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39:語り合う
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祥平は、全裸のまま、ダンテが焼いてくれている魚をじっと眺めていた。お腹が空くまで、ダンテと一緒に泳ぎながら魚捕りに挑戦した。祥平は、一匹も捕まえられなかったが、ダンテは大きな魚を二匹も素手で捕まえていた。ピエリーも器用に泳ぎ、一番大きな魚を捕まえた。
ニーバランカという魚は、顔は般若みたいな感じで怖いが、とても美味しいらしい。足が早いので、王都の市場では売っていないそうだ。
ダンテが、持ってきていた鞄から大きなナイフを取り出して、ニーバランカの鱗を取り、腸を出して、そこら辺の木の枝を切って、手早く作った串を刺した。ダンテが、ものすごく手際よく火を起こし、今はニーバランカが焼けるのを待っている。味付けをしなくても、そのままで美味しいものらしい。
祥平が胡座をかいて、そわそわしていると、隣に座っている全裸のダンテが、いい焼き色になってきたニーバランカを手に取った。
「はい。もういいよ。骨に気をつけてね」
「はーい。いただきまーす」
ダンテからニーバランカを受け取り、早速齧りつく。しっとりほこほこの身は、ちょっと海老っぽい感じの味がした。ほんのり自然な甘みがあり、めちゃくちゃ美味しい。祥平は、もぐもぐ咀嚼しながら、隣のダンテを見た。ダンテも幸せオーラを発しながら、もぐもぐ食べている。
「ん。ダンテさん! これ、めちゃくちゃ美味いです!」
「ねー。美味しいよね。ピエリーに乗る訓練をしてた頃は、よく此処に来てたんだ。ニーバランカは、王都の近くでは、此処でしか食べられないんだよ」
「市場でも売ってればいいのに」
「まぁね。でも、捕まえるのも楽しいでしょ?」
「はい! 俺は捕まえられませんでしたけどね! 昼飯食って腹が落ち着いたらリベンジします」
「ははっ! 弁当? も食べようか」
「はーい」
ダンテが、近くに置いていたバスケットを祥平との間に置いた。ニーバランカを味わって食べてから、今度は、朝に作った弁当を食べる。どれもちゃんと美味しく出来ていた。水筒のラーリオ茶をカップに注いで飲みつつ、涼やかな風に吹かれながら、美味しい昼食をのんびりと楽しむ。
大きなニーバランカを生のまま食べていたピエリーが、欠伸をして、その場に丸くなった。お昼寝したいみたいだ。日差しはそれなりに強いが、風が涼しいので、気持ちよく昼寝ができそうな気がする。
ダンテが、大きめの鞄の中から、小さめの鍋を取り出し、泉の水を汲みに行った。ダンテが、焚き火で水を沸かし、ラーリオ茶の茶葉をダイレクトに鍋に突っ込んだ。ふわふわと柔らかい花の匂いがする。冷めたラーリオ茶を飲み終えたカップに、茶葉があんまり入らないように、ダンテが器用にラーリオ茶を入れた。
お礼を言って、カップを受け取り、一口飲めば、なんともまったりとした贅沢な気分になる。チラッとピエリーを見れば、完全に丸くなって寝てしまっていた。祥平も、ちょっと眠い。
ちびちび温かいラーリオ茶を飲んでいると、ダンテが話しかけてきた。
「ショーヘイ」
「なんですー?」
「色々と考えてみたんだけど……」
「はい」
「私は、多分、ショーヘイのことが好きなのだと思う」
「それは恋愛感情的な意味ですか」
「……多分。あまり自信は無いのだけど。ショーヘイと一緒に美味しいものを食べたり、ちょっとしたことを一緒にするのが、本当にすごく楽しくて。ショーヘイといると、なんか落ち着く反面、最近はちょっとそわそわしちゃって」
「ダンテさん、たまに挙動不審になりますもんね」
「あはは。なんか恥ずかしいなぁ。……ショーヘイがいない生活に戻るのが、本当に嫌で。うーん。上手く言えないんだけど、ショーヘイとずっと一緒にいたいなぁって」
「……ダンテさん。ありがとうございます。なんか、素直に嬉しいです」
「うん」
「ダンテさんのこと、好きですよ。恋愛感情かは分かりませんけど、ダンテさんと一緒にいるのが、なんか自然みたいな感じになってる気がするし。……俺ね、故郷の家族の中では、『いらない存在』でした」
「いらない存在」
「はい。実の母親は、6歳の時に『アンタなんかいらない』って言って、男をつくって出ていったし。父親とも、新しい母親とも、上手くいかなくて。弟のことも、素直に可愛がってやれないというか、上手く接することができなくて。……家の中に、俺の居場所なんか無くて、家族で過ごしていても、疎外感がいつもあって……俺がもっと頑張ればよかったのかもしれないけど、どう頑張ればいいのかも分かんなくて。『温かい家族』にずっと憧れてました。恋人ができても、『いらない存在』の俺が、ちゃんとした『家族』になれる訳がないって、いつも思ってて、求婚する勇気なんか無かったです」
「そう……」
「まぁ、でも、お祖父ちゃんと話してみて、俺も、『いらない存在』っていうのを振り払って、誰かと愛し合って、『家族』になりたいなぁって思うようになりまして」
「うん」
「ダンテさん。俺、ダンテさんのことが好きですよ。ピエリーちゃんも好きです。貴方達と一緒だと、毎日が楽しくて、何でもない日常が、なんとなく愛おしくて……ダンテさんのこと、愛せるのかは自分でも分かりません。それでも、できることなら、貴方達と一緒がいいです」
「うん。私も、ショーヘイのことを愛してるかと聞かれたら、まだすぐには頷けないから、一緒かな? ショーヘイ。少しずつ、私達のペースで、歩み寄ってみない? 私はショーヘイのことがもっと知りたいし、私のことも知ってほしい。いっぱいお喋りして、いっぱい美味しいものを一緒に食べて、一緒に笑っていたいな」
「……はい。ダンテさん」
「うん」
「俺なんかを好きになってくれて、ありがとうございます」
「私だけじゃなくて、お祖父様やドーラちゃんとか、ミミーナさんとか、色んな人がショーヘイのこと、好きだよ。『好き』の種類は違うだろうけど。『俺なんか』なんて、思わないで欲しいなぁ。ショーヘイは、いつだって一生懸命で、私やピエリーを含めた周りの人を笑顔にさせてるじゃない。そういうショーヘイが、すごく好きで、とても誇らしいと思うよ」
「……ありがとうございます。……ヤバい。なんか、すげぇ照れくさくなってきた」
「あはは。私も、ちょっと照れくさい」
「お腹落ち着きました?」
「うん。泳ぎながら、晩ご飯用のニーバランカを捕る?」
「はい。折角のピクニックです。とことん楽しみたいです!」
「うん。私も。ショーヘイ」
「はい」
「一緒だと楽しいね」
「……はい!」
ずっと焚き火を見つめながら喋っていた祥平は、ダンテの方を向いた。ダンテの日焼けした頬が赤く染まっている。自分の頬も、なんだか熱い気がする。
少し冷めたラーリオ茶を一気飲みして、カップを地面に置くと、祥平は立ち上がり、ダンテに手を差し出した。
「遊びましょうか」
「うん」
ダンテが立ち上がって、祥平の手を握った。ダンテの手は、硬くて大きくて温かい。手を繋いで、泉の中に歩いて入る。
腰のあたりまで水に浸かると、祥平は、ふと思い立って、ダンテを見上げた。
「ダンテさん。ちょっと実験がしたいんで、少し屈んでください」
「実験?」
ダンテが不思議そうな顔で、こちらを向いて、少し屈んでくれた。祥平は、少しだけ背伸びをして、ダンテの唇に触れるだけのキスをした。マジ無理ーって感じは全然しない。ただ、柔らかいダンテの唇の感触に、不思議と小さく心臓が跳ねた。
触れていた唇を離せば、ダンテが真っ赤な顔で固まっていた。祥平は、ダンテをちょっと見上げて、照れくさいのを誤魔化すように、へらっと笑った。
「『マジ無理ーー!!』って感じはしないです」
「そ、そう……あの、できたら、事前に言ってもらえると……こ、心の準備がね?」
「じゃあ、もっかい、ちゅーします」
ダンテの返事が返ってくる前に、祥平はもう一度、触れるだけのキスをした。なんとなく、胸の奥がうずうずむずむずして、わーーっ! って叫びたいような感じがして、祥平は、その衝動を堪える為に、ダンテの首に両腕を絡めるようにして、正面から抱きついた。触れ合うダンテの熱い素肌の感触に、また心臓が小さく跳ねた。おずおずとした感じで、ダンテの手が祥平の背中に触れた。
「心臓が口から出そう」
「ははっ! ダンテさん、すごい心臓バクバクしてる」
「うーー。駄目だ。ほんと、ちょっとこれ以上くっついてると、色々とヤバいです」
「あはは。勃ちます?」
「…………うん」
「此処で勃ったら困りますね。じゃあ、魚捕り第二弾を始めますか。ピエリーちゃんの分も捕ってこなきゃ」
「うん」
祥平は、抱きついていたダンテから離れた。ダンテの顔を見上げれば、面白いくらい真っ赤になっている。自分の顔も、じんわり熱い。
祥平は、ダンテを見上げて、へらっと笑って、ダンテの手を引いて、もっと深い所に行き、ダンテと手を繋いだまま、水中に潜った。
ニーバランカという魚は、顔は般若みたいな感じで怖いが、とても美味しいらしい。足が早いので、王都の市場では売っていないそうだ。
ダンテが、持ってきていた鞄から大きなナイフを取り出して、ニーバランカの鱗を取り、腸を出して、そこら辺の木の枝を切って、手早く作った串を刺した。ダンテが、ものすごく手際よく火を起こし、今はニーバランカが焼けるのを待っている。味付けをしなくても、そのままで美味しいものらしい。
祥平が胡座をかいて、そわそわしていると、隣に座っている全裸のダンテが、いい焼き色になってきたニーバランカを手に取った。
「はい。もういいよ。骨に気をつけてね」
「はーい。いただきまーす」
ダンテからニーバランカを受け取り、早速齧りつく。しっとりほこほこの身は、ちょっと海老っぽい感じの味がした。ほんのり自然な甘みがあり、めちゃくちゃ美味しい。祥平は、もぐもぐ咀嚼しながら、隣のダンテを見た。ダンテも幸せオーラを発しながら、もぐもぐ食べている。
「ん。ダンテさん! これ、めちゃくちゃ美味いです!」
「ねー。美味しいよね。ピエリーに乗る訓練をしてた頃は、よく此処に来てたんだ。ニーバランカは、王都の近くでは、此処でしか食べられないんだよ」
「市場でも売ってればいいのに」
「まぁね。でも、捕まえるのも楽しいでしょ?」
「はい! 俺は捕まえられませんでしたけどね! 昼飯食って腹が落ち着いたらリベンジします」
「ははっ! 弁当? も食べようか」
「はーい」
ダンテが、近くに置いていたバスケットを祥平との間に置いた。ニーバランカを味わって食べてから、今度は、朝に作った弁当を食べる。どれもちゃんと美味しく出来ていた。水筒のラーリオ茶をカップに注いで飲みつつ、涼やかな風に吹かれながら、美味しい昼食をのんびりと楽しむ。
大きなニーバランカを生のまま食べていたピエリーが、欠伸をして、その場に丸くなった。お昼寝したいみたいだ。日差しはそれなりに強いが、風が涼しいので、気持ちよく昼寝ができそうな気がする。
ダンテが、大きめの鞄の中から、小さめの鍋を取り出し、泉の水を汲みに行った。ダンテが、焚き火で水を沸かし、ラーリオ茶の茶葉をダイレクトに鍋に突っ込んだ。ふわふわと柔らかい花の匂いがする。冷めたラーリオ茶を飲み終えたカップに、茶葉があんまり入らないように、ダンテが器用にラーリオ茶を入れた。
お礼を言って、カップを受け取り、一口飲めば、なんともまったりとした贅沢な気分になる。チラッとピエリーを見れば、完全に丸くなって寝てしまっていた。祥平も、ちょっと眠い。
ちびちび温かいラーリオ茶を飲んでいると、ダンテが話しかけてきた。
「ショーヘイ」
「なんですー?」
「色々と考えてみたんだけど……」
「はい」
「私は、多分、ショーヘイのことが好きなのだと思う」
「それは恋愛感情的な意味ですか」
「……多分。あまり自信は無いのだけど。ショーヘイと一緒に美味しいものを食べたり、ちょっとしたことを一緒にするのが、本当にすごく楽しくて。ショーヘイといると、なんか落ち着く反面、最近はちょっとそわそわしちゃって」
「ダンテさん、たまに挙動不審になりますもんね」
「あはは。なんか恥ずかしいなぁ。……ショーヘイがいない生活に戻るのが、本当に嫌で。うーん。上手く言えないんだけど、ショーヘイとずっと一緒にいたいなぁって」
「……ダンテさん。ありがとうございます。なんか、素直に嬉しいです」
「うん」
「ダンテさんのこと、好きですよ。恋愛感情かは分かりませんけど、ダンテさんと一緒にいるのが、なんか自然みたいな感じになってる気がするし。……俺ね、故郷の家族の中では、『いらない存在』でした」
「いらない存在」
「はい。実の母親は、6歳の時に『アンタなんかいらない』って言って、男をつくって出ていったし。父親とも、新しい母親とも、上手くいかなくて。弟のことも、素直に可愛がってやれないというか、上手く接することができなくて。……家の中に、俺の居場所なんか無くて、家族で過ごしていても、疎外感がいつもあって……俺がもっと頑張ればよかったのかもしれないけど、どう頑張ればいいのかも分かんなくて。『温かい家族』にずっと憧れてました。恋人ができても、『いらない存在』の俺が、ちゃんとした『家族』になれる訳がないって、いつも思ってて、求婚する勇気なんか無かったです」
「そう……」
「まぁ、でも、お祖父ちゃんと話してみて、俺も、『いらない存在』っていうのを振り払って、誰かと愛し合って、『家族』になりたいなぁって思うようになりまして」
「うん」
「ダンテさん。俺、ダンテさんのことが好きですよ。ピエリーちゃんも好きです。貴方達と一緒だと、毎日が楽しくて、何でもない日常が、なんとなく愛おしくて……ダンテさんのこと、愛せるのかは自分でも分かりません。それでも、できることなら、貴方達と一緒がいいです」
「うん。私も、ショーヘイのことを愛してるかと聞かれたら、まだすぐには頷けないから、一緒かな? ショーヘイ。少しずつ、私達のペースで、歩み寄ってみない? 私はショーヘイのことがもっと知りたいし、私のことも知ってほしい。いっぱいお喋りして、いっぱい美味しいものを一緒に食べて、一緒に笑っていたいな」
「……はい。ダンテさん」
「うん」
「俺なんかを好きになってくれて、ありがとうございます」
「私だけじゃなくて、お祖父様やドーラちゃんとか、ミミーナさんとか、色んな人がショーヘイのこと、好きだよ。『好き』の種類は違うだろうけど。『俺なんか』なんて、思わないで欲しいなぁ。ショーヘイは、いつだって一生懸命で、私やピエリーを含めた周りの人を笑顔にさせてるじゃない。そういうショーヘイが、すごく好きで、とても誇らしいと思うよ」
「……ありがとうございます。……ヤバい。なんか、すげぇ照れくさくなってきた」
「あはは。私も、ちょっと照れくさい」
「お腹落ち着きました?」
「うん。泳ぎながら、晩ご飯用のニーバランカを捕る?」
「はい。折角のピクニックです。とことん楽しみたいです!」
「うん。私も。ショーヘイ」
「はい」
「一緒だと楽しいね」
「……はい!」
ずっと焚き火を見つめながら喋っていた祥平は、ダンテの方を向いた。ダンテの日焼けした頬が赤く染まっている。自分の頬も、なんだか熱い気がする。
少し冷めたラーリオ茶を一気飲みして、カップを地面に置くと、祥平は立ち上がり、ダンテに手を差し出した。
「遊びましょうか」
「うん」
ダンテが立ち上がって、祥平の手を握った。ダンテの手は、硬くて大きくて温かい。手を繋いで、泉の中に歩いて入る。
腰のあたりまで水に浸かると、祥平は、ふと思い立って、ダンテを見上げた。
「ダンテさん。ちょっと実験がしたいんで、少し屈んでください」
「実験?」
ダンテが不思議そうな顔で、こちらを向いて、少し屈んでくれた。祥平は、少しだけ背伸びをして、ダンテの唇に触れるだけのキスをした。マジ無理ーって感じは全然しない。ただ、柔らかいダンテの唇の感触に、不思議と小さく心臓が跳ねた。
触れていた唇を離せば、ダンテが真っ赤な顔で固まっていた。祥平は、ダンテをちょっと見上げて、照れくさいのを誤魔化すように、へらっと笑った。
「『マジ無理ーー!!』って感じはしないです」
「そ、そう……あの、できたら、事前に言ってもらえると……こ、心の準備がね?」
「じゃあ、もっかい、ちゅーします」
ダンテの返事が返ってくる前に、祥平はもう一度、触れるだけのキスをした。なんとなく、胸の奥がうずうずむずむずして、わーーっ! って叫びたいような感じがして、祥平は、その衝動を堪える為に、ダンテの首に両腕を絡めるようにして、正面から抱きついた。触れ合うダンテの熱い素肌の感触に、また心臓が小さく跳ねた。おずおずとした感じで、ダンテの手が祥平の背中に触れた。
「心臓が口から出そう」
「ははっ! ダンテさん、すごい心臓バクバクしてる」
「うーー。駄目だ。ほんと、ちょっとこれ以上くっついてると、色々とヤバいです」
「あはは。勃ちます?」
「…………うん」
「此処で勃ったら困りますね。じゃあ、魚捕り第二弾を始めますか。ピエリーちゃんの分も捕ってこなきゃ」
「うん」
祥平は、抱きついていたダンテから離れた。ダンテの顔を見上げれば、面白いくらい真っ赤になっている。自分の顔も、じんわり熱い。
祥平は、ダンテを見上げて、へらっと笑って、ダンテの手を引いて、もっと深い所に行き、ダンテと手を繋いだまま、水中に潜った。
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