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21:夜のピクニック

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 いつものように3人で朝食を食べていると、唐突にデニスが『あ』と呟いた。


「デニス?」

「姉さん。そろそろ苺が採れる時期じゃない?」

「あら。そういえばそうね」

「次の休みに、3人でピクニックに行かない?」

「いいわねぇ。……あ、そうだわ。明後日の満月の夜にピクニックに行きましょうよ。そうしたら、コニーも一緒に苺を採って食べられるわ。今回もクリストフが来るでしょうから、4人で軽食を持って森の奥に行きましょう」

「姉さん! それ、すっごい素敵! 楽しみだね。コニー」

「わふん! (本当に楽しみだ!)」

「折角だから、苺のタルトも作ろうかしら。ピクニックに行って、苺を採って、帰ってきたら採れたて苺のタルトでお茶会なんで素敵じゃない? 次の日は朝寝坊するから、お昼にジャムを作って、焼き立てパンと一緒に食べるの」

「最高だね! ふふっ。早く明後日が来ないかなぁ」

「わふわふ(俺の為に考えてくれてありがとう。アデラ殿)」


 アデラの提案はすごく魅力的だし、アロルドも一緒に楽しめるのは素直に嬉しい。デニスは勿論、アデラも本当によくしてくれる。アロルドが普通に女を好きになれていたら、アデラに恋をしていたのかもしれない。アデラは特別美人じゃないが、柔らかい感じに顔立ちが整っていて、優しい印象を抱く。笑うと愛嬌もあって可愛らしい。何故、クリストフと結婚しないのか、不思議になる。クリストフも柔和な感じの中々の男前だし、お似合いだと思うのだが。アロルドが首を傾げていると、デニスがやんわりとアロルドの背中を撫でてくれた。


「どうしたの? コニー」

「わふん(なんでもない)」


 アロルドは、機会があったら聞いてみようと思って、朝食の残りをもりもり食べきった。

 2日後の夜。昼過ぎに来たクリストフが、寝間着ではない服を持ってきてくれた。どうやら、アデラが手紙で頼んでいたらしい。アデラの細やかな気遣いに感謝である。月が出る頃に人間の姿に戻ったアロルドは、久しぶりに普通のシャツとズボンを着て、ブーツを履き、剣を腰に下げた。苺が採れるのは、アデラの魔法がかけられている範囲ギリギリの所らしいので、念の為、剣は持っていく。

 準備をして居間に行くと、大きなバスケットを持ったデニスが、楽しそうに笑いながら、アロルドの手を握った。


「早く行きましょうか!」

「あぁ! すごく楽しみだ」

「僕もです!」


 アロルドはだらしなく笑うと、デニスから空のバスケットを受け取り、準備万端なアデラとクリストフも一緒に家を出た。家の外は月明かりでぼんやりと明るいが、アデラが呪文を唱えて、柔らかい光を発する球体をいくつも出した。周囲が昼間に近いくらい明るくなったので、これなら森の中を歩いても問題なさそうだ。

 少し小さめのバスケットを持ったうきうきとした様子のクリストフが、アデラに手を差し出した。


「初めて行く所だから手を繋がない?」

「道はないけど、そんなに歩きにくい場所じゃないから結構よ」

「残念。手を繋ぎたくなったらいつでも言ってね!」

「はいはい。ならないわ」


 アデラが呆れた顔で楽しそうに笑うクリストフを見た。早速、苺が群生しているという場所に向けて出発である。森の奥の方へと入っていく。木々の間を通り抜け、背が高い草を掻き分け、道なき道を進んでいく。アロルドは森の中での行軍や戦闘を経験しているから特に気にならない。クリストフは、たまに草に隠れた木の根っこに足を引っかけたりして転びかけ、呆れた顔をしたアデラに手を引かれている。クリストフがすごく嬉しそうにでれでれと笑っている。

 隣を歩くデニスが、アロルドを見上げて声をかけてきた。


「コニー。コニーは手を繋がなくて大丈夫ですか?」

「森の中での行軍や戦闘を何度も経験しているから問題ない。この森は歩きやすいくらいだ」

「流石ですねぇ。すごいなぁ」


 デニスがキラキラと目を輝かせてアロルドを見上げてくるが、ここは素直に手を繋いでほしいと言うべきだったのだろうか。そうしたら、堂々とデニスと手を繋げた。ちんけな男のプライドから出ちゃった発言をした一瞬前の自分を殴りたい。今更、手を繋ぎたいとは言えないので、アロルドは内心しょんぼりしながら、デニスとお喋りしつつ、森の奥へと進んでいった。

 苺が群生している所に着くと、早速苺を採り始める。苺は好きだが、生っているところを見るのは初めてだ。どうやって採ったらいいのか、いまいちよく分からない。
 アロルドが困っていると、つんつんと二の腕を優しく突かれて、すぐ隣にいるデニスがアロルドを見上げてふわっと笑った。


「一緒に採りましょうか。先にお手本を見せるんで、一緒に採りましょう」

「あぁ。ありがとう」


 デニスは優しさの塊なのか。胸がきゅんきゅんときめく。アロルドはデニスと一緒に苺の前にしゃがみと、デニスに採り方のお手本を見せてもらってから、おずおずと苺を一つ採ってみた。


「食べてみてもいいですよー。摘まみ食いは三個までならいいのです!」

「ははっ。じゃあ。……ん。甘くて美味い」

「今みたいな、しっかり赤く染まっているやつを採っていきましょうね」

「あぁ。アデラ殿の苺タルトも楽しみだ。できるだけいっぱい採りたい」

「あはは。姉さんのタルトは絶品なんで期待しててください」


 アロルドはデニスと他愛のないお喋りをしながら、初めての苺の収穫を楽しんだ。
 途中でクリストフが持っていたバスケットに入れていた水筒の薬草茶を飲みつつ、アデラ作のクッキーで一休みして、二つのバスケットが苺でいっぱいになると、家に帰ることになった。
 帰りも道なき道を歩いていく。アロルドは、ドッキドキしながら、思い切って、デニスに声をかけた。


「デ、デニス。その……手を、繋いでくれないか」

「いいですよー」


 デニスがゆるく笑って、アロルドの手を握ってくれた。デニスの手は、アロルドのものよりほっそりしていて温かい。アロルドはドキドキと心臓を高鳴らせながら、幸せ過ぎて、だらしなく笑った。

 家に帰り着くと、早速アデラが苺のタルトを作ってくれた。タルトとクリームは事前に作っていたそうで、採れたての苺を洗って切って、キレイに飾ってくれた。見た目もキレイだし、つやつやの苺が本当に美味しそうだ。
 アデラがタルトを切り分けてくれたので、クリストフが持参してきた紅茶を淹れて、お茶会の始まりである。

 苺のタルトは、サクサクのタルトはバターの風味がよく、クリームも程よい甘さで、甘酸っぱい苺との相性抜群だった。本当にものすごく美味しい。がつがつ食べたら勿体無いので、アロルドがちみちみ少しずつ味わって食べていると、隣のデニスが嬉しそうに笑った。


「ね? 姉さんの苺タルト、すごく美味しいでしょ?」

「あぁ。こんなに美味しいタルトは生まれて初めて食べる」

「あらあら。大袈裟ですよ。でも、ありがとうございます。お口に合ってよかったです」

「いやー。本当に美味しいよ。アデラ。結婚しよ?」

「結婚はしないけど、ありがとう。クリストフ。お代わりもあるから、好きなだけ食べてちょうだい。コニーもね」

「あぁ。ありがたくいただこう」

「ふふー。夜のピクニックもいいものだね!」

「姉さん。次は木苺を採りに行こうよ。ちょうど、次の満月くらいには採り頃じゃない?」

「いいわねぇ。次の満月はまたピクニックしましょうか。木苺のタルトもいいけど、果肉ごろごろソースにしてチーズケーキにかけて食べるのも捨てがたいわねぇ」

「ははっ。次の満月が楽しみだ。どっちも食べてみたいな」

「同じく!」

「あら。じゃあ、両方作りましょうか。大した手間でもないし。ふふっ。夜のお茶会ってなんだか楽しいわねぇ。……私は食べ過ぎ注意だけど。ついつい食べ過ぎて太りそうだわ」

「ぽっちゃりしてるアデラも間違いなく可愛いから、僕的にはなんの問題もないね! だから結婚しよ?」

「ありがとう。結婚はしないわ」

「コニー。次の満月の時も、一緒にいっぱい木苺を採りましょうね」

「あぁ。楽しみにしている」


 アロルドを見て、おっとり楽しそうに笑うデニスが可愛くて堪らない。アロルドはだらしなく笑いながら、夜のお茶会を心から楽しんだ。

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