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ナイルは寂れた街中の外れにある私娼窟に来ていた。そこら辺に客を求める男娼と彼らを物色する男達がいる。狭くて汚い道を足早に歩いて目的の連れ込み宿に向かう。

この世は男女比が平等ではない。6:4で男の方が多い。そのため、当然溢れる男が出てくる。土の宗主国では複婚と同性婚が法的に認められている。少ない女は基本的に大切に育てられる。娼館などで身体を売る者はほぼ男だけだ。
しかし、トリット領にはこっそり身体を売る女が存在する。国軍詰所があり、若い男が多いため、小遣い稼ぎに身体を売るのだ。元々はそんなことなかったらしいが、無法者じみた国軍の問題児どもが街の女を強引に口説いたり、場合によっては強姦することが度々あったそうだ。タダで泣きをみるより、いっそ金をとって相手を自分で選んでヤった方がマシだ、ということで、私娼窟の連れ込み宿を1つ街の女で貸しきって、身体を売ることにしたらしい。強かな話だ。
連れ込み宿に入ると、仲介人に金を握らせ、今身体が空いている女の部屋を聞き、2階へと階段を上がる。部屋のドアをノックして開けると、濃い化粧をした薄着の年増な女がいた。相手をしてもらえるか交渉して、了承してもらえたら女に金を渡してから服を脱いだ。
だらしのない身体を組みしき、女の肌に触れる。おざなりに愛撫をしてから、大して締まりがよいわけではないソコにペニスを突っ込んで腰を振った。2度精液を吐き出すと、女の身体から離れ、服を着る。足早に階下に降りて連れ込み宿を出た。私娼窟の外れまで歩くと、途中で立ち止まり、煙草をポケットから出して咥えて火をつけた。
女も煙草の味もトリット領に左遷されてから覚えた。それまでは無縁だったが、女を抱いた後は多少眠れるし、煙草を吸うと少しだけ気が紛れる。女に渡す金は安くはない。班長としてそれなりの額の給料をもらっていても、来れるのはせいぜい月に1度程度だ。それでも良かった。
快感を享受している間は何もかも忘れられる。ナイルはオナニーするのも割と好きだ。女の肌を思い出しながら、自分の手で精を吐き出すのも嫌いじゃない。何だかんだで毎日のようにオナニーしている。いや、していた。

1ヶ月前に赴任してきたお節介で変態じみた副班長のせいで、毎日オナニーができなくなった。
今は2日に1度はディリオの家で寝ている。確かに土の神子の結界があるからか、不眠症であるにも関わらず、ディリオの家ではよく眠れた。ディリオが作る食事も全体的に薄味でナイルの口に合った。相変わらず食べ物を口にすると吐き気がするが、なんとか毎回食べている。そのお陰だろうが、最近体調がいい。慢性的な頭痛も身体の倦怠感もかなりマシになってきた。
それでも快感と女の肌が恋しくなる。ナイルはディリオの家で夕食を食べた後に私娼窟に繰り出したのだった。煙草を吸い終え、地面に落として靴で踏み火を消すと、ポケットに入れていた携帯灰皿に吸い殻を入れて、自宅へと足を向けた。今夜の女は少し外れだったが、それでもそれなりに満足している。
今夜は自宅でも少しは眠ることができそうだ。






ーーーーーー
1日の仕事が終わり、疲れた身体を引きずるようにしてディリオと共にディリオの家に向かう。ディリオはすっかり新しい職場にも仕事にも慣れたようで、特に訓練の時は生き生きとしている。ディリオは毎日のように他の班の奴らや上官達、巡回で会う街の男女に誘われたり、告白されているみたいだが、手酷く断っているようだ。今のところ、無理矢理な手段に出る者はいないっぽい。ディリオのことを気に入ったクインシーが、ガーゴイル中隊内や街にディリオの噂を広めたことが大きいと思われる。クインシーは親しみやすい程度に顔が整っていて、話し上手の聞き上手だから割と誰とでも仲良くなり、顔が広い。ディリオから聞いた話と馬鹿みたいに腕っぷしが強いことを吹聴したらしい。クインシーは噂を拾ってくることも噂を流すこともうまい。ナイル的にはあまり敵に回したくない男だ。

ディリオの家に着くと、ディリオは上着を脱いですぐに台所に向かった。ナイルは今日は持ち帰りの仕事がないので夕食が出来上がるまで暇である。ディリオから家に通うようになって早いうちに許可が出てるので、本棚からエロ本を取り出して椅子に座り読み始めた。エロ本など読んだことがなかったが、これが存外面白い。ディリオの家にあるエロ本はエロだけではなく、普通に読み物としても面白いものばかりであった。
部屋にある骨格標本にも慣れた。1度、何故骨格標本があるのかディリオに聞いてみたことがある。すると、骨格フェチだからという答えが返ってきた。ズリネタにもしているらしい。……骨格標本をズリネタにしている時点で立派な変態だ。
2次元萌えをたまに唐突に語りだしたりするし、オナニーネタを話題として振ってくるし、鼻が弱いとかでしょっちゅう鼻水を垂らしているしで、顔が必要以上に整っていることも相まって残念極まりない。ついでに顔に似合わずかなり毛深く、胸毛も腹毛ももっさり生えている。本人曰くケツ毛も生えているらしい。顔だけなら絶世の美女なので、初めて風呂上がりでパンツ1枚のディリオを見たときは目を疑った。ディリオは髭は生えていない。髭が伸びるのがかなり早く、朝に剃っても夕方には無精髭状態になるので面倒だから脱毛しているそうだ。ディリオ曰く髭は伸ばしても似合わないし、似合わない状態を晒すのは美意識に反するらしい。
顔が異常に整っていることを除けば、だいぶ変態だが割と普通の男だ。一緒にいても特に気を使うこともない。仕事もかなり出来るし、ナイルにとっては結構居心地がいい相手になっている。

夕食が出来上がったので、読みかけのエロ本を本棚に片付けてから椅子に座る。今夜はイカと芋を醤油で煮たものがメインのようだ。ディリオが作った料理を毎日食べるようになって、1ヶ月ちょっとで食べられる量が少し増えた。それでもまだまだ成人男性が食べる量には程遠いが、目に見えて少し進歩しているのが割と嬉しい。ディリオが来るまでは3食国軍支給の携帯食料を1つ噛るだけだったが、様々な料理を少しずつ食べることで栄養バランスも良くなっているのだろう。まだほんの少しだけだが筋肉がついてきた気がするし、痩せこけた顔も少しだけふっくらしてきて顔色が良くなってきている気がする。
仕事の話をしつつ、たまに唐突に下ネタを投下するディリオの話を聞きながら、未だに感じる吐き気に耐えつつ今日の夕食を食べきった。
食べ終わると、ディリオが後片付けをしている間に風呂を借りて、楽なシャツとズボンに着替える。ディリオが交代で風呂に行くのを見送りながら、ベッドに寝転がってエロ本の続きを読む。風呂から上がったディリオがハンモックを設置してから、ハンモックの上で同じくエロ本を読み出した。流石にお互いがいる所ではオナニーはしない。エロ本を読んでムラムラしても翌日の自宅で寝る日まで我慢する。適当な時間になるとディリオが灯りを消すので、エロ本を頭の横に置いて、布団を被る。それまでの不眠症が嘘のように眠気がすぐに訪れ、ナイルは朝まで夢も見ずに眠った。
ディリオの家に泊まった日は朝飯を食べた後はすぐにディリオの家を出て、1度自宅に戻る。歯ブラシは置かせてもらっているが、流石にあの狭くて物が溢れる家にナイルの着替えまでは置いていない。昨日着ていた軍服を着て、寝間着を鞄に詰めて持ち帰り、洗濯済みの軍服に着替えてから出勤する。日課である剣の素振りを訓練所でしてから執務室に行く。仕事をして、昼休憩にディリオが作った弁当を食べて、また勤務時間が終わるまで仕事をする。
こうして毎日が過ぎていっていた。


ある日のことである。
今日は泊まらない日だ。夕食を済ませ、帰り支度をしていると、ディリオがナイルは入ったことがない部屋から箱を持ってきた。ベッドの上にどさっと箱を置いた。


「班長。いいものあげますよ」

「なんだ?」

「オナホ」


ディリオが箱の中から薄いピンク色の筒状の物体を取り出した。
……オナホってなんだ。


「……なんだそれ」

「あれ?知りません?オナニーホール、略してオナホです」

「……オナニーに使うもんか?」

「そうです。これにローションつけてー、ちんこ入れてー、しごくとめっちゃ気持ちいいんですよー」

「……使用済みじゃないだろうな」

「流石に使ったもんは渡しませんよ。この箱のは全部未使用です!」

「なんでそんなに大量にあるんだよ」

「サンガレア商会はご存知ですよね?うちのばあ様が総代表してる」

「あぁ。そりゃ知ってる。うちの国どころか他所の国にまで支店があるバカでかい商会だろ?」

「そうです。で、実は裏商会というのもありまして」

「裏商会?」

「えぇ。あ、別に違法なものを扱ってるわけじゃないですよ?こういうエロいものを扱ってるんですよ。オナホとかー、張り型とかー、ローションとかー、SM系の道具とか。まぁ色々と」

「マジか」

「マジです。んで、俺ばあ様経由で試作品のお試し要員やってるんですよ。発売前の新商品を実際に使ってみて、感想とかを書いて、匿名で郵送するんです」

「へぇ」

「ってことで、良かったら班長も試してみませんか?こっちの紙に使用後の感想とか書いてくれたらいいんで」

「ふーん」


ディリオに紙を1枚渡された。見るとアンケート用紙のようなもので、そんなに複雑かつ細かな使用感等は書かなくていいみたいだ。本当に使ってみた感想を書けばいいのだろう。ナイルもオナニーは好きだ。オナホなるものにも興味がわく。


「いる」

「お!あざーっす。試作品を試してくれる人探してるって手紙がきたんで助かります。やー、誰にでも声かければいいもんでもないですしねー」

「クインシーあたりは?」

「アイツ文章書くの嫌いじゃないですか。ダブリンは下ネタ苦手だし、他の連中も微妙だなー、と」

「あー……まぁ、そうか」

「そんなわけでよろしくお願いしますねー。とりあえず何個持って帰ります?」

「どんだけあるんだ?」

「この大きさの箱があと3つですね」

「多いなおい」

「サンガレアから家まで届けるのに時間も金もかかるから、チマチマ送れないんですよ」

「あ、そう」


ディリオは小さな鞄にオナホをいくつか入れてナイルに手渡した。


「はい。ローションもおまけに入れときましたんで。あ、ローションも新作なんで感想お願いしますね」

「分かった」

「じゃ、お願いしまーす」


ディリオに見送られてオナホの入った鞄を持って帰路につく。オナホがどんな感じのものなのか、よく分からないから早速今夜使ってみよう。ナイルはエロい期待に胸を弾ませ、いつもよりも軽い足取りで自宅に戻った。
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