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8:少年達の夏

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とある日の夕方。
自宅の台所でディルムッドは料理を作っていた。


「……ヤバい。これ、ちょー旨くない?」


ブリアード指導の元、今日は鶏肉と根菜の煮物に挑戦したのだが、味見をしてみれば、我ながら素晴らしい出来映えであった。料理に関しては結構厳しいブリアードにも手放しで褒めてもらえたレベルで美味しく出来た。こんなに美味しく出来たのは初めてかもしれない。
ここまで上出来だと、誰かに食べてもらいたい。ディルムッドは少し考えて、ブリアードの許可を得て、店で使っている持ち帰り用の特殊な紙でできた容器に煮物を詰めて容器ごと袋に入れ、いそいそと家を出た。

茜色に染まる道を早歩きで進み、イーグルの自宅兼店である八百屋に向かう。
八百屋ではイーグルの父親が接客していた。イーグルとは小学校低学年の頃からずっと友達だから、イーグルの父親とも顔見知りである。イーグルの父親に挨拶をしてから、勝手知ったるというノリで店の裏に周り、自宅部分の玄関の呼び鈴を押した。イーグルの家は1階建てで、大きな通り側は店舗、奥の方は自宅である。庭は猫の額程の広さしかないが、洗濯物を干したりするくらいなら十分な広さがある。
すぐに玄関のドアが開き、イーグルの双子の弟であるバーグとドーグが顔を覗かせた。


「「あ、ディル君だ」」

「やっ!イーグルいる?」

「いるよ」

「呼んでくる」

「おねがーい」

「「うん。にーーーちゃーーーん!!」」


双子がパタパタと家の奥へと戻っていった。玄関先で待っていると、そう待たずにエプロンをつけたイーグルが出てきた。


「やっほー。イーグル。忙しい時間帯にごめんよー」

「ディル。どうした?」

「これ。何て言うの?お裾分け?」

「ん?」


ディルムッドは不思議そうな顔をしているイーグルに煮物が入った袋を手渡した。


「今日さー、マジで奇跡的なくらいにちょー旨いのが出来ちゃってさー。誰かに食べてもらいたいなって思って。持ってきたのよ。鶏肉と根菜の煮物。父さんにも褒められたのさ!」

「へぇー!すげぇじゃん。じゃあ、ありがたく貰うわ。ちょうど、あと1品をどうしようか悩んでたんだわ」

「食べてちょーだいな。そんで感想教えてー」

「りょーかい。ありがとな」

「そっちはどう?夏休み中」

「いつも通り。店の手伝いと家事と経理の勉強」

「忙しいなぁ」

「お前も店の手伝いやってんだろ?」

「うん。あと今年は料理の修行と筋トレもやってる」

「筋トレ、続いてんなぁ」

「父さんも一緒にやってくれてるからね」

「なるほど。宿題は?」

「はっはっは!!」

「……やってないんだな」

「だってぇー、お風呂入ったら寝ちゃうんだもーん」

「少しでも毎日やれよ。お前、毎年夏休み終了数日前に泣きついてくんだからさぁー」

「えへっ。今年もお願いしやーす」

「泣きつく気満々かよ。少しはコツコツやれ。もー、本読むのは好きなくせに」

「本好きと勉強が好きかは全然別じゃん。あと勉強ができるかも。俺、娯楽小説とちょっと大人な本しか読まないし」

「ちょっと大人な本って……ま、まさかお前……未成年立ち入り禁止の禁断の男の夢の園(エロ本コーナー)に入ったのかっ……!?」

「違いますぅ!入ってませぇん!成人指定じゃないけどほんのりスケベレベルの一般書ですっ!」

「なんだよ、つまんねぇ。エロ本コーナーに入ってたんなら『勇者』って呼ぼうと思ってたのに」

「なにそれ普通に嫌。やー、確かにエロ本には興味津々だけどさ。堂々とエロ本コーナーに行くのは無理よ」

「まぁな」

「父さんがエロ本持ってないかなぁ、って家探ししてやろうかと思ったことがあったのよ」

「うん」

「でも冷静に考えてみたらさ、父さんが持ってるエロ本ってことは、父さんの性癖が丸分かりになるってことじゃん?親の性癖なんて知りたくないから止めた」

「賢明だな」

「でしょ。ほーめーてー」

「よーしよしよしよしよし」


ふざけて頭をイーグルに向けて少し下げれば、イーグルもノッてくれて片手で頭をわしゃわしゃ撫でてくれる。2人でゲラゲラ笑っていると、ディルムッドはいいことを思いついた。


「イーグルん家の店って確か明後日は定休日だよね」

「ん?うん」

「遊びに行こうぜー。俺弁当作るから、街の外の小川辺りに」

「あー。あの小学校の遠足で行ってた原っぱの近くの?」

「そそ。毎日暑いしさぁ、涼しい所できゃっきゃうふふしよー。うちの父さんが学生のうちにしか遊べないから、遊べる時に遊んでけって言ってたし」

「んーーー。……ま、たまにはいいか」

「よっしゃ!フィルにも端末で声かけとくわ」

「うん。弁当、マジで頼んでいいのか?」

「いいよー。最近料理が上達してきたって父さんに褒められてさ。俺は今とてもやる気に満ちているのです!」

「なるほど。じゃあ、明後日な」

「うん。暑くなる前に移動したいから、朝の6時にここに来るよ」

「はっやいな!」

「くっそ暑い中、日を遮るもんが殆んどない街の外の道を歩きたいの?」

「それは嫌」

「でしょ。朝早くに移動して、帰りも夕方になってから移動したらよくない?」

「んー。じゃあ父ちゃんと双子達の昼飯だけじゃなくて、一応晩飯も作っといた方が楽かな」

「カレー作っといたら?お昼はカレー。夜は米にカレーかけてチーズのっけて焼いてカレードリア。サラダくらいなら一瞬で作れるでしょ。レタスとトマト洗うだけ!カレーは魔導冷蔵庫に入れてもらっとけば傷まないし」

「採用。それでいこう。楽だし」

「じゃあ、明後日な」

「うん。……楽しみにしとく」

「うぇーい。おーれもー。じゃあねー」

「おう。わざわざありがとな」

「いえいえー。夜に端末に連絡するから感想よろしこー」

「任せとけーい」


ディルムッドは手を振ってイーグルの家を後にした。小川へ遊びに行くことを思いついた時に、弁当についても少し面白いことを思いついた。明日の昼間に必要なものを買い出しに行かなければ。今夜仕込んどいた方がいいものは今夜仕込んでおこう。楽しいことになりそうだ。ディルムッドはむふふ……と笑って、足取り軽く家へと帰った。


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