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23:おじさんデート(ダナー)

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プルートは、いつものデートの時よりも少し落ち着いた服を着て、老夫婦の家にミーミを預けて出かけた。
今日はダナーとデートである。ダナーはどんなデートをするのかと、昨夜はワクワクして中々眠れなかった。プルートは軽やかな足取りで待ち合わせ場所に向かった。

待ち合わせ場所に着くと、ダナーは既に来ていた。ダナーはお洒落さんである。流行りのものを取り入れつつ、自分に似合った服を着ている。流石は服職人だ。
プルートがダナーに声をかけると、ダナーが小さく笑った。今日も疲れが顔に出ているが、それでも表情は明るい。


「やぁ。ダナー」

「おはよう。プルートさん」

「今日はよろしくね」

「あぁ……その……」

「ん?」


何故かダナーが少し困ったように凛々しい眉を下げた。


「デートをするのが久しぶり過ぎて……デートってどういうものだったか、いまいち分からなくて……」

「2人で楽しめる所に行ったり、美味しいものを食べたりすればいいんだよ。君は何処か行きたい所はある?」

「あるにはあるんだが……プルートさんにはつまらないと思う。子供達にもフラれたし」

「どこ?」

「博物館。今、『服飾の歴史展』をやってるんだ」

「なんだ。面白そうじゃない。行ってみようよ。面白い解説をお願いするよ」

「いいのか?」

「勿論。面白いネタがあるかもしれないし」

「ネタ?」

「趣味で小説を書いているんだ」

「へぇ!それは凄いな」

「凄くはないけど、楽しくて好きだね。じゃあ、まずは博物館だ」

「あぁ」


プルートが手を差し出すと、ダナーが少しはにかんだように笑って、プルートの手を握った。2人で手を繋いで博物館へと歩いていく。


「今日は子供達はどうしてるんだい?」

「スルトは友達と勉強会で、キルトは親父達の家で絵を描いてる。久しぶりに世間一般の休日に休みが取れたから、一緒に何処かへ行きたかったんだが、フラれてしまった」

「おやまぁ。まぁ、親と行動したくない年頃ってあるよね」

「……まぁ、振り返ってみれば、確かに俺もそんな時期があったけど。親の立場になると寂しいもんだなぁ」

「分かるなぁ」

「子供達の成長が嬉しいんだが、同時に寂しくて。もう数年もしないうちに、2人とも独立するだろうし」

「楽にはなるけどね。それでも寂しいよね」

「あぁ」


なんとなく、しんみりした雰囲気で、博物館に到着した。観覧チケットを買って、早速展示物を見に行く。
『服飾の歴史展』は思っていたよりもずっと面白かった。ダナーが解説してくれたので、小説のネタにできそうなものがいっぱいあった。2人で午前中いっぱい展示を楽しんで、2人とも物販で販売していた服飾の歴史に関する本を買った。


「はぁー。面白かった!」

「それならよかった。俺も楽しかった」

「ご飯は何処に行く?」

「貴方の気分は?」

「んー。……カレーかな。最近、カレー専門のビュッフェが出来たらしいよ」

「へぇ。面白いな。行ってみよう」

「うん」


プルートはダナーと手を繋いで、部下から聞いたカレー専門ビュッフェの店へと向かった。値段も手頃で美味しいカレーを腹いっぱいに食べると、今度はプルートの希望で雑貨屋に行くことになった。
キルトに描いてもらっている絵を入れる額縁が欲しい。3軒程雑貨屋を見て回り、漸く気に入る額縁が見つかった。黒い額縁の下の隅っこに、絵の邪魔にならないくらい小さな猫の絵が描かれているものだ。ちょっとお値段が高かったが、プルートは即決で、その額縁を買った。
いい買い物ができたと上機嫌なプルートに、ダナーが声をかけてきた。


「プルートさん」

「ん?」

「あそこの手芸屋にも寄っていいだろうか」

「勿論いいよ」

「ありがとう。子供達用のマフラーを新しく作りたいから、毛糸が欲しいんだ」

「君は編み物もできるんだ!すごいなぁ」

「子供の頃からの趣味なんだ。毎年、家族にマフラーやセーターを作ってる」

「手作りのものっていいなぁ」

「よければ、マフラーを作ろうか?」

「え?でも君、忙しいじゃない」

「編み物が一番息抜きになるし、最近は上の子はあんまり使ってくれなくなったから、ちゃんと使ってくれる人に作りたい」

「……じゃあ、お願いしようかな。あ、でも無理はしちゃ駄目だよ。睡眠時間を削ってまで作るのは無しだからね」

「分かった。好きな色は?」

「……緑系?」

「一緒に毛糸玉を見てみよう。貴方に一番似合う色を探そう」

「ははっ。なんだか宝探しみたいだ」

「実は毛糸玉を選ぶ時が一番楽しいんだ。贈る相手に似合いそうな色を探して、模様を考えて、色の組み合わせを試してみたりとか」

「へぇー。それじゃあ、僕に似合う色を探してよ」

「あぁ」


プルートはダナーと手芸屋へ入った。手芸屋に来るのは随分と久しぶりである。多分、バレットが小学生の頃以来だ。持ち物袋等、保育所や小学校で使うものがあったから、よく夜中に慣れない縫い物をしていた覚えがある。
毛糸玉のコーナーに行くと、色とりどりの毛糸玉が沢山あった。緑系の色のものも数種類ある。


「プルートさんは肌が白いから、明るめのもいいかもね。それとも落ち着いた感じのがいい?」

「えー。どっちがいいだろう……」

「落ち着いた色をベースに明るい色で模様をつけようか?」

「じゃあ、それで」

「あ、この色いいな。プルートさん、セーターもいらないか?」

「作ってもらえるのは嬉しいけど、君の睡眠時間が心配になるんだけど」

「ははっ。気晴らしって大事だよな」

「……うん。セーターは来年がいいかな。ゆっくり作ってよ」

「じゃあ、毛糸玉だけ買っておく。毛糸玉にも色の流行り廃りがあって、去年はあったのに、今年はない色とかあるんだ」

「へぇー。そうなんだ」


ダナーがすごく生き生きとした表情で毛糸玉を選んでいる。本当に編み物が好きなのだろう。プルートはふと思ったことを聞いてみた。


「ダナーって花嫁衣装を作っているんだろう?君の作品を見たりすることってできるかな?」

「ん?工房に行けばあるぞ。まだ仕上げが終わってないけど」

「ちょこっと見せてもらったりとかできる?」

「いいぞ。毛糸玉を買ったら工房に行こうか」

「やった。ありがとう」


ダナーが大量の毛糸玉を買ったら、次は職人街にあるダナーの工房へ移動した。
ダナーはオーダーメイドの花嫁衣装を専門に作っているそうだ。見せてもらった花嫁衣装は繊細な刺繍が沢山施されており、思わず溜め息が出るくらい美しかった。


「ダナーはすごいな。まるで芸術品みたいじゃないか」

「幸せな花嫁さんを人生で一番美しく魅せる為の衣装だから。いつだって真剣勝負なんだ」

「なるほど。君はすごいな」

「ん?何が?」

「新しいものを生み出す力を持ってるじゃない。それって、かなりすごいことだと思うよ」

「ははっ。ありがとう。貴方も小説を書いているんだろう?物は違えど、貴方も生み出す側の人間だ」

「そ、そうかな?」

「そうさ」


ダナーがクックッと楽しそうに笑った。
美しい花嫁衣装を堪能してから、ダナーの工房を出て、プルートの家に向かっている。2人とも荷物がかなり増えたので、一度置きに行くのだ。荷物を置いたら、夕食を食べに出掛ける。


「晩ご飯は何を食べる?」

「んーー。酒が美味しい店がいいな」

「酒の種類が多い居酒屋なら知ってるよ。料理も美味しい」

「じゃあ、そこがいい」

「少し歩くけど大丈夫?」

「勿論」


家を出て、プルートはダナーと手を繋いで記憶にある居酒屋へ向かった。独身時代にたまに同僚達と一緒に行っていた居酒屋は変わらず其処にあった。
店内に入れば、懐かしい落ち着いた雰囲気に包まれる。結婚してからは、此処には一度も訪れたことはなかった。プルートは懐かしさに目を細め、ダナーと一緒にカウンター席に座った。


「何を飲む?僕は麦の蒸留酒にする」

「とりあえず同じもので。へぇ。本当に酒の種類が多いな」

「料理もね。牛すじの煮込みは絶品だよ。あと角煮もオススメ」

「じゃあ、両方頼もう。芋の煮物も頼んでいいか?」

「勿論。揚チーズも頼もう」


2人でメニュー表を眺めて、いくつかの料理と酒を注文する。若い子向けの店ではないので、パパ活の時は来たことがない。ここはゆっくり腰を据えて酒を楽しむ店だ。
カウンターの内側にいる店員は変わっているが、料理の味は記憶にあるものと変わらない。好物だった牛すじの煮込みを食べて、プルートはにんまり笑い、キツめの蒸留酒を飲んだ。料理も酒も美味しい。
隣で満足気な息を吐いているダナーが、プルートに話しかけてきた。


「いい店だな。静かで落ち着いてるし、何より飯も酒も美味い」

「でしょ。独身時代はたまに来てたんだ。味が変わってなくてよかったよ」

「ちなみに、俺はザルなんだが、プルートさんは?」

「ワクって言われるかな」

「ははっ。安心して酒を楽しめるな」

「うん」


プルートは早々と1杯目を飲み干し、2杯目は別の酒を注文した。ポツポツとダナーと喋りながら、のんびりと酒と料理を楽しむ。こういうのは、随分と久しぶりな気がする。若い子とのパパ活デートの時は、若い子がもりもり食べるのを見るのが楽しいので、若い子向けの店にしか行かない。たまには、こんな風に落ち着いたデートもいいものだ。
プルートはダナーと一緒に、遅い時間までゆっくりと酒を楽しんだ。

数時間、居酒屋で酒を飲んだ後、プルート達は居酒屋を出た。こんなに酒を飲んだのは、少し久しぶりな気がする。満足感がヤバい。


「ダナー。2軒目に行く?それとも連れ込み宿?」

「2軒目は魅力的だが、今日は連れ込み宿で」

「いいよ。楽しもうじゃないか」


プルートはニッと笑って、ダナーの腕に自分の腕を絡めた。
居酒屋がある繁華街から花街へと向かう。いつもの連れ込み宿に入り、一番部屋代が高いが、大きな風呂がついている部屋を取った。たまの贅沢である。

プルートはいそいそと服を脱ぎ、ダナーと身体を洗いっこしてから、のんびりと温泉に浸かった。


「「あぁーー」」


浴室におっさん臭い声がハモって響いた。プルートは思わず吹き出し、笑った。ダナーも笑いながら、気持ちよさそうな顔で、肩までしっかり温泉に浸かっている。


「こんなにゆったり温泉に浸かれるっていいな。街の公衆浴場は、いつ行っても人がいるから」

「でしょ?僕達で貸し切りって感じで気分いいよね」

「これで按摩さんがいてくれたら、もっと最高」

「あー。それ最高過ぎるやつ。肩こりが慢性化してるんだよねぇ」

「俺も。あと長時間座って作業すると腰にくる」

「分かるー。若い頃は平気だったのに、じわじわガタがきてるんだよね。僕はそろそろ老眼鏡デビューだよ。細かい字が見えづらくてさ」

「俺は目はまだ大丈夫だが、数年内には老眼鏡のお世話になるなぁ。歳は取りたくないな」

「ねぇー」


プルートとダナーはお喋りしながら、のんびりと温泉を堪能した。

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