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4:うきうきデート(ダッド)

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プルートは朝から鏡の前でなんとか薄毛を誤魔化そうと四苦八苦していた。前髪の後退を誤魔化すために頭の天辺あたりの毛を長めに伸ばしているのだが、元々毛が細くて量が少ない方なので、あんまり誤魔化しきれていない気がする。
小一時間髪と格闘して、最終的に諦めたプルートは帽子を被った。今流行っているというストローハットという帽子だ。要は麦わら帽子みたいなものだ。明るめの青色の帽子で、自分に似合うかはよく分からなかったが、気に入ったので買ってみた。
白い襟なしの半袖シャツに黒いベストを着て、下は細身の黒いズボンを穿く。足元は茶色いサンダルだ。今、細身のズボンやタイトなベストが流行っているらしい。

プルートがこうして頑張って慣れないお洒落をしているのは、今日が『パパ活』のデートをする日だからである。
『パパ活』で知り合ったディディから、数日前に端末に連絡がきた。曰く、物入りの先輩がいるから、『パパ活』してくれるなら紹介すると。プルートは即答で紹介してもらうことにした。いきなり知らない相手とデートやセックスをするのもいいが、やはり顔見知りというか、一度セックスをした相手からの紹介の方がなんとなく安心できる。

今日のデートの相手は18歳の学生だ。やはり息子よりも若い。どんなデートとセックスになるのか、非常に楽しみである。
プルートはうきうきとした気分で、ミーミを仲良しの老夫婦の家に預け、軽い足取りで待ち合わせ場所へと向けて歩き出した。


ディディ経由で教えてもらった相手の連絡先から指定された本屋の前で待っていると、若い男に声をかけられた。濃い色味の赤毛の火の民で、背は平均身長くらいのプルートよりも少しだけ低い。顔立ちは可愛らしく、中性的で、ほっそりとした身体も相まって、実年齢よりも幼く見える。多分、今日のデートの相手だろう。


「貴方がプルートおじさん?」

「そうだよ。君はダッドかい?」

「そう。今日はよろしく」

「こちらこそ、よろしく」

「ディディに紹介してもらって正解だったな。脂ぎった太っちょおじさんはちょっと苦手なんだよね」

「今日は夜まで付き合ってくれるのかな?」

「うん。ディディから聞いてる。おじさんを抱けばいいんでしょ?」

「うん。僕相手でいけそうかな?」

「やってみなきゃ分かんない。いつも皆僕を抱きたがるから、ぶっちゃけ童貞なんだよね」

「そうなんだ。じゃあ、先にデートをしよう。君が行きたい所は?」

「ん?おじさんが行きたい所に行くんじゃないの?」

「デートはお互いに楽しむものだろう?」


プルートの言葉に、ダッドがきょとんとした後、ニカッと笑った。


「いいね。ディディがわざわざ紹介してくれた理由が分かったよ。じゃあ、まず、この本屋に入っていい?あと、ちゃんと最後まで付き合うから、先払いしてもらえないかな。最新の魔術書がどうしても欲しいんだ」

「いいよ」

「……言った僕もなんだけど、そんなにあっさり頷かない方がいいよ?おじさん。お金を持ち逃げされたらどうすんのさ」

「君はしないだろ?」

「そりゃしないけど」

「じゃあ、構わないよね。はい。相場でよかった?」

「うん。ありがと」


プルートは肩掛け鞄から財布を取り出すと、ダッドに金を渡した。金を受け取ったダッドが、するりとプルートの腕に自分の腕を絡みつけ、へへっと笑った。


「ありがと。これで魔術書が買えるよ」

「僕も何か買おうかな。やっとゆっくり本が読めるようになったし」

「ん?そうなの?」

「最近、離婚してね。それまでは、元旦那の世話と子育てと家事と仕事で、自分の時間をゆっくり持つって殆どなかったから」

「ふーん。離婚して正解だったね」

「うん。僕はやっと自由になれた」

「ふふっ。だから『パパ活』して遊んでんの?」

「ディディが初めてだったんだ。思ってたよりもずっと楽しかったから」

「ははっ!じゃあ、今日は僕と一緒に楽しもう」

「うん。よろしく頼むよ」


プルートはダッドと顔を見合わせて、ニッと笑い合った。本屋で本を買い、久しぶりに図書館に行ってみたくなったので、プルートの希望で図書館に行った。ダッドも楽しそうに本を選び、一度に借りられる本の最大数である5冊の本を借りていた。プルートも3冊の本を借りた。
昼食時になったので、ダッドの希望でピッツァが美味しいと有名な店に入った。プルートも気に入っている店だったので、一緒に食事を楽しめそうだと嬉しくなった。


「ダッド。君は魔術師の卵だろう?勿論、大食いだよね?」

「うん。まぁ、ちゃんとセーブして食べるから安心して」

「いや。セーブしなくていいよ。むしろ思いっきり食べてくれないかな。実は、僕はこの店のピッツァが大好きなんだけど、別れた元旦那がピッツァ嫌いでね。たまに息子と2人で来てたけど、息子はいつも同じものしか頼まなくて。一度でいいから、ピッツァメニューの全制覇をしてみたいんだ。ピッツァ5枚くらい食べられる?僕はあまり食べられないから少しずつ分けてもらう形になるんだけど」

「5枚なら余裕。なんならデザート全制覇もいけるけど?」

「最高だな!ここのデザートも美味しいんだ。是非ともお願いしたいよ。あ、勿論、僕の奢りだから」

「あはっ!ほんと、楽しいおじさんだなぁ。それなら久しぶりに本気食いしますか!普段はさ、やっぱセーブして食ってんの。僕、かなり魔力が多いんだけど、食べたいだけ食べてたらお金が足りないからさ。割といつでも腹ぺこなんだよね」

「それはよくないな。成長期はちゃんと食べないと」

「一般的より少し多めには食べさせてもらってるよ。ただ、僕には少し……少し?足りないだけ」


ダッドが小さく苦笑した。保有する魔力が大きい人は、健啖家が多い。プルートの息子も魔術師だが、魔術師としては平均的な魔力量だから、一般よりもまぁまぁ大食いな位だが、保有する魔力がそれよりもっと多いのなら、成長期ということも相まって、必要となる食事量がそれだけ多くなるのも当然だ。
プルートはメニュー表をダッドに渡し、若干据わった目でダッドを見た。


「今日は好きなだけ食べなさい。本当に気にしなくていい。食べたいだけ食べるんだ。君は今、身体も魔力も成長している最中の歳だ。今きちんと必要なだけ食べておかないと、折角の成長が止まりかねない。魔術師になりたいのだろう?魔力は多い方がいい。しっかりがっつり腹いっぱい食べなさい」


ダッドがぽかんとした顔をした後、なんだか泣きそうな顔で笑った。


「……ありがと。おじさん。よし!じゃあマジで本気食いしちゃうからね!」

「思いっきり食べちゃいなさい」

「はーい!すいませーん!注文お願いしまーす!」


ダッドが近くにいた店員に声をかけ、注文を始めた。注文する料理数に店員がそのうち目を白黒させ始めたが、プルートが『彼は魔術師の卵だから』と説明すると、納得した顔で、注文を伝えに厨房の方へと向かっていった。
サービスで出してくれた冷たい水を飲みながら、ダッドが嬉しそうに笑った。


「ふふっ。店でこんなに注文すんの初めてかも」

「君の実家は何処なんだい?」

「バーバラの街だよ。僕は寮に住んでる。食堂のご飯って美味しいけど量が足りなくてさ。実家からの仕送りもあるけど、買い食いと魔術書買うので、いつでも金欠状態なんだよね」

「なるほど。君やディディみたいな学生は割といるのかい?」

「まぁ、ぼちぼち?ある程度見た目がよくないと『パパ活』なんてできないから、僕が知ってるのはディディも含めたほんの数人だけかな」

「へぇ。あ、早速ピッツァがきた」

「やった!ピッツァなんてすっごい久しぶりに食べるよ!おじさん。おじさんが食べる分だけ先に取ってよ。残りは僕が美味しくいただくから」

「ははっ。じゃあ、いただくよ。がっつり美味しく召し上がれ」

「うん!!」


ダッドが弾けるような笑顔でピッツァを手に取り、大きく齧りついた。

プルートは思わず拍手をした。デザートも全制覇したダッドの食べっぷりは、見ていて本当に気持ちよかった。しかもどれも美味しそうに食べるものだから、見ていてすごく楽しかった。
お会計が中々に愉快な金額になったが、ダッドがなんとも幸せそうなのでよしとする。

満腹のダッドと手を繋いで、プルートはご機嫌に今度は劇場へと向かった。ちょうど観てみたいと思っていた劇をやっている。ダッドも観劇は久しぶりだと、楽しそうにしている。
滑稽な恋愛劇は非常に面白くて、プルートはダッドと一緒に、ずっと笑いながら劇を楽しんだ。
夕食はプルートの希望で、鶏料理が美味しい店に行った。此処でも見事な食べっぷりを見せてくれたダッドに、プルートは楽しくて嬉しくて仕方がなかった。

満腹になった所で、少しお腹の休憩も兼ねて、花街のバーへ向かう。ダッドは酒もいける口らしいが、この後の楽しみがあるから、今夜は1杯だけにすると、楽しそうに笑っていた。
明るくて、笑うと少し幼さが増すダッドは、なんとも可愛くて、一緒にいて本当に楽しい。プルートはダッドとのデートを心底楽しんでいた。こんなに楽しいデートは本当に久しぶりだ。元旦那とのデートだって、こんなに楽しくなかった気がしてくる。いつも、元旦那の好みに、プルートが合わせていた。主体性が無かったプルートも悪かったのだろう。今になって、漸くそれが分かった。

ちょっと大人向けの静かなバーで、酒とダッドのちょっとした魔術講座を楽しみながら、プルートはすりっとダッドに近寄り、ダッドの腰を抱いて、ダッドの耳元で囁いた。


「お腹は落ち着いた?」

「ふふっ。ばっちり」


ダッドが歳に似合わぬ色気のある流し目でプルートを見て、プルートの唇に触れるだけのキスをした。プルートは楽しくてクスクス笑いながら、残りの酒を飲み干し、ダッドの腰を抱いて、バーを出た。





-------
前回利用した連れ込み宿に入り、部屋をとって、部屋に移動すると、ダッドが何故か神妙な顔で口を開いた。


「……おじさん」

「なんだい」

「先に謝っとく。ごめん。僕、ちんこ小さい」

「……へ?」

「満足させられなかったらごめん!えっと、その場合は、おじさんさえよければ、僕の尻に突っ込んでもらっても全然いいし!」

「えーと。もしかして、君は抱かれるのが好きだったりする?」

「……あー……ぶっちゃけていい?」

「どうぞ」

「……実は抱かれるのも好きじゃない。丁寧にしてくれる人もいるけど、割と痛いだけの人が多くてさ」

「セックス自体、そんなに好きじゃない?」

「……まぁ、ぶっちゃけ。あっ!でもちゃんと最後までやるから!すごい食べさせてもらったし、お金も貰ってるし!!」


プルートはこてんと首を傾げて考えた。目の前の気まずそうな顔をする少年と青年の境目の子は、実はセックスが苦手らしい。小柄だし、娼夫と違って専門の教育や仕込みを受けている訳ではない。相手次第では、本当に痛いだけのセックスになるのだろう。プルートの選択肢は2つだ。1つ目は、このまま何もせずにキスだけして帰る。2つ目は、セックスの楽しさをダッドに教えてあげる。プルートに教えてあげれれるかは、正直自信がないが。うーん、と少しだけ悩んでから、プルートは本人に決めてもらうことにした。


「ダッド」

「……なに」

「君に選択肢をあげよう。その1、このままキスだけして帰る。その2、僕と一緒に楽しいセックスをしてみる。どっちがいい?」


ダッドが困惑したような顔で、プルートを見た。


「……おじさんにとってはさ、セックスって楽しいものなの?抱かれる方なんでしょ?……その、結構痛い思いもするじゃん」

「痛い思いをすることは確かにあるね。ずっと昔の話だけど、僕も本当に慣れるまではセックスってあんまり好きじゃなかったかな。前戯まではいいんだけど、本番がね。やっぱり痛いし。ある程度慣れて気持ちよくなれるようになったら、そうでもなくなったけど。……少し前にディディとセックスをするまで、10年以上セックスをしてなかったんだ。僕」

「結婚してたんじゃないの?」

「結婚してたけど、セックスはしなくなってた。僕は自由の身になって、デートやセックスを楽しみたくて、『パパ活』を始めてみたんだよね。ねぇ。ダッド。君が本当に嫌なら、ここで帰ろう。今日は本当に楽しかったんだ。折角の楽しいデートを、最後にどっちかが嫌な思いをして終わるって、僕は嫌なんだ。デートもセックスも、2人で楽しむものだから」

「……おじさんさ。人が良過ぎない?」

「そうかな」

「そうだよ」


ダッドがなんだか泣きそうな顔で笑って、ぽすんと正面に立つプルートの胸に額をくっつけた。


「……楽しいセックス、教えて」

「本当にいいのかい?」

「うん。おじさんなら大丈夫。多分」

「僕も特別上手い訳じゃないから、2人で楽しめるやり方を探っていこうか」

「うん。……おじさん」

「ん?」

「ありがと」


ゆるく抱きついてきたダッドが、プルートの唇にキスをした。プルートはダッドの柔らかい下唇を優しく吸って、わざと戯けた感じで口を開いた。


「じゃあ、楽しいセックス講座の始まりだ」

「あはっ!よろしく!先生?」


プルートはダッドと顔を見合わせて、同時に小さく吹き出した。

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