上 下
13 / 24

13:思わぬ見合い

しおりを挟む
サンガレアに春が来た。
一人暮らしを始めて、そろそろ1年になる。ミーミとの暮らしも、『パパ活』も楽しくて、年明けから挑戦し始めた小説の執筆も難しいが楽しい。仕事も特に問題なく出来ているし、プルートは充実した日々を過ごしていた。
『パパ活』の遊び相手の1人だったダッドは無事に高等学校を卒業して、魔術研究所に就職した。『パパ活』も卒業ということで、ダッドとの最後の『パパ活』は色々とはっちゃけて、非常に楽しく、最後は笑顔でさよならをした。

今日は休日である。今日は『パパ活』の予定は入っておらず、仲良しの老夫婦と一緒にお茶会をする予定だ。プルートは朝早くからお茶会に持っていくパウンドケーキを焼いて、ミーミを連れて、家を出た。

老夫婦の家の玄関の呼び鈴を鳴らすと、笑顔のグラッドソンが出迎えてくれた。アルブーノとも挨拶をして、ミーミを2人の飼い猫ニャルコの近くに下ろしてやる。ミーミとニャルコは仲良しで、すぐにくっついて戯れて遊び始めた。

グラッドソンがパウンドケーキを切り分け、珈琲と共に運んできてくれた。グラッドソンにお礼を言って、珈琲を一口飲む。グラッドソンは珈琲を淹れるのがとても上手だ。グラッドソンに珈琲の淹れ方を習ったのだが、まだまだこの味には程遠い。
暫く猫の話や世間話をしていると、アルブーノが、唐突にプルートに端末を見せてきた。
端末には、どこかアルブーノに似ているような中年の男が映っていた。


「息子のダナーだ」

「へぇー。アルブーノさんに似てますね」

「今年で39になる。プルート。見合いする気はねぇか?」

「え……」


プルートはいきなりの話に驚いて、ピシッと固まった。困り顔をするプルートに、グラッドソンが説明をしてくれた。


「実は3ヶ月前に離婚したんだ。ダナーは服職人で、奥さんと上手くいかなくなって別れたんだよね」

「息子さんが2人いらっしゃいますよね」

「うん。上が14歳で、下が11歳。プルートの事情は知ってるから、結婚は嫌かなぁと思ったんだけど、僕達が知ってる人の中では、プルートが一番いいなぁって思って。あ!ちゃんと、うちの息子は家事とかバリバリするから!キレイ好きで掃除の鬼だし!」

「はぁ……いやでも……」

「……うちの息子は親の俺が言うのも何だが、お人好しってくらい優しい。子育ての手伝いは俺達でもできるが、息子に寄り添ってはやれないからよ。できたら、息子と一緒に寄り添って生きてくれる人がいてほしいのよ。まぁ、親心ってやつなんだが」

「んー。お気持ちは分からないでもないんですけど、女性と結婚されてらっしゃったのなら、女性の方がいいのでは?」

「いや。それがすっかり女性不信になってんだわ。なんか貯金を全部別の男に貢がれてたらしい」

「うわぁ……それはお気の毒……」

「会うだけ会っちゃもらえないかね」


プルートは少し困りながら悩んだ。老夫婦には、本当によくしてもらっている。もう結婚はしたくないが、そもそも相手の方がプルートのことを気に入らない可能性が高い訳だし、会うだけ会ってみるか。
プルートがそう言うと、アルブーノもグラッドソンも嬉しそうに笑った。


「今日の午後、うちに来るように連絡するわ。お互いラフな格好の方がいいだろ。孫達も呼んでいいか?」

「えぇ。それは勿論」

「プルート。それなら、こないだ作ってくれたクッキーの作り方を教えてくれないかな。あのジャムがのってるやつ。すごく美味しかったから、孫達にも食べさせたいんだ」

「いいですよ。材料はあります?」

「ジャムは苺しかないけど、それ以外はあるよ」

「あ、じゃあ、ブルーベリーとマーマレードをうちから持ってきますね。種類があった方が楽しいですし」

「ありがとう。助かるよ」

「いえいえ」


まさかの見合い話がきてしまったが、こんなハゲ1歩手前のおっさんを相手が気に入る訳がない。子供達だって嫌がるだろう。
プルートは断られる気満々で、楽観的に考え、一度自宅に帰り、ジャムを持って老夫婦の家に戻った。

グラッドソンと一緒にクッキーと昼食を作り、3人でのんびり昼食を楽しんでいると、玄関の呼び鈴が鳴った。
グラッドソン達の息子達が来るのには、少し早い時間だ。
グラッドソンとアルブーノが顔を見合わせ、アルブーノが椅子から立ち上がり、玄関へと向かった。
玄関の方から、アルブーノとアルブーノの息子一家がやって来た。
アルブーノの息子は、濃い茶髪に柔らかい胡桃色の瞳をしていて、中々に男前だったが、明らかに疲れた顔をしていた。上の子は父親似のようで、将来が楽しみな感じだが、なにやらぶすっとした顔をしている。下の子は母親似なのか、可愛らしい顔立ちをしていて、礼儀正しくプルートに『こんにちは』と挨拶をした後、グラッドソンに抱きつきにいった。
グラッドソンが下の子を抱きしめながら、ダナーを見上げた。


「ダナー。ちょっと早かったね」

「あぁ。悪い」

「お昼ご飯は?」

「食べてきた」

「そう。じゃあ僕達が食べ終わるまで、少し待っててよ。あ、この人がよく話してるプルートだよ。プルート。こっちは息子のダナー。上の子がスルトで、下の子がキルト」


プルートは椅子から立ち上がり、ダナー達と向かい合った。


「はじめまして。プルート・ガイナモーンです。ご両親には、いつもお世話になってます」

「……ダナー・ハルバードです。うちの両親と仲良くしてくれてるようで、ありがとうございます。ほら。スルト。キルト。挨拶」

「……スルトです。はじめまして。おじさん」

「キルトです」

「キルト君は一度会ったことがあるよね」

「うん。チョコレートくれたおじさん。あれ美味しかったです。ありがとうございました」

「いえいえ。お口に合ってよかったよ」

「おじいちゃん。おじいちゃん達が食べ終わるまで、ニャルコと遊んでていい?」

「いいよ」

「あれ?ちっこいにゃんこが増えてる」

「プルートの家の子さ。ミーミだよ。可愛いだろう」

「ふーん。おじさん。ミーミとも遊んでいいですか?」

「勿論いいよ」

「ありがとうございます」


スルトとキルトはミーミ達と遊びに行った。所在無さげなダナーだけが、プルート達の側にいる。グラッドソンがダナーに声をかけた。


「珈琲を淹れてくるから少し待ってなよ。椅子は折りたたみのを出してきて」

「いや、自分で淹れてくるから、父さん達は食べてろよ。食事中に来ちゃってごめん」

「まぁ気にするな」


ダナーが台所へと向かったので、プルートは椅子に座り、食事を再開した。
ダナーの疲れっぷりを見たら、なんだか以前の自分を思い出した。きっと毎日あんな顔をしていたのだろう。
仕事で疲れ、家事で疲れ、子育てで疲れ、離婚をしたのならば、離婚に関するあれこれでも疲れ……。なんともダナーが気の毒になってくる。だからといって、結婚はしたくないのだが。

珈琲を淹れてダナーが戻ってきた。大人の人数分淹れてきてくれたので、ちょうど食べ終わったプルートは、ありがたく食後の珈琲を楽しませてもらった。グラッドソンに習ったのだろう。ダナーが淹れてくれた珈琲は、グラッドソンの珈琲とそっくりで、とても美味しい。
プルートが素直にそう褒めると、ダナーが少し照れ臭そうに小さく笑った。


「父さん。親父。今日来たのは、見合いを断る為だ」

「何でだよ。プルートはすごくいい人なんだぞ」

「それは見たらなんとなく分かるよ。だけど、俺はもう結婚はしたくないんだ」

「しかしなぁ、1人じゃ大変だろうが」

「だからって再婚するのも変な話だろ。殆ど子育てを手伝ってほしいって言ってるようなものじゃないか」

「うっ……まぁ……」

「プルートさん」

「はい」

「すいません。多分、うちの両親が無理に頼んだんでしょう。申し訳ないんですが、見合いは無かったことにしてください」

「分かりました。僕も断られる気満々でしたから、気にしないでください。実は僕も去年の今頃離婚をしまして。今は独り身生活を満喫しているんですよ。僕ももう結婚はしたくないんです」

「あ、そうなんですか」


ダナーがどことなく、ほっとしたような顔をした。老夫婦には悪いが、プルートは本当に再婚する気がまるでないので、ダナーが先に断ってくれて助かった。

老夫婦はガッカリした顔をしていたが、『まぁ、本人同士の気持ちが一番大事だもんな』と納得していた。
それからは、普通に珈琲を楽しみ、子供達と一緒にミーミ達と遊んで、午前中に焼いたクッキーをお供にお茶を飲んでから、解散となった。
帰り際に、グラッドソンから謝られた。


「ごめんね。プルート。アルブーノがどうしてもプルートがいいって聞かなくてさ。まぁ、僕も反対しなかったんだけどね」

「いえ。そういう風に思ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」

「ううん。遊ぶのもいいけど、君も誰かと寄り添えるといいなぁって。余計なお世話しちゃったね」

「……ありがとうございます。そうやって気遣ってもらえて、本当に嬉しいです」

「もし、気が変わったら言いなよ。これでも結構顔が広くてね。いい人紹介するよ」

「ははっ。その時はお願いしますね」

「うん。孫達と遊んでくれてありがとう。すごく楽しかったよ。またいつでもおいでよ」

「はい。次はお昼にいただいた鶏肉の煮物の作り方を教えてくださいよ」

「ははっ。勿論いいとも」


プルートはグラッドソンと笑顔で別れて、自宅に帰った。
遊び疲れておねむなミーミを籠のベッドに寝かせると、プルートは机の上にノートを置き、椅子に座ってペンを手に取った。
少しずつ書いていた小説が、あと少しでなんとか書き上がりそうなのだ。頭の中の物語を文章に書き起こしながら、ふと、プルートはペンを止めた。

今はミーミがいてくれて、『パパ活』をして遊んでくれる子達がいて、プルートの第二の人生を応援してくれるバレットがいる。
自分の人生に、寄り添って生きてくれる人は必要なのだろうか。

ダナーの疲れた顔を見れば、ダナーには必要なんじゃないかと思える。1人でも大変だったのに、子供が2人もいるし、別れた妻からかなりの財産を浪費されたみたいだし。ダナーを支えて、一緒に頑張ってくれる人がいた方がいいと思える。しかし、それは自分でなくていい。薄情なようだが、プルートはやっと開放されて、自由になったのだ。また『家族』に縛られる生活に戻るのは嫌だ。
 
プルートは再び小説を書き始めながら、ダナーに早くいい人が見つかればいいなぁと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。 勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。 しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!? たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

同人漫画作家の弟の作品が全部弟×兄なんだが、どうしたらいい?

イセヤ レキ
BL
表題のまんまです。 同人漫画作家の弟×ノンケ兄 快楽に弱々な兄が即堕ちします。 美形兄弟による近親相姦。 快楽堕ち メス堕ち 自慰 ハッピーエンド 近親相姦 流され

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

処理中です...