アナとも!

丸井まー(旧:まー)

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恋人編

19

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アレックスは今回の本家の邸訪問について結構軽く考えていた事を、今非常に後悔している。とりあえず帰ったら絶対にキュリオを泣かす。絶対にだ。

1週間後。
アレックスはキュリオと何故かついてきたフィオナとの3人でサンガレア公爵家の王都の邸に出向いた。相変わらずデカイ邸である。緊張でキリキリ痛む胃を押さえて、玄関の呼び鈴を鳴らすキュリオをぼんやり眺めた。
すぐに見知った顔が出てきた。リヒト副局長だ。


「おはよー。リヒト君」

「おはよう。3人とも」

「おはようございます」

「おはよう」


リヒト副局長が何故かアレックスを可哀想なものを見るかのような目で見た。


「アレックス君。……がんば!」

「はぁ……」


なんとなく嫌な予感がする。
リヒトに続いて邸の中に入り、だだっ広い居間へと案内された。そこにはかなりの人数が揃っていた。あちゃー、と額を押さえるキュリオを見ると、目を反らされた。フィオナを見ると、何故かアレックスに向かって敬礼してやがる。どういう意味だ。
ていうか、見間違いじゃなければ、国王陛下と王妃様、王太子殿下、王女様がいる気がするんだが……。
慌てて平伏しようとしたら、国王陛下から声をかけられた。


「この家の中じゃ平伏は禁止だから、普通にしててよ。私も王として来てるわけじゃないから。強いて言うならキュリオの親戚のオジサンってとこかな?」


ど、どうしたらいいのだろう。陛下にお声をかけてもらっちゃったよ、おい。ヤバい。緊張どころじゃない。この空間絶対ヤバい。
ギリギリ保っていた平静を保てなくなりそうだ。若干プルプル震えだしたら、赤毛の甘い顔立ちの泣き黒子のある男前に声をかけられた。


「やぁ!いらっしゃーい。とりあえず自己紹介してくれるかな?その後で俺らもするしー」

「は、はい。アレックス・フーパーと申します。王宮薬師局に勤めております。本日はお招きありがとうございます」


全力を出しきって、なんとか声が裏返らずにすんだ。椅子を勧められたので、大人しく座る。膝がガクガクし出したところだったので、正直ありがたい。


「じゃあ、アレックス君。今度はこっちが自己紹介するねー。俺はギルバート。軍人で中隊長だよ。ねー。右回りに順番に自己紹介でいい?」

「いいわよー」

「じゃあ次は僕か。フランクだ。宰相補佐官をしている」

「マーシャルだ。将軍やってる」

「俺はジルだ。元中隊長で、今は退役して専業主夫」

「ナイルだ。中隊長やってる。キュリオの祖父だ」

「ディリオだよー。ナイル中隊副隊長やってまーす。キュリオの祖父その2」

「オフィーリアよ。王宮魔術局に勤めているわ。キュリオの叔母よ。リアちゃんって呼んでちょうだい」

「あ、俺もやった方がいいの?えーと、リヒトです。王宮薬師局副局長やってます」

「ロンです。王宮薬師局で働いてます」

「ナターシャよ。王妃やってるわ。私のことはこの家ではナティちゃんって呼びなさい」

「マイヤよ!王女兼魔術師やってまーす。よろしくね。私のことはマイヤちゃんでいいから」

「ルドルフだよ。王太子やってる。ルディ君でいいよ」

「シグルドだよ。国王やってます。私のことはシグさんでいいよ」

「俺はマーディ。軍人で中央の軍詰所勤務」

「俺はカーディ。右に同じ」

「チーファだよ。サンガレア商会副取締役やってます」

「アイーシャよ。王宮魔術局で働いてるわ」

「「「「よろしくー」」」」


皆きれいにハモった。
改めてこの空間ヤバい。国の中枢に位置する人間率高すぎる。ていうか、王族が4人もいる!更に一般庶民のアレックスに愛称で呼ばせようとしている!アレックスは自分の意識が遠退くのを感じた。……このまま気絶しちゃダメかな。
気絶ギリギリのアレックスに、マイヤ王女様が楽しそうに話しかけてきた。


「ねぇねぇ!アレックス君は何歳なの?あ、実年齢と肉体年齢教えてね!」

「え、あ、実年齢が39歳で、肉体年齢は30歳です」

「あら、結構オッサンなのね」

「ナティ。男は30越えてからだぞ」

「それジルさんの好みじゃないの?」

「まぁな」

「肉体年齢ピチピチの20代ですまんな」

「今更だろ」


それから代わる代わるフレンドリーに皆話しかけてきて、質問攻めにあった。内心滝のような汗をかきながら、なんとか質問に答える。答えにくい質問にはキュリオが答えた。2人の出会いとか付き合う経緯とか。大人の玩具専門店で声かけられて、そのまま一緒にアナニーする友達になりました、とか絶対に言えない。キュリオがお店でアレックスに声をかけて、気があったから云々みたいな、嘘ではないが真実とも言えないことを言った。そして意外なことにフィオナもフォローしてくれた。

マーシャル将軍が作ったという昼飯をもらい、完全に味の分からない食事を終えて、茶を飲んで、昼過ぎにようやく解放された。
邸の玄関を出た途端にへたりこんだアレックスをキュリオがおぶって、カシニア家に移動した。家に着いたら、温かいお茶をもらって、なんとか少し落ち着いた。


「……キュリオ」

「ん?」

「あの空間マジヤバい」

「あー……まさか陛下達も来るとは思ってなかったんだよねー。……ごめん」

「ごめんで済むかど阿呆。帰ったら覚えてろよ」

「……はい」

「まぁ、皆に気に入られたんだからいいじゃないですか。アレックス先輩」

「ていうか、なんであの場にロン先輩もいたんだ?」

「ん?リヒト君の伴侶だもん」

「えっ!あの2人結婚してるのか!?」

「かなり有名ですけど、知らなかったんですか?先輩」

「全然。初耳」

「アレックス先輩。王宮で働くなら、もっと噂とか世間話とか聞いといた方がいいですよ」

「……肝に命じとく」

「ついでに、あの場にいたマーシャル君とジルさんも結婚しててー。ギル君とフランク君も結婚してるよ。チー君は普段サンガレアにいるんだけど、チー君も男と結婚してる」

「うちの一族の男は男と結婚してる人めっちゃ多いんですよ」

「へぇ」


だから同性愛者のアレックスにも普通に接してくれたのか。ありがたいが本当に怖い空間だった。
精神的に疲れきって、ぐったりである。フィオナが出してくれた甘いクッキーを食べて、少し回復したら、キュリオと共にアレックスの家に移動した。
我が家に帰りつくと、八つ当たりも含めて、キュリオを全力でガチ泣きさせた。背中舐めの刑でだ。キュリオを泣かせて、出すもの出したら、少しスッキリした。
アレックスはスンスン泣くキュリオを抱き締めながら、今日のことは精神衛生の為に忘れようと心に誓った。
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