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貴方の青空に恋をした

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 こちらを見下ろして明るく笑い、手を差し伸べてくれた彼の青空を見て、エドウィンは恋に落ちた。

 エドウィンはいじめられっ子だった。国立魔法学園に通っていた3年間、ずっといじめられていた。
 エドウィンは黒髪黒目の地味な容姿で、背も低く、貧相に痩せていた。根暗な性格で、いつもおどおどしていたから、いじめっ子達のストレス発散の的になっていた。
 何度も学園を辞めようと思ったが、魔法使いになるという夢を捨てきれず、なんとか卒業まで頑張った。
 エドウィンが卒業まで頑張れたのは、彼の存在が大きい。

 エドウィンが汚れたバケツの水をかけられて、いじめっ子達に殴る蹴るの暴行を受けた後。
 立ち上がる気力もなくて倒れていると、彼がエドウィンの前にしゃがみ、『大丈夫かい?』と手を差し伸べてくれた。
 エドウィンに優しくしてくれる人なんて学園に入ってから誰もいなかった。エドウィンは戸惑いながらも、彼の手を握った。

 彼は、鮮やかな金髪に青空のような瞳をした美青年で、まるで太陽のような明るい笑みを浮かべる人だった。彼にちょっと優しくしてもらった後、たまに図書室で遭遇するようになった。彼は本当に優しくて、いじめられているエドウィンをいつも心配してくれた。彼は一つ学年が上だったから、卒業してしまった時は思わず泣いた。彼とのささやかな思い出を胸に、残りの1年は頑張った。

 頑張った甲斐があって、エドウィンは無事に国立魔法学園を卒業して、魔法使いとして魔法省で働けるようになった。
 そして、二度と会えないと思っていた彼と再び出会った。

 エドウィンがガリガリと魔法陣を描いていると、柔らかい声で名前を呼ばれた。顔を上げれば、密かに恋をしている先輩・ルカだった。ルカがにっこりと笑って、エドウィンの頬を指先で摘み、みょーんと伸ばした。地味に痛い。


「こーら。エドウィン。今日で何徹目?」

「えーと……3日……くらい?」

「はっはっは。今すぐ仮眠室で寝ておいで。睡眠不足だと脳みその回転落ちるよ?」

「は、はい……」


 ルカに優しく窘められて、エドウィンはペンから手を離した。
 エドウィンとルカは、防御魔法の研究をする部署に勤めている。まさか、配属された先でルカと再び出会えるなんて思っていかなった。
 ルカは相変わらず優しくて、何かとエドウィンを気にかけてくれる。それがすごく嬉しくて、ルカの青空みたいな瞳を見るだけで、胸が高鳴る。

 エドウィンは、チラッとルカの青空を見て、ドキドキと高鳴る胸を片手で押さえながら、のろのろと立ち上がった。ずっと集中して魔法陣を描いていたから、全身がバキバキに凝っている気がする。

 おぉぉぉぉ……と意味のない声を出しながら伸びをするエドウィンを呆れた顔で見て、ルカが小さめのバスケットを差し出してきた。


「また君のことだから、まともに食べてないでしょ。僕が作ったから簡単なものだけど、食べてから寝なよ」

「あ、ありがとうございます」


 ルカが差し出してくれたバスケットを見れば、美味しそうなハムとレタスとチーズのサンドイッチが入っていた。ルカが水筒を鞄から取り出して、金属製のカップにほんのり湯気が立つミルクを注いでくれた。
 ルカ手作りのサンドイッチは優しい味付けで、素直に美味しい。蜂蜜入りの甘いミルクを飲むと、一気に眠気が襲ってくる。
 食べ終わるとすぐに意識が半分夢の中に旅立ちかけたエドウィンの手を引いて、ルカが仮眠室まで一緒に移動してくれた。
 エドウィンが仮眠室のベッドに横になると、きっちり掛け布団を掛けてから、ルカが優しい笑みを浮かべて、エドウィンの頭をやんわりと撫でてくれた。


「あんまり頑張り過ぎちゃ駄目だよ」

「……はい」


 エドウィンは、優しく頭を撫でてくれるルカの手の感触が心地よくて、すぐに夢も見ないくらい深い眠りに落ちた。



ーーーーーー
 研究していた結界魔法が一段落ついた。エドウィンは、論文を書き上げるのに、寝食を忘れて没頭していた。上司に論文を提出すると、ぽんと肩を優しく叩かれた。
 顔だけで振り返れば、ルカが太陽のような満面の笑みを浮かべていた。


「エドウィン。何日、まともに食べて寝てない?」

「……わ、分かりません……」

「もーー。ちゃんと食べて寝なきゃ駄目だよ? 部長。僕とエドウィン、3日の連休いただいてもいいですか?」

「いいよ。エドウィンのお世話をよろしくね」

「はい」

「え? え?」

「さぁて、エドウィン。僕の家に帰るよ。君の家って、どうせまともな食料なんてないだろう? 君に美味しいものをたらふく食べさせて、がっつり寝かせるのが僕の仕事だよ」

「えっと……えっと……その、ルカ先輩にそこまでさせるのは、あの、流石にちょっと……」

「あはっ。拒否権はないからね。さっ。帰ろー」

「あ、あ……」


 エドウィンは困惑しながら、ルカに手を引かれて自分の机に向かい、ものすごく久しぶりに帰り支度をして、ルカに手を引かれて研究室から出た。
 エドウィンは、一応官舎の部屋を借りているが、集中し始めると寝食を忘れる方なので、殆ど研究室に住み着いている。エドウィンが所属している部署は変わり者の研究馬鹿が多く、研究室に完全に住み着いている先輩もいるので、いっそのことエドウィンも官舎の部屋を引き払って、研究室に住み着こうかと考えている。

 ルカに手を引かれて向かった先は、小さな二階建ての一軒家だった。狭い庭には洗濯物が干してある。
 ルカと一緒に家の中に入ると、わーっ! という幼い声と共に、可愛らしい5歳くらいの男の子が走ってきた。ルカが男の子を抱き上げて、エドウィンに紹介してくれた。


「甥っ子のノアだよ。今年で5歳。ノア。後輩のエドウィンだよ」

「ノアです! まだ4歳です! 好きな食べ物はケーキです!」

「あ、あ……えっと、エドウィンです……」

「僕の家には、両親と姉一家が住んでるんだ。小さな子供が3人いるから賑やかだけど、あまり気にしないでゆっくり休んでよ」

「あ、ありがとうございます……」

「おじちゃん! お腹空いたー!」

「そうだねー。僕もお腹空いたよ。お祖母ちゃんを手伝いに行こうか。その前に、エドウィンを部屋に案内してくるよ。先に台所へ行っておいで」

「はぁい!」


 ノアが元気な返事をして、ルカから離れて、家の奥へと走っていった。ルカがにっこり笑って、呆然としているエドウィンの手を引き、歩き始めた。二階に上がり、一番奥の部屋へと入る。
 部屋の中は、書物机と沢山の本が並んでいる本棚、古ぼけた衣装箪笥とベッドしかない。
 ルカがエドウィンの手を握ったまま、にっこりと笑った。


「他に部屋がないから、今日から3日間は一緒に寝ようね」

「……はいっ!?」

「嫌かな?」

「え、あ、あ……い、嫌では……ないです……」

「よかったー。もしかしたらちびっ子が潜り込んでくるかもしれないけど、まぁ気にしないでね」

「は、はい……」


 ルカにとっては、エドウィンと寝るのも、甥っ子も寝るのも、一緒のことなのだろう。エドウィンが変な期待をするのが悪い。根暗で研究馬鹿なエドウィンなんかが、人に好かれる筈がないのだから。

 鞄を部屋に置かせてもらうと、ルカの服と新品の下着を借りて、先に風呂に入ることになった。仮眠室の隣のシャワー室でいつもシャワーを浴びている。まともに風呂に入ったのがいつなのか思い出せない。

 エドウィンは、ルカの案内で風呂場へ向かい、全身を丁寧に洗って、温かいお湯で満ちた浴槽にのんびり浸かった。
 風呂から出て、ほこほこの状態で居間らしき部屋に行くと、ルカと一緒に、3歳くらいの女の子と1歳くらいの男の子がいた。子供達の相手をしているルカがエドウィンに気づき、にっこり笑った。


「サッパリした? おいで。髪を乾かしてあげるよ」

「あ、あ、ありがとうございます……」


 ルカの側に行けば、エドウィンが肩にかけていたタオルをルカが手に取り、優しくエドウィンの髪を拭き始めた。魔法の要にすることもあるので、基本的に魔法使いは皆髪を長く伸ばす。エドウィンも腰のあたりまで伸ばしているのだが、手入れをしていないので、いつでもボサボサである。
 ルカが魔法も使って、キレイに髪を乾かしてくれた。なんだか、いつもよりも少しだけ指通りがいい気がする。『下ろしたままだと、ご飯が食べにくいでしょ?』と言って、空色の髪紐で一つの三つ編みにしてくれた。

 ルカにおどおどとお礼を言っていると、ルカによく似た美人な女が居間に顔を出した。


「ご飯よー! 今から運ぶから、子供達はルカとエドウィン君が抱っこしててー!」

「はい。エドウィン。この子はエマ。もう少しで4歳になるよ」

「エマです! さんさいです!」

「あ、あ、エ、エドウィンです」

「じゃあ、ご飯が食べられるようになるまで、隅っこの方にいよう。ノアー。ノアもおいでー」

「はぁい」


 フィンという名前の末っ子を抱っこしたルカと一緒に、エマを抱っこしたまま、部屋の隅っこに移動した。ルカの母親や姉がバタバタと夕食を食べられるように準備している。

 夕食の準備が整った段階で、ルカの父親と義理の兄が帰ってきた。2人とも、街の役所で働いているらしい。
 エドウィンは、しどろもどろに自己紹介をした。
 エドウィンの母親と姉が作ってくれた夕食は、鶏肉と南瓜がゴロゴロ入ったシチューで、何日もまともに食べていなかった胃に優しく染み込んでくるような気がした。素直に美味しい。焼き直してある香ばしいパンも、手作りドレッシングがかけられているサラダも、どれも美味しかった。エドウィンは少食だから、少ししか食べられなかったが、感謝の気持ちをなんとか伝えようと、しどろもどろにルカの母親と姉にお礼を言った。2人とも、太陽みたいな明るい笑顔を浮かべてくれた。

 夕食の後片付けくらいは手伝いたかったのだが、エドウィンはルカに手を引かれて、ルカの部屋に連行された。ベッドに横にならされ、布団をかけられる。ぽんぽんと布団の上からエドウィンの胸を優しく叩いたルカを見上げれば、ルカが何故か楽しそうに笑っていた。


「明日は朝から騒がしいから、そのつもりでね。おやすみ。エドウィン。いい夢を」

「……お、おやすみなさい。ルカ先輩」


 エドウィンは、満腹感から訪れる眠気に抗うことなく、お日様の匂いがする布団の中で、すやぁっと眠りに落ちた。

 翌朝。エドウィンが目覚めると、とんでもなく美しい寝顔が目の前にあった。ルカである。美形は寝顔すら美しいのかと慄いていると、ルカがゆっくりと目を開けた。エドウィンが大好きな青空が見えて、ドキンッと胸が大きく高鳴った。
 ルカがゆるく笑って、小さく欠伸をしてから、少し掠れた声で話しかけてきた。


「よく眠れた?」

「は、はい」

「それはよかった。朝ご飯の時間までまだ余裕があるから、二度寝しようか。休みの日くらい、二度寝したって許されるからね」

「え、え……」

「はい。おやすみー」


 エドウィンはルカに優しくお腹のあたりを布団越しにポンポンされて、穏やかな寝息を立て始めたルカにつられて、また眠りに落ちた。
 自然と目覚めた頃には、もう昼食の時間になっていた。隣で寝ていたルカが、んーっと伸びをして、エドウィンを見下ろして笑った。


「ちょっと寝過ぎたね。まぁ、君は寝なさ過ぎたから、逆にちょうどいいかも。顔を洗って、ご飯を食べよう」

「あ、はい」


 ルカに手を引かれて、エドウィンは起き上がり、ベッドから下りた。寝間着からルカの私服に着替えると、階下の居間へと向かった。
 ルカは細身だが、エドウィンの方が頭半分背が低く、もっと痩せているので、ルカの私服はちょっとだぼついている。昨夜から、エドウィンはずっと夢の中にいるような心境だった。

 エドウィンの家は、冷めきった家庭だった。両親は2人とも魔法使いだったが、エドウィンが10歳になる頃には、口も聞かないくらい陰険な仲になっていた。2人の不仲の原因の一つは、多分エドウィンだった。エドウィンは、2人が望むような、明るくて元気で優秀な子供ではなかった。それぞれに愛人をつくっていたことも知っている。一緒に食事をした記憶は、多分9歳の誕生日が最後だった気がする。

 ルカの家は、まるで日向のように暖かい。いつか夢見た理想の家族そのもので、エドウィンには、ルカもルカの家族も眩しく思えた。

 賑やかな昼食を終えると、『お昼寝するよー』と言われて、またルカに手を引かれてルカの部屋に戻った。起きたばかりで眠れないと思ったが、ルカと一緒にベッドに横になると、不思議と眠気が訪れて、エドウィンは夕食の時間まで、ぐっすりと眠った。

 食べては寝て、食べては寝てを繰り返していたら、気づいたら3日が経っていた。しっかり食べて、しっかり寝たからか、いつもよりも身体が軽い。
 エドウィンは、ルカとルカの家族に何度もお礼を言って頭を下げてから、薄暗い道を官舎に向かって歩き始めた。
 なんだか胸の中が温かくて、ぽわぽわする。ずっとルカと一緒の3日間だった。ルカの笑顔を数え切れないくらい見た気がする。こんなに幸せでいいのだろうかと、いっそ泣きたいくらい嬉しかった。ルカの家族も本当にすごく優しくて、温かい人達だった。

 この素敵な思い出があれば、この先ずっと1人でも生きていける。エドウィンは、軽くなった身体で、冷えきった埃臭い自分の家へと帰った。

 三連休明けに出勤するとすぐに、ニコニコ笑っているルカが声をかけてきた。


「ねぇ。エドウィン。もしよかったら、エドウィンの家で一緒に暮らさない? 家賃や生活費は折半で」

「え?」

「僕の家、小さな子供達がいるから、家では個人研究が全然進まないんだよねぇ。大事な本とかもあるし。ノアが悪戯っ子だから、色々と気苦労が絶えなくて……もしよかったら、エドウィンの家に住ませてくれないかな? 家事は僕がやるし」

「え、あ、そ、その……狭い、家ですけど、それでよければ……」

「なんなら一緒に寝るから大丈夫! 家賃や生活費が折半できると、浮いたお金を個人研究に回せるから、本当にすごく助かるよ」

「あ、はい。えっと、それは僕もです……その、あの……よ、よろしくお願いします……」

「こちらこそ、よろしくね。引っ越しは5日後の休みの日にするよ。その前に、掃除をしに行った方がいい?」

「そっ、掃除はしておきますっ!」

「そう? 大変だったら、遠慮なく言ってね?」

「あ、あ、はい……だ、大丈夫です……」

「よかったー。これで、いつ大事な本に落書きされるか冷や冷やしなくて済むよー。じゃあ、今日も1日、程々に頑張ろうね」

「あ、はい」


 エドウィンは自分の机に向かい、椅子に座ると、ぼんやりと『今日から定時で帰って掃除をしないとヤバい』と思った。掃除なんて、官舎の部屋を借りてから一度もしていない。シーツやタオル類も買い直した方がいいだろう。ルカが引っ越してくるまでの間に、なんとかルカがまともに暮らせるようにしなければならない。

 エドウィンはいつも以上に集中して新たな研究に取り掛かり、定時になった瞬間、手早く帰り支度をして、走って官舎の部屋へと帰った。




ーーーーーー
 エドウィンは、美味しそうなパンが焼ける匂いで目覚めた。のろのろと目を開けて、狭い台所の方を見れば、ルカがご機嫌に鼻歌を歌いながら、料理を作っていた。

 エドウィンが起き上がると、ルカが気づいて、朝から太陽のように眩しい笑顔を浮かべた。


「おはよう。エドウィン。もうすぐ朝ご飯ができるよ」

「……お、おはようございます……」


 エドウィンはルカに急かされて、急いで顔を洗いに風呂場の洗面台に向かった。
 エドウィンが借りている官舎は単身者用で、風呂トイレと狭い台所以外には、大きめの一部屋しかない。ベッドは一つしかないし、二つも置ける程のスペースがないから、ルカが引っ越してきてから、毎晩一緒に寝ている。

 部屋の中は、ベッドと買い足した二人がけのテーブルと椅子以外は、古ぼけた衣装箪笥と本棚しかない。本棚は、エドウィンが持っていた本とルカが持ってきた本でみっちみちになっている。

 ルカが作ってくれた温かくて美味しい朝食を食べると、エドウィンはルカと一緒に後片付けを始めた。
 ルカと暮らし始めて、早くも二ヶ月が経とうとしている。エドウィンは、毎日が幸せで、油断すると泣いちゃいそうになる。根暗で気の利いたことなんて言えない口下手なエドウィンに、ルカはいつも笑顔で話しかけてくれる。ルカが作ってくれる料理は、いつも優しい味付けで、素直に美味しい。
 ルカが毎日風呂に入るから、エドウィンも毎日お湯に浸かるようになった。それに、毎晩、強制的に一緒に寝ている。そのお陰か、ここ最近、とても体調がいい。
 体調がいいと、魔法の研究も捗り始めた。今やっている研究は、あと少しで一段落つきそうだ。

 今日は、エドウィンもルカも休日である。以前は、休日も関係なしに研究室で文献を読み漁ったり、新規の魔法の研究をしていたが、ルカと一緒にまともな休日を取らされるようになった。
 『メリハリって大事だよね』と、上司にも言われてしまった。

 朝食の後片付けが済んだら、買い出しに出かける。仕事の日でも、勤務時間後に開いている店もあるが、休みの日に市場で買い溜めした方が安く済むので、休みの日の午前中は基本的に買い出し祭りだ。

 ルカと一緒に沢山の食材を買って家に帰ると、魔導冷蔵庫に食材を入れたルカが、にっこり笑って話しかけてきた。


「エドウィン。お昼ご飯をちょっと豪勢にして、お酒を飲まない?」

「あ、いいですね。お酒……飲んだことがないです」

「じゃあ、試してみようね。勿論、好みはあるけど、美味しいよ」

「あ、はい」


 ルカが早速昼食を作り始めたので、エドウィンも手伝い始めた。ルカばかりに家事をさせる訳にはいかないので、エドウィンはルカから家事を習っている最中である。エドウィンの実家は裕福だったので、お手伝いさんがいて、家事なんてしたことがなかった。

 ルカと一緒に、牛肉のステーキをメインとした昼食を作ると、エドウィンは出来上がった料理をテーブルに運んだ。ルカがワインとグラスを持ってきた。向かい合って椅子に座ると、ルカがワインをグラスに注いだ。

 乾杯をしてから、ワインを一口飲んでみる。ふわっといい匂いが鼻に抜け、柔らかな甘みと微かな渋みが口の中に広がる。素直に美味しい。
 エドウィンは、思わず頬をゆるませて、『美味しい』と呟いた。
 向かい側に座るルカが、嬉しそうに笑った。


「お口に合ってよかった。ステーキとも合うと思うよ」

「はい。……お肉も美味しいです」

「食べられるだけ食べてね」

「はい。ワイン、美味しい……お肉と一緒だともっと美味しい……」

「ふふっ。気に入ってもらえてよかった」


 ルカの嬉しそうな笑顔が眩しい。エドウィンは、ルカと他愛のないお喋りをしながら、優雅な昼食を楽しんだ。

 昼食を食べ終わる頃には、エドウィンは頭と身体がふわふわぽかぽかしていた。なんだか楽しくて、ずっとへらへら笑っている。
 目の前のルカもニコニコ笑顔で、すごく嬉しい。益々、顔がだらしなくゆるんでしまう。
 ルカが頬杖をついて、にっこり笑って問いかけてきた。


「ねぇ。エドウィン。君は僕のことが好きだろう?」

「えへへ。すきですー」

「僕も君のことが好きだよ。いつだって一生懸命で、ものすごく頑張り屋さんで、ちょっと危なかっしくて目が離せないけど、そんなところも可愛いな」

「えへへー。ありがとうございますー」

「君と恋人になりたい」

「僕もですー」

「言ったね? 言質は取ったよ?」

「はぁい」

「……本当はね、素面の時に言うべきなんだ。でも、僕は臆病だからさ。お酒の力を借りないと君に告白なんてできないんだ」

「ルカ先輩の……」

「ん?」

「ルカ先輩の青空が大好きですー」

「僕の青空? あっ。もしかして、瞳の色?」

「はいー。キラキラ輝いていて、すごくキレイですー」

「あ、ありがとう。僕も君の瞳が好きだよ。落ち着いた夜の色だ」

「……そんなこと、初めて言われました」

「ねぇ。エドウィン。キスをしてもいいかな」

「どっ、どうぞ?」


 ルカが椅子から立ち上がって、テーブル越しに身を乗り出してきた。エドウィンも椅子から立ち上がると、ルカに手を握られて、唇に触れるだけのキスをされた。意外な程柔らかいルカの唇の感触に、胸が大きく高鳴る。

 唇を離したルカが、ちょっと困ったように笑った。


「ごめんね。僕は紳士ではいられないみたいだ」

「え?」


 ルカが移動してきて、エドウィンの手を両手で握り、また触れるだけのキスをした。
 唇を触れ合わせたまま、ルカが囁いた。


「ベッドに行こうか」

「……は、はい」


 頭がふわふわしているが、流石にそれがセックスのお誘いだということは分かる。エドウィンは、ぶわっと顔が熱くなるのを感じた。
 ルカと手を繋いでベッドに腰掛けると、やんわりとルカに押し倒された。

 くちゅっ、くちゅっ、と、何度も優しく唇を吸われる。はぁっと熱い息を吐けば、ルカの舌がエドウィンの口内に潜り込んできた。ルカの舌が歯列をなぞり、歯の裏側を擽って、上顎をねっとりと舐めてくる。舌を擦り合わせるようにぬるりぬるりと絡め合うと、不思議と気持ちよくて、下腹部に熱が溜まり始める。

 エドウィンは、ルカに優しく身体のあちこちを舐められながら、生まれたままの姿にされた。

 お互いに全裸の状態で、今はルカにアナルを丁寧に舐められている。アナルを舐められると、背筋がゾクゾクして、なんだか気持ちがいい。くちゅっとアナルにキスをしてから、ルカの唇がアナルから離れた。
 はぁー、はぁー、と荒い息を吐いているエドウィンのアナルに、ぬるぬるに濡れたルカの指が触れ、ゆっくりとアナルの中へと入ってきた。痛みはないが、異物感はある。でも、それよりも内臓を直接ルカに触れられている興奮が半端ない。

 腹の中を探るような動きをしていたルカの指がある一点に触れた瞬間、エドウィンはビクンッと身体を震わせ、裏返った声を上げた。


「あぁ。見つけた。ここが君の一番気持ちいいところだよ」

「あひぃっ! あぁっ! んあぁぁぁぁっ! んぅぅぅぅっ!」

「エドウィン、すごく可愛い。もっといっぱい気持ちよくなって?」

「あぅっ! あっあっあっあっ!」


 そこをトントンッと優しく叩かれると、脳みそが痺れるような快感に襲われる。エドウィンは、初めての強烈過ぎる快感を上手く処理できなくて、えぐえぐ泣きじゃくり始めた。


「先輩、先輩、きもちいいっ、こわいぃぃ……」

「大丈夫。体勢を変えようか。仰向けになってごらん」

「ふぁい」


 ずるぅっとアナルからルカの指が抜け出たので、エドウィンはのろのろと仰向けになった。ルカが覆いかぶさってきて、鼻水が垂れている唇を何度も優しく吸いながら、またエドウィンのアナルの中に指を挿れてきた。二本の指でそこを挟むようにくりくりされると、堪らなく気持ちがいい。エドウィンは大きく喘ぎながら、ちょこんとした乳首を吸い始めたルカの頭を縋るように抱きしめた。

 イキたくて、イキたくて、もう我慢ができない。えぐえぐ泣きながら、ルカに伝えると、ルカがエドウィンのぴんと勃った乳首から口を離し、伏せていた上体を上げた。

 ルカがエドウィンの膝裏を持って、ぐっと足を大きく広げさせた。腰が少し浮くと、いっぱい弄られてひくつくアナルに熱くて硬いものが触れた。ゆっくりと硬いものがアナルの中に入ってくる。じんわりと痛いが、それ以上に気持ちがいい。

 エドウィンは覆いかぶさってきたルカの首に両腕を絡めた。優しくエドウィンの口内を舐め回しながら、腹の中のルカのペニスが動き回り始めた。指で弄られて気持ちよかったところをごりっごりっと強く擦られると、脳みそが痺れて、目の裏がチカチカする。
 舌をめちゃくちゃに絡ませると、上も下も繋がって、ルカとの境界線が分からなくなりそうだ。

 ルカにぎゅっと抱きしめられて、更に激しく腹の中をペニスで擦られまくる。ルカの腹に擦れているペニスから、今にも精液が出てしまいそうだ。
 エドウィンはルカの腰に足を絡めて、全身でルカにしがみつくと、身体の中を暴れ回っていた快感が弾け飛んだ。裏返った声を上げるエドウィンの唇を何度も強く吸って、ルカがぶるっと身体を震わせた。腹の中で、ルカのペニスが微かにぴくぴくと震えているのが分かる。多分、射精しているのだと思う。

 はぁー、はぁー、と荒い息を吐きながら、エドウィンは少し身体を離したルカを見上げた。エドウィンが大好きな青空がキラキラと輝いていた。
 エドウィンは、なんだか嬉しくて堪らなくなり、へらっと笑った。ルカも嬉しそうに笑って、エドウィンの唇に何度も優しいキスをしてくれた。

 ゆっくりと萎えたルカのペニスがアナルから抜け出ていって、なんだか寂しいアナルから、こぽぉっとルカの精液が零れ出た感覚がした。
 汗まみれの身体で抱きしめあって、足も絡めて、何度も何度もキスをする。
 ルカが唇を触れ合わせたまま、囁いた。


「大好きだよ。可愛いエドウィン」

「僕も大好きです。ルカ先輩」

「呼び捨てにしてよ。僕もエディって呼んでいい?」

「はい。ルカ」

「エディ。ずっと一緒にいようね。君は僕が見張っていないと、無茶をして早死にしそうだもの」

「ルカ。僕の青空。ずっと側にいさせてください」

「うん。ずっとずっと一緒にいよう」


 ルカが額をこつんと合わせて、視線距離で幸せそうに微笑んだ。エドウィンの大好きな青空が間近にある。
 エドウィンは嬉しくて、幸せで、だらしなく笑った。




ーーーーーー
 エドウィンが目覚めると、トントンと包丁を使う軽快な音が聞こえてきた。
 エドウィンは台所から聞こえてくる音に耳を澄ませた。包丁を使う音と共に、ルカの楽しそうな鼻歌も聞こえてくる。

 ルカと一緒に暮らし始めて、もう20年になる。お互いに40代半ばになったが、穏やかな日々を過ごしている。
 仕事はそれなりに順調だし、ルカが世話を焼いてくれるので、エドウィンはすっかり健康的に太った。

 エドウィンはベッドから下りると、顔を洗ってから、台所へ向かった。


「おはようございます。ルカ。明日は僕が朝ご飯を作ります」

「おはよう。エディ。じゃあ、頼もうかな」


 ルカに『おはよう』のキスをすると、ルカが皺がちょっと増えた顔で嬉しそうに笑った。
 今朝も美味しい朝食を食べて、一緒に後片付けをしてから出勤する。

 手を繋いで、他愛のないお喋りをしながら職場へと向かうこの時間が、エドウィンは大好きだ。
 何気なく空を見上げれば、雲一つない快晴である。エドウィンは、すぐ隣を見上げた。視線に気づいたルカがエドウィンを見下ろし、穏やかに微笑んだ。

 エドウィンの青空は、今日もキレイだ。
 エドウィンは、今日はなんだかいい日になる気がして、ご機嫌にルカと繋いだ手をゆるく振った。


(おしまい)
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