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20:少年達のとりとめのない話
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ディルムッドは気合いを入れて、釣り勝負第2回戦へと挑んでいた。『プリネラ』のケーキを何としても食べたい。自分じゃ高くて買えないし。イーグルとフィルと3人並んで水際に座り、釣竿をぎゅっと握って、今か今かと魚が釣り針に食いつくのを待っている。
隣に座っているイーグルが小さく欠伸をした。
「腹一杯で眠い」
「分かる。走って疲れたし。昼寝したい」
「最低でも6匹は釣らないとパーシーさんに勝てないよな」
「うん。今どんくらい時間経った?」
帰りもディルムッド達は走って街まで移動するので、第2回戦の制限時間は1時間だけだ。フィルが釣竿片手に自分のズボンのポケットに手を突っ込んで懐中時計を取り出した。
「あ、もう15分も経ってる」
「「マジか」」
「やべぇ。俺ら1匹も釣れてねぇじゃん」
「『プリネラ』のケーキがっ!!」
「魚はうようよ泳いでるのに……」
「いっそ釣餌をここら辺にバラまく?」
「アホか、ディル。バラまいた餌に食いつくだけだろ」
「じゃあ、どうすんのさー。イーグルー」
「えー……さぁ?」
「魚が食いつくのを待つしかないんじゃない?」
「まーじかー」
ディルムッドはじーっと水面から覗く魚の影を見つめた。釣り堀には沢山の魚が泳いでいる。なのに何故か釣り針に食いついてこない。何故だ。
「……魚、お腹空いてないのかな?」
「さぁな」
「僕は満腹で眠い。魚かかんないしマジで寝そう」
「寝るなよ」
「がんばる?何か話してよ。眠気覚ましになりそうなの」
「「えー」」
「はーやーくー。マジで僕寝るぞ」
「なんつー無茶振りしやがんだよ」
「えー……あ。昼飯の時のフィン兄ちゃんの話ってマジなの?」
「うん。店の倉庫ってさ、外からしか鍵をかけられないんだけど、外開きじゃなくて内開きの入り口だから内側に重い箱とか置いたら入り口を開けられないんだよね。倉庫の中には在庫の本が詰まった重い箱がいっぱいあるし。兄ちゃん、毎回根性だけで重い箱を動かしてたっぽい。僕や父さんが声かけても全然出てこなかったんだよね」
「「うわぁ」」
「倉庫の中に何故かトイレがあってさ。めちゃくちゃ古いし、すぐ詰まるけど。手洗い用の小さな洗面台もあるし、その水飲んで凌いでいたっぽい」
「フィルんとこのおばちゃん、なんか普通に優しそうな、ちょー美人さんだと思ってた」
「俺も。ないわー。マジでさ、普通倉庫に閉じ籠って飯も食わないなんつーことされたら、そん時に折れるだろ。別にフィン兄ちゃんが何か悪いことしたとか、無茶な我が儘言ったとかじゃねぇのに」
「だよねぇ」
「普段はまぁ普通だけど、自分の顔が兎に角大好きなんだよね。うちの母さん。自分そっくりの兄ちゃんが絡むとすっげぇ面倒臭いし。母さんのことは嫌いじゃないけど、割と兄ちゃんが可哀想な時が多い」
「うわぁ……」
「ないわー」
「そういや、イーグルんとこのおばちゃん。最近来てんの?結構前におじちゃんと喧嘩してたって愚痴ってたじゃん」
「ん?もう半年以上来てねぇよ」
「「は?」」
「マジで離婚するかもな。うちの親」
「マジかぁ……」
「えー……なんでまた……」
「母ちゃん曰く、父ちゃんは独占欲強すぎて束縛されてウザいんだと。父ちゃんは父ちゃんで、母ちゃんが他の旦那のとこに行くの嫌がるし」
「イーグルんとこのおばちゃんって、旦那何人だっけ」
「3人。最後に来た時にさ、旦那にしたい好きな男ができたって母ちゃんが飯の時に言ってさ。そっから夫婦喧嘩が勃発。それ以来、母ちゃん来てない。俺はまぁまだいいけどよ。10歳にもならない双子の前でガチで喧嘩すんなよって話だよな」
「イーグルんとこのおばちゃんもさ、ちょっとアレだね」
「まぁな」
「親の喧嘩は見たくないなぁ。俺」
「僕も」
「まぁ、普通に気分悪いよな。双子も少し前までは母ちゃんに会いたがってたけど、最近は諦めたっぽい。母ちゃんの話、全然しなくなったし」
「……まだ今年で10歳でしょ?やっぱ寂しいよね」
「なんだかなぁ……」
「元々、他の旦那の所よりうちに来る頻度が少なかったんだよ。それでも昔は月に1度は必ず俺に会いに来てたけど。でも別の旦那との間に娘が産まれてさ。それからは娘にべったりで、双子にもあんま会いに来てなかったし」
「おぅ……娘って今何歳なの?」
「双子の2つ下」
「「うわぁ……」」
「……やっぱさ、双子がちょっと可哀想でよー。父ちゃんは仕事忙しいから、あんま構ってやらねぇし。父方のじいちゃんが頻繁に様子見に来てくれるから、まぁまだいいけどさ。離婚するなら離婚するで、いっそさっさと離婚してほしいわ。変に期待しなくてすむし」
「そうだなぁ。ずるずる現状維持が1番嫌だよなぁ」
「だねぇ」
「ディルんとこはすげぇ安定感あるよな」
「あ、それ分かる。ディルんとこのおばさんっていいよなー。いつ会ってもニコニコしてて愛嬌あって可愛いし。おじさんとも仲良しだよな」
「うん。父さんと母さん、仲いいよ。うちの母さんさ、旦那が3人いるんだけど、子供も含めて絶対平等に愛して大事にするって決めてるんだって」
「「へぇ!」」
「女の人は複数旦那が持てるけど、男は1人だけじゃん?そもそもそれがなんか不平等な気がするし、現実として旦那達の優劣決めたりする女の人もいるんだって。旦那の数で女の人同士でマウント取り合ったりとかしたり。そういうの嫌だから、せめて自分は旦那全員と誠実な関係でいたいって、前に話してた。他の旦那と何度か会ったことあるけど、2人とも普通にいい人そうだったよ。父親が違う兄ちゃんが1人と妹が2人いるけど、会ったら普通に話すし。母さん、本当に平等でいようってしてるみたいでさ。別の旦那のとこでの母さんの話とか聞いても羨ましいとか思わないんだよね。あ、うちと一緒じゃん、みたいな感じで」
「いいなぁ。おばさん。ていうか、すごいよね。僕、父親が違う兄弟と会ったこともない。母さんの他の旦那にも」
「俺もないわ」
「旦那同士も全然仲悪くないよ。2人とも農家さんでさ。母さん経由でよく野菜くれるし。父さんもお礼にって焼き菓子とか惣菜作って母さん経由で渡してる」
「「すげー」」
「『あたし完全に運び屋じゃない?』って、たまに母さんがぼやいてるよ。いっつも重い大量の野菜持ってきて、大量の惣菜とか渡されて帰るから。理想は全員で一緒の家に暮らすことなんだってさ。現実問題、流石に無理だけど。適度な距離感があった方が旦那同士もうまくいくっぽいし」
「へぇー」
「いいなぁ。ディルの母ちゃん。結婚するならディルの母ちゃんみたいな子と結婚したいわ」
「わっかるー。少なくとも、僕は母さんみたいな人とはどれだけ美人でも結婚したくない。悪い人じゃないけど正直面倒臭い」
「俺も母ちゃんみたいなのは嫌だわ。旦那にも子供にも優劣つけてるっつーか。贔屓してるっつーか。全然平等に大事にされてる感ないしな」
「俺もできたら母さんみたいな考え方の子がいいなぁ。俺自身が適当に扱われても嫌だけどさ。それ以上に自分の子供が蔑ろにされたら嫌だもん」
「だよなぁ」
「分かるー。つーか、既にデートに誘われた男の数で競いあってる女子もいるよな。一部だけど」
「いるね。あれさ、話が聞こえてくるとなんか気分悪いよね」
「俺もそういう子は嫌だなぁ」
「いい出会いがほしーい」
「結婚するなら慎重にしなきゃな」
「ミッシェルちゃんは結婚に対してどう思ってるんだろ。まだ立ち話レベルでしか仲良くなれてないんだよね」
「じわじわ仲良くなってんだろ?進歩じゃん」
「イーグルの言うこと実践して偉いよ、ディル」
「えっへへー。こないださ、ミッシェルちゃんオススメの本を教えてもらえたんだよねー。俺が好きな作家さんをミッシェルちゃんも好きでさー。先週なんて図書室の前で1時間もお喋りしちゃった!」
「「おー」」
「そろそろデートに誘ってもいいかなぁ?」
「デートって言わなくて、街の図書館に一緒に行こうって誘ってみれば?それか本屋。ミッシェルちゃん、本が好きなんだろ?デートって言ったら構えるだろうけど、それなら気軽に頷いてくれるんじゃね?」
「なるほど!流石イーグル!頭いい!」
「はっはっは!褒めろ!」
「すごいっ!素敵っ!好きっ!頼りになるっ!」
「はっはっはー!」
ディルムッドは釣竿片手に隣に座るイーグルの背中をバンバン叩いて、イーグルを褒め称えた。イーグルの向こうに座っているフィルも笑いながら片手でイーグルの丸刈り頭を撫で回している。イーグルが笑いながら、やーめーろー、とジタバタした。
なんだか、イーグルの家は今大変そうだし、フィルの家も正直微妙だ。自分は本当に恵まれている。大変なのに、いつも笑っているイーグルは本当にすごい。イーグルに何かしてやれないだろうか。ディルムッドはイーグルやフィルと釣りそっちのけでじゃれながら、ぼんやり頭の片隅で思った。
騒いでいたからか、全然魚は釣れなかった。結局釣れたのは、午前中に釣れた小さな1匹だけである。『プリネラ』のケーキは第2回戦もぶっちぎりで戦果を上げたパーシーのものになった。『久しぶりにケリーと2人だけでデートだ』と、パーシーはすごく嬉しそうに笑っていた。正直かなり羨ましい。『プリネラ』のケーキもだが、好きな人とデートができるってことが。パーシーもケリーも、お互いをすごく大事にしているのが端から見てよく分かる。男同士だが、なんだか憧れてしまう程夫婦仲がいい。ディルムッドの両親も仲がいいけど、お互いだけしか見ていないという関係は正直羨ましいものがある。男夫婦は基本的にお互いだけだけど、女の子と結婚したら、それは確実にない。カーラはケビンしか旦那がいないし、今後も旦那を増やさないらしいが、そんな女の子は超少数派だ。カーラは間違いなく女の子の間じゃ変わり者扱いされていると思う。
自分だけを見て愛してくれる女の子と結婚できるなんて思わないが、せめて他の旦那と平等に愛して接してもらいたい。ディルムッドは来年には成人する。早ければ男も中学校卒業と同時に結婚する者もいる。沢山の女の子にキャーキャー言われて兎に角モテたいと思っていたが、イーグル達との話で、結婚についてはもう少し慎重に考えた方がいいかもしれないと思った。自分は子供だって思ってたけど、もう結婚適齢期がじわじわ近づいてきている。子供じゃいられなくなる。ディルムッドは帰り道をケリーとイーグルと並んで走りながら、うまく言葉にできない感情が胸にあるのを感じていた。
隣に座っているイーグルが小さく欠伸をした。
「腹一杯で眠い」
「分かる。走って疲れたし。昼寝したい」
「最低でも6匹は釣らないとパーシーさんに勝てないよな」
「うん。今どんくらい時間経った?」
帰りもディルムッド達は走って街まで移動するので、第2回戦の制限時間は1時間だけだ。フィルが釣竿片手に自分のズボンのポケットに手を突っ込んで懐中時計を取り出した。
「あ、もう15分も経ってる」
「「マジか」」
「やべぇ。俺ら1匹も釣れてねぇじゃん」
「『プリネラ』のケーキがっ!!」
「魚はうようよ泳いでるのに……」
「いっそ釣餌をここら辺にバラまく?」
「アホか、ディル。バラまいた餌に食いつくだけだろ」
「じゃあ、どうすんのさー。イーグルー」
「えー……さぁ?」
「魚が食いつくのを待つしかないんじゃない?」
「まーじかー」
ディルムッドはじーっと水面から覗く魚の影を見つめた。釣り堀には沢山の魚が泳いでいる。なのに何故か釣り針に食いついてこない。何故だ。
「……魚、お腹空いてないのかな?」
「さぁな」
「僕は満腹で眠い。魚かかんないしマジで寝そう」
「寝るなよ」
「がんばる?何か話してよ。眠気覚ましになりそうなの」
「「えー」」
「はーやーくー。マジで僕寝るぞ」
「なんつー無茶振りしやがんだよ」
「えー……あ。昼飯の時のフィン兄ちゃんの話ってマジなの?」
「うん。店の倉庫ってさ、外からしか鍵をかけられないんだけど、外開きじゃなくて内開きの入り口だから内側に重い箱とか置いたら入り口を開けられないんだよね。倉庫の中には在庫の本が詰まった重い箱がいっぱいあるし。兄ちゃん、毎回根性だけで重い箱を動かしてたっぽい。僕や父さんが声かけても全然出てこなかったんだよね」
「「うわぁ」」
「倉庫の中に何故かトイレがあってさ。めちゃくちゃ古いし、すぐ詰まるけど。手洗い用の小さな洗面台もあるし、その水飲んで凌いでいたっぽい」
「フィルんとこのおばちゃん、なんか普通に優しそうな、ちょー美人さんだと思ってた」
「俺も。ないわー。マジでさ、普通倉庫に閉じ籠って飯も食わないなんつーことされたら、そん時に折れるだろ。別にフィン兄ちゃんが何か悪いことしたとか、無茶な我が儘言ったとかじゃねぇのに」
「だよねぇ」
「普段はまぁ普通だけど、自分の顔が兎に角大好きなんだよね。うちの母さん。自分そっくりの兄ちゃんが絡むとすっげぇ面倒臭いし。母さんのことは嫌いじゃないけど、割と兄ちゃんが可哀想な時が多い」
「うわぁ……」
「ないわー」
「そういや、イーグルんとこのおばちゃん。最近来てんの?結構前におじちゃんと喧嘩してたって愚痴ってたじゃん」
「ん?もう半年以上来てねぇよ」
「「は?」」
「マジで離婚するかもな。うちの親」
「マジかぁ……」
「えー……なんでまた……」
「母ちゃん曰く、父ちゃんは独占欲強すぎて束縛されてウザいんだと。父ちゃんは父ちゃんで、母ちゃんが他の旦那のとこに行くの嫌がるし」
「イーグルんとこのおばちゃんって、旦那何人だっけ」
「3人。最後に来た時にさ、旦那にしたい好きな男ができたって母ちゃんが飯の時に言ってさ。そっから夫婦喧嘩が勃発。それ以来、母ちゃん来てない。俺はまぁまだいいけどよ。10歳にもならない双子の前でガチで喧嘩すんなよって話だよな」
「イーグルんとこのおばちゃんもさ、ちょっとアレだね」
「まぁな」
「親の喧嘩は見たくないなぁ。俺」
「僕も」
「まぁ、普通に気分悪いよな。双子も少し前までは母ちゃんに会いたがってたけど、最近は諦めたっぽい。母ちゃんの話、全然しなくなったし」
「……まだ今年で10歳でしょ?やっぱ寂しいよね」
「なんだかなぁ……」
「元々、他の旦那の所よりうちに来る頻度が少なかったんだよ。それでも昔は月に1度は必ず俺に会いに来てたけど。でも別の旦那との間に娘が産まれてさ。それからは娘にべったりで、双子にもあんま会いに来てなかったし」
「おぅ……娘って今何歳なの?」
「双子の2つ下」
「「うわぁ……」」
「……やっぱさ、双子がちょっと可哀想でよー。父ちゃんは仕事忙しいから、あんま構ってやらねぇし。父方のじいちゃんが頻繁に様子見に来てくれるから、まぁまだいいけどさ。離婚するなら離婚するで、いっそさっさと離婚してほしいわ。変に期待しなくてすむし」
「そうだなぁ。ずるずる現状維持が1番嫌だよなぁ」
「だねぇ」
「ディルんとこはすげぇ安定感あるよな」
「あ、それ分かる。ディルんとこのおばさんっていいよなー。いつ会ってもニコニコしてて愛嬌あって可愛いし。おじさんとも仲良しだよな」
「うん。父さんと母さん、仲いいよ。うちの母さんさ、旦那が3人いるんだけど、子供も含めて絶対平等に愛して大事にするって決めてるんだって」
「「へぇ!」」
「女の人は複数旦那が持てるけど、男は1人だけじゃん?そもそもそれがなんか不平等な気がするし、現実として旦那達の優劣決めたりする女の人もいるんだって。旦那の数で女の人同士でマウント取り合ったりとかしたり。そういうの嫌だから、せめて自分は旦那全員と誠実な関係でいたいって、前に話してた。他の旦那と何度か会ったことあるけど、2人とも普通にいい人そうだったよ。父親が違う兄ちゃんが1人と妹が2人いるけど、会ったら普通に話すし。母さん、本当に平等でいようってしてるみたいでさ。別の旦那のとこでの母さんの話とか聞いても羨ましいとか思わないんだよね。あ、うちと一緒じゃん、みたいな感じで」
「いいなぁ。おばさん。ていうか、すごいよね。僕、父親が違う兄弟と会ったこともない。母さんの他の旦那にも」
「俺もないわ」
「旦那同士も全然仲悪くないよ。2人とも農家さんでさ。母さん経由でよく野菜くれるし。父さんもお礼にって焼き菓子とか惣菜作って母さん経由で渡してる」
「「すげー」」
「『あたし完全に運び屋じゃない?』って、たまに母さんがぼやいてるよ。いっつも重い大量の野菜持ってきて、大量の惣菜とか渡されて帰るから。理想は全員で一緒の家に暮らすことなんだってさ。現実問題、流石に無理だけど。適度な距離感があった方が旦那同士もうまくいくっぽいし」
「へぇー」
「いいなぁ。ディルの母ちゃん。結婚するならディルの母ちゃんみたいな子と結婚したいわ」
「わっかるー。少なくとも、僕は母さんみたいな人とはどれだけ美人でも結婚したくない。悪い人じゃないけど正直面倒臭い」
「俺も母ちゃんみたいなのは嫌だわ。旦那にも子供にも優劣つけてるっつーか。贔屓してるっつーか。全然平等に大事にされてる感ないしな」
「俺もできたら母さんみたいな考え方の子がいいなぁ。俺自身が適当に扱われても嫌だけどさ。それ以上に自分の子供が蔑ろにされたら嫌だもん」
「だよなぁ」
「分かるー。つーか、既にデートに誘われた男の数で競いあってる女子もいるよな。一部だけど」
「いるね。あれさ、話が聞こえてくるとなんか気分悪いよね」
「俺もそういう子は嫌だなぁ」
「いい出会いがほしーい」
「結婚するなら慎重にしなきゃな」
「ミッシェルちゃんは結婚に対してどう思ってるんだろ。まだ立ち話レベルでしか仲良くなれてないんだよね」
「じわじわ仲良くなってんだろ?進歩じゃん」
「イーグルの言うこと実践して偉いよ、ディル」
「えっへへー。こないださ、ミッシェルちゃんオススメの本を教えてもらえたんだよねー。俺が好きな作家さんをミッシェルちゃんも好きでさー。先週なんて図書室の前で1時間もお喋りしちゃった!」
「「おー」」
「そろそろデートに誘ってもいいかなぁ?」
「デートって言わなくて、街の図書館に一緒に行こうって誘ってみれば?それか本屋。ミッシェルちゃん、本が好きなんだろ?デートって言ったら構えるだろうけど、それなら気軽に頷いてくれるんじゃね?」
「なるほど!流石イーグル!頭いい!」
「はっはっは!褒めろ!」
「すごいっ!素敵っ!好きっ!頼りになるっ!」
「はっはっはー!」
ディルムッドは釣竿片手に隣に座るイーグルの背中をバンバン叩いて、イーグルを褒め称えた。イーグルの向こうに座っているフィルも笑いながら片手でイーグルの丸刈り頭を撫で回している。イーグルが笑いながら、やーめーろー、とジタバタした。
なんだか、イーグルの家は今大変そうだし、フィルの家も正直微妙だ。自分は本当に恵まれている。大変なのに、いつも笑っているイーグルは本当にすごい。イーグルに何かしてやれないだろうか。ディルムッドはイーグルやフィルと釣りそっちのけでじゃれながら、ぼんやり頭の片隅で思った。
騒いでいたからか、全然魚は釣れなかった。結局釣れたのは、午前中に釣れた小さな1匹だけである。『プリネラ』のケーキは第2回戦もぶっちぎりで戦果を上げたパーシーのものになった。『久しぶりにケリーと2人だけでデートだ』と、パーシーはすごく嬉しそうに笑っていた。正直かなり羨ましい。『プリネラ』のケーキもだが、好きな人とデートができるってことが。パーシーもケリーも、お互いをすごく大事にしているのが端から見てよく分かる。男同士だが、なんだか憧れてしまう程夫婦仲がいい。ディルムッドの両親も仲がいいけど、お互いだけしか見ていないという関係は正直羨ましいものがある。男夫婦は基本的にお互いだけだけど、女の子と結婚したら、それは確実にない。カーラはケビンしか旦那がいないし、今後も旦那を増やさないらしいが、そんな女の子は超少数派だ。カーラは間違いなく女の子の間じゃ変わり者扱いされていると思う。
自分だけを見て愛してくれる女の子と結婚できるなんて思わないが、せめて他の旦那と平等に愛して接してもらいたい。ディルムッドは来年には成人する。早ければ男も中学校卒業と同時に結婚する者もいる。沢山の女の子にキャーキャー言われて兎に角モテたいと思っていたが、イーグル達との話で、結婚についてはもう少し慎重に考えた方がいいかもしれないと思った。自分は子供だって思ってたけど、もう結婚適齢期がじわじわ近づいてきている。子供じゃいられなくなる。ディルムッドは帰り道をケリーとイーグルと並んで走りながら、うまく言葉にできない感情が胸にあるのを感じていた。
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