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14:看病

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 ミミーナに習いながら、消化のいい栄養価が高い料理を作ると、ミミーナが心配そうな顔のまま、帰っていった。ミミーナに、病人の看病については聞いてあるが、若干不安である。

 祥平は、ミミーナを玄関の所で見送ると、バタバタと急いでダンテの部屋に向かった。
 ダンテの部屋のドアを静かに開け、できるだけ静かにベッドに近寄ると、ダンテは荒い息を吐きながら、まだ眠っていた。少し前に拭ったばかりなのに、もう汗がだらだら流れている。どうやら、かなり熱が高いみたいだ。ダンテの頬に触れてみれば、とても熱い。
 祥平は、ダンテの額にのせていた濡れタオルを取ると、冷たい桶の水に浸して、きつく絞ってから、ダンテの顔を優しく拭い始めた。

 ダンテの顔を拭いていると、ダンテがゆっくりと目を開けた。


「ダンテさん!? 大丈夫ですか!?」

「…………お腹空いた」

「……へ?」


 ほんの微かに、ぐぎゅるるる……と音が聞こえた。ピエリーの鳴き声ではない。まさか、ダンテの腹の音だろうか。
 祥平が呆気にとられていると、のろのろとダンテが起き上がった。ぼんやりとした顔で、ダンテが元気のない声で呟いた。


「お腹、空いた」

「……す、すぐに持ってきます! あっ! 先にこれ飲んでてください!」

「うん」


 祥平は慌てて、冷めたリーン入りのティームが入ったマグカップを手渡した。ダンテが一気に飲み干したので、今度はグラスに水を注いで、ダンテに手渡す。


「キュミールの粥で大丈夫ですか?」

「あー。んー。肉、食べたい。辛めのやつ」

「肉なんか食って大丈夫なんですか?」

「うん。いっぱい食べて、寝れば大丈夫」

「じゃあ、とりあえず先にキュミールの粥を持ってきます」

「いや、居間に行くよ」

「えー。動けます? 流石に俺では背負えませんよ?」

「ふわふわしてるけど、大丈夫。多分」

「んーーーー。その言葉を信じますからね! 手を貸します。無いよりマシでしょ」

「ありがとう」


 ダンテが、ゆるく笑った。ベッドから下りたダンテに手を貸して、ゆっくり移動して、階下の居間に向かう。ダンテは、ふわふわゆらゆらしていたが、一応自力で歩けた。

 先にトイレに連れていき、ダンテを居間の椅子に座らせて、ミミーナから貰った膝掛けをダンテの肩にかけると、祥平は、急いで台所に向かった。先に、ミミーナと一緒に作ったキュミールの粥を温めて、皿に盛る。ティームを温めて、リーンをたっぷり入れてから、マグカップに注いだ。急いで居間のテーブルに運べば、ダンテがガツガツと食べ始めた。キュミールの粥は、あっという間に無くなった。


「なんか余計お腹空いた」

「肉焼いてきます!」

「うん」


 祥平は、バタバタと台所へ向かって、大急ぎでガルーのステーキを作った。ついでに、野菜たっぷりのスープも仕込む。野菜が柔らかく煮上がるより先に、ガルーのステーキが出来上がったので、付け添えは無いが、とりあえず居間に運んだ。
 ガルーのステーキも、ダンテが大口を開けて、バクバクとすぐに食べきった。


「お代わり」

「すぐに焼いてきます!」

「あ、二枚欲しいなぁ」

「そんなに食って大丈夫なんですか?」

「うん。普段は控えめに食べてるけど、今はとにかくお腹空いてるから」

「りょーかいです! すぐ焼いてきます!」


 祥平は、バタバタと台所へ移動して、ガルーのステーキを二枚焼いた。野菜スープもいい感じになっていたので、今度は野菜スープも一緒に居間のテーブルに運ぶ。

 結局、ダンテは、買っておいた六人前くらいのガルーを全て食べきり、ホロホロ鳥を焼いたやつまでガッツリ食べた。こんなに食べて本当に大丈夫なのかと不安になるくらい食べた。

 ぼんやりした顔のダンテが、満足そうにティームを飲んでいる。


「いっぱい食べて、いっぱい寝たら、熱も下がるよ」

「明日の朝も、ガッツリの方がいいですか?」

「うん。こういう時くらいは、お腹いっぱい食べたいよね」

「そういうもんですか。わっかりました! 明日もガッツリ作ります!」

「お願いします。手を貸してもらっていい? 寝落ちそう」

「はい」


 ダンテが椅子から立ち上がったので、祥平は、ダンテの大きな手を握った。ふわふわした足取りのダンテとゆっくり歩いて、ダンテの部屋に向かう。辛めの味付けの肉を食べて、食前よりも汗をかいている。祥平は、ダンテをベッドに座らせると、急いで衣装箪笥から新しい寝間着と下着を取り出した。
 今にも寝落ちそうな顔をしているダンテに頑張ってもらって、下着と寝間着を着替えさせると、ダンテがころんとベッドに寝転がり、そのまま、すぐに寝息を立て始めた。祥平は、ダンテにしっかり布団をかけてやると、ダンテが脱いだ服と、置きっぱなしのお盆を持って、急いで階下に向かった。

 汗ぐっちょりな服を洗濯籠に放り込み、台所の戸棚で見つけた水差しに、水をいっぱい入れる。グラスと一緒にお盆にのせ、ダンテの部屋に運んだ。

 そぅーと眠るダンテの額に触れれば、かなり熱い。本当にあんなに食いまくって大丈夫なんだろうか。祥平は、汗で濡れたダンテの顔をひんやりした濡れタオルで拭ってやると、ゆるく絞った冷たい濡れタオルをダンテの額にのせた。

 なんだか、心配で、不安で、眠る気が起きない。祥平は、書き物机の椅子をベッドの側に運ぶと、椅子に座って、じっとダンテの寝顔を眺めた。時折、顔の汗を拭いてやり、額の濡れタオルを替えてやる。祥平は、なんとなくそわそわと落ち着かないまま、朝を迎えた。

 慌ただしく、ガッツリ肉祭りな朝食を作り上げ、ダンテの部屋に行くと、ダンテがのろのろと起き上がって、自分の腹を擦った。


「お腹空いた……」

「朝飯できてますよ。肉祭りにしたけど、大丈夫ですか?」

「やった。先にトイレに行くから、手を貸してもらっていいかな」

「勿論です」


 祥平は、ベッドから下りたダンテに手を貸して、先にトイレに向かった。
 ダンテは、正直作り過ぎだろ……と思った朝食を、全部キレイに完食した。熱冷ましの薬を飲むと、ダンテが大きな欠伸をした。


「お風呂入りたい」

「熱あるのに入って大丈夫なんですか?」

「さあ? 多分」

「えーー。んーーーー。風呂は、一応ミミーナさんが来て、許可をもらってからにしてください。とりあえず、俺が身体を拭くんで」

「じゃあ、お願いするよ」

「準備するんで、部屋で待っててください。……あっ! やっぱ、俺の部屋で! めちゃくちゃ汗かいてるから、多分布団がじっとりしてますよね。今日は俺の部屋で寝ててください」

「うん。ん? ショーヘイはどこで寝るの?」

「俺は、昼間は寝ませんよ。今から布団干したら、多分、夕方には乾くと思うんで、夜は自分の部屋で寝てください」

「うん」

 祥平の部屋は、一階の物置部屋の隣である。住み始めると決まった時に、二階の客室をすすめられたが、全力で断った。泊まりのお客さんが来た時が困るし、客室というだけあって、家具とか立派で、落ち着かないのが分かりきっていたからだ。一階に、使用人用らしき部屋があったので、そこを使わせてもらっている。客室で寝てもらおうかと思ったが、布団を暫く干していないので、祥平のベッドの方がまだマシだ。

 大急ぎでお湯を沸かして、ちょっと大きめの盥にぬるま湯を入れると、祥平の部屋で、ダンテの身体を拭いてやった。ダンテに股間を自分で拭かせている間に、バタバタと走ってダンテの部屋に行き、替えの寝間着と下着を取り、バタバタと走って自室に戻った。

 着替えたダンテを祥平のベッドに寝かせると、いつでも水を飲めるように、水差しとグラスを祥平の部屋に運んだ。
 大急ぎでダンテの布団を庭に干し、洗濯を仕掛けていると、ミミーナがやって来た。ミミーナに、ダンテの様子を話し、魔導冷蔵庫にもう肉が無いことを話すと、ミミーナがなんだか呆れた顔をした。


「こっちの人って、皆、熱を出したら、ガッツリ肉祭りするんですか?」

「それは無いわよ……普通は、食べやすくて消化のいいお粥を食べるのよ」

「あ、そうなんですね。いや、昨日の夜も今朝も、めちゃくちゃ肉食ってたから」

「じゃあ、とりあえずお肉を買い足さなきゃね。お肉屋さんに配達を頼みましょう。割高になるけど、必要経費ということで」

「あと、ダンテさんが風呂に入りたいって」

「熱が下がるまでは駄目よ。お風呂で倒れたら大変だもの。身体を拭いてあげてちょうだい。私がするより、貴方の方がいいでしょう」

「分かりました」


 ミミーナが肉屋に行ってくれている間に、洗濯物を庭に干す。
 洗濯物を干し終えてから、祥平の部屋に静かに入り、ダンテの様子を見たら、まだ熱が高いようで、いっぱい汗をかいていた。
 ひんやりした濡れタオルで顔を拭いてやり、額にひんやりした濡れタオルをのせてやる。

 少しでも早く熱が下がるといい。祥平は、ちょっとの間、ダンテの寝顔を眺めた。

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