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顎割れマッチョになりたい国宝級美人と平凡な俺
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クリストファーは、のほほんと城門の所に立っていた。今日も王国は平和である。衛兵として、毎日のように城門を警備しているが、特に何も変わりはない。クリストファーがまだ小さな子供の頃は、隣国と戦をしていたので、貧しい暮らしをしていたが、戦は自国の勝利という形で終わったので、今はそれなりに豊かな国になっている。
クリストファーは、茶髪茶目の見た目も中身も平凡な一般庶民出の衛兵だ。身体を鍛えるのが趣味なので、筋肉には少し自信があるが、騎士や他の衛兵には、もっとすごいマッスルな腕自慢がいっぱいいるので、クリストファーは、その他大勢に埋没する、どこまでも平凡な男である。
クリストファーが、交代で来た先輩に引き継ぎをし終えたタイミングで、背後から背中をぽんぽんと叩かれた。目の前にいる先輩の顔が、何故かぶわっと赤く染まった。
クリストファーが振り返れば、背後には、絶世の美女と言っても過言ではない顔立ちの、ほっそりとした身体つきをしたとんでもなく美しい人が立っていた。『国宝級の美人』と巷で噂の魔術師アロイス・エーヴェルトである。サラサラの長い銀髪を高い位置で一つに結い上げ、白磁の肌は、健康的に頬が薔薇色にうっすら染まっている。長い睫毛に縁取られた水色の瞳を見つめるだけで恋に落ちるとかなんとか噂されている。美しいパーツが完璧なバランスで配置された、本当にとんでもなく美しい容姿をしている。近くで見ても、毛穴とか無さそうな感じの超絶美人である。
クリストファーよりも少し背が低いアロイスが、にっこりと笑って口を開いた。背後に、ぶわっと薔薇の花でも現れそうなくらい、華やかな笑顔である。クリストファーの近くにいる先輩が、謎の奇声を小さく発した。
「ねぇ。君、名前は?」
「クリストファー・ニフティです」
「そう。知ってるかもしれないけど、僕はアロイス・エーヴェルト。君の仕事はもう終わりでしょ? 少し時間をもらえないかな」
「はぁ……大丈夫ですけど」
「よかった。じゃあ、ちょっと静かな所に行こうか」
「あ、はい。帰る準備をしてくるので、少し待っててもらってもいいですか?」
「勿論。構わないよ。此処で待ってるから」
「あ、はい」
クリストファーは、不思議に思いながら、とりあえず帰り支度をしに、警備用の詰所に向かった。
アロイスとは、今まで特に接点は無かった。城に来るアロイスを見たことは数え切れないくらいあるが、特に話したことは無い。先輩達は、よくアロイスのことを噂しているが、クリストファーは、ぶっちゃけアロイスに興味が無かった。確かに綺麗な人だなぁとは思うが、唯、それだけである。
クリストファーが私服に着替え、鞄を持って、城門の所に行くと、アロイスを遠巻きにするように、人だかりができていた。皆、そわそわして、小さな声でキャーキャー黄色い声を上げたり、口々に『美しい』とひそひそ話をしている。
クリストファーは、小走りで、アロイスの元へ向かった。アロイスは、どこか張り付けたような笑みを浮かべていた。
「すいません。お待たせしました」
「そんなに待ってないよ。ちょっと転移魔術を使うから、手を握ってくれる?」
「あ、はい」
「行き先は、僕の家なんだけど、別にとって食いやしないから安心して」
「はぁ……」
クリストファーは、首を傾げながら、差し出された美しいアロイスの白い手を軽く握った。アロイスが早口で何かを唱えた次の瞬間、クリストファーは、小さな一軒家の狭い庭先に立っていた。
クリストファーの手を離したアロイスが、張り付けていた笑みを消して、不機嫌そうな顔で大きな溜め息を吐いた。
「はぁー。だっる。煩いのに絡まれなかっただけ、今日はマシだけど。僕、城に行くの嫌いなんだよね」
「はぁ……左様で。えーと、俺になんのご用ですか?」
「まぁ、詳しい話は中でするよ。君、紅茶と珈琲、どっちが好き?」
「珈琲派です。紅茶は飲めないです」
「そ。じゃあ、珈琲を淹れるよ。ていうか、君が淹れてくれない? 僕が淹れたら泥水みたいになるから」
「あ、はい」
クリストファーは、流されるがままに、アロイスの自宅らしき小さな家に入った。家の中は、一言で言うとカオスであった。もしくは、ゴミ屋敷。玄関のドアから入った廊下には、脱ぎ散らかした靴下とか、明らかにゴミと思われるものや、適当に積んである本でゴチャゴチャしていた。アロイスの後ろを歩いて台所に入れば、台所もドン引きする程汚かった。
汚れまくった台所を見てドン引きしているクリストファーに気づいたのか、アロイスが、怠そうな顔で口を開いた。
「掃除嫌いなんだよね。僕」
「……珈琲淹れる前に、ちょっと掃除してもいいですか?」
「いいよ。好きにして。なんなら、掃除しながら、僕の話を聞いてよ」
「あ、はい」
クリストファーは、とりあえず腕捲りをしてから、アロイスに持ってきてもらったゴミ袋に、明らかにゴミだと思われるものを放り込む作業を始めた。食べ残しと思われるガチガチに硬くなって黴びているパンの欠片や異臭を放つ食べかすがついた持ち帰り用の惣菜の容器、その他諸々、鼠の死骸まで普通に出てきた。汚いにも程がある。クリストファーは、別に潔癖という訳ではないが、ここまで汚いと生理的に無理だ。クリストファーが、黙々とゴミ袋にゴミを突っ込んでいると、アロイスが話し始めた。
「僕はさ、『国宝級の美人』とか呼ばれてるじゃない」
「そうですね」
「僕はそれが非常に不快でね。僕の顔見たさに、特に理由も無く城に呼ばれたりするし。街に出ても、城に行っても、赤の他人からジロジロ見られて、ひそひそ話をされて。それどころか、貴族の女達からは、恋文だの何だの押しつけられるし。ていうか、女だけじゃなくて、男からも口説かれるし」
「はぁ……大変ですね?」
「僕は、静かーに自分の研究だけをしていたい訳。城に行って見世物になって無駄な時間を過ごしたり、男女問わず口説かれたくない訳」
「はぁ……」
「そこで僕は考えたのだよ。顎割れマッチョになったら、誰も僕に見向きもしなくなるんじゃないかと」
「顎割れマッチョ」
「ということで。クリストファー君。君みたいな顎割れマッチョになる方法を教えてくれないかな」
「えー……身体を鍛えたら、マッチョになれるかもしれませんけど、顎は割れないと思います」
「な……んだと……鍛えたら顎も割れるんじゃないのか!?」
「割れませんよ。単純に体質みたいなもんなんで」
「君はマッチョだから顎も割れてるんじゃないのか」
「親父も爺ちゃんも顎が割れてたんで、完全に遺伝ですね」
「くっ……いや、マッチョだ。ゴリゴリのバキバキの暑苦しいマッチョになれば、きっとモテなくなる筈っ……変なのに付き纏われたり、面倒くさいのに好かれないようになる筈だ! ということで、僕を筋肉ゴリゴリ暑苦しいマッチョにしてくれたまえ」
「え、えぇ……そのー、何で俺なんですか? 他にもマッチョな男はいっぱいいますけど」
「君、僕に全く興味が無いだろ」
「はぁ……まぁ、ぶっちゃけ」
「だからだよ。僕は無駄に美しいからね。僕に惚れるような奴は端的に嫌だ。騎士や衛兵はマッチョ揃いだけど、君程、僕に興味が無い人は珍しいんだよ。不本意ながら、人の視線に含まれるものには敏感でね。君の僕を見る視線は、そこら辺の草を見るのと変わらない。逆に何で、そこまで僕に興味が無いのか不思議なくらいなんだけど」
「いやぁ。唯単に、人の顔に興味が無いだけですね。一応、美しいとは思いますけど、だからって別に興味は引かれませんし。まぁ、今はゴミ屋敷の住人という認識になってますけど。生活能力無さ過ぎじゃないですか? ドン引きです」
「埃じゃ人は死なない」
「鼠の死骸が転がってるような不衛生極まりない所で食事なんかしたら病気になりますよ」
「まぁ、その時はその時かな。それよりも、僕としては、少しでも早くモテないようになりたい。僕に興味が無い君だからこそ、お願いできるんだ。勿論、無償とは言わない。これでも、魔術理論の研究者としてはそれなりでね。著書とか新規開発した魔術理論の利権とかで、金は持っている。君が望むものを対価にしようと思うんだが、何か欲しいものはないかい?」
「え、急に言われても……欲しいもの……このクソ頑固な汚れが落ちる超教力な洗剤とか? んーー。もう本当に汚れが落ちないんですけど」
「いや、そういうんじゃなくて」
「うわぁ……戸棚の中、虫の死骸がわんさか……ドン引き……もういっそ、この家ごと焼き払いたいレベルで汚いですね。ドン引き」
「そこまで酷くなくない?」
「酷過ぎます。この家にいるだけで病気になりそう」
「えー。僕はすこぶる健康体だけど?」
「えーと、話を戻しますけど。アロイス様がマッチョになれるよう、筋トレの指導とかしたらいい感じですか?」
「そう! それを頼みたいんだよ!」
「別にいいですけど、筋トレは、何処でやります?」
「基本的にはこの家かな。この家には、認識阻害の魔術と不可視の魔術をかけてある。許された者以外には、入るどころか、見ることもできない。ストーカー対策の一つでね」
「はぁ……美人は大変ですね」
「美し過ぎる自分が憎い……んんっ。で。ちょっと悪いんだけど、君には、定期的にこの家に通って、筋トレの指導をしてもらいたいんだ」
「はぁ……まぁ、別にいいですけど。筋トレは日課ですし」
「ありがとう! 本当に助かるよ! 暑苦しいマッチョになるのにどれくらい時間がかかる? 一週間くらい?」
「筋肉はそんなに早く育ちません。俺の身体は14の頃から鍛え続けた結果です」
「君、今何歳?」
「24です」
「10年もかかるの!?」
「流石に10年はかかりませんけど、まぁ1年はかかると思ってください。アロイス様、筋肉どころか脂肪も無さそうですし」
「あ、『様』はいらないよ。僕の方が一つ年下だから、呼び捨てで構わない」
「あ、はい。因みに、食事はいつも買ってきてるんですか?」
「うん。料理なんてできないし。ていうか、研究がノッてる時は数日食べないのが普通」
「だから、そんなに痩せてるんですね。筋肉づくりには、適切な食事が必要不可欠です。ちゃんと三食、野菜も肉もしっかり食べてください」
「えぇ……いきなり難易度が高いな……」
「いや、ものすごく当たり前の事なんですけど」
「……むさ苦しいマッチョになる為に頑張るしかないか……」
「むさ苦しくなりたいなら、髭を伸ばしてみては?」
「僕、体毛が薄くて、髭もほぼ生えない。生えても産毛がちょっと太くなったくらいの毛がポツポツ生えるだけ。髭剃りなんて殆どした事ないね」
「へぇー。楽でいいですね」
「僕は君の青々とした髭剃りの痕が心底羨ましいよ」
「毎朝の髭剃りって地味に面倒ですよ? まぁ、体質ですし、髭は諦めましょう」
「うん。流石に体質はどうしようもない」
「えーと。じゃあ、運動できる服に着替えてきてください。台所を掃除し終えたら、今、どれだけの運動能力があるか、見てみたいんで。いきなり俺と同じメニューをしたら、間違いなく身体を壊しそうですし」
「分かった。着替えてくるよ」
「……どうでもいいけど、本当にこの汚れがっ、落ちないっ! 魔術でなんとかなりませんか?」
「えー? 掃除用の魔術なんて知らないなぁ。僕」
「くっ……水回りと魔導コンロ周りをキレイにしないと、お湯も沸かしたくないレベルで汚い。ていうか、ここにある食器も使いたくないレベルで汚いっ!」
「ははっ。まぁ、使っても死にはしないよ。現に僕は生きている」
「他の部屋は見たくない勢いの汚さ……本当にドン引き……明日は休みなんで、売ってる中で一番強力な洗剤買ってきます。筋トレ用の飲み物を用意するのも嫌な状態なんで」
「あはー。ごめん?」
クリストファーは、アロイスが台所から出ていくと、可能な限り、水回りを掃除した。本当に食器も使いたくないレベルで全体的にガチで汚い。明日は折角の休みだが、まる一日台所の掃除で終わりそうな気がしてくる。置いてある食器類を全部洗って、備え付けっぽい戸棚とかも全部キレイにしてから消毒しないと、本気で飲み食いしたくないレベルの汚さである。クリストファーの中で、アロイスへの認識が、『美人だけど特に興味無い人』から『クッソ汚い不衛生駄目人間』に変わった。台所がこの有り様なら、風呂場とかトイレも絶対に汚い。筋トレを指導するにあたり、風呂場やトイレは借りることがあるかもしれないので、水回りだけは掃除をしとかないといけない。クリストファーは、ゴシゴシと頑固な汚れがへばりついているシンクを薄汚れたスポンジで擦りながら、ちょっと面倒な事になったかも……と、小さく溜め息を吐いた。
今日できる掃除が終わった後。クリストファーは、潰れた蛙みたいに地面に懐いているアロイスを眺めて、パチパチと意味もなく拍手をした。アロイスは、ぜー、ぜー、と荒い息を吐いている。
「一周回って逆にすごいです。腕立て伏せ10回でダウンする人、初めて見ました。まさか腹筋もできないとはビックリです。成人男性の平均的な運動能力とは程遠いんじゃないですか?」
「ぜぇ、ぜぇ、ひ、皮肉か」
「いえ。素直な感想です。これじゃあ、スクワットも無理ですね。とりあえず、軽い散歩から始めた方がいい気がしてきました」
「嫌だ! 意地でも筋トレする!」
「無茶すると身体壊しますよ。まず、アロイスがやるべき事は、1、三食必ず野菜と肉を食べる。2、毎朝一刻の散歩、3、身体を解す運動、4、かるーーい筋トレですね。筋肉は一日にしてならずです。年単位の長い目で頑張りましょう」
「どれも難易度が高い……いや。僕はやる時はやる男だ。やってやろうじゃないか! 目指せ! ゴリゴリ暑苦しい筋肉だるま!!」
「俺は、明日は水回りの掃除をしますね。汚過ぎて生理的に無理なんで。この家に通うなら、せめて水回りだけでもキレイにしないと嫌です」
「好きにして。クリストファー君」
「はい?」
「よろしく頼むよ」
「あ、はい。まぁ、頑張りましょう」
「うん」
こうして、クリストファーは、『国宝級の美人』アロイスの筋トレ指導役となった。
ーーーーーー
季節は穏やかに過ぎ去り、夏から冬のはじめ頃になった。
クリストファーは、アロイスの家のトイレ掃除をしていた。クリストファーは、実家住まいである。クリストファーの実家から、このアロイスの家まで、走って一刻程なので、ちょうどいい軽い運動になる。クリストファーがアロイスの家に通い始めて、約半年。休日は、いつもアロイスの家の水回りの掃除をしている。
『クッソ汚い不衛生駄目人間』のアロイスは、現在、狭い庭で筋トレ前の柔軟体操をしている筈だ。残念過ぎていっそ感動するレベルで運動ができなかったアロイスも、半年も地道にコツコツ頑張れば、なんとか軽い筋トレはこなせるようになった。毎日、三食を肉野菜バランスよく食べるよう、しつこいくらいに言い含めているので、最初の頃はかなり食が細かったアロイスは、食べる量が普通の成人男性並みになった。筋肉ムキムキには程遠いが、ほんの少しだけ筋肉がついて、絞まった身体つきになっている。筋トレを指導して欲しいと頼まれた時は、貧相にガリガリに痩せていたので、じわじわ進歩しつつある。
クリストファーは、トイレ掃除を終えると、庭に出た。柔軟体操を終えたアロイスと一緒に、軽い筋トレを始める。クリストファーには軽過ぎるメニューだが、アロイスにはまだ少しキツめのメニューをやっていく。ひぃひぃ言いながら筋トレメニューをこなすアロイスを励ましながら、クリストファーは、昼食のメニューを考えた。
クリストファーが休日の日は、クリストファーが昼食と夕食を作っている。アロイスに料理も教えようと試みたが、アロイスは魔術に関する事以外はものすごく適当で、まともに食えるものが作れないので、割と早い段階で料理に関しては諦めた。アロイスに料理をさせても、無駄に台所が汚れるだけだったからというのもある。
クリストファーは、アロイスがなんとか今日の筋トレメニューを終えると、先に風呂場に行ってシャワーを浴びた。服を着てから台所に行き、疲れてよたよたしているアロイスに、卵と砂糖入りの甘い牛乳を作って飲ませる。甘い牛乳を飲み終えたアロイスを風呂場に向かわせると、昼食作りの開始である。
今日の昼食は、鶏胸肉のソテーと温野菜サラダ、鶏ささみ肉と野菜のスープ、それに買ってきたパンだ。
クリストファーは、実家で普段から料理をしている。父は街の役所で、母は街の図書館で働いているし、下にまだ未成年の弟と妹が合わせて3人いる。クリストファーは長男だ。クリストファーの生母は、クリストファーが1歳になる前に亡くなっており、今の母は、継母になる。父が再婚したのが10年くらい前なので、下の子達とは結構歳が離れている。父が再婚する前も再婚した後も、家事をするのが当たり前だったので、クリストファーは、家の事なら殆どできる。
クリストファーが手早く昼食を作り上げると、長い髪が濡れたままのアロイスが、ふらふらと台所にやって来た。食事は、基本的に台所に置いてあるテーブルでとっている。一度だけチラリと見た居間は、汚過ぎて心底ドン引きした。不衛生な場所で食事をしたくないので、台所は特に、キレイな状態をなんとか保つようにしている。
クリストファーが、テーブルの上に出来上がった料理を盛った皿を並べると、アロイスが、いそいそと椅子に座った。食前の祈りを捧げてから、早速食べ始める。
クリストファーにとっては、本当に軽い運動だったが、アロイスにとっては、少しキツめのメニューだったので、空腹になっていたのだろう。アロイスが、ガツガツとクリストファーが作った料理を食べ始めた。幸い、アロイスは好き嫌いは無いので、何を作っても美味しそうに食べてくれる。少しずつだが、目に見える進歩があるので、指導役のクリストファーもそれなりにやる気が出るというものだ。
食後の珈琲を飲みながら、アロイスがにっこり笑って口を開いた。
「ねぇ。君って酒は好きかい? 10年もののブランデーを貰ったのだけど、一緒に飲まない?」
「酒は好きです。そんな上等な酒、普段は飲めないんで、喜んで」
「うん。で、話変わるけど、そろそろ欲しいもの思いついた?」
「いやー。特には。必要なものはもう持ってますし」
「君って物欲無いなぁ。酒が好きなら、上等な酒でも買おうか?」
「家では基本的に酒を飲まないんでいいです。まだ弟達が小さいし、父は下戸なんで」
「ふぅん。じゃあ、此処で飲んだらいいじゃない」
「あぁ。それもそうですね。あ、でも、そんなに強くはないので、飲み過ぎると寝落ちるんですよね。やっぱり酒はわざわざ買わなくていいです」
「もぉー。本当に欲がないなぁ。君は聖人かい?」
「普通に俗人です」
「まぁ、考えておいてよ。ちゃんと報酬は渡したいからね」
「はぁ……どうも」
「今日は僕も休みの日にしてるから、午後は散歩に付き合ってよ」
「いいですよ。また森に行きますか」
「うん。街中を散歩なんかしたら、鬱陶しいことになるからね」
アロイスと散歩したり軽く走る時は、いつもアロイスの転移魔術で郊外の森に行っている。アロイスが街中を普通に歩いたり走ったりしたら、人だかりができてしまうからだ。ついでに、告白してくる猛者もいたりする。男女関係なく。アロイスの生活能力皆無駄目人間っぷりを知ったら、普通にモテなくなりそうだと思うのだが、アロイス曰く『どれだけ僕が生活能力無くても、僕を飼いたい奴なんて掃いて捨てる程いる』らしい。『国宝級の美人』と呼ばれているアロイスは、色々と苦労しているようである。アロイスからたまに愚痴を聞くと、人間、平凡が一番だな、と思う。
昼食の後片付けを終えると、クリストファーは庭に出て、アロイスと手を繋いだ。すぐにアロイスが転移魔術を発動させて、次の瞬間には、人気の無い森の中にいた。
クリストファーが手を離すと、アロイスが歩き始めた。クリストファーが、アロイスの隣を歩いていると、アロイスが話しかけてきた。
「君ってさ、未だに僕に恋しないよね」
「全くしてないですね」
「不思議だなぁ。君程、僕の美しさに興味が無いのも本当に珍しいよ」
「まぁ、人間、一皮剥けば肉と骨ですし。歳をとったら、どんだけ美しくても皺くちゃの爺になりますし。人間、大事なのは中身です」
「僕の見た目だけが好きな連中に聞かせてやりたいね。僕の中身は君の好みじゃないの?」
「生活能力皆無の駄目人間はちょっと……主に衛生観念が合わないので。貴方、何日も風呂に入らない時があるじゃないですか。ないわー」
「研究に熱中してると、どうしても他の事はどうでもよくなるんだよ」
「いやぁ。それでもないわー。価値観が合わない人のことを、恋愛的な意味では好きになれないですよ」
「ふぅん。そんなもんか」
「はい」
「僕は割と君のことが好きだよ。ご飯美味しいし、面倒みがいいよね」
「まぁ、普段から下の弟達の世話もやってるんで」
「仮に、僕が君のことを恋愛的な意味で好きになったとする。君はどうする?」
「普通にお断りしますけど」
「断るのか」
「断りますよ。俺は、平凡な女と平凡な結婚をして、平凡な家庭をつくりたい派なんで。仮に貴方と恋人にでもなったら、その日のうちに暗殺されそうな気がしますし」
「嫌だなぁ。そんな事させる訳ないじゃない。ガチガチに守護の魔術をかけまくるよ」
「守護の魔術は使えるのに、何で掃除の魔術は使えないんですか?」
「掃除は嫌いなんだよね。服は清浄魔術でいつもキレイにしてるんだから、なんの問題も無いね」
「普通に洗濯しましょうよ」
「嫌。面倒くさい」
「とことん駄目人間ですねー。ないわー」
「ははっ。まぁ、そんな君だから、僕は安心していられるんだけどね。尻の心配をしなくて済む」
「うんこ出す穴に突っ込みたい奴の神経を疑いますね」
「それが多いんだなぁ。面倒くさいことに。僕がうんこしないって思ってる奴が多いんじゃない?」
「人間である以上、普通にうんこしますけどね」
「だよね。でもさ、僕に心酔してる連中は、僕がうんこもおならもげっぷもしないと思ってるっぽいんだよね」
「ないわー」
「ねー」
話しながら、夕方近くまで、森の中を歩き続けた。アロイスの転移魔術で家に帰ると、クリストファーは夕食を作り始めた。料理の材料は、クリストファーが休みの度に大量に買ってきて、魔導冷蔵庫や魔導冷凍庫の中に入れている。食事の材料費や掃除道具等の代金は、都度、アロイスから貰っている。
上等なブランデーがあるので、今夜の夕食は、少し軽めのものにして、簡単な酒の肴を作った。酒は普通に好きだが、職場の飲み会くらいしか酒を飲む機会が無いので、ちょっとウキウキしてしまう。職場の飲み会で飲む酒は、安酒が殆どなので、10年もののブランデーなんて初めてだ。
クリストファーは、いつもより気合を入れて、料理を作り上げた。
少し軽めの夕食を食べたら、お楽しみの時間の始まりである。アロイスが出してきたブランデーは、クリストファーでも知ってるような、美味しいが値段が高いと有名な銘柄のものだった。普通のブランデーでも値段が高いのに、その10年ものだったら、結構な値段がする筈である。
クリストファーは、キレイに磨いたグラスにブランデーを注いで、アロイスと乾杯してから、ブランデーを少しだけ口に含んだ。芳醇な香りが鼻に抜け、心地よい酒精が喉を焼く。ビックリするくらい美味しい。こんなに美味しい酒を飲むのは初めてだ。
クリストファーが、ちびちびと味わいながらブランデーを飲んでいる前で、アロイスがグラスのブランデーを一息で飲み干し、ぷっはぁとおっさん臭い息を吐いた。こんなに美味しい酒なのに、なんて勿体無い飲み方をするのか。クリストファーは、アロイスを呆れた目で見た。アロイスは、容姿は確かにものすごく美しいが、本当に色々残念な人である。
ものすごく美味しいブランデーを2人で飲み干すと、アロイスが今度は別の酒を持ってきた。アロイスが好きで、よく飲んでいる蒸留酒らしい。飲んでみれば、確かに香りがよくて美味しいが、クリストファーには、少しキツめだった。クリストファーがちびちびとしか飲めない酒を、アロイスはかぱかぱと飲んでいく。酒を飲み始めて一刻もすれば、アロイスはすっかり酔っ払っていた。クリストファーも、頭と身体がふわふわしている。あー、酔ってるなぁと思う程度には、クリストファーも酔っていた。
酒精で、顔どころかほっそりした首筋まで赤く染まったアロイスが、また一息でキツい酒を飲み干してから、むふっと笑った。
「ねぇねぇ。クリストファー君」
「なんですー?」
「ちょっと脱いでみてよ。筋肉見たい。筋肉筋肉」
「別にいいですけどね」
クリストファーが、着ていたセーターとシャツを脱ぎ、上半身裸になると、アロイスが楽しそうに笑って拍手をした。
「すごーい! 暑苦しいね! 羨ましい! 胸筋ピクピクさせてー」
「はいはい」
クリストファーが、胸筋に交互に力を入れて、胸筋をピクピク動かすと、アロイスがとても楽しそうに声を上げて笑った。『マッチョ~! マッチョ~! 筋肉だーるまー! うぇーい!』と謎の歌を歌い始めたアロイスは、大変ご機嫌である。
「筋肉触りたーい」
「はいはい。どうぞ」
「うへへへへ。はぁー。羨ましい筋肉……僕も早くこうならないかなぁ」
「気長に筋トレを続けていれば、そのうちなりますよ」
「はぁー。先は長いー」
アロイスが椅子から立ち上がり、クリストファーのすぐ側に来て、ぺたぺたとクリストファーの盛り上がった胸筋やバキバキに割れている腹筋を撫でながら、うっとりと小さく溜め息を吐いた。人によっては、色っぽいと感じるかもしれないような雰囲気だが、クリストファーからしたら、単に酔っ払いに絡まれてるだけである。
季節は冬だが、アロイスが台所にも空調設備をつけたので、半裸でも寒くはない。むしろ、酒精で火照った身体に、ちょうどいいくらいだ。
クリストファーの筋肉を好き放題に撫で回していたアロイスが、こてんと首を傾げて、蠱惑的な笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ。クリストファー君」
「なんです?」
「気持ちいいことしない?」
「気持ちいいこと」
「うん。気持ちよくてー、楽しいことー」
「別にいいですけど」
「やったー」
アロイスが上機嫌に笑って、椅子に座ったままのクリストファーの真正面に膝をついた。
「アロイス? 何をする気ですか」
「気持ちいいこと。ふふっ。口なら性差は無いからね」
「はぁ……左様で」
アロイスがご機嫌に妙に上手い鼻歌を歌いながら、クリストファーのズボンのベルトを外し、ズボンの前ボタンまで外した。下着ごとズボンをずらされ、もじゃっとした陰毛の下にあるペニスと陰嚢を露出させられる。
「おや。ご立派」
「はぁ。どうも」
なんとなく、今からされる事を察したが、クリストファーは、アロイスの好きにさせることにした。酔いで頭がふわふわしていて、考えるのが億劫だし、気持ちよくしてもらえるのなら、まぁいいか、と思い、萎えたクリストファーのペニスを握って熱い舌を這わせ始めたアロイスを止めなかった。クリストファーは素人童貞だ。一度だけ、先輩に連れて行かれた娼館で、童貞を卒業した。セックスは確かに気持ちよかったが、そこそこの額の金が飛んでいったので、わざわざ自分から行くことは無かった。
寒くなってくると、下の弟達がクリストファーのベッドに潜り込んできて、一緒に寝ているので、ここ数日、抜いていない。溜まっているクリストファーのペニスは、アロイスにペロペロと舐められまくって、すぐに完全に勃起した。
慣れない快感に熱い溜め息を吐くクリストファーを目だけで見上げながら、アロイスが大きく口を開け、勃起して自然と皮が剥けて露出した敏感な亀頭を、ぱくんと咥えた。熱くぬるついたアロイスの口内の感触も、亀頭を舐め回している熱い舌の感触も、ペニスの根元あたりをゆるく扱いているアロイスのほっそりとした手の感触も、どれも気持ちがいい。
すぐに射精感が高まってきて、慣れない他人からもたらされる快感に、我慢なんかできない。尿道口を舌先でぐりぐりされて、クリストファーは、低く唸りながら、アロイスの口内に精液をぶち撒けた。射精しているペニスを、精液を吸い取るように、ちゅーちゅーと吸われる。思わず変な声が出ちゃったくらい気持ちがいい。
クリストファーが、はぁー、はぁー、と大きく荒い息を吐きながら、アロイスを見下ろしていると、アロイスが萎えたクリストファーのペニスから口を離し、クリストファーに見せつけるように、口を大きく開けた。アロイスの赤い舌の上に、クリストファーのジェル状に近い濃い精液が溜まっている。アロイスが楽しそうに目を細めて、口を閉じて、ごくんとクリストファーの精液を飲みこんだ。なんか卑猥である。
アロイスが舌なめずりをしながら、爛々と水色の瞳を輝かせて、中途半端に脱げているクリストファーのズボンと下着を完全に脱がせた。今度は陰嚢を舐められる。ぞわぞわする快感に、思考する気が無くなっていく。気持ちいいから別にいいかと、クリストファーは、アロイスのされるがままになった。
クリストファーは、テーブルに両手をついて、アロイスに向かって尻を突き出していた。クリストファーのアナルの中には、アロイスの指がずっぽり3本も入っており、前立腺とかいう、ちょっとキツい程気持ちがいいところを、指を抜き差ししながら弄られている。アロイスに、しつこいくらいにアナルを舐められた後、指を突っ込まれた。最初のうちは異物感が大きかったが、前立腺に触れられた途端、異物感とかどうでもよくなった。ペニスを擦って出すだけの自慰や、一度だけした娼婦とのセックスなんて目じゃないくらい、気持ちよくて堪らない。クリストファーは、酔いと強烈な快感で濁る頭で、これはもしかしたらハマっちゃうかも、と暢気に思った。それくらい、とにかく気持ちがいい。
ずるぅっとアロイスの指が、クリストファーのアナルから抜け出ていった。もっと前立腺を弄ってほしくて、上擦った声でアロイスの名前を呼ぶと、アロイスが魔術で生成したぬるぬるした水で濡れたひくつくアナルに、熱くて硬い、指よりもずっと太いものが触れた。メリメリと、クリストファーの狭いアナルを押し拡げるようにして、熱くて硬くて太いものが、アナルの中にゆっくりと入ってくる。鈍く痛むが、それ以上に気持ちがいい。ゆっくりとクリストファーの中を満たしていくものの正体が、アロイスのペニスだと気づいたのは、尻に柔らかい毛が当たった感触がした頃だった。顔だけで振り返れば、とろんとした気持ちよさそうな顔で、アロイスがクリストファーのアナルの中にペニスを深く突っ込んでいた。アロイスの太くて長いペニスが、みっちりと直腸内を満たしている。不思議な充足感とじわじわくる快感に、クリストファーは溜め息のような喘ぎ声をもらした。
腹の中のアロイスのペニスが動き始めた。ゆっくりと腸壁を擦りながら抜けていく感覚が、排泄感に近くて、なんとも気持ちがいい。先っぽギリギリまで抜けたアロイスのペニスが、また腹の奥深くまでゆっくり入ってくる。途中で前立腺をゴリッと擦られて、クリストファーは腰を震わせて小さく喘いだ。鈍く痛むところを硬いペニスが通り過ぎ、トンッと腹の奥深くを突き上げられた。瞬間、鋭い痛みと強烈過ぎる快感に襲われる。
「あぁ!?」
「はぁ……ふふっ。クリストファー君。上手に飲み込めてるね。あーー。ヤバいな。めちゃくちゃ気持ちいい」
「おっ、あっ、あぁっ、ふんぅ、おぅっ、あーーっ、くっそ、やべぇっ!」
「すっごい締まるー。激しくするよ」
「あぁ!? あっあっあっあっあっ!!」
ゆっくりと動いていたアロイスのペニスが、速く激しく動き、ゴリゴリ前立腺を擦りながら、ガンガン腹の奥深くを突き上げ始めた。強烈過ぎる痛みと快感で、頭の中が真っ白になり、目の裏がチカチカして、涙が勝手にぼたぼたと零れ落ちる。痛いのに、気持ちがよくて堪らない。こんな快感、知らなかった。
パンパンパンパンッと肌同士がぶつかり合う音と、クリストファーの裏返った喘ぎ声が、台所に響いている。身体の中を暴れ回る快感が今にも弾け飛びそうだが、あと一歩足りない。クリストファーは、自分の勃起して先走りが溢れ出ているペニスを片手で掴み、めちゃくちゃに扱き始めた。今すぐイクことしか考えられない。ペニスを扱くと、勝手にアナルが締まり、より腹の中のアロイスのペニスの存在を意識してしまう。
「あっ、あーーっ! い、いくっ! いくいくいくいくっ!!」
「ははっ! イッて! 僕もっ、限界っ! あーー、もう! すごいなっ! 最高に締まるっ!」
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「う、あぁっ……」
クリストファーは、腹の奥深くを小刻みにガンガンガンガン激しく突かれながら、めちゃくちゃに扱きまくったペニスから精液を飛ばした。身体の中で弾け飛んだ快感に、頭の中が真っ白になって、一瞬、気が遠くなる。腹の中で、アロイスのペニスがほんの僅かにピクピクと震えている。その感覚すら気持ちがいい。
クリストファーが、はぁー、はぁー、と大きく荒い息を吐いていると、ペチペチと尻を軽く叩かれた。顔だけで振り返れば、アロイスがにっこりと、背後に薔薇でもしょっているかのような眩しい笑みを浮かべた。
「まだ足りない。次は君が動いてよ」
「…………別にいいけど」
「あはっ! 気持ちよくて、楽しいでしょ?」
「まぁ」
「もっともっと高みにいこう。2人で」
「ん……は、っあ……」
アロイスが華やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりとクリストファーのアナルから射精した筈なのにまだ硬いペニスを引き抜いた。
アロイスが床に腰を下ろして、仰向けに寝転がった。アロイスに言われるがままに、アロイスの股間を跨ぎ、萎えていないアロイスの太くて長いペニスの竿を握って、自分の勝手にひくつくアナルに、ペニスの先っぽを押しつける。ゆっくりと腰を下ろしていけば、腸壁とアロイスのペニスがぴったりくっついて擦れながら、どんどんアロイスのペニスで腹の中が満たされていく。背筋がゾクゾクする快感が堪らない。
クリストファーは、膝を立てて、自分の膝に手を置くと、そのままスクワットをするかのように、身体全体で上下に動き始めた。自分から前立腺がより強くペニスで擦れるように腰をくねらせつつ、腹の奥深くの痛くて気持ちがいいところを、アロイスのペニスの先っぽにぶつけていく。脳みそが痺れるような強烈な快感が、なんだか楽しくて、クリストファーは、喘ぎながら口角を上げた。クリストファーが動く度に、ぶらんぶらんとクリストファーのまた勃起したペニスが揺れ、ペチペチと陰毛が薄いアロイスの白い下腹部に当たる。
アロイスが手を伸ばして、なんとなく気持ちがいい動き方が分かってきたクリストファーの胸筋を揉みしだき始めた。胸筋の下の方にある存在感が薄い小さめの乳首を、指先できゅっと摘まんでくりくりされると、じんわり気持ちがいい。クリストファーは大きく喘ぐと、自分の膝から手を離し、アロイスの身体の横に両手をついた。尻を上下に振るようにして、腰を激しく動かし、腹の奥深くを小刻みにガンガン強くアロイスのペニスで刺激する。気持ちよくて、気持ちよくて、本当に堪らない。くりくりと優しく弄られている乳首も気持ちがいい。クリストファーは、激しく腰を動かしながら、快感の頂点を目指した。
ーーーーーー
クリストファーが、はっと目覚めると、いつもの自分のベッドではなく、アロイスの家の台所の床に寝ていた。硬く冷たい石の床で寝ていたようである。しかも、全裸で。おまけに頭と腰とアナルが痛い。
クリストファーは、二日酔いで痛む頭を抱えた。残念ながら、記憶はしっかり残っている。酔っていたとはいえ、思いっきり流されてしまった。アロイスが無駄にテクニシャンなのがいけない。アロイスとのセックスは、本当に気持ちがよくて、クリストファーは力尽きて寝落ちるまで、何度も体位を変えて、アロイスとセックスをしまくった。
クリストファーが、ため息を吐きながら周囲を見回せば、台所にアロイスの姿は無かった。のろのろと起き上がり、胡座をかいて座ると、腰とアナルがじくじくと痛む。
クリストファーが一人反省会をしながら、腰を擦っていると、ぺたぺたと足音がして、上半身裸のアロイスが台所に入ってきた。髪が濡れているので、シャワーでも浴びていたのだろう。
アロイスが、ふわっと笑って、全裸で胡座をかいて座っているクリストファーのすぐ側に来て、すとんとしゃがんだ。
「クリストファー君。君さ、僕の恋人にならない? セックスしちゃったし」
「え、恋人は無理」
「なんでだよ」
「主に、衛生観念の価値観が違い過ぎて合わないと思います」
「そこはあれだよ。君が僕を育てるって言い方はおかしいけど、僕が君の価値観に近づくように指導してよ。一応、頑張るよ?」
「貴方、俺が好きなんですか」
「割と好きって言ったじゃない」
「えーー。恋人、恋人かぁ……うーん……うん。ないわー」
「何でだよー」
「価値観の違いもですけど、釣り合ってないでしょ。俺達。世間的に見て」
「そこは気にするところじゃないね。赤の他人なんか知ったことじゃない。心底どうでもいい」
「うちの国は、男同士じゃ結婚はできないし、仮に恋人になっても先は無いですよ。不毛です」
「それは、恋人として、一生僕の側にいてくれたらいいよ。結婚なんて形式に囚われる気はないもの。でも、お墓は一緒がいいな」
「めちゃくちゃ重いこと言いだしやがった」
「ねーねー。僕さぁ、筋トレ以外も頑張るから、僕のこと好きになってよ」
「えぇ……」
「セックス、気持ちよかったでしょ?」
「まぁ、ぶっちゃけ」
「ね! 今から根気よく口説くから」
「いや、結構です」
「あはっ。僕は粘着質で諦めが悪いからね。早めに諦めて恋人になった方がいいよ?」
「えぇーー。……家の中を完璧に掃除できるようになって、毎日ちゃんと風呂に入るんなら、若干前向きに考えなくもないですけど」
「よっしゃ! 言質はとったからね! 見てろよ。ゴリゴリマッチョを目指しつつ、掃除の達人も目指してやるから!」
「はいはい。まぁ、頑張ってください。はぁー。とりあえずシャワーを浴びたら、ここの掃除だなぁ」
「僕も一緒にやるよ」
「あ、はい」
クリストファーは、ニコニコ笑っているアロイスを眺めて、小さく溜め息を吐いた。流された自分が悪いのだが、ちょっと面倒なことになった。アロイスに好かれるのは不快ではないが、恋人になる気は、今のところ、まるで無い。そのうち、努力家のアロイスに絆される日がくるかもしれないが、その時はその時である。
クリストファーは、どっこらしょっと立ち上がると、痛む腰を擦りながら、風呂場へと向かった。熱いシャワーを浴びて、全裸のまま、台所へ移動した。床に落ちていた服を着て、早速、掃除を始める。アロイスが、どこか楽しそうに、掃除を手伝い始めた。掃除嫌いな癖に、本当に掃除をするらしい。
クリストファーが、アロイスに絆されるまで、あと1年。
(おしまい)
クリストファーは、茶髪茶目の見た目も中身も平凡な一般庶民出の衛兵だ。身体を鍛えるのが趣味なので、筋肉には少し自信があるが、騎士や他の衛兵には、もっとすごいマッスルな腕自慢がいっぱいいるので、クリストファーは、その他大勢に埋没する、どこまでも平凡な男である。
クリストファーが、交代で来た先輩に引き継ぎをし終えたタイミングで、背後から背中をぽんぽんと叩かれた。目の前にいる先輩の顔が、何故かぶわっと赤く染まった。
クリストファーが振り返れば、背後には、絶世の美女と言っても過言ではない顔立ちの、ほっそりとした身体つきをしたとんでもなく美しい人が立っていた。『国宝級の美人』と巷で噂の魔術師アロイス・エーヴェルトである。サラサラの長い銀髪を高い位置で一つに結い上げ、白磁の肌は、健康的に頬が薔薇色にうっすら染まっている。長い睫毛に縁取られた水色の瞳を見つめるだけで恋に落ちるとかなんとか噂されている。美しいパーツが完璧なバランスで配置された、本当にとんでもなく美しい容姿をしている。近くで見ても、毛穴とか無さそうな感じの超絶美人である。
クリストファーよりも少し背が低いアロイスが、にっこりと笑って口を開いた。背後に、ぶわっと薔薇の花でも現れそうなくらい、華やかな笑顔である。クリストファーの近くにいる先輩が、謎の奇声を小さく発した。
「ねぇ。君、名前は?」
「クリストファー・ニフティです」
「そう。知ってるかもしれないけど、僕はアロイス・エーヴェルト。君の仕事はもう終わりでしょ? 少し時間をもらえないかな」
「はぁ……大丈夫ですけど」
「よかった。じゃあ、ちょっと静かな所に行こうか」
「あ、はい。帰る準備をしてくるので、少し待っててもらってもいいですか?」
「勿論。構わないよ。此処で待ってるから」
「あ、はい」
クリストファーは、不思議に思いながら、とりあえず帰り支度をしに、警備用の詰所に向かった。
アロイスとは、今まで特に接点は無かった。城に来るアロイスを見たことは数え切れないくらいあるが、特に話したことは無い。先輩達は、よくアロイスのことを噂しているが、クリストファーは、ぶっちゃけアロイスに興味が無かった。確かに綺麗な人だなぁとは思うが、唯、それだけである。
クリストファーが私服に着替え、鞄を持って、城門の所に行くと、アロイスを遠巻きにするように、人だかりができていた。皆、そわそわして、小さな声でキャーキャー黄色い声を上げたり、口々に『美しい』とひそひそ話をしている。
クリストファーは、小走りで、アロイスの元へ向かった。アロイスは、どこか張り付けたような笑みを浮かべていた。
「すいません。お待たせしました」
「そんなに待ってないよ。ちょっと転移魔術を使うから、手を握ってくれる?」
「あ、はい」
「行き先は、僕の家なんだけど、別にとって食いやしないから安心して」
「はぁ……」
クリストファーは、首を傾げながら、差し出された美しいアロイスの白い手を軽く握った。アロイスが早口で何かを唱えた次の瞬間、クリストファーは、小さな一軒家の狭い庭先に立っていた。
クリストファーの手を離したアロイスが、張り付けていた笑みを消して、不機嫌そうな顔で大きな溜め息を吐いた。
「はぁー。だっる。煩いのに絡まれなかっただけ、今日はマシだけど。僕、城に行くの嫌いなんだよね」
「はぁ……左様で。えーと、俺になんのご用ですか?」
「まぁ、詳しい話は中でするよ。君、紅茶と珈琲、どっちが好き?」
「珈琲派です。紅茶は飲めないです」
「そ。じゃあ、珈琲を淹れるよ。ていうか、君が淹れてくれない? 僕が淹れたら泥水みたいになるから」
「あ、はい」
クリストファーは、流されるがままに、アロイスの自宅らしき小さな家に入った。家の中は、一言で言うとカオスであった。もしくは、ゴミ屋敷。玄関のドアから入った廊下には、脱ぎ散らかした靴下とか、明らかにゴミと思われるものや、適当に積んである本でゴチャゴチャしていた。アロイスの後ろを歩いて台所に入れば、台所もドン引きする程汚かった。
汚れまくった台所を見てドン引きしているクリストファーに気づいたのか、アロイスが、怠そうな顔で口を開いた。
「掃除嫌いなんだよね。僕」
「……珈琲淹れる前に、ちょっと掃除してもいいですか?」
「いいよ。好きにして。なんなら、掃除しながら、僕の話を聞いてよ」
「あ、はい」
クリストファーは、とりあえず腕捲りをしてから、アロイスに持ってきてもらったゴミ袋に、明らかにゴミだと思われるものを放り込む作業を始めた。食べ残しと思われるガチガチに硬くなって黴びているパンの欠片や異臭を放つ食べかすがついた持ち帰り用の惣菜の容器、その他諸々、鼠の死骸まで普通に出てきた。汚いにも程がある。クリストファーは、別に潔癖という訳ではないが、ここまで汚いと生理的に無理だ。クリストファーが、黙々とゴミ袋にゴミを突っ込んでいると、アロイスが話し始めた。
「僕はさ、『国宝級の美人』とか呼ばれてるじゃない」
「そうですね」
「僕はそれが非常に不快でね。僕の顔見たさに、特に理由も無く城に呼ばれたりするし。街に出ても、城に行っても、赤の他人からジロジロ見られて、ひそひそ話をされて。それどころか、貴族の女達からは、恋文だの何だの押しつけられるし。ていうか、女だけじゃなくて、男からも口説かれるし」
「はぁ……大変ですね?」
「僕は、静かーに自分の研究だけをしていたい訳。城に行って見世物になって無駄な時間を過ごしたり、男女問わず口説かれたくない訳」
「はぁ……」
「そこで僕は考えたのだよ。顎割れマッチョになったら、誰も僕に見向きもしなくなるんじゃないかと」
「顎割れマッチョ」
「ということで。クリストファー君。君みたいな顎割れマッチョになる方法を教えてくれないかな」
「えー……身体を鍛えたら、マッチョになれるかもしれませんけど、顎は割れないと思います」
「な……んだと……鍛えたら顎も割れるんじゃないのか!?」
「割れませんよ。単純に体質みたいなもんなんで」
「君はマッチョだから顎も割れてるんじゃないのか」
「親父も爺ちゃんも顎が割れてたんで、完全に遺伝ですね」
「くっ……いや、マッチョだ。ゴリゴリのバキバキの暑苦しいマッチョになれば、きっとモテなくなる筈っ……変なのに付き纏われたり、面倒くさいのに好かれないようになる筈だ! ということで、僕を筋肉ゴリゴリ暑苦しいマッチョにしてくれたまえ」
「え、えぇ……そのー、何で俺なんですか? 他にもマッチョな男はいっぱいいますけど」
「君、僕に全く興味が無いだろ」
「はぁ……まぁ、ぶっちゃけ」
「だからだよ。僕は無駄に美しいからね。僕に惚れるような奴は端的に嫌だ。騎士や衛兵はマッチョ揃いだけど、君程、僕に興味が無い人は珍しいんだよ。不本意ながら、人の視線に含まれるものには敏感でね。君の僕を見る視線は、そこら辺の草を見るのと変わらない。逆に何で、そこまで僕に興味が無いのか不思議なくらいなんだけど」
「いやぁ。唯単に、人の顔に興味が無いだけですね。一応、美しいとは思いますけど、だからって別に興味は引かれませんし。まぁ、今はゴミ屋敷の住人という認識になってますけど。生活能力無さ過ぎじゃないですか? ドン引きです」
「埃じゃ人は死なない」
「鼠の死骸が転がってるような不衛生極まりない所で食事なんかしたら病気になりますよ」
「まぁ、その時はその時かな。それよりも、僕としては、少しでも早くモテないようになりたい。僕に興味が無い君だからこそ、お願いできるんだ。勿論、無償とは言わない。これでも、魔術理論の研究者としてはそれなりでね。著書とか新規開発した魔術理論の利権とかで、金は持っている。君が望むものを対価にしようと思うんだが、何か欲しいものはないかい?」
「え、急に言われても……欲しいもの……このクソ頑固な汚れが落ちる超教力な洗剤とか? んーー。もう本当に汚れが落ちないんですけど」
「いや、そういうんじゃなくて」
「うわぁ……戸棚の中、虫の死骸がわんさか……ドン引き……もういっそ、この家ごと焼き払いたいレベルで汚いですね。ドン引き」
「そこまで酷くなくない?」
「酷過ぎます。この家にいるだけで病気になりそう」
「えー。僕はすこぶる健康体だけど?」
「えーと、話を戻しますけど。アロイス様がマッチョになれるよう、筋トレの指導とかしたらいい感じですか?」
「そう! それを頼みたいんだよ!」
「別にいいですけど、筋トレは、何処でやります?」
「基本的にはこの家かな。この家には、認識阻害の魔術と不可視の魔術をかけてある。許された者以外には、入るどころか、見ることもできない。ストーカー対策の一つでね」
「はぁ……美人は大変ですね」
「美し過ぎる自分が憎い……んんっ。で。ちょっと悪いんだけど、君には、定期的にこの家に通って、筋トレの指導をしてもらいたいんだ」
「はぁ……まぁ、別にいいですけど。筋トレは日課ですし」
「ありがとう! 本当に助かるよ! 暑苦しいマッチョになるのにどれくらい時間がかかる? 一週間くらい?」
「筋肉はそんなに早く育ちません。俺の身体は14の頃から鍛え続けた結果です」
「君、今何歳?」
「24です」
「10年もかかるの!?」
「流石に10年はかかりませんけど、まぁ1年はかかると思ってください。アロイス様、筋肉どころか脂肪も無さそうですし」
「あ、『様』はいらないよ。僕の方が一つ年下だから、呼び捨てで構わない」
「あ、はい。因みに、食事はいつも買ってきてるんですか?」
「うん。料理なんてできないし。ていうか、研究がノッてる時は数日食べないのが普通」
「だから、そんなに痩せてるんですね。筋肉づくりには、適切な食事が必要不可欠です。ちゃんと三食、野菜も肉もしっかり食べてください」
「えぇ……いきなり難易度が高いな……」
「いや、ものすごく当たり前の事なんですけど」
「……むさ苦しいマッチョになる為に頑張るしかないか……」
「むさ苦しくなりたいなら、髭を伸ばしてみては?」
「僕、体毛が薄くて、髭もほぼ生えない。生えても産毛がちょっと太くなったくらいの毛がポツポツ生えるだけ。髭剃りなんて殆どした事ないね」
「へぇー。楽でいいですね」
「僕は君の青々とした髭剃りの痕が心底羨ましいよ」
「毎朝の髭剃りって地味に面倒ですよ? まぁ、体質ですし、髭は諦めましょう」
「うん。流石に体質はどうしようもない」
「えーと。じゃあ、運動できる服に着替えてきてください。台所を掃除し終えたら、今、どれだけの運動能力があるか、見てみたいんで。いきなり俺と同じメニューをしたら、間違いなく身体を壊しそうですし」
「分かった。着替えてくるよ」
「……どうでもいいけど、本当にこの汚れがっ、落ちないっ! 魔術でなんとかなりませんか?」
「えー? 掃除用の魔術なんて知らないなぁ。僕」
「くっ……水回りと魔導コンロ周りをキレイにしないと、お湯も沸かしたくないレベルで汚い。ていうか、ここにある食器も使いたくないレベルで汚いっ!」
「ははっ。まぁ、使っても死にはしないよ。現に僕は生きている」
「他の部屋は見たくない勢いの汚さ……本当にドン引き……明日は休みなんで、売ってる中で一番強力な洗剤買ってきます。筋トレ用の飲み物を用意するのも嫌な状態なんで」
「あはー。ごめん?」
クリストファーは、アロイスが台所から出ていくと、可能な限り、水回りを掃除した。本当に食器も使いたくないレベルで全体的にガチで汚い。明日は折角の休みだが、まる一日台所の掃除で終わりそうな気がしてくる。置いてある食器類を全部洗って、備え付けっぽい戸棚とかも全部キレイにしてから消毒しないと、本気で飲み食いしたくないレベルの汚さである。クリストファーの中で、アロイスへの認識が、『美人だけど特に興味無い人』から『クッソ汚い不衛生駄目人間』に変わった。台所がこの有り様なら、風呂場とかトイレも絶対に汚い。筋トレを指導するにあたり、風呂場やトイレは借りることがあるかもしれないので、水回りだけは掃除をしとかないといけない。クリストファーは、ゴシゴシと頑固な汚れがへばりついているシンクを薄汚れたスポンジで擦りながら、ちょっと面倒な事になったかも……と、小さく溜め息を吐いた。
今日できる掃除が終わった後。クリストファーは、潰れた蛙みたいに地面に懐いているアロイスを眺めて、パチパチと意味もなく拍手をした。アロイスは、ぜー、ぜー、と荒い息を吐いている。
「一周回って逆にすごいです。腕立て伏せ10回でダウンする人、初めて見ました。まさか腹筋もできないとはビックリです。成人男性の平均的な運動能力とは程遠いんじゃないですか?」
「ぜぇ、ぜぇ、ひ、皮肉か」
「いえ。素直な感想です。これじゃあ、スクワットも無理ですね。とりあえず、軽い散歩から始めた方がいい気がしてきました」
「嫌だ! 意地でも筋トレする!」
「無茶すると身体壊しますよ。まず、アロイスがやるべき事は、1、三食必ず野菜と肉を食べる。2、毎朝一刻の散歩、3、身体を解す運動、4、かるーーい筋トレですね。筋肉は一日にしてならずです。年単位の長い目で頑張りましょう」
「どれも難易度が高い……いや。僕はやる時はやる男だ。やってやろうじゃないか! 目指せ! ゴリゴリ暑苦しい筋肉だるま!!」
「俺は、明日は水回りの掃除をしますね。汚過ぎて生理的に無理なんで。この家に通うなら、せめて水回りだけでもキレイにしないと嫌です」
「好きにして。クリストファー君」
「はい?」
「よろしく頼むよ」
「あ、はい。まぁ、頑張りましょう」
「うん」
こうして、クリストファーは、『国宝級の美人』アロイスの筋トレ指導役となった。
ーーーーーー
季節は穏やかに過ぎ去り、夏から冬のはじめ頃になった。
クリストファーは、アロイスの家のトイレ掃除をしていた。クリストファーは、実家住まいである。クリストファーの実家から、このアロイスの家まで、走って一刻程なので、ちょうどいい軽い運動になる。クリストファーがアロイスの家に通い始めて、約半年。休日は、いつもアロイスの家の水回りの掃除をしている。
『クッソ汚い不衛生駄目人間』のアロイスは、現在、狭い庭で筋トレ前の柔軟体操をしている筈だ。残念過ぎていっそ感動するレベルで運動ができなかったアロイスも、半年も地道にコツコツ頑張れば、なんとか軽い筋トレはこなせるようになった。毎日、三食を肉野菜バランスよく食べるよう、しつこいくらいに言い含めているので、最初の頃はかなり食が細かったアロイスは、食べる量が普通の成人男性並みになった。筋肉ムキムキには程遠いが、ほんの少しだけ筋肉がついて、絞まった身体つきになっている。筋トレを指導して欲しいと頼まれた時は、貧相にガリガリに痩せていたので、じわじわ進歩しつつある。
クリストファーは、トイレ掃除を終えると、庭に出た。柔軟体操を終えたアロイスと一緒に、軽い筋トレを始める。クリストファーには軽過ぎるメニューだが、アロイスにはまだ少しキツめのメニューをやっていく。ひぃひぃ言いながら筋トレメニューをこなすアロイスを励ましながら、クリストファーは、昼食のメニューを考えた。
クリストファーが休日の日は、クリストファーが昼食と夕食を作っている。アロイスに料理も教えようと試みたが、アロイスは魔術に関する事以外はものすごく適当で、まともに食えるものが作れないので、割と早い段階で料理に関しては諦めた。アロイスに料理をさせても、無駄に台所が汚れるだけだったからというのもある。
クリストファーは、アロイスがなんとか今日の筋トレメニューを終えると、先に風呂場に行ってシャワーを浴びた。服を着てから台所に行き、疲れてよたよたしているアロイスに、卵と砂糖入りの甘い牛乳を作って飲ませる。甘い牛乳を飲み終えたアロイスを風呂場に向かわせると、昼食作りの開始である。
今日の昼食は、鶏胸肉のソテーと温野菜サラダ、鶏ささみ肉と野菜のスープ、それに買ってきたパンだ。
クリストファーは、実家で普段から料理をしている。父は街の役所で、母は街の図書館で働いているし、下にまだ未成年の弟と妹が合わせて3人いる。クリストファーは長男だ。クリストファーの生母は、クリストファーが1歳になる前に亡くなっており、今の母は、継母になる。父が再婚したのが10年くらい前なので、下の子達とは結構歳が離れている。父が再婚する前も再婚した後も、家事をするのが当たり前だったので、クリストファーは、家の事なら殆どできる。
クリストファーが手早く昼食を作り上げると、長い髪が濡れたままのアロイスが、ふらふらと台所にやって来た。食事は、基本的に台所に置いてあるテーブルでとっている。一度だけチラリと見た居間は、汚過ぎて心底ドン引きした。不衛生な場所で食事をしたくないので、台所は特に、キレイな状態をなんとか保つようにしている。
クリストファーが、テーブルの上に出来上がった料理を盛った皿を並べると、アロイスが、いそいそと椅子に座った。食前の祈りを捧げてから、早速食べ始める。
クリストファーにとっては、本当に軽い運動だったが、アロイスにとっては、少しキツめのメニューだったので、空腹になっていたのだろう。アロイスが、ガツガツとクリストファーが作った料理を食べ始めた。幸い、アロイスは好き嫌いは無いので、何を作っても美味しそうに食べてくれる。少しずつだが、目に見える進歩があるので、指導役のクリストファーもそれなりにやる気が出るというものだ。
食後の珈琲を飲みながら、アロイスがにっこり笑って口を開いた。
「ねぇ。君って酒は好きかい? 10年もののブランデーを貰ったのだけど、一緒に飲まない?」
「酒は好きです。そんな上等な酒、普段は飲めないんで、喜んで」
「うん。で、話変わるけど、そろそろ欲しいもの思いついた?」
「いやー。特には。必要なものはもう持ってますし」
「君って物欲無いなぁ。酒が好きなら、上等な酒でも買おうか?」
「家では基本的に酒を飲まないんでいいです。まだ弟達が小さいし、父は下戸なんで」
「ふぅん。じゃあ、此処で飲んだらいいじゃない」
「あぁ。それもそうですね。あ、でも、そんなに強くはないので、飲み過ぎると寝落ちるんですよね。やっぱり酒はわざわざ買わなくていいです」
「もぉー。本当に欲がないなぁ。君は聖人かい?」
「普通に俗人です」
「まぁ、考えておいてよ。ちゃんと報酬は渡したいからね」
「はぁ……どうも」
「今日は僕も休みの日にしてるから、午後は散歩に付き合ってよ」
「いいですよ。また森に行きますか」
「うん。街中を散歩なんかしたら、鬱陶しいことになるからね」
アロイスと散歩したり軽く走る時は、いつもアロイスの転移魔術で郊外の森に行っている。アロイスが街中を普通に歩いたり走ったりしたら、人だかりができてしまうからだ。ついでに、告白してくる猛者もいたりする。男女関係なく。アロイスの生活能力皆無駄目人間っぷりを知ったら、普通にモテなくなりそうだと思うのだが、アロイス曰く『どれだけ僕が生活能力無くても、僕を飼いたい奴なんて掃いて捨てる程いる』らしい。『国宝級の美人』と呼ばれているアロイスは、色々と苦労しているようである。アロイスからたまに愚痴を聞くと、人間、平凡が一番だな、と思う。
昼食の後片付けを終えると、クリストファーは庭に出て、アロイスと手を繋いだ。すぐにアロイスが転移魔術を発動させて、次の瞬間には、人気の無い森の中にいた。
クリストファーが手を離すと、アロイスが歩き始めた。クリストファーが、アロイスの隣を歩いていると、アロイスが話しかけてきた。
「君ってさ、未だに僕に恋しないよね」
「全くしてないですね」
「不思議だなぁ。君程、僕の美しさに興味が無いのも本当に珍しいよ」
「まぁ、人間、一皮剥けば肉と骨ですし。歳をとったら、どんだけ美しくても皺くちゃの爺になりますし。人間、大事なのは中身です」
「僕の見た目だけが好きな連中に聞かせてやりたいね。僕の中身は君の好みじゃないの?」
「生活能力皆無の駄目人間はちょっと……主に衛生観念が合わないので。貴方、何日も風呂に入らない時があるじゃないですか。ないわー」
「研究に熱中してると、どうしても他の事はどうでもよくなるんだよ」
「いやぁ。それでもないわー。価値観が合わない人のことを、恋愛的な意味では好きになれないですよ」
「ふぅん。そんなもんか」
「はい」
「僕は割と君のことが好きだよ。ご飯美味しいし、面倒みがいいよね」
「まぁ、普段から下の弟達の世話もやってるんで」
「仮に、僕が君のことを恋愛的な意味で好きになったとする。君はどうする?」
「普通にお断りしますけど」
「断るのか」
「断りますよ。俺は、平凡な女と平凡な結婚をして、平凡な家庭をつくりたい派なんで。仮に貴方と恋人にでもなったら、その日のうちに暗殺されそうな気がしますし」
「嫌だなぁ。そんな事させる訳ないじゃない。ガチガチに守護の魔術をかけまくるよ」
「守護の魔術は使えるのに、何で掃除の魔術は使えないんですか?」
「掃除は嫌いなんだよね。服は清浄魔術でいつもキレイにしてるんだから、なんの問題も無いね」
「普通に洗濯しましょうよ」
「嫌。面倒くさい」
「とことん駄目人間ですねー。ないわー」
「ははっ。まぁ、そんな君だから、僕は安心していられるんだけどね。尻の心配をしなくて済む」
「うんこ出す穴に突っ込みたい奴の神経を疑いますね」
「それが多いんだなぁ。面倒くさいことに。僕がうんこしないって思ってる奴が多いんじゃない?」
「人間である以上、普通にうんこしますけどね」
「だよね。でもさ、僕に心酔してる連中は、僕がうんこもおならもげっぷもしないと思ってるっぽいんだよね」
「ないわー」
「ねー」
話しながら、夕方近くまで、森の中を歩き続けた。アロイスの転移魔術で家に帰ると、クリストファーは夕食を作り始めた。料理の材料は、クリストファーが休みの度に大量に買ってきて、魔導冷蔵庫や魔導冷凍庫の中に入れている。食事の材料費や掃除道具等の代金は、都度、アロイスから貰っている。
上等なブランデーがあるので、今夜の夕食は、少し軽めのものにして、簡単な酒の肴を作った。酒は普通に好きだが、職場の飲み会くらいしか酒を飲む機会が無いので、ちょっとウキウキしてしまう。職場の飲み会で飲む酒は、安酒が殆どなので、10年もののブランデーなんて初めてだ。
クリストファーは、いつもより気合を入れて、料理を作り上げた。
少し軽めの夕食を食べたら、お楽しみの時間の始まりである。アロイスが出してきたブランデーは、クリストファーでも知ってるような、美味しいが値段が高いと有名な銘柄のものだった。普通のブランデーでも値段が高いのに、その10年ものだったら、結構な値段がする筈である。
クリストファーは、キレイに磨いたグラスにブランデーを注いで、アロイスと乾杯してから、ブランデーを少しだけ口に含んだ。芳醇な香りが鼻に抜け、心地よい酒精が喉を焼く。ビックリするくらい美味しい。こんなに美味しい酒を飲むのは初めてだ。
クリストファーが、ちびちびと味わいながらブランデーを飲んでいる前で、アロイスがグラスのブランデーを一息で飲み干し、ぷっはぁとおっさん臭い息を吐いた。こんなに美味しい酒なのに、なんて勿体無い飲み方をするのか。クリストファーは、アロイスを呆れた目で見た。アロイスは、容姿は確かにものすごく美しいが、本当に色々残念な人である。
ものすごく美味しいブランデーを2人で飲み干すと、アロイスが今度は別の酒を持ってきた。アロイスが好きで、よく飲んでいる蒸留酒らしい。飲んでみれば、確かに香りがよくて美味しいが、クリストファーには、少しキツめだった。クリストファーがちびちびとしか飲めない酒を、アロイスはかぱかぱと飲んでいく。酒を飲み始めて一刻もすれば、アロイスはすっかり酔っ払っていた。クリストファーも、頭と身体がふわふわしている。あー、酔ってるなぁと思う程度には、クリストファーも酔っていた。
酒精で、顔どころかほっそりした首筋まで赤く染まったアロイスが、また一息でキツい酒を飲み干してから、むふっと笑った。
「ねぇねぇ。クリストファー君」
「なんですー?」
「ちょっと脱いでみてよ。筋肉見たい。筋肉筋肉」
「別にいいですけどね」
クリストファーが、着ていたセーターとシャツを脱ぎ、上半身裸になると、アロイスが楽しそうに笑って拍手をした。
「すごーい! 暑苦しいね! 羨ましい! 胸筋ピクピクさせてー」
「はいはい」
クリストファーが、胸筋に交互に力を入れて、胸筋をピクピク動かすと、アロイスがとても楽しそうに声を上げて笑った。『マッチョ~! マッチョ~! 筋肉だーるまー! うぇーい!』と謎の歌を歌い始めたアロイスは、大変ご機嫌である。
「筋肉触りたーい」
「はいはい。どうぞ」
「うへへへへ。はぁー。羨ましい筋肉……僕も早くこうならないかなぁ」
「気長に筋トレを続けていれば、そのうちなりますよ」
「はぁー。先は長いー」
アロイスが椅子から立ち上がり、クリストファーのすぐ側に来て、ぺたぺたとクリストファーの盛り上がった胸筋やバキバキに割れている腹筋を撫でながら、うっとりと小さく溜め息を吐いた。人によっては、色っぽいと感じるかもしれないような雰囲気だが、クリストファーからしたら、単に酔っ払いに絡まれてるだけである。
季節は冬だが、アロイスが台所にも空調設備をつけたので、半裸でも寒くはない。むしろ、酒精で火照った身体に、ちょうどいいくらいだ。
クリストファーの筋肉を好き放題に撫で回していたアロイスが、こてんと首を傾げて、蠱惑的な笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ。クリストファー君」
「なんです?」
「気持ちいいことしない?」
「気持ちいいこと」
「うん。気持ちよくてー、楽しいことー」
「別にいいですけど」
「やったー」
アロイスが上機嫌に笑って、椅子に座ったままのクリストファーの真正面に膝をついた。
「アロイス? 何をする気ですか」
「気持ちいいこと。ふふっ。口なら性差は無いからね」
「はぁ……左様で」
アロイスがご機嫌に妙に上手い鼻歌を歌いながら、クリストファーのズボンのベルトを外し、ズボンの前ボタンまで外した。下着ごとズボンをずらされ、もじゃっとした陰毛の下にあるペニスと陰嚢を露出させられる。
「おや。ご立派」
「はぁ。どうも」
なんとなく、今からされる事を察したが、クリストファーは、アロイスの好きにさせることにした。酔いで頭がふわふわしていて、考えるのが億劫だし、気持ちよくしてもらえるのなら、まぁいいか、と思い、萎えたクリストファーのペニスを握って熱い舌を這わせ始めたアロイスを止めなかった。クリストファーは素人童貞だ。一度だけ、先輩に連れて行かれた娼館で、童貞を卒業した。セックスは確かに気持ちよかったが、そこそこの額の金が飛んでいったので、わざわざ自分から行くことは無かった。
寒くなってくると、下の弟達がクリストファーのベッドに潜り込んできて、一緒に寝ているので、ここ数日、抜いていない。溜まっているクリストファーのペニスは、アロイスにペロペロと舐められまくって、すぐに完全に勃起した。
慣れない快感に熱い溜め息を吐くクリストファーを目だけで見上げながら、アロイスが大きく口を開け、勃起して自然と皮が剥けて露出した敏感な亀頭を、ぱくんと咥えた。熱くぬるついたアロイスの口内の感触も、亀頭を舐め回している熱い舌の感触も、ペニスの根元あたりをゆるく扱いているアロイスのほっそりとした手の感触も、どれも気持ちがいい。
すぐに射精感が高まってきて、慣れない他人からもたらされる快感に、我慢なんかできない。尿道口を舌先でぐりぐりされて、クリストファーは、低く唸りながら、アロイスの口内に精液をぶち撒けた。射精しているペニスを、精液を吸い取るように、ちゅーちゅーと吸われる。思わず変な声が出ちゃったくらい気持ちがいい。
クリストファーが、はぁー、はぁー、と大きく荒い息を吐きながら、アロイスを見下ろしていると、アロイスが萎えたクリストファーのペニスから口を離し、クリストファーに見せつけるように、口を大きく開けた。アロイスの赤い舌の上に、クリストファーのジェル状に近い濃い精液が溜まっている。アロイスが楽しそうに目を細めて、口を閉じて、ごくんとクリストファーの精液を飲みこんだ。なんか卑猥である。
アロイスが舌なめずりをしながら、爛々と水色の瞳を輝かせて、中途半端に脱げているクリストファーのズボンと下着を完全に脱がせた。今度は陰嚢を舐められる。ぞわぞわする快感に、思考する気が無くなっていく。気持ちいいから別にいいかと、クリストファーは、アロイスのされるがままになった。
クリストファーは、テーブルに両手をついて、アロイスに向かって尻を突き出していた。クリストファーのアナルの中には、アロイスの指がずっぽり3本も入っており、前立腺とかいう、ちょっとキツい程気持ちがいいところを、指を抜き差ししながら弄られている。アロイスに、しつこいくらいにアナルを舐められた後、指を突っ込まれた。最初のうちは異物感が大きかったが、前立腺に触れられた途端、異物感とかどうでもよくなった。ペニスを擦って出すだけの自慰や、一度だけした娼婦とのセックスなんて目じゃないくらい、気持ちよくて堪らない。クリストファーは、酔いと強烈な快感で濁る頭で、これはもしかしたらハマっちゃうかも、と暢気に思った。それくらい、とにかく気持ちがいい。
ずるぅっとアロイスの指が、クリストファーのアナルから抜け出ていった。もっと前立腺を弄ってほしくて、上擦った声でアロイスの名前を呼ぶと、アロイスが魔術で生成したぬるぬるした水で濡れたひくつくアナルに、熱くて硬い、指よりもずっと太いものが触れた。メリメリと、クリストファーの狭いアナルを押し拡げるようにして、熱くて硬くて太いものが、アナルの中にゆっくりと入ってくる。鈍く痛むが、それ以上に気持ちがいい。ゆっくりとクリストファーの中を満たしていくものの正体が、アロイスのペニスだと気づいたのは、尻に柔らかい毛が当たった感触がした頃だった。顔だけで振り返れば、とろんとした気持ちよさそうな顔で、アロイスがクリストファーのアナルの中にペニスを深く突っ込んでいた。アロイスの太くて長いペニスが、みっちりと直腸内を満たしている。不思議な充足感とじわじわくる快感に、クリストファーは溜め息のような喘ぎ声をもらした。
腹の中のアロイスのペニスが動き始めた。ゆっくりと腸壁を擦りながら抜けていく感覚が、排泄感に近くて、なんとも気持ちがいい。先っぽギリギリまで抜けたアロイスのペニスが、また腹の奥深くまでゆっくり入ってくる。途中で前立腺をゴリッと擦られて、クリストファーは腰を震わせて小さく喘いだ。鈍く痛むところを硬いペニスが通り過ぎ、トンッと腹の奥深くを突き上げられた。瞬間、鋭い痛みと強烈過ぎる快感に襲われる。
「あぁ!?」
「はぁ……ふふっ。クリストファー君。上手に飲み込めてるね。あーー。ヤバいな。めちゃくちゃ気持ちいい」
「おっ、あっ、あぁっ、ふんぅ、おぅっ、あーーっ、くっそ、やべぇっ!」
「すっごい締まるー。激しくするよ」
「あぁ!? あっあっあっあっあっ!!」
ゆっくりと動いていたアロイスのペニスが、速く激しく動き、ゴリゴリ前立腺を擦りながら、ガンガン腹の奥深くを突き上げ始めた。強烈過ぎる痛みと快感で、頭の中が真っ白になり、目の裏がチカチカして、涙が勝手にぼたぼたと零れ落ちる。痛いのに、気持ちがよくて堪らない。こんな快感、知らなかった。
パンパンパンパンッと肌同士がぶつかり合う音と、クリストファーの裏返った喘ぎ声が、台所に響いている。身体の中を暴れ回る快感が今にも弾け飛びそうだが、あと一歩足りない。クリストファーは、自分の勃起して先走りが溢れ出ているペニスを片手で掴み、めちゃくちゃに扱き始めた。今すぐイクことしか考えられない。ペニスを扱くと、勝手にアナルが締まり、より腹の中のアロイスのペニスの存在を意識してしまう。
「あっ、あーーっ! い、いくっ! いくいくいくいくっ!!」
「ははっ! イッて! 僕もっ、限界っ! あーー、もう! すごいなっ! 最高に締まるっ!」
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「う、あぁっ……」
クリストファーは、腹の奥深くを小刻みにガンガンガンガン激しく突かれながら、めちゃくちゃに扱きまくったペニスから精液を飛ばした。身体の中で弾け飛んだ快感に、頭の中が真っ白になって、一瞬、気が遠くなる。腹の中で、アロイスのペニスがほんの僅かにピクピクと震えている。その感覚すら気持ちがいい。
クリストファーが、はぁー、はぁー、と大きく荒い息を吐いていると、ペチペチと尻を軽く叩かれた。顔だけで振り返れば、アロイスがにっこりと、背後に薔薇でもしょっているかのような眩しい笑みを浮かべた。
「まだ足りない。次は君が動いてよ」
「…………別にいいけど」
「あはっ! 気持ちよくて、楽しいでしょ?」
「まぁ」
「もっともっと高みにいこう。2人で」
「ん……は、っあ……」
アロイスが華やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりとクリストファーのアナルから射精した筈なのにまだ硬いペニスを引き抜いた。
アロイスが床に腰を下ろして、仰向けに寝転がった。アロイスに言われるがままに、アロイスの股間を跨ぎ、萎えていないアロイスの太くて長いペニスの竿を握って、自分の勝手にひくつくアナルに、ペニスの先っぽを押しつける。ゆっくりと腰を下ろしていけば、腸壁とアロイスのペニスがぴったりくっついて擦れながら、どんどんアロイスのペニスで腹の中が満たされていく。背筋がゾクゾクする快感が堪らない。
クリストファーは、膝を立てて、自分の膝に手を置くと、そのままスクワットをするかのように、身体全体で上下に動き始めた。自分から前立腺がより強くペニスで擦れるように腰をくねらせつつ、腹の奥深くの痛くて気持ちがいいところを、アロイスのペニスの先っぽにぶつけていく。脳みそが痺れるような強烈な快感が、なんだか楽しくて、クリストファーは、喘ぎながら口角を上げた。クリストファーが動く度に、ぶらんぶらんとクリストファーのまた勃起したペニスが揺れ、ペチペチと陰毛が薄いアロイスの白い下腹部に当たる。
アロイスが手を伸ばして、なんとなく気持ちがいい動き方が分かってきたクリストファーの胸筋を揉みしだき始めた。胸筋の下の方にある存在感が薄い小さめの乳首を、指先できゅっと摘まんでくりくりされると、じんわり気持ちがいい。クリストファーは大きく喘ぐと、自分の膝から手を離し、アロイスの身体の横に両手をついた。尻を上下に振るようにして、腰を激しく動かし、腹の奥深くを小刻みにガンガン強くアロイスのペニスで刺激する。気持ちよくて、気持ちよくて、本当に堪らない。くりくりと優しく弄られている乳首も気持ちがいい。クリストファーは、激しく腰を動かしながら、快感の頂点を目指した。
ーーーーーー
クリストファーが、はっと目覚めると、いつもの自分のベッドではなく、アロイスの家の台所の床に寝ていた。硬く冷たい石の床で寝ていたようである。しかも、全裸で。おまけに頭と腰とアナルが痛い。
クリストファーは、二日酔いで痛む頭を抱えた。残念ながら、記憶はしっかり残っている。酔っていたとはいえ、思いっきり流されてしまった。アロイスが無駄にテクニシャンなのがいけない。アロイスとのセックスは、本当に気持ちがよくて、クリストファーは力尽きて寝落ちるまで、何度も体位を変えて、アロイスとセックスをしまくった。
クリストファーが、ため息を吐きながら周囲を見回せば、台所にアロイスの姿は無かった。のろのろと起き上がり、胡座をかいて座ると、腰とアナルがじくじくと痛む。
クリストファーが一人反省会をしながら、腰を擦っていると、ぺたぺたと足音がして、上半身裸のアロイスが台所に入ってきた。髪が濡れているので、シャワーでも浴びていたのだろう。
アロイスが、ふわっと笑って、全裸で胡座をかいて座っているクリストファーのすぐ側に来て、すとんとしゃがんだ。
「クリストファー君。君さ、僕の恋人にならない? セックスしちゃったし」
「え、恋人は無理」
「なんでだよ」
「主に、衛生観念の価値観が違い過ぎて合わないと思います」
「そこはあれだよ。君が僕を育てるって言い方はおかしいけど、僕が君の価値観に近づくように指導してよ。一応、頑張るよ?」
「貴方、俺が好きなんですか」
「割と好きって言ったじゃない」
「えーー。恋人、恋人かぁ……うーん……うん。ないわー」
「何でだよー」
「価値観の違いもですけど、釣り合ってないでしょ。俺達。世間的に見て」
「そこは気にするところじゃないね。赤の他人なんか知ったことじゃない。心底どうでもいい」
「うちの国は、男同士じゃ結婚はできないし、仮に恋人になっても先は無いですよ。不毛です」
「それは、恋人として、一生僕の側にいてくれたらいいよ。結婚なんて形式に囚われる気はないもの。でも、お墓は一緒がいいな」
「めちゃくちゃ重いこと言いだしやがった」
「ねーねー。僕さぁ、筋トレ以外も頑張るから、僕のこと好きになってよ」
「えぇ……」
「セックス、気持ちよかったでしょ?」
「まぁ、ぶっちゃけ」
「ね! 今から根気よく口説くから」
「いや、結構です」
「あはっ。僕は粘着質で諦めが悪いからね。早めに諦めて恋人になった方がいいよ?」
「えぇーー。……家の中を完璧に掃除できるようになって、毎日ちゃんと風呂に入るんなら、若干前向きに考えなくもないですけど」
「よっしゃ! 言質はとったからね! 見てろよ。ゴリゴリマッチョを目指しつつ、掃除の達人も目指してやるから!」
「はいはい。まぁ、頑張ってください。はぁー。とりあえずシャワーを浴びたら、ここの掃除だなぁ」
「僕も一緒にやるよ」
「あ、はい」
クリストファーは、ニコニコ笑っているアロイスを眺めて、小さく溜め息を吐いた。流された自分が悪いのだが、ちょっと面倒なことになった。アロイスに好かれるのは不快ではないが、恋人になる気は、今のところ、まるで無い。そのうち、努力家のアロイスに絆される日がくるかもしれないが、その時はその時である。
クリストファーは、どっこらしょっと立ち上がると、痛む腰を擦りながら、風呂場へと向かった。熱いシャワーを浴びて、全裸のまま、台所へ移動した。床に落ちていた服を着て、早速、掃除を始める。アロイスが、どこか楽しそうに、掃除を手伝い始めた。掃除嫌いな癖に、本当に掃除をするらしい。
クリストファーが、アロイスに絆されるまで、あと1年。
(おしまい)
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お読み下さり、本当にありがとうございました!!
あっ、これで終わり?足りない....!って思ったらの続編説。
気長にお待ちしております♪
感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいですっ!
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お読みくださり、本当にありがとうございました!!
感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!
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お読みくださり、本当にありがとうございました!!