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29:酔っ払い面倒くさい

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 年越しの日まで、あと2日。年を越したら、すぐに夏になる。祥平の誕生日も近い。ダンテの家の家政夫として働き始めて、もうすぐ1年だ。なんだか、あっという間に過ぎ去った気がする。

 今日は、ダンテは職場の飲み会なので、夕食は1人で食べた。今朝、出勤する時に、『減量中だから、あんまり飲み食いできない』と、ダンテがしょんぼりしていた。ダンテは、減量を頑張っており、この寒いのに、毎朝、汗だくになるまで、走って筋トレをしている。

 減量に伴い、ダンテと一緒に寝るようになったが、ダンテが温いので、いつもより早く寝付けて、祥平は、毎日快眠である。ピエリーの機嫌がずっといい。ショーヘイと寝るようになるまでは、生まれてからずっとダンテと寝ていたらしいので、やはり落ち着くのだろう。

 不思議と、ダンテと一緒に寝ることに抵抗は無かった。大学時代は、狭いアパートの部屋で飲み会をして、友達と雑魚寝していたので、多分、それと似たような感覚なのだと思う。祥平は酒を飲まなかったので、いつも酔っ払い達の世話をしていた。
 ダンテは、筋肉質な身体をしているからか、体温が高くて、湯たんぽにちょうどいい。この国には、湯たんぽが無いようで、冬になってから、寒くて、ちょっと寝付きが悪くなっていた。もう少し早く一緒に寝るようにすればよかったと思うくらい、ダンテと寝ると、快適に寝れる。

 今日は、ダンテは遅くなるそうなので、先に寝ていていいと言われている。自室で寝るか、ダンテの部屋で寝るか、ちょっと悩ましい。ピエリーがいる時は、ピエリーとずっと一緒に寝ているので、ピエリーがいないと、ちょっと落ち着かない。ダンテが帰ってくるまで、待つのもアリな気がしてきた。

 祥平は、風呂から上がると、いつも通り風呂掃除をしてから、居間で縫い物を始めた。だいぶマシにはなったが、未だに、真っ直ぐキレイに縫えない。己の不器用っぷりが残念極まりない。それでも、頑張って作ったハンカチをディータにあげたら、ディータがとても喜んでくれたので、やる気はある。今は、ダンテにあげるハンカチを作っているのだが、失敗作を量産している状態だ。せめて、ハンカチとして、まともに使えるものを渡したい。ダンテには、いつもとても世話になっているし、ダンテのお陰で、市井での暮らしに慣れてきたと思う。まだ、やりたい仕事は見つからないので、暫くはダンテの家で家政夫を続けるつもりだ。

 祥平が、温かいラーリオ茶を飲みながら、のんびりちくちく縫い物をしていると、日付が変わる少し前に、ダンテが帰ってきた気配がした。
 祥平は、縫い物セットを手早く片付けて、パタパタと玄関に向かった。

 玄関に行くと、顔が真っ赤になっているダンテが、にっこーと笑って、祥平に抱きついてきた。酒臭いし、汗臭いし、なんか臭い。


「ショーヘーイ。ただいまー」

「おかえりなさい。くっさい」

「あははは! ちょっとねー、飲み過ぎたかもー?」

「明らかに飲み過ぎですね。台所行きますよ。とりあえず、水飲んでください」

「お風呂入りたい」

「お風呂は明日で。そんだけ酔ってたら危ないです」

「ショーヘイと一緒に入ればいいよー」

「いや、俺はもう入ったんで」

「ショーヘイ。ショーヘイ。もうちょっと一緒に飲もうかー!」

「俺、下戸なんで」

「お腹空いたー! なんか食べたーい」

「……さては空飲みしたな? ダンテさん。飲む前に飯食いました?」

「食べてないよー。減量中だからね! 褒めてー!」

「はいはい。えらいえらーい。酔っ払い面倒くさいな。くっせぇし」


 祥平は、抱きついているダンテの腕の中で方向転換して、ダンテの腕を掴み、おんぶお化け状態のご機嫌過ぎるダンテを連れて、台所に向かった。
 ダンテをくっつけたまま、コップに水を注ぎ、ダンテに手渡すと、ダンテは、祥平にくっついたまま、水を一気飲みした。


「ぷはぁ。ショーヘイ。ショーヘイ。肉食べたい。にーくー。あと甘いの食べたい。ペッタがいいなぁ。ペッタ」

「はいはい。酔っ払いさん。今食べたら、確実に太りますよ。寝ますよー」

「えぇー。眠くないよー?」

「本当に面倒くせぇな。酔っ払い。はいはい。二階に行きますよ」

「はぁーい」


 祥平の頭に顎をのせて、ダンテがクスクス笑っている。頭に微かな振動が伝わってくる。祥平は、おんぶお化けのダンテを連れて、二階のダンテの部屋に移動した。


「はいはい。じゃあ、着替えますよー。くっせぇから」

「いやぁ! 私はまだ飲むよぉ!」

「はいはい。シャツ脱いでー。ブーツ脱いでー。ズボン脱いでー」

「あはははっ! なんか楽しいねぇ! ショーヘイ!」

「楽しいのはダンテさんだけですよー。はーい。寝間着着てー」


 酔っ払ってるダンテをなんとか寝間着に着替えさせると、『まだ寝ない』と子供みたいにぐずるダンテを、なんとか布団の中に潜り込ませた。
 祥平も布団の中に潜り込むと、ダンテに抱きしめられた。素直に臭い。


「酔っ払い、くっせぇ」

「あはははっ! ショーヘイはいい匂いがするー」

「そうですか。寝ろ」

「まだ眠くないよー!」

「いい子ですねー。ダンテさん。寝ろ」

「はぁーい」


 ダンテが、祥平の頭に顔を埋めて、すとんと寝落ちた。温かい寝息が頭にかかる。寝間着に着替えさせたが、酒臭いし、汗臭いし、なんか臭いしで、割と不快である。ピエリーも臭いのが嫌なのか、いつもは祥平とダンテの間で寝ているのに、今日は祥平の頭の向こうで寝るようだ。


「ピエリーちゃん。ダンテさん、臭いね」

「ぴるるっ!」

「ねー。明日は朝一でお風呂に入らせよう」

「ぴるるるっ」

「おやすみ。ピエリーちゃん」

「ぴるるっ」


 祥平は、くっさいが温いダンテに抱きしめられたまま、すとんと寝落ちた。

 翌朝。
 祥平がいつも通りの時間にピエリーに起こしてもらうと、ダンテはまだぐっすり寝ていた。一晩経っても素直に臭い。祥平は、もぞもぞとダンテの腕の中から抜け出して、ダンテの肩を掴んで、ゆさゆさと揺さぶった。


「ダンテさーん。朝ですよー。起きてくださーい。そして、お風呂に入ってください。くせぇから」

「う、うー? うん。うん」

「はいはい。起きて起きて」

「うぁー……あたま、いたい、きもちわるい……」

「二日酔いですね。空飲みするからですよ。つーか、飲み過ぎです」

「あーー……おはよう。ショーヘイ……」

「おはようございます。二日酔いの薬ってあります?」

「多分、薬箱の中にまだある」

「取ってきます」

「うん……」

「寝ないでくださいよー。ピエリーちゃん。見張ってて」

「ぴるるるっ!」


 祥平は、ベッドから下りて、薬箱が置いてある棚の前に移動した。薬箱を開けてみれば、『二日酔い用』と書かれた紙袋があった。階下の台所へ行き、水をコップに入れて、二階のダンテの部屋に戻ると、髪がボサボサのダンテが、起き上がって、ゆらゆら揺れていた。


「はい。薬飲んでください」

「……うん」

「朝飯は食えます?」

「……無理かなぁ」

「あーあ。本当に飲み過ぎですよ。お風呂入ってから、二日酔いがマシになるまで、寝ててください」

「……はい」


 二日酔いの薬を飲んだ、ぐらんぐらんしているダンテに手を貸して、洗濯済みの寝間着を片手に、風呂場へと向かう。ピエリーがパタパタと飛んでついてきたので、祥平は、ピエリーに声をかけた。


「ピエリーちゃん。お風呂で寝ないように見張ってて」

「ぴるるるっ!」


 結局、その日は、ダンテは昼過ぎまで動く屍のようだった。飲み過ぎはよくない。酔っ払いは面倒くさい。祥平は、今後、空飲みはするなと、ちょこっとだけダンテに説教をした。

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