32 / 78
32:幸福を願う贈り物
しおりを挟む
ダンテは、完成したものを色んな角度から見て、機嫌よく小さく笑った。明日は、ショーヘイの誕生日だ。ショーヘイへのプレゼントを手作りしてみたのだが、なんとかギリギリ間に合った。
数年前に抜けたピエリーの歯を、ペンダントに加工してみた。作り方を教えてくれた部下のビリニオに見せてみれば、よく出来ていると褒めてもらえた。毎日、仕事の休憩時間にコツコツ作業してきた。ショーヘイが喜んでくれたら嬉しい。
ダンテは、店で買っておいた小さな濃い緑色の布袋にペンダントを入れると、布袋の口を赤いリボンで結んだ。
大事に鞄に入れると、ちょうど昼休憩が終わる時間になっていた。明日は休みを取ってある。午後の訓練を終えたら、家に帰れる。
ダンテは、明日が楽しみで、ちょっと浮かれながら、ピエリーと一緒に訓練場へと向かった。
翌朝。ダンテは、ペロペロと顔を舐められる感覚で目覚めた。目を開ければ、ショーヘイの穏やかな寝顔が目に入る。ショーヘイは、今日が誕生日だから、少し朝寝坊させようと、ショーヘイよりも先に起こして欲しいとピエリーに頼んでおいた。
数日前に、職場で身体検査があり、ダンテはギリッギリ合格をもらえた。減量が無事に成功して、怒られずに済んだ。ショーヘイと一緒に寝る理由が無くなったのだが、ピエリーの『2人と一緒に寝たい!!』という強い希望により、未だに一緒に寝ている。ショーヘイは、ピエリーに甘いから、普通に快諾していた。
眠るショーヘイを起こさないように、静かにベッドから下りて、着替えを持って、階下の風呂場へと移動する。ざっとシャワーを浴びて眠気を飛ばすと、身支度を整えてから、庭に出る。アルモンを収穫して、裏の水道でアルモンを洗ってから、台所へと向かう。
手早く朝食を作ると、ダンテは二階の自室に向かった。部屋に入ると、ベッドの上では、ショーヘイがまだぐっすり寝ていた。ダンテは、ショーヘイを優しく揺さぶりながら、声をかけた。
「ショーヘイ。おはよう。朝だよ」
「んーー。ん? うん。ん?」
ショーヘイが目を開けて、半眼でダンテを見上げてきた。
「やべぇ。寝坊しました? 俺」
「今日は、ショーヘイは朝寝坊の日だから大丈夫。朝ご飯出来てるよ。シャワーを浴びておいで」
「ありがとうございまーす。でも、家政夫的にいいのかなぁ……」
「今日は誕生日だから特別」
「へへっ。ありがとうございます。よっと。汗かいてるから、シャワー浴びてきます」
「うん。その間に温めておくよ」
「いたれりつくせり~。ありがとうございます!」
ショーヘイが照れたように笑って、起き上がった。ダンテは、うとうとしていたピエリーも起こして、ピエリーを抱っこしたショーヘイと共に、階下に向かった。
少しだけ冷めた朝食を温め、居間のテーブルに運ぶと、髪が濡れたままの少しお洒落な服を着たショーヘイがやって来た。
風の魔法で、ショーヘイの髪を乾かすと、ショーヘイがキョトンとした後で、目を輝かせた。
「おぉー! すごい! 乾いてる! 今の魔法ですか!?」
「そうだよ」
「いいなー。便利ー。魔力はあるらしいけど、俺、使えないですし」
「まぁ、しょうがないね。魔法を使おうと思えば、治癒魔法士になるしかないからなぁ」
「この歳で勉強するのは嫌なんで、魔法を使うのは諦めてます」
「ははっ。さ、食べようか」
「はいっ!」
美味しそうに食べてくれるショーヘイにほっこりしながら朝食を終えると、ダンテは、ショーヘイと一緒に布団や洗濯物を干してから、ドーラを迎えに、神殿に向かった。
神殿の入り口で待ち構えていたドーラと合流して、軽やかな足取りのドーラと一緒に家に帰る。
家に帰り着くと、ミミーナが来ていた。ショーヘイと2人で、パーティーのご馳走の下拵えをしてくれていた。ドーラとダンテも加わり、本格的に調理を始める。自分の誕生日の時もそうだったが、皆でわいわいお喋りをしながら、美味しいものを作るのは本当に楽しい。
ドーラと一緒に、魔導オーブンの前を陣取って、じわじわと膨れて焼き上がっていくニャーリルのジャムを入れたケーキを眺めていると、背中に軽いものが乗った。顔だけで振り返れば、ピエリーを頭に乗せたショーヘイだった。半分おんぶするみたいな形になっているショーヘイが、楽しそうに笑った。
「あとちょっとで焼きあがりますねー」
「ケーキが焼けるところって、全然見飽きないわ。楽しい」
「分かるなぁ。どんどん美味しそうな匂いがしてくるのもいいよねぇ」
「ダンテさん、分かってるぅ!」
「ははっ! ケーキが焼きあがる前に、出来上がった料理を運びましょうか」
「「はぁい」」
ダンテは楽しくて、小さく笑いながら、背中にくっついているショーヘイをおんぶした。
「うぉっ。おー。視界が高い。ダンテさん。いつも俺達を見下ろしてて、首痛くなりません?」
「大丈夫。ちょっと凝るくらいかな」
「あ、やっぱり? ちなみに、俺は万年肩凝りになりました。見上げるばっかりだからかなぁ」
「どうなんだろ。下ろすねー」
「はーい」
おんぶしていたショーヘイを下ろし、キレイに盛り付けされた料理を運ぼうとすると、女性陣の呆れたような顔が目に入った。
「ねぇ。ミミーナさん。この2人、本当に付き合ってないの?」
「付き合ってないのよねぇ。これが」
「距離感おかしくない? え? これ普通?」
「気にしちゃ駄目よ。そのうち、いい方向に転がるかもしれないから」
「そうするわ。さっ! お料理を運ばなきゃ!」
ダンテとショーヘイの距離感はおかしいのだろうか。割と普通だと思うのだが。ダンテは、首を傾げながら、ご馳走がのった皿を居間のテーブルに運んだ。
4人でわいわい喋りながら、皆で作った美味しい料理を楽しむ。ショーヘイが、とても嬉しそうで、ダンテとしても嬉しい。美味しいものがいっぱいで、笑顔もいっぱいで、本当に素敵な時間だと思う。
美味しいもので腹が膨れたら、いよいよプレゼントを渡す時間だ。ショーヘイに、赤いリボンをつけた小さな布袋を渡すと、照れくさそうに、でも嬉しそうに、ショーヘイが笑った。
「開けてみていいですか?」
「勿論。どうぞ。気に入ってもらえると嬉しいなぁ」
「おぉ!? これ、もしかして、ピエリーちゃんの牙ですか?」
「そう。飛竜は15年~20年に一度、歯が生え変わるんだ。前に生え変わった時の歯を取っておいたから、それでペンダントにしてみたんだ。飛竜の歯は、言わばお守りみたいなもので、幸福を運んできてくれるって言われてるんだよね」
「へぇー。ありがとうございます! ダンテさん。お守りなら、ずっと着けておこーっと」
ショーヘイが、早速、ペンダントを着けてくれた。ピエリーの牙を丈夫な革紐で括っただけのシンプルなものだが、お守りとしての価値は高い。ショーヘイに、いっぱい幸福が訪れるといい。
ドーラからは、手荒れの薬を、ミミーナからは、夏物のお洒落なシャツを貰って、ショーヘイはとても嬉しそうだった。
誕生日パーティーとは、とてもいいものである。12歳で離れで暮らすようになるまでは、ダンテも毎年誕生日パーティーをしてもらっていたが、こういう温かい手作り感のあるものではなく、誕生日にかこつけた貴族の社交パーティーだった。自分の誕生日パーティーが楽しかった覚えはない。でも、今はこんなにも楽しい。
ダンテは、ショーヘイが生まれてきてくれて、此方に来て、出会ってくれた幸福を神に感謝しつつ、ショーヘイ達とわいわい賑やかに喋りながら、後片付けまで楽しんだ。
数年前に抜けたピエリーの歯を、ペンダントに加工してみた。作り方を教えてくれた部下のビリニオに見せてみれば、よく出来ていると褒めてもらえた。毎日、仕事の休憩時間にコツコツ作業してきた。ショーヘイが喜んでくれたら嬉しい。
ダンテは、店で買っておいた小さな濃い緑色の布袋にペンダントを入れると、布袋の口を赤いリボンで結んだ。
大事に鞄に入れると、ちょうど昼休憩が終わる時間になっていた。明日は休みを取ってある。午後の訓練を終えたら、家に帰れる。
ダンテは、明日が楽しみで、ちょっと浮かれながら、ピエリーと一緒に訓練場へと向かった。
翌朝。ダンテは、ペロペロと顔を舐められる感覚で目覚めた。目を開ければ、ショーヘイの穏やかな寝顔が目に入る。ショーヘイは、今日が誕生日だから、少し朝寝坊させようと、ショーヘイよりも先に起こして欲しいとピエリーに頼んでおいた。
数日前に、職場で身体検査があり、ダンテはギリッギリ合格をもらえた。減量が無事に成功して、怒られずに済んだ。ショーヘイと一緒に寝る理由が無くなったのだが、ピエリーの『2人と一緒に寝たい!!』という強い希望により、未だに一緒に寝ている。ショーヘイは、ピエリーに甘いから、普通に快諾していた。
眠るショーヘイを起こさないように、静かにベッドから下りて、着替えを持って、階下の風呂場へと移動する。ざっとシャワーを浴びて眠気を飛ばすと、身支度を整えてから、庭に出る。アルモンを収穫して、裏の水道でアルモンを洗ってから、台所へと向かう。
手早く朝食を作ると、ダンテは二階の自室に向かった。部屋に入ると、ベッドの上では、ショーヘイがまだぐっすり寝ていた。ダンテは、ショーヘイを優しく揺さぶりながら、声をかけた。
「ショーヘイ。おはよう。朝だよ」
「んーー。ん? うん。ん?」
ショーヘイが目を開けて、半眼でダンテを見上げてきた。
「やべぇ。寝坊しました? 俺」
「今日は、ショーヘイは朝寝坊の日だから大丈夫。朝ご飯出来てるよ。シャワーを浴びておいで」
「ありがとうございまーす。でも、家政夫的にいいのかなぁ……」
「今日は誕生日だから特別」
「へへっ。ありがとうございます。よっと。汗かいてるから、シャワー浴びてきます」
「うん。その間に温めておくよ」
「いたれりつくせり~。ありがとうございます!」
ショーヘイが照れたように笑って、起き上がった。ダンテは、うとうとしていたピエリーも起こして、ピエリーを抱っこしたショーヘイと共に、階下に向かった。
少しだけ冷めた朝食を温め、居間のテーブルに運ぶと、髪が濡れたままの少しお洒落な服を着たショーヘイがやって来た。
風の魔法で、ショーヘイの髪を乾かすと、ショーヘイがキョトンとした後で、目を輝かせた。
「おぉー! すごい! 乾いてる! 今の魔法ですか!?」
「そうだよ」
「いいなー。便利ー。魔力はあるらしいけど、俺、使えないですし」
「まぁ、しょうがないね。魔法を使おうと思えば、治癒魔法士になるしかないからなぁ」
「この歳で勉強するのは嫌なんで、魔法を使うのは諦めてます」
「ははっ。さ、食べようか」
「はいっ!」
美味しそうに食べてくれるショーヘイにほっこりしながら朝食を終えると、ダンテは、ショーヘイと一緒に布団や洗濯物を干してから、ドーラを迎えに、神殿に向かった。
神殿の入り口で待ち構えていたドーラと合流して、軽やかな足取りのドーラと一緒に家に帰る。
家に帰り着くと、ミミーナが来ていた。ショーヘイと2人で、パーティーのご馳走の下拵えをしてくれていた。ドーラとダンテも加わり、本格的に調理を始める。自分の誕生日の時もそうだったが、皆でわいわいお喋りをしながら、美味しいものを作るのは本当に楽しい。
ドーラと一緒に、魔導オーブンの前を陣取って、じわじわと膨れて焼き上がっていくニャーリルのジャムを入れたケーキを眺めていると、背中に軽いものが乗った。顔だけで振り返れば、ピエリーを頭に乗せたショーヘイだった。半分おんぶするみたいな形になっているショーヘイが、楽しそうに笑った。
「あとちょっとで焼きあがりますねー」
「ケーキが焼けるところって、全然見飽きないわ。楽しい」
「分かるなぁ。どんどん美味しそうな匂いがしてくるのもいいよねぇ」
「ダンテさん、分かってるぅ!」
「ははっ! ケーキが焼きあがる前に、出来上がった料理を運びましょうか」
「「はぁい」」
ダンテは楽しくて、小さく笑いながら、背中にくっついているショーヘイをおんぶした。
「うぉっ。おー。視界が高い。ダンテさん。いつも俺達を見下ろしてて、首痛くなりません?」
「大丈夫。ちょっと凝るくらいかな」
「あ、やっぱり? ちなみに、俺は万年肩凝りになりました。見上げるばっかりだからかなぁ」
「どうなんだろ。下ろすねー」
「はーい」
おんぶしていたショーヘイを下ろし、キレイに盛り付けされた料理を運ぼうとすると、女性陣の呆れたような顔が目に入った。
「ねぇ。ミミーナさん。この2人、本当に付き合ってないの?」
「付き合ってないのよねぇ。これが」
「距離感おかしくない? え? これ普通?」
「気にしちゃ駄目よ。そのうち、いい方向に転がるかもしれないから」
「そうするわ。さっ! お料理を運ばなきゃ!」
ダンテとショーヘイの距離感はおかしいのだろうか。割と普通だと思うのだが。ダンテは、首を傾げながら、ご馳走がのった皿を居間のテーブルに運んだ。
4人でわいわい喋りながら、皆で作った美味しい料理を楽しむ。ショーヘイが、とても嬉しそうで、ダンテとしても嬉しい。美味しいものがいっぱいで、笑顔もいっぱいで、本当に素敵な時間だと思う。
美味しいもので腹が膨れたら、いよいよプレゼントを渡す時間だ。ショーヘイに、赤いリボンをつけた小さな布袋を渡すと、照れくさそうに、でも嬉しそうに、ショーヘイが笑った。
「開けてみていいですか?」
「勿論。どうぞ。気に入ってもらえると嬉しいなぁ」
「おぉ!? これ、もしかして、ピエリーちゃんの牙ですか?」
「そう。飛竜は15年~20年に一度、歯が生え変わるんだ。前に生え変わった時の歯を取っておいたから、それでペンダントにしてみたんだ。飛竜の歯は、言わばお守りみたいなもので、幸福を運んできてくれるって言われてるんだよね」
「へぇー。ありがとうございます! ダンテさん。お守りなら、ずっと着けておこーっと」
ショーヘイが、早速、ペンダントを着けてくれた。ピエリーの牙を丈夫な革紐で括っただけのシンプルなものだが、お守りとしての価値は高い。ショーヘイに、いっぱい幸福が訪れるといい。
ドーラからは、手荒れの薬を、ミミーナからは、夏物のお洒落なシャツを貰って、ショーヘイはとても嬉しそうだった。
誕生日パーティーとは、とてもいいものである。12歳で離れで暮らすようになるまでは、ダンテも毎年誕生日パーティーをしてもらっていたが、こういう温かい手作り感のあるものではなく、誕生日にかこつけた貴族の社交パーティーだった。自分の誕生日パーティーが楽しかった覚えはない。でも、今はこんなにも楽しい。
ダンテは、ショーヘイが生まれてきてくれて、此方に来て、出会ってくれた幸福を神に感謝しつつ、ショーヘイ達とわいわい賑やかに喋りながら、後片付けまで楽しんだ。
応援ありがとうございます!
137
お気に入りに追加
691
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる