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5:口説くの下手すぎかよ
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ヘルマンが、いつもの時間に出勤すると、僅かに遅れてエーベルハルトが出勤してきた。エーベルハルトの顔色は悪い。自分の机に座る時に、どこか腹を庇うような仕草をしていたので、早朝の飛び蹴りがきいているのだろう。
ヘルマンは、部下の全員が揃うと朝礼を始めた。
ヘルマンは、王都生まれの王都育ちだ。祖父も父も軍人だったから、ヘルマンも自然と軍人になる道を歩んでいた。軍に長くいると、男同士で恋人になる者の話を聞いたりするし、実際、ヘルマンの友人にも、男同士で恋人になっている者もいる。ヘルマンも、男から告白された事が何回もある。一度だけ、男と付き合ったことがある。単なる好奇心だった。男を抱くのも悪くはなかったが、違う部隊だったし、お互いに仕事があり、すれ違いが多くて、半年も経たずに別れた。その後、女と結婚したが、仕事を優先していたら、浮気された。それなりに愛していたが、『貴方が私のことを放っておくからいけないのよ!』と逆ギレされて、一気に冷めた。ヘルマンはサクッと離婚して、それからは、仕事第一で生きている。
エーベルハルトは、突出した能力は特にないが、銃の腕前は中々のものだし、事務処理能力は高めだ。穏やかな性格をしているからか、人当たりもよく、部下に慕われている。真面目で、堅実な仕事をする、それなりに使える部下だ。
今日は訓練が無い日だ。ヘルマンは会議があるが、他の部下達は、巡回や最近多発している空き巣の捜査をする為に、朝礼後はすぐに部屋から出ていった。
昨夜は殆ど寝ていないので、会議中に居眠りをしてしまわないかと少々心配である。それもこれも、バックレようとしやがったエーベルハルトが悪い。
もし、エーベルハルトが、まともにデートにでも誘ってきたら、酒を奢らせよう。
ヘルマンは、そう決めると、必要な書類を持って、会議室へと向かった。
勤務時間が終わって、少し経った頃。書類を書いていたヘルマンの元に、腰が引けているエーベルハルトが、おずおずと近寄ってきた。
「ヘルマン曹長。今日、捕まえたスリ犯の報告書です」
「スリも最近多いな」
「はい。収穫祭が近いので、他所から来る者が多いからかと」
「だろうな。この時期は喧嘩や揉め事も増える。巡回は気合入れてやるよう通達しておけ」
「はい……あっ! あのっ!」
「なんだ」
「……あの、あの、えっと……」
「5、数えるうちに言え。いーち、にー、さー……」
「デッ! デート! して! くださいっ!!」
「お、おう」
エーベルハルトの少し青白かった顔が、ぼんっと真っ赤に染まった。何故か、胃のあたりを手で擦っている。顔は真っ赤なのに、今にも吐きそうな顔をしている。
「いつだ」
「……え?」
「デート」
「え、あ、つ、次の休みに……」
「次の休み……4日後か。デートコースはお前が決めておけよ。まぁ、精々頑張れ」
「は、はい……あ、えっと、じゃあ、その、お先に失礼します……あっ! いや! あ、あの! お手伝いできることでしたら、お手伝いさせていただきます!」
「おー。じゃあ、これは総務課、こっちは会計課、こっちは事務室に持っていけ」
「は、はいっ!」
ヘルマンが、エーベルハルトに書類を渡すと、エーベルハルトが書類を胸に抱いて、すぐさま、部屋から出ていった。
ヘルマンは、エーベルハルトの様子を思い出して、クックッと笑った。今にも吐きそうな面をしてデートに誘う奴があるか。全然スマートじゃない。一周回って、なんだか楽しくなってきた。
ヘルマンが、エーベルハルトの好きにさせていたのは、単純に楽して気持ちよくなれたからというのと、エーベルハルトをそれなりに気に入っていたからだ。堅物クソ真面目なエーベルハルトが、ヘルマンには効きもしない睡眠薬まで用意して、ヘルマンの身体を好きにした。自分のアナルにヘルマンのペニスを咥えこんで腰を振るエーベルハルトは、普段の雰囲気とは違い、淫らで、素直にいやらしかった。ヘルマンは、いつも寝たフリをしながら、こっそりエーベルハルトを観察していた。
エーベルハルトが、どんなデートコースを用意してくるのか、ちょっと楽しみだ。ヘルマンは、機嫌よく鼻歌を歌いながら、残りの書類を片付けた。
ーーーーーー
デートの日の朝。
ヘルマンは、シャワーを浴びると、黒い襟なしのタイトなシャツを着て、紺色のスラックスを穿いた。お気に入りの茶色い洒落た革靴を履き、深い緑色のジャケットを羽織る。お気に入りのシンプルなデザインの銀のペンダントを着ければ完成だ。伸ばしている顎髭を丁寧に整え、髪も整髪剤で少し弄る。いつも使っている腕時計を着けたら準備完了である。
準備ができたら、ヘルマンはジャケットの内ポケットに財布と家の鍵だけを入れて、家を出た。待ち合わせ場所は、街の中央にある噴水公園である。
さて。エーベルハルトは、一体どんなデートをしてくれるのか。ヘルマンは、ちょっとワクワクしながら、足早に噴水公園へと向かった。
噴水公園のど真ん中にある噴水の前で、エーベルハルトがぐったりとしゃがんでいた。胃のあたりを手で押さえているから、また吐きそうになっているのだろう。何故、惚れた相手との初デートで吐きそうになるんだ。ヘルマンは呆れながら、エーベルハルトに声をかけた。
「エーベルハルト」
「はいっ!」
しゃがんでいたエーベルハルトが、しゃきっと直立になった。顔色は青白くて、今にも吐きそうな面をしている。
ヘルマンは、エーベルハルトの頭から足先まで、じっと観察した。エーベルハルトは、白い襟付きシャツに、もさい色合いの茶色いジャケットを着て、下は黒いスラックスだった。黒い革靴はちゃんと磨かれているが、デザインがおっさん臭い。全体的に、おっさんかよ、と思う格好をしている。
「おい。エーベルハルト」
「はっ、はいっ……あ、えっと、おはようございます」
「おはよう。お前、ダサい」
「ぐはっ」
「ちなみに、今日は何処に行く予定だ」
「え、えっと、は、博物館に行って、予約してるお店で昼飯を食べて、午後から植物園に行こうかなぁと……」
「クソつまらん。博物館はともかく、植物園は無しだ」
「す、すいません……」
「午前中は、お前の服を買いに行くぞ。すげぇダセぇし。おっさんか。お前は」
「ぐはっ……そ、そんなに、ダサいですか?」
「手を繋いで歩きたくない程度にはダセぇ」
「ひでぇ……って、ん?」
「あ?」
「あああああのっ!」
「なんだ」
「て、てっ、手をっ、繋いでも、いいんですか!?」
「構わん。デートだし」
「あ、はい。あぁぁぁ……でも、でも、多分、緊張して手汗が……」
「……ぶはっ! お前、どこまでもスマートじゃねぇなぁ」
「……うぅ……すいません……その、何分、初めてなもので……」
「ちなみに、その面は」
「え?」
「今にも吐きそうって面してやがるぞ」
「……緊張し過ぎて、胃が口から出そうで……」
「お前は蛙か。まぁいい。とりあえず服屋に行くぞ。お前の見た目をもう少しマシにする」
「……服を変えたら、男前とかになれちゃいますかね」
「無理だ。普通のだせぇ奴から、普通のそれなりに洒落た奴に進化するだけだな」
「普通顔ですいませんっ!!」
エーベルハルトが、真っ赤な顔で、おずおずとヘルマンに近寄り、ビクビクしながら、ヘルマンの手をやんわりと握った。エーベルハルトの手は、手汗でしっとりしている。
「やばい。吐きそう」
「吐くな。耐えろ」
「がんばります……」
ヘルマンは、なんだか可笑しくなって、クックッと笑いながら、エーベルハルトの手汗まみれの手を握った。
ヘルマンは、部下の全員が揃うと朝礼を始めた。
ヘルマンは、王都生まれの王都育ちだ。祖父も父も軍人だったから、ヘルマンも自然と軍人になる道を歩んでいた。軍に長くいると、男同士で恋人になる者の話を聞いたりするし、実際、ヘルマンの友人にも、男同士で恋人になっている者もいる。ヘルマンも、男から告白された事が何回もある。一度だけ、男と付き合ったことがある。単なる好奇心だった。男を抱くのも悪くはなかったが、違う部隊だったし、お互いに仕事があり、すれ違いが多くて、半年も経たずに別れた。その後、女と結婚したが、仕事を優先していたら、浮気された。それなりに愛していたが、『貴方が私のことを放っておくからいけないのよ!』と逆ギレされて、一気に冷めた。ヘルマンはサクッと離婚して、それからは、仕事第一で生きている。
エーベルハルトは、突出した能力は特にないが、銃の腕前は中々のものだし、事務処理能力は高めだ。穏やかな性格をしているからか、人当たりもよく、部下に慕われている。真面目で、堅実な仕事をする、それなりに使える部下だ。
今日は訓練が無い日だ。ヘルマンは会議があるが、他の部下達は、巡回や最近多発している空き巣の捜査をする為に、朝礼後はすぐに部屋から出ていった。
昨夜は殆ど寝ていないので、会議中に居眠りをしてしまわないかと少々心配である。それもこれも、バックレようとしやがったエーベルハルトが悪い。
もし、エーベルハルトが、まともにデートにでも誘ってきたら、酒を奢らせよう。
ヘルマンは、そう決めると、必要な書類を持って、会議室へと向かった。
勤務時間が終わって、少し経った頃。書類を書いていたヘルマンの元に、腰が引けているエーベルハルトが、おずおずと近寄ってきた。
「ヘルマン曹長。今日、捕まえたスリ犯の報告書です」
「スリも最近多いな」
「はい。収穫祭が近いので、他所から来る者が多いからかと」
「だろうな。この時期は喧嘩や揉め事も増える。巡回は気合入れてやるよう通達しておけ」
「はい……あっ! あのっ!」
「なんだ」
「……あの、あの、えっと……」
「5、数えるうちに言え。いーち、にー、さー……」
「デッ! デート! して! くださいっ!!」
「お、おう」
エーベルハルトの少し青白かった顔が、ぼんっと真っ赤に染まった。何故か、胃のあたりを手で擦っている。顔は真っ赤なのに、今にも吐きそうな顔をしている。
「いつだ」
「……え?」
「デート」
「え、あ、つ、次の休みに……」
「次の休み……4日後か。デートコースはお前が決めておけよ。まぁ、精々頑張れ」
「は、はい……あ、えっと、じゃあ、その、お先に失礼します……あっ! いや! あ、あの! お手伝いできることでしたら、お手伝いさせていただきます!」
「おー。じゃあ、これは総務課、こっちは会計課、こっちは事務室に持っていけ」
「は、はいっ!」
ヘルマンが、エーベルハルトに書類を渡すと、エーベルハルトが書類を胸に抱いて、すぐさま、部屋から出ていった。
ヘルマンは、エーベルハルトの様子を思い出して、クックッと笑った。今にも吐きそうな面をしてデートに誘う奴があるか。全然スマートじゃない。一周回って、なんだか楽しくなってきた。
ヘルマンが、エーベルハルトの好きにさせていたのは、単純に楽して気持ちよくなれたからというのと、エーベルハルトをそれなりに気に入っていたからだ。堅物クソ真面目なエーベルハルトが、ヘルマンには効きもしない睡眠薬まで用意して、ヘルマンの身体を好きにした。自分のアナルにヘルマンのペニスを咥えこんで腰を振るエーベルハルトは、普段の雰囲気とは違い、淫らで、素直にいやらしかった。ヘルマンは、いつも寝たフリをしながら、こっそりエーベルハルトを観察していた。
エーベルハルトが、どんなデートコースを用意してくるのか、ちょっと楽しみだ。ヘルマンは、機嫌よく鼻歌を歌いながら、残りの書類を片付けた。
ーーーーーー
デートの日の朝。
ヘルマンは、シャワーを浴びると、黒い襟なしのタイトなシャツを着て、紺色のスラックスを穿いた。お気に入りの茶色い洒落た革靴を履き、深い緑色のジャケットを羽織る。お気に入りのシンプルなデザインの銀のペンダントを着ければ完成だ。伸ばしている顎髭を丁寧に整え、髪も整髪剤で少し弄る。いつも使っている腕時計を着けたら準備完了である。
準備ができたら、ヘルマンはジャケットの内ポケットに財布と家の鍵だけを入れて、家を出た。待ち合わせ場所は、街の中央にある噴水公園である。
さて。エーベルハルトは、一体どんなデートをしてくれるのか。ヘルマンは、ちょっとワクワクしながら、足早に噴水公園へと向かった。
噴水公園のど真ん中にある噴水の前で、エーベルハルトがぐったりとしゃがんでいた。胃のあたりを手で押さえているから、また吐きそうになっているのだろう。何故、惚れた相手との初デートで吐きそうになるんだ。ヘルマンは呆れながら、エーベルハルトに声をかけた。
「エーベルハルト」
「はいっ!」
しゃがんでいたエーベルハルトが、しゃきっと直立になった。顔色は青白くて、今にも吐きそうな面をしている。
ヘルマンは、エーベルハルトの頭から足先まで、じっと観察した。エーベルハルトは、白い襟付きシャツに、もさい色合いの茶色いジャケットを着て、下は黒いスラックスだった。黒い革靴はちゃんと磨かれているが、デザインがおっさん臭い。全体的に、おっさんかよ、と思う格好をしている。
「おい。エーベルハルト」
「はっ、はいっ……あ、えっと、おはようございます」
「おはよう。お前、ダサい」
「ぐはっ」
「ちなみに、今日は何処に行く予定だ」
「え、えっと、は、博物館に行って、予約してるお店で昼飯を食べて、午後から植物園に行こうかなぁと……」
「クソつまらん。博物館はともかく、植物園は無しだ」
「す、すいません……」
「午前中は、お前の服を買いに行くぞ。すげぇダセぇし。おっさんか。お前は」
「ぐはっ……そ、そんなに、ダサいですか?」
「手を繋いで歩きたくない程度にはダセぇ」
「ひでぇ……って、ん?」
「あ?」
「あああああのっ!」
「なんだ」
「て、てっ、手をっ、繋いでも、いいんですか!?」
「構わん。デートだし」
「あ、はい。あぁぁぁ……でも、でも、多分、緊張して手汗が……」
「……ぶはっ! お前、どこまでもスマートじゃねぇなぁ」
「……うぅ……すいません……その、何分、初めてなもので……」
「ちなみに、その面は」
「え?」
「今にも吐きそうって面してやがるぞ」
「……緊張し過ぎて、胃が口から出そうで……」
「お前は蛙か。まぁいい。とりあえず服屋に行くぞ。お前の見た目をもう少しマシにする」
「……服を変えたら、男前とかになれちゃいますかね」
「無理だ。普通のだせぇ奴から、普通のそれなりに洒落た奴に進化するだけだな」
「普通顔ですいませんっ!!」
エーベルハルトが、真っ赤な顔で、おずおずとヘルマンに近寄り、ビクビクしながら、ヘルマンの手をやんわりと握った。エーベルハルトの手は、手汗でしっとりしている。
「やばい。吐きそう」
「吐くな。耐えろ」
「がんばります……」
ヘルマンは、なんだか可笑しくなって、クックッと笑いながら、エーベルハルトの手汗まみれの手を握った。
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