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32:幸福を願う贈り物

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 ダンテは、完成したものを色んな角度から見て、機嫌よく小さく笑った。明日は、ショーヘイの誕生日だ。ショーヘイへのプレゼントを手作りしてみたのだが、なんとかギリギリ間に合った。
 数年前に抜けたピエリーの歯を、ペンダントに加工してみた。作り方を教えてくれた部下のビリニオに見せてみれば、よく出来ていると褒めてもらえた。毎日、仕事の休憩時間にコツコツ作業してきた。ショーヘイが喜んでくれたら嬉しい。

 ダンテは、店で買っておいた小さな濃い緑色の布袋にペンダントを入れると、布袋の口を赤いリボンで結んだ。
 大事に鞄に入れると、ちょうど昼休憩が終わる時間になっていた。明日は休みを取ってある。午後の訓練を終えたら、家に帰れる。
 ダンテは、明日が楽しみで、ちょっと浮かれながら、ピエリーと一緒に訓練場へと向かった。

 翌朝。ダンテは、ペロペロと顔を舐められる感覚で目覚めた。目を開ければ、ショーヘイの穏やかな寝顔が目に入る。ショーヘイは、今日が誕生日だから、少し朝寝坊させようと、ショーヘイよりも先に起こして欲しいとピエリーに頼んでおいた。
 数日前に、職場で身体検査があり、ダンテはギリッギリ合格をもらえた。減量が無事に成功して、怒られずに済んだ。ショーヘイと一緒に寝る理由が無くなったのだが、ピエリーの『2人と一緒に寝たい!!』という強い希望により、未だに一緒に寝ている。ショーヘイは、ピエリーに甘いから、普通に快諾していた。

 眠るショーヘイを起こさないように、静かにベッドから下りて、着替えを持って、階下の風呂場へと移動する。ざっとシャワーを浴びて眠気を飛ばすと、身支度を整えてから、庭に出る。アルモンを収穫して、裏の水道でアルモンを洗ってから、台所へと向かう。

 手早く朝食を作ると、ダンテは二階の自室に向かった。部屋に入ると、ベッドの上では、ショーヘイがまだぐっすり寝ていた。ダンテは、ショーヘイを優しく揺さぶりながら、声をかけた。


「ショーヘイ。おはよう。朝だよ」

「んーー。ん? うん。ん?」


 ショーヘイが目を開けて、半眼でダンテを見上げてきた。


「やべぇ。寝坊しました? 俺」

「今日は、ショーヘイは朝寝坊の日だから大丈夫。朝ご飯出来てるよ。シャワーを浴びておいで」

「ありがとうございまーす。でも、家政夫的にいいのかなぁ……」

「今日は誕生日だから特別」

「へへっ。ありがとうございます。よっと。汗かいてるから、シャワー浴びてきます」

「うん。その間に温めておくよ」

「いたれりつくせり~。ありがとうございます!」


 ショーヘイが照れたように笑って、起き上がった。ダンテは、うとうとしていたピエリーも起こして、ピエリーを抱っこしたショーヘイと共に、階下に向かった。
 少しだけ冷めた朝食を温め、居間のテーブルに運ぶと、髪が濡れたままの少しお洒落な服を着たショーヘイがやって来た。
 風の魔法で、ショーヘイの髪を乾かすと、ショーヘイがキョトンとした後で、目を輝かせた。


「おぉー! すごい! 乾いてる! 今の魔法ですか!?」

「そうだよ」

「いいなー。便利ー。魔力はあるらしいけど、俺、使えないですし」

「まぁ、しょうがないね。魔法を使おうと思えば、治癒魔法士になるしかないからなぁ」

「この歳で勉強するのは嫌なんで、魔法を使うのは諦めてます」

「ははっ。さ、食べようか」

「はいっ!」


 美味しそうに食べてくれるショーヘイにほっこりしながら朝食を終えると、ダンテは、ショーヘイと一緒に布団や洗濯物を干してから、ドーラを迎えに、神殿に向かった。

 神殿の入り口で待ち構えていたドーラと合流して、軽やかな足取りのドーラと一緒に家に帰る。
 家に帰り着くと、ミミーナが来ていた。ショーヘイと2人で、パーティーのご馳走の下拵えをしてくれていた。ドーラとダンテも加わり、本格的に調理を始める。自分の誕生日の時もそうだったが、皆でわいわいお喋りをしながら、美味しいものを作るのは本当に楽しい。

 ドーラと一緒に、魔導オーブンの前を陣取って、じわじわと膨れて焼き上がっていくニャーリルのジャムを入れたケーキを眺めていると、背中に軽いものが乗った。顔だけで振り返れば、ピエリーを頭に乗せたショーヘイだった。半分おんぶするみたいな形になっているショーヘイが、楽しそうに笑った。


「あとちょっとで焼きあがりますねー」

「ケーキが焼けるところって、全然見飽きないわ。楽しい」

「分かるなぁ。どんどん美味しそうな匂いがしてくるのもいいよねぇ」

「ダンテさん、分かってるぅ!」

「ははっ! ケーキが焼きあがる前に、出来上がった料理を運びましょうか」

「「はぁい」」


 ダンテは楽しくて、小さく笑いながら、背中にくっついているショーヘイをおんぶした。


「うぉっ。おー。視界が高い。ダンテさん。いつも俺達を見下ろしてて、首痛くなりません?」

「大丈夫。ちょっと凝るくらいかな」

「あ、やっぱり? ちなみに、俺は万年肩凝りになりました。見上げるばっかりだからかなぁ」

「どうなんだろ。下ろすねー」

「はーい」


 おんぶしていたショーヘイを下ろし、キレイに盛り付けされた料理を運ぼうとすると、女性陣の呆れたような顔が目に入った。


「ねぇ。ミミーナさん。この2人、本当に付き合ってないの?」

「付き合ってないのよねぇ。これが」

「距離感おかしくない? え? これ普通?」

「気にしちゃ駄目よ。そのうち、いい方向に転がるかもしれないから」

「そうするわ。さっ! お料理を運ばなきゃ!」


 ダンテとショーヘイの距離感はおかしいのだろうか。割と普通だと思うのだが。ダンテは、首を傾げながら、ご馳走がのった皿を居間のテーブルに運んだ。

 4人でわいわい喋りながら、皆で作った美味しい料理を楽しむ。ショーヘイが、とても嬉しそうで、ダンテとしても嬉しい。美味しいものがいっぱいで、笑顔もいっぱいで、本当に素敵な時間だと思う。

 美味しいもので腹が膨れたら、いよいよプレゼントを渡す時間だ。ショーヘイに、赤いリボンをつけた小さな布袋を渡すと、照れくさそうに、でも嬉しそうに、ショーヘイが笑った。


「開けてみていいですか?」

「勿論。どうぞ。気に入ってもらえると嬉しいなぁ」

「おぉ!? これ、もしかして、ピエリーちゃんの牙ですか?」

「そう。飛竜は15年~20年に一度、歯が生え変わるんだ。前に生え変わった時の歯を取っておいたから、それでペンダントにしてみたんだ。飛竜の歯は、言わばお守りみたいなもので、幸福を運んできてくれるって言われてるんだよね」

「へぇー。ありがとうございます! ダンテさん。お守りなら、ずっと着けておこーっと」


 ショーヘイが、早速、ペンダントを着けてくれた。ピエリーの牙を丈夫な革紐で括っただけのシンプルなものだが、お守りとしての価値は高い。ショーヘイに、いっぱい幸福が訪れるといい。

 ドーラからは、手荒れの薬を、ミミーナからは、夏物のお洒落なシャツを貰って、ショーヘイはとても嬉しそうだった。

 誕生日パーティーとは、とてもいいものである。12歳で離れで暮らすようになるまでは、ダンテも毎年誕生日パーティーをしてもらっていたが、こういう温かい手作り感のあるものではなく、誕生日にかこつけた貴族の社交パーティーだった。自分の誕生日パーティーが楽しかった覚えはない。でも、今はこんなにも楽しい。

 ダンテは、ショーヘイが生まれてきてくれて、此方に来て、出会ってくれた幸福を神に感謝しつつ、ショーヘイ達とわいわい賑やかに喋りながら、後片付けまで楽しんだ。
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