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堅物クソ真面目野郎の分かりにくい愛

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 エドガルドは、洗面台の鏡の前で、丁寧に髭を剃っていた。今日はお見合いパーティーである。エドガルドは今年で29歳になる。結婚適齢期は25歳くらいまでなので、正直かなり焦っている。

 エドガルドは、淡い赤毛に深い緑色の瞳をした男臭い顔立ちをしている。顔立ちは整っている方だと思うが、下睫毛の自己主張が若干激しめなせいか、『暑苦しい』と言われることが多い。自分では、陽気で楽しい性格をしていると思っているが、『明る過ぎてウザい』と言われる事が多々ある。解せぬ。それなりにモテる方なのだが、恋人ができても長続きしない。『貴方といると、なんか疲れる』と言われる。何故だ。

 エドガルドは、今日こそ素敵な結婚相手を見つけようと、気合を入れてお洒落をして、軍の官舎の自宅を出た。

 お見合いパーティー会場で、小柄で可愛い女性と話していると、遠目に天敵である男を見かけた。同じ軍の部隊に所属しているヴァードである。同期の1人だが、堅物クソ真面目を絵に描いたような男で、新人の頃から、何かと絡まれる事が多い。きっちり整えている黒髪と銀縁の眼鏡の奥の深い青色の瞳が理知的だが、結構短気ですぐキレる。

 面倒な事になる前に、さっさと小柄な女性を口説き落とそうとしていたが、小柄な女性は、おずおずと『暑苦しい殿方はちょっと苦手で……』と言って、そそくさと立ち去っていった。
 エドガルドはそんなにも暑苦しいのか。下睫毛か。下睫毛が悪いのか。
 エドガルドは、悔しくて、ギリギリ奥歯を噛み締めた。頭を切り替えて、次の女性に声をかけようと移動をし始めてすぐに、近くにヴァードがやって来た。


「げっ」

「人の顔を見るなり、『げっ』とはなんだ。失礼な」

「へいへーい。すんませーん。つーか、お前、わざわざお見合いパーティーに来なくても、実家がいくらでも見合い相手を用意してくれるだろ。お前の実家って、確か有名なデカい商会だよな」

「十回見合いをして、十回とも断られた」

「何したんだよ」

「別に。いつも通りにしていた」

「だから駄目なんじゃねえか。堅物クソ真面目野郎。女の子を相手にする時はなぁ、とにかく! にこやかに! 爽やかに! 笑顔で! 可愛いと褒める! これが鉄則だ」

「その割には、お前の相手がいないようだが」

「余計なお世話だ馬鹿野郎この野郎」

「いい加減、親から『結婚しろ』と言われるのが面倒になってきた」

「おや。珍しい。お前が弱音を吐くなんざ」

「顔を合わせる度に、『結婚相手は見つかったか』『まだ結婚しないのか』『もういっそのこと男でも構わん』とか、実家にいる間、家族皆から言われるんだぞ」

「それは地味にキツいやーつ」

「……僕みたいな面白みのない男と結婚する女が気の毒だ」

「それは確かに」

「そこは否定しろ」

「否定できる要素がねぇよ」

「お前は結婚相手くらい、すぐに見つけられるだろう。いつもチャラチャラしてるし、女とも仲良くなるのが上手いだろう」

「はっはっは! 『暑苦しい殿方は苦手で』ってフラレたばっかですけどぉ!? 付き合っても『貴方といると、なんか疲れる』って、フラレるばっかですけど何かぁ!?」

「あぁ。ちょっと分かる気もする」

「なによ! そんなに俺ってば暑苦しい訳!? お洒落にも気を使ってるし、女の子の前じゃ品のないことは言わないし、女の子の素敵だなってとこは、全力で褒めてるのにーー!!」

「お前、基本的にいつでもテンション高いから、なんか疲れる」

「てめぇこの野郎。喧嘩売ってんなら買うぞ」

「別に喧嘩を売ってる訳じゃない。単なる事実だ」

「余計悪いわーー!! 俺! 傷ついた! 謝罪代わりに酒を奢れー!! 自棄酒じゃーー!!」

「煩い。まぁ、お見合いパーティー会場にいるのも疲れてきたし、抜けて飲みに行くか」

「おや。珍しい。堅物クソ真面目君が」

「僕にだって、たまには酒を飲みたい気分の時がある」

「あっそ。まぁいいや。1人で飯食ったり、酒飲むの好きじゃねぇし。今日はとことん付き合えよ。割と近くに、安くて美味い上にメニュー豊富な飲み屋があるからよぉ。そこに行こうぜー!」

「できたら、静かな所で飲みたいんだが」

「そこの店、二階に個室もある。埋まってなけりゃ、個室で飲めるぜ」

「個室が空いている事を祈ろう」


 こうして、エドガルドは、天敵ヴァードと成り行きで一緒に酒を飲むことになった。

 エドガルドのオススメの店に着くと、エドガルドはすぐに近くにいた店員に声をかけた。幸い、一室だけ個室が空いていたので、早速、店員に案内してもらう。一階はごちゃごちゃと賑やかだが、二階は静かなものだ。この飲み屋の二階は、各部屋に防音結界を張る魔導具が置かれているので、内緒話をしたり、派手に騒ぎまくりたい時には、とても重宝する。店員は、呼ばれないと来ないし、酒も瓶ごと持ってきてくれる。

 エドガルドは、物珍しそうに部屋の中を眺めているヴァードに、テーブルの上に置かれていたメニュー表を手渡した。


「好きなもん頼めよー。この店は、特に海産物がオススメ。今の時期だと、蟹とか牡蠣が美味いぜ!」

「ふぅん。じゃあ、この蟹グラタンで」

「俺はなんにしよっかなー。焼き牡蠣は頼むとしてー。蟹のスープとー、特製胡桃パンとー、魚の香草焼きとー。……おっ! イカもいいな! イカの丸焼きもたーのも!」

「そんなに食うのか」

「あ? お前と分けっこして食えばいいじゃねぇか」

「……あ、そう」

「ワインはとりあえず軽めの白でいいだろー?」

「構わない」

「じゃあ、注文しよ。ヴァード、そこのボタン押してくれ。店員が来てくれるから」

「これか?」

「それ!」


 ヴァードが、店員呼び出し用ボタンを押すと、すぐに店員が個室の中に入ってきた。エドガルドが、注文を伝えると、店員は笑顔で個室から出ていった。
 特に会話もなく、暫し待っていると、店員が沢山の料理とワインボトルを運んできた。店員がワイングラスにワインを注いでくれた後、『どうぞごゆっくりお楽しみください』と言って、防音結界の魔導具を起動させて出ていった。

 相手は、天敵とも言えるヴァードだが、どうせ一緒に食事をするなら、楽しい方がいい。折角の美味しい料理と酒なのだ。美味しく、楽しんで食べてやるべきである。
 エドガルドは、ニッと笑って、ヴァードにワイングラスを差し出し、カチンと軽くグラスをぶつけて、乾杯をした。

 熱々の焼き牡蠣も、噛めば噛むほど旨味が出てくるイカも抜群に美味い。辛口のワインにもよく合う。蟹のスープは、蟹肉がいっぱい入ってて、卵で柔らかい感じになっていて、これも最高に美味い。魚の香草焼きを千切った胡桃パンに少しだけのせて口に放り込めば、口の中が天国になる。どれも本当に美味い。


「ヴァード。蟹グラタン、ちょっとくれ。あと、牡蠣食ってみろよ! 美味すぎて飛ぶぞ!」

「大袈裟な……まぁ、貰うけど」

「おー! 食え食え! イカもガチで絶品! 香草焼きも最高! 蟹のスープは毎日食いたいくらいだぜ!!」

「はいはい。ちょっとずつ、貰うよ。……あ、本当だ。この牡蠣、すごく美味しい」

「だろ!? 檸檬がすげぇいい仕事してるよな!」

「……確かに、どれもすごく美味しい」

「だろー!! この蟹グラタンもやべぇな! ちょーうまーーい!!」

「いちいち叫ぶな。煩い」

「思わず叫んじゃう美味さだから、しょうがねぇ!」

「だから、お前は一緒にいると疲れるって言われるんだよ。テンション落とせ。もういい歳だぞ。少しは年相応に落ち着きをだな……」

「へいへーい。細けぇことは気にすんな! 楽しけりゃ、それでいいんだよ! クソつまんねぇ時でも、笑ってりゃ、なんかいい事あんだよ!」

「……戦場でも笑ってたな。そういえば。あんな地獄でよく笑えたな」

「あー? どの戦場? 一番ヤバかったやつか?」

「あぁ。作戦が僅かでも失敗していれば、こちらが壊滅して、全員死ぬところだった」

「ははっ! そういう時こそ笑わねーと! 笑うと幸運を引き寄せるって、死んだ婆ちゃんが言ってたぜ!」

「そうか。僕には真似出来ない」

「俺もお前の真似とかできねぇわ。なーなー。お前ってよー、いつもクソ真面目な顔か、顰めっ面しかしてねぇじゃん。疲れねぇの?」

「別に」

「ふーん。あっ! この店のよ、デザートもすっげぇ美味いんだよ! 種類は少ねぇから、全制覇しようぜ! 甘いもんは平気だろ?」

「平気だが、まだ食う気か」

「おう! 特に林檎のゼリーがオススメだぜ! あと、林檎パイも絶品! 林檎が旬な今しか食えねぇのさ!」

「ふぅん」

「ということで、店員呼んでくれ」

「あぁ」

「食後は珈琲派? 紅茶派?」

「珈琲」

「おっ。奇遇! 俺も珈琲派だぜ!」

「そうか」


 ヴァードが店員呼び出しボタンを押すと、すぐに店員が個室に入ってきた。キレイに食べ終えた皿を下げてもらい、デザートと珈琲を注文する。
 店員がにこやかな笑顔で個室から出ていくと、じっとヴァードがエドガルドを見ていることに気がついた。


「なんだ? 喧嘩なら後で買うぞ?」

「別に喧嘩を売るつもりはない。そもそも、私闘は禁じられている」

「それでも、たまに喧嘩になってたじゃん。俺ら」

「若い頃の話だろう」

「いやぁ、反省房の常連だった日々が懐かしいぜ! あそこを根城にしてる鼠と仲良しになったんだよなー! 俺!」

「鼠と仲良くなるな。不潔だろう」

「鼠って、ちっちゃくて可愛いよな! 俺は基本的に小さくて可愛いものが大好きだ!」

「あ、そう」


 ヴァードが興味なさげに、テーブルに頬杖をついた。健康的に日に焼けた目元が淡く赤く染まっているので、もしかしたら、酔ってるのかもしれない。普段のヴァードなら、頬杖をつくなんて、『行儀が悪い』と言って、絶対にしないし、エドガルドがしていたら、ネチネチと注意してくる。


「エドガルド」

「なんだーい?」

「君、暫くの間、僕の婚約者のフリをしないか?」

「は? え? え? ごめん、もっかい言って」

「僕の婚約者のフリをしてくれ」

「えーー! なんでだよー! 理由は!?」

「親からの『結婚しろ』圧力が、本当に煩わしい」

「えー。そこまでー? つーか、俺とお前、ぶっちゃけ仲良くねぇじゃん。相手が俺で納得すんの?」

「殴り合って愛が芽生えたとでも言っておけばいい。で、ちょっと落ち着いた頃に、『一緒にいると、疲れるから』ってお決まりの台詞で別れる」

「俺には欠片もメリットねぇじゃん!!」

「婚約者のフリをしてくれるなら、その期間の食費は僕が出そう」

「マジか!? え、酒代も?」

「……まぁ、しょうがない。必要経費だ」

「うぇーい! よっしゃー! 俺、お前の婚約者になるわー!! タダ酒にタダ飯とか最高じゃーん!!」

「次の休みにでも、僕の実家に行こう」

「あ、わりぃ。次の休みは実家に帰るって、下のチビ達と約束してんだわ」

「兄弟がいるのか」

「下に6人! 一番下はまだ2歳だぜ! 親父がよー、いい歳して再婚したから、血が繋がらない兄弟が3人いんのよ!」

「まさか……君、長男か?」

「長男だけど?」

「なんて落ち着きのない長男だ……」

「失敬にゃー! これでも面倒みはいい方ですぅ! 赤ん坊の世話だってできるしぃ!」

「あ、そう。ちなみに、僕は、兄が1人と、弟が1人だ」

「真ん中?」

「真ん中。兄も弟も結婚して子供がいる」

「ふぅーん。じゃあよー。午前中に、お前ん家に挨拶に行って、午後からうちの実家に来ればいいんじゃね?」

「君の家族にも、僕を紹介するのか?」

「おう! だって、暫くは婚約者のフリをすんだし!」

「そ、そうか」


 ヴァードが、何故か目を泳がせた。目尻のあたりが赤いので、やはり酔っているのだろう。
 話が途切れたタイミングで、デザートと珈琲が運ばれてきた。

 デザートも珈琲も最高に美味しくて、おまけに暫くタダ酒とタダ飯が確定したので、エドガルドのテンションは、ぎゅんっと上がった。

 満腹の腹を擦りながら店から出ると、ぼんやり暗くなっていた。美味しいものをたらふく食べたが、もう少し酒を飲みたい。
 エドガルドは、ヴァードに声をかけた。


「もうちょい飲もうぜー! 安くて美味くて酒の種類がめちゃくちゃ多いバーがあるぜ!」

「じゃあ、少しだけ。婚約者のフリをする設定を少し擦り合わせておきたいし」

「よっしゃー! じゃあ、行こうぜ! こっから、そんなに離れてねぇし!」

「あぁ」


 エドガルドは、ご機嫌に、ヴァードをつれて、馴染みのバーに向かった。馴染みのバーは、客層が若いからか、いつ来ても賑やかなだ。だからこそ、こそこそ内緒話をするのにもってこいである。誰もエドガルド達の話なんか聞かない。皆、其々の連れと飲んで騒いでいるだけだ。

 バーの店内に入ると、あまりの賑やかさに、ヴァードが眉間に深い皺を寄せたが、内緒話にはいい場所だと説明すると、納得したのか、特に何も言わずに、大人しく隅っこのテーブル席に向かった。

 テーブル席で、メニュー表を広げると、ヴァードがぼそっと呟いた。


「本当に酒の種類が多いな」

「オリジナルカクテルが多いからなぁ。全部は飲んでないけど、どれも美味いぜ!」

「ふぅん。君のオススメは?」

「んー。これ。飲みやすくて美味いけど、二日酔いになりにくいやつ」

「じゃあ、それで」

「俺も今日はこれにしとくか。明日は訓練日だし。休み明けに訓練日ってキツくないかー!?」

「訓練も仕事のうちだ。そもそも、生きて帰るために必要なことだろう」

「そうっすけどねー!! お隣さんとの停戦条約が切れるのって、再来年だったっけ?」

「あぁ。間違いなく、また戦争になる」

「はぁー。やだやだ。お隣さんもいい加減諦めればいいのによー」

「隣国は、穀物を育てられる土地が少ない。対して、我が国は豊かな土壌が広がっている。どうしても穀物地帯が欲しいのだろうよ」

「そりゃねー、理屈は分からんでもないけどよー。戦争になると、どっちの国も疲弊すんじゃん。そこを別の国に狙われたら終わりじゃん?」

「まぁな。短期決戦で隣国を降伏させるか、もしくは、また停戦条約を結ぶしかない。戦争が長期化すれば、確実に別の国が襲ってくるだろう」

「平和が一番なんだけどなー」

「それは確かに。話は変わるが、どんな設定でいく」

「えー? んー。とりま、俺がお前に告ってー、お前が受け入れてーの方が良くない? 別れる時の事も考えたら」

「じゃあ、それでいこう」

「なんか、それっぽいことすっか」

「それっぽいこと?」

「愛称で呼ぶとか。ヴァードだろ? ヴィーとかどうよ! 可愛いじゃん? どやぁ!」

「この歳で、愛称で呼び合うとか、頭おかしいんじゃないか?」

「おっ。喧嘩なら買うぞ? しこたま飲んだ後で。俺の愛称は……エドガルドだし、普通にエディでいいんじゃね?」

「愛称で呼ぶこと確定か」

「じゃあ、今から、俺はお前をヴィーと呼ぶ! お前は俺をエディと呼べ! はい! 決定!! 拍手!!」

「拍手はしない」

「しろよ。ノリわりぃな。スキンシップはどこまでよ。ハグまでなら、多分、普通にできるぜ? 俺」

「……じゃ、じゃあ、ハグまでで」

「りょーかーい。男同士の結婚ってよ、確か、養子を育てるのが条件だったろ? そこらへんを聞かれたら、どうすんだ?」

「それは、結婚して、1年の新婚期間を楽しんでから、養子を探すと言えばいい」

「あ、それでもいいんだ。結婚したら即子育てー!! って感じだと思ってたわ。俺」

「いや、多少は融通をきかせてくれる。最低でも3年以内に養子を迎えればいいらしい」

「ふーん。次の休みってよー、何着ていったらいいわけ? やっぱ今着てるみたいなお洒落スーツ!?」

「その派手なスーツはやめろ。軍服の略式礼装でいいだろう。結婚式も軍服の礼装でする者が殆どだし」

「うぃーっす。略式礼装を引っ張り出して、洗濯屋に頼まねぇとな。ふっ。弟や妹達から、『きゃー! 兄ちゃんちょーカッコイイーー!!』とキャーキャー言われる予感しかしないぜ!!」

「言われるといいな」

「おうともよ!!」


 ヴァードのどこか呆れた顔を眺めながら、エドガルドは、ニッと笑った。過去には何度も殴り合いをしまくった相手ではあるが、仕事が絡まなければ、なんか普通に会話できる。タダ酒とタダ飯も魅力的だし、どうせなら、婚約者のフリも楽しんだ方がいい気もする。
 エドガルドは、すっと片手をヴァードに差し出した。


「じゃあ、今から、よろしくな! ヴィー!」

「……よろしく。……エディ」


 握手を交わすヴァードの目元が、さっきよりも赤らんでいた。もしかしたら、ヴァードは酒に弱いのかもしれない。
 エドガルドは、追加で同じ酒を注文し、ヴァードには、もう少し酒精の弱いものを注文した。
 2人で気が済むまで酒を飲むと、バーを出て、軍の独身用官舎へと帰る。ちょっと試しに、ヴァードの手を握ってみた。マジ無理ーっ! って感じはしない。ゴツい男の手だなとは思うが。エドガルドは、心地よい酔いに鼻歌を歌いながら、ヴァードと繋いだ手をゆるく振って、軍の官舎まで帰った。




ーーーーーー
 エドガルドがヴァードと婚約者のフリをするようになって、一ヶ月が経った。エドガルドは、仕事が終わると、ヴァードと手を繋いで、軍の建物を出た。

 エドガルドとヴァードが婚約したという噂は、あっという間に軍の部隊内に広がった。『あの犬猿な仲のあいつらの間で何があった』と、周囲は興味津々なご様子である。エドガルドは、よく色々聞かれるので、適当に答えている。

 ヴァードの両親にも、エドガルドの両親にも、婚約の挨拶をしに行った。ヴァードの両親は、上品ながらに大喜びしており、『相手は男でも、エドガルド君なら構わない!』と言われた。昼食を一緒にしたのだが、ヴァードの父親から割と好かれたらしく、挨拶をしに行った日以降も、たまに食事に誘われている。

 エドガルドの両親も、『やっと結婚相手が見つかった!!』と、普通に喜んでいた。ちびっ子達がヴァードに早々と懐いて、甥っ子姪っ子がいるのに子供慣れしていないヴァードが戸惑っていたのが、少し面白かった。

 エドガルドは、ヴァードと繋いだ手をゆるく振りながら、歩きながら本を読んでいるヴァードに声をかけた。


「ヴィー。今日の晩飯、何食う?」

「魚の気分だ」

「そっかー。ちなみに俺は肉の気分! ということで! 硬貨で決める? 殴り合いで決める?」

「街中で殴り合いなんてできるか。脳みそ筋肉族。硬貨で決める」

「うぃーーっす。じゃあ、俺は表」

「裏」


 エドガルドは、ヴァードの手を離して、歩きながら、ズボンのポケットに入れていた財布から硬貨を取り出した。親指でピンッと硬貨を弾いて宙に飛ばし、落ちてきた硬貨をパシッと手の甲で受け止める。残念ながら、裏だった。今日の夕食は魚である。魚も好きだから、別に構わないが。

 婚約者のフリをしている間は、ヴァードが食費を払う。エドガルドは、ご機嫌に鼻歌を歌いながら、ヴァードの手を再び握って、魚料理が美味しい店へと向かった。

 エドガルドが、熱々ほこほこの大きな魚の香草焼きをパンにのせて頬張っていると、キレイな所作で同じ料理を食べているヴァードが、エドガルドをチラッと見て、口を開いた。


「美味そうに食べるな」

「めちゃくちゃ美味いじゃーん!」

「声がデカい」

「へいへい。すんませーん。なぁ、明後日は休みだろー。明日は飲みに行こうぜ!」

「別に構わないが。酔って僕に絡むなよ」

「かーらーみーまーせーんー」

「嘘をつけ。いつも絡んでくるくせに」

「そうか? まぁ、気にすんな! 明日はしこたま飲むぞー!」

「好きにしろ」

「おうよ!」


 ヴァードが呆れた顔をしたが、エドガルドは、ニッと笑った。ヴァードと婚約者のフリをし始めて、以前よりも一緒にいる時間が長くなると、薄々と、ヴァードが単なる嫌味な堅物クソ真面目野郎とは思わなくなってきた。もっと若い頃は、とにかく気が合わなくて、何度も殴り合いをして、上官に怒られていたが、今のところ、まだ殴り合いの喧嘩はしていない。ちょっとした口喧嘩くらいはするが。お互いに歳を重ねて、少し落ち着いてきたからだろうか。前は、ヴァードのことを天敵だと思っていたが、今はそうでもない。ヴァードは、毎日、律儀に食事を奢ってくれるし、なんだかんだで、エドガルドの話に付き合ってくれる。周囲へのパフォーマンスで手を繋いでも、別になんとも思わない。硬くてゴツい手だなぁと思うくらいだ。女の子のような柔らかさは無いが、ヴァードの手はいつでも温かい。最近はすっかり慣れて、仕事中以外で一緒に歩く時は、自然と手を繋ぐようになった。慣れって怖いが、別に嫌でもない。

 エドガルドは、腹が膨れるまでガッツリ夕食を楽しむと、ヴァードと手を繋いで、軍の官舎へと帰った。

 翌日。キッツい訓練を終えると、エドガルドはいそいそと帰り支度をして、ヴァードと手を繋いで軍の建物を出た。今日はとことん飲むつもりである。身体は疲れているが、美味しい酒が楽しみで、めちゃくちゃテンションが上がる。
 エドガルドは、軽やかに歩きながら、ヴァードに声をかけた。


「ヴィー。今日は何食うよ」

「肉でいい」

「おぅよ! 今日はとことん食って飲むぞー!」

「叫ぶな。煩い」

「はっはっはー! いいじゃねぇか! 楽しいし!」

「あっそ」


 ほぼ身長が変わらないヴァードの横顔をチラッと見れば、ほんの微かに、目元が赤く染まって見えた。多分、夕焼けのせいだろう。エドガルドは、ゆるく繋いだ手を振りながら、うきうきと馴染みの安くて美味い飲み屋へと向かった。

 飲み屋でそこそこ飲み、馴染みのバーに移動してから、更に酒を飲んだ。バーの閉店時間になったので、バーを出たが、もうちょっと酒を飲みたい気分である。エドガルドは、ガッとヴァードの肩に腕を回した。


「ヴィー! 俺ん家でもうちょい飲もうぜー!」

「近い。……まぁ、いいけど」

「そうこなくっちゃ!」


 エドガルドは、ご機嫌に笑って、ヴァードの手を握った。酒が入っているからか、ヴァードの手はいつもより温かい。そろそろ秋も終わるので、夜になると、それなりに冷えるようになってきた。ヴァードの体温が割と心地いい。エドガルドは、ご機嫌に鼻歌を歌いながら、官舎の自宅へと帰った。

 官舎の自宅に入ると、部屋の中を見回して、ヴァードが驚いたように目を丸くした。


「キレイ過ぎて、酔いが覚めた」

「なんでだよ」

「いや、意外過ぎて」

「失敬にゃー! 俺はこう見えてキレイ好きですぅ!!」

「叫ぶな。近所迷惑だ」

「へいへーい。すんませーん。よし! 飲むぞ! 朝まで付き合えよー!」

「はいはい」


 軍の独身用官舎の部屋は、風呂トイレと狭い台所以外は、やや広めの一部屋しかない。たまに、友達と家で飲み会をするので、一応、折りたたみ式の椅子を何脚か置いている。エドガルドは、いそいそと折りたたみ式の椅子を部屋の隅っこから移動させると、ヴァードを座らせ、台所に酒とグラスを取りに行った。
 お気に入りのキツい蒸留酒をグラスに注ぎ、ヴァードと乾杯をしてから、クッと一息でグラスの酒を飲み干す。安さが売りの蒸留酒だが、それなりに美味い。キツい酒精が喉を焼き、胃がカッと熱くなる感覚が最高にいい。ぷっはぁと大きく酒臭い息を吐くと、エドガルドは、ちびちびと舐めるように酒を飲んでいるヴァードに話しかけた。


「なぁなぁ。ヴィー」

「なんだ」

「婚約者のフリっていつまでやんの? 俺はいつまででも構わねぇけどよー。ヴィーのお財布的に大丈夫な訳?」

「金を使う趣味もないから、貯金はそれなりにある。問題無い」

「流石、堅物クソ真面目野郎。堅実~!」

「君だって、貯金くらいはあるだろう?」

「まぁ、多少は? 結婚してぇしー。結婚したらー、小さめの家を買ってー、犬を飼いてぇのよねー。犬って可愛いよな!!」

「僕は猫派だ。……まぁ、犬も好きだけど」

「大型犬もいいけど、やっぱ小さめの可愛いのがいいよなぁ。毎朝、一緒に走りてぇわ」

「小型犬が可哀想」

「なんでだよー!」

「君、部隊内で一番足が速いじゃないか。君のペースで小型犬が走れる訳がないだろう」

「そうか? 頑張ればイケる!!」

「散歩程度にしてやれ。脳みそ筋肉族。犬が可哀想」

「えぇーー!! ヴィーはさー、なんか夢とかねぇの? 結婚したら、こうしたいー! みたいな?」

「……一緒に食事をして、一緒に寝れたら、それで十分だ」

「普通! 欲がねぇな! それもまたよし!!」

「いいのか。……つまらないだろう」

「あー? いんじゃねぇの? 人の幸せなんてよー、人それぞれじゃーん? 人生の最後に笑って死ねたら、それだけでめちゃくちゃ幸せだったってことだろー!」

「君は死ぬ時まで笑うのか」

「あったり前! 皺くちゃの爺になって、『悪くねぇ人生だったぜ!』って、笑って死んでやんよ!」

「……それは……多分、一番幸せな死に方かもしれないな」

「だろ!? その為にも、人生毎日楽しまねぇとな!」

「君のそういうブレないところは、ちょっと尊敬する」

「おっ。マジでー? ひゃっほい!」

「叫ぶな。近所迷惑だ」

「気にすんなー! 防音結界の魔導具は起動させてあるもーん!」

「何故」

「俺ん家でたまに飲み会すっから、まぁ、必需品? 防音結界張ってた方が、気兼ねなく騒げるじゃん?」

「なるほど」

「あ、酒無くなった。次いくぞー! 次! 安酒も楽しけりゃ美味い!!」

「……君は……君は僕なんかといて楽しいのか」

「あ? まぁ割と」

「そ、そうか」


 何故か目を泳がせているヴァードの目元が、じんわりと赤く染まった。酔いが覚めたとか言っていたが、また酔ってきたようだ。エドガルドは、いそいそと別の蒸留酒の瓶を開けた。2人分のグラスに蒸留酒を注いで、また乾杯をする。

 目元を赤く染めたままのヴァードが、クッと一息でキツい蒸留酒を飲み干した。ふぅと小さく息を吐いてから、ヴァードが何故か椅子から立ち上がり、テーブルの下に潜った。本格的に酔って、おかしな行動を始めたのだろうか。
 エドガルドが、酔ったヴァードがどんな奇行をするのかとワクワクしていると、テーブルの下に潜ったヴァードが、エドガルドの広げた足の間に移動してきた。見下ろせば、ヴァードが目尻を真っ赤に染めて、カチャカチャとエドガルドのズボンのベルトを外し始めた。


「おーい。酔っ払い。何する気だ。この野郎」

「……気持ちいいこと」

「ん? え? マジで?」


 エドガルドのズボンのベルトを外したヴァードが、すりすりと優しくエドガルドの股間を撫で始めた。流石にここまでくれば、ヴァードが何をしようとしているのか、分かる。エドガルドは、ちょっと慌てて、エドガルドの股間に頬擦りをし始めたヴァードの頭を掴んだ。


「おいおいおいおい。落ち着けよ! 酔っ払い! 明日後悔すんぞーー!!」

「後悔、なんか、しない」

「はぁーー!? って、うぉっ!?」


 ヴァードが素早くズボンのボタンも外し、チャックを下ろして、パンツをずらして、エドガルドのまだ萎えているペニスを取り出した。そのまま、止める間も無く、ヴァードがエドガルドのペニスを舐め始めた。熱くぬるついたヴァードの舌の感触が、絶妙に気持ちがいい。ここ数日、抜いてなかったので、慣れてないのが丸わかりな拙いヴァードの舌使いに、エドガルドのペニスはすぐにガチガチに硬く勃起した。

 眼鏡が少しだけずれているヴァードが、上目遣いでエドガルドを見上げながら、見せつけるように口を大きく開け、パクンと赤い亀頭を口に含んだ。熱くぬるついたヴァードの柔らかい口内の感触が気持ちよくて、思わず熱い溜め息が出てしまう。辿々しく亀頭を舐め回されると、どっと先走りが溢れ出る感覚がした。じゅるっと品のない音を立てて、亀頭を吸われる。これは自慢だが、エドガルドのペニスは、そこそこデカい。娼婦受けがいい程度の巨根である。

 ヴァードが、エドガルドのペニスを吸いながら、頭を上下に動かして、唇で竿を扱き始めた。口に含めない根元あたりは、手で扱かれる。エドガルドは、急速に高まる射精感に抗うことなく、早々とヴァードの口内に精液をぶち撒けた。精液が勢いよく尿道を飛び出していく感覚が気持ちいいし、じゅるじゅると精液を吸い出すように啜られるのも気持ちがいい。

 エドガルドが荒い息を吐きながら、ヴァードを見下ろせば、ヴァードが少し萎えたエドガルドのペニスから口を離し、エドガルドに見せつけるように、口を大きく開けた。ヴァードの赤い舌の上に、エドガルドの白いどろっとした精液がのっている。エドガルドが見つめている前で、ヴァードが口を閉じ、ごくんと、エドガルドの精液を飲み込んだ。ヴァードの濡れた唇が、妙に色っぽく見える。
 ヴァードがエドガルドのペニスに頬擦りをしながら、じっとエドガルドを見つめて、囁いた。


「エディ。もっと気持ちいいこと、しよう」


 ヴァードが、エドガルドを愛称で呼んだことは殆ど無い。いつも『君』としか言わない。エドガルドは、少し驚いたが、堅物クソ真面目なヴァードの淫靡な誘いに乗ることにした。ヴァードが、どんな風に乱れるのか、ちょっと見てみたい。男とセックスをしたことは無いが、なんだか、今ならできる気がしてくる。
 エドガルドは、ニッと笑うと、やんわりとヴァードの頭を撫でた。

 ベッドに移動して、全裸でヴァードと絡み合っている。ヴァードのキスはぶっちゃけ下手くそだが、それが逆に不思議と興奮を煽ってくる。

 ヴァードがくっついていた身体を離して起き上がり、仰向けになったエドガルドの股間へと移動して、ゆるく勃起したエドガルドのペニスを再びぎこちなく舐め始めた。エドガルドのペニスを舐め回しながら、ヴァードが自分の尻へと手を伸ばした。多分、自分でアナルを弄っているのだろう。エドガルドは、普段とは違ういやらしいヴァードの姿に、なんだか本格的に楽しくなってきた。


「ヴィー。俺の顔を跨げよ。見たい」

「……ん」


 ヴァードが素直に体勢を変えて、頭が上下逆になるようにして、エドガルドの身体を跨いだ。すぐにまたヴァードの熱い舌がペニスに這い、顔の上では、ヴァードが自分のアナルに指を突っ込んで、ぬこぬこと抜き差ししている。ヴァードの鍛えられた筋肉質な尻肉を両手で掴んで、少しだけ角度を変えると、ヴァードが自分でアナルを弄っているところが、よく見えるようになる。不思議と興奮する光景に、エドガルドは楽しくて、クックッと笑った。

 エドガルドが見つめる中、ヴァードが、ずるぅっと自分のアナルから指を引き抜いた。多分、水魔術を使ったのだろう。濡れて小さく口を開け、くぽくぽと物欲しそうにひくついているアナルが丸見えになる。ヴァードのアナルは、周りに毛が生えていなくて、濃い赤いキレイな色合いをしていた。娼婦のアナルよりも、ヴァードのアナルの方が余程キレイだ。排泄孔なのに、酷くいやらしい。

 ヴァードがのろのろと移動して、エドガルドの方を向いて、エドガルドの股間を跨いだ。ビンッと天に向かって元気よく勃起しているエドガルドのペニスの竿を掴み、ヴァードが腰を下ろして、ひくつく熱いアナルに、エドガルドのペニスの先っぽを押しつけた。そのまま、ゆっくりとヴァードが腰を下ろしていく。キツい括約筋を通り過ぎれば、熱くてぬるついた柔らかい腸壁にペニスが包まれていく。女のまんことは違う感触が、なんとも楽しい。ヴァードが、堪えるように眉間に皺を寄せ、根元近くまで、エドガルドのペニスをアナルで飲み込んだ。ヴァードのペニスも勃起していて、ペニスの先っぽが濡れててらてらといやらしく鈍く光っている。

 ヴァードが後ろ手に両手をつき、膝を立てて、足を大きく広げた。ヴァードの引き締まった筋肉質な身体も勃起しているペニスも、まるっと見えている。ヴァードが、ゆっくりと身体全体を上下に動かして、締りのいいアナルでエドガルドのペニスを扱き始めた。ヴァードの中は、狭くてキツくて熱くて、堪らなく気持ちがいい。初めて見るヴァードのとろんとした顔を見ていると、腰のあたりがゾワゾワする程興奮する。
 エドガルドは、両手を伸ばしてヴァードのしっかりした腰を掴むと、下から腰を突き上げ始めた。


「あぁっ!? あっ! あっ! あっ! んーーーーっ!!」

「ははっ! あーー。やべぇ! すげぇいいっ! ヴィー! お前の気持ちいいところを教えろよ!」

「は、は、あ、腹側の……ここっ、んあっ!?」


 ヴァードが腰をくねらせた。ペニスのカリのあたりに、微かに痼のようになっているところが当たると、ヴァードの身体がビクッと震えて、きゅっとキツく括約筋が締まった。エドガルドは、舌なめずりをして、そこばかりを集中的にペニスのカリで引っ掻くように腰を動かした。ヴァードが背をしならせて大きく喘ぐ。キツい締めつけが最高に気持ちがいい。

 ヴァードの喘ぎ声が、どんどん切羽詰まったものになっていく。エドガルドは、膝を立てて、腰を振りながら、腹筋だけで起き上がった。汗が流れる盛り上がった胸筋の下の方にあるヴァードの小さめの乳首に吸いつけば、ヴァードがエドガルドの頭を抱きしめて、大きく喘ぎながら、きゅっと更にキツくエドガルドのペニスを締めつけてきた。ヴァードの乳首を舐めて吸いながら、無我夢中で腰を振りまくる。そろそろ限界が近い。座位のまま、より激しく腰を動かすと、ヴァードが悲鳴じみた喘ぎ声を上げた。


「エディッ、エディッ、いくっ! いくっ!」

「ちょぽっ、イケイケ! イッちまえ! 俺もイクッ!」

「あっあっあっあっ! も、むりっ、あ、あぁぁぁぁぁぁっ!!」


 腹に熱い液体がかかる感覚と同時に、ぎゅうっとキツくペニスを締めつけられた。エドガルドは、イッてビクビク身体を震わせているヴァードのアナルの奥を何度も激しく突き上げて、そのまま、ヴァードの腹の中に精液を吐き出した。

 はぁー、はぁー、と荒い息を吐いているヴァードの唇に触れるだけのキスをすると、ヴァードがはにかんだように小さく笑った。なんだか、ちょっと可愛い。
 エドガルドは、繋がったまま、何度もヴァードの唇に優しく吸いついた。眼鏡がちょっと邪魔だが、構わず何度も何度もヴァードにキスをする。
 エドガルドは、唇を触れ合わせたまま、ヴァードに問いかけた。


「ヴィーさぁ、もしかして、俺のこと好きなの?」

「…………わ、悪いか」

「いや、別に悪くねぇけど。えー。マジかー。俺のどこが好き?」

「う…………どんな時でも、笑ってるところ、とか……」

「やっだー! てっれるー!! ちんこもでっかくなっちゃうー!!」

「あ、わ、わ……」


 早々と復活したエドガルドのペニスに気づいたのだろう。ヴァードが、顔どころか、耳や首元まで赤くなった。どうやら、ヴァードはエドガルドが本気で好きらしい。
 エドガルドは、真っ赤な顔であわあわしているヴァードの頬にキスをして、ゆさゆさとゆるく腰を動かし始めた。


「あぁっ!? まっ、ちょっ、んぁっ!」

「ヴィーさぁ、いつから俺のこと好きだったのよ」

「いっ、言わないっ!!」

「はっはっは! 言わせてやろうじゃあないの!」

「あぁ!! そこはだめっ!!」

「気持ちいいんだろー? うりうりうりうりぃ!」

「あっあっあっあっ!!」


 エドガルドは、身を捩って喘ぐヴァードを抱きしめて、繋がったまま体勢を変えた。ヴァードの身体を押し倒して、本格的に腰を動かし始める。
 エドガルドは、ヴァードが啜り泣きながら白状するまで、ひたすらヴァードを可愛がりまくった。




ーーーーーー
 エドガルドが目覚めると、目の前に、ヴァードの寝顔があった。間近で見ると、意外と睫毛が長い。穏やかな寝息を立てているヴァードの寝顔を見つめながら、エドガルドは少し髭が伸びている顎をボリボリ掻いた。

 ヴァードは、エドガルドのことが入隊した頃あたりから、ずっと好きだったらしい。全っ然、気づかなかった。エドガルドが好きなら、突っかかって喧嘩を売らずに、普通に好きだと言ってくればいいのに。

 エドガルドは、んーと小さく意味のない声を上げながら、考え始めた。昨夜のヴァードは、なんか可愛かった。セックスも気持ちよかったし、ヴァードと一緒に食事をしたりするのは、普通に楽しい。まだ、胸を張ってヴァードのことが好きだとは言えないが、ヴァードと本当に婚約者になって、結婚するのもありな気がしてきた。お互いに軍人だから、ぶっちゃけ、いつ死んでもおかしくない。後悔するような生き方はしたくない。ヴァードは、堅物クソ真面目で、愛情表現が分かりにく過ぎるが、多分、慣れたら、そこが可愛いと思えるような気がする。
 エドガルドは、ヴァードの裸の肩をゆさゆさと揺さぶって、ヴァードを起こした。

 のろのろと目を開けたヴァードは、エドガルドと目が合うなり、ぼっと顔が赤くなった。エドガルドは、真っ直ぐにヴァードの瞳を見つめて、口を開いた。


「ヴィー。結婚すっか」

「は、え?」

「結婚式は再来月あたりでいいだろー」

「な、な……ほ、本気で言っているのか?」

「おう! お前、俺が好きなんだろ? 今はまだ、お前に惚れてる訳じゃねぇけど、多分そのうち、全力で愛を叫ぶようになるぜ!」

「……別に叫ばなくていい。恥ずかしい」

「全力で! 叫んでやるとも! だからよー、結婚すっか?」

「…………する」


 眼鏡をかけていないヴァードの深い青色の瞳が潤んだ。涙を隠すように枕に顔を埋めたヴァードの身体をぎゅっと抱きしめて、エドガルドは、ヴァードの熱い頬にキスをした。


「今から、もうちょい分かりやすく愛情表現しろよな」

「……善処する」

「おぅ! ちょー頑張れ!」


 エドガルドは、クックッと笑いながら、枕から顔を上げたヴァードの唇に、触れるだけのキスをした。




ーーーーーー
 ヴァードと結婚して、早25年。
 2人とも生きて軍を引退する事ができた。結婚して1年後に養子に迎えた息子も立派に成人して、結婚して、今では孫もできた。
 エドガルドは、結婚と同時に小さな家を買った。現役時代は、犬を飼うのは少し難しかったので、引退してから、知り合いから生まれたばかりの子犬を譲り受けた。ミーナと名付けた子犬は、すくすくと元気に育ち、エドガルドは、ヴァードと手を繋いで、毎日ミーナの散歩をしている。

 ヴァードは、結婚して何十年経っても、あんまり素直じゃない。堅物クソ真面目なのは変わらないし、エドガルドは、頻繁に小言を言われている。そこも可愛いと思えるようになったので、特に問題は無い。ヴァードの小言は、基本的にエドガルドのことを心配したり、気遣ったりする為のものだ。ヴァードなりの愛情表現だと思えば、小言も可愛いものである。

 エドガルドは、ヴァードと手を繋いで、ミーナの散歩をしながら、ヴァードに話しかけた。


「ヴィー。今夜の晩飯、何にする?」

「僕は魚の気分だ」

「俺は肉の気分だー! よし! 硬貨で決めるか!」

「表」

「じゃあ、裏」


 結果は、ヴァードの勝ちだった。硬貨で何かを決める時は、ヴァードが勝つ方が多い気がする。
 エドガルドは、ヴァードと一緒に作る夕食の話をしながら、皺が増えたヴァードの穏やかな横顔をチラッと見て、ゆるく口角を上げた。


(おしまい)

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