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5:初めての休日
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祥平は、いつもの時間にピエリーに起こされると、大きな欠伸をしながら、のろのろと起き上がった。
今日は、初めての休日である。ドーラにお土産を買ってから、神殿に行く予定だが、まずは朝食を作らねば。
今日は、ミミーナも休みだ。ダンテも休みで家にいるのだが、祥平とミミーナが休みの日には、自分のことは自分でするらしい。
ミミーナから聞いたが、ダンテはかなり上位な貴族の出らしい。本来ならば、大きなお屋敷で、使用人に傅かれて暮らすのが当たり前の筈なのだとか。竜騎士になり、自分の家を構えてからは、すっかり庶民的になったのだとか。
祥平は、のろのろと寝間着から着替えると、脱いだ寝間着を片手に、脱衣場の洗面台に向かった。寝間着を洗濯籠に入れ、顔を洗って髭を整えると、いつものように庭に出る。休みとはいえ、どうせ自分の分の朝食を作らないといけないのだから、朝の仕事だけはやるつもりだ。昼食は、神殿でドーラと食べたい。夕食は、折角なので、初めての外食をしてみようかと思っている。給料は、毎日手渡しだ。日本円に換算すると、大体一日一万円くらいである。食費はダンテが出してくれるので、給料は、まるっと祥平の懐に入る。実にありがたい。
懐いてくるピエリーを時折撫でてやりながら、畑の水やりをやって、嫌々アルモンの収穫をやる。今日のアルモンは、なんだか悲しそうなおっさんの顔の模様だった。アルモンの模様は、無駄に個性がある。それがなんとも嫌である。
いつもより少しだけのんびり朝食を作ると、新聞を取りに行き、祥平は、居間で新聞を読み始めた。書くのは下手くそだが、読むのはなんとかスラスラ読める。この国の文字は表音文字なので、比較的覚えやすかった。これが日本語のように複数の文字や膨大な数の漢字を覚えなきゃいけないようだったら、祥平は読み書きを早々と諦めていたと思う。
今日の新聞の一面は、王太子殿下の婚約者が内定したというものだった。王太子殿下は、まだ13歳らしい。その歳で結婚相手が決まっちゃうなんて、王族も大変である。
のんびり新聞を読んでいると、寝間着姿で髪がボサボサのダンテが居間にやって来た。この国の寝間着は、男も女も白いワンピースみたいなものが一般的らしいので、ダンテも白いワンピースっぽい寝間着を着ている。凛々しい男前が似合わない女装をしてるようで、祥平は、いつもうっかり吹き出さないように堪えている。
「おはようございます。ダンテさん」
「おはようございます。ショーヘイ。ピエリー」
「ぴるるるっ」
「『ねぼすけ』は酷いよ。ピエリー。休みの日くらい、少しのんびり寝かせてくれよ」
「ぴるるっ!」
「あ、はい。すいません。ショーヘイ。朝ご飯ありがとう」
「いーえー。自分のついでなんで。朝飯にしましょうか」
「うん。運ぶの手伝うよ」
「ありがとうございます」
祥平は、新聞を畳むと、台所に移動した。
竜騎士は、自分の飛竜と会話ができるらしい。祥平には、ぴるるるっという鳴き声にしか聞こえないが、ダンテは、普通にピエリーと会話している。
朝食を温めて、居間のテーブルに運ぶと、早速朝食を食べ始める。辛めの味付けのナータの粥にも慣れた。祥平もどちらかと言えば辛いものが好きなので、こちらの方が好みである。
朝からガッツリ上品に朝食を食べているダンテが、キチンと口の中のものを飲み込んでから、話しかけてきた。
「ショーヘイ。今日は神殿に行くのだろう? もし、よければ、私も一緒に行ってもいいかな。前に会ったお嬢さんへのお土産にいいものがあるから、売ってる所に案内するよ」
「あ、それは助かります。昼飯は神殿で作らせてもらって食うつもりなんですけど、いいですか?」
「勿論。お昼ご飯の材料も買っていこうか」
「あ、じゃあ、メモ帳も持っていかねぇと。ドーラちゃんに食わせたい料理がいくつもあるんで」
「夕食も神殿かい?」
「いや、外食をしてみようかなぁと思ってます」
「あぁ。それなら安くて美味しい店を知ってるよ。庶民向けの店だから、気軽に入れるんじゃないかな。お酒は好き? お酒の種類も多い店なんだけど」
「酒は飲めないです。飲むと、もれなく吐いて寝ます」
「おや。果物のジュースとかもあるから、大丈夫だよ」
「じゃあ、案内をお願いしてもいいですか?」
「勿論。朝ご飯を食べ終わったら、急いで準備するよ」
ダンテが、おっとりと笑った。ダンテは凛々しい男前な顔立ちをしているが、性格はおっとりしているようだ。優しくて、何かと祥平のことを気にかけてくれる。祥平が『神様からの贈り人』だからだろうが、まだ不慣れなことばかりの身としては、非常にありがたい。
朝食の後片付けを終えると、私服姿のダンテが台所に顔を出した。少しゆるめの白いシャツが爽やかで、よく似合っている。ダンテは背が高いし、筋肉質な引き締まった身体つきをしているが、ムキムキマッチョという訳ではない。分かりやすく言うと、ボクサー体型だ。飛竜に乗るには、当然体力筋力も必要になるが、あまり体重を増やしてもいけないらしい。
後片付けが終わったので、一度部屋に戻って、肩掛け鞄に財布だけを入れて、部屋を出る。家の鍵はダンテが持ってくれているので、合鍵は必要無い。ボディーバックみたいな鞄を持ったダンテと一緒に家を出て、まずは街で評判になっているというお菓子屋さんに向かう。ダンテの同僚の子持ちパパさんから、子供がとても喜ぶお菓子がいっぱいあると聞いてきたらしい。
ピエリーを肩に乗せたまま、ダンテと世間話をしながら歩いていると、周囲から地味に視線を感じる。この世界の人達は、持っている魔力属性が髪や瞳の色に反映されるので、黒髪黒目で小柄な髭を生やした男である祥平は、一目で『神様からの贈り人』だと分かってしまう。若干気にはなるが、気にしても無駄だから、祥平は、周囲からの視線はスルーすることにした。
ちなみに、風の魔力が多いと緑系、水の魔力が多いと青系、火の魔力が多いと赤系、土の魔力が多いと茶系の髪色や瞳の色になるらしい。
ダンテの案内で向かったお菓子屋さんは、まだ朝といってもいい時間帯なのに、お客さんがいっぱいいた。並ぶ程ではなかったが、子連れ客がとても多くて、賑やかだ。
祥平は、一通り店内を見て回ってから、味見させてもらったチューイングキャンディーみたいなお菓子を買った。一つの袋に、色んな味が入っているそうだ。祥平が味見させてもらったものは、ミントっぽい爽やかな味がして、美味しかった。飴玉みたいな形をしていて、色もカラフルだし、ドーラが喜んでくれそうな気がする。懐が割と温かいので、ディータの分も買った。確か、甘いものは好きだった筈だ。
お菓子屋さんから出ると、次は市場に向かう。メモ帳にしている本をパラパラと捲って、何を作ろうかと悩んでいると、ひょいとダンテがメモ帳の本を覗き込んで、驚いたような声を上げた。
「ショーヘイ。いくつもの字があるように見えるのだけど」
「そうですよ。平仮名、片仮名、漢字と数字とローマ字」
「それは文字の種類? そんなにあると覚えるのが大変そうだ」
「まぁ、子供の頃から習うんで、そこまで大変でも無いですよ」
「へぇー」
「ダンテさん。食いたいものあります? 俺が作れるやつで。ドーラちゃんに食わせてやりたいのが多過ぎて選べないんで、決めてもらえると助かるんですけど」
「そうだね……バーナンを揚げたやつが美味しかったから、それがいいな」
「りょーかいでーす。ありがとうございます」
バーナンは、鶏肉みたいな味の魔獣肉だ。見た目は馬鹿デカいモップみたいな魔獣である。とても大人しい性格をしているので、家畜として飼われている魔獣の一つだ。
バーナンの揚げ物をメモした頁を見ながら、市場で買い物をしていく。増えた荷物の殆どは、ダンテが持ってくれた。雇い主に荷物持ちをさせていいのかと、一瞬思ったが、本人が持ってくれると言うのだから、ありがたく任せることにした。だって、色々買ったら地味に重くなったし。
祥平は、今は頭の上に乗りたい気分らしいピエリーを頭の上に乗せたまま、軽やかな足取りで丘を上った。
今日は、初めての休日である。ドーラにお土産を買ってから、神殿に行く予定だが、まずは朝食を作らねば。
今日は、ミミーナも休みだ。ダンテも休みで家にいるのだが、祥平とミミーナが休みの日には、自分のことは自分でするらしい。
ミミーナから聞いたが、ダンテはかなり上位な貴族の出らしい。本来ならば、大きなお屋敷で、使用人に傅かれて暮らすのが当たり前の筈なのだとか。竜騎士になり、自分の家を構えてからは、すっかり庶民的になったのだとか。
祥平は、のろのろと寝間着から着替えると、脱いだ寝間着を片手に、脱衣場の洗面台に向かった。寝間着を洗濯籠に入れ、顔を洗って髭を整えると、いつものように庭に出る。休みとはいえ、どうせ自分の分の朝食を作らないといけないのだから、朝の仕事だけはやるつもりだ。昼食は、神殿でドーラと食べたい。夕食は、折角なので、初めての外食をしてみようかと思っている。給料は、毎日手渡しだ。日本円に換算すると、大体一日一万円くらいである。食費はダンテが出してくれるので、給料は、まるっと祥平の懐に入る。実にありがたい。
懐いてくるピエリーを時折撫でてやりながら、畑の水やりをやって、嫌々アルモンの収穫をやる。今日のアルモンは、なんだか悲しそうなおっさんの顔の模様だった。アルモンの模様は、無駄に個性がある。それがなんとも嫌である。
いつもより少しだけのんびり朝食を作ると、新聞を取りに行き、祥平は、居間で新聞を読み始めた。書くのは下手くそだが、読むのはなんとかスラスラ読める。この国の文字は表音文字なので、比較的覚えやすかった。これが日本語のように複数の文字や膨大な数の漢字を覚えなきゃいけないようだったら、祥平は読み書きを早々と諦めていたと思う。
今日の新聞の一面は、王太子殿下の婚約者が内定したというものだった。王太子殿下は、まだ13歳らしい。その歳で結婚相手が決まっちゃうなんて、王族も大変である。
のんびり新聞を読んでいると、寝間着姿で髪がボサボサのダンテが居間にやって来た。この国の寝間着は、男も女も白いワンピースみたいなものが一般的らしいので、ダンテも白いワンピースっぽい寝間着を着ている。凛々しい男前が似合わない女装をしてるようで、祥平は、いつもうっかり吹き出さないように堪えている。
「おはようございます。ダンテさん」
「おはようございます。ショーヘイ。ピエリー」
「ぴるるるっ」
「『ねぼすけ』は酷いよ。ピエリー。休みの日くらい、少しのんびり寝かせてくれよ」
「ぴるるっ!」
「あ、はい。すいません。ショーヘイ。朝ご飯ありがとう」
「いーえー。自分のついでなんで。朝飯にしましょうか」
「うん。運ぶの手伝うよ」
「ありがとうございます」
祥平は、新聞を畳むと、台所に移動した。
竜騎士は、自分の飛竜と会話ができるらしい。祥平には、ぴるるるっという鳴き声にしか聞こえないが、ダンテは、普通にピエリーと会話している。
朝食を温めて、居間のテーブルに運ぶと、早速朝食を食べ始める。辛めの味付けのナータの粥にも慣れた。祥平もどちらかと言えば辛いものが好きなので、こちらの方が好みである。
朝からガッツリ上品に朝食を食べているダンテが、キチンと口の中のものを飲み込んでから、話しかけてきた。
「ショーヘイ。今日は神殿に行くのだろう? もし、よければ、私も一緒に行ってもいいかな。前に会ったお嬢さんへのお土産にいいものがあるから、売ってる所に案内するよ」
「あ、それは助かります。昼飯は神殿で作らせてもらって食うつもりなんですけど、いいですか?」
「勿論。お昼ご飯の材料も買っていこうか」
「あ、じゃあ、メモ帳も持っていかねぇと。ドーラちゃんに食わせたい料理がいくつもあるんで」
「夕食も神殿かい?」
「いや、外食をしてみようかなぁと思ってます」
「あぁ。それなら安くて美味しい店を知ってるよ。庶民向けの店だから、気軽に入れるんじゃないかな。お酒は好き? お酒の種類も多い店なんだけど」
「酒は飲めないです。飲むと、もれなく吐いて寝ます」
「おや。果物のジュースとかもあるから、大丈夫だよ」
「じゃあ、案内をお願いしてもいいですか?」
「勿論。朝ご飯を食べ終わったら、急いで準備するよ」
ダンテが、おっとりと笑った。ダンテは凛々しい男前な顔立ちをしているが、性格はおっとりしているようだ。優しくて、何かと祥平のことを気にかけてくれる。祥平が『神様からの贈り人』だからだろうが、まだ不慣れなことばかりの身としては、非常にありがたい。
朝食の後片付けを終えると、私服姿のダンテが台所に顔を出した。少しゆるめの白いシャツが爽やかで、よく似合っている。ダンテは背が高いし、筋肉質な引き締まった身体つきをしているが、ムキムキマッチョという訳ではない。分かりやすく言うと、ボクサー体型だ。飛竜に乗るには、当然体力筋力も必要になるが、あまり体重を増やしてもいけないらしい。
後片付けが終わったので、一度部屋に戻って、肩掛け鞄に財布だけを入れて、部屋を出る。家の鍵はダンテが持ってくれているので、合鍵は必要無い。ボディーバックみたいな鞄を持ったダンテと一緒に家を出て、まずは街で評判になっているというお菓子屋さんに向かう。ダンテの同僚の子持ちパパさんから、子供がとても喜ぶお菓子がいっぱいあると聞いてきたらしい。
ピエリーを肩に乗せたまま、ダンテと世間話をしながら歩いていると、周囲から地味に視線を感じる。この世界の人達は、持っている魔力属性が髪や瞳の色に反映されるので、黒髪黒目で小柄な髭を生やした男である祥平は、一目で『神様からの贈り人』だと分かってしまう。若干気にはなるが、気にしても無駄だから、祥平は、周囲からの視線はスルーすることにした。
ちなみに、風の魔力が多いと緑系、水の魔力が多いと青系、火の魔力が多いと赤系、土の魔力が多いと茶系の髪色や瞳の色になるらしい。
ダンテの案内で向かったお菓子屋さんは、まだ朝といってもいい時間帯なのに、お客さんがいっぱいいた。並ぶ程ではなかったが、子連れ客がとても多くて、賑やかだ。
祥平は、一通り店内を見て回ってから、味見させてもらったチューイングキャンディーみたいなお菓子を買った。一つの袋に、色んな味が入っているそうだ。祥平が味見させてもらったものは、ミントっぽい爽やかな味がして、美味しかった。飴玉みたいな形をしていて、色もカラフルだし、ドーラが喜んでくれそうな気がする。懐が割と温かいので、ディータの分も買った。確か、甘いものは好きだった筈だ。
お菓子屋さんから出ると、次は市場に向かう。メモ帳にしている本をパラパラと捲って、何を作ろうかと悩んでいると、ひょいとダンテがメモ帳の本を覗き込んで、驚いたような声を上げた。
「ショーヘイ。いくつもの字があるように見えるのだけど」
「そうですよ。平仮名、片仮名、漢字と数字とローマ字」
「それは文字の種類? そんなにあると覚えるのが大変そうだ」
「まぁ、子供の頃から習うんで、そこまで大変でも無いですよ」
「へぇー」
「ダンテさん。食いたいものあります? 俺が作れるやつで。ドーラちゃんに食わせてやりたいのが多過ぎて選べないんで、決めてもらえると助かるんですけど」
「そうだね……バーナンを揚げたやつが美味しかったから、それがいいな」
「りょーかいでーす。ありがとうございます」
バーナンは、鶏肉みたいな味の魔獣肉だ。見た目は馬鹿デカいモップみたいな魔獣である。とても大人しい性格をしているので、家畜として飼われている魔獣の一つだ。
バーナンの揚げ物をメモした頁を見ながら、市場で買い物をしていく。増えた荷物の殆どは、ダンテが持ってくれた。雇い主に荷物持ちをさせていいのかと、一瞬思ったが、本人が持ってくれると言うのだから、ありがたく任せることにした。だって、色々買ったら地味に重くなったし。
祥平は、今は頭の上に乗りたい気分らしいピエリーを頭の上に乗せたまま、軽やかな足取りで丘を上った。
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