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23:防御力を上げよう!
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待ちに待った冬華祭の日がやって来た。数日前に帰ってきたダンテは、明後日まで休みである。
ミミーナから教えてもらって作った花飾りもちゃんと上手くできたし、準備万端である。
今日もピエリーに起こしてもらうと、祥平は、ご機嫌にピエリーを撫で回してから、いつもの服を着て、部屋を出た。脱衣場の洗面台で顔を洗って、やっとしっかり生え揃った髭を整えると、先に洗濯物を仕掛けてから、庭に出た。白息を吐きながら、アルモンを収穫して、アルモンを洗ってから、台所へ向かう。今日は、1日ひたすら食べ歩きをする予定なので、朝食は軽めにしておく。ナータの粥とアルモンのジュースを作り終えたら、居間のテーブルに朝食を運ぶ。
テーブルに朝食の皿を並べていると、髪がボサボサのダンテがやって来た。いつも通り、一緒に朝食を食べ、手早く後片付けをする。
早く出かけたいので、ダンテに手伝ってもらって、急いで洗濯物を干した。
ミミーナに見立ててもらった服を着て、肩掛け鞄に、財布と花飾りを入れて居間に行くと、普段着のダンテが、きょとんとした顔をした。
「あれ? 今日はお洒落だね。よく似合っているよ」
「ありがとうございます。なんか、今日は皆気合を入れてお洒落するから、普段着だと浮くらしいですよ」
「え。そうなんだ。じゃあ、私も着替えてくるよ」
「黒い服って持ってないですか?」
「え? コートなら、確か持ってたと思うけど」
「ミミーナさん曰く、お互いの髪や瞳の色のものを身に着けていると、防御力が上がるそうです」
「防御力」
「なんだっけ? えーと、お互いの色のものを身に着けていると、『お互いしか見えていない』みたいな意味があるとか? 熱烈に愛し合ってる恋人を演出するには、効果的らしいです」
「へぇー。そうなんだ。お揃いの花を着ければ大丈夫かと思ってた」
「なんか、『神様からの贈り人』の俺だと、ダンテさんが一緒でも、声をかけてくる猛者がいるかもしれないらしくて。防御力は上げるだけ上げときたいなって。ということで、お揃いのペンダントも用意してます」
「なるほど。ありがとう。私はこういう事には疎いから、本当に助かるよ」
「ダンテさんって、公爵家の六男じゃないですか。そういう勉強? みたいなのは無かったんですか?」
「んー。私は12歳で竜騎士になるって決めたから、貴族の子息が通う学園には行ってないんだよね。ピエリーを育てながら、家庭教師から必要な事を学んで、あとは、ずっとピエリーに乗る練習ばっかりしてたなぁ。社交界にも、あんまり出た事がないから、貴族の事に関しても、割と疎いんだよねぇ」
「へぇー。なるほど。今日は食べ歩きに専念したいし、変に声をかけられないように、防御力上げ上げで行きましょう!」
「そうだね。着替えてくるから、少し待ってて。あ、折角、お洒落な格好してるから、髪を少し弄らない? 私がするから」
「じゃあ、お願いします」
「うん。ちょっと待っててね」
ダンテが、おっとり笑って、居間から出ていった。祥平は、ピエリーを太腿に乗せ、ピエリーの小さな手を握って、右、左、右、左、と、ピエリーの手を振って、楽しそうなピエリーと遊びながら、ダンテが来るのを待った。
黒に近い濃い藍色の小洒落たシャツを着たダンテが、黒いコートを片手に居間にやって来た。いつもは下ろしている短めの前髪を上げていて、問答無用で格好いい。男前っぷりが、なんとも羨ましくなる。
ダンテが、椅子に座っている祥平に近寄ってきて、整髪剤で、祥平のちょっと伸びた前髪をオールバックに整えてくれた。髪を弄りながら、ダンテがおっとり笑った。
「ショーヘイは、おでこを出してる方がいいよ」
「そうですか? 毎朝、髪をセットするのは面倒だなぁ」
「お出かけの時は、私がするよ」
「えー。じゃあ、お願いします」
「ちょっと手を洗ってくるね」
「はい」
ダンテが手を洗いに行ったので、祥平は、鞄から、頑張って作った花飾りを取り出した。名前は知らないけれど、白い花びらがいっぱいで華やかな造花に、赤いリボンをつけて、ピンで服に着けられるようにしてある。目立つ胸のあたりに着けるのが一般的らしい。
ダンテが戻ってきたので、祥平は、黒いコートを着たダンテの胸元に、花飾りを着けた。濃い茶色のコートを着て、自分の胸元にも花飾りを着ける。耳には、ダンテの瞳の色に近い石がついたイヤリングもしているし、防御力はそれなりに上がった筈だ。
準備ができたので、早速、出かける為に玄関に向かう。祥平が、玄関のドアの鍵を閉めていると、ダンテがぽんと手を打った。
「ショーヘイ。防御力を上げるなら、とことん上げていこう」
「と、言うと?」
「腕を組むか、手を繋げばいいんじゃない?」
「なるほど。どっちが食べやすいですかね」
「んー。どうだろう? 多分、かなり人が多いから、腕を組んでくっついていた方が、はぐれたりはしないと思うけど」
「なるほど。確かに。ダンテさんとはぐれたら困りますね」
「はぐれても、ピエリーが一緒だから、すぐに見つけられるけどね。どうせなら、いっぱい色んな種類のものを食べたいし、ショーヘイは、私が買ったものをちょっと食べるようにする?」
「それで! ダンテさんがいいなら、回し食いがいいです! 屋台で売ってるやつも、俺の胃袋にはデカ過ぎるんですよ」
「じゃあ、そういうことで。今日だけは、自分を甘やかす方向でいこうかなぁ。部下に聞いたんだけど、冬華祭限定の食べ物が、結構あるみたいなんだよね」
「今日はとことん、がっつりいきましょう。がっつり!」
「うん。じゃあ、行こうか。お昼前にね、竜騎士のちょっとした飛行ショーもあるよ」
「へぇー。めちゃくちゃ見たいです。飛竜が飛んでるところは、まだ見たことが無いんで。ちっちゃいピエリーちゃんくらいかなぁ。飛んでるとこを見たことがあるの」
「じゃあ、その時は、ちょっと高い所に行こうか。高い所は大丈夫?」
「平気ですけど、街中に高い所なんてあります?」
「適当な民家の屋根に移動すればいいよ。二階建ての」
「それやって大丈夫なんですか」
「多分? 怒られたら謝ればいいんじゃない?」
「まぁ、いっか。楽しそうだし。じゃあ、防御力も上げ上げになったし、行きますか!」
「うん。楽しみー。もうお腹空いてるよ」
「がっつり食いましょう。がっつり」
「うん」
祥平は、ダンテの腕に自分の腕を絡めて、ダンテにピッタリくっついた。今日もかなり寒いので、服越しに伝わるダンテの体温が温かくて、割と心地いい。肩に乗ったピエリーが、すりすりと祥平に頬擦りしてきたので、祥平は、ピエリーを優しく撫でた。
「ピエリーちゃんも一緒にいっぱい食べようね」
「ぴるるるっ!」
祥平は、ダンテと腕を組んだまま、イベントのメイン会場である中央広場へ向かって歩き始めた。
ダンテとは、足の長さがそれなりに違うので、当然歩幅が違うのだが、ダンテは、一緒に歩く時は、いつも祥平の歩みに合わせてくれる。2人でくっついて歩いていると、恋人同士っぽい男女や、たまに、手を繋いだりしている男同士や女同士を見かけ始めた。皆、揃いの花飾りを胸に着けている。
ダンテと腕を組んで寄り添って歩いていると、いつもより視線を感じるが、全力でスルーする。防御力は、上げられるだけ上げてきた。これで、誰にも邪魔されることなく、思う存分、食い倒れツアーができる筈だ。ドーラにも、沢山お土産を買わなきゃいけない。
祥平は、ワクワクしながら、ダンテと一緒に人混みを歩いた。
ミミーナから教えてもらって作った花飾りもちゃんと上手くできたし、準備万端である。
今日もピエリーに起こしてもらうと、祥平は、ご機嫌にピエリーを撫で回してから、いつもの服を着て、部屋を出た。脱衣場の洗面台で顔を洗って、やっとしっかり生え揃った髭を整えると、先に洗濯物を仕掛けてから、庭に出た。白息を吐きながら、アルモンを収穫して、アルモンを洗ってから、台所へ向かう。今日は、1日ひたすら食べ歩きをする予定なので、朝食は軽めにしておく。ナータの粥とアルモンのジュースを作り終えたら、居間のテーブルに朝食を運ぶ。
テーブルに朝食の皿を並べていると、髪がボサボサのダンテがやって来た。いつも通り、一緒に朝食を食べ、手早く後片付けをする。
早く出かけたいので、ダンテに手伝ってもらって、急いで洗濯物を干した。
ミミーナに見立ててもらった服を着て、肩掛け鞄に、財布と花飾りを入れて居間に行くと、普段着のダンテが、きょとんとした顔をした。
「あれ? 今日はお洒落だね。よく似合っているよ」
「ありがとうございます。なんか、今日は皆気合を入れてお洒落するから、普段着だと浮くらしいですよ」
「え。そうなんだ。じゃあ、私も着替えてくるよ」
「黒い服って持ってないですか?」
「え? コートなら、確か持ってたと思うけど」
「ミミーナさん曰く、お互いの髪や瞳の色のものを身に着けていると、防御力が上がるそうです」
「防御力」
「なんだっけ? えーと、お互いの色のものを身に着けていると、『お互いしか見えていない』みたいな意味があるとか? 熱烈に愛し合ってる恋人を演出するには、効果的らしいです」
「へぇー。そうなんだ。お揃いの花を着ければ大丈夫かと思ってた」
「なんか、『神様からの贈り人』の俺だと、ダンテさんが一緒でも、声をかけてくる猛者がいるかもしれないらしくて。防御力は上げるだけ上げときたいなって。ということで、お揃いのペンダントも用意してます」
「なるほど。ありがとう。私はこういう事には疎いから、本当に助かるよ」
「ダンテさんって、公爵家の六男じゃないですか。そういう勉強? みたいなのは無かったんですか?」
「んー。私は12歳で竜騎士になるって決めたから、貴族の子息が通う学園には行ってないんだよね。ピエリーを育てながら、家庭教師から必要な事を学んで、あとは、ずっとピエリーに乗る練習ばっかりしてたなぁ。社交界にも、あんまり出た事がないから、貴族の事に関しても、割と疎いんだよねぇ」
「へぇー。なるほど。今日は食べ歩きに専念したいし、変に声をかけられないように、防御力上げ上げで行きましょう!」
「そうだね。着替えてくるから、少し待ってて。あ、折角、お洒落な格好してるから、髪を少し弄らない? 私がするから」
「じゃあ、お願いします」
「うん。ちょっと待っててね」
ダンテが、おっとり笑って、居間から出ていった。祥平は、ピエリーを太腿に乗せ、ピエリーの小さな手を握って、右、左、右、左、と、ピエリーの手を振って、楽しそうなピエリーと遊びながら、ダンテが来るのを待った。
黒に近い濃い藍色の小洒落たシャツを着たダンテが、黒いコートを片手に居間にやって来た。いつもは下ろしている短めの前髪を上げていて、問答無用で格好いい。男前っぷりが、なんとも羨ましくなる。
ダンテが、椅子に座っている祥平に近寄ってきて、整髪剤で、祥平のちょっと伸びた前髪をオールバックに整えてくれた。髪を弄りながら、ダンテがおっとり笑った。
「ショーヘイは、おでこを出してる方がいいよ」
「そうですか? 毎朝、髪をセットするのは面倒だなぁ」
「お出かけの時は、私がするよ」
「えー。じゃあ、お願いします」
「ちょっと手を洗ってくるね」
「はい」
ダンテが手を洗いに行ったので、祥平は、鞄から、頑張って作った花飾りを取り出した。名前は知らないけれど、白い花びらがいっぱいで華やかな造花に、赤いリボンをつけて、ピンで服に着けられるようにしてある。目立つ胸のあたりに着けるのが一般的らしい。
ダンテが戻ってきたので、祥平は、黒いコートを着たダンテの胸元に、花飾りを着けた。濃い茶色のコートを着て、自分の胸元にも花飾りを着ける。耳には、ダンテの瞳の色に近い石がついたイヤリングもしているし、防御力はそれなりに上がった筈だ。
準備ができたので、早速、出かける為に玄関に向かう。祥平が、玄関のドアの鍵を閉めていると、ダンテがぽんと手を打った。
「ショーヘイ。防御力を上げるなら、とことん上げていこう」
「と、言うと?」
「腕を組むか、手を繋げばいいんじゃない?」
「なるほど。どっちが食べやすいですかね」
「んー。どうだろう? 多分、かなり人が多いから、腕を組んでくっついていた方が、はぐれたりはしないと思うけど」
「なるほど。確かに。ダンテさんとはぐれたら困りますね」
「はぐれても、ピエリーが一緒だから、すぐに見つけられるけどね。どうせなら、いっぱい色んな種類のものを食べたいし、ショーヘイは、私が買ったものをちょっと食べるようにする?」
「それで! ダンテさんがいいなら、回し食いがいいです! 屋台で売ってるやつも、俺の胃袋にはデカ過ぎるんですよ」
「じゃあ、そういうことで。今日だけは、自分を甘やかす方向でいこうかなぁ。部下に聞いたんだけど、冬華祭限定の食べ物が、結構あるみたいなんだよね」
「今日はとことん、がっつりいきましょう。がっつり!」
「うん。じゃあ、行こうか。お昼前にね、竜騎士のちょっとした飛行ショーもあるよ」
「へぇー。めちゃくちゃ見たいです。飛竜が飛んでるところは、まだ見たことが無いんで。ちっちゃいピエリーちゃんくらいかなぁ。飛んでるとこを見たことがあるの」
「じゃあ、その時は、ちょっと高い所に行こうか。高い所は大丈夫?」
「平気ですけど、街中に高い所なんてあります?」
「適当な民家の屋根に移動すればいいよ。二階建ての」
「それやって大丈夫なんですか」
「多分? 怒られたら謝ればいいんじゃない?」
「まぁ、いっか。楽しそうだし。じゃあ、防御力も上げ上げになったし、行きますか!」
「うん。楽しみー。もうお腹空いてるよ」
「がっつり食いましょう。がっつり」
「うん」
祥平は、ダンテの腕に自分の腕を絡めて、ダンテにピッタリくっついた。今日もかなり寒いので、服越しに伝わるダンテの体温が温かくて、割と心地いい。肩に乗ったピエリーが、すりすりと祥平に頬擦りしてきたので、祥平は、ピエリーを優しく撫でた。
「ピエリーちゃんも一緒にいっぱい食べようね」
「ぴるるるっ!」
祥平は、ダンテと腕を組んだまま、イベントのメイン会場である中央広場へ向かって歩き始めた。
ダンテとは、足の長さがそれなりに違うので、当然歩幅が違うのだが、ダンテは、一緒に歩く時は、いつも祥平の歩みに合わせてくれる。2人でくっついて歩いていると、恋人同士っぽい男女や、たまに、手を繋いだりしている男同士や女同士を見かけ始めた。皆、揃いの花飾りを胸に着けている。
ダンテと腕を組んで寄り添って歩いていると、いつもより視線を感じるが、全力でスルーする。防御力は、上げられるだけ上げてきた。これで、誰にも邪魔されることなく、思う存分、食い倒れツアーができる筈だ。ドーラにも、沢山お土産を買わなきゃいけない。
祥平は、ワクワクしながら、ダンテと一緒に人混みを歩いた。
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