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51:祥平、頑張る

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 祥平は、ドーラと一緒に、神殿の台所で料理を作っていた。今日は、ドーラが休みの日なので、朝から神殿に来ている。ニーとパラスは、今日は広い神殿の敷地内で、ぷちピクニックをしているそうだ。

 ミミーナから習った料理を2人で作りながら、祥平は、ドーラに話しかけた。


「ドーラちゃん。ドーラちゃん」

「なぁに?」

「俺、ダンテさんが好きみたい」

「あら! いいじゃない! 恋人になるの?」

「いや、いっそのことプロポーズしようかと思ってて」

「結婚式はいつにするの?」

「それは、ダンテさんからOKもらってから決めるかなぁ」

「ふふっ。ショーヘイ。家族ができるわね」

「うん。ドーラちゃんとも家族だけどね」

「まぁね! ショーヘイと先に出会ったのは私だし? ショーヘイの妹の座は渡さないわよ!」

「ははっ! 誰も盗らないよー。それでね、どうやってプロポーズしたもんかなーと悩み中なのだよ」

「花束を持って、『結婚してください』って言えば?」

「ダンテさん、花は好きなのかな? 肉の塊の方が喜びそうな気がする……」

「まぁ、ダンテさんだもんね」

「ダンテさんだからね。そもそもさー、既に竜騎士のプロポーズはされちゃってるんだよなぁ」

「何それ。どういうこと?」

「竜騎士が自分の飛竜の牙を渡すのって、竜騎士のプロポーズになるんだって。ダンテさんは知らなかったけど」

「おっとりのほほんなダンテさんだもんねー」

「そうなんだよなー。ダンテさんだもんなー」

「ショーヘイ。ロマンチックなプロポーズは素敵かもしれないけど、変に考え込むより、素直にサクッと『好きだから結婚して』って言えば? 2人とも、距離感おかしいくらい、既に仲良しだし」

「え? 俺達、距離感おかしい?」

「うん」

「マジか……自覚無かった……ダンテさんが帰ってきたら、すぐにプロポーズするつもりなんだけど、もし、俺が怖気づいてヘタレたらさ、ドーラちゃん、俺の尻を蹴り上げてくれない? 逃げ場を無くしておきたいんだよねぇ」

「まっかせて! 全力でお尻を蹴ってあげるわ!」

「よろしく! ちなみに、ダンテさんが帰ってくるの、明後日です。ダンテさんにプロポーズしてOKもらえたら、遅くとも次の日には報告に来るから、6日経っても報告に来なかったら、全力で尻を蹴り上げてよ」

「分かったわ。上手くいくことを祈っとく!」

「ありがと。心強いわー。……うん。ドーラちゃんに話して、いい感じに勇気が湧いてきた」

「ショーヘイ。頑張ってね!」

「ちょー頑張る!」


 祥平は、ドーラと顔を見合わせて笑い、ハイタッチをした。怖気づいてヘタレた時の為の保険はかけた。あとは、ダンテが帰ってきた日に、プロポーズするだけだ。セックスに必要なものは、パラスが家に届けてくれている。頼りになるお祖父ちゃんがいてくれて、本当に助かる。
 祥平は、夕方までドーラと一緒に神殿で過ごすと、夕暮れに染まる丘を下りて、家へと帰った。

 季節は夏が終わり、いきなり冬になった。急に冷え込むようになったので、まだまだ慣れない祥平には少し辛い。ダンテは慣れているのだろうが、任務中に体調を崩さないか、ちょっと心配である。

 今日、いよいよダンテが帰ってくる。ダンテにプロポーズすることは、ミミーナにも言っていて、祥平が怖気づいてヘタレたら、尻を思いっきり引っ叩いて欲しいと頼んである。ミミーナは、嬉しそうに笑顔で快諾して、応援してくれた。
 ミミーナと一緒に、ダンテの好物のバーナンの揚げ物やポテサラもどき等を作った。ミミーナが帰った後は、どうにも落ち着かなくて、居間でそわそわしている。ダンテにとって、祥平は『いらない存在』なんかじゃない。ダンテから、じんわり伝わってくるような温かい気持ちが、祥平に自然とそう思わせてくれた。

 祥平は、ダンテが帰ってきた気配がすると、バタバタと走って玄関に向かった。玄関のドアから入ってきたダンテが、おっとりとした笑みを浮かべた。


「ただいま。ショーヘイ」

「……おかえりなさい」


 ばびゅんと飛びついてきたピエリーをいつも通り撫でながら、祥平は、緊張で心臓が激しく高鳴るのを感じつつ、薄汚れた服を着たダンテに近寄った。


「とりあえず、お風呂に入ります?」

「うん。美味しそうな匂いがする。晩ご飯はバーナンの揚げ物?」

「ダンテさん、正解! ということで、先にお風呂の準備してきますねー」

「うん。お願いします」


 祥平は、懐いてくるピエリーを頭の上に乗せて、パタパタと風呂場へ向かった。ダンテが帰ってきたはいいが、どのタイミングでプロポーズしよう。とりあえず、腹ぺこさんなダンテに美味しいものを食べさせねば。プロポーズは、その後だ。

 祥平は、浴槽にお湯を溜めながら、急いで夕食を温める準備を始めた。
 風呂上がりのダンテと、いつものようにお喋りをしながら夕食を食べた。ダンテが、美味しそうに幸せそうに、もりもり食べてくれるのを見ているだけで、胸の奥がぽかぽかして、嬉しくて堪らなくなる。ダンテは、凛々しい男前だが、なんか可愛い。

 夕食のデザートに、ミミーナが焼いてくれたアルモンのケーキも食べた。ミミーナに応援されている気がして、祥平は、腹を括った。
 食器を台所に下げ、食後のラーリオ茶を淹れると、祥平は、おっとりのほほんとした雰囲気で美味しそうにラーリオ茶を飲んでいるダンテを真っ直ぐに見つめて、話しかけた。


「ダンテさん」

「ん? なんだい?」

「好きです。結婚してください」


 ダンテが、ぽかんと間抜けに口を開けた。手に持っていたマグカップが傾いて、ラーリオ茶が零れている。


「ダンテさーん。零れてますよー」

「え、あ、あぁ……」

「で、お返事は?」

「……ビックリし過ぎて、頭の中が今真っ白なんだけど、あの、えっと、その、わ、私も、ショーヘイと結婚して、その、ずっと、ずっと一緒に暮らしたい……です……」


 ダンテの顔が、面白いくらい、ぶわっと赤くなった。祥平も顔がじわじわ熱くなってきた。


「ダンテさん。夜のイチャイチャに関しては必要なものを揃えているし、ダンテさんのちょっと面倒くさいっぽいご両親に関しては、お祖父ちゃんから助言をもらってます。結婚するにあたっての、心配事は無いです!」

「え? いつの間に?」

「ダンテさんが任務中の間に、お祖父ちゃんに相談しに行きました」

「あ、なるほど。実は、私も帰還したらお祖父様に相談しようかと思ってて。……ショーヘイ。本当に私でいいのかな?」

「ダンテさんがいいです。ダンテさんとピエリーちゃんと、よぼよぼのお爺ちゃんになるまで、ずっと一緒に美味しいものを食べながら、笑っていたいです」

「……うん。私も。……ショーヘイ。その、あの……」

「なんです?」

「……あ、愛して、ます。……た、多分……」

「お、俺も、その、ダンテさんを、愛してます……多分……」

「……なんか、すごい、照れくさい」

「ですね」


 祥平は、ダンテと顔を見合わせて、なんとなく、へらっと笑った。ものすっごく嬉しいけれど、どうにも照れくさくて、顔が熱くて堪らない。お互いにまだ『多分』がつくけど、細かいことは気にしない。そのうち、『多分』も無くなるような気がする。
 祥平の肩に乗っているピエリーが、ぴるるるるっと、どこか嬉しそうに鳴いた。


「ありがとう。ピエリー」

「ピエリーちゃん、何て?」

「『おめでとう! 嬉しいわ!』って」

「ははっ! ありがとう。ピエリーちゃん。あ、明日、ミミーナさんに報告したら、ドーラちゃんに報告しに行ってもいいですか? 2人には、俺が怖気づいてヘタレたら、尻を叩くか蹴るかして欲しいってお願いしてて」

「勿論いいよ。私もお祖父様に報告したいし。私の両親や兄達は、本当に面倒くさいのだけど、どんな対策をとるんだい?」

「ダンテさんが、何か言ったりするより、『神様からの贈り人』である俺から、ダンテさんをお婿さんにもらうので絶縁すること、社交界には一切出ないこと、今後関わらないことを宣言して、ダンテさんのお父さんに一筆書いてもらいます。『神様からの贈り人』には、王族だって何かを強制したりはできないそうなので、俺がきっちりダンテさんのご両親と約束すれば、あとは、平和な毎日が待ってます」

「なるほど。ショーヘイ」

「なんです?」

「格好いいね」

「ふはっ! 照れます! ダンテさん。一緒に、いっぱいいっぱい幸せになりましょう?」

「うん。ショーヘイとピエリーと一緒なら、ずっと笑っていられる自信があるよ」

「ははっ! 俺もです」


 祥平は、椅子から立ち上がった。ダンテも椅子から立ち上がり、テーブル越しに、顔を寄せて、触れるだけのキスをした。ダンテの高い鼻にすりすりと鼻先を擦りつけながら、祥平は、ダンテの萌黄色の瞳を見つめて、じわぁっと湧き上がってくる喜びと幸せに、目を細めた。
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