上 下
25 / 78

25:一緒だと楽しい

しおりを挟む
 ダンテは、ショーヘイが差し出してくれた甘い飲み物を飲んだ。木のコップに二本のストローが刺してあるのだが、身長差が割とあるので、一緒に飲むのは少し辛い。ショーヘイが一口飲んだ後、腕を組んでいない方の手で口元まで運んでくれた。ティームにリーンと香草を入れた飲み物は、しっかり甘いのに後味がサッパリしていて、とても美味しい。
 ダンテは、機嫌よく目を細めながら、コップの半分くらいを一気飲みした。


「ぷはぁ。美味しいね。これ」

「ですねー。次は、魚か貝が食いたいです」

「いいね。探してみよう」


 腕を組んだまま、2人で屋台を眺めつつ歩いていると、バナンダの姿焼きが目に入った。確か、バナンダは、番になると、ずっと一緒にいて、一緒に子育てをするらしい。バナンダの姿焼きは、結婚式での定番メニューだ。
 ショーヘイに声をかけて、そこそこデカいバナンダの姿焼きを一つ買う。串に刺さっているバナンダをショーヘイの口元に差し出せば、ショーヘイが大きく口を開けて、齧りついた。もぐもぐ咀嚼しているショーヘイの目が、キラキラと輝く。


「うんまー。なんだろ。見た目は木の板に手足ついてますみたいな奇っ怪な感じなのに、味はタコ? イカ? みたいな? いや、タコとイカにホタテ追加したみたいな? とにかく美味いです」

「もう一口食べる?」

「食べます!」


 ショーヘイが、また大口を開けて、齧りついた。もぐもぐ咀嚼しているショーヘイはとても幸せそうだ。ダンテも大きく口を開けて齧りつき、もぐもぐと咀嚼した。バナンダは、兄達の結婚式の時にしか食べたことが無いのだが、とても美味しかった記憶があるので、食べられて嬉しい。実際、屋台で売られていたバナンダの姿焼きも、とても美味しい。美味しいものがいっぱいで、幸せである。バナンダの姿焼きに齧りついたピエリーも、とてもご機嫌である。

 パクパクとバナンダの姿焼きを食べきると、串を近くのゴミ箱に捨て、次の美味しいものを探しに行く。ショーヘイとピエリーとわちゃわちゃ喋りながら、美味しいものを食べるのが、本当に楽しい。ショーヘイは、普段は、そんなに表情が変わらないというか、表情の変化が控えめな方だが、今日はいつもよりも目がキラキラと輝いていて、楽しそうに笑っている。ショーヘイが楽しそうだと、ダンテも益々楽しくなってくる。

 ショーヘイは、やはり不思議な人だと思う。一緒にいるだけで、こんなにも楽しい。

 ダンテは、腕を組んだまま、ショーヘイの手を握り、指を絡めた。特に理由は無い。なんとなく、したくなっただけだ。繋いだ手は振りほどかれる事なく、ダンテは、次の美味しいものを探しに、ショーヘイと人混みの中をゆっくり歩いた。

 ちょっと食休みということで、今は露店を見て回っている。ドーラにとても似合いそうな髪飾りを見つけたので、ショーヘイと割り勘で買った。他にも、ドーラへのお土産にいいものがないかと、露店を見て回っていると、装飾品を扱う露店で、質のよさそうな小さな淡い水色の石がついた指輪を見つけた。指輪のデザインはシンプルだが、品がよくて、ちょっとお洒落をしたい時によさそうである。石が花の形にカットされているのが、とてもいい。
 ダンテは少し考えてから、ショーヘイに声をかけた。


「ショーヘイ。防御力をもうちょっと上げておく?」

「と、言うと?」

「この指輪、すごく素敵だから、お揃いでどうかなって。着けても邪魔にはならないデザインだし」

「お値段……え、高くないですか?」

「私が買うよ。初めての冬華祭記念ということで」

「なるほど。へぇー。石が花の形だ。可愛い。でも、俺に似合います?」

「似合うと思うよ。じゃあ、これを買おう」


 ダンテは、指輪を二つ買った。組んでいた腕を離して、ショーヘイの左手を手に取り、中指に指輪を嵌めてやる。魔法がかけられていると思わしき指輪は、しゅっとショーヘイの中指にピッタリになった。自分の左手の中指にも、指輪を嵌める。少し大きめだった指輪が、しゅっと自分の中指にピッタリになった。
 指輪を眺めてから、ショーヘイがダンテを見上げて、嬉しそうに、へらっと笑った。


「なんか楽しいですねぇ。たまには、こういうのもいいかも」

「そうだね。あ、ショーヘイ。あのブレスレット。ドーラちゃんに似合いそうじゃない?」

「あ、本当だ。可愛いー。お値段……お。よっしゃ! 割とリーズナブル。俺でも買えます!」

「これも割り勘で。どうせなら、服もあればいいのにね」

「服のサイズが分かんないですよ」

「あ、それもそうか。残念」

「服は、可愛いのを自作する予定です。何年かかるか、分かんないですけど」

「あはは。まぁ、気長にね」

「はい。そろそろ食べ歩き再開します?」

「うん。思ってたより、普段見かけないものが多いなぁ」

「そうなんですね。一年中、売ってくれればいいのに」

「本当にね」


 ダンテは、ショーヘイと顔を見合わせて、なんとなく笑ってから、再びショーヘイと腕を組み、手を繋いで、指を絡めた。

 日が暮れる頃まで、色んな屋台の食べ物を食べまくった。今日は、自分に甘くすると決めていたので、久々に満腹になった。満腹感がとても幸せである。

 ダンテは、昼間に来た三階建ての集合住宅の屋根の上で、ショーヘイを後ろからゆるく抱きしめて、夜空を見上げていた。王城で働く魔法使い達が、炎の花を夜空に沢山咲かせている。とても見応えがあって、本当にキレイだ。

 ショーヘイの頭に顎をのせて、明るい夜空を眺めていると、ショーヘイが上を向いて、ダンテを見て、へらっと笑った。


「めちゃくちゃキレイですね」

「うん。今まで、まともに見たことが無かったから、すごく新鮮」

「美味しいものがいっぱいあったし、来年も来たいですねー」

「うん。冬華祭限定の食べ物が、予想外にいっぱいだったしね。まさか、ここまで多いとは思ってなかったよ。久しぶりに満腹で幸せ」

「あははっ! 俺も満腹です。今寝たら絶対気持ちいいー」

「寝てもいいよ? おんぶするから」

「いやいや。お家に帰るまでがお祭りですから。美味しいものをいっぱい食べて、ドーラちゃんへのお土産もいっぱい買えたし、変な邪魔も無かったし、いい1日でした」

「防御力を上げといて正解だったね」

「ですねー。あ、終わったかな」

「終わったみたいだね。歩いて帰る? それとも飛ぶ?」

「飛ぶので! 飛ぶというか、飛び跳ねるって感じですけど。地味に楽しいです」

「ははっ。気に入ってもらってよかった。じゃあ、帰ろうか。明日はちょっとゆっくりめに起きて、午後から神殿に行こう。ドーラちゃんにお土産を渡さないとね」

「はい! ふふーっ。ドーラちゃん、多分、大喜びしてくれますね。日保ちするお菓子もいっぱいあってよかったです」

「あ、あの最初に食べたやつ。あれ、家でのおやつ用に買っておけばよかったな」

「あー。あの硬い細長い棍棒みたいな。美味しかったですもんねー」

「また来年食べればいいかな」

「はい。来年も来ましょうね。防御力上げ上げで」


 当たり前のように、来年の約束ができるのが、なんだかちょっと照れくさくて、でも、すごく嬉しい。不思議である。
 ダンテは、ショーヘイを子供のように抱き上げた。ショーヘイが、いつの間にか眠ったピエリーを抱っこしている。


「おや。ピエリー。寝ちゃったね」

「ピエリーちゃんも一緒にいっぱい食べてたからですかねー。可愛いー」

「ははっ。じゃあ、飛ぶよ。舌を噛まないように注意してね」

「はい」


 ダンテは、風の魔法で、ショーヘイを抱っこしたまま、高く飛び上がった。静かに、民家の屋根の上をぴょんぴょん飛んで、我が家へと向かう。

 玄関先に着地すると、ダンテは、ショーヘイを地面に下ろした。ショーヘイが小さく楽しそうに笑って、ダンテを見上げた。


「癖になりそうな楽しさです」

「寒くなかった?」

「少し? でも、ダンテさんが温かったから大丈夫です」

「それなら、よかった」

「お風呂の準備しますねー。ピエリーちゃんはどうしよう」

「寝かせといたら? 熟睡しちゃってるから」

「そうですね。明日は朝寝坊の日ということで。たまには、いいですよねー」

「うん」


 ダンテは、ショーヘイと顔を見合わせて笑って、家の中に入った。
 ショーヘイがパタパタと手早く風呂の準備をしてくれたので、先に風呂に入り、少しだけ、お気に入りの酒を飲んだ。

 ピエリーは今日もショーヘイと寝ている。ショーヘイと出会うまでは、いつも一緒に寝ていたので、少しだけ寂しいが、心地よい満腹感で、すぐに眠気が訪れる。
 ダンテは、なんとなく着けたままの指輪を撫でてから、柔らかい眠りに落ちた。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...