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26:やり過ぎちゃった……
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冬華祭の翌々日。
今日までは、ダンテが休みだ。昨日は、ちょっと朝寝坊をさせてもらったので、今日は、いつもの時間にピエリーに起こしてもらった。ピエリーの腹に顔を埋めて、ぶふーっと息を吹きかけると、ピエリーが楽しそうにぴるるるっと鳴いた。
少しだけピエリーと遊んでから、普段着に着替えて、ピエリーを肩に乗せ、脱衣場にある洗面台に向かう。顔を洗って髭を整えると、いつものように庭に出た。
今朝も、白息が出る程寒い。ミミーナから貰ったガナータというポンチョみたいな上着が温かいが、早めに屋内に入りたいので、手早くアルモンを収穫する。アルモンには、漸く完全に慣れた。それでも、目? が合うと、ちょっと微妙な心境になる。家の裏の水道で収穫したアルモンを洗い、祥平は、台所へと向かった。
朝食を作り終えた頃に、髪がボサボサの寝間着姿のダンテが台所にやって来た。
「おはよう。ショーヘイ。ピエリー。お腹空いた」
「おはようございます。今朝は、ミミーナさん直伝のバーナンの卵つけ焼きですよー」
「いいねぇ。大好き。早く食べよう。運ぶの手伝うよ」
「はーい。お願いしまーす」
今日は、祥平は仕事の日だが、手伝ってくれるというのなら、ありがたく手伝ってもらう。バーナンの卵つけ焼きは、ピカタみたいなものだ。薄めに切ったバーナンに、ミーミルの実で下味をつけて、ナータの粉をまぶしてから、溶き卵をつけて焼くだけの簡単美味しい料理である。比較的最近習ったのだが、作るのに時間がかからないので、朝食の定番メニューの一つになってきた。
ダンテと一緒に居間のテーブルに朝食を運び、早速、食べ始める。祥平も、今日はバーナンの卵つけ焼きを一つだけ食べた。朝からもりもり美味しそうに食べるダンテは、見ていて気持ちがいい。本人曰く、いつも腹七分目にしか食べないらしいが、それでも祥平の三倍くらいは軽く食べる。
朝食を食べ終わり、食器を下げると、祥平は、新聞を取りに行った。居間で、食後のラーリオ茶を飲んでいるダンテに新聞を渡す。
ダンテの実家で初めて飲んだラーリオ茶は、ダンテが本当に取り寄せてくれた。隣国からの輸入商品を扱う店経由で、比較的安価なラーリオ茶を大量に買ってくれた。多分、向こう半年くらい、茶葉を買わなくて済む。
祥平が、朝食の後片付けをしに、台所へ行こうとしたら、『ぶっ!』と、ダンテがお茶を吹き出すような音が聞こえた。何事かとダンテを見れば、ダンテが、新聞を見つめて固まっていた。
「ダンテさん?」
「……ショーヘイ。どうやら私達は、防御力を上げ過ぎたみたいだ」
「はい? 防御力?」
「ほら」
ダンテが、新聞の一面を見せてきた。新聞の一面には、でかでかとした文字で、『神様からの贈り人・ショーヘイ様の熱愛発覚!』と書かれている。おまけに、いつの間に撮られたのか、ダンテが祥平を後ろから抱きしめている写真が載っていた。
祥平は、ピシッと固まり、パチパチパチパチと高速で瞬きをした。ざっと斜め読みすれば、しっかりダンテのことも詳細に書かれている。
祥平は、顔を引き攣らせて、ダンテを見た。
「なんっで! 新聞の一面になってんすかーー!!」
「あー……ほら。ショーヘイは『神様からの贈り人』だから、元々注目度が高いんだよねぇ」
「だからって、新聞の一面に載るなんてっ……ヤバい。俺もう普通に買い物とかできねぇっ!」
「だ、大丈夫? かな? 多分……多分……でも、私も明日仕事に行きたくないかも……」
「防御力上げ過ぎたっ!! まさか、こんな罠があるとはっ! ていうか、ダンテさんの情報詳し過ぎません?」
「あー。竜騎士って、数が少ないし、割と人気があるから」
「あぁ。竜騎士って響きだけで、もう格好いいですもんね」
「そうかな?」
「はい。えー。マジでどうしますー? これ。『実は恋人のフリでした!』って言えない感じになってません?」
「うーん。確かに? ショーヘイ。気になる女性はいる?」
「いないですね。今は生きるのに必死なんで、恋人つくったり、結婚する余裕なんて無いです。ダンテさんは?」
「私もいないよ。そもそも、あんまり恋愛自体に興味が薄くて。女性とお茶会とかするより、ショーヘイ達と街で食べ歩きする方が楽しいなぁ。ということで、ほとぼりが冷めるまで、対外的には恋人ってことにしておく?」
「それが無難ですかねぇ。もし、『実は恋人じゃないでーす!』とか言っちゃったら、どうなります?」
「多分だけど、ショーヘイと恋人になりたい人がわんさか押し寄せてくるね。特に貴族が」
「恋人で!! 暫くはダンテさんと恋人ということで!! 貴族の人を相手にすんのは心底嫌です!!」
「じゃあ、もう少し防御力を上げようかなぁ」
「と、言うと?」
「お互いの瞳の色のピアスとか? ピアスなら、ずっと着けてても邪魔にならないし」
「穴、開けるの、怖い」
「大丈夫。耳朶はそんなに痛くないらしいから。早速、今日のうちに買いに行こうか。穴は、私が開けるよ」
「うぉぉ……マジっすか……」
「この国では、恋人や夫婦が、揃いのピアスを着けるのが割と一般的なんだよね。多分、ピアスの石は、お互いの瞳の色なんじゃないかなぁ。既婚者は、基本的にピアスを着けてるよ」
「へぇー。あ、そういえば、ディータさんもピアス着けてますね。ちっこい石のやつ。あれ、奥さんの瞳の色なのかな?」
「この国では、神殿にいる神官も普通に結婚できるから、そうなんじゃないかなぁ。他国では、神官は結婚できない所もあるみたいだけど」
「へぇー。毎日、朝早くの出勤だから、奥さんが大変そうですよね」
「うーん。ご家庭によるんじゃない? ピアスを着けてたら、特定の相手がいるって一目で分かるから、防御力はかなり上がるかなぁ」
「うーん。仕方がないです。穴、開けます」
「できるだけ痛くないようにするよ」
「お願いしまーす。はぁー。朝から心臓に悪いもの見ちゃった」
「本当にね。ビックリだよ」
「とりあえず、後片付けしてきます」
「じゃあ、私は着替えたら、洗濯物を仕掛けておくよ。お昼ご飯は、買い物ついでに外で食べよう。もうそろそろ、ディーディーが美味しい頃だし」
「ディーディー」
「小さめの魚なんだけど、揚げて、パシュッタを絞って食べたら、すごく美味しいんだよ。ものすごく美味しい店があるんだ」
「おぉー。いいですね。じゃあ、サクッと家事を終わらせますか」
「うん」
祥平は、朝から疲れた気分になったが、昼食に美味しいものが食べられるということで、ちょこっと気分が上がった。ダンテの食いしん坊っぷりが、若干伝染している気がするが、美味しいものを食べると幸せな気分になるので、問題無い。
市場で売っているようだったら、ミミーナに作り方を教えてもらうのもアリかもしれない。ダンテが美味しいと言うものは、本当に何でも美味しい。多分、味覚の好みが近いのだろう。
祥平は、パタパタと動いて、手早く朝の家事を終わらせると、ダンテと一緒に家を出た。今日は、風が強い。冷たい風から逃げる為に、しれっとダンテにくっつくようにして、ダンテを風除けにする。
祥平は、更なる防御力アップアイテムを求めて、ダンテと一緒に装飾品専門店へと向かって、のんびり歩き始めた。
今日までは、ダンテが休みだ。昨日は、ちょっと朝寝坊をさせてもらったので、今日は、いつもの時間にピエリーに起こしてもらった。ピエリーの腹に顔を埋めて、ぶふーっと息を吹きかけると、ピエリーが楽しそうにぴるるるっと鳴いた。
少しだけピエリーと遊んでから、普段着に着替えて、ピエリーを肩に乗せ、脱衣場にある洗面台に向かう。顔を洗って髭を整えると、いつものように庭に出た。
今朝も、白息が出る程寒い。ミミーナから貰ったガナータというポンチョみたいな上着が温かいが、早めに屋内に入りたいので、手早くアルモンを収穫する。アルモンには、漸く完全に慣れた。それでも、目? が合うと、ちょっと微妙な心境になる。家の裏の水道で収穫したアルモンを洗い、祥平は、台所へと向かった。
朝食を作り終えた頃に、髪がボサボサの寝間着姿のダンテが台所にやって来た。
「おはよう。ショーヘイ。ピエリー。お腹空いた」
「おはようございます。今朝は、ミミーナさん直伝のバーナンの卵つけ焼きですよー」
「いいねぇ。大好き。早く食べよう。運ぶの手伝うよ」
「はーい。お願いしまーす」
今日は、祥平は仕事の日だが、手伝ってくれるというのなら、ありがたく手伝ってもらう。バーナンの卵つけ焼きは、ピカタみたいなものだ。薄めに切ったバーナンに、ミーミルの実で下味をつけて、ナータの粉をまぶしてから、溶き卵をつけて焼くだけの簡単美味しい料理である。比較的最近習ったのだが、作るのに時間がかからないので、朝食の定番メニューの一つになってきた。
ダンテと一緒に居間のテーブルに朝食を運び、早速、食べ始める。祥平も、今日はバーナンの卵つけ焼きを一つだけ食べた。朝からもりもり美味しそうに食べるダンテは、見ていて気持ちがいい。本人曰く、いつも腹七分目にしか食べないらしいが、それでも祥平の三倍くらいは軽く食べる。
朝食を食べ終わり、食器を下げると、祥平は、新聞を取りに行った。居間で、食後のラーリオ茶を飲んでいるダンテに新聞を渡す。
ダンテの実家で初めて飲んだラーリオ茶は、ダンテが本当に取り寄せてくれた。隣国からの輸入商品を扱う店経由で、比較的安価なラーリオ茶を大量に買ってくれた。多分、向こう半年くらい、茶葉を買わなくて済む。
祥平が、朝食の後片付けをしに、台所へ行こうとしたら、『ぶっ!』と、ダンテがお茶を吹き出すような音が聞こえた。何事かとダンテを見れば、ダンテが、新聞を見つめて固まっていた。
「ダンテさん?」
「……ショーヘイ。どうやら私達は、防御力を上げ過ぎたみたいだ」
「はい? 防御力?」
「ほら」
ダンテが、新聞の一面を見せてきた。新聞の一面には、でかでかとした文字で、『神様からの贈り人・ショーヘイ様の熱愛発覚!』と書かれている。おまけに、いつの間に撮られたのか、ダンテが祥平を後ろから抱きしめている写真が載っていた。
祥平は、ピシッと固まり、パチパチパチパチと高速で瞬きをした。ざっと斜め読みすれば、しっかりダンテのことも詳細に書かれている。
祥平は、顔を引き攣らせて、ダンテを見た。
「なんっで! 新聞の一面になってんすかーー!!」
「あー……ほら。ショーヘイは『神様からの贈り人』だから、元々注目度が高いんだよねぇ」
「だからって、新聞の一面に載るなんてっ……ヤバい。俺もう普通に買い物とかできねぇっ!」
「だ、大丈夫? かな? 多分……多分……でも、私も明日仕事に行きたくないかも……」
「防御力上げ過ぎたっ!! まさか、こんな罠があるとはっ! ていうか、ダンテさんの情報詳し過ぎません?」
「あー。竜騎士って、数が少ないし、割と人気があるから」
「あぁ。竜騎士って響きだけで、もう格好いいですもんね」
「そうかな?」
「はい。えー。マジでどうしますー? これ。『実は恋人のフリでした!』って言えない感じになってません?」
「うーん。確かに? ショーヘイ。気になる女性はいる?」
「いないですね。今は生きるのに必死なんで、恋人つくったり、結婚する余裕なんて無いです。ダンテさんは?」
「私もいないよ。そもそも、あんまり恋愛自体に興味が薄くて。女性とお茶会とかするより、ショーヘイ達と街で食べ歩きする方が楽しいなぁ。ということで、ほとぼりが冷めるまで、対外的には恋人ってことにしておく?」
「それが無難ですかねぇ。もし、『実は恋人じゃないでーす!』とか言っちゃったら、どうなります?」
「多分だけど、ショーヘイと恋人になりたい人がわんさか押し寄せてくるね。特に貴族が」
「恋人で!! 暫くはダンテさんと恋人ということで!! 貴族の人を相手にすんのは心底嫌です!!」
「じゃあ、もう少し防御力を上げようかなぁ」
「と、言うと?」
「お互いの瞳の色のピアスとか? ピアスなら、ずっと着けてても邪魔にならないし」
「穴、開けるの、怖い」
「大丈夫。耳朶はそんなに痛くないらしいから。早速、今日のうちに買いに行こうか。穴は、私が開けるよ」
「うぉぉ……マジっすか……」
「この国では、恋人や夫婦が、揃いのピアスを着けるのが割と一般的なんだよね。多分、ピアスの石は、お互いの瞳の色なんじゃないかなぁ。既婚者は、基本的にピアスを着けてるよ」
「へぇー。あ、そういえば、ディータさんもピアス着けてますね。ちっこい石のやつ。あれ、奥さんの瞳の色なのかな?」
「この国では、神殿にいる神官も普通に結婚できるから、そうなんじゃないかなぁ。他国では、神官は結婚できない所もあるみたいだけど」
「へぇー。毎日、朝早くの出勤だから、奥さんが大変そうですよね」
「うーん。ご家庭によるんじゃない? ピアスを着けてたら、特定の相手がいるって一目で分かるから、防御力はかなり上がるかなぁ」
「うーん。仕方がないです。穴、開けます」
「できるだけ痛くないようにするよ」
「お願いしまーす。はぁー。朝から心臓に悪いもの見ちゃった」
「本当にね。ビックリだよ」
「とりあえず、後片付けしてきます」
「じゃあ、私は着替えたら、洗濯物を仕掛けておくよ。お昼ご飯は、買い物ついでに外で食べよう。もうそろそろ、ディーディーが美味しい頃だし」
「ディーディー」
「小さめの魚なんだけど、揚げて、パシュッタを絞って食べたら、すごく美味しいんだよ。ものすごく美味しい店があるんだ」
「おぉー。いいですね。じゃあ、サクッと家事を終わらせますか」
「うん」
祥平は、朝から疲れた気分になったが、昼食に美味しいものが食べられるということで、ちょこっと気分が上がった。ダンテの食いしん坊っぷりが、若干伝染している気がするが、美味しいものを食べると幸せな気分になるので、問題無い。
市場で売っているようだったら、ミミーナに作り方を教えてもらうのもアリかもしれない。ダンテが美味しいと言うものは、本当に何でも美味しい。多分、味覚の好みが近いのだろう。
祥平は、パタパタと動いて、手早く朝の家事を終わらせると、ダンテと一緒に家を出た。今日は、風が強い。冷たい風から逃げる為に、しれっとダンテにくっつくようにして、ダンテを風除けにする。
祥平は、更なる防御力アップアイテムを求めて、ダンテと一緒に装飾品専門店へと向かって、のんびり歩き始めた。
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