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17:愛弟子自慢とカーラの愛

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色んな話が大いに盛り上がって、気づけば昼食の時間になっていた。キャシーが折角わざわざ来てくれたんだし、と、昼食を作ってくれた。庭の畑で昨日収穫したばかりの白菜を使った白菜と鶏団子のクリーム煮と秋に採れたというカボチャの煮物、ニンジンと大根のサラダに、ハボックが好きだという胡桃のパンも焼いてくれた。パンは夕食用にパン種を仕込んでいたらしい。いつも多めに作って焼いてから冷凍しているので、今ケリー達に出しても全然問題ない量がある。多めに作って余ったものを冷凍しておいて、ハボックが休みの日の昼食に食べたりするのだそうだ。キャシーは飲食店で働いており、ハボックは小学校の先生だ。普段は中々休みが一緒の時がない。ハボックも一応人並み程度に料理ができるが、いつもハボックが休みの日にはキャシーがハボックの昼食を用意してから仕事に行っているらしい。キャシーはハボックに自分の料理を食べさせるのがとても好きなのだ。
白菜の甘味がまろやかなクリームソースと抜群に合っている。素直にものすごく美味しい。カボチャの煮物もほくほくで自然な甘味が堪らない。ケリーが食べさせているライナーも、美味しいのか、口に入れてやる度に目を輝かせて手をパチパチ叩いている。


「キャシーちゃん。ちょー美味しい。このカボチャの煮物、本当最高。僕、カボチャ煮るの苦手なんだよね。煮崩れる率がちょー高い」

「ふふふっ。これねぇ、実はお鍋で作ったんじゃないのよぉ」

「ん?じゃあ、どうやって作るんだ?」

「耐熱の深いお皿にぃ、切ったカボチャを入れてぇ、砂糖と料理酒とぉ、あと市販のめんつゆを適当に入れてぇ、魔導レンジで5分チンしてぇ、1度取り出してから少し混ぜてぇ、また5分チンするだけぇ」

「え、それだけ?」

「そうよぉ。前からぁ、カボチャを焼いたりする前にぃ、時間短縮する為にカボチャをチンして少し加熱してたりしてたんだけどぉ、いっそ味付けもできないかなぁって思ってぇ、色々試したらできちゃったのぉ」

「すげー。それ、すっごい楽じゃん。美味しいし」

「でしょう?何よりぃ、この方法だと全然煮崩れしないのよぉ。ほらぁ、カボチャってぇ、実際煮てみないと分かんないじゃなぁい。ほくほく系とかねっとり系とかぁ」

「たまにやたら煮崩れるのあるよな」

「そうそう。このやり方だとどんなカボチャでも美味しくできるしぃ、本当に煮崩れないのよぉ」

「すげぇな。帰ったら俺もやってみよ」

「いいこと聞いたね。親父」

「おう」

「うふふ……お料理は閃きが大事なのよぉ。あとねぇ、ご家庭でのお料理はいかに時間をかけずに楽をして美味しいものを作るかって方向で考えてるとぉ、色々工夫を思いついてぇ、すっごく楽しいわよぉ」

「確かに時間をかけずに少しでも楽して旨いもん作れた方がいいもんな。朝と夕方はすげぇ忙しいし」

「毎日家族全員の3食を作らなきゃいけないしね。今はまだいいけど、子供達がもう少し大きくなったら食べ盛りでもっといっぱい食べるようになるし」

「そうよねぇ。男の子が3人だと大変よねぇ」


料理の話でも盛り上がり、ケリーはキャシーからお手軽時短な料理をいくつか教えてもらった。忘れないように、キャシーがくれた紙に借りたペンで全てメモをとり、キレイに紙を畳んで鞄に入れた。

カーラに美味しい昼食でご機嫌なライナーを任せ、キャシーと2人で後片付けをし、今はキャシーが淹れてくれた美味しい珈琲を飲んでいる。ライナーはまたキャシーに抱っこされて寝ている。


「前にぃ、ケリーちゃんが話してたお弟子さん達は最近どうなのぉ?」

「2人ともよー、初めて会った時よりも背も伸びたし、結構筋肉ついてきてんだよな。フィンは秋頃から始めた頃は夜だけやってた筋トレを朝にもするようになったらしいし、ディルも夏休み終わってからは休みの日に父親と走ってるんだと」

「2人とも、ちょー頑張ってるよね」

「なー。2人とも本当にすげぇ頑張ってるわ。ディルは最初の頃に比べたら、かなり体力ついたし。フィンもかなり少食だったが、今じゃ人並みの量食べられるしな」

「まぁー。いいわねぇ。そんなに頑張ってくれるならぁ、ケリーちゃんも教えがいがあるでしょう?」

「おう。かなり楽しいな。それにフィンもディルも面白い方向にちょっと変わってるからよ。一緒にいて飽きねぇわ」

「あの子達、ほんとに面白いよね。マイキーとも結構仲がいいよね」

「兄弟子みたいなもんだしな。2人から新年の朝日の写真を送ってもらったって、ちょっと前に会った時にすげぇ嬉しそうだったわ」

「マイキーちゃんのお店には何度も行ったことあるけどぉ、年末年始はぁ、花街は修羅場だものねぇ。朝日を見に行く余裕なんてないわよねぇ」

「そうそう。だから、マイキーは1度も新年の朝日を見たことがないんだと」

「それならぁ、余計に嬉しかったんでしょうねぇ」

「みたいだな。フィンは結構負けず嫌いでな、最近はちょっと注意して見とかないと無茶な回数やろうとしたりすんだよな。運動が得意じゃなかったディルが大分できるようになってきたし、ディルに負けたくないみたいでよ」

「あらまぁ」

「ディルはディルで、最近父親とやってる筋トレの時間を増やしたらしいわ。まぁ、2人ともすげぇ頑張ってるよ」

「ふふふっ。ケリーちゃんったらぁ、すっごい自慢気な顔ねぇ」

「まぁな。一生懸命頑張る奴は好きだ。2人とも自慢の弟子だぜ」


ケリーは胸を張って言いきった。本当にそう思っている。勿論15年以上剣を教えているマイキーも自慢の弟子だ。運動音痴なのに、どれだけ走って転んで怪我をしても、ずっと歯を食いしばって頑張り続け、今ではすっかり逞しくなってくれた。フィンとディルムッドも含めて、3人ともケリー自慢の愛弟子である。
キャシーが微笑ましそうに笑って、『いいわねぇ』と言った。

寝ていたライナーが起きたので、少し時間が早いがおやつだと、キャシーが今度は紅茶を淹れてくれた。手作りだという無花果のコンポートも出してくれた。秋にハボックと一緒に収穫して、作って冷凍しておいたらしい。今日は事前にカーラが端末でキャシーに連絡していたので、解凍しておいてくれたそうだ。香りがよくて甘さもちょうどよく、素直に美味しい。ライナーにはまだ少し甘過ぎるので、本当に少しだけ食べさせたら、ライナーがめちゃくちゃ大興奮した。かなりお気に召したようである。ライナーがもっと食べたいとぐずったが、ケリーがライナーを抱き上げて、ライナーの背中をぽんぽんしながら、その場でぐるぐる回ったら、暫くしたらまた眠ってしまった。何故かケリーがこうすると、高確率でライナーは寝る。上の孫達はそんなことなかった。本当に不思議である。
眠ったライナーを膝にのせたまま、少し温くなった紅茶を飲む。喫茶店で飲むものと同じか、下手したらそれよりも香りが良くて美味しい。キャシーが言うに、店で1番安い茶葉らしいから間違いなく淹れ方がいいのだろう。キャシーは料理だけでなく、紅茶や珈琲の淹れ方もかなり上手い。


「そういえばぁ、カーラちゃんってぇ、ケビンちゃんと結婚してもう10年以上じゃなぁい?2人目の夫はつくらないのぉ?」

「ん?僕はケビンがいれば、それで十分だもん」

「あらぁ」

「マイキーからのプロポーズも断ったしな。あと他にも何人か断ってるだろ?」

「うん」

「マイキーちゃんにもプロポーズされたのぉ?」

「いつだっけ?もう一昨年?ケビンだけでいいからって断ったよ。僕は同時に何人も旦那を愛せる程器用じゃないもん」

「まぁ」

「子育てだって、旦那と旦那の親とかに任せるんじゃなくて、ちゃんと自分でやりたいしね」

「そうねぇ。それは確かにそうねぇ……あたしがもし女の人でもぉ、きっとぉ、ハボックだけでいいって思いそうだわぁ。何人も旦那さんがいる人ってぇ、本当にどうしてるのかしらねぇ?」

「さぁ?小学校の行事で同級生の女の子達と顔合わせることあるけどさ。井戸端会議で子供の話と同じくらい男の話してる子達とかいるよ。不思議だよね。いっぱい旦那がいる方が女として格上なんだってさ」

「……いまいち理解できないわぁ」

「だよな。まぁ、女には女の世界っつーか、まぁそんなんがあんじゃねぇの?俺だってパーシーがいりゃ十二分だしよ。理解はできねぇよな」

「ねー。理解するとか、ほんと無理。つーか、父さんと親父見てたら本当お互いだけが1番いいよなって子供の頃から思ってたしね」

「あらぁ。ふふっ。パーシーさんとケリーちゃん、本当に仲良しさんだものねぇ」

「まぁな」

「親父の今日1番のドヤ顔きた」

「うふふふ……まぁ、人の愛し方ってぇ、きっとぉ、本当に人各々なんでしょうねぇ。何人も愛せる人もいればぁ、あたし達みたいに1人だけと愛し合いたいっていう人もいるのよねぇ」

「そうだな」

「僕はこの先も一生ケビンさえいれば、それで幸せだし。親父達も子供達もいるしね。僕の愛はケビンと親父達と子供達だけで本当に手一杯って感じ。これ以上は無理」

「はははっ。もしかしたら子供が増えるかもしれないだろ?そのうち孫ができたりするかもな」

「あ、そうか」

「うふふ……大丈夫よぉ。愛ってぇ、きっと自然に増えていくものだものぉ」

「それもそうだね」


ケリーの膝の上で寝ていたライナーが起きたので、夕方も近くなったし、キャシーの家をお暇することにした。キャシーが手土産にと、手作りのジャムクッキーをくれたので、有り難く貰い、また会いにくることを約束して、カーラとライナーと一緒にトニーに乗って、のんびり家へと帰る。
カーラの愛はケビンと今いる家族に深く注がれている。ケリーとしては、正直に言うとマイキーも息子になってくれたら嬉しいのだが、多分そうなる未来はない。フラれた今でもカーラに惚れているマイキーには気の毒だし、ケリーとしても残念だが、仕方があるまい。ケリーだってパーシーだけいればいいし、仮に他の男や女にプロポーズされても即答で断る。ケリーの愛はパーシーとカーラ達家族に精一杯注いでいるのだ。追加で他の男や女を愛せる程、ケリーも器用じゃない。
キャシーも言っていたが、人の愛し方なんて人各々だ。カーラにはカーラの、ケリーにはケリーの愛し方がある。ケリー達を見て育ったカーラは、ケリーに少し考え方が似ている気がするが、それでも違う人間だから微妙に愛し方や考えが違うところもあるだろう。それでいいのだと思う。
幸せである為に精一杯愛して、ずっと愛し続ける努力をするのが夫婦円満に必要なことなんじゃないかとも思う。ケリーはパーシーとなら、死ぬまでそれができる。
ケリーは馬上でカーラと話しながら、のんびり愛する我が家へと帰った。


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