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19:趣味仲間(アーノルド)

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サンガレアの夏は暑い。連日茹だるような暑さが続いており、プルートはすっかり夏バテしていた。元々少食な方なのだが、更に食べられなくなり、ちょっとだけ痩せてしまった。
プルートはぐったりだが、ミーミは元気だ。ミーミが元気なら問題ない。プルートは可愛いミーミに癒やされながら、今日も出勤した。

帰宅して風呂に入った後、端末を見てみたら、リッキーから連絡がきていた。なんでも、友達がパパ活したいのだとか。プルートを紹介してもいいだろうかとの事だったので、プルートはすぐに『いいよ!』と返事を返した。
次の休日はパパ活デートだ。いっぱい食べてくれる子だと楽しいなぁと思いながら、プルートはミーミと少し遊んで、少しだけ2作品目を執筆してから、新たな出会いにワクワクしながら眠りについた。




------
待ちに待った休日である。プルートは精一杯お洒落をして、待ち合わせ場所の広場へと向かった。
広場に着くと、派手な柄のタンクトップと短パンを着た少年がいた。今時流行りの髪型をしており、耳にはピアスがじゃらじゃらついている。端末に送られてきた顔写真と同じ顔をしているので、今日のデートの相手はあの子で間違いない。
プルートは少しおずおずと少年に声をかけた。


「えーと、アーノルド君かな?」

「あっ。ちわーっす!アーノルドでっす!よろしこー」

「あ、はい。プルートです。『おじさん』でいいよ」

「うぃっす。俺も『アル』でいいっすよー」

「リッキーの友達なんだって?」

「そうっす。リーちゃんとは寮で同室なんすよ。リーちゃんがパパ活やってるのは知っててー。俺もやってみよかなぁって思ってー。ぶっちゃけ興味本位?みたいな?」

「そっかー。じゃあ、とりあえずデートしようか。君は何処に行きたいかな?」

「図書館!!」

「いいよ。僕も図書館は大好きなんだ」


アーノルドは派手な顔立ちをした中々の美少年である。念の為、ちゃんと成人しているかは確認させてもらった。プルートよりも少し背が低いアーノルドが、プルートと手を繋いでぶんぶん振りながら、楽しそうに口を開いた。


「デートで図書館行けるとかマジ最高ー。女の子だったら絶対嫌がるし。中央の街の図書館マジ最高なのにさぁ」

「本を読むのが好きなんだ」

「うん。魔術書以外も読むよー。おじさんも本が好きなの?」

「うん。子供の頃から大好きだね。自分でも小説を書いてるくらい」

「マッジで!?読みたい!!」

「え?」

「ちょー読みたい!!読ませてよ!おじさん!」

「あ、いやぁ……ド素人が趣味で書いたものだから、人に読ませられるようなものじゃないよ」

「それは読んでみなきゃ分かんないじゃん。文章も解釈も人それぞれっつーか、相性みてぇなのがあるじゃん?すっげぇ有名な作家でも面白くねぇって思うのもあるし、逆に無名でもすげぇ面白れぇのがあったりするじゃん」

「それは確かに。……まだ息子にしか読ませたことがないんだけど、読んでみる?」

「読む!!」

「じゃあ、僕の家に行こうか。そんなに長いお話じゃないから、昼前には多分読み終わるよ」

「やったぁ!」


無邪気に笑うアーノルドは本当に読書が好きなのだろう。プルートはアーノルドを連れて、自宅に戻った。
アーノルドに小説を書いたノートを渡すと、アーノルドはソファーに座り、真剣な顔でプルートの小説を読み始めた。プルートも折りたたみ式の椅子に座り、未読の本を読み始めたが、アーノルドの反応が怖くて、全く集中できない。
なんとも居心地が悪い時間は、昼前には終わった。

パタンとノートを閉じたアーノルドが、ふぅっと何やら満足気な息を吐いた。プルートにノートを差し出しながら、アーノルドがキラキラした目でプルートを見てきた。


「めちゃくちゃ面白いじゃん!洞窟探検のところとか、マジで胸熱だったし!続編とかないの?これだけ?」

「本当に?えっと、ありがとう。続編は今書いているところだよ」

「書き上がったら絶対読ませて」

「あ、うん。あはっ。なんか照れるね」


プルートはアーノルドから受け取ったノートを片手に、ぽりぽりとじんわり熱い頬を掻いた。


「本にして販売してくれたら絶対買うのに」

「いやぁ。中々勇気が出なくてね。初めて書いたものだし、本職の人が読んだら、きっと鼻で笑われちゃうよ」

「んなことねぇって。マジですげぇ面白かったって。来月にさ、小説のコンクールがあるんだわ。俺も小説書くのが趣味でさ。今度のコンクールに出すつもり。おじさんも一緒に出そうぜ!応募締め切りは来週末までだから、原稿用紙に書き写しなよ」

「マジですか」

「マジでーす」

「君は魔術師じゃなくて小説家になりたいのかい?」

「んーん。魔術は面白いから魔術師になるけど、趣味で小説は書き続ける予定」

「なるほど。君の作品も読みたいな」

「寮にあるから、次のデートん時に持ってくるわ」

「うん。ありがとう」

「物書き仲間が増えたぜーい!めちゃくちゃ嬉しい!!」

「僕も嬉しいよ」

「やっぱさぁ、『趣味は小説を書くことですー』とか言うと、根暗な奴って思われるんだよなぁ。中等部の時とか、うっかりバラしちゃって、一時期ハブられてたし」

「えっ。そうなの?」

「そー。中央の街の高等学校に入ったのって、魔術師になりたかったのもあるけど、地元の奴らから離れたかったんだよねー」

「そっかぁ。辛かったね」

「今は大丈夫。学校の奴で俺の趣味を知ってるのって、リーちゃんだけだし。リーちゃんは誰にも言わないでくれてるし、俺が書いた小説を楽しんでくれる貴重な読者様なんだよね」

「リッキーはいい子だもんね。本が大好きだし」

「そー!!リーちゃんってマジでいい奴でさ!リーちゃんが同室でめちゃくちゃ良かったわ!」


アーノルドが嬉しそうに、リッキーのいいところをだーっと勢いよく話し始めた。アーノルドはリッキーが大好きらしい。プルートとしても、リッキーに仲良しの友達がいて安心である。若人の友情にほのぼのしながら、プルートはテンション高めのアーノルドの話を聞いてやった。

昼時が近くなったので、自宅を出て、飲食店が多く立ち並ぶ一角へと向かう。アーノルドのご希望で、焼肉屋に行くことになった。
焼肉屋に入ると、アーノルドは楽しそうにメニュー表を広げた。


「好きなだけ頼んでよ。僕はいっぱい食べるところを見るのが好きなんだ」

「あざーっす!じゃあ、とりあえず五人前で。おじさんは?」

「僕は少食だから、君のを少し分けてもらえないかな?」

「おじさん、痩せてるけど、もしかして夏バテ?」

「うん。割と夏バテ気味」

「夏バテには肉がいいっすよ!それと熱い料理とか辛い料理。冷たいもので内臓冷やすのが一番駄目って爺ちゃんが言ってた」

「そうなの?えー……じゃあ頑張って食べるかな……」

「晩飯は鍋屋に行こー。ピリ辛鍋食べよう。ピリ辛鍋」

「この暑いのに?」

「熱くて辛いもん食って汗かいたら夏バテも吹っ飛ぶっしょ!」


アーノルドがニッと笑った。なんとも元気のいい子である。もうすぐ17歳の誕生日がくるのだとか。お祝いも兼ねて、焼肉屋の後はケーキ屋に行くことになった。図書館はその後である。
大量の肉を焼きながら、ガツガツ美味しそうに食べるアーノルドを見ていると、なんとも楽しい。プルートはアーノルドに勧められて、自分もチマチマ焼肉を食べた。なんだか少し久しぶりにまともな食事をした気がする。ここ最近はサラダとかばっかり食べていた。熱々の肉を食べると、なんだか少し元気になった気がしてくる。
プルートは、アーノルドの為にせっせと肉を焼きつつ、自分もお腹いっぱいになるまで、ひたすら肉を食べた。

焼肉屋を出たら、ケーキ屋に入り、ケーキ屋の喫茶コーナーでケーキを食べる。甘いものは別腹というやつなのか、アーノルドは大きなホールケーキを頼み、幸せそうな顔をして、もっもっとケーキを食べている。プルートは少しだけケーキを分けてもらい、のんびり珈琲を飲みながら、ケーキを食べた。


「おじさんも甘いもの好きなんすか?」

「好きだねぇ。クッキーやパウンドケーキくらいなら自分で作るよ」

「マジかよ!すっげぇ!いいなー!食ってみたーい!!」

「じゃあ、次回はパウンドケーキを焼いて持ってくるよ」

「よっしゃ!」

「チョコとバナナのパウンドケーキと、林檎のパウンドケーキ、どっちがいい?」

「両方」

「あっはは!いいよ。両方焼いて持ってくるよ」

「やったぁ!」


アーノルドの弾けるような笑顔がとても可愛らしい。プルートはアーノルドの食べっぷりを楽しみつつ、今回もいい出会いだな、と思った。

ケーキ屋を出ると、図書館に行き、図書館全体をぐるぐると何周もして、読みたい本を2人で探した。お互いにオススメの本を選び合ったり、隠れた名作っぽいのを探したりと、静かに楽しく図書館を満喫した。

お互い5冊の本を借りて、図書館の閉館時間に図書館を出た。ご機嫌なアーノルドがプルートの腕に自分の腕を絡めて、ニッと笑った。


「晩飯食いに行こー!」

「鍋屋でピリ辛鍋ね」

「いい汗かこうぜい」

「ははっ。好きなだけお食べよ」

「うん!!ガッツリいくぜい」


鍋屋に入り、空調がきいた涼しい部屋で、あっついピリ辛鍋を食べている。ものすごく美味しそうに、はふはふしながら食べているアーノルドを見ていると、プルートもつられるようにして食べることができた。
熱々で辛い味付けの肉や野菜が美味しい。
ここ最近、本当にバテ気味だったので、なんだかアーノルドに元気を分けてもらったような気がする。大口を開けてバクバク食べるアーノルドは幸せそうで、見ているだけでこっちまで幸せな気分になってくる。
アーノルドは8人前の鍋を殆ど1人で食べ、デザートも全制覇すると、幸せそうな顔で『幸せー』と笑った。




------
いつもの連れ込み宿に行き、部屋に入ると、アーノルドがワクワクした顔で部屋中を見て回った。


「すげー。連れ込み宿ってこんなんなんだ。何このボタン。……うおっ!?風呂場の壁が無くなった!?」

「透明になってるだけで、壁はあるよ」

「すげー。なんかドスケベー。あ、おじさん」

「ん?」

「俺、ちゅーもしたことない童貞だから、リードしてよ」

「おや。意外だね。モテそうなのに」

「それなりにモテるんだけどー。ケツ掘られるのはなんか嫌だし。女の子だと、どうしてもちゅー止まりじゃん?」

「まぁ、アルの同年代の子だと、結婚が前提のお付き合いになるからね」

「そー。初婚は処女じゃなきゃ駄目だし。気軽にセックスなんかできねぇじゃん。人妻と遊んでる奴もいるけどさぁ。人のもんに手を出すのって抵抗あんだよなぁ」

「僕で勃つかな?」

「さぁ?やってみねぇと分かんない。気持ちいいこと教えてよ」

「じゃあ、2人で楽しく気持ちよくなろうか」

「うぇーい。よろしこー」


アーノルドがプルートに抱きつき、ニッと笑った。本当に元気で可愛い子だ。プルートは笑いながら、アーノルドの唇にキスをした。

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