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22:楽しい準備

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 今日は、朝からミミーナとお買い物である。気合でなんとか早めに起きて、ガーッと家のことをしてから、祥平は、そわそわしながら、ミミーナがやって来るのを待った。

 ミミーナがやって来ると、早速、服を買いに行く。祥平は、いつもは、ゆるめの淡い色合いの無地のシャツと、白や黒の飾り気のないズボンばかりを穿いている。コートは、ダンテが買ってくれたので、ちょっとお洒落な感じのやつだ。
 ミミーナと服屋に向かいながら、祥平は、ふと思った。


「ミミーナさん。どうせ寒いからコートを着るし、お洒落しても意味が無いんじゃないですか?」

「やぁねぇ。お洒落は見えないところからよ。それに、ズボンや靴は見えるじゃない」

「まぁ、そうですね」

「ということで、まずは下着からね!」

「なんで!?」

「言ったでしょう? お洒落は見えないところからよ! 気合入れて選ぶわよー! うふふ。亡くなった主人の服を選んでた頃を思い出すわー。あの人、本当にすごく優しかったけど、壊滅的にダサかったから、私がいつも服を選んでいたの」

「なるほど?」


 なにやら燃えているミミーナと一緒に、祥平は、値段がやや高いけれどお洒落な服を扱っている店に入った。
 時間をかけて、ミミーナが選んだものは、上は、バンドカラーシャツみたいな形の濃い緑色のシャツに、下は、黒い細身のズボンだった。シャツの襟元や袖口には、淡い黄緑色の糸で刺繍が施してある。ズボンも裾のあたりに濃いめの緑色の糸で刺繍が施されていた。試着してみれば、厚めの布地なので、割と温かい。靴は、茶褐色のショートブーツに近い形のものだ。
 全部試着した祥平を上から下まで眺めて、ミミーナが満足そうに笑った。


「よく似合ってるわー。いつものゆるめの服より、身体に合った服の方がシュッとして見えていいわねぇ。旦那様の髪色に近いシャツが見つかって、本当によかったわ!」

「なんか意味でもあるんですか?」

「お相手の髪色や瞳の色のものを身に纏うと、『私は貴方だけのものです』って意味があるのよ」

「……あ。そういえば、ダンテさんのお祖父ちゃんがニー先生に贈った服も、ダンテさんの髪色に似てましたね。俺も似たような色の服を用意されたけど、もしかして、服屋さんの人、勘違いしてたのかな?」

「きっと、ご自分の本来の髪色に近い色の服を贈ったのでしょうね。旦那様は、何色の服を選ばれたの?」

「服屋さんの人が、黒いやつを選んでました」

「あらぁ! じゃあ、やっぱり勘違いされてたのかもしれないわね。お互いの色を纏って一緒に出かけると、『お互いしか見えていない』って意味ですもの」

「へぇー。で、何故にミミーナさんは、俺にダンテさんの色を着せるんですか?」

「あら。恋人のフリをするのでしょう? ショーヘイは『神様からの贈り人』だから、がっつり恋人アピールしとかないと、旦那様がいても声をかけられかねないわ」

「おぉう……一種の魔除けかぁ。ミミーナさん。もうちょい防御力上げられます?」

「そうね。旦那様の瞳の色の耳飾りを買いましょう。穴が開いてなくても着けられるやつがいいわね。穴を開けてもいいけれど」

「穴を開けるのは怖いんで、無しでお願いします」

「分かったわ。さっ! 耳飾りを探すわよ! お揃いのペンダントも効果があるから、それも見てみましょう! 熱烈に愛し合っている恋人を演出しなくっちゃ!」

「あ、はい。……えーと、お願いしまーす」


 祥平は、ミミーナの熱意に圧倒されながら、ミミーナと一緒に装飾品を時間をかけて選んで、ダンテの瞳の色っぽい石がついた耳飾りと、揃いのシンプルなシルバーアクセサリーみたいなペンダントを買った。財布がかなり軽くなった。

 花飾り用の造花や飾りつけ用の小物を買い、昼食を安くて美味しい飲食店で食べてから、ミミーナの知り合いの工房へと向かった。ミミーナの知り合いの初老の男は、快くマグカップ作りに協力してくれることになった。実にありがたい。

 花飾りは、後日作るということになり、この日は、初めてミミーナの家で夕食を食べた。ミミーナの家族も、ミミーナと同様、とても温かい人達だった。いつか憧れていた温かい一家団欒の風景が、そこにはあった。

 ミミーナと買い物に行った数日後。
 今日は、ドーラが休みの日なので、ミミーナと一緒に、ドーラと誕生日パーティーの打ち合わせをする予定だ。

 洗濯物を干し終えた頃にやって来たミミーナと一緒に、2人で考えてみたメニューの材料を買って、神殿に向かう。

 神殿のドーラの部屋に着き、部屋のドアをノックすると、すぐにドーラが顔を出し、パァッと顔を輝かせた。


「おはよう! ショーヘイ! そっちの人は、もしかしてミミーナさん?」

「おはよう。ドーラちゃん。こちら、俺の師匠のミミーナさんです」

「あらあら。師匠だなんて。はじめまして。ドーラ様。ミミーナと申します」

「ドーラです! あの、『様』ってつけられると、お尻がむずむずするから、呼び捨てか『ドーラちゃん』がいいわ。あと、ショーヘイに話すみたいに、普通に喋ってくれると嬉しいな」

「あら。では、ドーラちゃんと呼ばせてもらうわね。ショーヘイから話には聞いていたけれど、本当に可愛らしいお嬢さんねぇ。今日はね、材料を色々持ってきたの。一緒にパーティーのメニューを考えて、試作してみましょう?」

「わぁ! やった! やる! やりたい! あ、ショーヘイ」

「ん?」

「ダンテさんへのプレゼントは決まった?」

「うん。マグカップを作る予定」

「あ、よかった。被らないわね。まぁ、被る可能性は低かったけど」

「ドーラちゃんは何をプレゼントするの?」

「傷薬の軟膏。キリバさんに相談してみたら、作り方を教えてくれるって。私でも作れるみたいだから、挑戦してみるの!」

「あらあら。実用的で素晴らしいわ。旦那様がお喜びになるわねぇ」

「えへへ。じゃあ、早速、台所に行きましょうよ!」

「うん。立食パーティーにしたら楽しいかなって、ミミーナさんと話してて。どうかな?」

「いいわね! こう……一皿に大盛りどーん! じゃなくて、ちょこちょこ色んなものを摘める方が楽しいわ! 何種類もの料理をいっぱい食べられるし!」

「えぇえぇ。一応ね、候補を考えてきたのだけど、ドーラちゃんもいいアイデアを思いついたら、どんどん教えてちょうだい」

「まっかせて!」


 ドーラが楽しそうに、ニッと笑った。ミミーナも、とても楽しそうに笑っている。祥平も、今からすごくワクワクして、自然と笑っていた。

 台所に移動して、早速、パーティーメニューの試作品を作り始める。ミミーナが主体になって、とりあえず、五種類程作ってみた。ミミーナ作の料理を食べたドーラが、満面の笑みを浮かべた。


「おーいしーい! 全部美味しい!!」

「だろー? ミミーナさん、すげぇよな」

「うふふ。ありがとう。2人とも。ちょっと照れるわー」

「あ、ねぇ。甘いものも欲しいじゃない? ペッタでカナッペみたいなものを作れないかしら。ペッタが甘いから、上に……なんだっけ? あの、モッツァレラチーズみたいな味の……」

「パンタリかな」

「多分それ! パンタリと甘酸っぱいジャムをのっけてみるとか!」

「あら! 斬新で面白いわね! ハンナナのジャムは持ってきてるし、ペッタの材料も、パンタリもあるから、試してみましょう」

「ハルハルを一口大の器にして、ポテサラもどきをのせるのもありかも?」

「ショーヘイ! 天才! 見た目もお洒落だわ!」

「お野菜を器にするなんて、面白い発想ねぇ。それも試してみましょう。ふふっ。楽しくなってきたわね!」

「ダンテさんがビックリして喜ぶ楽しいパーティーにしたいわ!」

「まだ日はあるし、3人で頑張りましょうね!」

「「はぁい」」


 冬華祭とダンテの誕生日パーティーの楽しい準備は、少しずつ順調に進んでいった。
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