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愉快な異世界ペットライフ

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黒木雅治38歳。チャーミングポイントは鍛え上げたプリケツ。この度、異世界に召喚されました。特に理由もなく。


「……なんで俺召喚されたの?」

「いや、古い召喚魔法陣を見つけたから試してみたくて」

「……プリケツアターック!!」

「ぷばぁ!?おっさんのケツが顔面にっ!!」


雅治は目の前の魔法使いっぽい男に尻を向けて全力で飛び上がり、プリケツアタックをかまして、倒れた男の顔面にぐりぐりと自慢のプリケツを押しつけた。


「君ねぇ、誘拐だよ?これ。とっとと元いた場所に戻してくれる?遅刻すると課長がうるせぇんだよ」

「むぐぐぐぐ」

「何言ってるか分かんねぇわ。どっこらしょ」


ぷすー。
軽やかに屁をお見舞いしてやりながら、雅治は魔法使いっぽい男の顔面から尻を上げた。男が鼻を押さえて、よろよろと立ち上がる。


「くっさ!おっさんの屁くっさ!」

「はい。じゃあ元いた場所に戻してー」

「む、無理だ。召喚は一方的なもので……」

「はい!プリケツアターック!!」

「ぐぼはっ!!」

「かーらーのプリケツぷりぷりー」


雅治は男の顔面にプリケツを向けて突っ込み、倒れた男の顔面に自慢のプリケツをぷりぷりぷりぷりと擦りつけまくった。息ができないのか、男がバシバシと雅治の腰の辺りを叩いてくるので、雅治はもう一発ぶっと屁をお見舞いしてから立ち上がった。


「ぼ、僕のダメージが半端ない……鼻が曲がる……」


魔法使いの男が自分の鼻を押さえて、よろよろと立ち上がった。魔法使いの男は痩せぎすだが、よくよく見れば割と男前だった。雅治はボディービルダーを目指していた時期がある程筋トレが趣味なので、身体には自信があるが、顔はいたって普通の醤油顔である。
若干イラッとした雅治は、特に意味もなく再びプリケツアタックを繰り出した。


「ぶぱぁ!?なんでケツで人の顔面ばっかり狙うんだよ!!」

「ご褒美だろ」

「どこが!?おっさんの汚ぇケツ押しつけられるのの、どこがご褒美!?」

「俺のプリケツはチャーミングポイントだ」

「心底どうでもいい」

「帰れないのなら仕方がない。俺は今日から君のペットな。お猫様に傅くように、俺にご奉仕したまえよ」

「なんで!?」

「君が俺を召喚したんだから、その後の生活の面倒をみるのは当然だろう。仕事もコツコツ貯めてた貯金も全部失ったんだぞ。こっちは」

「うっ……そ、それは悪かったけど……」

「悪かったですむかプリケツ略」

「にゃーー!!すいません!分かりました!面倒みさせていただきますぅ!」

「よろしい。では、よろしく頼む。ご主人」

「なんで『ご主人』」

「俺ペットだもん。三食昼寝おやつ付きだらけ放題の生活ゲットだぜ!!」

「……うぅ……なんでこんなことに……」

「自業自得だろ」

「返す言葉がない……」


こうして、雅治の異世界ペット生活が始まった。




------
雅治の1日は早朝ランニングから始まる。魔法使いエルマーが暮らしている小さな町をぐるっと一周走る。エルマーの家は町外れにある。だいたい2時間くらいで走りきれるくらい小さな田舎町だ。
雅治が走っていると、早朝散歩をしている老夫婦に挨拶された。雅治も愛想よく挨拶をして、走り続ける。小さな田舎町なので、最初の頃は町の住人に遠巻きにされていたが、エルマーがやらかしやがったことを告げると、気の毒そうに、控えめに歓迎されるようになった。エルマーはこの町の出身で、去年までは王都にいたらしいが、ある日突然この町に戻ってきたらしい。エルマーは幼い頃から好奇心旺盛過ぎて、色々やらかしているので、王都でも多分何かやらかしたのだろうと、早朝ランニングでいつも顔を合わせる老婆が言っていた。
牛を飼っている家の前を走っていると、家の住人から声をかけられた。牛乳を分けてくれると言うので、ありがたくいただいた。少し前に迷子になっていた子牛を保護したお礼らしい。
雅治は牛乳をご馳走になり、牛飼いのおっさんと少し立ち話をすると、牛乳のお礼を言ってから、エルマーの家へと向かって再び走り始めた。

エルマーの家は小さめの一軒家だ。二階建てだが、部屋数は少ない。町の人に聞いたのだが、エルマーの両親も大層な変わり者で、今は夫婦で旅をしているそうだ。
雅治は散らかり放題の家の中に入ると、居間のソファーで寝ていたエルマーの腹に肘を叩き込んだ。


「ごっふぁ!?」

「ご主人。起きろ。飯をくれ」

「ふぐぅっ……ちょっ、本気で痛い……」

「めーし!めーし!ペットが腹を空かせているぞ!」

「……どっかそこら辺に何かある。勝手に食えよ」

「可愛いペットに何たる言い草。まともな飯をよこせ」

「……かわいい?……どこが?」

「プリケツアターック!!」

「ぷべらっ!?」

「おらおらー。このまま一発かますぞ」

「ぶばばばば!?」


ソファーに寝転がったままのエルマーの顔面に自慢のプリケツを押しつけ、ぷりぷりと尻を擦りつけると、エルマーがジタバタと暴れ、雅治の腰をタップした。雅治は、ぷすーっと軽やかな屁をかまして、エルマーの顔から尻をどけてやった。


「くっさ!?くっさぁ!!」

「ご主人。早くまともな飯を食わせろ」

「くそっ!お前何でそんなに偉そうなんだよ!」

「ペットだからだな」

「ペットってそんなんだっけ!?」

「愛玩されるのがペットの仕事だ。さぁ、俺を存分に愛でるがいい」

「おっさんを愛でる趣味はない」

「プリケ……」

「今すぐご飯を作ります!!」

「最初からそうしろ」


エルマーがソファーから飛び起き、バタバタと台所へ向かっていった。雅治は人肌に温もっているソファーに腰かけた。
エルマーのペットになって早2ヶ月。毎朝似たようなことをしている。学習能力のないご主人をもつと、ペットは大変である。
エルマーは魔法使いだ。歳は27だと言っていた。エルマーの両親も魔法使いで、エルマーの家は魔法が使えること前提の造りになっている。料理をしようにも、魔力がないと使えない調理器具ばかりで、雅治では何もできない。仕方がなく、毎回食事の催促をしている。催促する前にエルマーが用意してくれたら一番いいのだが、エルマーは色々だらしがない。
エルマーは魔法の研究をしているらしく、集中し始めたら、それこそプリケツアタックをしない限り、雅治が呼ぶ声に応えない。まともなベッドはこの家には一つしかなかったので、雅治が使っている。だって、愛玩されて然るべきペット様だもん。エルマーは毎晩ソファーで寝ている。

ぐーぐーお腹を鳴らしながら朝食が出来上がるのを待っていると、エルマーがお盆を持って居間に入ってきた。
今朝もポリッジのような穀物の粥である。エルマーはこれしか作れない。肉を焼かせたら食べられないレベルで焦がす。雅治の自慢の筋肉の為の栄養が不十分な状態が続いている。出されたものは文句を言わずに食べているが、流石にそろそろ我慢の限界である。
雅治はそこそこ美味い粥を食べながら、エルマーに話しかけた。


「ご主人」

「なんだ」

「もっとまともなものが食いたい。具体的に言うと、鶏の胸肉とかササミとか。この際だから、湯がいて塩を振るだけでいい」

「んーー。じゃあ、今日は買い物に行く」

「よっしゃ!昼飯は外で食べよう!」

「えーー。めんどい……家で食べればいいだろ」

「ご主人はもっと食に関心を持つべきだ。世の中には粥以外にも美味しいものが沢山ある」

「……我儘ペットめ」

「むしろ、2ヶ月も粥だけで我慢したことを褒めろ」

「はいはい」

「『はい』は1回」

「はぁーい」


エルマーがもそもそと自分の分の粥を食べきって、魔法を使って一瞬で皿やスプーンをキレイにした。魔法便利過ぎる。その魔法が使えない雅治にとっては、不便過ぎる生活をしている。雅治も粥を食べ終わり、エルマーを呼ぶと、エルマーが雅治の分の皿とスプーンをキレイにしてくれた。
ついでに部屋の掃除も魔法でちゃちゃっとしてくれたらいいのに。
ついでとばかりに、エルマーが雅治に魔法をかけた。清浄魔法である。汗びっしょりだった身体が、風呂に入った後のように、一瞬でスッキリした。清浄魔法を使うので、この家には風呂がない。清浄魔法をかけてもらうと確かにスッキリするのだが、風呂好きの日本人としては、やはり湯船に浸かりたい。度々、風呂が欲しいとエルマーに訴えているが、エルマーは『風呂』というもの自体を知らず、清浄魔法があることもあって、中々風呂を作ってくれない。

小さなストレスはそれなりにあるが、仕事もせずに、のんびり筋トレに励める今の生活を、雅治はそれなりに気に入っている。
雅治が働いていた会社は所謂ブラック企業で、深夜遅くまでのサービス残業は当たり前で、パワハラ上司に毎日のようにギャンギャン怒鳴られていた。それに比べたら、今の生活は本当に気楽でいい。

雅治はエルマーと一緒に家を出た。久しぶりにまともな肉料理が食える。小さな町だが、一応食堂がある。店の前を通ると、いつもいい匂いをさせているので、絶対に料理が美味い筈だ。雅治はとんがり帽子を被ったエルマーと共に、町の中心部へと向かった。
小さな肉屋で念願の鶏の胸肉とササミを手に入れ、傷まないように肉に保冷魔法をかけてもらった。雅治はルンルン気分で、八百屋にエルマーを引っ張っていき、野菜も買ってもらった。八百屋の近くにあるパン屋からパンが焼けるいい匂いがしていたので、エルマーにねだってパンを買ってもらい、ついでに瓶入りの牛乳も買って、町の小さな広場に向かった。焼き立てのパンでおやつである。
上機嫌でもっもっと美味しいパンを食べていると、エルマーが自分の分のパンを半分に割って、雅治に差し出してきた。


「食わないのか?」

「朝飯食べたばっかじゃないか」

「ご主人は少食だな。だから痩せているんだ」

「ほっとけ。筋肉だるま」

「パンはありがたくいただこう。あの店のパンは美味いから、せめて週1で食べたい」

「……しょうがないな」

「よっしゃ!」


雅治はエルマーから貰ったパンも食べきると、増えた荷物を持って、今度は食堂へと向かった。昼食には少し早い時間だからか、食堂は他に客がいなかった。雅治はエルマーにメニュー表を手渡した。


「ご主人。読んでくれ」

「んー。『揚げ鶏』『牛肉の煮込み』『豚肉のステーキ』……なぁ」

「なんだ」

「読み書きを覚えた方がいいんじゃないか?」

「教えてくれと再三言っているが」

「あ、はい。すいません。……今日から読み書きを教える」

「頼んだ。読み書きができないと不便で仕方がない」


何故か言葉は通じるが、文字は読めないし、書けない。最初の頃から、エルマーに読み書きを教えてくれと頼んでいたが、ずっとスルーされていた。
雅治はメニューを全てエルマーに読んでもらい、肉料理と野菜たっぷりのスープを注文した。久しぶりのまともな食事で心が癒やされる。雅治は、自分が思っていた以上にストレスを感じていたことを自覚した。誰も知る者がいない異なる世界に突然召喚されて、飼い主はだらしなくて気が利かないし、今までの人生で培ってきた経験が通用しないことも多い。雅治は、エルマーしか頼れない。読み書きもできず、この世界の常識も知らず、働いて金を稼ぐこともできない。
雅治は美味しい料理を味わいながら、小さく、すんと鼻を鳴らした。

美味しい昼食を腹いっぱい食べた後。荷物を抱えて家に帰り、早速読み書きを教えてもらえることになった。この世界の文字は、楔形文字に近く、正直どう覚えたらいいのか分からない。だが、覚えなければ、苦労するのは雅治自身だ。雅治は夕方まで、エルマーに読み書きを習った。

夕食はいつもの粥と湯がいて塩を振った鶏胸肉と野菜だった。湯がき過ぎて鶏胸肉はパサパサだったが、それでもいつもよりマシな夕食である。塩を振っただけの温野菜サラダも、素材の味が活きていて美味しい。雅治は上機嫌で夕食を食べ終えた。

お腹が落ち着いてから日課の筋トレをして、寝る前にエルマーに清浄魔法をかけてもらう。スッキリした身体で、雅治は元エルマーの部屋のベッドに寝転がった。
エルマーの部屋の天井には魔法がかけてあり、仰向けに寝転がれば、星々が輝く夜空が見える。雅治はぼんやりと夜空を見上げながら、小さく溜め息を吐いた。

日本に帰りたいかといえば、実を言うとそうでもない。雅治はゲイだ。両親とは、カミングアウトをした時から会っていない。友達と呼べる間柄の人は何人かいたが、どうしても再会したいと思う程ではない。仕事を辞めたいといつも思っていたし、両親以外にはゲイだとカミングアウトせず、誰にもゲイだと知られないようにしていたので、常に息苦しさを感じていた。38にもなって未婚だと、周囲から何かとゴチャゴチャ言われていた。日本での暮らしは、雅治にとっては幸せなものではなかった。
誰も雅治の事を知らないこの世界なら、雅治は幸せになれるのだろうか。
雅治はぼんやりと考えながら、布団に包まり、静かに目を閉じた。




------
雅治が狭い庭で筋トレに励んでいると、エルマーが箒を片手に庭に出てきた。エルマーは基本的に引き籠もりで、自主的に庭に出ることすら珍しい。
雅治は腕立て伏せを止め、立ち上がった。


「どうした。ご主人」

「ちょっと王都に行ってくる」

「俺は?」

「留守番。飯の用意はしておいた。明日の朝には帰る」

「そうか。気をつけて。いってらっしゃい」


雅治の言葉に、エルマーがキョトンとした顔をした。エルマーはぎこちなく『いってきます』と言って、箒に跨り、そのまま空へ飛んでいった。魔法使いって本当に箒で空を飛ぶんだなぁと、雅治は感心して、ふらふら飛んでいくエルマーを見送った。

雅治はエルマーが用意してくれた夕食を早めの時間に食べると、台所に置いてある水瓶の水で身体を拭いた。水瓶にも魔法がかかっていて、いくら水を汲んでも無くなることがない。
雅治は読み書きの練習を少ししてから、早めに寝ることにした。日本にいた時はずっと独り暮らしで、1人の夜に慣れきっていたのに、今はエルマーが不在だと、なんだか少し落ち着かない。エルマーのことが特別好きな訳ではないが、いるのといないのとじゃ、いる方がずっといい。
雅治は1人の夜を眠れずに過ごした。

翌朝。完全に寝不足な状態で、雅治は日課の早朝ランニングに出かけた。眠くて身体が重いが、日課をやらないと気持ちが悪い。いつもより少し遅めに走り、家に帰り着くと、空から箒に跨ったエルマーが下りてきた。


「おかえり」

「……た、ただいま。……ん」

「ん?」

「……土産だ。臨時収入があったから」

「お?もしかして酒か?」

「あぁ」

「おー!やったぜ!酒なんていつぶりだ!?つーか、こっちに来て初めて酒を見たぜ!酒ってあったんだな!」

「……酒も買えない貧乏魔法使いで悪かったな」

「ん?ご主人は貧乏なのか?」

「裕福ではない。……魔法省を解雇されたし」

「何でだ」

「ちょっと新しい魔法の実験をして、王宮の一部を半壊させたら首になった」

「そりゃなるわ」

「面白い魔法が完成する筈だったのに!頭の固い上役達め」

「あれか。ご主人は問題児か」

「ほっとけ」

「ふーん。なぁ。折角だし、今から酒盛りしようぜ。昼間っから酒を飲むなんて贅沢だろ」

「……まぁいいけど」

「よっしゃ!」


雅治はエルマーから受け取った酒瓶を抱きしめて、いそいそと家の中に入った。エルマーは美味しそうな干し肉も買ってきてくれていた。雅治は大喜びで酒瓶の蓋を開けた。
エルマーが買ってきた酒はキツい蒸留酒で、香りがとてもいい酒だった。
小さめのグラスに注いだ酒を一息で飲み干し、雅治はぷはぁっと酒臭い息を吐いた。


「っかーーっ!うっまい!!」

「よかったな」

「おー!干し肉も美味いな!」

「昔馴染みが作ったのを買ってきた。他所で売ってるやつより美味い」

「へぇー」


噛めば噛むほど味わいがある干し肉を囓りつつ、香りがいい蒸留酒を飲む。キツい酒精が喉を焼く感覚が堪らない。雅治は久しぶりの酒をぐいぐい飲んで楽しんだ。

エルマーが買ってきた酒を飲み終える頃には、酔っぱらいが2人出来上がっていた。
雅治はバッと服を脱ぎ、エルマーに美しい自慢の筋肉を見せつけるようにポージングした。エルマーは笑い上戸なのか、雅治を見てゲラゲラ笑っている。雅治は何度もポーズを変えながら、自分の筋肉の美しさに酔いしれた。俺の筋肉マジ最高。

雅治はパンツも脱いで、自慢のプリケツをエルマーに見せつけた。自慢じゃないが、雅治の尻はきゅっと上がった素晴らしいプリケツである。


「見たまえ!これがプリケツだ!!」

「あははははっ!プーリケツ!プーリケツ!」

「俺の筋肉は美しい!!はい復唱!『ナイス筋肉!』」

「あははははっ!!ナイス筋肉ーー!」


雅治は全裸で様々なポージングをして、エルマーに自慢の筋肉を見せびらかした。エルマーは何が可笑しいのか、ずっと笑っている。
雅治はある程度満足すると、全裸のままソファーに座り、少しだけ残っている酒を飲み干した。とりあえず何か満足した。
雅治はむふーっと笑うと、そのままソファーに寝転がった。


「寝る!おやすみ!!」


雅治はストンと深い眠りに落ちた。





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エルマーのペットになって半年が過ぎた。エルマーはたまに箒に乗って王都へ行き、土産で酒を買ってくる。
2人だけの酒盛りが5回を越えたある日のこと。雅治がいつものように鍛え上げた美しい筋肉を見せびらかしていると、エルマーが笑いながら話しかけてきた。


「おっさんさー、結婚してなかったの?」

「ん?あぁ。俺はゲイだから」

「『ゲイ』って何」

「男しか愛せない男のこと」

「ふーん。別に男とか女とか関係なくね?」

「ん?こっちの世界じゃ同性愛は普通なのか?」

「まぁ割と。国によって違うけど、うちの国はそこら辺ゆるいよ」

「……マジか」

「うん」

「じゃ、じゃあ、俺にも恋人ができたりするのか!?」

「え?さぁ?おっさん好きのもの好きがいたらできるんじゃない?」

「ご主人!ペットの見合いの世話も飼い主の仕事だ!」

「あっはっは!めんどくっさ!」

「はぁん!?プリケツアターック!!」

「うぎゃあ!生尻はやめろ!!」


雅治はぐりぐりと生プリケツをエルマーの顔に押しつけた。
酔っているからか、プリケツを顔面に押しつけても、エルマーはゲラゲラ笑っている。なんだか雅治まで楽しくなってきて、笑いながら生プリケツをエルマーの顔面に擦りつけた。

気が済むまで生尻をエルマーの顔にぷりぷり擦りつけると、雅治はソファーに座り、美味しい蒸留酒をちびちび飲み始めた。


「ご主人。真面目な話、誰か紹介してくれ」

「えーー。僕の知り合い、変人しかいねぇけど」

「まともな常識人がいい。あと優しくて包容力がある感じの。髭が似合うと尚いいな。あ、筋肉も素敵だと最高だな。雄臭い色気のある感じだと更にいい」

「いねぇな」

「マジかよ」

「マジだ」


雅治はがっくりと項垂れた。雅治好みの男は、エルマーの知り合いにはいないらしい。町の肉屋の主人が雅治好みの身体をしていたが、既婚者である。人のものには手を出さない主義なので、そっちは諦めるしかない。
雅治はちびちび酒を飲みながら、はぁっと酒臭い溜め息を吐いた。出会いが欲しい。男同士でも白い目で見られない世界に来ちゃったのだから、せめて恋人くらい欲しい。そして憧れのイチャイチャセックスがしてみたい。
雅治がそんなことを垂れ流していると、エルマーが笑いながら口を開いた。


「セックスがしたいならするか?」

「誰と」

「僕と」

「えーー。ご主人は好みじゃないんだよなぁ。筋肉つけて出直せ。もやし」

「心底殴りたい」

「お?やるか?ん?ん?我、ペット様ぞ?愛すべきペット様ぞ?」

「ペットってそんなんじゃねぇだろ!……めちゃくちゃ溜まってるから一発ヤリたい。この際、おっさんのケツでもいいや」

「最低最悪の事を平気でのたまう駄目ご主人。人としてどうなんだ!」

「細かいことは気にするな!」

「全然細かくないぞ!」

「一発だけ。一発だけ」

「俺のプリケツが駄目人間に狙われてる!!」


雅治は完全に酔っ払ってヘラヘラ笑っているエルマーを、きっと睨んだ。もうすぐ39歳の処女プリケツは安くないのである。処女は愛しのダーリンに捧げたい。間違っても、駄目人間まっしぐらなエルマーに捧げる訳にはいかない。


「俺は好きな相手としかセックスしない主義だ」

「僕は気が向いたら誰とでもセックスする主義だ」

「やだーー!最低のヤリチン野郎がいるぅ!!」

「男は皆気持ちいいことが好きなんだよ!」

「俺はそこら辺は純情な乙女なんだよ!」

「人に向けて平気で屁をこくおっさんが言っていい台詞じゃねぇよ!」

「それとこれとは話が別!」


雅治はエルマーが狼さんになる前に、いそいそと脱ぎ散らかした服を着直した。エルマーが子供のように唇を尖らせた。


「あ、あれだ。ペットの性欲処理も飼い主の仕事ってことで」

「そんなに俺とヤリたいのか。このケダモノめ」

「だって、おっさんしか此処にいないし」

「やだわー。手近なところで済ませようってのが嫌だわー。さーいてーい」


雅治は白い目でエルマーを見た。エルマーがヘラヘラ笑いながら、酒を飲んで、ニッと笑った。


「興味ない訳?セックス」

「……ない訳ではないけど」

「じゃあ、あれだ。先っぽまでしか挿れないから」

「それ、気づいたらずっぽり根元まで入ってるやつだろ」

「ははっ」

「いくら俺のプリケツが魅力的とはいえ、ヤリチン駄目人間はご遠慮願いたい」

「意外とガードが堅いな」

「そこら辺は純情な乙女なんで」

「おっさんなのに」


何が可笑しいのか、エルマーがゲラゲラと笑った。セックスに興味津々ではあるが、エルマーは好みじゃないし、駄目人間なので、ヤリ捨てられる予感がひしひしとする。雅治は快感よりも、相手とより深く愛し合う為にセックスがしたい。
そうボソボソ言うと、エルマーが笑うのを止め、まじまじと雅治を見つめてきた。


「おっさんはキレイな世界で生きてるんだな」

「世界にキレイも汚いもあるか。どう生きるかってだけの話だろう」

「ふーん」

「……そろそろ寝る!襲うなよ。襲ってきたら特大の屁をぶちかます」

「襲わない。俺も寝る」


エルマーがごろんとソファーに寝転がったので、雅治もソファーに横になった。すぐに眠気がやってくる。雅治が誰かと愛し合える日はくるのだろうか。そんなことがふわっと頭の中に思い浮かんだが、雅治は気にしないことにして、睡魔に身を預けた。




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数日ぶりに雨がやみ、朝から気持ちよく晴れた日のこと。雅治が数日ぶりに早朝ランニングをしていると、すっかり顔馴染みになっている老夫婦と出くわした。その場で足踏みをしながら、老夫婦と立ち話をしていると、エルマーが箒に乗って飛んでやって来た。
エルマーが箒に乗って、ふよふよと空中に浮いたまま、雅治を見下ろした。


「ちょっと王都まで行ってくる」

「あぁ。気をつけて。いってらっしゃい」

「いってきます」


エルマーはそのままふわーっと上空へ飛び上がり、結構なスピードで王都方面へと飛んでいった。
老爺が呆れた顔をして、口を開いた。


「やれ。エル坊は相変わらず落ち着きのない子だね」

「落ち着きのあるご主人が想像できない」

「そうさね。マサ。よかったらお昼はうちに食べにおいでよ。婆さんの飯は世界で一番美味いぞ」

「あらやだわぁ!もう!この人ったらぁ!マサ。お昼はうちにいらっしゃいな。お口に合うか分からないけどね。ご飯は誰かと一緒に食べた方が美味しいでしょ」

「いいんですか?厚かましい気はしますが、ありがたくお呼ばれします。昼飯が楽しみです!」


雅治は、昼時に老夫婦の家を訪ねることを約束してから、笑顔で老夫婦と別れ、軽やかな足取りでランニングの続きをした。エルマーがいない食事はやはり寂しい。エルマーは今夜は帰ってくるのだろうか。エルマーがいない夜は、何故だか中々眠れない。1人じゃない生活にすっかり慣れきってしまった。
雅治は小さく苦笑して、自宅になったエルマーの家へと走って帰った。

老夫婦の家で美味しい昼食をご馳走になり、お礼に小麦粉や調味料等の重い買い物を手伝って、老婆手製のおやつをいただいてから、雅治は家に帰った。
エルマーが用意してくれていた粥をもそもそと1人で食べきる頃に、エルマーが帰ってきた。
なにやら疲れた顔をしているエルマーに、雅治は声をかけた。


「おかえり」

「ただいま」

「随分と疲れているな」

「王都で親父達に遭遇したんだよ。お前のことを話したら、こってり絞られた」

「おぉ!君のご両親は常識人だったのか」

「いや、変人」

「変人かよ」

「『そんな面白そうなこと、1人で勝手にやるんじゃない!』だと」

「魔法使いの倫理観はどうなってるんだ」

「まぁ、細かいことは気にするな。魔法使いは自分の知的欲求に素直なだけだ」

「素直過ぎるのもどうかと思う」

「ははっ。それでだな」

「ん?」

「親父達からお前を召喚した責任をとれと言われて」

「おぉ!やはり常識人じゃないか!」

「お前を嫁にしろと」

「やっぱり変人だった」

「ということで、知り合いに頼んでお前の戸籍を作った」

「そんなに簡単に戸籍を作れるのか?」

「いや?まぁ方法はちょっと詳しく説明できないが」

「違法なのか?」

「いや?ギリギリ合法だ。そんで、籍を入れてきた。今日からお前は僕の嫁だ」

「断るっ!ペット様のままがいい!ご主人は好みじゃないし!」

「屁が臭いおっさんと結婚することになった僕に同情しろぉ!」

「完全に自業自得なだけだろうが!」

「そうですけどね!!まぁ、そういう訳だから」

「えぇ……」

「明日、うちの両親が嫁の顔を見に来るって」

「外堀を埋めようとするな!お久しぶりのプリケツアターーック!!」

「ぷばぁ!?」


雅治は軽やかに飛び上がり、尻でエルマーの顔面にプリケツアタックをかました。ジタバタしているエルマーの顔面に、ぷりぷりと尻を押しつけて、ぷすーっと軽やかな屁をかましてから立ち上がる。


「くっさぁ!!くっさ!くっさ!!」

「君ねぇ。まず先にするべきことがあるでしょうが」

「はぁ?」

「結婚するなら、まずはロマンチックなプロポーズからだろうが!!」

「めんどいから略で」

「略すな。プリケ……」

「僕と今すぐ結婚してください!!」

「……まぁ、いいだろう。もう既に書類上は結婚しちゃってるならしょうがない。君の嫁になってやろう。三食昼寝おやつ付き生活は続行な。家事をしようにも魔法が使えないと、この家じゃほぼ何もできないし」

「あぁ。まぁ好きなだけ筋トレしてろ。筋肉だるま」

「そうする」

「今夜が初夜だから」

「ふーん……は?」

「夫婦になったからセックスくらい普通にするだろ」

「マジカルマジで?」

「まじか……?」

「本気と書いてマジか」

「マジだ」

「おおおお俺は処女だぞ!」

「知ってる」

「もっとこう……ロマンチックな展開にならないか」

「僕とお前でか?無理があるだろ」

「マジカルマジで?」

「マジで」


雅治は突然ポンポン進む話に、動揺して、意味もなくもじもじとシャツの裾を指で弄った。いきなり結婚や初夜と言われても、頭も心もついてこない。エルマーのことは嫌いではない。色々とだらしない男だが、なんだかんだで優しいところもあると思う。好きか嫌いかの二択なら、迷わず好きを選ぶが、いきなりセックスまでしちゃうのには若干抵抗がある。もっとこう、段取りをちゃんと踏んでから、セックスがしたい。


「手を繋ぐところからじゃ駄目か?」

「子供か」

「う、うるさい。君みたいに慣れてないんだよ」

「はいはい。じゃあ、ベッドに行くぞ。星でも数えてろよ」

「ロマンチックが欠片もない……」

「星空の下はロマンチックだろうが」

「えぇー。……言っておくが、本当に何もしたことがないんだからな。自分の指だって挿れたことがない」

「一から開発するから問題ない」

「……できるだけ優しくしてくれ」

「程々に頑張る」

「全力で頑張れ」


エルマーが雅治の手を握って、そのまま2階の元エルマーの部屋へ歩き出した。ドッドッドッドッと激しく雅治の胸が高鳴り始めた。今からエルマーとセックスをする。緊張が半分、怖さが半分という感じである。あと、ほんの僅かに喜びがあった。一生1人だと思っていた雅治に、パートナーができた。繋いでいるエルマーのほっそりとした温かい手に、じわぁっと胸の奥が温かくなる感じがして、雅治は急激に熱くなっていく自分の頬を片手で擦った。

元エルマーの部屋は、雅治が片付けたので、他の部屋よりも格段にキレイになっている。天井を見上げれば、いつも通りの星空が広がっていた。
エルマーが雅治の手を離し、服を脱ぎ始めた。雅治も緊張で震える指で、シャツのボタンを外し始めた。エルマーには全裸を何度も見せているが、今はどうしようもなく恥ずかしい。筋肉美には自信があるが、逆に言うと、それくらいしか魅力がない。肌のハリ艶は年相応のものだし、雅治の顔立ちは平凡そのものだ。雅治のちょっぴり恥ずかしがり屋な皮被りペニスが、期待で微妙に固くなってしまった。ゆるーい角度で勃起している雅治のペニスを見て、エルマーが笑った。


「なんだ。お前もその気じゃないか」

「う、うるさい」

「マサ」

「……なんだ」

「今は別に愛してないけど、まぁそのうち愛するようになるんじゃない?」

「他人事かよ」

「お前だってそうだろ。そのうち僕を愛するようになるよ」

「……なんでそんなに自信満々なんだよ」

「さぁ。なんとなく。勘かな。僕の勘は当たるよ」

「あっそ」


雅治はエルマーにベッドに押し倒された。エルマーの身体は一言で言うと貧相で、痩せてうっすら肋が浮いていた。身体つきは貧相だが、チラッと見たペニスはかなり大きなかった。まるで洋物アダルトビデオの男優のようなペニスだった。

エルマーが雅治の唇を優しく吸い、クックッと何故か楽しそうに笑った。


「流石に最中に屁をこくなよ。萎える」

「痛くしたら特大のをかましてやる」

「それは勘弁。気持ちいいことしかやらない」

「お、おう……」


雅治の唇を再び吸って、エルマーがぬるりと雅治の口内に舌を潜り込ませてきた。丁寧に口内をねっとりと舐められる。歯の裏側の付け根あたりや上顎をねっとり舐められると、腰のあたりがぞわぞわして、下腹部がどんどん熱くなっていく。キスの時に鼻で息をするのは知っているが、エルマーにふんふん鼻息を吹きかけるのは、なんだか抵抗がある。
エルマーの舌が口内から引き抜かれ、唇が離れた瞬間、雅治はぶはぁっと大きく息を吐いた。はぁー、はぁー、と大きく息を吐く雅治を見下ろして、エルマーが楽しそうに笑った。


「鼻で息をしろよ」

「鼻息がかかるだろ」

「そんなのお互い様だ」

「うっさい。俺の純情乙女心だ」

「はいはい」


エルマーがニヤニヤと笑って、またキスをしてきた。唇だけじゃなくて、鼻筋や頬にもキスをして、エルマーの唇が雅治の首筋へと移動していった。エルマーの骨ばった手が雅治の鍛え上げた身体を、触れるか触れないかの絶妙な力加減で撫でている。それだけでゾクゾクぞわぞわして、なんだか気持ちがいい。喉仏をねっとり舐められて、雅治は熱い息を吐いた。

雅治は半泣きで枕にしがみついていた。現在進行系で、エルマーにアナルを舐められている。雅治のプリケツを両手で広げ、アナルの皺の隙間をそれはそれは丁寧に舐められている。アナルを舐められるのがこんなに気持ちいいだなんて聞いてない。四つん這いで上体を伏せた体勢で、雅治は必死に喘ぎ声を我慢していた。アナルの前に散々弄られまくった結果ピンと勃った乳首が、枕で擦れて微妙に気持ちがいい。
雅治のアナルの中に、エルマーの舌が入ってきた。ぬこぬこと舌で犯すように出し入れされたり、狭いアナルを拡げるように、ぐるぐると舐め回される。気持ちよくて勝手に腰がくねってしまう。
エルマーの舌も手も気持よ過ぎて、星を数える余裕なんて無い。

エルマーの舌がぬるぅっと抜け出て、今度はぬるぬるした液体まみれのエルマーの指がアナルの中に入ってきた。なんとも言えない異物感があるが、痛くはない。ゆっくりと抜き差ししながら、エルマーの指が雅治の中を探っている。
エルマーの指がある一点に触れた瞬間、雅治はビクッと全身を震わせた。


「あぁ!?」

「お。見つけた。ここがお前の前立腺ね」

「ちょっ、あっ、やめっ、あっ、あっ」

「気持ちいいだろ?」

「きっ、きもちいいぃぃっ」


マジで気持ちがいい。強過ぎる快感に、頭の中が真っ白になり、目の裏がチカチカし始める。雅治は枕に自分の乳首を、シーツに今にも暴発しそうな勃起したペニスを擦りつけながら、エルマーから与えられる快感に涎を垂らして喘いだ。

エルマーに促されて、雅治はのろのろと仰向けになった。膝を立てて、足を大きく広げさせられる。エルマーの濡れた指が、つーっと雅治のペニスをなぞった。それだけで、どっと先走りが溢れる。
エルマーが雅治から枕を取り上げ、雅治の腰の下に枕を置いた。ぐいっと膝が胸につくくらい身体を曲げられ、弄られまくってひくひくしているアナルに、ピタリと熱くて固いものが触れた。
メリメリと、解しても尚狭い雅治のアナルに、エルマーのペニスが入ってくる。狭いアナルを押し拡げられ、敏感な粘膜同士が擦れ合う快感に、雅治はだらしない声を上げて、ぴゅっと少量の精液をペニスから吐き出した。
エルマーの太くて長く固いペニスが、どんどん雅治の奥深くへと入ってくる。酷く痛い所を通り過ぎ、その更に奥にまでみっちりとエルマーのペニスで満たされる。

情けなく鼻水を垂らして痛みと快感に泣く雅治の頬をべろーっと舐めて、エルマーが腰を振り始めた。
それからは、まるで嵐の中にいるようだった。鋭い痛みと強烈な快感に、雅治は乱れに乱れた。エルマーの細い身体にしがみつき、全身を震わせて、喘ぎまくった。
雅治が触れられていないペニスから射精しても、エルマーは止まらず、雅治を快感の海に叩き込んだ。
雅治は泣き喚きながら、初めての強烈過ぎる快感に溺れた。





------
どかーんっと何か爆発でもしたかのような大きな音で、雅治は目覚めた。
雅治はエルマーと全裸で寝ていた。天井を見上げれば、太陽の位置からしてもう昼が近い時間帯だ。雅治はあわあわと慌ててベッドから下りて、脱ぎ散らかしていた服を着た。あれだけ色んな液体まみれだったのに、スッキリキレイになっているのは、エルマーが清浄魔法をかけてくれたからだろう。雅治は殆ど寝落ち状態だったので、覚えていないが。

エルマーを起こそうとエルマーの腹に肘を叩き込む寸前に、バァンッと部屋のドアが開いた。雅治はビクッと飛び上がった。


「馬鹿息子のお嫁ちゃんは何処かしらぁ!?」

「えっ、あっ、あっ……」


入ってきたのは中年の女だった。目元がエルマーと似ているので、多分エルマーの母親だと思う。エルマーの母親(仮)は、硬直している雅治を見るなり、目を輝かせた。


「あっらぁ!貴方が馬鹿息子のお嫁ちゃん?やだぁ!いい筋肉してるじゃなぁい」

「あ、ありがとうございます?」

「お嫁ちゃん、お名前は?あたしはそこで未だに寝てる馬鹿息子のママよ。名前はニータだけど、『ママ』って呼んでちょうだい」

「は、はぁ……えっと、雅治と申します」

「マサハル!変わったお名前ね。やはり世界が違うからかしらね。マサちゃんって呼んでいい?」

「あ、はい」
 
「マサちゃん。うちの馬鹿息子がごめんなさいね。ちゃんと責任はとらせるから!馬鹿息子は甲斐性なしだけど、貴方のことだけは絶対に酷いようにはしないからね!」

「あ、はい」

「ちょっとー。そろそろ起きなさいよ。馬鹿息子。マーマーよー!!とうっ!」

「ぐはっ!?」


ニータが勢いよく飛び上がり、全裸で寝ているエルマーの腹に肘を叩き込んだ。ニータの華麗な肘打ちに、雅治は思わず小さく拍手をした。全裸のまま、エルマーが痛みに悶えている。


「ちょっ、お袋……本気で痛い本気で痛い……」

「『ママ』とお呼び!!」

「普通に嫌」

「マサちゃん!」

「え?あ、はい!」

「ご飯を一緒に食べましょう?私のダーリンが今ご飯を作ってくれているから」

「あ、はい」

「馬鹿息子は粥しか作れないでしょ?ちゃんとまともなご飯を食べられてないんじゃない?」

「あー、まぁ、えぇ、はい」

「やーん。ごめんなさいねぇ。本当に。うちの馬鹿息子が。ささっ。馬鹿息子は放っておいて、ご飯にしましょ!」


ニータが雅治の腕を握り、そのまま部屋を出て、階下へと歩き出した。
階段を下りると、台所の方から、すごく美味しそうないい匂いがした。ニータと一緒に台所を覗けば、ダンディーな中年の男が、魔法でご馳走としか言えないような沢山の料理を作っていた。
渋い色気のある中年の男が、雅治を見て、ニコッと笑った。


「やぁ。はじめまして。エルマーの父親のアーリンだ。君の名前は?」

「はじめまして。雅治と申します」

「よろしくね。『パパ』と呼んでくれたまえ」

「は、はぁ……」

「もうご飯が完成するよ。何はともあれ食事をしようか」

「エルマーとマサの結婚祝いよ!」

「あ、ありがとうございます?」


よろよろと腹を手で押さえながら、エルマーも台所へ顔を出した。


「親父。お袋にもう少し優しく起こすように言ってくれ。内臓出るかと思ったわ」

「『パパ』と呼ばないと言わないぞ」

「お・や・じ」

「ハニー。馬鹿息子の尻に一発キメていいぞ」

「はぁい。そうっれっ!」

「あいたぁ!?」


ニータがいつの間にか手に持っていた箒で、思いっきりエルマーの尻をぶっ叩いた。中々ハードなスキンシップのお宅らしい。雅治はエルマーの家族のノリに若干引きながら、大人しくニータと共に何故かキレイになっている居間に行き、ニータと並んでソファーに座った。
ふよふよとご馳走が盛られた皿が宙を飛んできて、ソファーの前のローテーブルに並んだ。尻を手で押さえたエルマーとアーリンも向かいのソファーに座り、突然のエルマーと雅治の結婚祝いパーティーが始まった。

パーティーは日が暮れるまで続き、その間、雅治は借りてきた猫のように大人しくしていた。なんというか、エルマーの両親はとても元気で、彼らの冒険談を聞くに、非常にアグレッシブな感じがした。
寝る場所がないからと、夕暮れの中、2人は王都へと帰っていった。王都まで、箒で飛ばせば3時間くらいで着くらしい。

庭先で2人を見送る頃には、雅治もエルマーもぐったり疲れていた。
家の中に入り、雅治がソファーに座ると、エルマーがすぐ隣に腰を下ろした。


「マサ。あれが僕の両親だ」

「なんというか、パワフルなご両親だな」

「お前の親にもなったぞ」

「マジかぁ……」

「マサ」

「なんだ」

「幸せにするとは言い切れないが、まぁ僕なりに大事にする」

「……そこは嘘でも言い切れよ」

「嘘は嫌いだ」

「奇遇だな。俺も嫌いだ」

「そのうち『愛してる』とか言うようになるから、気長に待てよ」

「……そうする」


雅治はなんだか可笑しくなって、小さく笑った。ふてぶてしい年下の旦那ができてしまった。賑やかで温かな両親も。
雅治は『幸せ』の予感に、胸の奥が温かくなるのを感じた。とんでもない一家の一員になってしまったが、悪くないな、と思う。
疲れたと言って、雅治の太い太腿の上に頭をのせて寛ぎ始めたエルマーの頭をわしゃっと撫でて、雅治は自分がエルマーを愛するようになる日がそう遠くないことを悟った。

お互いに愛を囁きあうようになるまで、あとほんの半年程。




(おしまい)

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