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11:二度目の満月

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 二度目の満月の日がやってきた。デニスは朝からワクワクしながら、アデラとコニーに見送られて出勤した。今日は朝から雪が降っている。アデラが作ってくれたマフラーを鼻先まで引き上げて、デニスはシルビーに乗って、王都の入口へと向かった。

 少しだけ残業をして今日の仕事を終えると、デニスはいそいそと帰り支度をして、店長に挨拶をしてから店を出た。雪がちらつく中を足早に貸し馬屋へと向かい、シルビーに乗って森の中の家へと帰る。

 家に帰り着き、シルビーを家畜小屋に入れると、頭や肩についた雪を手で払ってから、玄関のドアを開けた。『わふん!』と声が聞こえたので、下を見れば、今日もコニーがお出迎えしてくれた。ぶんぶん尻尾を振っているコニーが可愛らしくて、デニスは小さく笑いながら、しゃがんでコニーの温かい身体を抱き上げた。


「ただいま。コニー。クリストフさんはもう来てる?」

「わふっ」

「そっかー。身体が冷えてるから、先にお風呂に入ろうかな。コニーは、今日はどうする? 一緒に入る? 人間の姿で入る?」

「わふっ!」

「ん? 一緒がいいの?」

「わふ」

「じゃあ、今日も一緒に入ろうか」

「わふん!」


 コニーはお風呂が大好きみたいだ。デニスと一緒に毎日お風呂に入っている。コニーを抱っこして台所を覗けば、アデラとクリストフが2人で料理をしていた。美味しそうな匂いがふわふわと漂っている。


「ただいま。姉さん。クリストフさん」

「おかえり。デニス。外は寒かったでしょ。先にお風呂に入ってらっしゃい」

「うん。そうするよ」

「おかえり。デニス。コニー君の服を用意しておいたから、念の為持って行ってよ。もう月が出てもおかしくない時間帯からね。お風呂上りに裸でいたら風邪をひいちゃう」

「ありがとう。クリストフさん。じゃあ、コニー。お風呂に行こうか」

「わふん!」


 デニスは上機嫌なコニーを抱っこしたまま、自室に向かい、自分の着替えとクリストフが用意してくれていたコニーの着替えを持って、階下の風呂場に向かった。

 脱衣場で服を脱ぎ、コニーを抱っこして風呂場に入ると、浴槽にはお湯がいっぱい入っていた。爽やかな香草の香りもする。アデラが作った、身体を温め、リラックスできるという入浴剤だ。いつもより少しだけ帰るのが遅くなったから、きっとアデラがお湯を溜めてくれていたのだろう。アデラの気遣いが本当に嬉しい。

 いつものように、先にコニーの身体を洗ってから、コニーの身体が冷めないように小さな木桶にお湯を溜めてコニーを入れ、手早く自分の身体と頭を洗う。泡を流して、コニーを抱っこして浴槽のお湯に浸かれば、じわぁっと身体が温まっていく。思わず、『ほあー』と気の抜けた声が出た。

 抱っこしているコニーがもぞもぞし始めたので、手を離すと、コニーが浴槽のお湯の中を器用に犬かきで泳ぎ始めた。今日は雪が1日降っていたから、外を走り回れなかったのだろう。犬かきで泳ぐコニーが可愛くて、だらしなく顔が弛んでしまう。
 コニーを拾ってすぐに、仕事の昼休憩の時間を使って、動物の飼い方の本を買った。犬は毎日散歩させないといけないらしい。そこまで積もっていないが、雪が積もったり、雪が降る中を外で走らせるのも可哀そうで、雪の日は家の中を走ってもらっている。あんまり広い家じゃないが、器用に階段を駆け上ったりして、結構楽しんでいるみたいだとアデラから聞いている。

 身体がしっかり温まったので、デニスはコニーに声をかけて、コニーを抱っこした。浴槽から出た瞬間、コニーの身体が突然白く光り始めた。デニスは慌てて、コニーの小さな身体を風呂場の床に下ろした。数拍しないうちに、淡い茶髪の美丈夫が立っていた。勿論、全裸で。どうやら、月が出たようである。デニスは、背が高い格好いいコニーを見上げて、にへっと笑った。


「こんばんは。コニー。二度目ですね」

「こんばんは。デニス。早く着替えよう。貴方が風邪をひくといけない」

「一緒に着替えましょうか」

「あ、あぁ」


 コニーの凛々しい健康的な色合いの目元が、じんわり赤く染まっている。しっかり身体を温めたからだろう。デニスは、なんとなくコニーの大きな手を握り、脱衣所に入った。身体を拭いて、寝間着を着る。上から温かいガウンを羽織る。コニーを見れば、黒の寝間着に上から濃い緑色のガウンを着ていて、なんだかすっごく格好いい。これでワイングラスとか持っていたら完璧な気がする。大人の男の色気がむんむんで、なんだか憧れてしまう。
 デニスはじーっとコニーを見つめながら、どこか気まずそうなコニーに話しかけた。


「服のサイズは大丈夫ですか?」

「あぁ。特に問題がない。……いや、少し、胸元がきついか。ボタンが閉まるには閉まるんだが……」

「コニーの胸筋すごいですねー。ぱっつんぱっつん! 格好いいです!」

「そうか?」

「はい! 服はもう少し大きめのをクリストフさんに買ってきてもらいましょうね」

「あぁ。お願いしようと思う。俺が金融機関に預けている金を持ってこられれば、すぐに支払えるんだが……」

「金融機関は閉まってる時間帯ですもんね」

「あぁ。暫く貸しにしておいてもらうしかない。クリストフ殿には申し訳ないんだが」

「しょうがないですよ。さっ。ご飯を食べに行きましょう! 姉さんとクリストフさんが張り切って作ってくれている筈ですから!」

「楽しみだ」


 コニーが、嬉しそうにふっと笑った。笑ってもすごく格好いい。デニスは、ちょっと羨ましいなぁと思いながら、コニーと一緒に脱衣所を出た。

 居間に行くと、テーブルの上にご馳走が並んでいた。鶏の丸焼きに、根菜ごろごろのスープ、胡桃のパン、デザートに卵のタルトまである。ほぁーと並んでいる料理を眺めていると、台所の方からアデラとクリストフがやって来た。


「あら。やっぱりコニーは元の姿に戻ったのね」

「うん。クリストフさん。もう少し大きめの服を用意してもらえないかな。胸元がちょっときついみたい」

「申し訳ないのだが、頼んでいいだろうか。貸しにしておいてくれ。必ず返す」

「おや。まぁ、見事な胸筋ですもんねぇ。次の満月までに買ってきますよ。今夜はそれで大丈夫ですか?」

「おそらく。力を入れなければ、ボタンが飛ぶことはないだろう」

「じゃあ、お料理が冷めないうちに食べましょうか。ふふっ。去年つけた杏酒も持ってきたわ」

「やった! コニー。姉さんの杏酒はすっごく美味しいんですよ。あ、甘いのは大丈夫ですか?」

「あぁ。口にすることは少なかったが、割と好きだ」

「よかった。姉さんの卵タルトも美味しいから、期待していてください」

「ははっ! 見ているだけで涎が出そうだ」


 4人とも椅子に座り、食前の祈りを口にしてから、早速食べ始める。香味野菜と香草を腹に詰め込んで焼いてある鶏肉は、外はぱりぱり、中はジューシーで、素直に美味しい。いつもは、新年の祝いでしか作らないものだ。デニスがもぐもぐ咀嚼しながら、ちらっと隣のコニーを見れば、キレイな所作で、すごく美味しそうに食べていた。濃い緑色の瞳が料理に釘付けで、キラキラと輝いている。アデラとクリストフが作った料理を気に入ってもらえたみたいだ。なんだかすごく嬉しい。


「スープには、美味しい燻製肉を使ってみたんだ。半分残してあるから、食後に酒の肴にしよう。美味しいワインも買ってきちゃった」

「ありがとう。クリストフさん」

「ありがとう。クリストフ殿。このスープも本当に美味しい」

「お口にあって何よりです」


 クリストフが照れたように笑った。クリストフの隣に座っているアデラが、胡桃パンに一口大に切った鶏肉を乗せながら、のほほんと笑った。


「明日の朝ご飯は、残った骨で出汁をとって、お野菜と燻製肉入りの雑穀粥にするわね」

「それは間違いなく美味しいやつだ。……俺は朝食まで食べられるだろうか……」

「うーん。微妙というか、今回は無理ですねぇ。あっ! コニー。次の満月の時に、食べたいものはありますか?」

「干し葡萄入りのパンが食べたい。いつも美味しそうな匂いがしていて、すごく気になっていたんだ」

「あら。じゃあ、作りましょうね。他には?」

「そうだな……いつも美味しそうな料理ばかりだから、悩ましいな。デニスのおすすめはあるか?」

「姉さんが作る蕪と燻製肉のスープは絶品ですよー。あと、牛肉に衣をつけて揚げ焼きしたやつとかー、豚肉の香草焼きも好きです。南瓜ごろごろのシチューも美味しいですよー」

「むぅ。どれも捨てがたい。益々、悩むな……」

「ははっ。順番に食べていけばいいですよ。僕が必要な材料は買ってきますし。僕もアデラと料理ができて一緒に食べられるから、本当に役得~。ということで、結婚しない? アデラ」

「結婚はしなけど、買い物はよろしくね。じゃあ、次の満月の時は、干し葡萄のパンと蕪のスープ、牛肉の衣揚げ焼きにしましょうか」

「ふふっ。すごく楽しみだ」


 デニスは、4人でわいわいお喋りをしながら、楽しくて美味しい夕食を堪能した。コニーが美味しそうにもりもり食べてくれたので、多めに作っていた夕食は、全てキレイになくなった。作ったアデラとクリストフが、すごく嬉しそうに笑っていた。

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