツァをテーブルに運んできたら、小さく歓声を上げた。大輪の華のような輝くフィンの笑顔に、運んできた店員の若い男が頬を染めているが、フィンの視線はピッツァに釘付けである。ピッツァにしか興味がない。なんとも罪な男である。


「今からが旬のトマトとバジルのピッツァと、俺が1番好きなのを頼んだよ。サラミと茸のトマトソースのピッツァ。熱いうちに食べよう。もう切ってあるから、手で取って食べるんだ。そのままガブッといっちゃってよ。あ、熱いから火傷には気をつけてね」

「はいっ!いただきます!」


フィンがトマトとバジルのピッツァを1切れ手に取ったので、マイキーも同じく1切れ手に取った。熱々のピッツァに大きくかぶりつくと、爽やかなバジルの風味が鼻を抜け、チーズの旨味とまろやかな塩気が特製トマトソースの味わいと少し火の通った柔らかい酸味のあるトマトと絡んで、絶妙に美味しい。
フィンもはふはふしながら1口食べて、目をキラキラと輝かせている。


「すっごいすっごい美味しいですっ!」

「口に合ってよかったよ。好きなだけ食べなよ。足りなかったら追加注文するし、食べきれなかったら残りを持ち帰りもできるから」

「はいっ!……こんなに美味しいものを食べたことがなかったなんて……勿体無さすぎて、ちょっと悔しいです」

「はははっ。フィン、まだ17歳じゃん。まだまだこれから色んなことを経験していくんだから。きっとこれからもっと美味しいものや素敵なものに出会っていくよ」

「そうですね……うぅ……茸のも美味しいですぅ……サラミと茸とチーズとトマトソースって相性最高なんですね」

「旨いよね。俺、ピッツァじゃ、これが1番好きなんだよね」

「メニュー全制覇したいです」

「あー。気持ちは分かるなぁ。俺も全制覇したいとは思うんだけど、まだ全然なんだよね。いつもサラミと茸のピッツァばっかり頼んじゃうんだ。すっごい気に入ってるから、つい食べたくなっちゃって」

「これだけ美味しかったら、何度も食べたくなっちゃいますよね」

「そうなんだよ。あ、フィン」

「はい」

「ソースついてるよ」


フィンの口の周りがソースで真っ赤である。ピッツァを食べ慣れない子供がよくこうなる。なんとも可愛い。しかし、笑ってはフィンに悪いので、マイキーは笑いをこらえながら、テーブルの上に置いてある紙ナプキンを手に取って、腕を伸ばして対面に座るフィンの口元を拭いてやった。
指摘されて初めて自分の口周りがソースだらけだということに気づいたのか、フィンが恥ずかしそうに、目元を赤く染めた。


「す、すいません……子供みたいですね、僕」

「はははっ。食べ慣れないと皆そうなるよ。何度も食べてたら慣れるし。また来ようか。2人なら分けっこできるから、本当にメニュー全制覇できちゃうかも」

「……はいっ!!」


フィンが本当に嬉しそうに笑って頷いた。満腹になるまで2人でピッツァを頬張り、食べきれなかった分は持ち帰り用に包んでもらった。
僅か10日の間で胃袋が少し縮んだのか、フィンが食べられる量が結構減っていた。マイキーは『折角食べられる量が増えていたのに……』と凹んでいるフィンの頭をわしゃわしゃ撫でまわして慰めた。


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