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9:穏やかな休日

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 休日。デニスはアデラと一緒に、小さな畑の草むしりと、収穫できそうな冬野菜の収穫をしていた。畑には、アデラが魔法薬を作るのに必要な薬草や料理に使う香草も植えてある。昨日、ついに初雪が降った。ちらほらとした粉雪で、積もる程は降っていないが、これから一気に寒くなっていくだろう。

 大きく育っていた蕪を引き抜くと、デニスはコニーの姿を探した。コニーは、軒下の日当たりがいいところで昼寝をしているようだ。子犬のコニーには危険な薬草や香草も植えてあるので、原則的にコニーは畑には立ち入り禁止と言ってある。デニス達が畑仕事をしている時は、いつもデニス達が見えるところで大人しく日向ぼっこしている。

 畑仕事が終わったら、今度は家畜小屋の掃除である。アデラと2人で黙々と掃除をして、愛馬のシルビーや牛達の身体もブラッシングしてキレイにしてやる。昼前には、今日やろうと思っていたことが終わった。ちょっと汚れたし、汗もかいたので、アデラから順番にシャワーを浴びて、昼食の準備を始める。ちゃんと足を拭いたお昼寝中のコニーをお昼寝専用の籠に入れてあげると、デニスは台所にいるアデラの手伝いを始めた。

 大きな蕪が採れたので、今日の昼食は蕪と燻製肉のスープだ。シンプルな料理だが、アデラが作ると本当に美味しい。朝に焼いたパンも軽く焼き直して、コニー用のご飯も作る。
 料理が出来上がると、デニスはアデラと分けっこして、完成した料理を居間のテーブルに運んだ。

 匂いにつられてか、コニーが鼻をひくひくさせたかと思えば、しゅぱっと起き上がって、たたたっとデニスの足元に来た。キラキラと目を輝かせているコニーが本当に可愛らしい。デニスはコニーを抱き上げ、用意しておいた布巾でコニーの足を拭いてから、コニーをテーブルの上に下ろした。

 コニーは、いつもデニス達が食前の祈りを口にしてから、同じタイミングで食べ始める。元々軍人だからか、コニーだからかは分からないが、コニーは出されたものは何でも美味しそうに食べる。食事を残したことは一度もない。ぶんぶんと尻尾を振りながら、はぐはぐと食べているコニーが可愛くて、ついついほっこりしてしまう。年上の男の人なのだが、子犬の姿だと、どうしても可愛らしいと思ってしまう。本人は『可愛い』と言われるのが嫌ではないみたいなので、デニスはつい頻繁にコニーのことを『可愛い』と言ってしまう。大人の男の人が『可愛い』と言われても、本当は嬉しくないのかもしれないが、コニー本人の許可が出ているし……と、ついコニーに甘えてしまう。

 昼食を食べ終え、後片付けが済むと、アデラは調合室に入っていった。デニスは、コニーを抱っこしてソファーに座り、コニー用に買ったブラシで、コニーの長めの毛を優しく梳き始めた。気持ちがいいのか、デニスの太腿の上で、ころんとコニーがお腹を見せた。お腹側の毛も優しく梳いてやると、コニーの全身がふわふわになった。コニーがお腹を見せたまま、ぴすぴすと小さく鼻を鳴らして眠ってしまった。すごく無防備な姿を見せてくれるのが、信頼の証のようで、本当にすごく嬉しい。

 デニスは、眠るコニーをやんわりと抱き上げて、ソファーに寝そべり、自分の胸の上にコニーを乗せた。コニーの温かな体温と心地よい重さに、デニスまで眠くなってくる。居間は、アデラの魔法で暖炉に火がついていて暖かいし、このまま寝ても多分大丈夫だろう。
 デニスは、コニーの穏やかな寝息に誘われるがまま、穏やかな眠りに落ちた。

 顎のあたりにふわふわした温かいものが触れる感覚で、デニスは目覚めた。目を開けて、ちょっと顔を起こせば、コニーがデニスの顎に額を擦りつけていた。窓の方を見れば、もう夕方になっている。どうやら、コニーが起こしてくれたようだ。
 デニスは笑って、コニーの背中をやんわりと撫でた。


「起こしてくれてありがとう。コニー。もう夕方だね。寝過ぎちゃった」

「わふん」

「洗濯物を取り込まなきゃね。コニーはここにいてね。外は寒いから。一緒に洗濯物を畳もうか」

「わふん!」


 デニスは、コニーをコニー専用の籠に入れると、暖炉の近くにコニーごと籠を移動させた。自室にコートを取りに行き、脱衣所に置いてある洗濯籠を手に取って、家の外に出る。外は昼間と比べると、ぐっと冷えていた。コニーを居間に置いてきて正解である。小さな子犬の身体では、この寒さはきついだろう。
 デニスは手早く洗濯物を取り込むと、急いで家の中に入った。

 暖炉の側の分厚いラグの上で、洗濯物を畳んでいく。ラグの上は土足禁止だ。真冬になると、暖炉の前でお茶を飲んだり、アデラが編み物をしたりするからだ。コニーに話しかけながら、洗濯物を畳んでいく。


「コニー。冬が終わったら、森にピクニックに行こうか。苺がいっぱい採れる所があるんだ。姉さんが作る苺のジャムは美味しいよ。パンに塗っても美味しいけど、紅茶に入れても美味しいんだ。満月の夜になったら、一緒に飲もうね」

「わふっ!」

「コニーは甘いものは好き? 僕は大好き。クッキーとか飴玉とか。給料日にね、必ず帰り道にあるお菓子屋さんで、何か一つお菓子を買うんだ。姉さんと2人分の量。今はコニーがいるから、給料日じゃなくて満月の日に買おうかなぁ」

「わふわふ」

「ふふっ。僕の話ばっかりしてるね。早く次の満月がこないかな。コニーのお話を聞きたいな」

「わふん!」

「今回は事前に満月がいつなのか分かってるから、満月の次の日にお休みもらおうかなぁ。そうしたら、コニーといっぱいお喋りができるよね。うん。そうしよう。明日にでも店長に頼んでみるよ」

「わっふ!」


 コニー相手に喋っていると、洗濯物が畳み終わった。アデラの分とデニスの分とタオル類に分けて、それぞれの部屋や決まった定位置に畳んだ洗濯物を置きに行く。居間の暖炉の前にいたコニーを抱き上げて肩に乗せると、デニスはアデラの手伝いをしに台所へと向かった。

 台所に行くと、アデラがデニス達を見て、微笑ましそうに笑った。


「あら。今日はデニスの肩の上なのね」

「うん。身体が小さいから、意外と安定できるみたい」

「ふふっ。じゃあ、コニーも一緒に晩ご飯を作りましょうね。今夜は南瓜のシチューよ。夏に採れたものを保存しておいたの。コニーには、鶏肉と野菜を湯がきましょうね。湯がいたお湯もシチューに使うわ。折角、お肉とお野菜の旨味が溶け込んでいるんだもの。捨てるなんて勿体無いでしょ? それに、こうしたら、完全に同じものではないけれど、一緒のご飯を食べてるみたいよねぇ」

「わふっ!」


 アデラの言葉に、コニーが嬉しそうな声を上げた。コニーと同じものを食べられるのは、デニスとしても嬉しい。まるで家族が増えたみたいだ。

 デニスは、両親の記憶が朧気である。存命の頃から、2人で長期で出かけていることが多くて、あまり両親と接した記憶がない。物心ついてからの記憶は、殆どアデラと一緒だった。デニスの両親は、旅先の事故で亡くなったと聞いている。アデラが何も言わなかったから、デニスも詳しいことは聞かなかった。

 アデラはずっとデニスのために頑張ってくれている。アデラに恩返しがしたいのだが、これ! っといったことが中々思いつかないのが、ここ数年の悩みの種になっている。おっとりと笑いながらコニーに話しかけつつ、手際よく料理をしているアデラを眺めて、デニスは、いっそ人間の姿のコニーに相談してみるのもありかもなぁと思った。デニスよりもずっと大人だから、なにかいいアドバイスをもらえるかもしれない。今更焦っても仕方がないことなので、コニーと沢山お喋りをして、仲が良くなってから、相談してみよう。

 デニスは小さく笑って、肩に乗っているコニーの温かい背中をやんわりと撫でた。
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