離婚したからパパ活しちゃうおっさんのお話

丸井まー(旧:まー)

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11:真面目君と遊ぼう!(リッキー)

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プルートは目頭を押さえて低く唸り、椅子から立ち上がって、自分のベッドにぼふんと倒れ込んだ。年末年始の休みにバレットに勧められて小説を書き始めたはいいが、これが思っていた以上に難しい。自分の頭の中に思い描いた物語を文章に起こすのが、こんなに難しいとは思っていなかった。書いては消し、書いては消しを繰り返している。
ベッドのすぐ側に置いてある籠のベッドから、ミーミがベッドに上がってきて、みぃと可愛らしく鳴きながら、ぐったりしているプルートにくっついてきた。ミーミが可愛過ぎてヤバい。慰めてくれているミーミに、プルートはでれっとした笑みを浮かべて、ミーミを抱き上げ、仰向けに寝転がって自分の胸の上にミーミを乗せた。

暫くミーミとイチャイチャしていると、ベッドのヘッドボードの上に置いていた端末の通知音が鳴った。手を伸ばして端末を手に取り、端末を操作してみれば、ダッドからだった。プルートに紹介したい子がいるらしい。勿論、『パパ活』で。プルートは大喜びで紹介を頼んだ。
新年が明けてから、まだ『パパ活』をして遊んでいない。学生組もサリオも忙しいらしい。新しい子を探しに『アンダルシュ』に行ってもよかったが、プルートはプルートで初めての執筆作業をしていた。少し久しぶりの『パパ活』はいい気分転換になるかもしれない。
プルートはダッドから紹介してもらった子と、次の休みにデートをすることになった。






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その子の第一印象は、堅物クソ真面目だった。真っ直ぐな茶髪をキレイに切りそろえ、服装もかっちりとした雰囲気の歳の割に老けた印象を受けるような感じだった。事前にダッドに送ってもらっていた顔写真と顔が一緒なので、間違えているわけではないと思うのだが、とてもじゃないが、『パパ活』をするような子には見えない。
待ち合わせ場所にいた少年に、プルートは戸惑いながら声をかけた。


「失礼。リッキー君かな?」

「えっ、あ、はい」

「えーと……僕はプルートです。『おじさん』って呼んでね。ダッドから紹介された子であってる?」

「あ、はい。えっと、リッキーです。その、よろしくお願いします」

「え、あ、うん。……あの、失礼なことを言っちゃうんだけど。そのー、君が『パパ活』をするような子には、ちょっと見えなくてね。あっ、顔が悪いとかそういうんじゃなくてだね。えーと……なんというか……」

「……堅物クソ真面目そうだからですか?」

「あ、うん。ごめんね?なんか」

「いえ。よく言われます。……ダッド先輩が、僕は真面目過ぎるから少しは遊びを覚えてこいって。楽しい人を紹介するからと」

「えー。それで僕?」

「はい。僕は魔術師になって、魔術研究所で働くことを目指しているんですけど、ダッド先輩が『遊んで、魔術以外の世界を知って、より自由な発想を得た方がいい』と仰ったんです」

「あ。君も魔術師の卵なんだね。歳はいくつ?」

「16です」

「そっちの意味じゃなくても、例えば、友達と遊んだりしたことはある?」

「ありません。小さい頃から本を読むのが好きで……あと、親が厳しくて、ずっと勉強していました」

「なるほど。よし。リッキー。今日はとことん遊ぼう」

「えっと、は、はい」

「……僕もね、子供の頃は殆ど友達と遊んだことがなかったんだよね。親が厳しくて勉強ばっかりやってた。リッキーと一緒かな。リッキーは中央の街の子?」

「……いえ。カサンドラの街の出身です」

「それはまた遠い所から来たね。中央の街の観光とかした?」

「……いえ、まだ……」

「よぉし。それじゃあ、2人で思いっきり中央の街を楽しもうか!」

「は、はい」


プルートはリッキーを見て、昔の自分を思い出した。親が選んだ服を着て、勉強ばかりして、楽しい時は、本を読んで物語の世界にいる時だけ。髪型さえも親がいつも決めていた。流行りの髪型なんてできなくて、多分、学生時代は特に、流行遅れの所謂『ダサい』子だった。
プルートは気後れしているようなリッキーの手を握ると、まずは服屋に直行した。

老舗だが常に最先端の流行の服を扱っている服屋に行き、なんだか腰が引けているリッキーをお洒落な格好をした店員に引き渡した。『この子に似合う服を選んであげて』とお願いして。
プルートも自分用の服を選んでいると、店員から声をかけられた。試着室に行くと、格段に垢抜けたリッキーがいた。リッキーは顔は地味めではあるが、整っている方だ。磨けば、めちゃくちゃ光ると思う。流行遅れの堅苦しい服装から、今流行りの明るい色合いのセーターや細身のズボンを穿いているリッキーは、中々いい感じに今時の若者っぽくなった。リッキーは落ち着かないのか、なんだか頬を淡く赤く染めて、もじもじしている。店員にリッキーに似合うコートやブーツも選んでもらい、全部着て帰れるよう頼んでから、プルートはさくっと会計した。
リッキーが慌てた様子でプルートの腕を掴んだ。


「あのっ!こんなに買ってもらうのは流石にちょっと!!」

「ん?その服、気に入らない?」

「え、あ、いや……本当に、僕なんかに似合いますか?」

「うん。すごく垢抜けた感じ。ついでに髪も切っちゃう?お洒落するの楽しいよ?」

「お洒落……とか、したことないです」

「じゃあ、してみよう。ものは試しだよ。お洒落して、中央の街を楽しもう」

「あ、はい。……あの……」

「ん?」

「……ありがとうございます。その、ちょっと、こういう格好するの憧れてて」

「ふふっ。よく似合ってるよ」

「え、えへへ……」


照れてはにかんで笑うリッキーは、初対面の時とは違って、年相応の幼さと可愛らしさがあった。
プルートは更にリッキーを変身させるべく、馴染みの床屋へとリッキーを連れて行った。折角だし、プルートも髪を切ってもらうことにする。今は薄毛を気にして天辺辺りの毛を長くして誤魔化しているが、いっそ堂々と短くしてしまうのはどうだろう。馴染みの床屋の腕前は確かだし、親子でやっていて、息子の方は特にセンスが若者向けだ。プルートはリッキーと手を繋いで、うきうきと床屋へ入った。

プルートは鏡に映った自分を見て、少し驚いた。なんかお洒落っぽくなってる。無理矢理前髪の後退を誤魔化していた時よりも、全体を短く切って、ツーブロックなる流行りの髪型にしてもらったら、薄毛もそんなに気にならないし、なによりお洒落感がすごい。床屋のおじさんの腕前を舐めていた。似合う髪型にしてくれと頼んだら、こんなに素敵にしてもらえるとは。プルートは嬉しくて、床屋のおじさんを褒め称えた。
息子の方に切ってもらったリッキーも、随分とサッパリとしたお洒落な髪型になっていた。リッキーもツーブロックなるものだが、プルートとは少し印象が違う。毛の量なのだろうが、プルートよりも遊びがある感じで、リッキーの印象が全然変わった。
リッキーが鏡を見て、驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。やはり年頃だし、全くお洒落に興味がなかった訳ではないのだろう。ただ、親に自分はこうしたいと言えなかっただけな気がする。プルートがそうだった。

2人揃ってお洒落になった所で、ピッツァが美味しい店へと向かう。リッキーの親が、ピッツァは食べさせてくれなかったらしい。手掴みで食べるものは品がないと。リッキーは、他にも食べたことがないものが、多分いっぱいある。
プルートはリッキーに美味しくて楽しい食事をしてもらうべく、お気に入りの店へと入った。

恐る恐るピッツァに齧りついたリッキーは、パァッと顔を輝かせた。もぐもぐ咀嚼しているリッキーに、プルートは笑いかけた。


「美味しいだろう?」

「んっ。はい。すごく美味しいです!」

「君も魔術師の卵なら沢山食べるだろ?遠慮せず好きなだけお食べよ。僕は沢山食べる人を見るのが好きなんだ」

「そうなんですか?……えっと、じゃあ、このピッツァも頼んでいいですか?」

「勿論!なんなら全制覇しちゃってもいいよ!」

「……あはっ。おじさんって、不思議な人ですね」

「そうかな?」

「はい。絵本の魔法使いみたいです。僕を変身させてくれて、新しい世界を見せてくれるなんて」

「ふふっ。なら、今日限定で僕は君の魔法使いだ。この後は劇を観に行こう。とびきり笑える愉快な喜劇をね」

「はいっ!」


リッキーの嬉しそうな楽しそうな笑顔が、見ていてとても気持ちがいい。もりもり美味しそうに食べるリッキーを眺めながら、プルートはゆるく笑みを浮かべた。

劇場に行って、喜劇を観て2人揃って笑い転げた後は、今度は食べ歩きである。カサンドラの街には無いという食べ物を中心に買い食いして、ぶらぶらと街を散策する。

ふと、小さな雑貨屋が目に入った。プルートはリッキーに声をかけて、雑貨屋に入ってみた。プルートは猫の可愛らしいマグカップを見つけて、思わず手にとってしまった。買うか、否か。うーん、と悩み始めたプルートを見て、リッキーが声をかけてきた。


「おじさんは猫が好きなんですか?」

「大好きだね。1匹買ってるんだ。ミーミって名前でね。すごく可愛いんだ」

「僕も猫好きです。あ、でも犬も好きです。あと馬とか、山羊とか。実家の近所の家で山羊を飼ってる家があって、たまに餌をあげさせてもらったりしてました」

「山羊!へぇ。いいなぁ。実物は見たことがないんだよね。僕」

「可愛いですよ。目が優しい子でした」

「いいなぁ。旅行もしてみたいなぁ。気ままな一人旅とか憧れるなぁ」

「素敵ですね。本でしか読んだことがないものを実際に見るって、なんだか新鮮でした」

「今日の喜劇は古典が原作だものね。読んだことはあったんだ」

「はい。滑稽で、すごく好きなお話です」

「ふふっ。楽しかった?」

「はい!すごく!」

「それならよかった。此処で何か欲しいものはないかな?魔法使いのおじさんが買っちゃうよ?これも自分用に買うしね」

「えっと……じゃあ、ブレスレットが欲しいです。あの、木でできてるやつ」


リッキーがおずおずと指差したのは、伝統的な紋様が彫られた木のバングルだった。プルートは笑顔でそれを手に取り、猫のマグカップと一緒に会計をした。
雑貨屋から出て、リッキーのほっそりとした腕にバングルをつけてやると、リッキーが控えめな笑顔で、やんわりとバングルを撫でた。


「おじさんは、やっぱり魔法使いです」

「あはっ。それじゃあ、晩ご飯を食べたら、もっと楽しいことをしてみようか」

「はいっ!」


最初は戸惑っているようだったリッキーが、時間が経つにつれ、どんどん明るく若者らしい輝きを見せてくれるようになってきた。夕食の前に、本屋に立ち寄り、2人でお互いにお勧めしてみたい本を選ぶという遊びをして、プルートは今巷で話題の創作料理店にリッキーを連れて行った。
創作料理店でも気持ちがいい食べっぷりを披露してくれたリッキーに、プルートは上機嫌で笑って、少しだけ酒を飲んだ。

本当のお楽しみはこれからである。
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