上 下
5 / 43

5:助っ人登場!

しおりを挟む
 休日の朝。デニスが目覚めると、コニーの濃い緑色の瞳と目が合った。コニーの瞳の色は、まるで夏の元気な木々の葉っぱのようで、とても生命力に溢れていて素敵だなぁと思う。デニスは寝転がったまま、ゆるく笑って、コニーの長めの毛がふわふわな背中をやんわりと撫でた。


「おはよう。コニー。顔を洗ったら、ミルクを搾って、卵を分けてもらってくるよ。一緒に行く?」

「わふっ!」


 コニーが目をキラキラと輝かせて、こくんと頷いた。出会ってから日が経っていないが、デニスに気を許してもらえているみたいで、なんだか嬉しい。デニスはベッドから下りると、寝間着から着替えて、コニーを抱っこして部屋を出た。

 まだ日が昇り始めた時間帯だ。外の空気がひんやりとしている。抱っこしているコニーの体温が心地いい。多分、あと半月もしないうちに雪が降り始めるだろう。コニーが子犬の姿にされたのが、雪が降る時期じゃなくて本当によかった。保護するのが間に合わなかった可能性もある。デニスはコニーの背中をやんわり撫でながら、家に離接する家畜小屋に入った。

 愛馬や牛達と鶏に、先に餌と水をあげてから、小屋の隅っこに置いてあるブリキの容器を持って、雌牛のリーンのミルクを搾る。手早くミルクを搾っていると、リーンに興味があるのか、コニーがリーンをじっと見上げていた。なんだか微笑ましい。デニスは小さく笑いながらミルクを搾り終えた。

 鶏達から卵を分けてもらって、籠に入れた卵と搾りたてのミルクが入った容器を持って、家の中に入る。たたたっとデニスの後をついてくるコニーがとても可愛らしい。もしかしたら年上の男の人なのかもしれないが、今は可愛らしい子犬の姿だ。どうしても、可愛いなぁとほっこりしてしまう。

 台所に向かうと、アデラがやって来た。アデラがおっとりと笑いながら、デニスの足元にいるコニーを抱き上げた。


「おはよう。デニス。コニー。早く朝ご飯を作るわね。お腹空いているでしょ?」

「わふっ!」

「あはは。コニーはお腹空いたって」

「ふふっ。美味しいご飯を作らなきゃね」


 デニスは、朝食を作り始めたアデラを手伝った。ずっとデニスの足元にいるコニーをちらっと見下ろして、デニスはコニーが可愛くて、思わず頬をゆるめた。こんなに懐いてもらえると、ちょっと照れくさい気もするが、すごく嬉しい。

 出来上がった朝食を食べ終え、後片付けが済んだタイミングで、玄関の呼び鈴が鳴った。もしかしたら、助っ人のクリストフかもしれない。デニスは足元にいたコニーを抱っこして、アデラと一緒に玄関に向かった。

 アデラが玄関のドアを開けると、鮮やかな金髪と金色の瞳の柔和な顔立ちをした30代前半の背が高い男が立っていた。アデラが呼んだ助っ人のクリストフである。金色の瞳は、魔力を持っている証である。女性だと魔女、男性だと魔法使いと呼ばれている。
 魔法使いのクリストフが爽やかに笑って口を開いた。


「おはよう。アデラ。デニス。アデラは今日も可愛いね。そろそろ結婚しない?」

「おはよう。クリストフ。わざわざ来てくれてありがとう。でも結婚はしないわ」

「おや残念。まぁ、結婚してくれるまで諦めないけどね! 結婚という新たなスタートを2人で始めたいなぁ」

「おはよう。クリストフさん。今日も絶好調だね」

「まぁね。そりゃあ、愛しのアデラに会えるんだから、絶好調にもなるよね!」

「はいはい。とりあえず、入って。外は寒いでしょう?」

「うん。お邪魔するよ」

「すぐに温かい薬草茶を淹れるから、居間で少しだけ待っていて」

「アデラの薬草茶は絶品だからね! すごく楽しみだ!」

「ありがとう。褒めてもクッキーしか出てこないわよ」

「アデラ手作りのクッキーの為ならば、いくらでも褒めたたえようと思う」

「はいはい」


 アデラがクリストフの言葉を適当に流して、台所へと向かっていった。デニスはコニーを抱っこしたまま、クリストフと一緒に居間に移動した。二つあるソファーに向かい合って座ると、クリストフが、じっとデニスが抱っこしているコニーを見つめた。


「アデラの手紙に書いてあったのは、その子のことだろう? 確かにブリッタの魔法の気配がするね。やー。彼女も本当に傍迷惑な魔女だよねぇ」

「コニーの魔法はとけますか?」

「僕には無理だね。でも、魔法をとく方法はなんとなくだけど分かるよ」

「わぁ! クリストフさん、本当にすごい!」

「相変わらず『目』がいいわね。私では、満月の夜に人間の姿に戻れるってことしか分からなかったわ」


 アデラがお盆にカップをのせて近くにやって来た。ソファーの間にあるローテーブルにカップを置いたアデラが、コニーの頭をやんわりと撫でてから、まっすぐにクリストフの方を見た。


「それで、コニーの魔法のとき方は?」

「割と単純明快というか、ありがちというか、まぁ恋多き魔女のブリッタらしい魔法のとき方だよ。『お互いに心から愛し愛される相手とキスをする』。そうすれば、魔法がとける」

「クリストフさん。それって、『うちの子世界で一番可愛いっ!』とか、家族愛的なやつでも大丈夫なんですか?」

「んー。残念なお知らせだよ。デニス。性愛じゃないと駄目っぽい」

「せいあい」

「性欲込みの恋愛感情のことだね」


 デニスは思わずアデラと顔を見合わせた。コニーは男の子だ。この場合、デニスとアデラの2人でコニーの魔法をとこうと思ったら、消去法でアデラがコニーと恋愛関係になるしかない。アデラがとても困った顔をした。


「私は無理よ。コニーのことは可愛いと思っているけど、子犬に恋愛感情を抱くのは流石に無理だわ」

「だろうね。それに、アデラには僕がいるしね! ということで、結婚しよう。アデラ」

「それは嫌。独身の方が気楽でいいの」

「じゃあ、妥協して恋人」

「恋人も募集してないわ」

「やー! 相変わらず手強いね! そんなところも好きだけどね! ほんと可愛い」

「クリストフ。貴方って本当に趣味が悪いわ」

「この上なく最高に趣味がいいよ!」

「はいはい。でも、本当にどうしましょうか。魔法のとき方が分かっても、魔法をとくのはかなりの難題よ」

「ははっ。このイラッとくる厄介さがブリッタらしいよね」

「はぁ……本当に困ったちゃんなんだから」

「次の満月まで10日くらいだろう? その時には人間の姿に戻れるから、どういった経緯でコニー君が子犬の姿にされたのか、聞いてみるといいよ。あっ! アデラ。だからといって、コニー君に惚れちゃあ嫌だよ?」

「安心してちょうだい。それはないから」

「次の満月の時は、僕も此処に来よう。僕もコニー君の話を聞いておきたいからね。それに、万が一アデラが好きになっちゃったら嫌だし!」

「一緒にいてくれるのは素直に心強いわ。ありがとう。クリストフ」

「いやいや。愛しのアデラの為なら何だって喜んでするよ! だから結婚しよ!」

「結婚はしないわ」


 アデラとクリストフの付き合いは、10代の頃からだから、もう15年以上経つ。クリストフは、10代のころから、ずっとアデラのことが好きみたいだ。デニスとしては、クリストフの優しくて明るい性格とか知っているので、義理の兄になってもらっても構わないと思っている。アデラの気持ちが一番なのだが、実は密かに一途なクリストフを応援している。

 昼食を食べてから帰っていくクリストフを見送ると、居間で薬草茶を飲みながら、デニスはアデラと一緒に溜め息を吐いた。


「魔法のとき方が分かったのはいいけど、本当にどうしようか」

「そうねぇ。満月の夜に、コニーも一緒に考えてみるしかないわねぇ。コニーも本当に厄介な魔法をかけられちゃったわね」

「コニー。なんとか魔法がとけるように、色々方法を考えてみようね」

「わふっ」


 デニスが太腿の上のコニーを撫でながら言うと、コニーがゆるく尻尾を振りながら、返事をしてくれた。
 とりあえず、今は満月の日がくるのを待つことしかできない。デニスは頭を切り替えて、アデラと一緒に庭の小さな畑の世話を始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結】王子に婚約破棄され故郷に帰った僕は、成長した美形の愛弟子に愛される事になりました。──BL短編集──

櫻坂 真紀
BL
【王子に婚約破棄され故郷に帰った僕は、成長した美形の愛弟子に愛される事になりました。】 元ショタの美形愛弟子×婚約破棄された出戻り魔法使いのお話、完結しました。 1万文字前後のBL短編集です。 規約の改定に伴い、過去の作品をまとめました。 暫く作品を書く予定はないので、ここで一旦完結します。 (もしまた書くなら、新しく短編集を作ると思います。)

【完結】役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ

鏑木 うりこ
BL
僕は王宮で能無しの役立たずと全員から疎まれていた。そしてとうとう大失敗をやらかす。 「カイ!お前とは婚約破棄だ!二度と顔を出すんじゃない!」  ビクビクと小さくなる僕に手を差し伸べてくれたのは隣の隣の国の王子様だった。 「では、私がいただいても?」  僕はどうしたら良いんだろう?え?僕は一体?!  役立たずの僕がとても可愛がられています!  BLですが、R指定がありません! 色々緩いです。 1万字程度の短編です。若干のざまぁ要素がありますが、令嬢ものではございせん。 本編は完結済みです。 小話も完結致しました。  土日のお供になれば嬉しいです(*'▽'*)  小話の方もこれで完結となります。お読みいただき誠にありがとうございました! アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会で小話を書いています。 お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

同室のイケメンに毎晩オカズにされる件

おみなしづき
BL
 オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?  それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎  毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。  段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです! ※がっつりR18です。予告はありません。

【R18/短編】僕はただの公爵令息様の取り巻きAなので!

ナイトウ
BL
傾向: ふんわり弟フェチお坊ちゃま攻め、鈍感弟受け、溺愛、義兄弟、身分差、乳首責め、前立腺責め、結腸責め、騎乗位

処理中です...