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新緑の頃に俺達は出会った
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冬が終わり、春が来て、鮮やかな新緑が木々を覆い始めた。
イェオリは緑が鮮やかな木々の間を通り抜け、いつも昼食を食べているベンチへと向かった。
魔術研究所の一角にある小さな森の中にあるそこは、イェオリの隠れ場所みたいなものだ。
イェオリがベンチに座り、手製のサンドイッチが入った小さなバスケットを膝の上に置くと、少し遠くからイェオリの名前を呼ぶ声が聞こえた。声がした方を見れば、ひょろりと背が高い鳥の巣のような頭をした眼鏡をかけた男がやって来た。昼食友達のエーヴェルトである。エーヴェルトとは所属している研修室は違うが、ひょんなことから昼食友達になった。
エーヴェルトは、いつもボザボサの癖のある黒髪が鳥の巣のようだ。黒縁眼鏡をかけていて、分厚いレンズの向こうに見える深緑色の瞳はとても穏やかである。顔立ちそのものは整っている方なのに、ダサい眼鏡と鳥の巣頭のせいで、全然美形には見えない。もっさりしている印象を受ける。
とはいえ、イェオリも他人のことはあまり言えない。無精して伸ばしっぱなしの亜麻色の髪は、傷んでボサボサになっているのを適当に一つに括っているだけだし、顔立ちはとても地味だ。目が細いので、狐みたいだと言われたことがある。どうでもいいが、実際の狐は別に目が細い訳ではないのに、何故か絵本の狐は目が細く描かれることが多い。不思議である。顔や身体のつくりが細身なので、神経質そうだとも言われたことがある。
2人揃ってモテない仲間でもある。
イェオリが軽く手を上げると、エーヴェルトがすたすたとベンチに近寄ってきて、すとんとイェオリのすぐ隣に座った。エーヴェルトの手にも、小さめのバスケットがある。
エーヴェルトがイェオリのバスケットの中を覗き見て、へらっと笑った。
「そのサンドイッチ美味しそう」
「生ハムとチーズとバジル」
「間違いない組み合わせだ」
「君のは?」
「バゲットにレタスとソーセージ挟んできた」
「ふーん。それも美味そう」
「交換しない?」
「いいよ」
「やった。じゃあ、交換しよう」
「うん」
イェオリは小さなバスケットごとエーヴェルトのものと交換した。エーヴェルトのバスケットの中には、バゲットに切り目を入れて、たっぷりのレタスと大きなソーセージが挟んであるものが入っている。結構大きいので食べ切れるか少しだけ不安だが、イェオリはエーヴェルト手製のバゲットサンドを手に取り、大口を開けて齧りついた。小麦の味がしっかりする美味しいバゲットに、シャキシャキのレタスの食感と、噛むたびにじわぁっと口内に広がる香辛料のきいたソーセージの肉汁のハーモニーが素直に美味しい。
もぐもぐと咀嚼して、しっかり飲み込んでから、イェオリはエーヴェルトを見た。エーヴェルトも美味しそうにサンドイッチに齧りついている。
「エーヴェルト。このソーセージ、何処で買ったやつ?」
「大通りの肉屋は知ってる?八百屋の隣の。あそこで売ってた」
「へー。知らなかった。その店には行ったことがあるけど、肉しか買ったことがないなぁ」
「ハムも美味しいよ」
「今度買ってみよう」
「たまにだけど、挽肉を丸めて衣をつけて揚げたやつが売ってるんだよね。それがもう最高に美味しいよ」
「マジか。食べたくなるじゃないか」
「僕の一番のオススメだね。しっかし、今日はちょっと暑いねー」
「うん。そしてこんな日に限って絶賛垂れ流し中だわ」
「あー。だと思った。腹と腰は大丈夫?」
「めちゃくちゃ痛い」
「暑いだろうけど、気休めに腹回りにこれ巻いときなよ」
「ありがと。悪いな」
「いえいえ」
エーヴェルトが制服の上着を脱ぎ、イェオリに手渡した。イェオリはお礼を言って受け取り、ぐるぐると腹回りにエーヴェルトの制服の上着を巻いた。
イェオリは『神様の祝福子』である。俗に言うふたなりというやつだ。極まれに生まれてくる。両方の性を備え持つのは、神様から祝福された証拠だということで、『神様の祝福子』と呼ばれている。普通の男女よりも生殖能力は劣るが、孕ませることも、孕むこともできる。『神様の祝福子』は珍しいので、好事家や変態に狙われやすい。基本的に『神様の祝福子』であることを隠すことが多い。
イェオリも、自分の家族とエーヴェルト以外には隠している。エーヴェルトとは秘密を共有する仲なので、エーヴェルトにだけは教えた。
エーヴェルトは同性愛者だ。国教で同性愛は禁じられている。同性愛者だと教会の者や周囲の者に知られたら、何をされるか分かったものではない。
イェオリは、エーヴェルト手製のバケットサンドイッチをもぐもぐしながら、エーヴェルトとの出会いを思い出した。
あれは5年前のちょうど今頃の季節であった。
イェオリは当時20歳で、魔術研究所に就職したばかりだった。『神様の祝福子』だと知られる訳にはいかず、同じ研究室の者達から一歩引いて接していた。
イェオリは3ヶ月に一度、月のものがくる。イェオリは月のものが重い方だ。
就職して2ヶ月も経たないうちに月のものがきてしまい、どうしてもしんどくて、イェオリは静かな人気がない場所を求めて、昼休憩の時間に森に入った。たまたま見つけたベンチに腰掛けて、ぐったりとしていると、小さなバスケットを持ったエーヴェルトがやってきた。
エーヴェルトは、顔色が悪いぐったりしているイェオリを見ると、『おや。先客』と話しかけてきた。
「君、大丈夫?」
「……大丈夫です」
「顔色悪いよ」
「……ちょっと貧血なだけなんで」
「ふーん。此処を知ってるのは僕だけかと思ってた。……ねぇ。ちょっと不躾なことを言ってもいいかい?」
「なんでしょう」
「君、もしかして『神様の祝福子』じゃない?血の匂いがする」
「えっ」
イェオリは、すんすんと鼻を鳴らしているエーヴェルトをギョッと見つめた。そんなに血の匂いがするのだろうか。
「そんなに匂いますか」
「いや?普通の人は気づかないよ。僕は極端に鼻がいいだけ」
「あ、そうなんですね」
「他の人には言わないから安心して。腹や腰は大丈夫?」
「え、あ、い、痛いです……けど……」
「はい。今だけでもこれを腹回りに巻いときなよ。気休め。僕の姉さんも月のものが酷くてね。いつもお腹周りを温めてたから」
「あ、ありがとうございます」
イェオリはおずおずと差し出されたエーヴェルトの上着を受け取って、腹回りに巻いた。
「あの……俺はイェオリ・クルードと申します。お名前を伺っても?」
「ん?エーヴェルト・ヒューゴ。たまたまとはいえ、君の秘密を知ってしまったからね。保険として、僕の秘密を教えるよ。君が僕の秘密を言いふらさない限り、僕も君の秘密を言いふらさない」
「秘密」
「僕は男が好きなんだ」
エーヴェルトがあっさりと言って、肩を竦めた。イェオリはとても驚いたが、同時にエーヴェルトを信用することにした。国教で禁じられている同性愛者だという秘密は、本当に重い。その秘密をあっさりと教えてくれただけでも、信用に値すると思った。
それから、イェオリはエーヴェルトと昼食仲間になった。エーヴェルトは穏やかな性格をしていて、一緒にいて気が休まる。普段は自宅以外じゃ、『神様の祝福子』だとバレないように気を張っているので、イェオリの秘密を知った上で黙っていてくれるエーヴェルトと過ごす時間は、なんとなくリラックスできる。
エーヴェルトは何かと気遣ってくれるし、2歳年上の先輩だが、そのうち普通の友人のような関係になった。
そして、気づけばイェオリは、エーヴェルトのことを好きになっていた。
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面倒な月のものが漸く終わり、イェオリは軽やかな足取りで、いつもの森の中のベンチへと向かった。
イェオリはエーヴェルトのことが好きだが、気持ちを伝える気は毛頭ない。イェオリは『神様の祝福子』だ。女性器もある時点で、エーヴェルトの恋愛対象ではない。下手に想いを告げて、今の心地よい関係を崩したくない。最近、両親から縁談の話がきた。実家は商家をしていて、縁談の相手は取引先の息子らしい。エーヴェルトのことが好きだが、エーヴェルトに想いを告げる気がない以上、縁談を受けてもいいかと思っている。イェオリがエーヴェルトと結ばれることはない。だったら、誰と結婚しても同じことだ。イェオリにとっては、初めての恋だ。初恋は実らないというし、仕方がない。
今日はエーヴェルトの方が先にベンチに来ていた。小さなバスケットを膝にのせたまま、食べずにイェオリを待っていてくれたらしい。
イェオリは嬉しくなって、小走りでエーヴェルトに駆け寄った。
「待たせたかい?」
「いや?僕も少し前に来たところ。珍しいね。いつもイェオリが先なのに」
「今日は午前中の実験が少し長引いたんだ」
「なるほど。じゃあ、食べようか。君は今日は何だい?」
「揚げた白身魚をキャベツと一緒にパンに挟んでみたんだ。レモンと黒胡椒をきかせてみた」
「へぇー。美味しそう。交換しない?僕は、今日はチーズパンだよ。美味しいパン屋を見つけてね。外側にもチーズがのってるけど、中にもチーズがたっぷり入ってて、すごく美味しいんだ」
「やった!エーヴェルトのオススメはハズレが無いからいいね。是非とも交換して欲しい」
「勿論いいよ。イェオリの手料理って美味しいよね。僕は料理のレパートリーが少ないんだよね」
「そうかな。エーヴェルトの料理も美味しいじゃないか。というか、美味しいものを売ってる店をよく知ってるよね」
「まぁ。自分がそんなに料理上手じゃないから、美味しいものが食べたいなーって思って、休みの日に探しに行くんだよね」
「なるほど。俺は決まった店にしか行かないもんなぁ」
「あ、ねぇ。イェオリがよければ、今日、晩ご飯を一緒に食べない?美味しそうな店を見つけたんだけど、1人じゃ入りにくい感じでさ。付き合ってくれると嬉しいんだけど」
「いいよ。明日は休みだし、今夜も明日も用事は無いから」
「ありがと。僕も明日は休み。お酒は好き?」
「あんまり飲まないかなぁ。あ、果実酒は好きだよ。毎年、杏の酒を作るんだ」
「へぇ!君ってば、果実酒も作るんだ」
「杏だけね。好きだから」
「いいね。飲んでみたい」
「エーヴェルトは酒が好きなのかい?」
「うん。お酒なら何でも飲むよ。あ、勿論美味しいやつね。酔うのが目的の混ぜもの入りの安酒は飲まないね」
「……去年作った杏の酒がまだ残っているんだ。よかったら、晩ご飯の後、家で少し飲んでみない?」
「おや。いいのかい?じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
「うん。家は散らかってるけど、気にしないでくれると嬉しい」
「大丈夫だよ。僕の家もいつも散らかり放題だから」
のほほんと笑って、イェオリ手製のサンドイッチに齧りついているエーヴェルトをチラッと見て、イェオリは嬉しくて、胸の奥が擽ったくて、小さく口角を上げた。
エーヴェルトと此処以外で会うのは、今回が初めてだ。ただ一緒に食事をして、酒を飲むだけだが、それだけで十分過ぎる程嬉しいし、いい思い出になりそうな気がする。
イェオリは美味しいチーズパンに齧りつきながら、早く勤務時間が終わればいいのにと思った。
イェオリはそわそわと魔術研究所の入り口でエーヴェルトを待っていた。傷んでボサボサの髪を、トイレでなんとかマシな見た目にしようと手櫛で頑張ってみたが、いつもと変わらないままだった。櫛くらい持ち歩けばよかったと少し後悔した。髪がどうにかなったとしても、糸目で神経質そうな顔立ちはどうにもならない。自分がモテる容姿ではないことは自覚している。それでも、少しでもエーヴェルトによく見られたいと思ってしまった。だって、まるでデートのようではないか。最初で最後のエーヴェルトとのデートだ。服が魔術研究所の制服なのが少し残念だ。もっとも、イェオリは着道楽でもお洒落さんでもないので、逆に制服の方がよかった気もする。
イェオリがなんとなく肩掛け鞄の肩紐を弄っていると、エーヴェルトがやって来た。思わず、ドキッと心臓が跳ねる。
相変わらずの鳥の巣頭で、野暮ったい黒縁眼鏡をかけ、エーヴェルトがゆるく笑って、イェオリに声をかけてきた。
「ごめんよ。待たせた?」
「いや。そんなに」
「店は繁華街にあるんだ。少し歩くけど大丈夫?」
「うん。俺の家、繁華街から割と近い所だから。いつもの通勤とそんなに変わらないんじゃないかな」
「あ、そうなんだ。繁華街が近いと、夜は煩くない?」
「慣れかなぁ。独り暮らし始める時に、手頃な家賃の物件が中々無くて。今住んでる家は小さな一軒家なんだけど、かなり古いから家賃が安いんだ。繁華街が近くて煩いってのも加味されててさ。元々の持ち主は、住んでて夜が煩いから別の場所に家を建て直したらしいよ」
「へぇー。お金持ちだったんだなぁ」
「多分ね」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
イェオリはエーヴェルトと並んで歩き始めた。基本的に、お互いに仕事の話はしないと決めている。違う研究室に所属しているので、其々、守秘義務があるからだ。
イェオリはエーヴェルトと今夜食べたいものの話をしながら、少しの緊張と喜びで、ドキドキと胸を高鳴らせた。
エーヴェルトが案内してくれた店は、どちらかと言えば大人数で入るような大衆店だった。とても賑やかで、確かに1人では少し入りにくい雰囲気だ。
イェオリはエーヴェルトと一緒にテーブル席に座ると、2人でメニュー表を眺めて、あーだこーだと話しながら注文する料理を決め、店員を呼んだ。
美味しいものが好きなエーヴェルトが気になっていただけあって、料理はどれも美味しかった。『やっぱり当たりだった』と嬉しそうに笑うエーヴェルトと一緒に、イェオリも笑って美味しい料理とエーヴェルトとの会話を楽しんだ。
軽めの果実酒も飲みつつ、2人とも満腹になるまで色んな料理を堪能すると、会計をしてから店を出た。
外はすっかり暗くなっている時間帯だが、繁華街はまだまだ明るい。様々な店から漏れる明かりで明るい道を歩き、今度はイェオリの家に向かう。こんな事になるなら、少しは掃除をしていればよかったと悔しくなるが、諦めるしかない。
むしろ、自然体のイェオリをエーヴェルトに見てもらえるじゃないかと考えると、逆に取り繕わない方がいい気もする。
イェオリは、ほろ酔いでご機嫌なエーヴェルトと一緒に、自宅へと帰った。
イェオリの家は二階建ての古い家で、玄関のドアの立て付けが悪くなっていて、ドアを開けると悲鳴のような不快な音がする。少し遠くから、繁華街の酔っ払い達の騒ぐ声が聞こえてくる。
イェオリは、エーヴェルトを、脱ぎ散らかした服や本、書きかけの論文等で散らかった居間に通すと、台所へ向かい、杏の酒とグラスを二つ取って、居間に戻った。
イェオリが折りたたみ式の木の椅子にローテーブルを挟んで腰掛けると、対面の一人用のソファーに座っているエーヴェルトが、イェオリを見て、へらっと笑った。
「僕の家よりキレイだね」
「マジか。かなり散らかってる方だと思うんだけど」
「足の踏み場がある時点で、かなりマシだよ」
「えー……あ、はい。酒の肴はないけど大丈夫?」
「うん。おぉ!すごいいい香りだ」
「口に合うといいんだけど」
「……ん!美味しい!」
「本当に?」
「本当に。ブランデーに漬けたのかい?」
「うん。その方が美味しいんだ」
「甘さもちょうどいいし、飲みやすくて、何より杏の香りがいい。おーいしーい」
「あはっ。よかった」
エーヴェルトが本当に美味しそうに杏の酒を飲んでくれるのを見て、イェオリは嬉しくてだらしなく頬をゆるめた。
自分も杏の酒を飲みつつ、早々とグラスを空にしたエーヴェルトにお代わりを注いでやる。
「今年もそろそろ杏の酒を作るから、全部飲みきっちゃってもいいよ。あと二瓶あるんだ」
「やった!では遠慮なくご馳走になろうかな。いやぁ、本当に美味しい。君は天才か」
「大袈裟だよ。誰でも簡単に作れるものだしね」
「今年の杏の酒が飲み頃になったら、またご馳走になっていいかい?出来たてのやつも飲んでみたいんだ」
「勿論いいよ。……あ」
「ん?」
「あー……もしかしたら、その頃には結婚してるかも。親が縁談の話を持ってきててね」
「……結婚するのかい?」
「……うん。まぁ。一応そのつもり」
イェオリはなんとなくエーヴェルトの顔を見れなくて、手元の酒が入ったグラスに目線を落とした。
エーヴェルトが静かな声で問いかけてきた。
「相手は女?」
「……いや、男。実家の取引先の息子らしい」
「イェオリ」
「……なに?」
「結婚しないで欲しい。君が好きなんだ」
「……え?」
イェオリはポカンと間抜けに口を開けて、エーヴェルトを見た。エーヴェルトは初めて見るくらい真剣な顔をしていた。何を言われたのか、すぐに理解できない。イェオリは狼狽えて、目を泳がせた。
「俺はふたなりだ。男じゃない」
「知ってる。でも、気がついたら君を好きになってた。君に抱かれたいと思う僕は気持ち悪い?」
「気持ち悪くなんかない!!」
「あ、よかったー」
「あ、あの、本当に、その、本当に俺のことが好きなのかい?」
「うん。好きだよ。なんかね、君と一緒にいると、楽に息ができるんだ。一緒にいて楽しいし、もっと君の事が知りたい」
「……俺も……俺も、エーヴェルトの事がもっと知りたい」
「だったら、結婚なんかしないでくれ。僕の事を好きになって」
「……もうとっくに好きになってるさ」
「本当に?」
「本当に」
どこか緊張した様子だったエーヴェルトが、へらっとイェオリが好きな笑みを浮かべた。イェオリは嬉しくて、胸の中がいっぱいいっぱいで、今にも泣きそうなのを必死で堪えた。嬉しいなんて言葉じゃ表しきれないくらい、喜びで胸の中が溢れかえっている。まるで奇跡が起きたようだ。
エーヴェルトが飲み終えたグラスをローテーブルの上に置き、手を伸ばして、必死で涙を堪えているイェオリの手からグラスを取り上げ、イェオリの手をやんわりと握った。少し低めの体温に胸がふわふわとときめく。
「イェオリ」
「うん」
「君と深い仲になりたい」
「……俺も、エーヴェルトに触れたい」
「抱いてくれる?」
「喜んで」
イェオリは今にも泣き出しそうな不細工な笑みを浮かべた。エーヴェルトが照れたように笑い、イェオリの手を引いて立ち上がった。
「寝室、行ってもいい?」
「勿論。散らかってるけど」
「ははっ。大丈夫。僕の寝室より絶対マシだろうから」
「どれだけ散らかってるんだよ」
「あははっ。足の踏み場もないね!」
イェオリはエーヴェルトと軽口を叩きながら、手を繋いで2階の寝室へと歩き出した。狭い階段を上がり、寝室のドアを開ける。寝室も脱ぎ散らかしたままの寝間着や本で散らかっているが、エーヴェルトは『やっぱり僕の寝室よりマシだ』と笑った。
イェオリはエーヴェルトと手を繋いだまま、適当に掛け布団を床に落とし、ベッドに腰掛けた。
当然ながら、イェオリは童貞処女である。ふわっとした知識はあるが、ちゃんとエーヴェルトを気持ちよくできるのか、あまり自信はない。
イェオリはおずおずとエーヴェルトに話しかけた。
「あの……俺、童貞なんだ」
「僕も童貞だよ。あ、でも、自分で弄ってるから、多分イェオリのちんこは入るよ。まぁ、君のサイズ次第だけど」
「……実はそんなに大きくない。というか、小さい方だと思う……」
「大丈夫。2人で気持ちよくなろう?」
「う、うん」
イェオリは、心臓が胸から飛び出しそうな程バクバクと激しく心臓を高鳴らせながら、そっと顔を寄せてきたエーヴェルトの唇に自分の唇を重ねた。ふにっとした柔らかい感触に、心臓が大きく跳ねる。
繋いだ手の指を絡めて、何度も何度も唇をくっつける。唇をくっつけるだけの幼いキスなのに、それだけでもういっぱいいっぱいだ。心臓が激しく動き回って、今にも天に召されそうである。
あまりの現実味の無さに、イェオリがふわふわしていると、ちゅくっとエーヴェルトに下唇を優しく吸われた。イェオリもエーヴェルトの真似をして、エーヴェルトの下唇を優しく吸った。
はぁっと、エーヴェルトの熱い酒の匂いがする息が唇にかかる。
間近にある深緑色の瞳が、とろんとしていた。
「イェオリ」
「うん」
「もっとキスして。もっと触って」
「うん」
「服、脱ごうか」
エーヴェルトがそう言って、ちゅくっとイェオリの唇を優しく吸ってから、絡めていた指を解き、制服のボタンを外し始めた。イェオリも制服のボタンを、緊張か興奮あるいは両方で震える指で外し始めた。制服の上着を脱ぎ、下に着ていたシャツも脱いで、震える手でズボンのベルトを外す。下着ごとズボンを脱ぎ捨てれば、イェオリの少し小振りなペニスは、もう勃起していた。イェオリのペニスは少し小さめだ。普段は先っぽが皮を被っている。勃起している今は、自然と皮が剥けて、赤い亀頭が顔を出していた。
靴下も脱ぎ捨て、隣のエーヴェルトを見れば、エーヴェルトが熱の篭った目で、じっとイェオリの身体を見つめていた。
「……貧相な身体だろ」
「僕も似たようなものだよ。……ふふっ。もう勃ってる」
「う、うん」
「見て。僕も勃ってる」
エーヴェルトの股間を見れば、確かにエーヴェルトのペニスは勃起していた。明らかにイェオリのペニスよりも大きい。皮が亀頭の下の方に溜まっているから、多分エーヴェルトも普段はペニスの先っぽが皮に包まれているのだろう。イェオリのものよりも、長くて太いエーヴェルトのペニスを見て、イェオリはゴクッと唾を飲み込んだ。腹の奥が熱く疼く。自分で弄ったことしかない、俗に言うまんこが、疼いて愛液を垂らし始めたのが嫌でも分かる。
エーヴェルトに抱かれる妄想をして、数え切れないくらい自分の指で慰めていた。まさか、自分が抱く側になるとは思ってもいなかったが、痩せて骨っぽいエーヴェルトの身体を見ていると、触れたくて、興奮して、ペニスが若干痛い程張り詰めている。
エーヴェルトが眼鏡を外して、ベッドのヘッドボードの上に眼鏡を置くと、イェオリに向かって両手を伸ばし、照れたように笑った。
「抱きしめて。いっぱい触って」
「……うん」
イェオリはエーヴェルトの身体をベッドに押し倒すように抱きしめた。イェオリよりも少し低い体温と肌の感触を直に感じる。イェオリは堪らなくなって、エーヴェルトの唇に強く吸いついた。エーヴェルトがイェオリの下唇をつーっと熱い舌でなぞったので、イェオリはエーヴェルトの舌におずおずと自分の舌を擦りつけた。酒の味がするエーヴェルトの舌を夢中で舐め回して、少しだけ開いているエーヴェルトの唇の隙間から、エーヴェルトの口内に舌を突っ込む。技巧なんて知らない。ただ、エーヴェルトの唾液の味を味わうのに必死だった。エーヴェルトの口内は熱くて、甘い杏の酒の味がする。ぬるぬると舌を絡め合わせれば、それだけで射精してしまいそうな気がする程気持ちよくて興奮する。
ピッタリと触れている下腹部に2人のペニスが触れている。イェオリは腰をくねらせて、エーヴェルトの熱いペニスに自分のペニスを擦りつけた。腰のあたりがゾワゾワする快感に、射精感が急速に高まっていく。
イェオリは間近にあるとろんとした深緑色の瞳を見つめて、はぁっと熱く震える息を吐いた。興奮し過ぎて、頭の中が沸騰してしまいそうだ。
イェオリはもっとエーヴェルトを味わいたくて、エーヴェルトの首筋にねっとりと舌を這わせた。首の太い血管を舌でなぞれば、ドクンドクンと速く大きな脈動を舌に感じる。イェオリはエーヴェルトの痩せた身体を撫で回しながら、夢中でエーヴェルトの肌を舐め回した。
薄い胸板にある存在感が薄い淡い茶褐色の小さな乳首をチロチロと舐め、ピンと勃った乳首をちゅくちゅくと吸うと、エーヴェルトが溜め息混じりに小さく喘いだ。夢中でエーヴェルトの乳首を舐めて吸っているイェオリの頭をエーヴェルトがやんわりと撫でて、うっとりと笑った。
「気持ちいいよ。イェオリ」
「ん」
「ねぇ。反対側も。……あぁっ。そう。いい……上手だね。イェオリ」
エーヴェルトに褒めるように頭を撫でられると、嬉しくて堪らなくなる。イェオリは両方の乳首を交互に舐めながら、うっすらと肋が浮いたエーヴェルトの脇腹や腰骨のあたりを撫で回した。
気が済むまで乳首を舐めると、じんわりと汗ばみ始めたエーヴェルトの肌を舐め下ろしていく。少しだけ周りに毛が生えた形のいい臍に舌先を突っ込み、くっきりと浮き出た腰骨にやんわりと噛みついて、なだらかな薄い陰毛が生えている下腹部を舐め回して、強く吸いつく。エーヴェルトは服から露出している部分は日焼けしているが、服の下に隠れている部分は、イェオリよりも肌が白くてキレイだった。エーヴェルトの肌に強く吸いつくと、白い肌に赤い痕が残る。それがとてもキレイで、いやらしくて、イェオリは夢中でエーヴェルトの下腹部や内腿に何度も吸いつき、沢山の痕を残した。
夢にまでみたエーヴェルトの勃起したペニスに頬ずりをして、ねろーっと横からペニスの裏筋に舌を這わせる。熱くて硬い肉の感触が、酷く興奮を煽る。ぷくりと先走りが浮いている尿道口をベロッと舐めれば、微かにエグいような青臭い味がした。エーヴェルトの味をもっと味わいてくて、イェオリはパクンとエーヴェルトのペニスの亀頭を口に咥えた。ぐるりと舌で円を描くように亀頭を舐めれば、エーヴェルトの内腿が震え、エーヴェルトが控えめな喘ぎ声を上げた。エーヴェルトは低めのハスキーな声をしている。今はそれが更に掠れて、すごく色っぽい。
エーヴェルトのいやらしい声がもっと聞きたくて、イェオリはベロベロと亀頭を舐め回し、ペニスの根元あたりを右手で扱いて、左手でずっしりとした陰嚢をふにふにと優しく揉んだ。
「あぁ……イェオリ。だめ。出ちゃう」
「んー。らひて(だして)」
「んぅっ。僕だけイクのはヤダ。は、あ……イェオリ。口を離して」
「……ん」
本当はエーヴェルトの精液を口で受け止めて飲み干してしまいたかったが、イェオリはエーヴェルトの言葉に素直に従った。
荒い息を吐いているエーヴェルトが、のろのろと動いて、その場で四つん這いになった。エーヴェルトは痩せているから、尻の肉付きも薄く、四つん這いになると、自然とほんの少しだけ周りに毛が生えた赤黒いアナルが丸見えになった。
エーヴェルトが顔だけで振り返って、尻を左右に軽く振った。
「浄化魔術はかけてある。ねぇ。舐めてよ」
「うん」
「はっ、あぁっ……いいっ……」
イェオリはエーヴェルトの薄い柔らかい尻肉を両手で掴み、べろりとアナルの表面を舐めてから、チロチロと舌先でアナルの皺を一枚一枚伸ばすように、丁寧に舐め始めた。エーヴェルトの呼吸に合わせて皺が広がったり、細かくなったりして、それがなんともいやらしい。
アナルは排泄孔だ。それなのに、今は性器としか思えない。
イェオリは、エーヴェルトに声をかけられるまで、無我夢中でエーヴェルトのアナルを舐め回した。
エーヴェルトが、水の魔術のちょっとした応用魔術で、ぬるぬるの水を生成した。エーヴェルトがお手本を見せるように、自分のアナルに指を突っ込んで弄る様子を眺めながら、イェオリは疼いて仕方がない自分のまんこを指で弄った。
今すぐにでもエーヴェルトのいやらしいアナルにペニスを突っ込みたい。同時に、疼いて疼いて堪らないまんこの穴にエーヴェルトのペニスが欲しい。
イェオリは膣内の微かにざらついた気持ちがいいところを指で刺激しながら、時折喘ぎながら自分のアナルを解しているエーヴェルトのいやらしい姿をじっと見つめた。
エーヴェルトのアナルに入っていた2本の指が、ずるりと抜けていった。指が抜けたエーヴェルトの濡れたアナルは、微かに口を開けて、くぽくぽといやらしく収縮している。
イェオリはもう我慢できなくて、興奮して上擦った声でエーヴェルトを呼んだ。
「エーヴェルト。挿れたい」
「いいよ。おいで」
「うん」
エーヴェルトがころんと寝返りをうち、起き上がって、ぬるぬるの水を馴染ませるように、イェオリのペニスを優しく擦った。それだけで射精してしまいそうになるのを必死で堪え、仰向けに寝転がって膝を立てて大きく足を開いたエーヴェルトの身体に覆いかぶさる。エーヴェルトが腰を少し浮かせてくれたので、イェオリは自分のペニスを片手で掴んで、エーヴェルトの熱くひくついたアナルにペニスの先っぽを押しつけた。ゆっくりと腰を動かしていけば、熱い蕩けたアナルの中にペニスが入っていく。キツい括約筋でペニスの皮が自然と剥かれ、敏感な亀頭がまるっと柔らかくて熱い腸壁に包まれる。更にペニスを押し込んでいけば、ペニスの竿まで熱くぬるついた腸壁に包まれた。酷く気持ちがいい。ペニスを根元近くまで押し込むと、エーヴェルトが仰け反るようにして大きく喘いだ。
「あぁっ!すごいっ、当たってる!」
「えっと、どこに?」
「僕の気持ちいいところ。イェオリ。突いて。思いっきり」
「うん。う、あ……すごい……熱いよ、エーヴェルト」
「あぁっ!あっあっあっあっ!いいっ!!」
イェオリは今にも射精しそうなのを下腹部に力を入れて堪えながら、小刻みに短いストロークでエーヴェルトが気持ちがいいという腹側をペニスで突きまくった。ペニスで突き上げる度に、きゅっとキツく括約筋が締まって、熱い腸壁が蠢いてイェオリのペニスにまとわりつく。気持ちよくて、気持ちよくて、本当に堪らない。蕩けた顔で大きく喘ぐエーヴェルトがいやらしくて可愛い。
イェオリは滅茶苦茶に激しく腰を振りながら、エーヴェルトの身体を強く抱きしめ、エーヴェルトの涎で濡れた唇に強く吸いついた。エーヴェルトが両腕をイェオリの首に絡めて、両足をイェオリの腰に絡めてきた。全身で求められて、イェオリは我慢の限界がきてしまい、ガツンと強くエーヴェルトの中を突き上げると、低く唸って、そのままエーヴェルトの中に精液をぶちまけた。
はぁ、はぁ、と荒い息を吐きながら、イェオリは情けなく眉を下げて、うっとりと蕩けた顔をしているエーヴェルトを見下ろした。
「あの、ごめん。出ちゃった」
「いいよ。俺の中は気持ちがいい?」
「うん。すっごく。……あの、エーヴェルトはまだイッてないよね」
「うん」
「……エーヴェルトが欲しくて、疼いて仕方がないんだ。エーヴェルトが嫌じゃなかったら、俺にもエーヴェルトをちょうだい」
「うん。いいよ」
「本当に?大丈夫?無理してない?」
「ははっ。してないよ。君なら大丈夫。僕も君の中に入りたい」
「あぁ……エーヴェルト。好きだ」
「僕も好きだよ。イェオリ。一度抜いて。君の中に出させて」
「うん」
イェオリはゆっくりと腰を引いて、まるで出ていくなと言わんばかりに締めつけてくるエーヴェルトのアナルからペニスを引き抜いた。
エーヴェルトが絡めていた両手足を解いたので、イェオリはエーヴェルトの身体を跨いで、勃起したままのエーヴェルトのペニスを片手で支え、自分の熱く疼いて仕方がないまんこの穴にエーヴェルトのペニスの先っぽを押しつけた。
ゆっくりと腰を下ろしていけば、メリメリと狭い膣壁を押し拡げるようにして、エーヴェルトの熱くて硬い太いペニスが入ってくる。酷く痛いが、同時に気持ちがいい。敏感な粘膜同士が擦れ合う感覚が心地よく、何より、欲しくて欲しくて堪らなかったエーヴェルトがイェオリの中にいるというだけで、イキそうなくらい興奮する。エーヴェルトのペニスを根元近くまで、まんこの穴で飲み込むと、トンッとペニスの先っぽが腹の奥深くに当たった。経験したことがない鋭い痛みと強烈な快感が脳天へと突き抜ける。
はっ、はっ、はっ、はっ、と獣のような息を吐きながら、イェオリはエーヴェルトを見下ろした。エーヴェルトがとろんとした気持ちよさそうな顔で笑った。
「すごい。熱くて気持ちいいよ。イェオリ」
「俺も、気持ちいい」
「動いていい?我慢できない」
「動いて。……あぁっ!?」
「あぁ……すごいっ、吸いついてくるみたいだ。いいよ、イェオリ」
「あっ!あっ!あっ!あっ!エーヴェルトッ!いいっ!もっと!もっと突いてっ!!」
エーヴェルトがイェオリの細い腰を掴み、下からガンガン激しく腹の奥深くを突き上げ始めた。鋭い痛みと強烈な快感で、目の裏がチカチカする。自分の膣内がエーヴェルトのペニスから精液を搾り取ろうと蠢くのがなんとなく分かる。
エーヴェルトの子種が欲しい。イェオリは激しく下から揺さぶられながら、エーヴェルトの動きに合わせてぎこちなく腰を動かした。痛いけど、気持ちがいい。
今なら死んでもいい。イェオリは幸せ過ぎて、そう思いながら、高まる熱が弾け飛ぶ瞬間が訪れる予感に、大きく喘いだ。
「あぁぁぁぁぁっ!いくっ!いくいくいくぅぅっ!!」
「はっ、はっ、僕もっ」
「あ、あっ、あーーーーっ!!」
「あっ、はぁっ!!」
パァンッと身体の中で暴れ回っていた熱が弾け飛んだ。イェオリは仰け反るように天井を見上げながら、全身をビクンビクンと震わせた。イェオリの膣内で、エーヴェルトのペニスが微かにピクピクと震えている。イェオリの中に、エーヴェルトが射精した。
イェオリは嬉しくて、幸せで、もう本当に堪らなくなって、ポタポタと涙を零し始めた。
繋がったままエーヴェルトの身体に覆い被さって、エーヴェルトのほっそりとした身体を抱きしめれば、エーヴェルトがしっかりとイェオリの身体を抱きしめて、やんわりと頭を撫でてくれた。
「イェオリ。君の全てをもっと見せて」
「うん」
エーヴェルトがイェオリの頬にキスをして、頬を伝う涙を舐めとった。
イェオリはのろのろと身体を離して、腰を上げてエーヴェルトのペニスをまんこの穴から引き抜くと、シーツの上に腰を下ろして、膝を立てて足を大きく広げ、エーヴェルトに自分の身体を見せつけた。ゆるく勃起したままのペニスと小振りな陰嚢を片手で持ち上げて、肉厚の肉襞を指で開いて、とろりとエーヴェルトの精液が溢れ出るまんこの穴まで見せつける。
イェオリは緊張で掠れた声で、エーヴェルトを呼んだ。
「エーヴェルト。気持ち悪くない?」
「……ううん。とてもキレイだ」
「本当に?」
「本当に。イェオリ。まだできる?僕もまた挿れて欲しいし、また君の中にも入りたい」
「俺もエーヴェルトに挿れたい。ここにももっと欲しい」
「いやらしいね。イェオリ」
「君もだよ。エーヴェルト」
イェオリはエーヴェルトと顔を見合わせて、同時に小さく吹き出し、笑った。
抱きついてきたエーヴェルトの身体をしっかりと抱きとめ、夢中でキスをして、イェオリはエーヴェルトと何度も何度も熱と快感を分け合った。
------
イェオリが5歳になる娘のアデラと一緒に夕食を作っていると、エーヴェルトが帰ってきた。
エーヴェルトと深い関係になって半年程で、イェオリはアデラを妊娠した。エーヴェルトはイェオリの妊娠をとても喜んで、順番が逆になったが、イェオリはエーヴェルトと結婚した。
結婚と同時に、イェオリは魔術研究所を辞めた。今は子育てに奔走する毎日を送っている。アデラは髪質はエーヴェルトに似ているが、どちらかと言えば全体的にイェオリに似ている。イェオリは心底可愛いと思うが、女の子なのに糸目なのはちょっと申し訳なくなる。
アデラにお手伝いとしてレタスを千切ってもらっていると、台所にエーヴェルトがやってきた。イェオリは笑みを浮かべて、『おかえり』とエーヴェルトの唇に触れるだけのキスをした。
「ただいま。イェオリ。アデラ。アデラもちゅーしてー」
「いいよー」
エーヴェルトがアデラを抱っこすると、アデラがエーヴェルトの頬に唇をくっつけた。エーヴェルトの顔が嬉しそうにだらしなくゆるんでいる。毎日の微笑ましい光景に、イェオリも頬をゆるめた。
アデラを抱っこしたままのエーヴェルトがイェオリに近寄ってきて、イェオリの腰を抱き、イェオリの頬にキスをした。
「すごくいい匂いがする」
「アデラに手伝ってもらったから、今日の晩ご飯は格別美味しいよ」
「おいしいよ!!」
「それは素敵だ。早く食べようか」
「「うん」」
イェオリは手早く皿に料理を盛り付けながら、楽しそうにお喋りを始めたエーヴェルトとアデラの声に耳を澄ませ、穏やかな笑みを浮かべた。
(おしまい)
イェオリは緑が鮮やかな木々の間を通り抜け、いつも昼食を食べているベンチへと向かった。
魔術研究所の一角にある小さな森の中にあるそこは、イェオリの隠れ場所みたいなものだ。
イェオリがベンチに座り、手製のサンドイッチが入った小さなバスケットを膝の上に置くと、少し遠くからイェオリの名前を呼ぶ声が聞こえた。声がした方を見れば、ひょろりと背が高い鳥の巣のような頭をした眼鏡をかけた男がやって来た。昼食友達のエーヴェルトである。エーヴェルトとは所属している研修室は違うが、ひょんなことから昼食友達になった。
エーヴェルトは、いつもボザボサの癖のある黒髪が鳥の巣のようだ。黒縁眼鏡をかけていて、分厚いレンズの向こうに見える深緑色の瞳はとても穏やかである。顔立ちそのものは整っている方なのに、ダサい眼鏡と鳥の巣頭のせいで、全然美形には見えない。もっさりしている印象を受ける。
とはいえ、イェオリも他人のことはあまり言えない。無精して伸ばしっぱなしの亜麻色の髪は、傷んでボサボサになっているのを適当に一つに括っているだけだし、顔立ちはとても地味だ。目が細いので、狐みたいだと言われたことがある。どうでもいいが、実際の狐は別に目が細い訳ではないのに、何故か絵本の狐は目が細く描かれることが多い。不思議である。顔や身体のつくりが細身なので、神経質そうだとも言われたことがある。
2人揃ってモテない仲間でもある。
イェオリが軽く手を上げると、エーヴェルトがすたすたとベンチに近寄ってきて、すとんとイェオリのすぐ隣に座った。エーヴェルトの手にも、小さめのバスケットがある。
エーヴェルトがイェオリのバスケットの中を覗き見て、へらっと笑った。
「そのサンドイッチ美味しそう」
「生ハムとチーズとバジル」
「間違いない組み合わせだ」
「君のは?」
「バゲットにレタスとソーセージ挟んできた」
「ふーん。それも美味そう」
「交換しない?」
「いいよ」
「やった。じゃあ、交換しよう」
「うん」
イェオリは小さなバスケットごとエーヴェルトのものと交換した。エーヴェルトのバスケットの中には、バゲットに切り目を入れて、たっぷりのレタスと大きなソーセージが挟んであるものが入っている。結構大きいので食べ切れるか少しだけ不安だが、イェオリはエーヴェルト手製のバゲットサンドを手に取り、大口を開けて齧りついた。小麦の味がしっかりする美味しいバゲットに、シャキシャキのレタスの食感と、噛むたびにじわぁっと口内に広がる香辛料のきいたソーセージの肉汁のハーモニーが素直に美味しい。
もぐもぐと咀嚼して、しっかり飲み込んでから、イェオリはエーヴェルトを見た。エーヴェルトも美味しそうにサンドイッチに齧りついている。
「エーヴェルト。このソーセージ、何処で買ったやつ?」
「大通りの肉屋は知ってる?八百屋の隣の。あそこで売ってた」
「へー。知らなかった。その店には行ったことがあるけど、肉しか買ったことがないなぁ」
「ハムも美味しいよ」
「今度買ってみよう」
「たまにだけど、挽肉を丸めて衣をつけて揚げたやつが売ってるんだよね。それがもう最高に美味しいよ」
「マジか。食べたくなるじゃないか」
「僕の一番のオススメだね。しっかし、今日はちょっと暑いねー」
「うん。そしてこんな日に限って絶賛垂れ流し中だわ」
「あー。だと思った。腹と腰は大丈夫?」
「めちゃくちゃ痛い」
「暑いだろうけど、気休めに腹回りにこれ巻いときなよ」
「ありがと。悪いな」
「いえいえ」
エーヴェルトが制服の上着を脱ぎ、イェオリに手渡した。イェオリはお礼を言って受け取り、ぐるぐると腹回りにエーヴェルトの制服の上着を巻いた。
イェオリは『神様の祝福子』である。俗に言うふたなりというやつだ。極まれに生まれてくる。両方の性を備え持つのは、神様から祝福された証拠だということで、『神様の祝福子』と呼ばれている。普通の男女よりも生殖能力は劣るが、孕ませることも、孕むこともできる。『神様の祝福子』は珍しいので、好事家や変態に狙われやすい。基本的に『神様の祝福子』であることを隠すことが多い。
イェオリも、自分の家族とエーヴェルト以外には隠している。エーヴェルトとは秘密を共有する仲なので、エーヴェルトにだけは教えた。
エーヴェルトは同性愛者だ。国教で同性愛は禁じられている。同性愛者だと教会の者や周囲の者に知られたら、何をされるか分かったものではない。
イェオリは、エーヴェルト手製のバケットサンドイッチをもぐもぐしながら、エーヴェルトとの出会いを思い出した。
あれは5年前のちょうど今頃の季節であった。
イェオリは当時20歳で、魔術研究所に就職したばかりだった。『神様の祝福子』だと知られる訳にはいかず、同じ研究室の者達から一歩引いて接していた。
イェオリは3ヶ月に一度、月のものがくる。イェオリは月のものが重い方だ。
就職して2ヶ月も経たないうちに月のものがきてしまい、どうしてもしんどくて、イェオリは静かな人気がない場所を求めて、昼休憩の時間に森に入った。たまたま見つけたベンチに腰掛けて、ぐったりとしていると、小さなバスケットを持ったエーヴェルトがやってきた。
エーヴェルトは、顔色が悪いぐったりしているイェオリを見ると、『おや。先客』と話しかけてきた。
「君、大丈夫?」
「……大丈夫です」
「顔色悪いよ」
「……ちょっと貧血なだけなんで」
「ふーん。此処を知ってるのは僕だけかと思ってた。……ねぇ。ちょっと不躾なことを言ってもいいかい?」
「なんでしょう」
「君、もしかして『神様の祝福子』じゃない?血の匂いがする」
「えっ」
イェオリは、すんすんと鼻を鳴らしているエーヴェルトをギョッと見つめた。そんなに血の匂いがするのだろうか。
「そんなに匂いますか」
「いや?普通の人は気づかないよ。僕は極端に鼻がいいだけ」
「あ、そうなんですね」
「他の人には言わないから安心して。腹や腰は大丈夫?」
「え、あ、い、痛いです……けど……」
「はい。今だけでもこれを腹回りに巻いときなよ。気休め。僕の姉さんも月のものが酷くてね。いつもお腹周りを温めてたから」
「あ、ありがとうございます」
イェオリはおずおずと差し出されたエーヴェルトの上着を受け取って、腹回りに巻いた。
「あの……俺はイェオリ・クルードと申します。お名前を伺っても?」
「ん?エーヴェルト・ヒューゴ。たまたまとはいえ、君の秘密を知ってしまったからね。保険として、僕の秘密を教えるよ。君が僕の秘密を言いふらさない限り、僕も君の秘密を言いふらさない」
「秘密」
「僕は男が好きなんだ」
エーヴェルトがあっさりと言って、肩を竦めた。イェオリはとても驚いたが、同時にエーヴェルトを信用することにした。国教で禁じられている同性愛者だという秘密は、本当に重い。その秘密をあっさりと教えてくれただけでも、信用に値すると思った。
それから、イェオリはエーヴェルトと昼食仲間になった。エーヴェルトは穏やかな性格をしていて、一緒にいて気が休まる。普段は自宅以外じゃ、『神様の祝福子』だとバレないように気を張っているので、イェオリの秘密を知った上で黙っていてくれるエーヴェルトと過ごす時間は、なんとなくリラックスできる。
エーヴェルトは何かと気遣ってくれるし、2歳年上の先輩だが、そのうち普通の友人のような関係になった。
そして、気づけばイェオリは、エーヴェルトのことを好きになっていた。
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面倒な月のものが漸く終わり、イェオリは軽やかな足取りで、いつもの森の中のベンチへと向かった。
イェオリはエーヴェルトのことが好きだが、気持ちを伝える気は毛頭ない。イェオリは『神様の祝福子』だ。女性器もある時点で、エーヴェルトの恋愛対象ではない。下手に想いを告げて、今の心地よい関係を崩したくない。最近、両親から縁談の話がきた。実家は商家をしていて、縁談の相手は取引先の息子らしい。エーヴェルトのことが好きだが、エーヴェルトに想いを告げる気がない以上、縁談を受けてもいいかと思っている。イェオリがエーヴェルトと結ばれることはない。だったら、誰と結婚しても同じことだ。イェオリにとっては、初めての恋だ。初恋は実らないというし、仕方がない。
今日はエーヴェルトの方が先にベンチに来ていた。小さなバスケットを膝にのせたまま、食べずにイェオリを待っていてくれたらしい。
イェオリは嬉しくなって、小走りでエーヴェルトに駆け寄った。
「待たせたかい?」
「いや?僕も少し前に来たところ。珍しいね。いつもイェオリが先なのに」
「今日は午前中の実験が少し長引いたんだ」
「なるほど。じゃあ、食べようか。君は今日は何だい?」
「揚げた白身魚をキャベツと一緒にパンに挟んでみたんだ。レモンと黒胡椒をきかせてみた」
「へぇー。美味しそう。交換しない?僕は、今日はチーズパンだよ。美味しいパン屋を見つけてね。外側にもチーズがのってるけど、中にもチーズがたっぷり入ってて、すごく美味しいんだ」
「やった!エーヴェルトのオススメはハズレが無いからいいね。是非とも交換して欲しい」
「勿論いいよ。イェオリの手料理って美味しいよね。僕は料理のレパートリーが少ないんだよね」
「そうかな。エーヴェルトの料理も美味しいじゃないか。というか、美味しいものを売ってる店をよく知ってるよね」
「まぁ。自分がそんなに料理上手じゃないから、美味しいものが食べたいなーって思って、休みの日に探しに行くんだよね」
「なるほど。俺は決まった店にしか行かないもんなぁ」
「あ、ねぇ。イェオリがよければ、今日、晩ご飯を一緒に食べない?美味しそうな店を見つけたんだけど、1人じゃ入りにくい感じでさ。付き合ってくれると嬉しいんだけど」
「いいよ。明日は休みだし、今夜も明日も用事は無いから」
「ありがと。僕も明日は休み。お酒は好き?」
「あんまり飲まないかなぁ。あ、果実酒は好きだよ。毎年、杏の酒を作るんだ」
「へぇ!君ってば、果実酒も作るんだ」
「杏だけね。好きだから」
「いいね。飲んでみたい」
「エーヴェルトは酒が好きなのかい?」
「うん。お酒なら何でも飲むよ。あ、勿論美味しいやつね。酔うのが目的の混ぜもの入りの安酒は飲まないね」
「……去年作った杏の酒がまだ残っているんだ。よかったら、晩ご飯の後、家で少し飲んでみない?」
「おや。いいのかい?じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
「うん。家は散らかってるけど、気にしないでくれると嬉しい」
「大丈夫だよ。僕の家もいつも散らかり放題だから」
のほほんと笑って、イェオリ手製のサンドイッチに齧りついているエーヴェルトをチラッと見て、イェオリは嬉しくて、胸の奥が擽ったくて、小さく口角を上げた。
エーヴェルトと此処以外で会うのは、今回が初めてだ。ただ一緒に食事をして、酒を飲むだけだが、それだけで十分過ぎる程嬉しいし、いい思い出になりそうな気がする。
イェオリは美味しいチーズパンに齧りつきながら、早く勤務時間が終わればいいのにと思った。
イェオリはそわそわと魔術研究所の入り口でエーヴェルトを待っていた。傷んでボサボサの髪を、トイレでなんとかマシな見た目にしようと手櫛で頑張ってみたが、いつもと変わらないままだった。櫛くらい持ち歩けばよかったと少し後悔した。髪がどうにかなったとしても、糸目で神経質そうな顔立ちはどうにもならない。自分がモテる容姿ではないことは自覚している。それでも、少しでもエーヴェルトによく見られたいと思ってしまった。だって、まるでデートのようではないか。最初で最後のエーヴェルトとのデートだ。服が魔術研究所の制服なのが少し残念だ。もっとも、イェオリは着道楽でもお洒落さんでもないので、逆に制服の方がよかった気もする。
イェオリがなんとなく肩掛け鞄の肩紐を弄っていると、エーヴェルトがやって来た。思わず、ドキッと心臓が跳ねる。
相変わらずの鳥の巣頭で、野暮ったい黒縁眼鏡をかけ、エーヴェルトがゆるく笑って、イェオリに声をかけてきた。
「ごめんよ。待たせた?」
「いや。そんなに」
「店は繁華街にあるんだ。少し歩くけど大丈夫?」
「うん。俺の家、繁華街から割と近い所だから。いつもの通勤とそんなに変わらないんじゃないかな」
「あ、そうなんだ。繁華街が近いと、夜は煩くない?」
「慣れかなぁ。独り暮らし始める時に、手頃な家賃の物件が中々無くて。今住んでる家は小さな一軒家なんだけど、かなり古いから家賃が安いんだ。繁華街が近くて煩いってのも加味されててさ。元々の持ち主は、住んでて夜が煩いから別の場所に家を建て直したらしいよ」
「へぇー。お金持ちだったんだなぁ」
「多分ね」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
イェオリはエーヴェルトと並んで歩き始めた。基本的に、お互いに仕事の話はしないと決めている。違う研究室に所属しているので、其々、守秘義務があるからだ。
イェオリはエーヴェルトと今夜食べたいものの話をしながら、少しの緊張と喜びで、ドキドキと胸を高鳴らせた。
エーヴェルトが案内してくれた店は、どちらかと言えば大人数で入るような大衆店だった。とても賑やかで、確かに1人では少し入りにくい雰囲気だ。
イェオリはエーヴェルトと一緒にテーブル席に座ると、2人でメニュー表を眺めて、あーだこーだと話しながら注文する料理を決め、店員を呼んだ。
美味しいものが好きなエーヴェルトが気になっていただけあって、料理はどれも美味しかった。『やっぱり当たりだった』と嬉しそうに笑うエーヴェルトと一緒に、イェオリも笑って美味しい料理とエーヴェルトとの会話を楽しんだ。
軽めの果実酒も飲みつつ、2人とも満腹になるまで色んな料理を堪能すると、会計をしてから店を出た。
外はすっかり暗くなっている時間帯だが、繁華街はまだまだ明るい。様々な店から漏れる明かりで明るい道を歩き、今度はイェオリの家に向かう。こんな事になるなら、少しは掃除をしていればよかったと悔しくなるが、諦めるしかない。
むしろ、自然体のイェオリをエーヴェルトに見てもらえるじゃないかと考えると、逆に取り繕わない方がいい気もする。
イェオリは、ほろ酔いでご機嫌なエーヴェルトと一緒に、自宅へと帰った。
イェオリの家は二階建ての古い家で、玄関のドアの立て付けが悪くなっていて、ドアを開けると悲鳴のような不快な音がする。少し遠くから、繁華街の酔っ払い達の騒ぐ声が聞こえてくる。
イェオリは、エーヴェルトを、脱ぎ散らかした服や本、書きかけの論文等で散らかった居間に通すと、台所へ向かい、杏の酒とグラスを二つ取って、居間に戻った。
イェオリが折りたたみ式の木の椅子にローテーブルを挟んで腰掛けると、対面の一人用のソファーに座っているエーヴェルトが、イェオリを見て、へらっと笑った。
「僕の家よりキレイだね」
「マジか。かなり散らかってる方だと思うんだけど」
「足の踏み場がある時点で、かなりマシだよ」
「えー……あ、はい。酒の肴はないけど大丈夫?」
「うん。おぉ!すごいいい香りだ」
「口に合うといいんだけど」
「……ん!美味しい!」
「本当に?」
「本当に。ブランデーに漬けたのかい?」
「うん。その方が美味しいんだ」
「甘さもちょうどいいし、飲みやすくて、何より杏の香りがいい。おーいしーい」
「あはっ。よかった」
エーヴェルトが本当に美味しそうに杏の酒を飲んでくれるのを見て、イェオリは嬉しくてだらしなく頬をゆるめた。
自分も杏の酒を飲みつつ、早々とグラスを空にしたエーヴェルトにお代わりを注いでやる。
「今年もそろそろ杏の酒を作るから、全部飲みきっちゃってもいいよ。あと二瓶あるんだ」
「やった!では遠慮なくご馳走になろうかな。いやぁ、本当に美味しい。君は天才か」
「大袈裟だよ。誰でも簡単に作れるものだしね」
「今年の杏の酒が飲み頃になったら、またご馳走になっていいかい?出来たてのやつも飲んでみたいんだ」
「勿論いいよ。……あ」
「ん?」
「あー……もしかしたら、その頃には結婚してるかも。親が縁談の話を持ってきててね」
「……結婚するのかい?」
「……うん。まぁ。一応そのつもり」
イェオリはなんとなくエーヴェルトの顔を見れなくて、手元の酒が入ったグラスに目線を落とした。
エーヴェルトが静かな声で問いかけてきた。
「相手は女?」
「……いや、男。実家の取引先の息子らしい」
「イェオリ」
「……なに?」
「結婚しないで欲しい。君が好きなんだ」
「……え?」
イェオリはポカンと間抜けに口を開けて、エーヴェルトを見た。エーヴェルトは初めて見るくらい真剣な顔をしていた。何を言われたのか、すぐに理解できない。イェオリは狼狽えて、目を泳がせた。
「俺はふたなりだ。男じゃない」
「知ってる。でも、気がついたら君を好きになってた。君に抱かれたいと思う僕は気持ち悪い?」
「気持ち悪くなんかない!!」
「あ、よかったー」
「あ、あの、本当に、その、本当に俺のことが好きなのかい?」
「うん。好きだよ。なんかね、君と一緒にいると、楽に息ができるんだ。一緒にいて楽しいし、もっと君の事が知りたい」
「……俺も……俺も、エーヴェルトの事がもっと知りたい」
「だったら、結婚なんかしないでくれ。僕の事を好きになって」
「……もうとっくに好きになってるさ」
「本当に?」
「本当に」
どこか緊張した様子だったエーヴェルトが、へらっとイェオリが好きな笑みを浮かべた。イェオリは嬉しくて、胸の中がいっぱいいっぱいで、今にも泣きそうなのを必死で堪えた。嬉しいなんて言葉じゃ表しきれないくらい、喜びで胸の中が溢れかえっている。まるで奇跡が起きたようだ。
エーヴェルトが飲み終えたグラスをローテーブルの上に置き、手を伸ばして、必死で涙を堪えているイェオリの手からグラスを取り上げ、イェオリの手をやんわりと握った。少し低めの体温に胸がふわふわとときめく。
「イェオリ」
「うん」
「君と深い仲になりたい」
「……俺も、エーヴェルトに触れたい」
「抱いてくれる?」
「喜んで」
イェオリは今にも泣き出しそうな不細工な笑みを浮かべた。エーヴェルトが照れたように笑い、イェオリの手を引いて立ち上がった。
「寝室、行ってもいい?」
「勿論。散らかってるけど」
「ははっ。大丈夫。僕の寝室より絶対マシだろうから」
「どれだけ散らかってるんだよ」
「あははっ。足の踏み場もないね!」
イェオリはエーヴェルトと軽口を叩きながら、手を繋いで2階の寝室へと歩き出した。狭い階段を上がり、寝室のドアを開ける。寝室も脱ぎ散らかしたままの寝間着や本で散らかっているが、エーヴェルトは『やっぱり僕の寝室よりマシだ』と笑った。
イェオリはエーヴェルトと手を繋いだまま、適当に掛け布団を床に落とし、ベッドに腰掛けた。
当然ながら、イェオリは童貞処女である。ふわっとした知識はあるが、ちゃんとエーヴェルトを気持ちよくできるのか、あまり自信はない。
イェオリはおずおずとエーヴェルトに話しかけた。
「あの……俺、童貞なんだ」
「僕も童貞だよ。あ、でも、自分で弄ってるから、多分イェオリのちんこは入るよ。まぁ、君のサイズ次第だけど」
「……実はそんなに大きくない。というか、小さい方だと思う……」
「大丈夫。2人で気持ちよくなろう?」
「う、うん」
イェオリは、心臓が胸から飛び出しそうな程バクバクと激しく心臓を高鳴らせながら、そっと顔を寄せてきたエーヴェルトの唇に自分の唇を重ねた。ふにっとした柔らかい感触に、心臓が大きく跳ねる。
繋いだ手の指を絡めて、何度も何度も唇をくっつける。唇をくっつけるだけの幼いキスなのに、それだけでもういっぱいいっぱいだ。心臓が激しく動き回って、今にも天に召されそうである。
あまりの現実味の無さに、イェオリがふわふわしていると、ちゅくっとエーヴェルトに下唇を優しく吸われた。イェオリもエーヴェルトの真似をして、エーヴェルトの下唇を優しく吸った。
はぁっと、エーヴェルトの熱い酒の匂いがする息が唇にかかる。
間近にある深緑色の瞳が、とろんとしていた。
「イェオリ」
「うん」
「もっとキスして。もっと触って」
「うん」
「服、脱ごうか」
エーヴェルトがそう言って、ちゅくっとイェオリの唇を優しく吸ってから、絡めていた指を解き、制服のボタンを外し始めた。イェオリも制服のボタンを、緊張か興奮あるいは両方で震える指で外し始めた。制服の上着を脱ぎ、下に着ていたシャツも脱いで、震える手でズボンのベルトを外す。下着ごとズボンを脱ぎ捨てれば、イェオリの少し小振りなペニスは、もう勃起していた。イェオリのペニスは少し小さめだ。普段は先っぽが皮を被っている。勃起している今は、自然と皮が剥けて、赤い亀頭が顔を出していた。
靴下も脱ぎ捨て、隣のエーヴェルトを見れば、エーヴェルトが熱の篭った目で、じっとイェオリの身体を見つめていた。
「……貧相な身体だろ」
「僕も似たようなものだよ。……ふふっ。もう勃ってる」
「う、うん」
「見て。僕も勃ってる」
エーヴェルトの股間を見れば、確かにエーヴェルトのペニスは勃起していた。明らかにイェオリのペニスよりも大きい。皮が亀頭の下の方に溜まっているから、多分エーヴェルトも普段はペニスの先っぽが皮に包まれているのだろう。イェオリのものよりも、長くて太いエーヴェルトのペニスを見て、イェオリはゴクッと唾を飲み込んだ。腹の奥が熱く疼く。自分で弄ったことしかない、俗に言うまんこが、疼いて愛液を垂らし始めたのが嫌でも分かる。
エーヴェルトに抱かれる妄想をして、数え切れないくらい自分の指で慰めていた。まさか、自分が抱く側になるとは思ってもいなかったが、痩せて骨っぽいエーヴェルトの身体を見ていると、触れたくて、興奮して、ペニスが若干痛い程張り詰めている。
エーヴェルトが眼鏡を外して、ベッドのヘッドボードの上に眼鏡を置くと、イェオリに向かって両手を伸ばし、照れたように笑った。
「抱きしめて。いっぱい触って」
「……うん」
イェオリはエーヴェルトの身体をベッドに押し倒すように抱きしめた。イェオリよりも少し低い体温と肌の感触を直に感じる。イェオリは堪らなくなって、エーヴェルトの唇に強く吸いついた。エーヴェルトがイェオリの下唇をつーっと熱い舌でなぞったので、イェオリはエーヴェルトの舌におずおずと自分の舌を擦りつけた。酒の味がするエーヴェルトの舌を夢中で舐め回して、少しだけ開いているエーヴェルトの唇の隙間から、エーヴェルトの口内に舌を突っ込む。技巧なんて知らない。ただ、エーヴェルトの唾液の味を味わうのに必死だった。エーヴェルトの口内は熱くて、甘い杏の酒の味がする。ぬるぬると舌を絡め合わせれば、それだけで射精してしまいそうな気がする程気持ちよくて興奮する。
ピッタリと触れている下腹部に2人のペニスが触れている。イェオリは腰をくねらせて、エーヴェルトの熱いペニスに自分のペニスを擦りつけた。腰のあたりがゾワゾワする快感に、射精感が急速に高まっていく。
イェオリは間近にあるとろんとした深緑色の瞳を見つめて、はぁっと熱く震える息を吐いた。興奮し過ぎて、頭の中が沸騰してしまいそうだ。
イェオリはもっとエーヴェルトを味わいたくて、エーヴェルトの首筋にねっとりと舌を這わせた。首の太い血管を舌でなぞれば、ドクンドクンと速く大きな脈動を舌に感じる。イェオリはエーヴェルトの痩せた身体を撫で回しながら、夢中でエーヴェルトの肌を舐め回した。
薄い胸板にある存在感が薄い淡い茶褐色の小さな乳首をチロチロと舐め、ピンと勃った乳首をちゅくちゅくと吸うと、エーヴェルトが溜め息混じりに小さく喘いだ。夢中でエーヴェルトの乳首を舐めて吸っているイェオリの頭をエーヴェルトがやんわりと撫でて、うっとりと笑った。
「気持ちいいよ。イェオリ」
「ん」
「ねぇ。反対側も。……あぁっ。そう。いい……上手だね。イェオリ」
エーヴェルトに褒めるように頭を撫でられると、嬉しくて堪らなくなる。イェオリは両方の乳首を交互に舐めながら、うっすらと肋が浮いたエーヴェルトの脇腹や腰骨のあたりを撫で回した。
気が済むまで乳首を舐めると、じんわりと汗ばみ始めたエーヴェルトの肌を舐め下ろしていく。少しだけ周りに毛が生えた形のいい臍に舌先を突っ込み、くっきりと浮き出た腰骨にやんわりと噛みついて、なだらかな薄い陰毛が生えている下腹部を舐め回して、強く吸いつく。エーヴェルトは服から露出している部分は日焼けしているが、服の下に隠れている部分は、イェオリよりも肌が白くてキレイだった。エーヴェルトの肌に強く吸いつくと、白い肌に赤い痕が残る。それがとてもキレイで、いやらしくて、イェオリは夢中でエーヴェルトの下腹部や内腿に何度も吸いつき、沢山の痕を残した。
夢にまでみたエーヴェルトの勃起したペニスに頬ずりをして、ねろーっと横からペニスの裏筋に舌を這わせる。熱くて硬い肉の感触が、酷く興奮を煽る。ぷくりと先走りが浮いている尿道口をベロッと舐めれば、微かにエグいような青臭い味がした。エーヴェルトの味をもっと味わいてくて、イェオリはパクンとエーヴェルトのペニスの亀頭を口に咥えた。ぐるりと舌で円を描くように亀頭を舐めれば、エーヴェルトの内腿が震え、エーヴェルトが控えめな喘ぎ声を上げた。エーヴェルトは低めのハスキーな声をしている。今はそれが更に掠れて、すごく色っぽい。
エーヴェルトのいやらしい声がもっと聞きたくて、イェオリはベロベロと亀頭を舐め回し、ペニスの根元あたりを右手で扱いて、左手でずっしりとした陰嚢をふにふにと優しく揉んだ。
「あぁ……イェオリ。だめ。出ちゃう」
「んー。らひて(だして)」
「んぅっ。僕だけイクのはヤダ。は、あ……イェオリ。口を離して」
「……ん」
本当はエーヴェルトの精液を口で受け止めて飲み干してしまいたかったが、イェオリはエーヴェルトの言葉に素直に従った。
荒い息を吐いているエーヴェルトが、のろのろと動いて、その場で四つん這いになった。エーヴェルトは痩せているから、尻の肉付きも薄く、四つん這いになると、自然とほんの少しだけ周りに毛が生えた赤黒いアナルが丸見えになった。
エーヴェルトが顔だけで振り返って、尻を左右に軽く振った。
「浄化魔術はかけてある。ねぇ。舐めてよ」
「うん」
「はっ、あぁっ……いいっ……」
イェオリはエーヴェルトの薄い柔らかい尻肉を両手で掴み、べろりとアナルの表面を舐めてから、チロチロと舌先でアナルの皺を一枚一枚伸ばすように、丁寧に舐め始めた。エーヴェルトの呼吸に合わせて皺が広がったり、細かくなったりして、それがなんともいやらしい。
アナルは排泄孔だ。それなのに、今は性器としか思えない。
イェオリは、エーヴェルトに声をかけられるまで、無我夢中でエーヴェルトのアナルを舐め回した。
エーヴェルトが、水の魔術のちょっとした応用魔術で、ぬるぬるの水を生成した。エーヴェルトがお手本を見せるように、自分のアナルに指を突っ込んで弄る様子を眺めながら、イェオリは疼いて仕方がない自分のまんこを指で弄った。
今すぐにでもエーヴェルトのいやらしいアナルにペニスを突っ込みたい。同時に、疼いて疼いて堪らないまんこの穴にエーヴェルトのペニスが欲しい。
イェオリは膣内の微かにざらついた気持ちがいいところを指で刺激しながら、時折喘ぎながら自分のアナルを解しているエーヴェルトのいやらしい姿をじっと見つめた。
エーヴェルトのアナルに入っていた2本の指が、ずるりと抜けていった。指が抜けたエーヴェルトの濡れたアナルは、微かに口を開けて、くぽくぽといやらしく収縮している。
イェオリはもう我慢できなくて、興奮して上擦った声でエーヴェルトを呼んだ。
「エーヴェルト。挿れたい」
「いいよ。おいで」
「うん」
エーヴェルトがころんと寝返りをうち、起き上がって、ぬるぬるの水を馴染ませるように、イェオリのペニスを優しく擦った。それだけで射精してしまいそうになるのを必死で堪え、仰向けに寝転がって膝を立てて大きく足を開いたエーヴェルトの身体に覆いかぶさる。エーヴェルトが腰を少し浮かせてくれたので、イェオリは自分のペニスを片手で掴んで、エーヴェルトの熱くひくついたアナルにペニスの先っぽを押しつけた。ゆっくりと腰を動かしていけば、熱い蕩けたアナルの中にペニスが入っていく。キツい括約筋でペニスの皮が自然と剥かれ、敏感な亀頭がまるっと柔らかくて熱い腸壁に包まれる。更にペニスを押し込んでいけば、ペニスの竿まで熱くぬるついた腸壁に包まれた。酷く気持ちがいい。ペニスを根元近くまで押し込むと、エーヴェルトが仰け反るようにして大きく喘いだ。
「あぁっ!すごいっ、当たってる!」
「えっと、どこに?」
「僕の気持ちいいところ。イェオリ。突いて。思いっきり」
「うん。う、あ……すごい……熱いよ、エーヴェルト」
「あぁっ!あっあっあっあっ!いいっ!!」
イェオリは今にも射精しそうなのを下腹部に力を入れて堪えながら、小刻みに短いストロークでエーヴェルトが気持ちがいいという腹側をペニスで突きまくった。ペニスで突き上げる度に、きゅっとキツく括約筋が締まって、熱い腸壁が蠢いてイェオリのペニスにまとわりつく。気持ちよくて、気持ちよくて、本当に堪らない。蕩けた顔で大きく喘ぐエーヴェルトがいやらしくて可愛い。
イェオリは滅茶苦茶に激しく腰を振りながら、エーヴェルトの身体を強く抱きしめ、エーヴェルトの涎で濡れた唇に強く吸いついた。エーヴェルトが両腕をイェオリの首に絡めて、両足をイェオリの腰に絡めてきた。全身で求められて、イェオリは我慢の限界がきてしまい、ガツンと強くエーヴェルトの中を突き上げると、低く唸って、そのままエーヴェルトの中に精液をぶちまけた。
はぁ、はぁ、と荒い息を吐きながら、イェオリは情けなく眉を下げて、うっとりと蕩けた顔をしているエーヴェルトを見下ろした。
「あの、ごめん。出ちゃった」
「いいよ。俺の中は気持ちがいい?」
「うん。すっごく。……あの、エーヴェルトはまだイッてないよね」
「うん」
「……エーヴェルトが欲しくて、疼いて仕方がないんだ。エーヴェルトが嫌じゃなかったら、俺にもエーヴェルトをちょうだい」
「うん。いいよ」
「本当に?大丈夫?無理してない?」
「ははっ。してないよ。君なら大丈夫。僕も君の中に入りたい」
「あぁ……エーヴェルト。好きだ」
「僕も好きだよ。イェオリ。一度抜いて。君の中に出させて」
「うん」
イェオリはゆっくりと腰を引いて、まるで出ていくなと言わんばかりに締めつけてくるエーヴェルトのアナルからペニスを引き抜いた。
エーヴェルトが絡めていた両手足を解いたので、イェオリはエーヴェルトの身体を跨いで、勃起したままのエーヴェルトのペニスを片手で支え、自分の熱く疼いて仕方がないまんこの穴にエーヴェルトのペニスの先っぽを押しつけた。
ゆっくりと腰を下ろしていけば、メリメリと狭い膣壁を押し拡げるようにして、エーヴェルトの熱くて硬い太いペニスが入ってくる。酷く痛いが、同時に気持ちがいい。敏感な粘膜同士が擦れ合う感覚が心地よく、何より、欲しくて欲しくて堪らなかったエーヴェルトがイェオリの中にいるというだけで、イキそうなくらい興奮する。エーヴェルトのペニスを根元近くまで、まんこの穴で飲み込むと、トンッとペニスの先っぽが腹の奥深くに当たった。経験したことがない鋭い痛みと強烈な快感が脳天へと突き抜ける。
はっ、はっ、はっ、はっ、と獣のような息を吐きながら、イェオリはエーヴェルトを見下ろした。エーヴェルトがとろんとした気持ちよさそうな顔で笑った。
「すごい。熱くて気持ちいいよ。イェオリ」
「俺も、気持ちいい」
「動いていい?我慢できない」
「動いて。……あぁっ!?」
「あぁ……すごいっ、吸いついてくるみたいだ。いいよ、イェオリ」
「あっ!あっ!あっ!あっ!エーヴェルトッ!いいっ!もっと!もっと突いてっ!!」
エーヴェルトがイェオリの細い腰を掴み、下からガンガン激しく腹の奥深くを突き上げ始めた。鋭い痛みと強烈な快感で、目の裏がチカチカする。自分の膣内がエーヴェルトのペニスから精液を搾り取ろうと蠢くのがなんとなく分かる。
エーヴェルトの子種が欲しい。イェオリは激しく下から揺さぶられながら、エーヴェルトの動きに合わせてぎこちなく腰を動かした。痛いけど、気持ちがいい。
今なら死んでもいい。イェオリは幸せ過ぎて、そう思いながら、高まる熱が弾け飛ぶ瞬間が訪れる予感に、大きく喘いだ。
「あぁぁぁぁぁっ!いくっ!いくいくいくぅぅっ!!」
「はっ、はっ、僕もっ」
「あ、あっ、あーーーーっ!!」
「あっ、はぁっ!!」
パァンッと身体の中で暴れ回っていた熱が弾け飛んだ。イェオリは仰け反るように天井を見上げながら、全身をビクンビクンと震わせた。イェオリの膣内で、エーヴェルトのペニスが微かにピクピクと震えている。イェオリの中に、エーヴェルトが射精した。
イェオリは嬉しくて、幸せで、もう本当に堪らなくなって、ポタポタと涙を零し始めた。
繋がったままエーヴェルトの身体に覆い被さって、エーヴェルトのほっそりとした身体を抱きしめれば、エーヴェルトがしっかりとイェオリの身体を抱きしめて、やんわりと頭を撫でてくれた。
「イェオリ。君の全てをもっと見せて」
「うん」
エーヴェルトがイェオリの頬にキスをして、頬を伝う涙を舐めとった。
イェオリはのろのろと身体を離して、腰を上げてエーヴェルトのペニスをまんこの穴から引き抜くと、シーツの上に腰を下ろして、膝を立てて足を大きく広げ、エーヴェルトに自分の身体を見せつけた。ゆるく勃起したままのペニスと小振りな陰嚢を片手で持ち上げて、肉厚の肉襞を指で開いて、とろりとエーヴェルトの精液が溢れ出るまんこの穴まで見せつける。
イェオリは緊張で掠れた声で、エーヴェルトを呼んだ。
「エーヴェルト。気持ち悪くない?」
「……ううん。とてもキレイだ」
「本当に?」
「本当に。イェオリ。まだできる?僕もまた挿れて欲しいし、また君の中にも入りたい」
「俺もエーヴェルトに挿れたい。ここにももっと欲しい」
「いやらしいね。イェオリ」
「君もだよ。エーヴェルト」
イェオリはエーヴェルトと顔を見合わせて、同時に小さく吹き出し、笑った。
抱きついてきたエーヴェルトの身体をしっかりと抱きとめ、夢中でキスをして、イェオリはエーヴェルトと何度も何度も熱と快感を分け合った。
------
イェオリが5歳になる娘のアデラと一緒に夕食を作っていると、エーヴェルトが帰ってきた。
エーヴェルトと深い関係になって半年程で、イェオリはアデラを妊娠した。エーヴェルトはイェオリの妊娠をとても喜んで、順番が逆になったが、イェオリはエーヴェルトと結婚した。
結婚と同時に、イェオリは魔術研究所を辞めた。今は子育てに奔走する毎日を送っている。アデラは髪質はエーヴェルトに似ているが、どちらかと言えば全体的にイェオリに似ている。イェオリは心底可愛いと思うが、女の子なのに糸目なのはちょっと申し訳なくなる。
アデラにお手伝いとしてレタスを千切ってもらっていると、台所にエーヴェルトがやってきた。イェオリは笑みを浮かべて、『おかえり』とエーヴェルトの唇に触れるだけのキスをした。
「ただいま。イェオリ。アデラ。アデラもちゅーしてー」
「いいよー」
エーヴェルトがアデラを抱っこすると、アデラがエーヴェルトの頬に唇をくっつけた。エーヴェルトの顔が嬉しそうにだらしなくゆるんでいる。毎日の微笑ましい光景に、イェオリも頬をゆるめた。
アデラを抱っこしたままのエーヴェルトがイェオリに近寄ってきて、イェオリの腰を抱き、イェオリの頬にキスをした。
「すごくいい匂いがする」
「アデラに手伝ってもらったから、今日の晩ご飯は格別美味しいよ」
「おいしいよ!!」
「それは素敵だ。早く食べようか」
「「うん」」
イェオリは手早く皿に料理を盛り付けながら、楽しそうにお喋りを始めたエーヴェルトとアデラの声に耳を澄ませ、穏やかな笑みを浮かべた。
(おしまい)
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