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13:大慌て

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 季節は夏が終わり、急に冷え込むようになってきた。この国は、夏と冬しかない。春や秋といった、過ごしやすい中間な季節が無いので、まだ慣れない祥平には、ちょっと辛い。

 夏が終わる少し前に、ダンテが約一ヶ月半の任務に出かけた。予定では、明日帰ってくる筈である。
 今日はミミーナと一緒に、家の大掃除だ。

 ダンテが不在の間は、2日に一度、ミミーナの家にお邪魔して、料理や裁縫を習っていた。買い物もミミーナが一緒にしてくれたので、ミミーナ様々である。白い街並みにはだいぶ慣れてきたと思うが、まだ1人じゃ迷う自信がある。5日に一度、ディータが様子を見に来てくれるので、その日は、神殿に行っていた。

 白息を吐きながら、今朝も嫌々アルモンの収穫をして、手早く一人分の朝食を作る。一度サボると、サボり癖がつきそうな気がするので、毎朝、気合でなんとか決まった時間に起きるようにしている。任務に行く前に、ダンテが、魔導目覚まし時計を買ってくれた。『ぷぉーんぷぉーん』と間の抜けた音を立てる魔導目覚まし時計のお陰で、朝に弱い祥平も、なんとか1人で起きられるようになった。

 朝食の後片付けが終わる頃に、ミミーナがやって来た。朝の挨拶をしてから、早速掃除を始める。便利な魔導掃除機が家にあるので、はたきで棚の上などをパタパタしてから、ガーッと魔導掃除機をかけていく。ダンテの布団は、朝のうちに庭に干してある。今日は冷えるが、よく晴れているので、夕方には、ふかふかになっているだろう。
 掃除が終わる頃に、ちょうど昼時になっていたので、買い物がてら、ミミーナと一緒に外食をすることになった。『たまには、お店で食べたいわー』とミミーナが言うので、以前、ダンテに連れて行ってもらった安くて美味しい飲食店に行った。1人で一人前は食べ切れないので、祥平は、子供用のランチセットを注文した。ダンテが一緒の時は、食べ切れない分は、いつもダンテに食べてもらっている。
 ミミーナは、いつも家でも料理を作っているし、孫が小さいから、中々外食する機会が無いらしい。久々の外食だと、とても嬉しそうに笑っていた。

 腹が膨れたら、買い物をして、ダンテの家に帰る。庭の手入れをしてから、洗濯物と布団を取り込んで、夕食の支度を始める。ミミーナが一緒に作ってくれたので、今日も美味しい夕食にありつける。本当にミミーナ様々である。
 自宅に帰るミミーナを見送ると、早めの夕食を食べて、ちょっと読み書きの練習をしてから、ハンカチ作りをする。縫い目が多少はマシになってきたが、未だに真っ直ぐキレイには縫えない。今は、いつも世話になっているディータにあげる予定のハンカチを作っている。ダンテにもあげたいが、もう少し上達してからにする予定である。
 ちまちまと眠くなるまで縫い物をしてから、祥平は部屋に引き上げた。冬用の布団に潜り込み、サクッとオナニーをして、手を洗ってから、朝までぐっすり眠った。

 翌日。今日はダンテが帰ってくる。朝から出勤してきたミミーナと一緒に、午前中の仕事を終えて、一緒に作った昼食を食べていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
 ダンテが帰ってくるには、早い時間だ。ミミーナと顔を見合わせてから、祥平は、ミミーナと一緒に玄関に向かった。

 玄関のドアを開けると、背が高い甘い顔立ちの若い男が立っていた。ぐったりとした様子のダンテをおんぶして。


「ダンテさん!?」

「まぁ! 旦那様!?」

「あ、どうも。ダンテ班長の部下のビリニオです。実は、任務中にダンテ班長が魔獣の毒にやられまして。解毒はしてあるんですけど、解毒の副作用で熱が高いんです」

「まぁ! 大変! ビリニオ様。申し訳ないのですが、旦那様を部屋まで運んでいただけないでしょうか」

「勿論。いいですよ」

「ショーヘイ! ビリニオ様をお部屋にご案内して! 私はすぐにお水とタオルを用意するから!」

「りょーかいです! えっと、ビリニオ様。こっちです」

「お邪魔します」


 祥平は慌てて、ビリニオをダンテの部屋に案内した。掛け布団を捲り、ダンテを寝かせてもらう。ピエリーが、ダンテの肩から祥平の肩に飛び移り、ちょっと頬擦りしたら、またベッドに横になったダンテの側に戻った。
 祥平では、ダンテがデカ過ぎて、着替えさせることもできない。申し訳ないが、ビリニオに手伝いをお願いした。ビリニオは、快く頷いてくれた。
 二人がかりでダンテを寝間着に着替えさせたところで、パタパタとミミーナがお盆にタオルと小さな桶をのせて、ダンテの部屋に入ってきた。


「まぁ! 着替えまで。ビリニオ様。本当にありがとうございます」

「いえいえ。あ、こちらは熱冷ましの薬です。毒は完全に解毒されてるので、熱が下がれば、問題ありません。熱も、あと3日もあれば完全に下がるそうです。熱がある状態で、気合だけで飛んで帰ってきたので、もしかしたら、少し長引くかもしれませんけど」

「分かりました。本当にありがとうございます」 

「ありがとうございます。ビリニオ様」

「えーと、貴方が噂の『神様からの贈り人』のショーヘイ様ですよね? 改めまして、ビリニオと申します。班長をよろしくお願いいたします」

「あ、はい。ご丁寧にどうも……」

「男手がいる時は遠慮なく言ってください。ピエリーに言ってもらえれば、ピエリーが私のキリーに知らせてくれますので」

「まぁ。何から何まで、ありがとうございます」

「俺では、ダンテさんの着替えとか難しいので、申し訳ないんですけど、頼らせていただきます」

「はい。是非ともそうしてください。では、今日はこれで失礼します」

「「ありがとうございました」」


 ビリニオが、爽やかに笑って、帰っていった。
 ミミーナと顔を見合わせてから、ぐったりと意識のないダンテを見下ろす。ミミーナが、桶の水にふわふわのタオルを浸して、ゆるめに絞って、ダンテの額にのせた。


「予定変更よ。ショーヘイ。食べやすくて消化がいいものを作らなきゃ」

「はい。夜は俺が看病しときます」

「えぇ。お願いね。こんなこと、初めてだわ……だいぶ熱が高いわね。ちょっと買い物に行ってくるから、ショーヘイは旦那様を見ていてちょうだい」

「はい。気をつけて」

「えぇ。急いで行ってくるわ」


 ミミーナが慌ただしく部屋から出ていったので、祥平は、とりあえずビリニオが一緒に運んできてくれたダンテの鞄を開けた。薄汚れた着替えだけを取り出して、急いで階下の脱衣場に置いている洗濯籠に放り込むと、台所へ行き、ティームを小鍋に入れて、リーンをたっぷり入れて温めた。お茶を淹れる用のポットに冷たい水も入れ、リーン入りのティームをマグカップに注ぐ。グラスも一緒にお盆にのせて、零さないように気をつけながら、急いでダンテの部屋に戻る。

 祥平は健康優良児だったから、自分が熱を出した記憶がほぼ無い。対処法もふんわりとしたイメージしかないが、とりあえず水分補給は大事だと思う。

 ダンテの部屋の書き物机にお盆を置くと、ダンテの額の濡れたタオルに触れた。さっき置いたばかりなのに、もう生温くなっている。祥平は、濡れタオルを取り、冷たい桶の水に浸して、しっかり絞ってから、汗が流れるダンテの顔をできるだけ優しく拭いた。再び、冷たい水に浸したタオルを、今度は気持ちゆるめに絞り、ダンテの熱い額の上に置く。

 病人の看病なんて初めてだ。解毒はしてあるらしいが、本当に大丈夫なんだろうか。
 いつもは祥平にべったりなピエリーが、ダンテの側から離れる様子がない。
 祥平は、不安でそわそわしながら、ミミーナの帰りを待った。

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