花咲く少年達

丸井まー(旧:まー)

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二話

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 イスマエルは、ベッドの端っこで俯せに寝転がっているアダルフォの尻を枕に、意味もなくベッドからはみ出した足をぶらぶらさせながら、のんびりと本を読んでいた。

 季節はもう初夏になる。イスマエル達は春に進級して、2年生になった。マニエルは卒業してしまったが、新たに後輩が1人できた。春先はアダルフォ目当ての女子生徒が魔術倶楽部に押し寄せてきていたが、アダルフォが容赦なく追い返したので、今は静かなものである。新たに入部したビリーは、大人しい雰囲気の魔術オタクで、将来は魔導具師になりたいらしく、魔術の勉強をする傍ら、簡単な魔導具を作ったりしている。部長になったハインツも魔導具師を目指しているそうで、2人で楽しそうに魔導具を弄っている。アダルフォは、本格的に医療魔術に興味を持ったらしく、魔術の勉強と同時進行で、医療の勉強も始めた。イスマエルもアダルフォも高等学校へ進学する予定なので、あと半年もすれば、ひたすら受験勉強の日々が始まる。イスマエルは、魔術師になる予定だが、まだ専攻を決めていない。広く浅く、様々な分野に触れて、自分に一番合ったものを探している最中だ。

 イスマエルが最近、家の古書店で買った魔術の歴史書を読んでいると、もぞもぞと枕にしているアダルフォの尻が動いた。


「イスー。そろそろどいて」

「あとちょっと」

「えー。枕貸すからそっち使えよー。俺の尻を枕にするなー」

「高さがちょうどいいんだよ。あとぽよんぽよんしてて、なんか楽」

「マジか。ちょっと交代して」

「それは嫌」

「なんでだー! あ、イス。俺の尻から動く気ないなら、机の上のノート取って。ノート使いきっちゃった」

「んー」


 イスマエルは読んでいた本をシーツの上に置き、起き上がってベッドから下りて、アダルフォの机の上の真新しいノートを手に取り、寝転がったままのアダルフォに手渡した。再び、ぽよんっとしたアダルフォの尻を枕にして、本の続きを読み始める。アダルフォの尻枕は、イスマエルの最近の一番のお気に入りである。高さがちょうどいいし、ぽよんぽよんした感触がなんとなく落ち着く。
 アダルフォがペンを動かす音を聞きながら、のんびりと読書を楽しんでいると、部屋のドアが元気よくノックされ、アダルフォの兄イーダンが顔を出した。イーダンもアダルフォも父親似で、とても整った凛々しい顔立ちをしている。イスマエルは昨日からアダルフォの家に泊りがけで来ている。アダルフォの家族ともすっかり親しくなって久しい。
 イーダンがイスマエル達を見て、何故か呆れた顔をしながら、口を開いた。


「お前らー。お菓子あるぞー」

「食うー」

「いただきます」

「おー。ルフォ。俺、珈琲」

「俺が淹れんのかよ。自分でやれよ」

「お菓子を貰ってきたのは俺様だぞー。敬って珈琲を淹れやがれ」

「うぃーっす」


 枕にしていたアダルフォが身動ぎしたので、イスマエルは起き上がり、手に持っていた本をシーツの上に置いた。起き上がったアダルフォと一緒に部屋を出て、居間に行けば、アダルフォの3歳年下の弟ナークが皿に盛られた焼き菓子を目の前に、そわそわしていた。


「あっ! ルフォ兄ちゃん! 早く珈琲淹れて! 俺、ミルクと半々砂糖大盛で!」

「はいはーい。イスもナークと一緒でいいだろ?」

「うん。手伝うよ」


 イスマエルはアダルフォと一緒に台所で珈琲を淹れると、お盆にカップをのせ、居間のテーブルに運んだ。今日はアダルフォの父親は仕事で、母親は近所の奥様友達と一緒に手芸教室に行っている。イーダンにお礼を言ってから、焼き菓子を手に取り、齧りつけば、ふわっとバターのいい香りが鼻に抜け、じわぁと優しい甘さが口に広がった。素朴だが、すごく美味しい。アインにも食べさせてやりたいくらいだ。ちゃんと咀嚼して飲み込んでから、イスマエルは口を開いた。


「イーダンさん。これ、どこのお菓子屋さんのものか知ってます?」

「ん? あぁ。これ先輩の手作り。最近お菓子作りにハマってるらしくてさぁ。自分じゃそんなに量を食わないからって、よく貰うんだ」

「そうですか……すごく美味しいから、お店のなら買って帰ろうと思ったんですけど」

「いっぱいあるからアイン爺ちゃんに持って帰れよ。アイン爺ちゃんが好きそうだし」

「おー。いつもルフォが世話になってるしな。いくつか持って帰れよ。いっぱいあるし。今出してる分と同じ量がまだあるんだわ」

「いいんですか? えっと、じゃあ、遠慮なくいただきます」

「先輩にちびっ子たちが喜んでたって言っとくわー。そしたら、また貰えるだろうし。うししっ」

「兄ちゃん、厚かましいぞ。『ものすっごく美味しかったです!』って伝えておいて」

「下心が透けて見えてんぞ。弟よ」

「だって、これ、ちょー美味い」

「ダン兄ちゃん。先輩の人を家に呼んだら? そんでお菓子作ってもらおう!」

「いや、流石にそれは駄目だろ」

「でも、兄ちゃん。最近マジで頻繁にお菓子貰ってくるじゃん。お礼に晩飯でもご馳走した方がよくねぇ? 客が来たら、母ちゃん張り切ってご馳走作るぜ?」

「……先輩に聞いてみよ」


 イスマエルは、兄弟の微笑ましい会話をクスクス笑いながら聞いていた。イーダンは21歳、アダルフォは先月14歳になり、ナークは11歳だ。割と歳が離れているからか、仲がいい兄弟である。食事時は大賑わいだが。
 イスマエルは、アダルフォが淹れてくれた美味しい甘い珈琲を飲んで、ほっと小さく幸せな溜め息を吐いた。

 夕食の支度の時間まで勉強することになり、イスマエルはアダルフォと一緒に部屋に移動した。今度はアダルフォの尻枕ではなく、普通にラグの上に座って、ローテーブルの上に教科書を広げる。イスマエルは、集中して教科書を読みながらペンを動かしているアダルフォをチラッと見て、小さく口角を上げた。アダルフォが頑張る姿を見ていると、自分も負けていられないなという気分になる。イスマエルは、アダルフォの母親に呼ばれるまで、集中して勉強に励んだ。

 賑やかな夕食を終えた後、手土産に、イーダンが貰ってきた焼き菓子と、アダルフォの母親が作ったパイを貰い、薄暗い道を歩いて帰る。アダルフォも一緒だ。アダルフォは、イスマエルを自宅の古書店まで送ったら、帰りは鍛錬がてら走って帰る。アダルフォは、将来は魔術師になると決めたようだが、まだ剣の練習を続けている。基本的に身体を動かすことが大好きなのだろう。イスマエルがアダルフォの家にお邪魔した時は、いつも家まで送ってくれる。アダルフォとぽつぽつと他愛のない話をしながら歩くこの時間を、イスマエルはとても気に入っている。

 イスマエルは、今は少しマシになったが、基本的には内向的な性格で、人見知りも激しい方だ。初等学校では、友達と呼べる者はいなかった。初等学校の時は、いつも1人で本を読んでいた。中等学校に進学した今でも、倶楽部活動の時間以外は、必要な時にしか話さず、休憩時間はずっと静かに本を読んでいる。魔術倶楽部のハインツや後輩のビリーとは多少雑談等もしたりするが、楽しくていつまでも喋っていたいと思うのは、アダルフォくらいだ。アダルフォの家族も温かくて好きだ。アダルフォは本当に不思議な子だと思う。華やかな整った容姿に、運動神経抜群で、剣の授業の成績もいいと聞く。未だに剣術倶楽部に勧誘されているらしい。本人は魔術が楽しいからと断っているそうだが。アダルフォは本当に不思議なくらい、人見知りなイスマエルの中にもするっと入ってきた。自分から友達になろうみたいなことを言ったのは、今までで初めてのことだった。イスマエルにとって、アドルフォは一番大事な友達である。
『またなー』と走り去っていくアドルフォの背中を店の前で見送って、イスマエルは古書店の中を通って、自宅に入った。笑顔で出迎えてくれたアインに手土産を渡すと、アインがとても嬉しそうに微笑んだ。


「今日は桃のジャムを作ったんだよ。沢山作ったから、次にアダルフォ君が来たら、いくつか渡そうかね」

「1人で作ったの? 大変だったでしょ。言ってくれたら一緒に作ったのに」

「ふふっ。イスマエル。今の時間を大切にしなさい。お前は本当にいい顔で笑うようになった。アダルフォ君のお陰だねぇ。よき縁を大切にしなさい」

「うん」


 アインと、風呂上がりに、イーダンから分けてもらった焼き菓子をお供に少しお喋りをして、イスマエルは自室に引き上げた。来月の定期試験が終わったら、約1ヶ月の夏季休暇が待っている。イスマエルはアダルフォと一緒に、魔術の課外授業を受ける予定だ。夏季休暇も、できたらいっぱいアダルフォと過ごしたい。一緒に勉強するのが楽しいし、アダルフォの側にいると、なんだかじんわりと胸の奥が温かくなる。友達っていいものだなぁと思いながら、イスマエルは寝落ちるまで、ベッドに寝転がって、のんびりと本を読んだ。

 夏季休暇前の定期試験が来週に迫っている。イスマエルはアダルフォに泣きつかれて、魔術の授業以外の授業の勉強をみてやっていた。アダルフォは極端で、自分が興味を持ったことはガンガン勉強するが、そうでないものは全くと言っていい程勉強しない。定期試験の度に、イスマエルはアダルフォに泣きつかれて、勉強を教えている。魔術に関しては飲み込みが早いのに、それ以外はてんでポンコツなアダルフォをなんとか赤点を取らせないように、毎回イスマエルも必死になっている。イスマエルは普段から魔術以外の勉強もちゃんとしているので、別に試験前に詰め込み勉強をしなくても全く問題ない。
 昨日から試験前最後の二連休なので、イスマエルの家で試験対策という名の詰め込み作業をしている。たまに半泣きになって逃亡しようとするアダルフォを宥めながら、イスマエルは心を鬼にして、アダルフォに試験に出るであろうと予想されるものをひたすら叩き込んでいた。
 普段は夕食と風呂が終わったら、寝落ちるまで一緒に本を読んで過ごすが、試験前だけは、眠気に負けるギリギリまで勉強をする。ひんひん半泣きで教科書と睨めっこしていたアダルフォが、微妙な涙目でイスマエルを見た。


「イス~。なんかご褒美考えてくれよ。なんかご褒美無いと、これ以上頑張れねぇよ! どの教科も範囲広すぎじゃん!」

「んー。普段から普通に勉強やってたら、別にそこまで無いんだけどね」

「全教科主席様が言っても、あんまり説得力ねぇよ。うちの教室の連中、皆、ひぃひぃ言ってんだけど」

「僕の教室でも、なんか放課後に集まって勉強会とかしてたなぁ。そういえば。そんなに範囲広いかな? 普通に授業でやった内容だけだよね?」

「めちゃくちゃ広いし、教科も多いし、もう脳みそパァーンッてなりそう」

「大袈裟だなぁ。大丈夫。ルフォならギリギリ赤点は回避できるから。あとちょっと頑張ろ?」

「うん……でも、ご褒美は欲しいです」

「ご褒美ねぇ……うちの店で取り扱っている成人済みしか読んじゃいけない禁断の本をプレゼント……とか?」

「何それ最高じゃん! 最高じゃーん!! 兄ちゃんに春画本見せてって言っても、『お前にはまだ早いっ!』とか言って見せてくれねぇんだよ!」

「僕もお爺ちゃんがいる時には買えないなぁ。店番する時に、しれっと買おうと思えば、多分買えると思うよ」

「ご褒美それで!! それでお願いしゃーっす!! ……ところでイスマエルさん」

「なんだい。アダルフォさん」

「イスは、子供は読んじゃ駄目なスケベな本を読んだことがあんの?」

「……ははっ」

「ちょっ、イス!? いつの間に!? いつ読んだの!?」

「店番している時にちょろっと読んだだけだよ」

「マジかよ!! いいなぁぁぁぁ!!」

「はいはい。じゃあ、ご褒美は未成年ご禁制のスケベな本ということで。さ、続きを頑張ろう」

「おっしゃぁぁぁぁぁぁ!! 燃えてきたぜぇぇぇぇ!! なんとしてでも、むふふな本を拝んでやらぁ!」

「その意気。その意気。頑張れー」

「俺、ちょー頑張るぅぅぅぅ!!」


 アダルフォがそれまでとは比べ物にならないくらい真剣に教科書を読みこみ始めた。イスマエルは、試験に出そうなところを教えてやりながら、アダルフォは単純で可愛いなぁと、ほっこりしていた。

 無事に定期試験が終わり、今日は夏季休暇初日である。イスマエルはアインにバレないように、店番をしている時にこっそり買った春画本を部屋のベッドの下に隠して、アダルフォの訪れを待っていた。アダルフォはご褒美の為に本当に頑張り、いつもは赤点すれすれの教科も、かなりいい点数が取れていた。勿論、赤点の教科は無い。アダルフォが頑張ったご褒美を用意せねばと、イスマエルは夜中にこっそり店に行き、アダルフォのご褒美に良さそうな春画本を物色した。用意したのは、挿絵が多い分厚い春画本で、パラパラと眺めて他の春画本と比較した結果、絵が一番キレイで生々しいものにした。話の内容は、アダルフォと一緒に読もうと思って、まだ読んでいない。とはいえ、学生ものの春画本にしたから、登場人物に歳が近いアダルフォ達は、普通に楽しめるだろう。多分。
 イスマエルは、読もうと思えばこっそり未成年ご禁制の春画本を普通に読める環境だが、積極的に読もうと思ったことはない。精通はしているし、興味がない訳でもないのだが、やはり未成年のうちは読むべきではないという思いがうっすらあり、一度こっそりパラ読みしたくらいだ。それでも、その日のオナニーはいつもより捗ったので、春画本も馬鹿にできないなぁと思った。

 今日はアダルフォが泊りがけでイスマエルの家に来る。来週からは課外授業が始まるので、その前に、頑張ったご褒美を楽しもうということになった。アダルフォの家は、家族が多くて賑やかなので、静かなイスマエルの家でご褒美を堪能することになった。久しぶりに読む春画本に、イスマエルも正直ドキドキワクワクしている。イスマエルだって、お年頃なのだ。スケベなことに興味関心を持つなという方が酷である。
 イスマエルはなんとなくそわそわしながら、アダルフォがやって来るのを待った。

 約束の時間きっかりにアダルフォがやって来た。走って来たのか、汗びっちょりである。アインに元気よく挨拶しているアダルフォに、イスマエルはタオルを取って来て、手渡した。


「おっ。ありがとー。イス。もう朝からヤバいぜ。今日。外、ちょー暑い。空調きいてて此処は天国~」

「残念ながら僕の部屋には魔導扇風機しかないけどね」

「あるだけマシだってー。ちょっと外見てみ? かんかん照りだから」


 アダルフォに軽く腕を引っ張られて、店のドアを開けて空を見上げれば、雲一つない快晴だった。まだ朝と言っていい時間帯なのに、夏の強い日差しがガンガン照り付けている。確かに、この中を走ってきたのなら汗だくにもなる。
 空調がきいた店の中に顔を引っ込めると、イスマエルは、タオルで顔を拭いているアダルフォの背中を軽く押した。


「冷たいレモン水があるから、部屋で飲もう。お爺ちゃん。お昼の時間まで勉強してくるね」

「うんうん。ちゃんと水分補給しながらやるんだよ」

「うん」

「はぁーい」


 イスマエルは、アダルフォと一緒に、店の奥の自宅へ入り、台所で作っておいたレモン水を、氷を入れたグラスに注ぎ、グラスをお盆にのせて、自室に向かった。
 レモン水を殆ど一気飲みしたアダルフォが、ぷはぁっと大きな息を吐き、起動させたままだった魔導扇風機の前を陣取った。何気なくアダルフォの背中を見れば、汗で薄い夏物の半そでシャツがうっすら透けている。


「ルフォ。いっそ水でも浴びてきたら? 着替えはあるでしょ」

「あー。そうしよっかな。マジで全身汗びっしょり。パンツまでしっとりしてるもん」

「シャワー浴びておいでよ。お待ちかねのご褒美はその後で」

「ふぁーい。ぐふふふっ。待ちに待ったご褒美の時間だぜ! この為にめちゃくちゃ頑張ったもん! 俺!」

「うんうん。そうだね。ほらほら。汗が冷える前に、とりあえず汗を流しておいで」

「はぁーい」


 素直な返事をしたアダルフォが、鞄から着替えを取り出し、部屋から出ていった。イスマエルは、ベッドの下に紙袋に入れて隠していた春画本を取り出し、枕の下に置いて、魔導扇風機の前に座った。窓を全開にしているが、生温い風しか入ってこない。それでも、魔導扇風機のお陰で、暑くて茹りそうという程ではない。イスマエルはどこか落ち着かない気分で、そわそわとアダルフォが戻ってくるのを待った。

 アダルフォがさっぱりした顔で部屋に戻ってきた。イスマエルは、魔導扇風機を少し移動させて、ベッドの上に風がくるように調節すると、早速ベッドに上がり、ワクワクした様子のアダルフォを手招きした。アダルフォがいそいそとベッドに上がり、ころんとイスマエルのすぐ隣に寝転がった。くっついていると素直に暑いが、全然不快ではない。すぐ隣のアダルフォから、イスマエルの家の石鹸の匂いがしている。いつものことなのに、何故だか、イスマエルの胸がドキッと小さく跳ねた。イスマエルは自分の反応に内心首を傾げながら、じゃーんと枕の下に隠していた春画本を取り出し、アダルフォに見せた。


「これが未成年ご禁制の春画本です」

「やっほい! ご褒美! ご褒美!」

「色々種類があったけど、一番絵がキレイな学園ものにしてみました」

「素晴らしいぞ。イスマエル君。ちょー愛してるー」

「はいはい。じゃあ、読もうか。僕もまだ読んでないんだ」

「イスも意外と興味津々?」

「……お年頃だから」

「ですよねー! 俺達、お年頃なのに、何で成人しないと読んじゃ駄目なんだろうね」

「さぁ? 大人の事情なんじゃない?」

「ふーん。まぁいいや。ささっ。御開帳あそばせ!」

「はーい。御開帳―」

「うぇ~い」


 イスマエルはなんだか楽しくなってきて、クスクス笑いながら、春画本の表紙を捲った。いきなり女性の全裸の絵が目に飛び込んでくる。勿論、性器もがっつり描かれている。すぐ隣に寝転がっているアダルフォが、ひゅーっと小さく口笛を吹いた。


「すげー。マジすげー。初めて見たー。まんこってこうなってんの?」

「らしいね」

「もう既にドスケベです」

「分かります」


 イスマエルはアドルフォと顔を見合わせ、同時に軽く吹き出した。次の頁は目次で、その次の頁からが本文だった。見開き頁一枚ずつに挿絵がついている。アダルフォが主人公の女の子の絵を指差し、内緒話をするように、イスマエルの耳元でこそっと囁いた。


「この子さ、3年の先輩に似てない? ほら。演劇倶楽部のすげぇ可愛い先輩」

「あー……言われてみれば。これで泣き黒子があったら完璧似てるかも」

「だよな。やばーい。興奮してきたー」

「まだ本文は始まったばっかだよ。お楽しみはこれからです」

「それもそうだ。それでは読みましょう」

「うん」


 イスマエルは、アダルフォと一緒に、無言で夢中で春画本を読み始めた。
 春画本の中身が中盤に差し掛かった頃、イスマエルはムラムラして堪らなかった。ペニスがパンツの中で、ちょっと痛いくらいにガチガチに張り詰めている。未成年ご禁制の春画本の威力を舐めていた。いやらしいが過ぎる。挿絵も、本の内容も、ドスケベ過ぎて、初心者のイスマエル達には刺激が強すぎた。イスマエルが我慢できずに、もぞもぞ身動ぎして、こっそり股間をシーツに擦りつけていると、アドルフォもそわそわと身動ぎし始めた。イスマエルはガン見していた春画本の挿絵から目を離し、すぐ隣のアダルフォの方を向いた。同じタイミングで、アダルフォもイスマエルの方を向いた。
 アダルフォが、日焼けした目元をじんわり赤く染めて、ぼそっと呟いた。


「ちんこ勃ってヤバい」

「……僕も」

「俺達には刺激が強すぎやしませんか」

「もうちょい初心者向けっぽいのにしとけばよかった……」

「うおぉぉぉぉぉ……引っ込みつかないレベルで勃起してんだけどぉぉぉぉ!!」

「はははっ。奇遇だなぁ。僕もだよ」

「イス」

「うん」

「こうなったら一緒にシコらない?」

「……うん。トイレに駆け込む余裕もないしね」

「ですよね。背中合わせ……は逆になんか恥ずかしいから、いっそ堂々と見せ合おう」

「マジですか。アダルフォ君」

「マジですよ。イスマエル君」

「…………」

「…………」


 イスマエルは暫し無言でアダルフォと見つめ合った後、同じタイミングで起き上がり、楽な部屋着の半ズボンとパンツを一気に脱いだ。


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